GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SEVERE COVID-19 WITH PERSISTENT MASSIVE DIARRHEA
Aya GOHARA Syunya ISEKIMasashi NAKAMURAMasaki FUJIMORIKimiko ITOSyunsuke TAKAHASHIYumiko YASUHARAShinji KITAMURA
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2023 Volume 65 Issue 3 Pages 236-243

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要旨

症例は63歳男性.発熱・咽頭痛を主訴に受診し,新型コロナウイルス感染症の診断で入院となり,第3病日に人工呼吸管理を開始した.第25病日に水様下痢が出現し,連日3L以上の下痢が続いた.第55病日に大腸内視鏡検査を施行しCytomegalovirus腸炎と診断,ガンシクロビルによる治療を開始し下痢は一時的に改善するも再増悪あり,第98病日に小腸ダブルバルーン内視鏡を施行したところ,空腸はびまん性に絨毛構造が消失していた.大量胸腹水貯留のため循環呼吸維持が困難となり,第111病日永眠された.病理解剖では小腸全体に粘膜上皮が剝脱した所見がみられた.新型コロナウイルス感染症では重篤な下痢を合併する症例があり,その病態解明は今後の課題である.

Abstract

A 63-year-old man was admitted to our hospital with sore throat and fever. He was diagnosed with Coronavirus Disease 2019(COVID-19), and on the 3rd day after diagnosis, he started on ventilatory management. On the 25th day, the patient presented with over 3 L of watery diarrhea, which continued daily. When the diarrhea did not improve with various treatments, on the 98th day, a double-balloon endoscopy of the small intestine was performed, and diffuse loss of villi structure in the jejunum was noted. Due to massive pleural effusion, the patient succumbed to circulatory and respiratory failure 111 days after admission to the hospital. The pathological autopsy revealed that the mucosal epithelium had been exfoliated from the entire small intestine. As this case shows, some COVID-19 cases are associated with severe diarrhea; further investigation is needed to elucidate the pathogenesis of COVID-19-associated diarrhea.

Ⅰ 緒  言

新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)に下痢症状を合併することは知られている.多くは軽度で一過性の症状であるが,最近重篤な下痢症状を合併した症例が報告されるようになってきた 1)~6.今回われわれはCOVID-19に重篤な下痢症状を合併した1例を経験した.自験例は救命が困難であり,病理解剖による消化管の検索が可能であった.COVID-19に下痢症状を合併する病態は明らかにされておらず,自験例のように消化管全域を病理組織学的に検索しえた報告は認めず,本病態の解明に寄与すると考えられるため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:63歳,男性.

主訴:発熱・咽頭痛.

既往歴:40歳2型糖尿病,45歳高血圧症,49歳多発性囊胞腎・多発肝囊胞,53歳脳梗塞,61歳慢性心不全・慢性腎不全,63歳肺腺癌.

生活歴:過去の重喫煙歴あり,飲酒歴なし.

服薬歴:アスピリン,アミトリプチン,フェニトイン,バルプロ酸ナトリウム,デュロキセチン,アゾセミド,シルニジピン,オルメサルタン,ラベプラゾール,カルベジロール,カモスタットメシル,イコサペント酸エチル,カナグリフロジン,トリグリプチン,インスリン皮下注(ラベプラゾール,インスリン以外は入院後中止).

現病歴:3年前から経過観察されていた肺腫瘍に対し,入院1カ月前にCTガイド下針生検を施行し腺癌cT1bN0M0 stageⅠA2と診断され放射線療法を予定していた.入院3日前37℃台の発熱と咽頭痛が出現した.入院前日38.5℃の発熱あり,入院当日当院へ救急搬送となった.新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)PCR検査陽性となりCOVID-19の診断で緊急入院した.

入院時現症:身長177cm,体重69kg,意識清明,血圧129/79mmHg,脈拍120回/分,SpO2 97%(室内気),呼吸回数20回/分,体温37.7度 呼吸音は左背部でcrackle聴取,腹部は平坦・軟,圧痛なし,下腿浮腫認めず.

