2023 Volume 65 Issue 3 Pages 251-256
症例は79歳女性.2年前に受けた大腸内視鏡の経過観察目的で紹介受診した.受診6日後に大腸内視鏡を施行し,偶然下行結腸にpress-through package(PTP)を認め,回収ネットを用いて摘出し得た.検索し得た限りでは,PTPを大腸内で発見し内視鏡的に摘出し得た症例は本症例が5例目であった.PTP誤飲は主に上部消化管内視鏡で発見・摘出され,幽門を超え大腸内で認めるPTPに関しては穿孔例や自然排泄例の頻度が不明で内視鏡的除去法は確立していない.今回,われわれは大腸内視鏡で偶然PTPを認め,摘出し得た稀な1例を経験したので報告する.
A 79-year-old woman was referred to our hospital in October 2018 for follow-up of colonoscopy (CS) performed 2 years prior to presentation. We performed CS 6 days after the initial consultation and incidentally identified a press-through package (PTP) in the descending colon. The PTP was successfully removed using a retrieval net. Based on a literature search of the Igaku Chuo Zasshi (ICHUSHI) database, this is the fifth case of a PTP found in the colon and removed endoscopically. Accidentally ingested PTPs are occasionally detected and removed from the upper gastrointestinal tract endoscopically. Limited data are available regarding the prevalence of PTPs that pass beyond the pylorus and cause perforation or are spontaneously excreted. Treatment guidelines are unavailable for such complications. We report a rare case of an incidentally detected PTP that was successfully removed endoscopically from the descending colon, together with a literature review.
Press-through package(PTP)は1963年より使用され現在広く普及した薬剤包装形態である.高齢化社会に伴い本邦ではPTP誤飲症例は増加傾向にあり,2010年には独立行政法人国民生活センターから高齢者のPTP誤飲事故の報告書が公表され,厚生労働省から医療機関及び薬局へ注意喚起が行われた 1).PTP誤飲は上部消化管内視鏡で摘出される事が多いが,幽門を超え大腸で認めるPTPに関しては報告された症例数も少なく 2)~6),内視鏡的除去法は確立していない.今回自覚症状なく,大腸内視鏡で偶然下行結腸にPTPを認め内視鏡的に摘出し得た1例を報告する.
症例:79歳,女性.
主訴:なし.
既往歴:60歳 右乳癌に対して乳房切除術.
服薬歴:高血圧,緊張性頭痛,心身症,変形性股関節症,変形性膝関節症等に対して13種類の内服薬あり.すべての薬剤が一包化処方されておらず,PTP包装が11剤,個包装が2剤であった.介助者はおらず薬剤を自己管理されていた.
現病歴:高血圧,緊張性頭痛,心身症等に対して他科で外来経過観察中であった.特に症状は認めないが,2年前に大腸内視鏡で大腸憩室,内痔核を指摘されており,2年後の経過観察目的で当科へ紹介受診した.
現症:151cm,55.5kg,BMI 24.3.腹部平坦,軟,圧痛なし.
大腸内視鏡:受診から6日後に施行した.大腸憩室,内痔核以外の病変は指摘できず,偶然下行結腸内にPTPを認めた(Figure 1).PTP周囲に粘膜損傷は認めなかった.回収ネットを用いてネット内にPTPを納め,送気し腸管を膨らませ管腔の中央にネットが位置するように回収した.鎮静は行っておらず,特に肛門部通過時は腹部の力を抜いてもらい送気で肛門を拡張しスコープを抜去し,安全に摘出し得た.PTP摘出後に再挿入し確認したが粘膜損傷など認めず,検査後に腹部症状も認めなかった.摘出したPTPはアムロジピンⓇでPTPシートをはさみで1錠ずつに切り離していた(Figure 2,3,4).
下行結腸にpress-through package(PTP)を認める.
回収ネットを用いてPTPを保持した.
回収ネットでPTPを保持したまま,肛門部も安全に通過した.
摘出したPTP.アムロジピンⓇ錠剤の誤飲であった.PTPシートをはさみで1錠ずつに切り離していた.
改めて聴取したが,本人は誤飲した事を自覚していなかった.長谷川式認知症スケールを評価したが,26/30点であった.
PTPは1963年より使用され,現在広く普及した薬剤包装形態である.高齢化社会に伴い本邦ではPTP誤飲症例は増加傾向にあり,2010年に独立行政法人国民生活センターから報告書「注意!高齢者に目立つ薬の包装シートの誤飲事故」が公表され,厚生労働省が医療機関及び薬局へPTP包装シートは1錠ずつに切り離さないように注意喚起及び周知徹底依頼を行った 1).PTP誤飲は食道の生理的狭窄部に停留しやすく,辺縁が鋭利であり咽頭痛や咽頭違和感が出現し,内視鏡的に摘出される事が多い 7).食道を通過した後,小腸 8)や大腸での穿孔例も散見される.
1982年から2021年12月の間で,「PTP」と「大腸」をキーワードとして医学中央雑誌で検索したところ,本邦において誤飲したPTPを大腸内で認めた例は会議録を除き27報告28例であった.自験例を含めた29例のうち外科的摘出を行った例と内視鏡的摘出もしくは自然排泄した例の臨床的特徴をそれぞれ表に示す(Table 1,2).男女比は10:19で女性が多く,平均年齢は78.7歳であった.外科的摘出22例 9)~30)の内訳は,穿孔例が20例,非穿孔例が2例であった(Table 1).大腸穿孔例での部位別での検討では20例中16例がS状結腸であり最多であった.他部位は,直腸3例,下行結腸1例であった.一方,内視鏡的摘出もしくは自然排泄した6報告7例 2)~6)のうち,自験例を含め内視鏡的摘出例が4報告5例で,自然排泄した例が2例であった(Table 2).直腸で認めた3例はいずれも肛門痛や肛門出血を認め,内視鏡的摘出を行っていた.自然排泄例は2例とも内視鏡的摘出が穿孔のリスクがあると判断し待機的な自然排泄例であった.
PTPを大腸で認め外科的摘出を行った22症例.
PTPを大腸内で認め内視鏡的摘出/自然排泄した7症例.
PTP誤飲後に無症状で大腸内で見つかる例は稀である.自覚症状がなかった報告に関しては,板倉ら 6)の報告では,便潜血陽性を主訴に大腸内視鏡を施行しPTPを発見した1例を報告している.また高野ら 3)の報告は,患者は無症状であったが,PTPを誤飲した事を自覚しており,CTで横行結腸にPTPを認め待機的な自然排泄例であった.自験例は,便潜血検査も施行しておらず,自覚症状も誤飲の自覚もなく大腸内視鏡で偶然発見された.
PTPによる大腸穿孔の発生機序は不明であるが,PTPの鋭的な辺縁による直接的な損傷や,同一部位に長期間停滞する事による組織壊死も原因となり得ると考えられている 8).S状結腸は穿孔例が多いが,屈曲が多く,腸内容が蓄積し硬化する事で,PTPが長期間腸管内に停滞し穿孔の生じる機会が増えるためという報告もある 25),30).本症例では穿孔を認めなかったが,PTPを下行結腸で発見しており,S状結腸まで移動した場合は穿孔のリスクが増えたと思われた.
一方,内視鏡的異物除去術の適応について消化器内視鏡ガイドライン 31)によると,緊急性を要する場合と緊急性がない場合がある.緊急性のある異物の例として①消化管壁を損傷する可能性のあるもの,②腸閉塞をきたす可能性のあるもの,③毒性のある内容物を含むものを挙げている.PTPは辺縁が鋭利である事から①に含まれており,食道・胃異物として発見された場合は早急な内視鏡的異物除去適応である.しかし,幽門を超え大腸内で認めるPTPについては,症例も少ない事もあり穿孔例や自然排泄例がどの程度あるかは不明で,内視鏡的除去法は確立していない 28).自然排泄を待った2例の報告があったが 3),6),大腸内で認めても摘出可能であれば自然排泄を待つより内視鏡的摘出が望ましいと考えた.一般的な異物は幽門を通過した場合,症状をおこさずに肛門より排泄される事が多く,穿孔や腹膜炎などの合併症は1%以下とされている 32).PTP誤飲に関しては幽門を通過した場合,辺縁が鋭利であり消化管穿孔の可能性があり,安易に自然排泄を期待するのは避けるべきである 28).大腸内で発見されるPTP報告例は特にS状結腸部位で穿孔例が散見され,さらには直腸まで進んだ例で,穿孔は認めないが肛門痛や肛門出血により3例が内視鏡的摘出を行っている(Table 2).さらに,大腸を通過した後も狭窄部の肛門管でPTPが突き刺さり内視鏡的もしくは外科的に摘出した報告もある 33),34).このようにPTPは上部消化管から肛門までに損害をきたし得る.本症例では回収ネットを使用したが,PTPの鋭利な部位が被覆されないために腸管粘膜,特に肛門を損傷する危険性があった.内視鏡的摘出を行った他の報告では,鉗子や内視鏡スネアを使用しての回収であった 2),4),5).回収ネットより大口径のフード装着もしくはスライディングチューブでの回収がより安全性が高かったと考えられた.
高齢化が進み,PTP誤飲の増加が予想されその対策が急務と思われる.本症例は79歳と高齢で認知症を疑い,長谷川式認知症スケールを評価したが,26/30点と積極的に認知症を疑う点数ではなかった.認知症でなくとも高齢者は注意力の低下でPTPを誤飲する可能性がある.PTPを実際に誤って口腔内にいれてしまった人は,薬を内服している患者の1.1~2.6%位存在すると報告がある 35).また,大腸内でPTPを認めたほとんどの症例でPTP誤飲の自覚がなかった(Table 1,2).これまで本邦では誤飲対策として,日本製薬団体連合会の勧告に従って 36),ミシン目(分割線)を一方向のみとし1錠ずつに切り離せない様にする等対策が行われてきた.それでも内服薬剤が多剤となる高齢者は,自験例のようにPTPシートをはさみで1錠ずつに切り離して内服する例が多いと推察される.医療従事者としては,高齢者には家族を含めてPTPを分割しないように服薬指導の徹底が必要であるが,それだけでは限界があると思われる.誤飲のリスクのある高齢者には一包化(One Dose Packaging;ODP)調剤が現実的な対応と考えられた.
今回大腸内視鏡で偶然PTPを認め,内視鏡的に摘出し得た1例を報告した.大腸内でPTPを認めた場合は可能な限り内視鏡的摘出が望ましいと考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし