GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EPSTEIN-BARR VIRUS-ASSOCIATED GASTRIC CARCINOMA: RELIABLE DIAGNOSIS AND APPROPRIATE TREATMENT
Yosuke TSUJITetsuo USHIKUMitsuhiro FUJISHIRO
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2023 Volume 65 Issue 5 Pages 435-441

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要旨

Epstein-Barr(EB)ウイルス関連胃癌は胃癌の10%程度を占める特徴的な胃癌である.胃体上部や残胃に発生することが多く,病理像ではリンパ球浸潤癌(carcinoma with lymphoid stroma:CLS)またはlace patternと呼ばれる特徴的な像を示すことが多い.確定診断はEBV encoded small RNA1(EBER1)を標的としたin situ hybridization(ISH)法(EBER-ISH法)による核の陽性所見を確認することでなされる.EBウイルス関連胃癌の予後は,他の胃癌に比して良好であることが知られている.特に早期胃癌では,粘膜下層浸潤癌においてリンパ節転移率が低いことが報告されており,EBウイルス関連胃癌についてはESDの治療適応を拡大できる可能性がある.EBウイルス関連胃癌の確実で簡便な診断方法の確立は今後の課題であろう.

Abstract

Epstein-Barr virus-associated gastric carcinoma (EBV-associated GC) is a type of gastric cancer that accounts for approximately 10% of all gastric cancers. It often occurs in the upper part of the gastric body or a remnant stomach. The pathology often shows a characteristic image called carcinoma with lymphoid stroma (CLS) or a lace pattern. Definitive diagnosis is made by confirming a positive nucleus finding through in situ hybridization (ISH) targeting EBV encoded small RNA1 (EBER1) (EBER-ISH method). The prognosis of EBV-associated GC is known to be better than that of other gastric cancers. Because the incidence of lymph node metastasis is low even in submucosal invasive EBV-associated GC, the criteria for ESD could be possibly expanded in early-stage EBV-associated GC. Establishment of a reliable and simple diagnostic method for EBV-associated GC is a future challenge.

Ⅰ EBウイルス関連胃癌の疫学・背景

Epstein-Barr Virus(EBV)はヒトヘルペスウイルスの中でも最も一般的なウイルスの1つである.多くの場合,小児期にEBVへの初感染を経験し,潜伏感染状態が生涯にわたって継続する.EBVはB細胞に選択的に感染するが,N/K細胞や上皮細胞などへの感染も稀に生じ,多様な疾患の発症に関与していることが明らかになっている.上咽頭癌や悪性リンパ腫の発症にEBVが関与することが知られているが,1990年に初めてEBV関連胃癌が報告されて以来 1,EBVが関与する胃癌も大きな注目を集めている.

2014年にThe Cancer Genome Atlas Research Networkによって公表された胃癌の4つの分子サブタイプの1つがEBV-positive tumorsであり,EBV関連胃癌は分子レベルでも特徴的な腫瘍であることが分かっている 2.EBV関連胃癌においてはほぼすべての胃癌細胞にEBVが感染しており,感染しているEBVはモノクローナルであることから,EBV関連胃癌の発癌初期にEBV感染がまず起こると考えられている 3),4.EBV関連胃癌は全胃癌の5-15%を占めるとされ,国によっても多少率が異なる 5.日本においてはTokunagaらが1993年に1,848病変(1,795例)の胃癌症例中6.6%の病変(6.7%の症例)がEBV関連胃癌であったことを報告した 6.最近ではOsumiらが,粘膜下層浸潤胃癌の手術症例898例の解析においてEBV陽性率7.9%(71例),脈管侵襲のない粘膜下層浸潤胃癌の手術症例847例中EBV陽性率11.3%(96例)と報告しており,本邦では概ね全胃癌の10%程度がEBV関連胃癌と言えるであろう 7),8

EBV関連胃癌は男性に多く,特に20-40代の若年でその傾向が顕著である.さらに,胃癌術後の残胃癌や,非幽門部癌に多いことが特徴である 5),9.また,早期癌と進行癌においてEBV関連胃癌の頻度には特に差は認められない.ピロリ菌(Helicobacter pylori)が胃癌の主な原因となっていることは周知の事実であるが,EBV関連胃癌におけるピロリ菌の関わりについて結論は定まっていない.CamargoらはEBV関連胃癌とEBV陰性胃癌で,ピロリ菌の感染率に差はなく,相互作用は特に認められないと報告している 10.一方,EBV関連胃癌の背景粘膜にはピロリ菌による萎縮性胃炎が認められるとの報告も多い 11)~13

Ⅱ EBV関連胃癌の臨床病理学的特徴

EBV関連胃癌は,上述のように胃の上部に多いことが知られている.TokunagaらはEBV関連胃癌が胃の上部〜中部に多いことを報告した 6.2009年には,Murphyらが70編の論文を対象にしたメタアナリシスを行い,15,952例の胃癌につきEBV関連胃癌の割合は8.7%,部位別には噴門部13.6%・体部13.1%に対し前庭部では5.2%となり,上部〜中部にEBV関連胃癌の頻度が高いことを明らかにした 9.また,胃術後の残胃に発生する残胃癌にEBV関連胃癌が多いことが知られている.本邦から多くの報告が出ており,Yamamotoらは,早くも1994年に残胃癌の27.1%がEBV関連胃癌であることを報告した 14.Nishikawaらは,やはり残胃癌の41.2%がEBV関連胃癌であり,術後20年以上を経過したBillroth-Ⅱ法の吻合部に発生していることを見出し,Kaizakiらは術後10年以上経過して発生した残胃癌においては23%がEBV関連胃癌であったと報告している 15),16.前述のMurphyらのメタアナリシスでも,残胃・胃吻合部の癌ではEBV陽性率が35.1%と高くなっている 9

内視鏡的には早期胃癌の段階では0-Ⅱc型を主体とした陥凹型が多いが,隆起型(0-Ⅱa型)の形態や,粘膜下腫瘍様形態をとることもある.進行癌では2型あるいは3型の形態を呈する(Figure 123456).ただ,内視鏡像のみからEBV関連胃癌であることを確実に事前予測することは困難であろう.

Figure 1 

0-Ⅱa型EBV関連胃癌.

Figure 2 

0-Ⅱc型EBV関連胃癌.

Figure 3 

0-Ⅱc型EBV関連胃癌.

Figure 4 

0-Ⅱa+Ⅱc型EBV関連胃癌.

Figure 5 

0-Ⅰ+Ⅱc型EBV関連胃癌.

Figure 6 

2型EBV関連胃癌.

EBV関連胃癌であることに気が付く多くのきっかけは,その特徴ある病理像であると思われる.EBV関連胃癌の多くは,「リンパ球浸潤癌(carcinoma with lymphoid stroma:CLS)」の像を呈する.癌細胞が充実性,腺房状あるいは腺腔の不明瞭な胞巣を形成し,著明なリンパ球浸潤を伴う像で,胃癌取扱い規約(第15版,2017年)でも特殊型の1つに分類されている 17)~19.粘膜内癌,あるいは浸潤癌の粘膜内成分においては腫瘍腺管が網目状・レース状に癒合した“lace pattern”と称される組織像が特徴的である 18)~20.ただ,このような組織像を呈さない胃癌でもEBVが証明されることがあるため組織像からEBV関連胃癌を完全に特定することもまた困難であり,EBV encoded small RNA1(EBER1)を標的としたin situ hybridization(ISH)法(EBER-ISH法)による核の陽性所見を確認することがEBV関連胃癌の確定診断には必須である(Figure 78 18

Figure 7 

a:CLSのHE像.

b:CLSのEBER-ISH像.

Figure 8 

lace patternのHE像.

Yanaiらは後ろ向き検討で,胃上部あるいは残胃の癌が粘膜下腫瘍様の隆起を伴う陥凹形態を示していた場合に内視鏡医がEBER-ISH法によるEBV検索をオーダーした場合,EBV陽性率は21.4%であったと報告しており肉眼形態のみでEBV関連胃癌を診断することの難しさが垣間見える.一方,病理像でCLSあるいはCLS類似所見を認めた場合に病理医がEBER-ISH法を追加した場合,EBV陽性率は66.7%であった 21.少数の後ろ向き検討ではあるが,やはり現在の実臨床においては病理像からEBV関連胃癌を疑って検査することが重要であろう.

EBV関連胃癌の予後はEBV陰性の通常胃癌と比して良好であるとされている.Songらは,EBV関連胃癌123例とコントロール群405例を比較検討し,全生存期間及び無病生存期間はEBV関連胃癌でそれぞれ112.3カ月/108.6カ月,コントロール群で98.7カ月/94.7カ月であったと報告した.さらに興味深いことに,多変量解析を行うとEBV関連胃癌は全生存・無病生存における有意な因子ではなくなってしまうが,EBV関連胃癌のうち病理像で著明なリンパ球浸潤をきたしていないものを除外(123例中18例)して解析すると,多変量解析においてもEBV関連胃癌であることは全生存期間・無病生存期間の延長に有意に寄与している結果となった 22.Camargoらも,1976年から2010年までの13のケースシリーズの合計4,599例の胃癌のプール解析を行い,EBV関連胃癌は8.2%の割合を占め,ステージやその他の交絡因子の調整後EBV関連胃癌は低い死亡率と有意に関連していた(ハザード比0.72)と報告している 23.EBV関連胃癌内に浸潤するリンパ球の多くはCD8陽性Tリンパ球であり,少なくとも部分的にはこれらが抗腫瘍免疫に関与し,この疾患の比較的良好な予後と関連があることが示唆されている 22),24),25

Ⅲ EBV関連胃癌の治療

早期胃癌において,EBV関連胃癌のリンパ節転移リスクが低いことが報告されている.本邦ではTokunagaらが75例のEBV関連胃癌(粘膜内癌と粘膜下層浸潤癌)においてリンパ節転移を1例も認めず,同様の浸潤度のEBV陰性胃癌と比して有意にリンパ節転移リスクが低いと報告した 26.その後Parkらは,粘膜下層浸潤をきたしたEBV関連胃癌でリンパ節転移リスクが4.7%となりEBV陰性胃癌(20.1%)に比して有意にリスクが低いと報告し,本邦でもOsumiらがやはり粘膜下層浸潤をきたしたEBV関連胃癌でリンパ節転移リスクが4.2%とEBV陰性胃癌(21.9%)より低いことを報告した 7),27.さらに,Osumiらは,胃癌リンパ節転移リスクに大きく関与する脈管侵襲に注目し,96例の粘膜下層浸潤EBV関連胃癌(脈管侵襲なし)ではリンパ節転移が認められたのは1例のみであったと報告した 8

現在,早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が広く行われており,その適応基準は治療ガイドラインに定められている 28.粘膜下層浸潤癌においては,浸潤度が粘膜下層500μm未満・腫瘍径3cm以下・脈管侵襲なし・分化型優位の組織像を満たし,断端陰性で一括切除できた場合根治度eCura Bとし,年に1-2回の内視鏡検査に加えて腹部超音波検査,CT検査などで転移の有無を調べることで経過観察可能とされている.上述のようにEBV関連胃癌ではこの適応をさらに拡大できる可能性があるが,これまで粘膜下層浸潤距離にまで踏み込んで解析した研究がなかった.Tsujiらは185例の粘膜下層浸潤EBV関連胃癌の検討を行い,リンパ管侵襲・粘膜下層浸潤4,000μm以上が有意にリンパ節転移と関連することを明らかにした.さらに,脈管侵襲がなく,粘膜下層浸潤2,000μm未満の96症例に限ればリンパ節転移を認めなかった(95%信頼区間0-3.8%)と報告した 29.今後EBV関連胃癌に対するESDの適応拡大についてはさらなる検討が必要である.

進行胃癌においては,外科手術が可能である場合は根治的外科手術を行うことでEBV関連胃癌においてもかわりはない.Stage ⅣのEBV関連胃癌においてEBV関連胃癌特異的なものは未だ存在しないが,EBV関連胃癌においてはPD-L1,PD-L2の増幅が確認されており,免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性も示唆されている 2

以上,EBV関連胃癌について現時点で分かっている臨床病理学的事項を中心に概説した.内視鏡検査を施行した時点で本疾患を強く疑い対応することは困難であるが,少なくとも残胃癌や体上部の胃癌に遭遇した時にEBV関連胃癌の可能性を頭の片隅にとどめておくようにしたい.経験豊富な病理医であれば,組織像からEBV関連胃癌を強く疑いEBER-ISH法を行うことで確定診断につながる可能性が強いが,必ずしも消化管専門の病理医が日本全国の病院に常駐しているわけではない.今後,EBV関連胃癌特有の治療指針が確立してくるようなことがあれば,より客観的で簡便なEBV関連胃癌の診断法の開発も必要になってくるであろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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