GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ROLE OF ENDOSCOPY IN DIAGNOSIS AND TREATMENT OF FUNCTIONAL DYSPEPSIA
Seiji FUTAGAMI Shuhei AGAWANobue UEKI
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2023 Volume 65 Issue 4 Pages 325-334

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要旨

機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)に対するガイドラインが2021年に上梓され,FDに対する理解が深まってきたと同時に難治性FD患者が臨床上問題となっている.難治性FD患者の中には,超音波内視鏡検査によって,早期慢性膵炎などの膵疾患が包含されていることが指摘されており,鑑別診断に準じた治療によって,臨床症状が改善することが報告されている.難治性FD患者においても十二指腸粘膜における炎症細胞浸潤が指摘されており,FDの動物実験モデルにおいても,十二指腸粘膜の炎症が指摘されている.FD患者においては,膵機能低下症例も少数ながら報告されており,膵酵素異常を伴うFD患者のうち,早期慢性膵炎へと進展する少数例があることを勘案すると一部の難治性FD患者においてはElastographyを用いた膵線維化の評価も今後必要と思われる.今後,難治性FD患者においては,超音波内視鏡やElastographyによる複合的な評価が重要であると思われる.現在われわれは,こうしたことに加え,特殊光を用いたFD患者の十二指腸粘膜の画像解析を進めている.

Abstract

The Japanese Society of Gastroenterology published up-dated clinical guidelines for functional dyspepsia (FD) in 2021. Management of patients with refractory FD to treatment is challenging. Patients with refractory FD include those with early chronic pancreatitis (ECP) using endosonography. Notably, prompt treatment of chronic pancreatitis can reduce epigastric pain in patients with ECP; therefore, accurate diagnosis of ECP using endosonography is important. Experimental animal models of FD have shown that duodenal inflammation was an important contributor to the pathophysiology of FD. Reportedly, some patients with FD show pancreatic enzyme abnormalities, which progress to ECP; therefore, evaluation using elastography and endosonography may be important for diagnosis of exocrine pancreatic dysfunction. Additionally, we are doing image analysis used image enhanced endoscopy to observe the appearance of the duodenal mucosa in patients with FD.

Ⅰ はじめに

H. pylori除菌療法の定着と若年世代のH. pylori感染率の低下により,ここ十数年の間にH. pylori感染患者は激減し,同時に脂肪摂取量の増加,塩分摂取量の減少といった食習慣の変化により機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)患者をはじめとする消化管機能障害患者(Functional Gastrointestinal Disorders:FGIDs)が増加する傾向にある.こうした患者数増加の背景には,社会構造の複雑さや将来を予測することが困難なストレス社会も影響していると思われる.このように,FD患者が増加する環境の中で,FD患者に対する診療体系の指針造りのため,日本独自のFD患者に対する診断・治療に対するガイドライン作定がなされた 1.FDの診断基準に密接に影響を及ぼす食事内容や食習慣は,国や民族によって異なり,日本独自のガイドライン作成を行う必要があったことに加えて,Rome分類 2が日本のFD診療にあてはめる上で,やや煩雑ではないかといった指摘もあった.こうした中,機能性ディスペプシア診療ガイドライン委員会が立ち上げられ,2014年春にFD診療ガイドラインが作定された 1.またほぼ同時期に,FD患者診療の保険適用薬である,acotiamideが上梓され 3,ようやくFD患者に対する保険診療を行う環境が整った.こうしてFD診療における大きな一歩が踏み出された.その後,FD診療に対する理解も深まり,臨床上における大きな問題点は,酸分泌抑制剤に加えacotiamideなどの消化管運動改善薬,六君子湯などの漢方薬によっても症状の改善の得られない,治療抵抗性FD,即ち難治性FDに対する病態解明や治療が課題となっている.われわれは,この難治性FD患者の中に膵酵素異常・膵機能異常を伴うFD患者および早期慢性膵炎患者が認められることを超音波内視鏡を用いて明らかにしてきた.この難治性FD患者の中には膵機能が著しく低下している患者も認められ,超音波内視鏡によるエラストグラフィーによって膵臓の繊維化などを評価することも今後重要であると考えている.

Ⅱ 機能性ディスペプシア(FD)の概念と病態

FDは上腹部症状を主体とするFGIDsに属する疾患である.FDは,上部消化管内視鏡検査などで器質的な疾患を認めないものの,胃痛・胃もたれ・早期飽満感・心窩部灼熱感を訴える患者群を指す.先進国において増加しているとされており,2014年にわが国においてもFD診療ガイドラインが作定された 1

一方で,国際分類であるRomeⅣ分類では,最初の症状が約半年前に始まり,症状が3カ月以上の病悩期間を有し症状が一定の頻度で続くと定義されている.またRomeⅣでは,FD症状が患者本人にとって“つらいと感じる”心窩部痛,心窩部灼熱感,食後もたれ感,早期飽満感症状である必要があると定義されている.また,FDは症状により2つのサブタイプに分類されている.食後早期飽満感を来す食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)と心窩部痛を呈する心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)の2つである.FDの治療はガイドラインに記載されているように,1次治療として,酸分泌抑制剤もしくは消化管運動機能改善薬が挙げられ,2次治療としては漢方薬や抗うつ剤などが推奨されており,“dream study”で有用性が報告された漢方薬の六君子湯 4やMiwaらによって抗うつ剤 5のそれぞれ有効性が報告されている.

Ⅲ 難治性FDの病態生理

Jiangらは,治療抵抗性FD患者の病態は通常のFD患者に比較して,長い病悩期間とより深刻なFD症状を伴っていると報告している 6),7.さらに,難治性FDの病態としては,通常のFD患者よりもうつ傾向や不安症状がより強いことに加え,食習慣の乱れと身体活動性の低下,クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の低下と睡眠障害の程度も通常のFD患者より深刻であると報告している 6.Jiangらは治療抵抗性FD患者では,食事内容をskipしたり,不規則に摂取したりする食習慣のバランスの悪さが治療抵抗性FD患者の病態と関与していると報告されている 7.実際に従来よりFD患者では,食事をskipしたり,早食いをするなどの食習慣の異常やカプサイシンやspicy foodの摂取によりFD症状が増悪することも報告があり 8)~10,加えて,高脂肪食の負荷によって,健常者に比べて,吐き気・腹痛がFD患者で有意に出現しやすいということもすでに報告されている 11.今後は,治療抵抗性FD患者特有の食習慣や食事内容に対する症状発現があるのか,また通常のFD患者と異なった独自の病態を持っているのかさらに検討を進める必要がある.

Ⅳ FDの責任臓器としての十二指腸

日本のFD患者は欧米に比較してPDS患者が多いとされており,ディスペプシア症状を訴える患者の80%近くが食事摂取によって症状が増悪するとされている.おそらくは,ここにFD患者の病態の本質があるものと推定される.まずは,食直後の胃病態生理について考えてみたい.食物が食道を通過して胃内に到達した後は,食物の大部分は約15分間ほど胃穹窿部に蓄えられる.この機能を胃のリザーバ機能と呼んでおり,食事内容を胃内に一度貯留することで,十二指腸内に高カロリーの内容物が一気に流入しないような生体防御機構が働いているものと考えられている.FD患者では胃の貯留能が不十分なために十二指腸内に早期に食事内容が過剰に流入することで,FD症状が出現するとも考えられている.従って,この食事開始後の比較的早期の消化管運動能や消化管運動能を制御するgut hormone分泌に関わっている十二指腸粘膜がFDの病態形成に重要な役割を演じていることは,極く当然のことと考えられる 12.早期の胃排出能の障害が,FD患者の病態にとって,胃排出遅延と同様に重要であるとする報告がある 13),14.われわれも13C-acetate 呼気試験法を用いた検討では,液体試験食を摂取後,5分,10分,15分後における胃排出能をAUC5値,AUC10値,AUC15値で評価することができることを示し,FD患者においては健常者に比較して有意にAUC5値,AUC10値,AUC15値がそれぞれ障害されていることを報告してきた.今後この早期胃排出能制御の詳細な検討が極めて重要であると思われる.加えて,FD患者における十二指腸粘膜の粘膜環境の重要性が報告されたのは,感染後FD患者の十二指腸粘膜に好酸球やマクロファージなどの免疫担当細胞の有意な遊走が認められたことに始まる 15)~17.感染後FDとは,急性胃腸炎などの消化管感染症を契機として症状が発症し,感染症が改善した後もFD症状が持続する病態である.感染後FD患者の十二指腸粘膜の炎症細胞は報告によってeosinophil,mast cell,macrophage,CCK産生EC cellの増加などの様々な報告がある 15)~19.このように,様々な病原体が,感染後FDおよび感染後IBSを誘発する可能性があると考えられている.その病原体の種類および消化管粘膜のどの部位に定着するかによって臨床症状や粘膜炎症にもバリエーションがあるとされている.例えば,Noro virusは上部小腸に定着し 20),21Giardia. lambliaの定着部位と炎症の場は十二指腸や上部小腸であり 21Salmonella spp.Campylobacter jejuniは終末回腸から大腸に定着し炎症を惹起することが知られている 22.また一方で,腸管の炎症によって,消化管運動能に影響を及ぼすことは報告されているが,炎症の波及していない遠位の腸管の運動機能異常をも来すことも知られている 23)~27.さらに,十二指腸粘膜の透過性の亢進がFD患者に認められることが報告されるなど 28,FD患者の十二指腸粘膜に対する研究が進んでいる.しかしながら,感染消退後も十二指腸粘膜の炎症が持続するという根本的な理由はよく分かっていない.いずれにせよ,FDの病態に重要な十二指腸粘膜環境の詳細な検討が待たれる.ところで何ゆえに十二指腸粘膜が重要な役割を果たすことになるのであろうか.われわれは,ストレスホルモンであるウロコルチン2を,予めLPSを腹腔内に投与し数日おいたラットの脳槽内に投与した.われわれは,ラットの胃・空腸・回腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸を取りだし,各部位の粘膜固有層内もしくは,筋層内における炎症細胞浸潤を比較検討した(Figure 1 29.炎症細胞浸潤は,CD68陽性細胞数を評価した.Figure 1にあるように,LPS単独群,LPS+ウロコルチン2投与群,LPS+acotiamide投与群,LPS+ウロコルチン2+acotiamide投与群の4群で比較検討を行い,回腸および空腸においては,LPS+ウロコルチン2投与群においては有意に粘膜内のCD68陽性細胞浸潤は増悪し,LPS+ウロコルチン2+acotiamide投与群においてはその増悪は有意に改善された 29.大変驚くべきことに,この事実はラット胃粘膜においては認められず,特に回腸などの上部小腸において見出された 29

Figure 1 

LPS投与urocortin 2脳槽内投与ラットにおける消化管粘膜内炎症細胞浸潤の検討.

これらの動物実験の結果を単純に臨床にあてはめてることはできないかもしれないが,FD患者がストレスを受けることで,脳内のストレスホルモンが分泌され,その結果自律神経を介して誘導される消化管内炎症細胞浸潤は,上部小腸を中心とした十二指腸粘膜が主たる場であると思われる.

Ⅴ FDと早期慢性膵炎

最近われわれは,プロトンポンプインヒビターやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(ボノプラザン)の内服によっても,あるいはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるacotiamideや六君子湯投与によっても改善しない,いわゆる難治性心窩部痛症候群の中に,早期慢性膵炎などの膵疾患が含まれていることを報告してきた(Figure 1).われわれの検討では,難治性FD患者に対して腹部CT検査および腹部超音波検査などで異常ないものの,膵酵素異常を伴う41名の患者群に対して超音波内視鏡検査を行うと,16名の患者が早期慢性膵炎群であることが分かった(Figure 2 30.2021年に発刊された慢性膵炎ガイドラインにおける早期慢性膵炎の定義は,1)反復する上腹部痛または背部痛,2)血中もしくは尿中の膵酵素異常,3)アルコール摂取量が60g/日以上の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常,4)膵外分泌機能障害,5)急性膵炎の既往の5つの臨床所見のうち,3項目以上を満たし,超音波内視鏡所見4つ(1.点状または索状高エコー,2.分葉エコー,3.主膵管境界高エコー,4.分枝膵管拡張)のうち,1.または2.を含む2項目以上認める,もしくは内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)で3本以上の分枝膵管に不規則な拡張を認める場合に,早期慢性膵炎と診断する.われわれのこれまでの報告では,臨床症状からは早期慢性膵炎群と膵酵素異常を伴うFD患者群を鑑別することは難しく,消化器症状のスケールであるGSRS,うつ傾向のスケールであるSRQ-D(Self-Rating Questionnaire Dpression),不眠のスケールであるPSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index),など,いずれにおいても両群間には差はなかった 31.即ち,私たちの日常診療で数多く診察されている難治性FD患者の中には,ある一定の頻度で早期慢性膵炎をはじめとする膵疾患が隠れており,臨床症状が酷似しているため,これまではっきりと鑑別されてこなかったと言える.

Figure 2 

難治性FD患者における超音波内視鏡を用いた早期慢性膵炎の除外診断の有用性(文献30より改変).

Ⅵ 超音波内視鏡を用いた難治性心窩部痛症候群の診療

われわれの研究結果から超音波内視鏡を用いることで,難治性FD患者と診断されていた患者群の中に膵疾患が混在していることが分かってきたことは上述した通りである(Figure 2).但し通常観察の上部消化管内視鏡検査で異常がなく,腹部CTでも異常所見を認めないもののディスペプシア症状を伴い,膵酵素異常のある患者をすべて,膵酵素値異常を伴う難治性FDとすることには議論がある.つまり,通常内視鏡検査では異常がなく,腹部CTでも異常所見がなくとも,超音波内視鏡検査で僅かな異常が認められれば(Figure 3),器質的異常があるということになり,機能性疾患の定義から外れるのではないかとする指摘である.しかし,超音波内視鏡で僅かな所見があるからと言って,すぐに器質的異常があると指摘するのも,正しいとは言えない.なぜならば,健常人においても超音波内視鏡検査でスコアが陽性である場合も少なからずあることもまた事実であるからである.ただ,重要な問題は膵疾患を除外するために,すべての難治性心窩部痛患者に対して,超音波内視鏡検査を行うことは,現実的ではないということである.

Figure 3 

早期慢性膵炎および膵酵素異常を伴うFD患者の超音波内視鏡所見.

われわれは,難治性FD患者に対しては,積極的に血中trypsinを測定し,膵酵素異常を伴う難治性FD患者と考えられる症例に対しては,積極的に超音波内視鏡検査(EUS)を施行している.われわれの検討では,血中trypsin測定が膵酵素異常を伴う難治性FD患者を診断するには最も感度が高く有用である.われわれの印象では,難治性FD患者のかなりの部分は膵酵素異常を伴うFD患者であり,それ以外ではpsychogenic factorを病因としているものが多いのではないかと推測している.

われわれが,積極的に膵酵素異常を伴う心窩部痛患者に対して,積極的に超音波内視鏡検査を推奨するには理由がある.われわれは,難治性FDとして長い間外来でフォローされていた患者に対してtrypsinを含む5種類の膵酵素を測定し,膵酵素異常を伴うFD群からさらに,超音波内視鏡を施行して見出した,早期慢性膵炎の患者に対して,慢性膵炎の治療を行った群と,acotiamide+PPI製剤を用いた,FDの1次治療を行った群を比較検討すると,慢性膵炎治療を行った群の方が,心窩部痛が有意に改善された(Figure 4 31.一方で,これらの早期慢性膵炎患者をそのままFD群として治療を行うと,臨床症状は増悪するのである.このことは,超音波内視鏡を用い,難治性FDと考えられた患者群の中で早期慢性膵炎の診断をつけ,慢性膵炎に対する治療を行うことで,症状が軽快する患者群が確かに認められることを示唆しており,難治性FD患者群において,膵酵素異常がみられれば,積極的に超音波内視鏡を用いた診療を行う臨床的意義は大きいと考えられる.

Figure 4 

早期慢性膵炎患者および膵酵素異常を伴うFD患者に対するクロスオーバー試験(文献31).

ECP:Early chronic pancreatitis,FD-P:FD patients with pancreatic enzyme abnormalities,

AR:acotiamide+rabeprazole,CPR:camostat mesilate+pancrelipase+rabeprazole

Ⅶ 難治性FD患者や早期慢性膵炎の膵機能の評価

われわれは,膵酵素異常を伴うFD患者や早期慢性膵炎患者における膵外分泌機能を評価した.驚くべきことに,明確な消化器不良症状を呈しないものの,著しく膵外分泌機能が低下している症例があることが認められた.われわれはBT-PABA試験を用いて検討したところ,膵酵素異常を呈するFD患者の実に70%近くの患者の膵外分泌機能が障害されており,BT-PABA試験の平均値は61.67±5.55%であることを報告した(Figure 5 32.膵外分泌機能検査方法としては,現在手軽に行える検査はない.膵外分泌機能や膵臓の繊維化を評価するには,超音波内視鏡検査により得られる慢性膵炎のスコア,Elastographyによるelastic score,そしてBT-PABA試験による膵外分泌機能検査が有用である.現在,超音波内視鏡によるElastography(EUS Elastography)が注目されている.Elastographyは2003年に日立メディコにより製品化され,組織の硬さを映像化する技術として当初は乳腺や甲状腺領域に用いられていた.その後徐々に他分野でも用いられており,EUS Elastographyとして肝胆膵領域に用いられてきている 33.組織硬度を256段階に映像化し,硬~軟を青,緑赤で表現するもので,膵腫瘤に対してはGiovanniniが5型に分類するElastic scoreを提唱し,良悪性の鑑別に有用とされている(Figure 6 34.これは高い感度と特異度であることが数々の報告で裏付けられており,より低侵襲な診断によりEUS-FNAで穿刺困難な症例や適切な検体が採取できなかった際に,再検や外科的切除を推奨する根拠となることが期待される.そして慢性膵炎においても点状高エコーや分葉エコーといった炎症所見が多いほどElastography でElastic scoreのscore5に近い像になると報告されており,炎症の進展により癌化リスクが増加することを客観的に示す所見と考えられ,これまでの報告を裏付けるものであった 35

Figure 5 

膵酵素異常を伴うFD患者および膵酵素異常を伴う無症候性患者の膵外分泌機能の比較(文献32より改変).

FD-P:Functional dyspepsia with pancreatic enzyme abnormalities

AP-P:Asymptomatic patients with pancreatic enzyme abnormalities

*vs AP-P,p<0.05

Figure 6 

Elastographyによる膵酵素異常を伴うFDおよび膵腫瘍の所見.

Ⅷ 特殊光を用いた難治性FD患者の評価

われわれは,膵酵素異常を伴うFD患者の十二指腸に,内臓知覚過敏に関与するPAR2の発現が,十二指腸粘膜上皮細胞に加えて,好酸球表面にも発現していることを見出した.十二指腸内腔に分泌されたtrypsinが十二指腸内腔から上皮細胞に発現しているPAR2の活性化を通じて,十二指腸粘膜の炎症を誘導している可能性が考えれる.そこで,最近われわれは多施設共同研究を通じて,FD患者の十二指腸粘膜に対する特殊光を用いてFDの診断に役立てられないか検証を続けている(Figure 7).

Figure 7 

FD患者の十二指腸粘膜に対する特殊光.

Ⅸ 今後の課題

今後の課題として挙げられるのは,まず第一に①難治性FD患者における膵機能低下症例の疫学調査と病態の解明であろう.われわれは,日本とシンガポールにおける多施設共同研究を行い,膵酵素異常を呈するFD患者がシンガポールにおいても日本においても存在し,日本からのデーターでは,高脂肪食を摂取することで,心窩部痛が増悪する特徴があることを報告した(Figure 8 36.加えて,われわれは難治性FD患者における膵酵素異常を伴うFD患者において膵機能低下を認めることを報告してきたが,今後は横断的研究による疫学調査によるデーターの蓄積が必要と考える.次いで②超音波内視鏡による画像と膵外分泌機能低下との乖離がみられる症例の病態解析であろう.具体的には,FD症状が強く,超音波内視鏡所見ではscore1でしかないにしても,BT-PABA testでは膵外分泌機能が30%程度しかない患者さんも見受けられる.しかしながら,膵外分泌機能が荒廃していることは,膵癌リスクの1つでもあり,膵臓の繊維化がどの程度進んでいるのかを相対的に評価することが重要となってくる.そして,③膵酵素異常を伴うFD患者から早期慢性膵炎へと進展するリスクファクターの解析であろう.

Figure 8 

多施設共同研究によるFD患者および膵酵素異常を伴うFD患者の高脂肪食摂取時の消化器症状の比較(文献36).

*vs FD 患者,p<0.05.FD:Functional dyspepsia, FD-P: Functional dyspepsia with pancreatic enzyme abnormalities

Masamuneらの多施設共同研究によれば,早期慢性膵炎患者の2年間の経過観察では,超音波内視鏡所見が進行する患者は少数であり,進行する患者の多くは,アルコール性であることが分かってきている(Table 1 37.但し,われわれの外来患者の多くは非アルコール性の難治性心窩部痛患者であり,これらの非アルコール性早期慢性膵炎患者の病態解明が待たれる.

Table 1 

早期慢性膵炎患者における慢性膵炎進展例の解析(正宗ら,文献37).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:二神生爾(ヴィアトリス製薬,ゼリア新薬工業,武田薬品工業)

文 献
 
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