GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
A NEW PROPOSAL FROM THE “STUDY GROUP ON THE ESTABLISHMENT OF DIAGNOSTIC CRITERIA FOR TYPE A GASTRITIS” OF THE JAPAN GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY SOCIETY FOR DIAGNOSING AUTOIMMUNE GASTRITIS
Tomoari KAMADA Hidenobu WATANABETakahisa FURUTAShuichi TERAOYasuhiko MARUYAMAHiroshi KAWACHIRyoji KUSHIMATsutomu CHIBAKen HARUMA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 65 Issue 2 Pages 173-182

Details
要旨

日本消化器内視鏡学会の附置研究会「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」から自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG;A型胃炎)の診断基準に関する新たな提案を行った.

「内視鏡所見,組織所見のいずれか,もしくは両者がAIGの要件を満たし,かつ胃自己抗体(抗壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体,もしくは両者)陽性を確診例」とした.

本診断基準の提案により,これまで統一されていなかったAIGの診断基準が確立され,過少診断されていたAIGがより多く,より早期に診断され,胃腫瘍や悪性貧血などの高リスク群に層別化することで,適切な診療が行われることが期待される.なお,早期AIGの内視鏡所見の確立や胃自己抗体の保険適用取得などの課題も残されている.

Abstract

The “Study Group on the Establishment of Diagnostic Criteria for Type A Gastritis” of the Japan Gastroenterological Endoscopy Society has proposed new diagnostic criteria for autoimmune gastritis (AIG; type A gastritis).

The diagnostic criteria are: “either endoscopic or histological findings, or both, meet the requirements for AIG, and are positive for gastric autoantibodies (anti-parietal cell antibodies or anti-intrinsic factor antibodies, or both).”

AIG has been underdiagnosed in the past. The newly proposed diagnostic criteria will allow more frequent and early diagnosis of AIG. It would allow patients to be stratified into various high-risk groups, such as gastric tumors and pernicious anemia. With new diagnostic criteria, it would be possible to establish an appropriate surveillance system in the future. There are still issues to be addressed, like establishing endoscopic findings for early-stage AIG and obtaining insurance coverage for gastric autoantibodies.

Ⅰ はじめに

自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG;A型胃炎)とは何らかの自己免疫異常に伴い壁細胞が破壊・消失し,この過程においてプロトンポンプ(H/KATPase)に対する自己抗体(抗壁細胞抗体)が産生される特殊型胃炎である 1.これまで本邦では稀な疾患とされてきたが,近年,内視鏡検診 2,胃がんリスク層別化検査 3,胃癌や胃神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)の精査 4Helicobacter pyloriH. pylori)除菌難渋例 5などから診断される症例が増加しており,「胃炎の京都分類」の改訂版 6にとりあげられている.

ビタミンB12欠乏は悪性貧血に加えて亜急性連合性脊髄変性症,末梢神経障害,認知症などの神経疾患のリスクを高めること,胃酸分泌低下は鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあること,胃癌や胃NETの高リスク群であること,橋本病など,他臓器に自己免疫疾患を合併する(多腺性自己免疫症候群Ⅲb) 7ことが多いこと,これら4点がAIGを診断する臨床的意義である.しかしながら,現在,AIGの明確な診断基準はなく,胃体部~胃底部の萎縮性内視鏡所見,胃自己抗体,血清ガストリン値,特徴的組織所見(壁細胞の破壊・消失,胃底腺の幽門腺様化生,腺管内消化管クロム親和性細胞様細胞(enterochromaffin-like:ECL)細胞過形成およびガストリン細胞過形成)の有無などから総合的に診断が行われている.

Ⅱ 診断基準作成までの経緯

AIGの診断基準を作成するためには多数例での検討が必要であり,AIGの臨床研究を積極的に行っていた国内約10施設を中心とした「A型胃炎コンセンサス会議」(Committee of AIG Research Group:CARP)が2015年に発足した.2015年12月に第1回が倉敷市で開催され,2019年4月までに計6回行われた.その成果として,AIG245例の臨床病理学的検討を行った多施設共同研究結果を2017年米国消化器病学会で報告し,2020年にはDigestive Endoscopyに掲載された 8

日本消化器内視鏡学会の附置研究会「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」が2019年に設立され,2021年5月までに研究会を3回開催 (2020年は誌上発表),2022年5月には成果報告として診断基準を公表した.本診断基準における内視鏡所見についてはCARPでの議論や多施設共同研究成績 8,附置研究会における演題発表などを基に,組織学的所見については海外における診断基準 9)~11,附置研究会における演題発表や論文 12などのエビデンスを基に作成された.

Ⅲ 診断基準の骨子

AIGの発生病態を考慮し,胃体部~胃底部優位の高度萎縮(内視鏡所見,組織所見のいずれか,もしくは両者)と胃自己抗体(抗壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体,もしくは両者)陽性の両者を満たすものを確診例とした.なお,胃体部~胃底部優位の高度萎縮のみを満たすものは疑診例とした(Table 1).

Table 1 

自己免疫性胃炎の診断基準.

胃体部は高度萎縮により無酸状態になるとネガティブフィードバック機構により高ガストリン血症を来す.これまでは各施設が独自に高ガストリン血症の基準を定義し,診断に組み入れてきた.しかしながら,血中ガストリン値はH. pylori感染に伴う萎縮性胃炎(非AIG)においても高値を示すため,両者を判別する適切なカットオフ値を決定できないことから診断基準には採用しなかった.また,血清ペプシノゲン値についても同様であった.ただし,古田ら 13は,血中ガストリン値とペプシノゲン値はAIGの診断予測をするうえで有用であると報告しており,本疾患を疑った際に,特に保険適用のある血中ガストリン値の測定は有用である.血中ガストリン値は胃壁伸展でも上昇するため,内視鏡検査直後の測定は避け,内視鏡検査前あるいは別日とする.なお,H. pylori陽性例では除菌後に再度測定し,これを参考値とすることが望ましい.高ガストリン血症の定義は炎症や萎縮のないH. pylori未感染者を対象としたガストリン値の上限値(平均+2標準偏差)から算出した既報 14に準じて,男性140pg/ml以上,女性120pg/ml以上とする.

本診断基準は主に進行期AIGを対象に作成されたが,近年では早期AIGも報告 15)~19されている.本診断基準では,早期AIGにおける組織学的所見は提示したが,内視鏡所見については今後のさらなる集積が必要と考え,提示を見合わせた.従って,早期AIGの診断には組織所見と胃自己抗体陽性を満たすことが必要となる.現段階では内視鏡で萎縮がなく,早期AIGの組織所見を満たし,胃自己抗体陰性の場合は早期AIG疑診例とする(Table 1).

Ⅳ AIGの内視鏡所見

胃体部~胃底部優位の均一な血管透見像を呈する高度萎縮を認めることがAIGの基本所見 8),20)~22であり,これを診断基準の主所見とした(Figure 1).多施設共同研究 8では,改変木村・竹本分類 23O4(O-P)が90.1%(200/220)で最も多く,次いでO1-O3 5.9%(13/221)と報告されている.なお,この所見を正確に診断するには胃体部大彎を十分伸展させることが内視鏡手技上の重要なポイントである.胃体部粘膜の高度萎縮以外にも胃体部~胃底部では固着粘液(Figure 2-a)と残存胃底腺粘膜(Figure 2-b)も特徴的な所見であり,過形成性ポリープはAIGの拾い上げに有用である 8),20)~22.固着粘液は穹窿部~胃体上部に存在する,水洗では容易に除去できない淡黄~白色調の粘調な粘液を指し,AIGの32.4%(72/222)に認める 8.残存胃底腺粘膜は,胃底腺粘膜が不均一に萎縮する際に,限局した範囲で取り残された胃底腺粘膜を指す.その広がりから,比較的限局する場合にはflat・localized type,island-shaped type,広範囲に存在する場合にはextensive typeなどと表現される.平坦なものが多いが,周囲萎縮粘膜の丈が減ずるため,段差をもって高くなる場合もあり,隆起が目立つ場合にはpseudopolyp-like typeと表現される.その表面には正常に近い粘膜表面構造が観察される場合もあるが,必ずしも一様ではない.残存胃底腺粘膜はAIGの31.5%(70/222)に認められると当初多施設共同研究にて報告 8されたが,この所見の認知度があがるにつれてその頻度は上昇すると考えられる.

Figure 1 

進行期AIGの内視鏡所見(主所見).

前庭部の萎縮はなし~軽度であり,胃体部優位の高度萎縮を認め(均一な血管透見像を呈する),腺境界は認めない.

a:前庭部.

b:胃体部大彎.

Figure 2 

進行期AIGの内視鏡所見(副所見).

胃体部には固着粘液や残存胃底腺粘膜を認めることがある.

a:固着粘液.

b:残存胃底腺粘膜(偽ポリープ様).

一方,前庭部粘膜の萎縮は基本的には「なし」あるいは「軽度」とされているが,蠕動や胆汁逆流の影響を受けること,H. pylori感染合併例では萎縮や炎症を伴うため,必ずしも正色調とは限らないことを留意すべきである.また,斑状発赤(Figure 3-a),稜線状発赤(Figure 3-b)および輪状模様(Figure 3-c)が参考になる場合もある 8),20)~22

Figure 3 

AIGの前庭部粘膜所見(副所見).

a:斑状発赤.

b:稜線状発赤.

c:輪状模様.

なお,早期AIGの内視鏡所見は進行期で見られる胃体部~胃底部優位の完成された高度萎縮はなく,胃体部大彎の皺壁は保持され,軽度腫大した胃小区が目立ち淡い発赤を呈しているのが特徴である(Figure 4).

Figure 4 

早期AIGの内視鏡所見.

a:前庭部大彎.萎縮はほとんどなく,胃粘膜は平滑である.

b:胃体部(見上げ観察).胃体部粘膜には発赤した胃小区がびまん性に認められ,大彎側で顕著である.萎縮の程度は小彎側において軽度である.

c:胃体部(見下ろし観察).胃体部粘膜には軽度腫大した胃小区が目立ち淡い発赤を呈している.胃体部大彎の皺壁は保持されており,萎縮は認めない.

Ⅴ AIGの組織学的所見

AIGの組織学的所見は萎縮の進行度に応じて早期early phase,進行最盛期florid phaseおよび進行終末期end stageの3期に分類され 12),24,九嶋 25は早期AIG内に初期AIG initial phaseを近年提唱している.本診断基準における組織学的所見もこれらに準じて早期(early stage),進行最盛期(advanced florid stage)および進行終末期(advanced end stage)の3期に分けて,その組織学的特徴を記載した(Table 2 12.なお,組織学的所見における早期AIGの定義が本邦(渡辺英伸論文) 12と欧米(Greenson論文) 24とで大きく異なり,欧米の早期AIGには本邦の進行最盛期が含まれている.

Table 2 

自己免疫性胃炎の組織学的時相分類と組織学的特徴.

(1)本邦でのAIG組織所見の解説

a)早期(Figure 5

Figure 5 

早期AIGの病理組織像(胃体部大彎).

a:正常に類似した胃底腺粘膜構造は保たれているが,胃小窩部の延長があり(胃小窩長/固有腺管長の比率:1.0:1.8),胃腺管の間に中度の慢性炎症細胞浸潤を認める(胃小窩部よりも胃腺管部で強い).残存する多数の壁細胞は偽肥大(膨化変性,細胞突出)を示している(HE染色).

b:ECL細胞の腺管内過形成を認める(クロモグラニンA染色).

文献12より転載許可.

主細胞が幽門腺細胞・頸粘液細胞(偽幽門腺細胞)へ移行するため,正常胃底腺構造の壁細胞・頸粘液細胞層と主細胞層の二層構造が不鮮明となるが,胃底腺粘膜構造は保たれている.壁細胞は多数残存するが,膨化,管腔内突出や脱落が見られる.ECL細胞の過形成はなし,あるいは軽度認め,胃腺部の腺管間にはリンパ球・形質細胞浸潤が軽度~中度見られる.また,初期においても幽門腺粘膜のガストリン(G)細胞は軽度の過形成となる.

上記のような組織学的所見が認められた場合に早期AIGと診断する.なお,腺管間のリンパ球浸潤・形質細胞浸潤およびG細胞の過形成は診断の補助とする.

b)進行最盛期(Figure 6

Figure 6 

進行最盛期AIGの病理組織像(胃体部大彎).

a:正常の胃底腺粘膜構造が消失し,胃小窩部/胃腺管部の長さは0.39/0.29mm(比率 1.0:0.7)で,胃小窩長の延長と胃腺部の短縮を認める.破線は胃小窩と胃腺部の境界を示す(HE染色).

b:ECL細胞の線状過形成を認める(クロモグラニンA染色).

文献12より転載許可.

胃底腺粘膜の胃腺部は多数~中等数の幽門腺細胞や頸粘液細胞(偽幽門腺細胞)で占められ,壁細胞は著減あるいは消失し,壁細胞が残存していても変性像が目立つ.また,胃小窩部の延長と胃腺部の短縮を認め,ECL細胞の過形成が見られる.

壁細胞の著減や消失を重要所見とし,これにECL細胞過形成を満たす症例をAIG進行最盛期と診断する.なお,G細胞の過形成は診断の補助とする.

c)進行終末期(Figure 7

Figure 7 

進行終末期AIGの病理組織像(胃体部大彎).

a:正常の胃底腺粘膜構造は消失し,小腸型腸上皮化生が高度となり,幽門腺粘膜がごく少量残存する.胃小窩長/固有腺管長との比率は0.34/0.08mm(比率 4.2:1.0)である(HE染色).

b:ECL細胞過形成が明瞭となる(クロモグラニンA染色).

文献12より転載許可.

進行最盛期がさらに進行した状態であり,一部には進行最盛期の所見を合併することがある.胃腺部は中度~高度の腸上皮化生と少量の幽門腺および頸粘液腺(偽幽門腺)で占められる.胃小窩部の延長はさらに高度,胃腺部は少量のみ残存し,ECL細胞の過形成が見られる.診断については進行最盛期と同様である.

(2)組織診断における注意点

各種細胞を客観的に認識するには,ECL細胞に対してクロモグラニンA(施設の運用上,クロモグラニンAが使用できない場合にはシナプトフィジンを推奨する)の免疫染色を必須,壁細胞にはH/KATPase,主細胞・頸粘液細胞にはpepsinogen-IやMUC6,およびG細胞にはG細胞の免疫染色を推奨する.生検部位は幽門前庭部大彎(幽門輪から2cm口側)および胃体上部大彎から各1点を推奨とする(ただし,抗血栓療法など,生検採取が患者の身体的負担となる際には胃体上部大彎1点でも可とする).それに加え,胃体部の萎縮やH. pylori既感染の有無を判定するには,胃角と胃体中部小彎の生検各1点ずつを推奨する.G細胞やECL細胞を正確に判定するためには,腸上皮化生をできるだけ避けて生検することが重要である.

Ⅵ 胃自己抗体

AIGは自己免疫機序によって引き起こされるため,胃自己抗体(抗壁細胞抗体および抗内因子抗体)は診断における重要な項目であり,感度と特異度はそれぞれ81%と90%,27%と100%と報告されている 26.抗壁細胞抗体の濃度は胃粘膜の改変が進行することにより,ピークまで漸増し,その後減少することが示されている 27),28.また,その測定方法は患者血清を用いてラットの胃を標識する蛍光抗体法であり,患者血清を希釈し目視判定にて行っているため,カットオフとなる血清希釈倍数10倍には偽陽性が含まれる可能性を考慮する必要がある.従って,診断基準には「10倍以上を陽性とするが,偽陽性を考慮し今後変更される可能性がある」とした.現在,両胃自己抗体検査は保険診療では測定ができないことが課題として残されており,本診断基準の提案を契機に保険収載を目指すことが望まれる.

Ⅶ おわりに

AIGを診断する意義は,胃癌や胃NETなどの胃腫瘍や悪性貧血などの発症高リスク群として患者を拾い上げ,定期的なサーベイランスを行うことにある.本診断基準の提案により,これまで過少診断されていたAIGがより多く,より早期に診断され,適切な診療が行われることが期待される.今後は本診断基準の提案のもと,早期AIGの内視鏡所見の確立や胃自己抗体の保険適用取得を目指すなどの課題を解決していくことが急務である.

謝 辞

本論文の執筆にあたり,日本消化器内視鏡学会附置研究会「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」世話人の先生方(青木利佳先生,於保和彦先生,蔵原晃一先生,後藤田卓志先生,佐藤祐一先生,春藤譲治先生)に御礼を申し上げます.なお,本研究は同附置研究会の承認を受けている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2023 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top