入院時臨床検査成績:WBC 5,750/μl,RBC 347×104/μl,Hb 10.2g/dl,Ht 30.6%,Plt 18.6×104/μl,PT 98.3%,APTT 32.3sec,Fib 381.6mg/dl,D-dimer 0.83μg/ml,AST 19U/l,ALT 14U/l,ALP 487U/l,LDH 159U/l,ChE 193U/l,T.Bil 0.33mg/dl,TP 7.8g/dl,Alb 3.7g/dl,Na 133mEq/l,K 5.5mEq/l,Cl 100mEq/l,Ca 9.1mg/dl,BUN 57mg/dl,Cre 3.36mg/dl,BS 250mg/dl,HbA1c 8.3%,Amy 227U/l,CRP 7.14mg/dl.動脈血液ガス分析(酸素1L/min)pH 7.389,PaCO2 32.6mmHg,PaO2 91.5mmHg,HCO3-19.3mmol/L,Lac 0.8 mmol/L.軽度の貧血,腎機能障害,血糖とHbA1c高値,CRPの上昇を認めた.

胸部レントゲン:右下肺野にすりガラス影あり.

入院後経過:入院後すぐに酸素3L投与が必要となりデキサメタゾン6mg内服とシクレソニド吸入を開始した.腎機能低下ありレムデシビルは使用しない方針とした.第3病日に酸素化維持が困難となり人工呼吸管理を開始した.Enterobacterによる人工呼吸器関連肺炎に対してメロペネム投与,中心静脈カテーテル感染による菌血症を合併したためダプトマイシン投与を行った.第22病日に皮疹が出現しプレドニゾロン30mg投与を開始し,その後メロペネム・ダプトマイシンが被疑薬として中止となった.しかし皮疹はさらに広範囲に拡がり,プレドニゾロン80mgまで増量し,2カ月以上にわたる長期的なステロイド投与を要した.入院時よりほぼ排便なく経過していたが,第25病日に水様下痢が出現し,Clostridioides difficileトキシン・抗原検査を行うも陰性であり,第30病日頃から3-6L/日の下痢が続いた.腹部単純CTは小腸全域と上行結腸~横行結腸にかけて広範囲に浮腫状壁肥厚を認め(Figure 1),便の一般細菌培養・抗酸菌培養/PCR・原虫塗抹検査はいずれも陰性であった.薬剤性下痢の可能性を考慮し可能な限り薬剤の中止・変更を行うも改善は得られなかった.第36病日に脾彎曲部までの大腸内視鏡検査を施行し,大腸粘膜は浮腫状で小びらんが散見されるも特異的所見は認めなかった.第53病日に血清サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)antigenemiaが上昇(54/94,300)したため第55病日に全大腸内視鏡検査を施行したところ,全大腸に非連続性に浮腫やびらんを認め,亀甲状粘膜模様が散見された(Figure 2-a).回盲弁は全周性に発赤し腫大しており(Figure 2-b),生検にてCMV免疫染色陽性の核内封入体細胞が確認され(Figure 3-a,b),CMV腸炎と診断した.亀甲状粘膜模様は移植片対宿主病(Graft-versus-host disease:GVHD)時にみられる所見であり,生検でも炎症細胞浸潤やアポトーシス小体を少数認めた.CMV腸炎に対してガンシクロビルによる治療を開始し一時的に下痢の減少を認めたが,数日後には3L/日以上の下痢が再燃した.CMV antigenemiaは治療開始後1週間で陰性化し,以降再上昇は認めなかった.第61病日,第62病日のSARS-CoV-2 PCR検査陰性となり隔離解除した.蛋白漏出性胃腸症を疑い第97病日に蛋白漏出シンチグラフィーを施行し,小腸中央付近から漏出像を認めた.小腸に病変があると判断し,第98病日に経口小腸ダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy:DBE)を施行したところ,空腸はびまん性に絨毛構造が消失し変性剝脱した上皮が膜状に付着していた(Figure 4).生検では粘膜上皮がほぼ剝脱していた.血圧維持のためカテコラミンサポートおよび連日多量の蛋白血漿製剤を要していたが,低蛋白血症による大量胸腹水貯留のため循環呼吸維持が困難となり,第111病日にCO2ナルコーシスのため永眠された(Figure 5).ご家族の同意のもと死後2時間42分後に病理解剖が行われ,右胸水および腹水は大量に貯留し,小腸は浮腫状肥厚を来し,小腸全体におよぶ粘膜上皮の剝脱とともに膜状の変性剝脱した上皮の付着が認められた(Figure 6).小腸組織は腺管上皮のほぼ剝脱した状態であったが(Figure 7),一部に変形した腺管上皮の残存とともに胃腺窩上皮化生/幽門腺化生粘膜が散見され,免疫染色ではそれぞれMUC5AC/MUC6陽性であった.上皮の傷害程度に比して好中球浸潤が少なく活動性炎症所見は乏しかった.また典型的なCMV封入体に比して小型であるものの,CMV免疫染色陽性の封入体細胞が散見された.微小血栓形成を示唆する所見はみられなかった.生前上部消化管内視鏡検査は未施行であったが,病理解剖では上部消化管に異常所見は認めなかった.なお,生検組織および剖検組織にて,小腸上皮へのCOVID-19感染の証拠(SARS-CoV-2ゲノムおよび免疫組織化学による抗SARS-CoV-2Nucleocapsid protein(NP)抗原に対する特異的な陽性シグナル)は得られなかった.

