2023 Volume 65 Issue 11 Pages 2297-2303
症例1は65歳 男性.腹部膨満と嘔吐を主訴に来院し,腹部CTで小腸イレウスを認めた.経鼻イレウスチューブ留置したが改善が乏しく,経時的なCT撮像で閉塞起点の移動を認め,食餌性イレウスを疑った.保存的加療困難のため腹腔鏡にて用手的に異物を肛門側へ移動させ大腸内視鏡で回収した.内容はシイタケであった.症例2は77歳 男性.腹部膨満と嘔吐を主訴に来院し,腹部CTで小腸イレウスを認めた.本症例は臨床経過より食餌性イレウスを疑い,大腸内視鏡を施行した.回腸末端にコンニャク塊を認め摘除した.この2例には,腸管に器質的な狭窄は認めず,歯牙欠損であるが義歯を使用していないという共通点があった.食餌性イレウスの診断には,詳細な問診やCT撮像が有用であると考えられた.
Case 1 is a 65-year-old man admitted to our hospital with abdominal distension and vomiting. Small intestinal ileus was found on abdominal CT. Dietary ileus was suspected because the nasal ileus tube was invalid and CT imaging eventually showed movement of the occlusion origin from the jejunum to the ileum. Because of difficulties in colonoscopy, the foreign body was removed by laparoscopically-assisted endoscopy. The content was shiitake mushrooms. Case 2 is a 77-year-old man who visited our hospital with complaints of abdominal distension and vomiting. Abdominal CT showed small intestinal ileus with a high-density mass. Based on the clinical course, dietary ileus was suspected and a colonoscopy was performed. A konjac mass was found at the end of the ileum and removed endoscopically. Both patients had no organic stenosis in the intestinal tract; although they had missing teeth, they did not use dentures. Detailed interviews and CT imaging were considered important for the definitive diagnosis of dietary ileus.
食餌性イレウスは,イレウスの約1%とされ,比較的稀な疾患であり術前診断が困難な場合が多いと報告されている 1).保存的治療で改善する例は少なく,外科手術治療を要する報告が多い.今回,問診およびCT画像から診断に至り,腹腔鏡補助下で内視鏡的摘出が可能であった1例と,大腸内視鏡にて摘除し得た1例を経験したので報告する.
症例1:65歳 男性.
主訴:腹部膨満,嘔吐.
既往歴:心房細動,高血圧症,脂質異常症,腹部手術歴なし.
内服薬:ランソプラゾール,カルベジロール,ロスバスタチン,ベニジピン,ワーファリン.
家族歴・嗜好歴:特記すべきことなし.
現病歴:以前より歯牙は上下の前歯のみで義歯を装着しないことが多かった.20xx年11月腹部膨満と嘔吐が出現し症状改善せず当院受診.精査加療目的に入院となった.
入院時現症:身長:175cm,体重86kg,体温:37.1℃,血圧:130/99mmHg,脈拍86回/分,SpO2 98%(室内気),意識清明,呼吸音 右で湿性ラ音あり,心音 不整・雑音なし,腹部は膨満・腸蠕動音減弱,圧痛なし,自発痛なし.
血液検査:WBC 13,150/μl,Hb 18.9g/dl,BUN 54.4mg/dl,Cre 2.24mg/dl,CRP 15.49mg/dl,CEA 1.9ng/ml,CA19-9 5U/mlで,炎症反応上昇と腎機能低下を認めた.
単純CT検査:胸部で右上葉・中葉に肺炎像,腹部で空腸の一部に閉塞起点を認め,その口側の小腸拡張と液貯留を認めた(Figure 1-a).

症例1の入院時(a)および第3病日(b)および第6病日の腹部CT(水平断の画像から冠状断に構築したものを提示).
a:空腸の一部に閉塞起点,その口側の小腸拡張と液貯留を認めた.
b:空腸の閉塞起点が回腸側に移動していた.
c:回腸の閉塞起点がさらに肛門側に移動していた.
臨床経過:第1病日に経鼻イレウスチューブを留置し絶食,補液加療,肺炎に対してタゾバクタム/ピぺラシリンを開始した.第3病日排便・排ガスを認めないため,CT撮像した.イレウスは改善しておらず,入院時と比較し空腸の閉塞起点が回腸側へ移動していた(Figure 1-b).患者は歯が無く入院2日前にシイタケを丸呑みしていたことから,食餌性イレウスの可能性を考えた.その後症状改善乏しく,第6病日CT撮像し回腸末端から20cm口側に閉塞起点が疑われた(Figure 1-c).透視下で大腸内視鏡を施行したが,閉塞部位まで届かなかった.第9病日,腹部症状改善せず,血液検査にて炎症反応と腎機能の改善が乏しかったため,保存的加療は困難と判断した.当院には小腸内視鏡設備が無いこともあったが,炎症反応が悪化傾向であり小腸内視鏡での処置は腸管裂傷,穿孔のリスクがあると考え,腹腔鏡手術を選択した.患者,ご家族にも説明し,同意を得た.同日,外科にて腹腔鏡下に右下腹部を観察し,回腸末端付近に黒色異物を認めた.明らかな器質的な狭窄を認めなかった.用手的に異物を肛門側へ移動させ,大腸内視鏡にて回収した.内容はシイタケであった(Figure 2).術後経過に問題無いため,第25病日退院となった.

症例1の大腸内視鏡所見.
腹腔鏡にて右下腹部を観察し,回腸末端に可動性のある黒色異物あり.用手的に異物を肛門側に移動させ,大腸内視鏡で回収した.異物内容はシイタケだった.
症例2:77歳 男性.
主訴:腹部膨満,嘔吐.
既往歴:なし.
内服薬:なし.
家族歴・嗜好歴:特記すべきことなし.
現病歴:歯牙は全欠損であり,義歯を作成していなかった.20xx年1月,コンニャク5個以上を丸呑みし翌日腹部膨満と嘔吐を認め当院受診し,精査加療目的で入院となった.
入院時現症:身長:170cm,体重60kg,体温:36.8℃,血圧:167/93mmHg,脈拍87回/分,SpO2 98%(室内気),意識清明,呼吸音 清・ラ音なし,心音 不整・雑音なし,腹部は膨満・腸蠕動音減弱,圧痛なし,自発痛なし.
血液検査:WBC 5,780/μl,Hb 14.7g/dl,BUN 17.6mg/dl,Cre 0.86mg/dl,CRP 1.19mg/dl,CEA 1.6ng/ml,CA19-9 10U/mlで軽度炎症反応上昇を認めた.
腹部単純CT検査:回腸末端に気泡を含む高吸収域の部位あり,その口側の小腸拡張と液貯留を認めた(Figure 3).

症例2の腹部CT.
回腸末端に気泡を含む高吸収域の部位(Bubbly mass and impaction)あり,その口側の小腸拡張と液貯留を認めた.
臨床経過:患者は歯が無く入院2日前コンニャクを丸呑みしたことから食餌性イレウスを第一に考え,入院当日に透視下で大腸内視鏡を施行した.回腸末端にコンニャク塊を認め摘除した(Figure 4).コンニャク塊が停滞していた部分に器質的な狭窄は無かった.第2病日CTで入院時に認めた高吸収域は消失し,イレウスは改善した.第3病日より食事を開始,第6病日に退院となった.

症例2の大腸内視鏡所見.
大腸内視鏡を用いて,バスケット鉗子にて回腸末端のコンニャク塊を摘出した.
食餌性イレウスは,イレウス全体の0.8~1.4%とされ,比較的稀な疾患だが開腹既往の無い小腸イレウスでは約11%を占めると報告されている 1).食餌性イレウスの原因として精神的特性(アルコール中毒など),食習慣(早食い,丸呑みなど),不十分な消化機能(歯牙欠損,義歯,胃切除後など),通過不良な腸管(癒着など)が挙げられる 2).今回の2症例はいずれも歯が無く丸呑みしたため,食餌性イレウスを引き起こしたと考えられた.
医学中央雑誌で1999年1月~2021年4月で「食餌性イレウス」,「歯牙」,「義歯」をキーワードに検索すると,会議録を除き,22例の報告があり 3)~12),これらに本症例を加えた24例について検討した(Table 1).24例中,「義歯」が9例,「歯牙欠損および義歯を装着せず」15例であった.「義歯」9例のうち8例で原因食餌が餅であり,全例保存的経過観察で軽快したが,原因食餌が鶏肉であった1例については開腹術となった.「歯牙欠損および義歯を装着せず」15例では,原因食餌が餅以外のものが多く,ほぼ開腹術となった.

