2023 Volume 65 Issue 3 Pages 288-302
日本消化器内視鏡学会の会員における女性医師の割合は年々増加している.女性内視鏡医が出産,育児等を行いながらキャリア形成を行うには様々な支援が必要である.今回どのような支援が必要かを明らかにするために,女性内視鏡医に対するアンケート調査を行った.全女性会員の28%にあたる1,494名から回答が得られ,その解析を行った.
キャリア形成の障害としては,「出産・育児」,「自分の体調,体力」が多く回答された.キャリア支援へ望むことは,「主治医制ではなくチーム制の導入」,「緊急時の代替要員の確保」,「病児保育の充実」が多く回答された.学会が行うべき取り組みとしては,教育講演会や学会のWeb開催や,キャリアサポート研修施設の増加とその情報提供の必要性が回答された.今後,質の高い内視鏡診療を提供するために女性医師のキャリア支援は必須の課題であり,男女共同参画事業として学会全体で取り組むことが必要である.
The proportion of female doctors among the members of the Japan Gastroenterological Endoscopy Society (JGES) is increasing every year. Female endoscopists require a variety of supports to advance their careers while giving birth and raising their children.
A questionnaire survey among female endoscopists was conducted in order to clarify what kind of support is needed. Responses were received from 1,494 individuals, accounting for 28% of all female members of the JGES, and the answers were analyzed.
The most common obstacles to career development were “giving birth and child-rearing” and “oneʼs physical condition and stamina.” In terms of career support, the most common answers were “introduction of a team system instead of a solo attending physician system,” “securing substitute staff for emergencies,” and “improvement in childcare when her child is sick.”
As for initiatives that should be undertaken by the JGES, respondents indicated that it would be beneficial to hold educational lectures and conferences online, as well as increase the number of career support training facilities and provide information about such facilities.
To provide high-quality endoscopic examination and treatment for patients in the future, career support for female endoscopists is an essential task, and the entire JGES must work on this as a project toward ensuring a gender-equal society.
厚生労働省の統計によると平成30年12月31日現在における全国の届出「医師数」は327,210人で,性別の割合は男性78.1%,女性21.9%である.女性医師の割合は,平成10年14.1%,平成20年18.1%であり年々増加している.また令和3年の医師国家試験の合格者(9,058人)における女性(3,039人)の比率は33.6%であり,さらに令和2年度の医学部医学科合格者数(13,971人)における女性(5,279人)の比率は37.8%であることから,今後の女性医師の増加は確定的である.本邦では,1999年6月に「男女共同参画社会基本法」が公布,施行されたことで,男女共同参画の実現が21世紀の日本社会の最重要課題として位置づけられ,2000年12月に「男女共同参画基本計画」が閣議決定された.2002年には複数の理工学系学協会からなる男女共同参画学協連絡会が発足し,これを契機に複数の医療系の学会に男女共同参画委員会などの設置が行われ,女性医師に対する様々な支援が行われるようになっている 1)~3).
日本消化器内視鏡学会の取り組みとしては,2015年に学会の附置研究会として「女性内視鏡医のキャリアサポートを目指した教育研修体制確立に関する研究会」(代表世話人:原田直彦)が開始された.その研究会にて女性内視鏡医へのキャリアサポートに関するアンケート調査が指導施設と女性会員に対して実施され,結論として女性内視鏡医に対するキャリアサポート体制は未だ不十分であることが示された 4),5).
また2017年には本学会総務委員会のワーキンググループとして「女性内視鏡医キャリアサポート委員会」(委員長:中村真一)が組織され,さらに2020年には総務委員会から独立し,「女性内視鏡医キャリアサポート委員会」(委員長:塩谷昭子)(Table 1)が立ち上げられた.
女性内視鏡医キャリアサポート委員会の構成とメンバー.
今回その委員会の活動として,女性内視鏡医のキャリア形成に関する現状と課題を明らかにし,今後学会としてどのようなサポートを行うべきかを検討することを目的として女性会員に対するアンケート調査を行った.
2021年6月3日から7月10日の期間で日本消化器内視鏡学会の女性会員5,448名のうち,学会事務局にメールアドレスを登録していた5,323名(98%)にWebでのアンケート調査を依頼した.アンケートの内容をTable 2に示す.アンケートの内容は,2017年の当学会の附置研究会で行われたアンケート調査 5),2018年の日本耳鼻咽喉科学会の女性医師アンケート調査 6),2019年の日本大腸肛門病学会による女性会員に対するアンケート調査 7)を参考にして作成した.
女性内視鏡医Webアンケート項目一覧.
期間内に1,494名(28%)からアンケートの回答があり,その集計を行った.回答が1つの質問は,円グラフに各人数と割合を,複数回答が可能な質問は,横棒グラフで各人数と割合を記載した.また自由記載欄がある回答については,特徴的なコメントを抜粋して記載した.より詳細に検討するために,いくつかの項目には年代別(20代,30代,40代,50代以上),資格別(一般会員,専門医,指導医),支部別(北海道,東北,関東,甲信越,北陸,東海,近畿,中国,四国,九州)の集計も行った.統計解析はソフトウェアとしてJMP-pro 16(JMP Statistical Discovery LLC.)を使用し,χ2乗検定でカテゴリーデータを解析し,p<0.05以下を有意差ありとした.
回答者の年齢分布(Figure 1)は,20代は5%と少なく,30代以上はそれぞれ3割程度であった.また所属支部の分布では,関東が36%と最も多く,次いで近畿の18%,東海と九州がそれぞれ10%であった.
Q1:あなたの年齢をお教えください.
現在の勤務施設については複数回答であるため,実数をFigure 2に示す.54%が市中病院に勤務しており,また大学病院,診療所にそれぞれ20%程度勤務していた.
Q2:現在の勤務施設はどちらですか(複数回答可).
週の実労働時間(Figure 3)は,21-40時間が42%と最も多く,20時間以下と合わせると週40時間以下が58%であった.
Q4:現在の勤務についてお答えください.
①週実労働時間.
月平均の当直(Figure 4)とオンコール(Figure 5)の回数は,それぞれ0回が60%,66%と最も多かった.
Q4:現在の勤務についてお答えください.
②月平均当直回数.
Q4:現在の勤務についてお答えください.
③月平均オンコール回数.
婚姻関係では74%が既婚であり,65%が子供を持っていた.子供の年齢では,977人が回答しており,そのうち45%が就学前であり,次いで39%が中学生,37%が小学生であった.出産後の勤務形態の変化は83%に認めた.育児の主たる担い手については複数回答可であるが,96%(934/971人)が「自分自身」と回答していた.
勤務先の育児支援体制(Figure 6)については,1,027人中300人(29%)が「ない」と回答されていた.一方,「託児所」,「時短勤務制度」,「当直・オンコール等の免除」があることがそれぞれ40%ほど回答されていた.
Q10:ご自身または配偶者・パートナーの勤務先に育児の支援体制としてあるものを選択ください(複数回答可).
勤務先の病児保育支援体制については,1,062人中688人(65%)が「ない」と回答しており,「ある」の回答は277人(26%)であった.
3:資格・キャリア形成専門医等の資格の有無についてFigure 7に示す.学会の専門医,指導医はアンケートに回答した医師のうち,それぞれ65%(972人),14%(212人)が取得していた.女性会員全体での専門医,指導医の取得率はそれぞれ50%,9%であるため,今回のアンケートの回答はやや専門医,指導医取得者の割合が高かった.またその他の資格では,消化器病学会専門医,認定内科医の取得率が高かった.
Q12:専門医等の資格をお持ちですか(複数回答可).
学会専門医取得時の卒後年数では39%が5-7年,42%が8-10年であり,10年以内の取得が80%以上であった.
キャリア形成の障害(Figure 8)については,「出産・育児」が45%と最も多く,次いで「自分の体調,体力」が41%,「自分の能力」が35%,「子供の教育」が32%であった.これを子供の有無で分けると,子供ありでは,「出産・育児」,「子供の教育」,「自分の体調,体力」,「自分の能力」の順であり,子供なしでは,「自分の体調,体力」,「自分の能力」,「出産・育児」,「その他」の順であった.
Q14:ご自身のキャリア形成に障害となっているものがありますか(複数回答可).
年代別では,20-30代は「出産・育児」が,40代は「子供の教育」が有意に他の年代よりも多かった(p<0.0001).資格別では,一般会員は「出産・育児」が,専門医は「子供の教育」が有意に多かった(p=0.0014).支部別では,会員数の多い上位5支部(関東,近畿,九州,東海,中国)は,下位5支部(東北,四国,甲信越,北海道,北陸)よりも「出産・育児」,「子供の教育」が有意に多かった(p=0.0107,p=0.0056)(Table S1,2)(電子付録).
「その他」の意見では,親の介護や不妊治療が複数記載されていた.
キャリアを積む上で欲しい支援(Figure 9)については,「主治医制ではなくチーム制の導入」が52%と最も多く,次いで「緊急時の代替要員の確保」が49%,「病児保育の充実」が41%,「職場の意識改革」が38%であった.これを子供の有無で分けると,子供ありでは順番は同じであり,子供なしでも最も多いのは「主治医制ではなくチーム制の導入」であり,次いで「勤務医師の労働条件の明確化」,さらに同数で「緊急時の代替要員の確保」,「職場の意識改革」であった.「その他」の意見では,配偶者とその職場の意識改革も必要という意見が複数記載されていた.
Q15:ご自身がキャリアを積む上で,支援が欲しいと思ったことを選択ください(複数回答可).
仕事内容に関する性差を感じるかについては,「感じないことが多い」が34%と最も多いが,「感じることが多い」,「非常に多く感じる」を合わせると30%であった.支部別では,関東,近畿で「感じることが多い」,「非常に多く感じる」の回答が多く,34%であった.その他の支部では25%であり有意差を認めた(p=0.0002)(Table S3)(電子付録).
昇進に関する性差を感じるかについては,「どちらともいえない」が37%と最も多いが,「感じることが多い」,「非常に多く感じる」を合わせると27%であった.
女性内視鏡医が同僚として勤務する場合の支障については,「全く感じない」が39%と最も多く,「感じないことが多い」,「どちらともいえない」を含めると93%であり,支障を感じるとの回答は少数であった.
キャリア支援として学会が行うべき取り組み(Figure 10)については,教育講演会と学会のWeb形式の開催がそれぞれ75%,71%と多く,その他にライブセミナーのWeb形式開催が61%,復職支援プログラムが52%であった.子供の有無で分けても差はなかった.その他として,男性医師の意識改革に取り組むべきという意見が多く記載されていた.資格別では,一般会員は専門医,指導医よりも有意に臨床支援復帰プログラムを選択していた(p=0.0001)(Table S4)(電子付録).
Q19:女性のキャリア支援として当学会で行うべき取り組みと思うものを選択ください(複数回答可).
内視鏡のハンズオンセミナーについてはWeb形式の希望が80%であり,また各地域で行うことも37%が希望していた.資格別において一般会員と専門医は指導医と比較して有意にWeb形式の開催の検討を希望していた(p<0.0001)(Table S5)(電子付録).
4:キャリアサポート研修今回のアンケート回答では,105名(7%)がキャリアサポート研修を受講しており,うち65%が「出身医局・大学・所属病院関0000連」の研修を受講していた.研修期間は「1-2日間」が45%と最も多く,次いで「1カ月以上」が38%であった.
有用であった内視鏡練習機器は,「コロンモデル」が44%と最も多く,次に「胃モデル」が38%であった.一方,20%は「当てはまるものはない」と回答していた.
主に指導を受けた医師は,70%が内視鏡指導医,22%が専門医であり,92%が専門医以上の医師から指導を受けていた.
研修中の内視鏡検査経験数は,49例以下が50%で,100例以上が43%であった.これは前述の研修期間の回答で,「1-2日間」の短期研修と「1カ月以上」の長期研修が多かったことを反映した経験数と思われる.
治療内視鏡の研修は57%が受けることができていた.
研修後の専門医取得は,42%が取得しており,取得予定の21%と合わせると63%であった.
今回のアンケート回答時のキャリアサポート研修の希望については,回答があった377名中149名(40%)が希望していた.研修希望者の年齢分布では,30代以下と40代以上がそれぞれ半数であった.支部別では,四国は71%,東海は52%が希望しており,その他の支部と比較して有意に研修希望者が多かった(p=0.0041)(Table S6)(電子付録).
キャリアサポート研修において解決すべき問題点(Figure 11)は,「研修施設の増加」が44%と最も多く,次いで「研修施設の情報提供が足りない」が39%,「各地方での研修施設の整備」が36%,「研修施設の保育所・託児所整備」が34%であった.その他として,キャリアサポート研修を知らない,理解していないという意見が複数記載されていた.
Q30:消化器内視鏡のキャリアサポート研修において解決すべき問題点は何でしょうか(複数回答可).
出産・育休後の復帰にあたり解決すべき問題点(Figure 12)については,「子供の急病時にはいつでも休める環境」が70%と最も多く,次いで「病院保育・院内保育の整備」,「施設幹部・上司・同僚の理解」,「勤務体制整備」,「当直・オンコールの免除」の順であり,これらは60%以上が解決すべき問題点として回答していた.
Q31:出産・育休後の復職にあたり解決すべき問題点は何でしょうか(複数回答可).
将来に希望する勤務形態(Figure 13)では,「市中病院(常勤)」が35%と最も多く,次に「主に内視鏡検査(検診を含む)」が23%であった.その他の選択枝も含め,88%は内視鏡を含めた診療の継続を将来的に希望していた.
Q32:将来はどのような勤務形態を希望しますか.
資格別では,専門医は一般会員,指導医と比較して有意に診療所(開業)を多く選択していた(p=0.0001)(Table S7)(電子付録).支部別では,関東は「主に内視鏡検査(検診を含む)」が28%と最も多く,他の支部と比較して有意差を認めた(p=0.0002)(Table S8)(電子付録).
日本消化器内視鏡学会は2021年6月の時点で会員数34,839名であり,そのうち女性は5,448名,16%である.30代までの会員8,936名に限定すると,女性は2,244名,25%となり,若年層ほど女性の比率が高くなっている.
今回のWebアンケートでは,5,343名中1,494名(28%)から回答が得られた.これは2017年の当学会附置研究会で実施されたキャリアサポート研修に関するアンケート調査 5)での4,281名中169名(3.9%)と比較して約9倍の回答が得られた.この附置研究会でのアンケート調査の考察に,附置研究会からではなく学会名でアンケート調査を行うと回答率が高くなることが予想されていたが,今回その予想通りの回答数が得られた.これは過去に報告された医療系学会の女性会員に対するアンケート調査と比較しても最大規模の回答数であった 6)~9).
今回のアンケートに回答した女性会員について,年代,所属支部の分布については,女性会員全体と比較して偏りはなかった.しかしながら専門医,指導医の資格取得者については,アンケート回答者はそれぞれ65%(972名),14%(212名)であったが,女性会員全体(5,448名)ではそれぞれ50%(2,713名),9%(476名)であり,有意差を認めた(p<0.05).そのため今回のアンケート結果は,キャリアを形成してきた女性会員からの意見が多く反映されたと思われる.
勤務状況については,過半数以上の回答を取り上げると,施設では54%が市中病院,週労働時間は58%が40時間以下,当直とオンコールはそれぞれ60%,66%がなしであった.また子供の有無については65%がありで,そのうち45%が就学前であった.さらに出産後の勤務形態の変化を83%に認めており,育児の主たる担い手は96%が「自分自身」であることから,出産・育児により上記のような勤務形態に変化した女性内視鏡医が過半数以上であることが推測される.
勤務先の育児支援体制については,29%が「なし」であったが,「時短勤務制度」と「当直・オンコール等の免除」は,それぞれ約40%に「あり」のため,上記の勤務状況に反映されているものと思われる.
また勤務先の育児支援体制として「託児所」があるのは約40%であったが,病児保育支援体制が「ある」のは26%に留まっていた.病児保育に関して,2017年に日本医師会の女性医師支援センターが病院勤務女性医師を対象としたアンケート調査においても,「子育てに関して必要と思う支援」として65.1%が「病児保育」を選択しており,最も多かった 10).そのアンケート調査において,「子供の緊急時の対応」については「親・親族」が29.2%,「本人と親・親族」が13.5%,「本人のみが対応」10.1%の順で多く,「家族以外が対応」は8.6%のみであった.しかしながら,前述の女性医師支援センターが2019年に大学医学部を対象としたアンケート調査では,58の大学からの回答で,院内に医師が利用できる病児保育について,69%があるとの回答であり,2014年の同様のアンケート時には48.1%であったことから,今後は病児保育の問題についても改善されることを期待したい 11).
次に,資格・キャリア形成に関しては,アンケート回答者の65%が学会専門医を取得し,さらに取得時の卒後年数は80%以上が10年以内であった.これは前述した今回のアンケート回答者は女性会員全体と比較して専門医,指導医取得が有意に高いことから,資格・キャリア形成に積極的な会員が多かったことが反映されているものと推測される.
キャリア形成の障害としては「出産・育児」,「自分の体調,体力」,「自分の能力」,「子供の教育」が,またキャリアを積む上で欲しい支援は,「主治医制ではなくチーム制の導入」,「緊急時の代替要員の確保」,「病児保育の充実」,「職場の意識改革」が多く選択されていた.これは今回のアンケート作成の参考にした2019年の日本大腸肛門病学会の女性医師アンケート 7)と同様の結果であった.また2017年の日本医師会,女性医師支援センターのアンケート 10)においても,仕事を続ける上で必要と思う支援として,「宿直・日直の免除」,「主治医制の見直し」,「フレックス制度導入」,「病児保育」,「保育施設」が多く選択されていた.本アンケートでのキャリア形成の障害とキャリアを積む上での欲しい支援は,女性内視鏡医に限らず多くの女性医師に共通する内容である.しかしながら,年代別,資格別での検討で,20-30代,一般会員では「出産・育児」が,40代,専門医では「子供の教育」が有意にキャリア形成の障害であるため,女性内視鏡医が専門医,指導医へとキャリア形成していくために,本学会として支援策が必要であり,さらに会員数の多い支部ほど,その支援の必要性が高いものと思われる.
キャリア形成におけるその他の障害として,親の介護や不妊治療が複数記載されていた.今回のアンケートではそのような点については想定していなかったため,今後の重要な課題である.
仕事内容と昇進についての性差については,感じるとの回答はそれぞれ約30%であった.仕事内容の性差を感じることについては,支部別では,関東,近畿で他の支部よりも有意に多かったが,これに関しては様々な要因が関与しているため,ここでは結果の提示に留める.また女性内視鏡医が同僚として勤務する場合の支障については,感じるとの回答は7%と少なかった.
キャリア支援として学会が行うべき取り組みとしては,教育講演会や学会,さらにライブセミナーやハンズオンセミナーのWeb形式の開催が多く選択されていた.Web形式のハンズオンセミナーについては,今後,具体的な方法の検討が必要であるが,ハンズオンセミナーのWeb中継や,地方の小規模施設でのハンズオンを遠方のhigh volume center所属のエキスパートがOnlineで指導することなども考えられる.
2020年4月のコロナ禍による緊急事態宣言に伴い,様々な学会やセミナーがWeb形式で行われたことで,そのノウハウが蓄積されてきており,アフターコロナにおいても女性会員に限らず,必要なキャリア支援と思われる.特に内視鏡の静止画や動画は学会会場よりもWeb形式で自分のコンピューター画面で閲覧するほうが理解しやすいことも多く経験される.
また復職支援プログラムも52%が行うべき取り組みとして選択されており,特に一般会員の希望として有意に多かった.今回のアンケートで過去にキャリアサポート研修を受講していたのは105名(7%)に留まっており,本学会として早急な対策が必要である.
研修期間は「1-2日間」と「1カ月以上」に分かれていたが,研修後の専門医取得については,取得と取得予定を合わせると63%であった.前述した女性会員全体の専門医取得率は50%であるため,今後さらなる女性会員の専門医取得率を上昇させるためには必要な研修である.また今回のアンケートでも149名がキャリアサポート研修を希望しており,その需要も多く,特に支部別では四国,東海で研修希望者が有意に多かった.
しかしながら,キャリアサポート研修において解決すべき問題点として,研修施設が少ないこと,研修施設の情報提供が足らないこと,研修施設の保育・託児施設の整備が回答されていた.キャリアサポート研修の情報提供に関して最近では多数の学会がホームページにて女性医師支援や男女共同参画について情報提供を行っている.しかしながら,女性医師支援センターの2019年のアンケート調査では,88学会のうち,ホームページでの情報提供は21学会のみが行っており,消化器系学会では日本消化器病学会と日本肝臓学会のみであった 12).今後,本学会としてもホームページでの情報提供について検討すべきである.
出産・育休後の復帰にあたり解決すべき問題点については,60%以上の女性会員が「子供の急病時にはいつでも休める環境」,「病院保育・院内保育の整備」,「施設幹部・上司・同僚の理解」,「勤務体制整備」,「当直・オンコールの免除」を選択していた.これはキャリアを積む上で欲しい支援(Figure 9)とほぼ同様の内容であり,出産・育休後の復帰に関する問題点を改善することが,そのままキャリア支援につながるものと思われる.
将来に希望する勤務形態では,資格別,支部別で一部に有意差は認めたが,市中病院の常勤の希望が最も多かった.また全体の88%は内視鏡を含めた診療の継続を希望していた.2019年のがん統計において女性のがん死亡数1位は大腸がんであり,その死亡率減少には大腸がん検診としての便潜血検査と陽性者に対する大腸内視鏡検査による早期診断が必要である.その大腸内視鏡検査において,女性患者は女性内視鏡医を希望することも多いため 13),14),女性内視鏡医の育成は引き続き重要な課題である.
今回,日本消化器内視鏡学会の「女性内視鏡医キャリアサポート委員会」の活動として,女性内視鏡医に対するアンケート調査を行った.多数の回答をいただき,女性内視鏡医のキャリア形成における現状と課題が明らかになった.今後,女性医師は確実に増加し,それに伴って学会員の女性比率もさらなる上昇が見込まれる.将来にわたって質の高い内視鏡診療を提供していくためには,女性内視鏡医のキャリア支援は必須の課題であり,男性医師の意識改革も含めた男女共同参画の事業として学会全体で取り組むことが必要である.
謝 辞
今回のアンケート調査におきまして,Webでのアンケートフォームの作成,アンケート結果の集計など,多大なる貢献をしていただきました日本消化器内視鏡学会事務局の滝沢玲奈氏,丹羽優子氏と,アンケートに回答いただきました多数の女性内視鏡医各位に,この場を借りて心より感謝申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
補足資料
Table S1 Q14のキャリア形成の障害における「出産・育児」の回答数.
Table S2 Q14のキャリア形成の障害における「子供の教育」の回答数.
Table S3 Q16の仕事上で性差を感じる支部別の回答数.
Table S4 Q19の臨床支援復帰プログラムの回答数.
Table S5 Q20でのWeb形式の開催の検討を希望した回答数.
Table S6 Q29のキャリア支援プログラムを希望する回答数.
Table S7 Q32の「診療所(開業)」の資格別回答数.
Table S8 Q32の「主に内視鏡検査(検診)」の支部別回答数.