2023 Volume 65 Issue 11 Pages 2275-2282
家族性大腸腺腫症において大腸切除をせずに大腸癌を予防する研究について,アスピリンで大腸癌を予防する化学予防研究と,大腸ポリープを内視鏡的に積極的摘除を行う治療法を中心に紹介した.低用量アスピリンの8カ月間投与による二重盲検試験において大腸ポリープの増大を予防する効果が示され,現在は,2年間の長期投与試験が進行中である.
大腸ポリープを内視鏡的に積極的に摘除し,大腸癌予防をめざす研究も多施設研究で安全性と5年間の進行癌予防効果が示され,2022年度から本治療(intensive downstaging polypectomy;IDP)が保険収載された.大腸切除をすることなくIDPにより大腸癌が予防できるかどうかを明らかにするため,長期追跡のためのレジストリが準備中である.
適切な内視鏡介入および低用量アスピリンによる化学予防により家族性大腸腺腫症患者に対する腸管手術が回避できる時代が近づいてきている.
We have reported two chemoprevention studies on preventing colorectal cancer (CC) without colorectal resection for familial adenomatous polyposis (FAP) using low-dose aspirin and intensive downstaging polypectomy (IDP) of colorectal polyps. Chemoprevention studies using low-dose aspirin, a 2×2 factorial, randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trials were conducted at 11 centers in Japan. The results showed that low-dose aspirin safely inhibited the growth of colorectal polyps of >5.0mm at 8 months in patients with FAP, while mesalazine had little effect. Thus, low-dose aspirin may be a useful cancer chemoprevention drug for CC prevention in patients with FAP. The second study on IDP is a multicenter trial conducted for 5 years to demonstrate the safety of IDP. Although the IDP results confirm its safety and effectiveness in preventing CC, whether IDP prevents CC in the long-term in patients with FAP who did not undergo colorectal resection is unclear. Thus, we are preparing a registry for long-term follow-up. Based on these results, we believe that colorectal resection in patients with FAP can be prevented with appropriate endoscopic intervention and chemoprevention with low-dose aspirin.
家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis;FAP)は,大腸に腺腫が多発する常染色体顕性(優性)遺伝性の稀少疾患である.大腸に100個以上の腺腫を有する,または,大腸の腺腫数が10から100個未満だが本疾患に矛盾しない家族歴を有する場合は臨床的にFAPと診断される.生殖細胞系列にAPC遺伝子の病的バリアントが認められれば,大腸腺腫数や家族歴にかかわらずFAPと診断される.
本疾患の診療については,大腸癌研究会より「伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版」が出版 1)されているので,ぜひとも参照してほしい.本疾患は小児慢性特定疾病に指定されているが指定難病にはなっていない.
本邦の患者数は約7,300人と推定されている.人種や地域による発生頻度に差はないと考えられている.
癌抑制遺伝子のAPC遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントにより発症する.若年から大腸腺腫や大腸癌が発生するが,APC蛋白の機能喪失後に起こる遺伝子異常は,散発性の大腸癌と同じと考えられている.
過去には,デスモイド腫瘍や骨腫を伴うFAPはGardner症候群と呼ばれていたが,Gardner症候群でもFAPと同様にAPC遺伝子の病的変異を持つことが多いことより,現在は同一疾患と考えられている.
大腸腺腫は10歳頃より発生し多発する.数百個から1万個を越えるものまである.ポリープの増大により,腹痛や貧血を呈する.
デスモイド腫瘍(浸潤性に発育する難治な良性腫瘍)が高率に発生し,水腎症,血管・神経圧排症状などを呈する.甲状腺癌,副腎腫瘍,肝芽腫,胃腺腫,胃癌,十二指腸腺腫,空腸・回腸腺腫,脳腫瘍などいろいろな臓器に腫瘍が発生しやすい.非腫瘍性病変として胃底腺ポリープ,骨腫,先天性網膜色素上皮肥厚を認めることが多い.
FAPに対する唯一の大腸癌予防法は予防的大腸切除であった.しかし,2022年の健康保険改定により,大腸内視鏡で大腸ポリープを積極的に摘除する治療法(intensive downstaging polypectomy; IDP)が収載され,治療を選択することができるようになった.IDPについては,後で詳細を記す.
予防的大腸切除術は,20歳代で行うことが多い.術後にも回腸囊に腺腫が発生することがあり,術後はデスモイド腫瘍や水腎症を発生する可能性が高まるため,大腸切除後も残存腸管および全身のサーベイランスが必要である.
治療しない場合,40歳で約半数,60歳までにほぼ全員が大腸癌に罹患する.死因は大腸癌がもっとも多いが,デスモイド腫瘍や胃癌,十二指腸癌,十二指腸乳頭部癌による死亡も増えてきている.
現在,海外ではFAPに対して着床前遺伝学的検査を行うことのできる国もあるが,日本産婦人科学会では,着床前遺伝学的検査の適応となる重篤な遺伝性疾患にFAPは含めていない.
FAPに対して非ステロイド系抗炎症剤のスリンダクやアスピリンなどを用いた大腸腺腫の増大を抑制する研究が積極的に行われており 2),近い将来,薬による大腸癌予防法の開発も期待されるが,現時点では,FAPに対する大腸腺腫増大抑制を効能として保険収載された薬はない.
Burnら 3)は,FAPに対してアスピリンと難消化性デンプンを用いた臨床試験(CAPP1)を報告している.この試験は10歳から21歳までの若いFAP患者に対して,アスピリン1日600mgおよび難消化性デンプンを用いた無作為割付二重盲検試験である.難消化性デンプンは大腸ポリープに影響を与えなかったが,アスピリンはS状結腸から直腸のポリープ数が有意ではないものの減少する傾向が見られた.
メサラジンは潰瘍性大腸炎患者に対する腫瘍発生抑制効果を持つ可能性が示されている.そこで,私達はFAPの大腸ポリープ抑制効果をめざすアスピリンとメサラジンを組み合わせた臨床試験を実施した(J-FAPP StudyⅣ,Figure 1).本試験は,手術を希望せず大腸内視鏡検査にてポリープ摘除による経過観察を行っている患者102人に対して,多施設によるアスピリンとメサラジンを用いた2×2factorial design二重盲検無作為割付試験である 4).
J-FAPP StudyⅣ試験薬.
アスピリンとメサラジンの実薬とプラシーボの外観と,1人分の試験薬.
対象は,大腸手術未実施の16歳以上70歳までのFAP患者で,5mm以上の大腸ポリープを内視鏡的にすべて摘除された102人である.研究デザインは,低用量アスピリン腸溶錠(100mg/day)and/orメサラジン(2g/day)を8カ月間投与する試験であり,主エンドポイントは,8カ月目の大腸内視鏡検査における5mm以上の大腸ポリープの有無とした.
結果は,アスピリン投与群において補正オッズ比が0.37(95%信頼区間0.16-0.86),メサラジン投与群において補正オッズ比が0.87(95%信頼区間0.38-2.00)と,わずか8カ月間アスピリンを服用することにより,5mm以上の大腸ポリープの発生が1/3近くに減少する強力なポリープの増大抑制効果を示した.本試験でのサブ解析では,アスピリンによる増大抑制効果は,下行結腸,S状結腸,直腸でより強いことが示された.有意差はないもののメサラジンでは,盲腸から上行結腸において,5mm以上のポリープの発生が少ない傾向を認めた.試験期間中に参加者に重篤な有害事象は1例も認めなかった.
b.アスピリンによる大腸癌予防機序アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)が大腸癌の発生を予防する機序として,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenases;COX)阻害作用によるアラキドン酸からプロスタグランジンH2生成の阻害により抗炎症作用による機序が主と考えられてきたが,臨床試験においてアスピリンによる大腸癌予防効果に用量依存性が見られないこと,スリンダクの代謝産物でCOX阻害作用を持たないスリンダクスルフォンも臨床試験にて大腸癌予防効果が示されていることなどより,大腸癌予防効果はCOX阻害作用だけではないと考えられるようになり,いくつかの仮説が提唱されている 5).「血小板仮説」は,大腸粘膜の血管に損傷が起こり,血小板が凝集・活性化して,免疫細胞を通じて炎症を引き起こし,その結果として腺腫の発生や癌への進展を促進する可能性が考えられるが,その血小板の作用をアスピリンが抑制することにより大腸癌の発生を抑制するという仮説である.「代謝物仮説」は,アスピリンが腸管内において,腸内細菌により代謝され,2,5-dihydroxybenzoic acid(2,5-DHBA/gentisic acid)などに代謝され,その物質が管腔側から大腸粘膜に作用して細胞増殖を抑制する仮説である.それ以外にも,NF-κB阻害やAMPキナーゼ活性化,mTORシグナル伝達の阻害,Witシグナル伝達の阻害など,多数の仮説が提案されているが,どの機序がもっとも関与しているのかは不明である.
これらの仮説を証明するために,アスピリンによる大腸癌予防効果を修飾する因子を探索することが考えられる.例えば,CYP2C9の変異を持つ患者では,アスピリンによる大腸癌予防効果が減弱することが報告されている 6).これは,CYP2C9の変異保有者は,2,5-DHBAを生成できないからとされている.
私達は,大腸腫瘍既往者に対するアスピリンによる大腸癌予防試験(J-CAPP Study)において非喫煙者ではアスピリンによる予防効果は増強されるのに対して,喫煙者では逆に腺腫の発生が促進されることを見いだした 7).その後,複数の大規模な臨床研究 8)~10)においても同様の結果が得られ,喫煙に強い交互作用があることは明らかである.そこで,私達は,J-CAPP Study 7)および家族性大腸腺腫症に対するアスピリン投与試験(J-FAPP StudyⅣ) 4)に石川消化器内科で参加した患者の再同意を行い,ニコチンを代謝する酵素CYP2A6の遺伝子多型を測定した.その結果,ニコチンの代謝活性が低い集団において,アスピリンによる予防効果が強くでる効果修飾を認めた 11).この機序は,まだ,不明な点が多いが,ニコチン代謝がアスピリンの有効性に影響を与えている可能性は高いと考える.
c.アスピリンによる癌予防の問題点J-FAPP StudyⅣの成績などから,すぐにでもFAPに対して実臨床でアスピリンを投与すべきようにも思われるが,アスピリンを大腸癌予防のために臨床実装するためには,まだいくつか解決すべき点が残っている.
J-FAPP StudyⅣは8カ月間のアスピリン投与による効果を見ているが,その効果が長期間継続するか否かはまだ不明である.そこで私達は,長期間のアスピリン投与においてもその効果が持続するのかを確認するため,現在,手術未実施のFAP200例へのアスピリン2年間投与試験(J-FAPP StudyⅤ)が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の特定臨床研究・先進医療Bとして実施中である.
アスピリンは粘膜傷害や出血傾向を来すため,それらによる副作用を考慮する必要がある.粘膜障害を認めた場合には,速やかに投与を中止する必要があるが,将来的には粘膜傷害を来す体質を遺伝子多型(SNPs)にて把握できれば,前もってSNPsを検査してリスクの高い人への投与を避けることができる.現在,大腸腺腫既往者4,500人にアスピリンを投与する臨床試験(J-CAPP StudyⅡ)が進行中であり,この試験が完遂できれば粘膜傷害と関係するSNPsを見いだすことが期待できる.
また,出血に関しては,頭蓋内出血が問題になるが,そのリスクは高齢者に多いとの報告が国内外でされている 12),13).FAPに対する投与では,高齢者に投与することは少ないと思われるが,今後,長期投与の際には高齢者への投与は注意が必要であろう.
近年,かなり安全に1回の大腸内視鏡検査により多数のポリープを摘除することが可能となってきた.また,結腸全摘・回腸直腸吻合術を施行したFAP患者に対して,残存直腸を大腸内視鏡検査にてポリープを摘除しつつ厳重に経過観察することにより,直腸癌の発生を抑制できることが報告されている 14).
a.石川消化器内科における観察研究成果大腸内視鏡を専門とする内科医でFAPを以前から多数診療している筆者は,20年以上前から手術を拒否しているFAP患者に対して,内視鏡的にできるだけ多数の大腸ポリープを摘除しつつ経過観察する試みを行ってきた(Figure 2).
2012年の時点で石川消化器内科にて手術を拒否し内視鏡的なポリープ摘除を希望して通院中の患者は90人あり,それらの患者の累積総ポリープ摘除数は55,701個であった.追跡期間は平均1,968日(5.4年),総追跡人年は484.9人年であった.内視鏡治療時に穿孔や輸血を必要とする出血は1例もなかった.経過観察中に,大腸ポリープが密生型になったため大腸亜全摘・回腸直腸吻合術を受けた者が2人あった.手術拒否後の最初の大腸内視鏡検査で3人,2カ月目の大腸内視鏡検査で1人,10カ月目の大腸内視鏡検査で1人に摘除したポリープに粘膜内大腸癌を認めた.11カ月目以降の経過観察では大腸癌は1例も発見されなかった.これらの結果を論文報告した 15).
b.多施設におけるポリープ徹底的摘除介入試験前述の1施設の結果をもとに,AMEDの資金にて多施設研究「家族性大腸腺腫症に対する大腸癌予防のための内視鏡介入試験(J-FAPP StudyⅢ)」を開始した.
本試験は,日本の大腸内視鏡検査専門22施設における単群介入試験である.対象は,16歳以上の男女のFAPであり,大腸未切除患者および大腸が10cm以上残存している大腸切除者である.密生型FAPは除外した.
大腸内視鏡検査では,まず,1cm以上の大腸ポリープをすべて摘除し,その後は,5mm以上のポリープをできるだけ多数摘除する.5mm以上のポリープをすべて摘除できたと考えた場合も大腸内視鏡間隔は1年以上あけないこととする.大腸は,盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸の6部位に分けて,それぞれの部位の癌の有無,密生の有無,ポリープの最大経,摘除個数,ポリープの回収数,最大異型度を記録する.登録期間は2年間とし,介入期間は登録後5年間である.主エンドポイントは,介入期間中の大腸切除の実施の有無である.目標症例数は200例とした.
本試験は2012年9月からエントリーが行われ,223人に参加を呼び掛け,222人が同意し,2019年9月に5年間の追跡が終了した.
登録時に大腸切除術が未実施であった者は166人,大腸亜全摘・回腸直腸吻合術(ileorectal anastomosis;IRA)を受けていた者が46人,大腸の部分切除を受けた者が10人であった.介入期間中に222人中5人(2.25%,95%信頼区間:0.74%-5.18%)が大腸切除術を施行された.手術未実施が4人(大腸粘膜下浸潤癌の発生2人,子宮体癌術後の癒着による大腸内視鏡実施困難1人,患者希望1人),IRA術後が1人(残存直腸に粘膜内癌が多発)であった.介入期間中に3人(大腸未切除2人,大腸切除1人)が死亡,中断例は,手術未実施例で10人,大腸切除術後は7人であった.大腸切除をせずに介入期間の5年を経過できたことを確認できた者は,大腸未切除者166人中150人(90.4%,95%信頼区間:84.8-94.4),大腸切除既往者56人中47人(83.9%,95%信頼区間:71.7-92.4)であった(Figure 3).5年間の介入期間において,内視鏡治療時に緊急手術を要する穿孔や輸血を必要とする出血は1例もなかった.
J-FAPP StudyⅢの参加者の経緯.
本研究により家族性大腸腺腫症患者に対する大腸内視鏡検査による大腸ポリープの積極的摘除は,安全に実施できることが明らかになったため,本治療法を「積極的大腸ポリープ摘除法(intensive downstaging polypectomy;IDP)」と命名して論文化した 16).
IDPのリスクとしては,内視鏡治療による出血や穿孔,大腸癌の見落とし,急激な腺腫の増大による発癌,腺腫を経ないde novo癌発生の可能性,内視鏡的に観察困難な虫垂癌の発生,患者の種々の理由による経過観察の中断などが考えられる.
本治療法が大腸癌を予防する治療法になりえるかどうかを明らかにするため,FAP患者を前向きに登録し,長期間追跡するレジストリ研究(J-FAPP Studyレジストリ)を開始する予定である.
c.FAPの大腸ポリープのステージングの提案最近,国際遺伝性消化管癌学会(InSiGHT)は,大腸腺腫の数と大きさを用いた内視鏡的評価によるステージングを提案した(Table 1).そして,FAP専門家の意見を集約することにより,そのステージで大腸内視鏡検査の間隔や手術適応を決めることをめざしている 17).IDPはこのステージを改善できることが期待される.
「InSiGHTによるステージ分類」 17)より著者改変.
2022年4月の保険改定において,IDPが保険収載された.その内容は「K721 内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術」を家族性大腸腺腫症の患者に対して実施した場合は,消化管ポリポーシス加算として,5,000点を所定点数に加算することができるというものである.
なお,この消化管ポリポーシス加算は,以下のいずれも満たす家族性大腸腺腫症患者に対して内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術を行った場合,年1回に限り算定できる.
ア.16歳以上であること.
イ.大腸に腺腫が100個以上あること.なお,手術または内視鏡により摘除された大腸の腺腫の数を合算しても差し支えない.
ウ.大腸切除の手術が実施された場合においては,大腸が10cm以上残存していること.
エ.大腸の三分の一以上が密生型ではないこと.なお,密生型とは,大腸内視鏡所見において,十分に進展させた大腸粘膜を観察し,正常粘膜よりも腺腫の占拠面積が大きい場合をいう.
この消化管ポリポーシス加算を算定する場合は,長径1cmを超える大腸のポリープをすべて摘除することが必要である.
なお,「年1回」の定義は,近畿厚生局は,1月~12月の1年間に1回加算ができるとの見解であったが,他の地域においてはそれぞれの地方厚生局で見解を確認する必要がある.
IDPは,論文化され,消化管ポリポーシス加算も認められたため,今後,診療ガイドラインにおいても治療法の一つとして掲載される可能性は高いと考える.
一卵性双生児のFAP患者において,喫煙の有無により,大腸腫瘍の発生に大きな差がある兄弟を報告した 18).喫煙により散発性の大腸腺腫の発生が促進されるとの報告は散見されるが,FAPでも同様に喫煙により大腸腺腫は増多していた.FAP患者には強く禁煙を勧めるべきである.
b.運動と大腸腺腫運動は散発性結腸癌を予防する確実な因子である.FAPの発癌は散発性大腸癌と類似しているため,散発性大腸癌を促進する環境要因はFAP患者においても避けることが望ましいと考える.私達は,FAP患者における大腸ポリープの大きさと,体力(乳酸上昇閾値)に,強い逆相関があることを報告した 19).FAP患者には,適度な運動,禁煙,飲酒過多の制限,適度な食物繊維の摂取,牛肉,加工肉の過剰摂取の制限を指導すべきである.
c.制酸剤と消化管腫瘍プロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor;PPI)の投与により胃底腺ポリープが増大するとの報告は多くあり,胃底腺ポリープが多発することが多いFAP患者においても胃底腺ポリープは増大する可能性がある.また,最近,PPIの投与により大腸癌のリスクが高くなるとの報告もされている 20).まだ,十分な知見は得られてはいないが,理論的に高ガストリン血症を起こすPPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker;P-CAB)は大腸癌のリスクの高いFAPに対して長期投与することは慎重にすべきであろう.
本原稿の一部は,AMED革新的がん医療実用化研究事業「大腸がん超高危険度群におけるがんリスク低減手法の最適化に関する研究(研究代表者:武藤倫弘)」の委託費を用いた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:石川秀樹(有限会社メディカル・リサーチ・サポート)