GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ESD FOR LESIONS PROXIMAL TO THE APPENDICEAL ORIFICE
Issei HASEGAWATakeshi YAMAMURA Hiroki KAWASHIMA
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2023 Volume 65 Issue 11 Pages 2324-2333

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要旨

内視鏡機器の進歩や術者の意識の向上により虫垂開口部近傍に腫瘍性病変が発見されることが散見される.近年,大腸領域においてもESDは高い一括切除率が得られ一般的な治療となっており,使用デバイスやESD戦略を工夫することで難易度の高い症例も切除が可能となってきている.虫垂開口部近傍はその解剖学的構造からESD難易度の高い部位とされており,高頻度の線維化や薄い筋層などにより術中穿孔のリスクも高い.したがって,手技の習熟はもちろん内視鏡治療適応についても事前にしっかりと判断する必要がある.また,虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療後に虫垂炎を発症することがあり,その特徴についても理解が求められる.本稿では虫垂開口部内伸展例を含めた虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療適応とその治療についてESDを中心に述べた.今後も新たな治療法の発展により安全性・有効性の向上が期待される.

Abstract

With advances in endoscopic equipment and increased awareness among endoscopists, early-stage neoplastic lesions proximal to the appendiceal orifice are often detected. Recently, ESD has become a common treatment in the colorectal field, with high en-bloc resection rates, and difficult cases can be resected using appropriate devices and ESD strategies. The appendiceal orifice is considered a challenging site because of its anatomical structure, and the risk of perforation is high because of the high frequency of submucosal fibrosis and thin muscle layer. Therefore, it is necessary to consider in advance the endoscopic treatment indications and be proficient in the technique. Additionally, appendicitis may occur after endoscopic treatment of lesions near the appendiceal orifice, and its characteristics should be understood. This study describes the endoscopic treatment indications and methods, focusing on ESD, for lesions proximal to the appendiceal orifice (including cases of extension within the orifice). The safety and efficacy of ESD may improve with the development of new treatment methods eventually.

Ⅰ はじめに

大腸の内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,腸管壁の薄さ,腸管内腔の複雑な構造,スコープ操作性などの観点からしばしば技術的に困難とされてきたが,内視鏡技術やデバイスの進歩により一般的な治療として普及してきた.

原発性虫垂癌を含む虫垂上皮性腫瘍は,アプローチの困難性から従来は標準治療として外科的手術(右半結腸切除術または根治的虫垂切除術や盲腸切除術)が選択されてきた 1),2.近年では内視鏡治療器具の進歩やESD経験の蓄積に伴い,一部の先進施設では虫垂開口部近傍病変を含めた難易度の高い部位の病変に対しても,ESDによる一括切除が試みられるようになってきており良好な成績が報告されている 3)~6.しかし,虫垂開口部近傍病変のESDにいたっては安全性における課題も多く,手技の習熟と並行して内視鏡治療の適応についてもしっかりと吟味する必要があると考える.

本稿では虫垂開口部内伸展例を含めた虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療適応と治療についてESDを中心に概説する.

Ⅱ 虫垂腫瘍の特徴

1.正常虫垂組織像

虫垂は,典型的には盲腸の内背側から延びる小指状の腸管であることは誰もが知るところだが,その組織学的特徴はあまり知られていない.基本構造は大腸と同様に粘膜層,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜の5層構造を成すが,虫垂はリンパ系器官と称される通りその粘膜固有層と粘膜下層に胚中心を持つリンパ小節が多数発達している(Figure 1).その結果,粘膜上皮の陰窩はリンパ小節の圧排により短縮・消失がみられ腺管分布は疎となる.また,粘膜筋板はリンパ小節により断裂し非連続となっている.固有筋層は他の消化管に比較し発達が悪く薄いため,炎症や腫瘍は容易に拡散・浸潤をきたし穿孔を生じうる.この組織学的背景は内視鏡治療の際に偶発症の要因となりうることを知っておく必要があり,当然ESDを施行する際には他部位よりも細心の注意を要する.

Figure 1 

正常虫垂の組織像(a:12.5倍/スケールは2mm,b:100倍/スケールは500μm).

・基本構造は大腸と同様に粘膜層,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜の5層構造.

・粘膜固有層と粘膜下層に胚中心を持つリンパ小節(L)が多数発達している.

・粘膜上皮の陰窩はリンパ小節の圧排により短縮・消失がみられ腺管分布は疎となる.

・粘膜筋板はリンパ小節により断裂し非連続となっている.

・固有筋層は他の消化管に比較し発達が悪く薄いことが多い.

2.虫垂腫瘍の臨床・病理学的特徴

本稿では盲腸腫瘍の虫垂内伸展例も取り上げているが,ここでは原発性虫垂腫瘍について述べる.虫垂腫瘍は,本邦では2018年に改訂された大腸癌取扱い規約第9版において,Table 1のように分類されている 7.原発性虫垂癌の頻度は対象とする母集団により報告が若干異なるものの,虫垂切除例では0.01-1.4% 8)~11,また大腸癌研究会(Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum:JSCCR)登録(1974-2004年)における全大腸癌手術症例では0.2% 12と稀な癌である.さらには,原発性虫垂腫瘍はその解剖学的構造のため虫垂開口部に腫瘍露出を伴わなければ内視鏡的診断・病理学的診断は困難であり,また通過障害による虫垂炎をきたさなければ自覚症状も乏しく,以前よりCTなどで発見される場合は進行癌が大半で早期発見は困難とされてきた 13.しかしながら近年,近位結腸のsessile serrated lesion(SSL)由来のpost-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)の警鐘もあり 14,大腸内視鏡検査時に虫垂開口部を注視することにより,無症状患者においてもSSLを含めた良性上皮性腫瘍や粘膜内癌の発見頻度が増加してきていると考えられている 3),15.SSLに関して言えば,serrated polyposis syndrome(SPS)の報告において70%もの症例で虫垂病変を認めていたとの報告がある 16.また,潰瘍性大腸炎における慢性炎症とSPSの関連が指摘されている様に 17,盲端構造によるクリアランス不良に伴い炎症が生じやすい虫垂はSSLの好発部位となる可能性がある.当院にてESDを施行した盲腸病変136病変(虫垂開口部近傍28病変,非近傍108病変)の検討においても,SSLは虫垂開口部非近傍病変が3.7%(4/108)に対し虫垂開口部近傍病変では28.6%(8/28)と有意に好発していた.さらには,虫垂におけるSSL,traditional serrated adenomaや絨毛腺腫は結腸・直腸病変と比較してアグレッシブな経過をきたす可能性が報告されており積極的な治療が考慮される 18

Table 1 

虫垂腫瘍の組織型分類(大腸癌取扱い規約第9版).

Ⅲ 治療の適応と選択

原発性虫垂腫瘍において,2019年にアメリカ結腸直腸外科学会(The American Society of Colon and Rectal Surgeons:ASCRS)から手術と化学療法に関するガイドラインが提唱されているが,良性上皮性腫瘍や早期癌に関する記載はない 2.本邦においては,大腸癌取扱い規約第9版(2018) 7で初めて虫垂癌の進行度分類が国際基準であるUICC TNM分類を継承する形で採用され進捗がみられたが,大腸癌治療ガイドライン2022年版にも虫垂癌に関する記載はなく,特に内視鏡治療の適応については各施設に委ねられているのが現状かと考える.

以下では当院における治療の適応と選択について述べる.原発性虫垂腫瘍は,通常大腸癌と同様のcolonic type,粘液産生能を有するcystic type,およびその他の3型に大別され,内視鏡治療は原則としてcolonic typeを対象とすべきと考える.内視鏡観察によるtype診断はしばしば困難であるが,事前CT検査で粘液囊胞状腫瘤が確認されることのあるcystic typeを除外することは重要と考える.また,大腸内視鏡検査にて少なくとも腫瘍の一部が虫垂開口部から露出しており,かつ観察範囲のpit診断にてSM深部浸潤の所見がないこと,CTなどの画像検査にて浸潤・転移などの所見がないことを内視鏡治療を検討する上で最低限の条件としている.しかしながら,当院の検討において虫垂開口部近傍病変のⅤ型pitの診断能は虫垂開口部非近傍病変に比較し有意に感度が低く(75.0% vs. 92.2%;P=0.043),露出部のみの評価では浅読みしている可能性については留意すべきと考える.さらには,腫瘍の虫垂側断端の伸展具合も考慮すべきである(Figure 2).内視鏡にて腫瘍虫垂側断端が視認できる程度の伸展の場合(Type 2),ESDの一括切除率は83.3-100% 3),6と良好な成績であるが,腫瘍虫垂側断端が視認困難な深部伸展例(Type 3)は原則手術を行っている施設が多くESDの報告は少ない.OungらはType 3症例11病変のESDにおいて一括切除率100%を報告しているものの,穿孔率は54.5%もあり安全性に懸念がある 6.当院においてもType 3は原則手術を推奨しているが,患者の要望によりESDを施行した症例が5例ある.一括切除は2例(40%)のみで,1例(20%)は分割,またトラクションデバイスやtunneling method・pocket-creation method(PCM)といった方法を使用していない古い症例ではあったが2例(40%)はESD途中で撤退となり非切除となった.また2例(40%)が術中穿孔をきたし,3例(60%)が非切除・水平断端評価困難により追加切除となっており,やはり有効性・安全性が担保された治療とは言えない結果であった.一方,腫瘍虫垂側断端が視認困難な症例でも外科的虫垂切除歴があれば(Type 3a)高い一括切除率が報告されており 3),6,当院における6例においても全例で一括切除できていた.

Figure 2 

虫垂開口部近傍病変のType分類.

Type 0:虫垂開口部に近接はするが接していない病変.

Type 1:虫垂開口部に病変辺縁が接する病変.

Type 2:虫垂開口部を超えて虫垂内に伸展するが,虫垂側辺縁が確認できる病変.

Type 3:虫垂開口部内に深部進展し,虫垂側辺縁が確認できない病変.

Type 3a:虫垂開口部内に伸展するが,虫垂切除歴がある病変.

虫垂開口部近傍病変に対するESD以外の内視鏡治療においては,内視鏡的粘膜切除術(EMR) 19やunder water EMR 15,over-the-scope clip system(OTSC)を使用した全層切除 20の報告がある.しかしながら,EMRは一括切除率が66.7%と低く,再発率も22.2%と高い結果であった.Under water EMRは一括切除率89%と比較的良好な結果であったが,こちらも再発率が10%と報告されている.OTSCを使用した全層切除においても,一括切除率は多くが100%と報告しているが術後虫垂炎の発症は中央値14.5%(0-50%)も認め,いずれの治療も有効性もしくは安全性が十分ではないと考えている.

最近では,虫垂病変に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery:LECS)の症例報告も散見しており 21,今後内視鏡治療と比較したLECSのメリットの解析,あるいはその適応などにおいてまとまった報告が期待される.

Ⅳ ESDの実際

1.必要な機材と準備

虫垂開口部近傍病変に対してESDをする際にわれわれの施設で使用している機材をTable 2に示す.

Table 2 

虫垂開口部近傍病変のESDに用いる機器・機材.

スコープは基本的にPCF-H290TI,PCF-Q260JI(オリンパス社製)などの治療用のものを使用している.ただし,虫垂は深部大腸ゆえに操作性が不良となる症例があり,その様な場合はオーバーチューブを使用したballoon-assisted endoscopy(BAE)にて操作性を担保するようにしている.

先端フードは,視野の確保,処置具の安定した操作のため必須である.当院では,虫垂開口部内伸展例に対してはSTフードショートタイプ(富士フイルム社製)を主に使用している.先端開口部が狭く設計されていることで,他の先端フードに比較しデバイスに対して垂直方向となりやすい盲腸壁部分の粘膜下層への潜り込みを容易にし,さらには内腔の狭い虫垂剝離の際に操作性を極力向上させるものと考える.

トラクションデバイスは,当院では以前はS-O clip(ゼオンメディカル社製),最近ではMulti loopトラクションデバイス(Boston Scientific社製)を使用している.Multi loopはその名の通り複数のループがあることで段階的にトラクションを強化することが可能である.

2.ESD戦略と手技

虫垂開口部近傍病変のESD戦略は虫垂側の処理の仕方により大別され,虫垂側の粘膜切開を先行して行うStrategy A(Figure 3)と,最後に粘膜下層側から虫垂粘膜を切離するStrategy B(Figure 4)とに分けられる 3.Strategy Aでは虫垂側に粘膜切開するだけの余裕が必要であり,Type 0あるいはType 1が適応と考えている.しかしながら,Type 1において虫垂内の切開はしばしば線維化により局注時に膨隆が得られず切開に難渋することがあり,状況に応じてStrategy Bへの移行を検討すべきである.

Figure 3 

虫垂開口部側を先に処理する場合(Strategy A).

a:病変肛門側が虫垂開口部に接する30mmの0-Ⅱa+Ⅰs病変.虫垂切除歴なし.Serrated polyposis syndromeの方.操作性不良のためballoon assisted endoscopy(BAE)を使用.

b:事前の拡大内視鏡精査にて中央のⅠsにdysplasiaの疑いあり.

c:近接すると虫垂口に接していることがわかる(白矢頭は虫垂開口部).

d:虫垂側に局注を行い切開ラインを確保.

e:線維化により潜り込み困難が予想された.

f:Pocket-creation methodにて良好な視野を確保しつつ剝離を進める.

g:口側切開後,ポケットの開通を確認.

h:全周切開後,ポケットを左右に開くよう切開を進め一括切除.

i:切除標本.病理はSessile serrated lesion with dysplasia(SSLD),断端陰性であった.

Figure 4 

虫垂開口部側を最後に処理する場合(Strategy B).

a:虫垂開口部を囲むように広がる30mmの0-Ⅱa病変.虫垂切除歴あり.

b:虫垂側に入り込むがSTフード装着下で近接すると病変断端の一部(白矢頭)は確認できる.

c:切り始めの病変肛門側は特に十分なマージンをとり切開としている.

d:虫垂開口部付近まで全周性に粘膜下層の切開を進めているが線維化が確認される.

e:S-O clipを使用し,なるべく虫垂の長軸方向にトラクションをかける.

f:切開につれ術後の残存虫垂が引き出されてくる.

g:虫垂端の処理で穿孔を認めた.

h:切除標本側面像.

i:切除標本正面像(虫垂部は翻転し粘膜側がすべて切除されていることを確認).病理は高分化型管状腺癌,深達度pTis,脈管侵襲陰性,切除断端陰性であった.

Strategy Bは主にType 2あるいはType 3に適応される.Type 2においては,上記とは逆に虫垂側への局注によって良好な膨隆が得られ腫瘍断端が視認できた場合にはStrategy Aで治療できることもあり,虫垂開口部病変では局注が重要な要素となる.しかし,一般的に虫垂を含めた盲腸の局注は壁が薄く,局注針が垂直に刺さりやすいこともあり難しいとされている.以下では当院におけるStrategy Bの詳細について概説する.

Strategy Bでは病変肛門側からのアプローチの際,盲腸の線維化や盲腸壁との直交による粘膜下層への潜り込みの困難性を想定し,粘膜切開は通常時のESDと比較して病変から5-10mm程離し十分にマージンを確保した位置に行っている.剝離の際,線維化が強い場合は全周切開は後にし,tunneling methodやPCMを用いてカウンタートラクションを利用しながら虫垂開口部まで剝離を進めることも考慮する.虫垂開口部まで全周性に剝離が進み,さらにある程度虫垂入口付近の剝離も追加した時点で,当院では前述のトラクションデバイスを用いて牽引を行っている.しかしトラクションをかけても虫垂内部まで掘り進めるには限度があり,あくまで掘り進めるよりもできるだけ盲腸側へ虫垂粘膜を引き出すことが肝要だと考える.さらには,虫垂粘膜下層の剝離が進むにつれ次第にトラクションが緩まることがあるが,その様な際はトラクションデバイスを追加で使用したり,Multi loopの際はより病変側のループを使用した牽引を行いトラクションを強化している.虫垂粘膜下層の剝離の際は線維化を伴っていることが多い上に筋層も薄く,またワーキングスペースが少ないため慎重かつ精密なナイフ操作を要する.場合によっては既報のようにHookKnife(オリンパス社製)を使用することでより安全に剝離を進める方法も有用と考える 22.注意すべきは剝離していく中で虫垂粘膜側も認識することである.気づかず虫垂粘膜を損傷すると,トラクションにより同部が裂けてしまいうまく手技を完遂することが難しくなる.Type 2病変の場合は虫垂深部への剝離のリスクを考慮し,病変の虫垂側断端を超えたと判断した後に粘膜下層側から粘膜層に向かって虫垂を途中で横断切離する.Type 3病変では理論上虫垂盲端を目指し剝離を進めていくわけだが,トラクションにより必ずしも虫垂盲端までアプローチできる症例ばかりではなく,剝離には限界のある症例が多いと考える.しかし,虫垂側断端が見えないType 3病変とはいえ必ずしも虫垂盲端まで病変が至っているとは限らず,また,一般的に虫垂長は5-10cm程度の長さとされるが個人差も多い腸管である.実際にUtzeriらが報告するように 23,当院でも虫垂盲端まで剝離しESDにより全内腔切除が可能であったType 3症例を経験している.もし事前に虫垂側への病変伸展距離や虫垂長を知ることができれば,将来的にType 3病変においてもESDで高率に一括切除可能な症例が抽出されることが期待される.一方,外科的虫垂切除歴のあるType 3a病変は手術によって残存虫垂長にバラつきがあるが,前述のトラクションデバイスを使用すれば一括切除が可能な場合が多い 6.しかし,術後の縫合の影響で残存虫垂端の層構造の認識が困難なこともあり,粘膜下層剝離において最後の処理には特に注意を要する(Figure 5).

Figure 5 

虫垂切除歴の有無による虫垂側の処理の違い(a-c:虫垂切除歴あり,d-f:虫垂切除歴なし).

a:トラクションデバイス使用後の牽引像.

b:虫垂切除後の縫合の影響で虫垂端の層構造の認識が難しくなっている.

c:切除後の様子.

d:トラクションデバイス使用後の牽引像.

e:切開を進めるにつれ虫垂が引き出されてくる.

f:切開の限界に達し虫垂を途中で横断切除とした.粘膜の遺残が確認される.

Ⅴ 偶発症

虫垂開口部近傍病変のESD後出血率は報告が少なく十分な検討がなされているとは言い難いが,0-1.3%と通常のESDと比較して大差ないものと思われる 3)~6.穿孔率は1.3-37.5%とESDの対象とした病変背景により幅があるが,やはりType 3の穿孔率は前述の通り高率であり,現状では外科手術も考慮すべきと思われる.Post-ESD electrocoagulation syndrome(PECS)の発生は,盲腸以外の結腸病変では直腸病変に対してオッズ比4.46であるのに対して,盲腸病変では13.48との報告があり元々高率に生じると考えられている 24.虫垂開口部近傍病変におけるPECS発生率はTashimaらの報告では18.2%(4/22人)に 4,当院では27.3%(6/22人)で発症がみられたが,いずれも虫垂開口部非近傍盲腸病変のPECS発生率と比較して有意差は確認されていない.

虫垂炎は虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療後に特有であり最も注意すべき合併症である 25)~27.虫垂炎は送気による虫垂内圧の上昇や浮腫に伴う虫垂開口部の閉塞により発症すると考えられており,ESD後は慎重に経過をみる必要がある 28.内視鏡治療後虫垂炎の発症率は治療法により報告が異なるが,ESD症例では0-3.6%に発症が報告されている 3),5),6.発症時期は内視鏡治療後1-5日が多いものの,ESDにおいては慢性期の瘢痕閉塞に起因する虫垂炎の報告もあり長期経過も注意すべきである 25),27.当院でも,虫垂開口部近傍病変の内視鏡切除後の潰瘍底においては上記の理由より縫縮せず,現在までに急性期の虫垂炎は認めていないが,術後1年後の慢性期に虫垂炎を発症した例を認めている.予防的抗生剤使用の有用性は定かではないがPECSの観点からも使用を検討すべきと考える.

Ⅵ おわりに

虫垂開口部近傍病変に対するESDを中心に解説した.有効性においてはトラクションデバイスの使用などにより,Type 3病変を除けばType 0-2,3a病変において高い一括切除率が得られ,虫垂開口部近傍病変に対してもESDは十分に実現可能な手技と考えられる.しかしながら穿孔率は比較的高く,安全性の点からはやはり技術的ハードルの高い治療と言わざるを得ない.したがって治療の適応については,虫垂開口部内への伸展の程度や外科手術とした場合の侵襲度などを個々の患者に応じて最適な治療方法を検討していく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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