Figure 1 

腹部単純CT検査所見.

小腸全域と上行結腸~横行結腸にかけて広範囲に浮腫状壁肥厚を認めた.

Figure 2 

大腸内視鏡検査所見.

a:大腸粘膜に浮腫やびらん,亀甲状粘膜模様が散見された(FigureはS状結腸).

b:回盲弁は全周性に発赤し浮腫状に腫大していた.

Figure 3 

大腸内視鏡検査時の病理組織像.

a:核内封入体を認めた(HE染色,×1,000).

b:免疫染色陽性であった(CMV染色,×1,000).

Figure 4 

小腸DBE検査所見.

空腸はびまん性に絨毛構造が消失し変性剝脱した上皮が膜状に付着していた.

Figure 5 

入院後の臨床経過.

DXS:Dexamethasone A/S:Sulbactam, Ampicillin DAP:Daptomycin MEPM:Meropenem MCFG:Micafungin MNZ:Metronidazole LVFX:Levofloxacin GCV:Ganciclovir LZD:Linezolid PSL:Prednisolone

Figure 6 

病理解剖時の小腸肉眼所見.

小腸は浮腫状に肥厚し小腸全体におよぶ粘膜上皮の剝脱とともに膜状の変性剝脱した上皮の付着を認める.

Figure 7 

病理解剖時の小腸組織像.

全腺管上皮が剝脱している(HE染色,×200).

Ⅲ 考  察

SARS-CoV-2が感染する細胞は膜表面にアンジオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2:ACE2)を有する細胞であり,ホスト細胞に発現するACE2がSARS-CoV-2に対する受容体の役割を果たし,SARS-CoV-2の表面に存在するスパイク蛋白がACE2に結合し,ウイルスのホストへの侵入を促す.さらに,SARS-CoV-2とACE2の結合のプロセスには,セリンプロテアーゼであるTMPRSS2(transmembrane protease, serine 2)によるスパイク蛋白の切断が必要である 7.SARS-CoV-2はACE2とTMPRSS2を使用して肺胞上皮細胞に侵入するが,ACE2とTMPRSS2は肺だけでなく小腸にも発現している 8.SARS-CoV-2が下痢発症に関与する機序は明らかにされていないが,MegyeriらはSARS-CoV-2の感染により様々な炎症性サイトカインが産生され腸管透過性を亢進させる直接作用と,腸管レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(renin-angiotensin-aldosterone system:RAAS)の調整異常によるイオンバランスの崩れが下痢発症に関与している可能性があると報告している 9.しかし本症例は生検組織・剖検組織においてSARS-CoV-2ゲノムおよび免疫組織化学による抗SARS- CoV-2NP抗原に対する特異的な陽性シグナルはいずれも検出されず,SARS-CoV-2による直接作用は考えにくい.また遅発性発症であり時間経過からもこれらの機序のみで病態を説明することは困難である.

COVID-19に関連してみられる下痢は病状が重症であるほどよくみられる症状である 10が,発症時期は20%が最初から,残りも呼吸器症状発症10日目までにみられ,ほとんどが軽症であり,平均5.4日,長くても2週間で軽快すると報告されてきた 11.自験例では呼吸器症状発症25日目に下痢が出現し,最終的に致死的経過を辿るほどの重篤な下痢症状を長期間呈していたが,最近になって,重篤な下痢を伴ったCOVID-19症例が報告されるようになった.自験例と共にTable 1にまとめた.併存症に関し記載がある大半の症例で何らかの基礎疾患を背景に重症のCOVID-19に罹患しており,COVID-19肺炎発症から10日以上遅れて重篤な下痢症状が出現し,病理組織では大腸や小腸の粘膜上皮が広範囲に剝脱しているが炎症所見は乏しいという共通点を有していた.COVID-19関連下痢には,これまで知られていた病初期に認める軽症で一過性のものとは別に,重症COVID-19に遅れて発症する重篤な下痢を呈する一群が少数ながら存在するものと思われる.

Table 1 

重篤な下痢を伴ったCOVID-19症例.

自験例では経過でCMV腸炎を合併しており,皮疹に対して投与したステロイドが影響を与えたと推測される.一般的に重症COVID-19患者では肺障害や多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現する.ステロイド薬の抗炎症反応によって,これらの有害な炎症反応を抑制し予後が改善することが示されている.しかし長期的なステロイド薬の使用は免疫抑制を引き起こし,特に消化管ではCMV感染が問題になる.Yamamotoらの報告によると,長期的なステロイド使用と高容量のステロイド使用がCMV感染の危険因子と報告されており 12,本症例は高容量のステロイドを長期的に使用しておりCMV感染のハイリスク症例であった.病理解剖時の小腸組織でCMV免疫染色が軽度陽性であったことからCMV感染が病態に関与していた可能性があるが,CMV治療後CMV antigenemiaは陰性化したにもかかわらず下痢症状は遷延していたためCMV腸炎のみでは病態の説明は困難である.剖検でみられた小腸組織の胃腺窩上皮化生/幽門腺化生の病的意義は不明であるが,小腸上皮に慢性的な傷害が持続していたことが想定され,体内からウイルスが排除された後も腸管上皮の傷害は長期的に持続していたものと考えられた.

ごく最近,Yamakawaらは,自験例同様に重症COVID-19に遅れて発症した重篤な下痢症例において,腸粘膜の各種サイトカインを測定したところ,COVID-19における炎症進展に重要な役割を果たすと考えられているIL-6の発現が著しく亢進していたことを報告している 4.自験例で認めた腸粘膜障害はウイルスによる直接的な傷害によるものというより,ウイルスがホストに侵入したことによって引き起こされた免疫反応の異常やサイトカインストームによる臓器障害 13の結果ではないかとも推察される.

Ⅳ 結  語

COVID-19に重篤な下痢症状を呈した1剖検例を経験したので報告した.COVID-19に関連した下痢の多くは軽症で一過性のものと報告されているが重篤なものもあり,特に遅れて発症してくる症例では注意が必要である.

謝 辞

主治医チームとして診療にあたられた感染症内科部長小川吉彦先生,呼吸器内科部長郷間厳先生,診療局次長西田幸司先生ならびに診療にご協力いただいた集中治療科の先生方に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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