2023 Volume 65 Issue 4 Pages 344-352
症例は78歳,女性.約10年前に胃癌に対してRoux-en-Y法再建による胃全摘術を施行されていた.緩徐発症の右下腹部痛および嘔吐を主訴に当院を救急受診した.腹部造影CTにてRoux-en-Y吻合部近傍に逆行性腸重積を認めた.腸管の虚血性変化がないことから内視鏡的整復を試みたが,自然整復後であったため症状の軽快とともに退院とした.約1カ月後に同様の経過で再度受診し,逆行性腸重積の再発を認めていた.EGDにてY脚吻合部に腸重積の先進部を認め,狭窄部を内視鏡で複数回通過させることで内視鏡的整復に成功した.Roux-en-Y法再建後のY脚吻合部に関連する逆行性腸重積を内視鏡的に整復しえた例は稀であり報告する.
A 78-year-old woman presented with vomiting and worsening abdominal pain in the right lower quadrant. Approximately 10 years earlier, she had undergone total gastrectomy with Roux-en-Y reconstruction for advanced gastric cancer. An abdominal contrast-enhanced CT scan detected a retrograde intussusception near the portion of Roux-en-Y anastomosis. Since there were few clinical findings suggestive of intestinal ischemia, we attempted an endoscopic reduction. However, on conducting the EGD, the intussusception was found to have spontaneously reduced. In the following days, the patient recovered from the abdominal pain and vomiting, and was subsequently discharged from the hospital.
Approximately one month later, she presented to our emergency room with the same symptoms as before. Physical exams and CT scan suggested that her symptoms were caused by a recurrence of the intussusception. Upon conducting an urgent EGD, the frontier of the intussusception was observed near the portion of the Y anastomosis. We successfully reduced the intussusception by passing the scope through the lumen of the frontier carefully and repeatedly, thus, avoiding an emergency surgery.
Jejunojejunal intussusception at the Y anastomosis site is a rare form of post-operative intussusception. To date, only a few cases of its successful management with the endoscopic approach have been reported.
胃切除後の腸重積症の発生頻度は0.07~2.1%と比較的稀とされる 1).胃切除術後腸重積の治療としては,ほとんどが手術を選択されており 2),3),腸管壊死を伴う場合は腸管切除を必要とする 4),5).今回,画像所見にてRoux-en-Y脚吻合部(以降,Y脚吻合部)での逆行性腸重積の診断に至り,内視鏡的整復により保存的に加療しえた1例を経験したため報告する.
患者:78歳,女性.
主訴:腹痛,嘔吐.
既往歴:胃癌(11年前に胃全摘術Roux-en-Y法再建),脊柱管狭窄症,白内障.
内服歴:トラマドール50mg/日,プレガバリン50mg/日,メコバラミン1.5mg/日,エルデカルシトール0.75μg/日.
現病歴:来院3日前より緩徐に増悪する間欠的な右下腹部痛および嘔吐を認めたため,2020年2月に当院を救急受診した.
初診時現症:意識は清明.体温36.5度,血圧125/75mmHg,脈拍76回/分・整,呼吸数16回/ 分.腹部正中に圧痛所見があるが,腹膜刺激症状は認めなかった.上腹部正中に剣状突起下から臍へ縦走する手術瘢痕を認めた.
初診時検査所見:白血球数10,800/μL,好中球数8,540/μL,C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)0.06mg/dLの炎症反応を認めた.筋逸脱酵素上昇は認めなかった(Table 1).

血液検査所見.
初診時腹部造影CT検査:Y脚吻合部の輸出脚に,口側腸管方向へ嵌入するtarget状の層構造を呈していた.同部位より口側の腸管に拡張を認めた.腸管壁は造影効果が保たれていた(Figure 1).

初診時腹部造影CT(平衡相).
骨盤内小腸に腸重積を認め,Y脚吻合部(*)方向に嵌入している.
high density areaとlow density areaが交互に繰り返す層状の腫瘤影を呈する.
入院後経過:上記から逆行性腸重積による腸閉塞が示唆された.腸管の明らかな虚血性変化は指摘されなかった.輸入脚の拡張は比較的軽度であり,血清アミラーゼ値上昇を伴わず,輸入脚症候群を示唆する所見はみられなかった.重積腸管の先進部はY脚吻合部付近にあることから,下部消化管用の内視鏡(OLYMPUS PCF-H290I)を用いて到達可能と判断し,腸管の評価目的に来院約4時間時点で緊急上部消化管内視鏡(EGD)を施行した.EGDではY脚吻合部以遠に全周性の粘膜浮腫を認めるのみで重積腸管は認めず,自然整復後と考えられた.以降,症状の軽快を認めており,第5病日に退院した.
退院約1カ月後の2020年3月に腹痛および嘔吐の再燃を認めたため再度当院を救急受診した.再診時の血液検査所見では,軽度の炎症反応を認めるが,LDHや筋逸脱酵素の上昇は認めなかった(Table 1).腹部造影CT検査では,初診時と同様に,Y脚吻合部の輸出脚に口側腸管方向へ嵌入するtarget状の層構造を呈しており,同部位より口側の腸管に拡張を認めた.腸管壁の造影効果は保たれ,腸管気腫や腹水貯留は認めなかった(Figure 2).輸入脚症候群を示唆する所見はみられなかった.逆行性腸重積による腸閉塞の再燃と診断し(Figure 3),腸管の虚血性変化がないことを確認し,来院約5時間時点で,下部消化管用の内視鏡(OLYMPUS PCF-H290I)を用いて緊急EGDを施行した.

再診時腹部造影CT(平衡相).
骨盤内小腸に腸重積を認め,左下腹部のY脚吻合部(*)方向に嵌入している.
重積腸管の造影効果は保たれている.

模式図.
左:過去の胃全摘術Roux-en-Y再建後の再建様式を示す.輸入脚長は20cm.
右:輸出脚腸管がY脚吻合部方向に向かって逆蠕動性に重積している.
EGDにてY脚吻合部の輸出脚に粘膜浮腫を伴う狭窄を認めた(Figure 4-a).内視鏡造影では,狭小した内腔とその近傍にカニ爪状のair gramを認めた.Y脚吻合部への輸出脚の逆行性腸重積が示唆された(Figure 4-c).X線透視下で輸出脚の腸管軸を確認しながら狭窄部を内視鏡で愛護的に複数回通過させることで重積腸管の整復を施行した.内腔に器質的狭窄がないことを確認して処置を終了した(Figure 4-b,d).

再診時EGD所見・内視鏡造影所見.
a:Y脚吻合部近傍の輸出脚.逆行性に嵌入する重積先進部分を認める.
b:内視鏡的整復後の内視鏡像.
c:内視鏡的整復前の内視鏡造影.Y脚吻合部の輸出脚に狭小した内腔(*)とその近傍にカニ爪状のair gram(↑)を認める.
d:内視鏡的整復後の内視鏡造影.粘膜の浮腫性変化による狭窄様の所見が残存している.
第3病日にEGDを再検した.軽度の全周性の腸管浮腫を残し,重積は解除されていた.重積先進部となりうる器質的変化は認めなかった(Figure 5).浮腫性変化を伴う粘膜の生検では,特異的な組織学的所見を認めなかった.以降,症状は軽快しており,第10病日に退院した.

内視鏡的整復3日後のEGD.
軽度の全周性の腸管浮腫を残し,重積は解除されている.重積の先進部となりうる器質的な変化はみられなかった.
胃切除後の腸重積症は0.07~2.1%の頻度で発生する比較的稀な術後合併症とされる 1).2000年以前はBillrothⅡ法再建後の腸重積症の報告が多く認められていたが,以降はRoux-en-Y法再建後の症例の報告が多く,術式の変遷の影響と考えられている 6).海外では肥満手術としてのRoux-en-Y法胃バイパス術が増加しており,それによりY脚吻合部における術後腸重積症の報告も増加している 7),8).
胃切除後の腸重積は逆行性が多く,発症原因については輸入脚過長,吻合口過大,腸管狭窄・拡張,術後癒着といった機械的因子と,蠕動異常,腸管痙攣,自律神経異常,異所性ペースメーカーの存在などの機能的因子が推測されている 9)~12).胃全摘術後のY脚吻合部での腸重積15例の検討 13)では,重積先進部に腫瘍などの塊や,イレウス管や腸瘻チューブなどの留置物を伴う症例では順行性腸重積が多く,それ以外の症例では逆行性腸重積が多いと報告されている.胃切除後のRoux-en-Y法再建において小腸切離により十二指腸とRoux-en-Y脚の筋神経系の連続性が消失し,異所性ペースメーカーがRoux-en-Y脚に出現することで逆蠕動を生じ,逆行性腸重積の原因となりうると報告されている 14).本症例では,腫瘍などの器質的変化は認めなかった.輸入脚が過長であった可能性があり,腸重積の機械的要因と示唆された.そこに異所性ペースメーカーや蠕動異常などの何らかの機能的因子が加わったことが逆行性腸重積の原因と考えられた.
臨床症状は,嘔吐・腹痛・腹部膨満・腫瘤触知・吐血・蠕動不穏・血便など多岐にわたる 13).腸重積の診断には腹部造影CTが有用で,拡張した腸管内にhigh density areaとlow density areaが交互に繰り返す同心円状の腫瘤陰影が特徴的であるとされている 1),15).本症例でも,Y脚吻合部の輸出脚に,口側腸管方向へ嵌入するtarget状の層構造を呈する像を認めており,画像所見から逆行性腸重積の診断に至った.
胃切除術後腸重積の治療としては,ほとんどが手術を選択されており,Hutchinson手技による用手的整復を試みるが 2),3),既に腸管壊死に至っている場合や用手整復術が困難な場合には腸管切除を選択する 4),5).胃切除術後の逆行性腸重積に関して,胃空腸吻合部における逆行性腸重積に対して内視鏡的に整復を試みた報告は散見され 16),17),腸管虚血を示唆する所見がなければ内視鏡的整復により外科的治療が回避できるとされている 16),18)が,Y脚吻合部における逆行性腸重積に対する内視鏡的整復の報告は少ない.
医学中央雑誌にて「胃全摘」「腸重積」「Roux-en-Y」を検索語として1980年から2022年までを検索したところ,本症例と同様なY脚吻合部における逆行性腸重積の報告を,二次文献を含めて12例認めた(会議録を除く)(Table 2) 4),6),13),19)~27).また,PubMedにおいて同じ期間で「jejunal intussusception」または「intussusception」「total gastrectomy」「Roux-en-Y」を用いて同様の5例を認めたが 8),28)~31),いずれも手術による整復が選択されており,本症例のように内視鏡的に整復した報告はみられなかった.一般的な上部消化管用の内視鏡では長さが足りず,Y脚吻合部への到達が困難であることから,Y脚吻合部での腸重積に対する内視鏡的整復が選択されにくいことが原因と推察されるが,今回の症例では下部消化管用の内視鏡を用いることでY脚吻合部での到達が可能であった.深部挿入においては小腸内視鏡の使用が望ましいが,下部消化管用の内視鏡はY脚吻合部への到達に十分なシャフト長を有する一方,小腸内視鏡に比して短く,整復術における操作性が高いと判断し,小腸内視鏡よりも先に下部消化管用の内視鏡による整復を試みた.

胃全摘術Roux-en-Y法再建後Y脚吻合部における逆行性腸重積の報告18例.
内視鏡的整復において,重積腸管に循環障害による組織傷害がある可能性があり,穿孔に留意すべきである.内視鏡画面やX線透視像により重積腸管の管腔の軸を合わせながら愛護的に内視鏡を通過させることが望ましい.内視鏡像にて腸管壁の壊死性変化がみられる場合は内視鏡的整復の適応外であり,直ちに外科的治療へ移行すべきである.緊急での外科的対応が可能な状況で内視鏡的整復を試みることが推奨される.
本症例では発症後比較的早期に診断に至り,腸管虚血を来していなかったため,内視鏡的に整復が可能であったと考えられた.腸管虚血を示唆する所見として,血液所見における筋逸脱酵素上昇,血液ガス分析における乳酸高値や代謝性アシドーシス,腹部造影CTにおける腸管壁の造影不良や腸管気腫などが挙げられるが,これらがなければY脚吻合部における逆行性腸重積に対して,内視鏡的整復は一考に値すると考えられる.一方で,胃切除後の順行性腸重積に対して外科的に用手整復を行った報告も散見されるが 32),内視鏡的整復の報告は少なく,順行性腸重積に対して内視鏡的整復が可能かどうかは不明瞭である.
本症例では報告時点の約2年間で再発を認めていないが,内視鏡的にY脚吻合部での逆行性腸重積を整復しえた症例が乏しく,再発の頻度に関しては不明瞭である.外科的整復後に再発した報告も散見され 24),26),いずれも吻合口過大と輸入脚の過長を再発の原因として挙げており,吻合口過大は約4.5cm,輸入脚過長は約30cm以上とされている 26).腸重積の予防として,Y脚吻合部の再建や重積部分の腸管固定術が施行されることがある 2),26),31).本症例では吻合口径は不明であるが,輸入脚は20cmであり,既報ほどではないが過長であった可能性があり,自然整復後に再発した原因の可能性がある.内視鏡的整復により緊急手術の回避が可能であるが,吻合口過大や輸入脚過長を伴う症例は予防的な外科的介入を検討する対象となると考えられる.内視鏡的整復後の再発予防の必要性に関しては今後の症例の集積が望まれる.
胃切除後の腸閉塞の発症時は,稀ではあるが腸重積症も鑑別の一つに挙げるべきであり,Roux-en-Y法再建後のY脚吻合部における逆行性腸重積では内視鏡的整復が選択肢となりうる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし