GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EFFECTIVE TRANSPAPILLARY DRAINAGE FOR LESSER SAC ABCESS CAUSED BY PERFORATED CHOLECYCTITIS: A CASE REPORT
Daiji NAKAMURA Kiyotaka HASHIZUMEKazumasa WATANABEShin KUNIIDaisuke ISHIKAWAAtsuro KAGASetsuo UTSUNOMIYA
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2023 Volume 65 Issue 4 Pages 361-367

Details
要旨

症例は83歳女性.1週間以上続く嘔吐のため当院紹介受診となった.造影CTでは胆管拡張を認め,胆囊壁には一部欠損を認めた.胃周囲には被包化された液体貯留を認め,胃壁膿瘍や腹腔内膿瘍が考えられた.MRIでは総胆管に積み上げ結石を認め,胃周囲の膿瘍腔内にも胆管結石と同様の無信号域を多数認めた.第9病日にERCPを施行し総胆管結石の採石を行った後,胆囊管を選択し造影を行ったところ,胆囊から腹腔内への造影剤漏出を認めた.内視鏡的経鼻ドレナージチューブを膿瘍腔内に留置し,膿瘍ドレナージを行った.第24病日に抗生剤投与を終了し,第29病日に外科的根治術を行い,穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍と診断した.特に合併症なく退院となった.

Abstract

An 83-year-old female presented to our hospital with vomiting. Dilation of the bile duct and a partial deficit of the gallbladder wall were seen on contrast-enhanced CT. A gastric wall or intraperitoneal abscess was suspected as loculated fluid accumulation around the stomach was confirmed. A gastric wall abscess seemed unlikely as EUS suggested that the five-layered structure of the gastric wall was intact. MRI revealed elevated choledocholithiasis and multiple non-signal areas resembling biliary calculi, in the abscess cavity around the stomach. After choledocholith removal by ERCP on day 9, leakage of contrast agent into the abdominal cavity was confirmed on cholecystography through the cystic duct. We speculated that perforated cholecystitis might have caused the intraperitoneal abscess. Abscess drainage was performed by placement of an endoscopic transnasal drainage tube in the abscess cavity. After the procedure, the inflammatory reaction diminished immediately and the general condition of the patient improved. Radical surgery was performed on day 29, and a diagnosis of lesser sac abscess due to perforated cholecystitis was made. The patient was subsequently discharged with no postoperative complications.

Ⅰ 緒  言

網囊膿瘍は網囊内に限局した腹腔内膿瘍で,重症化しやすく予後不良な病態と考えられている 1.多くは膵由来で,それ以外の疾患を原因とするのは稀である 2.今回,穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍の1例を経験し,経乳頭的膿瘍ドレナージが有効であったため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:83歳,女性.

主訴:嘔吐.

既往歴:高血圧症,糖尿病,一過性脳虚血発作,廃用症候群.

生活歴:日常生活動作は全介助,喫煙・飲酒なし.

現病歴:約2週間前より食事摂取後に嘔吐するようになり近医を受診.近医の血液検査で白血球やCRPの上昇,コンピュータ断層撮影(CT)で胃周囲に液体貯留を認め,繰り返す嘔吐の原因精査目的に当院紹介受診となった.

来院時現症:身長153.0cm,体重55.2㎏,意識清明,体温36.6℃,血圧100/67mmHg,脈拍82/分,呼吸数14/分,眼球結膜に黄染なし,眼瞼結膜に貧血なし.腹部平坦,軟,圧痛なし.

血液生化学所見:WBC 23,500/μL(好中球91.9%),Hb 9.9g/dL,Plt 40.7×104/μL,T-Bil 2.0mg/dL,AST 60IU/L,ALT 68IU/L,LDH 286IU/L,ALP 454IU/L,γ-GTP 85IU/L,Amy 54IU/L,TP 6.3g/dL,Alb 2.7g/dL,BUN 21.1mg/dL,Cr 0.53mg/dL,CRP 14.73mg/dL,Glu 91mg/dL,HbA1c 6.0%,PT活性 73.8%,PT-INR 1.14,フィブリノゲン 572mg/dL,D-dimer 16.2μg/mL,血液検査では著明な白血球増多および左方移動を認め,CRP 14.73mg/dLと高値であった.また軽度の肝胆道系酵素の上昇を認めたが,DICには至っていなかった.

画像所見:造影CTでは肝内胆管および総胆管の拡張を認めたほか,胆囊壁には一部欠損を認めた.同部位より連続する形で胃周囲に被包化された液体貯留を認め,胃は背側に圧排されていた(Figure 1).腹水は認めなかった.上部消化管内視鏡検査では,胃体上部から前庭部は送気しても伸展不良であり,壁外から圧排されている所見であった.超音波内視鏡(EUS)細径プローブ(UM-2R 12MHz, Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)を使用して圧排部位を観察すると胃壁の5層構造は保たれていた.ガストログラフィンを用いた造影では胃の伸展不良を認めたが通過障害は認められなかった.核磁気共鳴画像法では総胆管は15mmまで拡張し,7~12mm大の10個以上の積み上げ結石を認めた.胆囊壁肥厚や周囲への炎症の波及など胆囊炎を示唆する所見は明らかではなく,胆囊壁には20mmの欠損を認め,胃周囲の膿瘍と交通していた(Figure 2).また膿瘍腔には胆管結石と同様の無信号域を多数認めた.

Figure 1 

造影CT.

a:水平断.

b:矢状断.

胆囊壁に一部欠損を認め,同部位より連続する形で胃周囲に被包化された液体貯留を認める.矢状断では胃は矢印のように背側に圧排されている.

Figure 2 

MRI.

総胆管は15mmと拡張を認め,内腔に7~12mm大の10個以上の積み上げ結石を認めた.また胃周囲の膿瘍腔内にも同様の性状の多数の結石を疑う結節を認めた.

臨床診断:画像所見より,総胆管結石性胆管炎および穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍疑いと診断した.

入院後経過:バイタルサインは安定していたが,繰り返す嘔吐と1週間以上の食事摂取不良にて衰弱傾向であった.そのため侵襲性のある検査や治療は難しく,まずは抗生剤による保存的加療を行った.抗生剤はempiric therapyとしてメロペネムを選択した.また,一過性脳虚血発作後に予防内服していたクロピドグレルは十分な説明のもと,待機的な内視鏡的処置を念頭に入院後から休薬とした.第9病日に診断および治療目的に内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)を行った.内視鏡スコープはJF260V(Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)を用い,十二指腸にスコープを進めたが炎症による癒着で胃十二指腸の可動性は悪く,ストレッチは困難であった.乳頭はかろうじて正面視することができ,胆管造影を行ったところ,総胆管に多数の積み上げ結石を認めた(Figure 3-a).内視鏡的乳頭括約筋切開術を行い,続いて内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(CRETM PRO Wireguided Biliary Dilatation Balloon Catheter 5870;Boston Scientific Natick, Mass, United State)で3atm,15mmまで拡張し,くびれの消失を確認後,総胆管内の結石はすべて除去した.結石除去の際には乳頭より乳白色の膿の流出がみられた.次に内視鏡下に経乳頭的な胆囊管の挿管を試みた.胆囊管は胆管造影では造影されなかったため,管腔内超音波検査(UM-G20-29R;Olympus Medical Systems, Tokyo, Japan)にて分岐部を同定した.カニューレはPR-110Q;Olympus Medical Systems, Tokyo, Japanを使用し,ガイドワイヤーは0.025inch EndoSelecterTM;Boston Scientific, Tokyo, Japanを用いて胆囊管を選択した.造影すると胆囊底部より胆囊外への造影剤の漏出を認めたため(Figure 3-b),穿孔性胆囊炎が腹腔内の膿瘍形成の原因と診断した.腹腔内の膿瘍ドレナージ目的にガイドワイヤーを用いて穿孔部より膿瘍腔を選択し,膿瘍腔に5FrのENPDチューブ(Nasal Pancreatic Drainage Set;Cook Medical Inc Endoscopy, Winston-Salem, NC, United States)を留置した(Figure 3-d).ENPDチューブからの排液は乳白色の膿であり,閉塞を来しやすかったため,腹腔内へ膿瘍を拡大させない程度の少量の生理食塩水で連日洗浄しながらドレナージを行った.その後,CTで膿瘍腔は著明に縮小し,経口摂取も可能となった.培養検査の結果はEscherichia Coliであったため,薬剤感受性を考慮し,第15病日よりセフメタゾールに変更し,第24病日には抗生剤投与を終了した(Figure 4).再度治療方針につき,ご本人とご家族に相談したところ外科的根治術を希望されたため,第29病日に外科的手術を行った.開腹すると腹腔内に汚染腹水は認めず,大網尾側から網囊内に入っても結腸間膜前面に膿の貯留や結石などは指摘できなかった.一方,小網の肝付着部を切開して網囊腔に入ると多数の結石とENPDチューブを確認することができた(Figure 5).チューブをたどると穿孔した胆囊壁が同定できたが,胆囊は周囲臓器との癒着が著しかったため部分切除を行い胆囊内と膿瘍腔内より91個の結石を摘除した.術後経過は良好で,経口摂取も十分できるようになり転院となった.

Figure 3 

ERCP.

a:胆管造影では総胆管に多数の透亮像を認めた.

b:胆囊を造影すると胆囊底部より膿瘍腔(矢印)へつながる造影剤漏出像(△)を認めた.

c:ガイドワイヤーを胆囊より膿瘍腔に進めた.

d:膿瘍ドレナージ目的に5FrのENPDチューブを経乳頭的に膿瘍腔に留置した.

Figure 4 

入院後経過.

Figure 5 

手術所見.

小網の肝付着部を切開すると網囊腔に入り多数の結石(△)とENPDチューブ(矢印)を確認できた.チューブをたどると穿孔した胆囊壁にたどりついたため,穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍と診断した.手術では胆囊内,網囊内より91個の結石を摘出した.

Ⅲ 考  察

網囊は大網と小網で形成されWinslow孔を介してのみ腹腔と交通する閉鎖された空間であり,腹腔内の膿瘍形成部位としては数%程度と報告されている 2),3.網囊膿瘍の多くは膵由来とされ,非膵由来は稀である 2.本症例の病態は,総胆管の積み上げ結石による胆管炎と穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍と考えられた.Niemeierは穿孔性胆囊炎を次の3つに病型分類している.Ⅰ型(慢性胆囊炎により瘻孔形成する),Ⅱ型(亜急性胆囊炎により胆囊周囲に膿瘍形成する),Ⅲ型(急性胆囊炎により汎発性腹膜炎を呈する)である 4.Ⅰ型は高齢者の胆石症をもつ人に多いとされ 5),6,本症例はⅠ型の機序で穿孔性胆囊炎を生じたものと考えられた.すなわち,慢性胆囊炎を背景に結石が胆囊管に嵌頓したことで胆囊内圧が上昇し,穿孔を来し,胆石と共に感染胆汁が網囊内に貯留したものと推察される.長期臥床状態であったことから,膿瘍は胃の背側には流れ込まず,胃を左下方に圧排する形で限局的な膿瘍が形成されたと考えられた.

医学中央雑誌で1980年1月から2021年9月の期間で「網囊膿瘍」と「網囊内膿瘍」をキーワードに検索したころ,非膵由来のものは10例あり(Table 1),そのうち穿孔性胆囊炎が原因となったものは1例のみであった 7.通常,網囊膿瘍では胃壁の大彎側に病変を形成することが多いが,既報の10例中2例は本症例と同様に小彎側のみに膿瘍を形成していた 8),9

Table 1 

非膵炎由来網囊内膿瘍の本邦報告例.

網囊膿瘍の予後に関する検討ではFryらは網囊膿瘍の死亡率を69%(11/16例)としているが 1,その当時の医療技術や画像診断能力は今日とは異なるため,現在の網囊膿瘍の死亡率には当てはまらないと考えられる.実際,今回検索した既報10例でも確認できた症例の転帰は良好であった 7)~16

網囊膿瘍は重篤な病態に移行しやすいため,早期のドレナージが推奨されている 1)~3),7.ドレナージの方法はこれまで経皮的ドレナージ 17や外科的な開腹ドレナージ術が多く選択されてきた.今日では新たな治療法として,内視鏡技術の発展により開発された超音波内視鏡下経胃的膿瘍ドレナージ(EUS abscess drainage: EUS-AD)を行った症例が散見された 10),18),19.また,穿孔性胆囊炎を来した症例に対する経乳頭的な内視鏡的胆囊ドレナージを行った症例もみられたが 20),21,網囊腔内に経乳頭的にドレナージチューブを直接留置した症例は,自験例以外に認めなかった.

前述したように,網囊膿瘍のドレナージ法には経皮的と内視鏡的(EUS-ADと経乳頭的膿瘍ドレナージ)および外科的膿瘍ドレナージがある.経皮的ドレナージは手技の難易度は高くないが,出血や経皮感染,他臓器の誤穿刺のリスクがある 17.EUS-ADでは出血,ステント逸脱,消化管穿孔,他臓器の誤穿刺などのリスクが挙げられるが,膿瘍ドレナージの効果は高いとされている 19.経乳頭的膿瘍ドレナージは生理的な胆汁の流出経路を利用してドレナージが可能であり出血のリスクも少ないが,ERCP後膵炎や胆囊管損傷などのリスクがある 22.本症例では総胆管結石の採石と同時に網囊内の膿瘍を経乳頭的にドレナージ可能であれば最も侵襲性が低くなると考え,第一選択とした.経乳頭的ドレナージが困難であった場合は,EUS-ADでの治療を検討していた.最後に,外科的な膿瘍ドレナージは侵襲性が大きいがドレナージ効果は最も高く根治性に優れている 7.このような長所短所をふまえ,網囊膿瘍の治療は,患者背景や膿瘍の特徴などを総合的に判断して決定すべきと考えられる.

Ⅳ 結  語

穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍の1例に対して経乳頭的膿瘍ドレナージが有用であったため報告した.

謝 辞

この度,第62回日本消化器内視鏡学会東海支部例会にて若手奨励賞を受賞させて頂き,また第99回日本消化器内視鏡学会総会のきらりん☆ピック支部例会からのチャレンジ(午後の部)にて第1位を受賞させて頂きましたことに厚く感謝し,御礼申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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