「歯牙」,「義歯」に関わる食餌性イレウスの報告例.
イレウスの原因となった食餌の内容は餅が最も多く,24例中12例(50%),次いでシイタケ3例(13%),コンニャク2例(8%)であった.また海外では,植物胃石による食餌性イレウスの報告が散見された 13),14).今回の腸閉塞の原因となった食餌内容はシイタケ,コンニャクであった.症例1の原因となったシイタケは食物繊維が豊富に含まれており,腸管内の液体やガスを吸収し,膨張することにより腸閉塞を引き起こす.このため,十分な咀嚼が必要で,食べすぎには注意すべきとされている 15).症例2の原因となったコンニャクの主成分は植物性多糖体であるイヌリンであり,ヒトの消化管にはその消化酵素が存在せず,加水分解されないため消化されない 16).このため,コンニャクを丸呑みすることで腸閉塞を来す.「歯牙」,「義歯」に関わる食餌性イレウスでは,歯牙欠損によって咀嚼不十分により大きな塊として飲み込んでしまい,大きな塊のまま腸管内で膨化することが原因と思われた.食餌性イレウスの原因で最多であった餅の場合,丸呑みされた大きい餅は温度が高く変形しやすい状態では胃の幽門輪を通過し,小腸内で温度が低くなり腸管内に接着・硬化した場合にイレウスを発症するとの報告もある 17).
腸閉塞の好発部位は,回腸末端から100cm以内の回腸に多いとされ 4),これは同部の口径が小さく,腸管蠕動が弱く,回盲弁による食餌の停滞によると考えられている.「歯牙」「義歯」に関わる食餌性イレウスでも同様で,手術にて確認された15症例のうち13例87%は回腸末端から100cm以内であった(Table 1).
術前診断には腹部CTが最も有用で,術前診断可能な症例も増えてきており,Table 1で示した全症例でCTが施行された.自験症例1の原因となったシイタケは,原形を留めていればらせん状の低濃度陰影と描出されることが多いとされている.本症例では陰影は明確ではなかったが,経時的にCTを撮像し閉塞部位の移動を確認することで,食餌性イレウスと診断可能であった.自験症例2の原因食餌はコンニャクであったが,餅以外でも高濃度に描出される食餌もあり,治療方針を決める上で食餌内容などの詳細な問診が重要である.
川野ら 18)は,食餌性イレウスの特徴的なCT所見として,多くの気泡を含んだ塊状物とその充填(Bubbly mass and impaction)を報告している.その発現頻度は7.4~55.9%であり,CTのスライス幅や食餌の大きさ,角度によっては,典型的な像として描出されないため,CTのみの診断では困難な場合が多い 19).本症例についても後方視的に再度CT画像を確認したところ,本症例2で典型的なBubbly mass and impactionを認めていた.Table 1で示した24症例でBubbly mass and impactionを認めたのは,本症例2を含めた4症例で,発現頻度は16.7%であった.食餌性イレウスの術前診断において,症例によってはBubbly mass and impactionの有用性が示唆された.
食餌性イレウスの治療については,術前の鑑別診断が困難な例も多いことから,緊急手術を含め手術加療を要する報告が多い 20),21).法水ら 22)の報告では,保存的治療が20%,手術治療が80%であった.手術治療については,腹腔鏡下手術の報告もみられるようになった 7),10)が,切開摘出が最も多く行われ約65~73%,用手的誘導が15~29%と報告されている 23),24).また,小腸内視鏡での治療の報告 25)もあり,医学中央雑誌で1999年1月~2021年4月で「食餌性イレウス」,「歯牙」,「義歯」をキーワードに検索した結果,現時点では小腸内視鏡で治療可能であった報告は無かったが,今後増えてくると予想される.本症例1は,腹腔鏡下で食餌を結腸まで移動させ用手的にて摘出可能であった.最近では保存的治療によって軽快した報告も散見されている 8),11).Table 1で示した24症例で,保存的治療で軽快した症例は10例(42%)で約半数であった.本症例2は,詳細な問診からコンニャクによる食餌性イレウスと診断し,餅以外によるイレウスで唯一,大腸内視鏡のみで保存的治療にて軽快した症例であった.食餌性イレウスのリスクとして,一般的に腸管の器質的変化の関与が考えられ,具体的には開腹手術の既往,中でも胃切除後の症例が多いと報告されている 26).手術既往の他には,放射線性腸炎,Crohn病,小腸カルチノイドなどにより腸管狭窄を呈している症例も報告されている 18).ただ,自験症例のように腸管に器質的変化が存在しない場合においても,食餌性イレウスのリスクがある.リスクとして,問診では「歯が無いこと」,「固形物の丸呑み」が考えられた.食餌性イレウスの特徴的な画像所見では「狭窄部の移動」,「Bubbly mass and impaction」が考えられた.CT所見から食餌性イレウスと確定診断し,治療を行うことができた症例について報告がある 27).
早期診断・治療が実施されれば,食餌性イレウスの予後は一般的に良好であり,例え高齢手術例であっても社会復帰が可能である.今回の2症例はいずれも,治療後の経過は良好であった.発症早期での詳細な病歴聴取および画像検査を中心とした鑑別診断が重要と思われる.
観血的および非観血的に内視鏡を用いて治療した食餌性イレウスの2例を経験した.問診および経時的なCT画像から術前診断に至り,1例は腹腔鏡補助下で内視鏡的摘出でき,1例は大腸内視鏡にて摘除し得た.食餌性イレウスの診断には,詳細な問診,経時的なCT撮像が重要と考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし