2023 Volume 65 Issue 2 Pages 132-138
87歳女性.13年前に総胆管結石に対して胆管プラスチックステント留置歴がある.下腹部痛,暗赤色便にて救急搬送された.腹部造影CT検査にてStent-stone-complex(SSC)を認めるものの,造影剤の血管外漏出は確認できなかった.上部消化管内視鏡検査で胆管十二指腸瘻を認め,瘻孔深部から緩徐な出血を認めた.消化管出血が持続し循環動態が不良となったため腹部血管造影検査を施行すると,右肝動脈瘤と同部位からの総肝管への造影剤漏出を認めた.コイル塞栓術により止血が得られ,状態は安定した.13年前に留置した胆管ステントを核にSSCを形成し,その機械的刺激に加えて繰り返す胆管炎の炎症波及により,今回出血源となった動脈瘤形成に至ったと思われる.
An 87-year-old woman with a history of biliary stenting for common bile duct stones 13 years prior to presentation was admitted for evaluation of lower abdominal pain and gastrointestinal bleeding. Contrast-enhanced computed tomography revealed a stent-stone complex (SCC) in the bile duct; however, no extravascular leakage was detected. Esophagogastroduodenoscopy revealed a choledocho-duodenal fistula with insidious bleeding from the fistula. Abdominal angiography performed for evaluation of recurrent gastrointestinal bleeding revealed a right hepatic artery aneurysm with extravascular leakage from the aneurysm into the common hepatic duct, and transcatheter arterial coil embolization achieved effective hemostasis. Aneurysm formation was attributed to mechanical stimulation secondary to the SCC, with the stent (implanted 13 years prior) forming its core and recurrent cholangitis-induced inflammation.
Stent-stone-complex(SSC)はステントを核に形成された結石で,胆管ステントの長期留置における偶発症の一つである 1).今回われわれは長期ステント留置によるStent-stone complexに併発した肝動脈瘤破裂を,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatherter arterial embolization;TAE)により止血しえた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
症例:87歳,女性.
主訴:下腹部痛,暗赤色便.
既往歴:脳梗塞,左大腿骨転子部骨折.
現病歴:2007年総胆管結石に対して入院加療歴がある.当時のCTおよびERCでは15mm大の結石を2個認めた(Figure 1).結石が大きく複数個あったためか結石完全除去はなされず,pigtail型胆管ステントが留置された.その後結石除去や定期交換はなされず通院も中断となっていた.その12年後の2019年8月に胆管炎および肝膿瘍にて他院にて入院加療歴あり.この際にSSCの形成を既に認めていたが,除去は困難と判断され保存的治療にて軽快退院となった.2020年12月,食欲不振と散発的な発熱が出現した.同27日に下腹部痛および暗赤色便認め当院へ救急搬送となった.
2007年入院時画像検査.
a:CT像:総胆管内に結石を認める(矢頭).
b:ERC像:総胆管内に15mm大の結石を2個認める(矢頭).
入院時現症:体温 36.4℃,脈拍 70回/分・整,血圧85/57mmHg.意識清明.腹部は平坦・軟で下腹部全体に圧痛あり.
入院時血液検査所見:総ビリルビン3.9mg/dL,AST/ALT 184/102U/L,γ-GTP 111U/L,白血球数9,400/μL,血色素(Hb)10.4g/dL,ヘマトクリット値30.5%と肝胆道系酵素と炎症反応の上昇および軽度の貧血を認めた.
造影CT検査(Figure 2):総胆管にプラスチックステントとその周囲に多数の結石があり,総胆管径は38mmまで拡張していた.動脈相で造影剤の血管外漏出は認めなかった.胆管十二指腸瘻を認める.
2020年入院時腹部造影CT.
総胆管内にステントを中心として結石が充満している(矢頭).
上部消化管内視鏡検査(Figure 3):内視鏡挿入時,十二指腸に新鮮血認める.十二指腸球部前壁に総胆管との瘻孔形成あり,内部にSSCを認めた.瘻孔深部から緩徐な出血を認めた.乳頭部にはステントを認めたが出血は判然としなかった.
2020年入院時上部消化管内視鏡.
a:十二指腸球部前壁に胆管十二指腸瘻を認める.
b:aの近接像.結石の間隙から少量の新鮮血排泄を認める.
上記検査結果より,十二指腸瘻孔部よりの出血および胆管炎の診断にて入院となった.
入院後経過:出血源の検索目的に上部消化管内視鏡検査を行うも,胆管十二指腸瘻孔深部から出血であったことから内視鏡的な止血は困難と判断した.また瘻孔からの出血は緩徐であったため,自然止血を期待し保存的治療を選択した.胆管炎については抗菌薬による治療を行い,速やかに改善を認めた.入院以降も鮮血便が続き,貧血の進行に対して連日4単位の濃厚赤血球輸血を行い計16単位の輸血を要した.第5病日にHb 6.2g/dLと低下し,収縮期血圧70mmHg台に低下しショック状態となった.再度造影CT検査を行うも造影剤の血管外漏出は認めず,出血源検索目的を含めて緊急血管造影検査を施行した(Figure 4).右肝動脈の起始部に8mmの動脈瘤の形成と,そこから総肝管への造影剤漏出を認めたことから右肝動脈瘤破裂による胆道出血と診断した.同部位に対して0.018inchオープンループ型コイル(Target Detachable CoilⓇ,Stryker社製)および0.018inchテーパ型コイル(Tornado Embolization CoilⓇ,Cook Medical Japan社製)を用いてTAEを行った.塞栓後右肝動脈への血流消失と,左肝動脈から右肝への血流があることを確認して処置を終了とした.同日より鮮血便は認めず,血圧も安定した.TAE後も肝機能に大きな変動は認めなかった.
腹部血管造影.
a:pig tailステント上端に右肝動脈瘤の形成を認める(矢頭).
b:造影剤の総肝管内への漏出を認める(矢頭).
c:コイル塞栓を施行した.
第60病日に再度上部内視鏡検査を施行すると,出血は認めず十二指腸球部の瘻孔を介して胆管ステントが確認された(Figure 5).胆管ステントについては,ステント先端が右肝動脈を巻き込むように位置していたためステント抜去や結石除去術はリスクが高いと判断した.
TAE後上部消化管内視鏡.
瘻孔部から出血は消失し,内部にSSCを認める.
肺炎の併発や廃用症候群に対するリハビリにより,長期間の入院を必要としたが最終的に自宅退院が可能であった.全身状態も踏まえ積極的な介入はせずに出血や胆管炎再燃時の有事対応の方針とした.
除去困難な総胆管結石に対して胆管プラスチックステント留置が,年齢や併存疾患からハイリスクな患者に対して行われることがある 2),3).何らかの事情により経過観察がなされなかった場合に胆管ステントは長期に留置されることとなる.SSCはステントを核に形成された結石であり,胆管ステントの長期留置における偶発症の一つとして2007年にTangらによって報告された 1).Kanekoら 4)の報告では総胆管結石に対して胆管ステントを留置した場合18%にSSCを認めるとされる.SSC形成の独立した危険因子として300日以上の長期留置とステント留置中の胆管径増大をあげ,ステント挿入時の総胆管結石の有無,ステントの形状・長さ・胆管径や内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)施行歴に有意差は認めないとしている.SSC形成を予防する方策は一定期間でのステント交換以外確立されていない.本症例は13年という長期のステント留置によりSSC形成に至ったと思われる.
胆道出血は上部消化管出血の約1-5%を占めるとされ 5),その原因は医原性65%,炎症性13%,腫瘍性7%,外傷性6%,その他9%との報告がある 6).清水ら 7)の報告によれば胆道出血を来す破裂動脈瘤の原因動脈としては肝動脈が74.5%と最も多いとされる.肝動脈瘤形成の原因としては医原性が多いとされる.具体的には経皮経肝胆道ドレナージ,肝生検や肝移植,胆摘や胃切などの処置後に多いとされる.近年では内視鏡的胆道処置に伴う胆道出血の報告が増加している 8),9).PubMedにて「biliary stent」と「aneurysm」をキーワードとして2000年から2021年の期間で検索を行うと,胆管プラスチックステントが原因と考えられる肝動脈瘤胆管穿破の報告は10例認めた(Table 1) 10)~19).本症例を含めた11例のうち,ステントの形状が判明しているだけでも8例がpig tail型であった.高橋ら 11)は動脈瘤形成の原因としてステント上端による持続的な肝動脈圧迫をあげている.本症例もpig tail型のプラスチックステント留置がなされており,SSCによる機械的刺激に加えて繰り返す胆管炎の炎症波及により,動脈瘤形成に至ったと思われる.
胆管プラスチックステントが原因と考えられた肝動脈瘤胆管穿破の報告例.
SSCに対する治療としてプラスチックステント(PS)追加留置 20),内視鏡的機械的結石破砕術(endoscopic mechanical lithotripsy;EML) 4),電気水圧衝撃波結石破砕術(electrohydraulic lithotripsy;EHL) 1),21),体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy;ESWL) 1)や総胆管切開切石術 22)が報告されているがステント長期留置となるような患者背景と侵襲の高さを考慮する必要がある.本症例では治療操作による再出血リスクや胆汁自体は十二指腸瘻を介してドレナージされていたことも考慮し,追加治療はせず経過観察とした.瘻孔の存在はSSCに対しては食残の付着や逆行性感染による増大などマイナスに作用すると思われる.しかし胆管炎の観点からはドレナージルートとしてプラスに作用すると思われる.
年齢や併存疾患からハイリスクな総胆管結石患者は今後も増加が予想される.一方で内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術に代表される様に結石除去技術も向上しており結石完全除去が基本である.やむを得ずステント留置をする際にはその交換時期について1年以内を推奨する報告がある一方 23),有事対応で十分とする報告も存在する 24).起こりうる偶発症とそれへの対応を予め患者側と共有することが何より重要と思われる.
長期ステント留置によるStent-stone complexに併発した肝動脈瘤破裂の1例を経験した.長期胆管ステント留置とする場合には,患者家族に閉塞や逸脱に加えてSSCの形成リスクについての説明も必要と思われる.
謝 辞
本例において大晦日にも関わらず緊急血管造影ならびにTAEを施行して頂いた当院放射線診断科 安徳諭先生,塚本達明先生ならびに荒木拓次先生に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし