2023 Volume 65 Issue 5 Pages 498-502
当院は民間病院である製鉄記念広畑病院(許可病床数392床)と公立病院である兵庫県立姫路循環器病センター(許可病床数350床)が兵庫県,神戸大学を中心とする病院再編計画下で統合し,2022年5月1日に開院した.製鉄記念広畑病院は広域診療圏を対象とした3次救命救急センターである姫路救命救急センターを有する一方,姫路市南部エリアの地域医療機関として消化器疾患を含む一般内科診療を行っていたが,循環器系や脳神経系医師が少なく,それら基礎疾患を有する患者対応に問題を抱えていた.兵庫県立姫路循環器病センターは心血管疾患に対する血管内治療件数が日本有数の循環器系また脳神経系に特化した専門病院であったが,消化管疾患や整形外科疾患の合併には十分対応できず,高齢者で悪性腫瘍を含む多数の基礎疾患を有する患者対応が困難になっていた.統合によって総合病院となり,これらの諸問題は解決され,すべての患者が受け入れ可能な体制となった.
当院の基本方針としては,「高度専門・急性期医療の提供」「救急医療の充実」「研究・教育の取り組み」を3つの柱としており,消化器内視鏡診療においても,関連診療科と密に連携し,救急症例,基礎疾患を有する症例や他院で処置が困難な症例を積極的に受け入れている.特筆すべきは病院本館と連絡ブリッジで接続する「教育研究棟」が併設されており,兵庫県立大学や姫路獨協大学が入居し,医工連携による臨床研究活動や機器開発が可能となっている.
内視鏡センターは2階にあり,消化器内科外来や超音波センターと同一フロアに位置している.内視鏡センターの総面積は約450m2強で,内視鏡室が5室,X線透視室が2室存在する.各内視鏡室,とくにX線透視室それぞれは十分なスペースはあるものの,昨今新設された内視鏡センターと比較すると受付待合室やカンファレンス室などが狭い.内視鏡タワーは,オリンパス5台,フジフイルムが2台あり,それぞれ最新式の装備(設備・備品参照)である.X線透視装置は2台ともキヤノン社製Cアーム型であり,膵胆道内視鏡,消化管内視鏡や気管支内視鏡に威力を発揮している,すべての内視鏡・X線透視室に動画記録装置が装着されており,すべての内視鏡・X線動画を記録可能である.加えてすべての内視鏡室・X線透視室の天井に室内監視モニターも1-2台ずつ設置されており,集中情報管理室で全検査室の室内画像および内視鏡画像を一元的に見ることが可能となっている.
当院の所在地は新幹線停車駅である姫路駅東側の再開発エリアで,駅から病院まで歩道も整備され,雨天時にも濡れずに徒歩で来院可能となっている.
組織内視鏡センターは消化器内科および呼吸器内科で構成されているが,管理は主に消化器内科で行っている.内視鏡業務に従事する看護師と臨床工学技士(CE)は,救命救急センター,アンギオセンターと共同運用となっている.なお,呼吸器内視鏡検査は呼吸器内科医(現在3名)が実施している.
検査室レイアウト
内視鏡センターは病院棟2階にあり,超音波センターに隣接している.また消化器内科外来,中央採血室や生理検査室も同じフロアにあり,血液検査→腹部エコー→内視鏡検査後の診察時などは同一フロアで完結できる.
総面積は約450m2である.内視鏡ブースは5室,X線透視室は2室あり,全室がプライバシーを重視した完全個室形式である.カルテや所見を入力する集中情報管理室,カンファレンス室,通路に合計3台の大型モニターを設置しており,全室の内視鏡動画および室内動画が一度に投影されており,内視鏡検査の進捗状況などが一元的にわかるようになっている.また原則的に内視鏡動画,X線透視動画はすべて録画するようになっている.
(2022年8月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医2名,消化器内視鏡学会 専門医3名,その他スタッフ1名,専攻医など7名
内視鏡技師:Ⅰ種9名,Ⅱ種1名
看護師:常勤10名,非常勤3名
事務職:2名
その他:2名
消化器内科スタッフ集合写真
(2022年8月現在)
(2022年6月~2023年2月:9カ月)
初期研修医1年目の希望者は1カ月間当科で研修を行い患者管理や内視鏡検査の見学を中心に行う.加えて初期研修医2年目の希望者は1-3カ月間の研修を行い,さらなる症例の経験や内視鏡検査の介助を担当する.研修医に対しては,主治医団の1人としての意識形成や診断,治療方針への参加のほか,検査や処置の介助にも積極的に参加させ,消化器内科,消化器内視鏡に興味を持つようにしている.とくに消化器内科を希望しているものに対しては,上部消化管内視鏡の抜去や胃瘻造設時の内視鏡保持などを経験させている.消化器内科専攻医1年目(医師3年目)は当院の内科研修プログラムで,消化器内科と総合内科を6カ月ずつ研修する.消化器内科研修期間中は胆膵,炎症性腸疾患(IBD)を含む消化管,肝臓すべての領域の患者を受け持つ.総合内科研修中も週2-4コマ,内視鏡や腹部エコー出番枠があり,遅れることなく十分な内視鏡症例数を経験可能である.専攻医2年目(医師4年目)は,連携している「消化器内視鏡を十分可能な地域密着型病院」と「high volume center」を半年ずつローテートすることで,消化器内科サブスぺ研修と消化器内視鏡も経験しながら一般内科を研修できるようにしている.専攻医3年目(医師5年目)は当院で消化器内科サブスぺ研修を行い,上部消化管内視鏡検査,下部消化管内視鏡検査の主力要員として活躍し,また内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)/超音波内視鏡検査(EUS)関連手技や内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)/内視鏡的粘膜切除術(EMR)関連手技など,高難度消化器内視鏡も積極的に施行医として担当する.
上部消化管内視鏡検査に関しては,引き抜き観察,胃内の観察,鎮静患者に対する挿入や観察,非鎮静患者に対する検査,内視鏡処置と段階的なステップアップ方式とし,正統な内視鏡技術の習得が可能としている.また上部内視鏡の経験数を十分に積み安定した内視鏡操作が可能になれば,下部消化管内視鏡検査のステップアップ指導に移行する.
胆膵内視鏡検査に関しては,解剖的知識や内視鏡理論,各種デバイスの特性についての教育を徹底的に行っている.エキスパートによる実際の経験を基にした講義があり,また検査の流れや偶発症に対する対応について理解した上で,専攻医1年目で介助を開始,次に後方斜視鏡の挿入,処置後乳頭への挿管や結石除去,未処置乳頭への挿管,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST),ステント留置,膵管へのアプローチ,EUS下処置など技量に応じて習得可能となる.本人の能力にもよるが,専攻医終了時点で多くの症例で独力で完遂できることを目指している.
当院は地域医療の核となるセンター病院であるため,24時間体制で救急疾患に対して対応している.救急バックアップを若手医師と上級医とのペアで配置しており,対応した若手医師が優先的に術者となるために,比較的早い段階で緊急内視鏡技術の習得が可能となっている.
内視鏡トレーニングに関しては,教育研修棟にVR(Virtual reality)型消化器内視鏡シミュレーターを用いたトレーニングコースを提供している.主に① 初期研修医で内視鏡を初めて体験する初学者向けコース(1コマ)② 消化器内科希望の初期研修医で,上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査実施に向けたトレーニングコース(2コマ)③ 上部/下部消化管内視鏡が実施可能な専攻医向けに,止血処置,ポリペクトミー,ESD,ERCPが体験可能なアドバンスコース(3コマ)を用意しており,コース修了証をもって,実際の患者への研修開始の免許にする予定としている.また初期研修医向けに従来のファントムモデルを用いた内視鏡体験実習を自習的に随時実施している.
内視鏡技術のみならず,基礎知識の習得にも力を入れており,論文抄読会やトピックを学習するカンファレンスを週1回行っている.また消化器内科,外科,病理診断医が参加するキャンサーボード,術後症例検討会をそれぞれ週1回ずつ実施しており,消化器疾患に対し多科連携の重要性を教育している.学会発表や論文作成も専攻医1人あたり,少なくとも年3-5回以上は機会が与えられており,上級医の指導下で今後のキャリアアップに向けて発表スライドや論文の作成方法を細かく指導している.
2つの病院の統合によって誕生した総合病院ではあるが,消化器内科および内視鏡センターは兵庫県立姫路循環器病センターに存在しなかったため製鉄記念広畑病院からのみである.加えて当院は製鉄記念広畑病院から最短道路距離で8km以上離れている地理的要因により診療圏が離れ,結果的に製鉄記念広畑病院近隣の医療機関からの紹介は減少し,また製鉄記念広畑病院にかかっていた患者の当院への継続通院が必ずしも多くない.製鉄記念広畑病院では上部消化管内視鏡,下部消化管内視鏡を含む任意検診(人間ドック)を行っていたが,当院では任意検診を実施していないため,全体的に検査件数が減少した.6月以降,ERCP関連処置に関しては毎月50-70件,消化管出血に対する緊急内視鏡も増加傾向にはあるものの,今後患者数の維持や増加を目指し,新幹線も停車する駅近の利点を活かし診療圏の大幅な拡大,総合病院化によるメリット,得意とする消化器内視鏡を用いた高度医療,断らない救急対応などを進めていく.
内視鏡センターについては,内視鏡装置やX線透視装置を中心に設備面では非常に恵まれている.看護師のみならず臨床工学技士も複数名常駐していることも恵まれた環境であるが,緊急内視鏡検査の割合が比較的多いため定時で業務が終了しないことが多い.医師,看護師や臨床工学技士のサポートにより業務を行っているが,看護師や臨床工学技士は救急外来や放射線業務(主に循環器系の緊急カテーテル検査)も兼ねており,人員不足で業務を円滑に進めることができないことがある.今後は人員確保,未経験者への業務指導,業務の効率化などを進めていく必要がある.
診療体制については,初期研修医・専攻医・消化器内科スタッフ指導医がチームとなり,適切な診療・指導体制が確立されているが,常にブラッシュアップしていく必要がある.24時間365日の消化器内科医2名によるオンコール体制を維持するためには専攻医の存在が重要であるが,内科新専門医制度の研修プログラムにより,3~5年目専攻医の安定した継続的な人員確保・常在が非常に困難となっており,毎年度人員確保に大変苦労する.診療の質の維持・向上,学術研究活動への参加,宣伝活動を通して病院,診療科としての魅力を常に発信していくことが重要と考えており実践していく.