GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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Autoimmune gastritis : long-term natural history in naïve Helicobacter pylori-negative patients 1).
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2023 Volume 65 Issue 5 Pages 503

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【目的】自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis;AIG)は,壁細胞を標的とする免疫介在性疾患の1つであり,胃底腺領域の萎縮を引き起こす.長期間の観察研究である本研究は,H. pylori未感染のAIG症例の自然史,病理組織学的特徴,胃癌発症に関連する危険度を明らかにするために行われた.

【方法】抗体価,病理組織,PCRでH. pylori未感染が確認された211人のAIG症例(男女比:3.15:1)を対象に平均7.5±4.4年の観察前後における病理組織学的評価を前向き研究として行われた.生検検体により胃粘膜を非萎縮と萎縮に分類し,更に非化生粘膜と化生粘膜(偽幽門腺化生と腸上皮化生)に分けて評価をした.消化管クロム親和性細胞様細胞(enterochromaffin-like cells;ECL細胞)はびまん性,腺腫様過形成/異形成,1型神経内分泌腫瘍に分類した.

【結果】病理組織学的評価にてAIG症例では長期に渡り胃底腺領域有意に単核球浸潤による慢性炎症が確認された.観察開始前には偽幽門腺化生のスコア(200/211)は腸上皮化生のスコア(160/211)よりも高く,腸上皮化生のスコアは時間経過の中で増加傾向を認めた(160/から179/211).しかし,偽幽門腺化生の有病率は変化を認めなかった.観察前後ともにOLGA stage Ⅲの頻度は5%以下であり,stage Ⅳの症例は認めなかった.ECL細胞は時間経過により腺腫様過形成/異形成への割合の変化を認めた.1型神経内分泌腫瘍は胃底腺領域の萎縮部に認めた.甲状腺癌の発症リスクは3.09(95%CI:1.001-7.20)に増加したが,胃癌や他悪性腫瘍の発症は10,541人年の中で認めなかった.

【結語】AIGの病理組織学的な特徴は胃底腺領域の単核球優位の慢性炎症,偽幽門腺化生,およびECL細胞の腺腫様過形成/異形成である.一般集団と比較してAIG症例では胃体部の慢性炎症や萎縮性変化を認めるものの,胃癌リスクは増加させない可能性がある.AIG症例で認められる胃癌発症リスクは,H. pyloriの現感染,あるいは既感染に伴う背景胃粘膜の変化の結果として生じている可能性が考えられる.

《解説》

胃粘膜萎縮や腸上皮化生は胃癌発症の危険因子であるため,H. pylori感染者と同様にAIG症例も胃癌の高危険群であると考えられている.本検討ではH. pylori未感染者を平均7.5年経過観察したところ胃粘膜萎縮や腸上皮化生は幽門腺領域へも進行するものの,胃癌発症は認めなかった.そのため著者らはAIG症例で認められる胃癌発症リスクは,H. pyloriの現感染,あるいは既感染に伴う背景胃粘膜の変化の結果として生じている可能性を報告した.今まで常識的に考えられたことを発想の転換により新たなエビデンスとして結果を導き出した貴重な報告であり,臨床的に非常に価値のある報告と考えられる.

ただし,本研究では対象症例が55歳前後と胃癌の好発年齢よりも比較的若年であること,内視鏡観察のスクリーニング方法などの詳細が不明であることなどのlimitationがある.上記の点を踏まえ,本邦でも前向き研究が計画され,上記を証明するエビデンスが導き出されることが期待される.

文 献
 
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