GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CURRENT STATUS AND ISSUES IN ENDOSCOPIC DIAGNOSIS AND TREATMENT OF GASTROESOPHAGEAL REFLUX DISEASE
Tomoyuki KOIKE Atsushi MASAMUNE
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2023 Volume 65 Issue 6 Pages 1085-1101

Details
要旨

胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)は,食道粘膜障害を有する「逆流性食道炎」と症状のみを認める「非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)」に分類される.逆流性食炎の内視鏡診断には,mucosal break(粘膜傷害)の概念が導入されたロサンゼルス分類にminimal changeを加えた分類が本邦では広く用いられている.GERDの主な治療は薬物療法でありプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)が第一選択薬とされているが,重症逆流性食道炎の治療にはより強力な酸分泌抑制作用を有するカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)であるボノプラザンがより有効である.また,今まで本邦で広く普及するには至らなかった内視鏡治療だが,2022年4月から,ARMS(anti-reflux mucosectomy)およびESD-G(endoscopic submucosal dissection for GERD)として報告されてきた内視鏡治療が,内視鏡的逆流防止粘膜切除術として保険適用となったことから,GERDに対する内視鏡治療がより普及する可能性がある.今後,その適応や長期予後について明らかにしていく必要がある.

Abstract

Gastroesophageal reflux disease (GERD) is classified into “reflux esophagitis,” characterized by esophageal mucosal break, and “non-erosive reflux disease (NERD),” characterized by the presence of only GERD symptoms without mucosal injury. The revised Los Angeles classification, which adds minimal change, is widely used in Japan for the endoscopic diagnosis of reflux esophagitis. The main treatment for GERD is pharmacotherapy, and proton pump inhibitors are the first-line drugs. Vonoprazan, a potassium-competitive acid blocker, is highly effective in the treatment of severe reflux esophagitis. Endoscopic treatment of GERD is not widely used in Japan. However, from April 2022, endoscopic treatment reported as anti-reflux mucosectomy (ARMS) and endoscopic submucosal dissection for GERD (ESD-G) have been covered by health insurance as endoscopic anti-reflux mucosectomy. Therefore, it is expected that endoscopic treatment for GERD will become more widespread in Japan. Moreover, it is necessary to clarify the indications and long-term prognosis of this treatment in the future.

Ⅰ 緒  言

胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)は,胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患であり,食道粘膜障害を有する「逆流性食道炎」と症状のみを認める「非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)」に分類され,胸やけと呑酸が定型症状である(Figure 1 1.さらに,非定型的症状および食道外症状として,胸痛,慢性咳嗽,喘息,咽喉頭症状,睡眠障害,酸蝕症などがあげられる 1.なお,スクリーニング内視鏡検査が行われることが多い本邦では,無症状だが粘膜傷害を認める逆流性食道炎が診断されやすい環境にある.また,近年GERDに対する新たな内視鏡治療である内視鏡的逆流防止粘膜切除術が開発され,保険適用となった.

Figure 1 

胃食道逆流症(GERD)の分類.

本稿では,GERD診療の現状と課題について内視鏡診療を中心に概説する.

Ⅱ GERDの疫学

システマティックレビュー 2によると,逆流性食道炎の本邦における有病率は,約10%程度と推定されている 1.一方,GERD症状の有訴者率については平均17.7%と逆流性食道炎の有病率より高い 2.本邦のGERD有病率は,1990年代後半より著明に増加してきている.この要因として,日本人の胃酸分泌能の上昇,H. pylori感染率の低下および除菌療法の普及,GERD疾患概念の浸透などが推察されている 3

Ⅲ 逆流性食道炎の病因

逆流性食道炎は,食道裂孔ヘルニアや食道運動機能障害により胃酸を含む胃内容物が食道に逆流停滞するために発症する疾患である.食道pHモニタリングの結果から,逆流性食道炎患者の食道内の酸曝露時間(pH 4未満の時間率)は健常者に比べ有意に延長していることが報告されている 4)~7.さらに,食道粘膜傷害が重症になるに従い酸曝露時間は有意に延長することから,逆流性食道炎患者での粘膜傷害の原因は食道内への過剰な酸曝露であるといえる 8)~12.また,逆流性食道炎患者では対照群に比較し有意に胃酸分泌能が高いことも報告されている 13

なお,近年,食道内に逆流する酸が直接食道粘膜上皮を傷害するのではなく,酸やトリプシン,胆汁酸などが食道粘膜上皮細胞を刺激することで,炎症性メディエータやサイトカインの産生を高め,好中球,リンパ球を誘導することで,粘膜炎症が惹起され組織傷害が進行するという考え方が示されている 14

Ⅳ 逆流性食道炎の内視鏡診断

Ⅰ)逆流性食道炎の内視鏡的重症度分類

逆流性食道炎の内視鏡診断には,mucosal break(粘膜傷害)の概念が導入されたロサンゼルス分類 15),16が広く用いられている.粘膜傷害とは「より正常に見える周囲粘膜と明確に区分される白苔ないし発赤を有する領域」であり,粘膜傷害の長さが5mm以下のGrade A,5mm以上のGrade B,粘膜傷害の融合を認めるが全周の75%未満のGrade C,75%以上のGrade Dに分類される.本邦では,このロサンゼルス分類に内視鏡的に変化を認めないGrade N,色調変化型(minimal change:境界不明瞭な発赤や血管透見が不良で白色混濁を示すもの)のGrade Mを加えた改訂ロサンゼルス分類が広く普及し利用されている(Figure 2 17

Figure 2 

改訂ロサンゼルス分類.

ロサンゼルス分類の読影医間の診断の一致に関しては,一致性の指標となるκ値が0.7前後とおおむね良好であったという報告もあるが 18,軽症逆流性食道炎においては粘膜傷害とminimal changeとの鑑別が問題となり,一致率が低下することが指摘されている 19.また,Grade Mの所見である白濁,発赤の診断に関しては統一された明確な診断基準が示されていないことも,読影医間の診断一致率が低い原因となっていると推察される 20

一方,Grade MではGrade Nと比較してヘルニアの合併率が高く 21,逆流症状のスコアも高い 22ことから,Grade M症例における白濁,発赤は食道内酸曝露を示す存在と考えられている 1.しかし,食道pHモニタリング検査を用いた検討では,Grade MはGrade Nと比較して有意に異常酸逆流が多かったとする報告 23と差を認めなかったとする報告 24もあり,Grade Mの臨床的意義については十分に明らかになっていないのが現状である 1.さらに最近,多施設前向き観察研究でGrade NとGrade Mでは,患者背景,症状スコア,プロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)4週投与後の症状改善度に差がないことも報告されている 25

上記のようなminimal change診断の問題はあるものの,ロサンゼルス分類のGradeは酸の胃食道逆流の程度,治療の反応性,維持療法中の再発のリスクとも相関していることから,日本消化器病学会編集 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(GERD診療ガイドライン)でも逆流性食道炎の重症度分類に用いられるロサンゼルス分類の客観性は高く,有用であるとされている 1

Ⅱ)画像強調内視鏡(image enhancement endoscopy:IEE)による逆流性食道炎の診断

GERDの内視鏡診断における問題点として,前述したように改訂ロサンゼルス分類のGrade AとGrade Mの判断や,びらんがみられない場合の逆流による変化の有無の判断が困難となることなどがあげられる 1.白色光では視認困難な微小な粘膜傷害を,種々の観察法で認識できれば,内視鏡検査によって胃食道逆流の有無をさらに明確に示すことができる可能性がある.

Narrow band imaging(NBI)は,通常観察で正常粘膜と診断された症例でも粘膜傷害を有意に検出できる可能性があり,ロサンゼルス分類Grade Mと診断された患者のうち,NBI観察をすると6%で微細な粘膜傷害を認め,Grade Aに診断が変わったという報告がある 26.逆流性食道炎・NERD・コントロールの検討においても,NERD患者ではNBI観察によって有意に微小な粘膜と血管の変化の検出力が上がり 27),28,これらの所見に対する検者間一致率は良好であることが報告されている 26

一方,NERDに対する感度は病理組織検査のほうがよいとの報告もある 29.minimal changeにおける病理組織学的所見としては,乳頭内毛細血管の拡張・出血,上皮傍基底細胞層の肥厚,乳頭の延長,上皮内炎症細胞浸潤,上皮細胞間隙の拡大などがある 29.NERD患者とGERD症状のないコントロール群患者のNBI併用拡大内視鏡所見の比較検討では,NERD患者で,微少なびらんとintrapapillary capillary loops(IPCL)の増加および拡張所見の頻度が有意に高いこと 30,さらに,NBI併用拡大内視鏡によるGERD診断がPPI治療の有効性の予測因子となることも報告されている 31.しかしながら,どの部位を拡大観察するべきかなど解決すべき課題も多いのが現状である.

また,linked color imaging(LCI)と通常光の併用による観察は,白色光単独と比較して有意にGrade Mの診断能を改善させたことが報告されている 32),33

以上より,種々のIEE観察や拡大内視鏡観察は胃食道逆流の存在を検出することに関して有用な可能性があるが,それぞれの検査法の精度は十分明らかにされていないのが現状である 1.なお,ロサンゼルス分類の粘膜傷害はそもそも白色光に基づく定義であり,白色光で判断できない粘膜傷害をIEEや拡大内視鏡観察で診断できたとすることには根本的な定義の矛盾があるとも言える.今後,病理組織学的所見も加えた検討がなされていくことが望まれる.

Ⅲ)機能内視鏡

1)Endoscopic pressure study integrated system(EPSIS)

近年,内視鏡検査中に胃内圧を連続的に測定し,食道胃接合括約部(lower esophageal sphincter:LES)機能の評価を行うendoscopic pressure study integrated system(EPSIS)が報告された 34.本法は,内視鏡の鉗子口に体外の専用圧測定器を接続し,胃に送気しながら測定する簡便で侵襲のない検査であり,24時間pHモニタリングにおける胃酸逆流と有意に相関していること 35およびhigh-resolution manometry(HRM)検査で測定したLES圧との関連性 36が明らかにされている.食道運動機能検査はHRM検査の登場や食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy:POEM) 37の普及により以前より多くの施設で施行されるようになってはきているものの,本邦では未だに限られた一部の施設でしか行われていないのが現状である.一方,EPSISは内視鏡検査時に施行可能なことから,検査導入へのハードルが比較的低い可能性があり今後の展開に期待したい.

2)Endoscopic gastrin test(EGT)

内視鏡下にガストリン刺激酸分泌能を評価できるEndoscopic gastrin test(EGT)がGERDの病態把握のために一部の施設で行われている.この検査法は従来の最大刺激酸分泌量(maximal acid output:MAO)および最高刺激酸分泌量(peak acid output:PAO)と良好に相関し,再現性も良好な検査方法である 38.このEGTを用いて,逆流性食道炎患者では対照群に比較し有意に胃酸分泌能が高いこと 13,PPI常用量投与後のGERD症状の持続の有無と胃酸分泌抑制効果の間には関連はなく,症状が持続する症例においては胃酸分泌抑制以外の治療が必要であることなどが報告されている 39

Ⅳ)鑑別診断

薬物治療抵抗性GERDにおける薬物治療抵抗性の要因として,機能性胸やけ,好酸球性食道炎,食道運動機能障害,心理的要因などが報告されているが 1,内視鏡所見にて容易に鑑別診断可能な例もあることから,その内視鏡的特徴をきちんと認識しておく必要がある.以下に内視鏡診断にてGERDとの鑑別が比較的容易な疾患を簡単に解説する.これらの疾患をGERDと鑑別することにより適切な治療に早めに結びつけることが可能となる.

1)好酸球性食道炎

食道粘膜が全体的に白濁し浮腫状であり,輪状溝やそれに直交する縦走溝が認められ,白色滲出物も認めることから好酸球性食道炎を疑う 40),41.生検で,上皮内に著明な好酸球浸潤を認め,好酸球性食道炎と確定診断となる(Figure 3 40

Figure 3 

好酸球性食道炎の内視鏡像.

食道粘膜が全体的に白濁し浮腫状であり,輪状溝(a)やそれに直交する縦走溝(b)および白色状の顆粒状付着物(c)を認めることから好酸球性食道炎を疑う.生検で,上皮内に著明な好酸球浸潤を認め,好酸球性食道炎と確定診断となる.

2)食道アカラシア

食道の拡張所見と食道内の残渣の所見,esophageal rosetteとされる食道胃接合部のひだ所見が食道アカラシアの診断に有用とされている(Figure 4 42

Figure 4 

食道アカラシアの内視鏡像.

食道の拡張所見と食道内の残渣の所見(a),esophageal rosette(b)とされる食道胃接合部のひだ所見が食道アカラシアの診断に有用である.

3)感染性食道炎

食道カンジダ症,Cytomegalovirus(CMV)やHerpes simplex virus(HSV)などのウイルス感染が代表的だが,それぞれ特徴的な内視鏡所見がある(Figure 5).

Figure 5 

感染性食道炎の内視鏡像.

食道カンジダ症の内視鏡所見は,発赤した出血しやすい粘膜所見を示すのみの例から,粘膜面一面がクリーム色の偽膜で覆われたもの(Figure 5-a)まで種々である 43.最も多くみられる所見はやや隆起した厚い白苔が散在するもので,白苔の一部は雛襞に沿って縦に多数並んで認められることが多い.

HSVやCMVによる潰瘍は「抜き打ち様punched-out」と称される境界明瞭なもので,辺縁は発赤を伴って軽度の隆起を呈することが多い(Figure 5-b,c 44

そのほか,薬剤性食道炎(Figure 6),ベーチェット病(Figure 7)などでは内視鏡所見に加えて病歴などの聴取により診断に近づくことができる 45

Figure 6 

Dabigatranによる食道炎

薬剤性食道炎の内視鏡像.

Figure 7 

Behçetʼs diseaseの内視鏡像.

円形・辺縁鋭利な打ち抜き潰瘍を認める.

Ⅴ GERDの治療

Ⅰ)GERDの治療の目的と治療効果判定

GERD患者の長期管理の主要目的は,症状のコントロールとクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善であり,酸の胃食道逆流を防ぐ治療はGERD患者のQOLを改善する 46)~52.GERD症状が消失した場合には低下したQOLは健常者のレベルまで改善する 53.なお,1週間に1回以上のGERD症状発現は,QOLに対して悪影響を与え,薬物療法において症状の消失効果が高くかつ速やかな薬剤のほうがより高いQOLの改善が得られることが報告されている 53

逆流性食道炎の治癒速度および症状消失の速さは,薬剤の酸分泌抑制力に依存する 54),55.すなわち,酸分泌抑制薬の中でPPIは,GERDの初期治療において,他剤と比較して優れた症状改善ならびに食道炎治癒をもたらし 56)~60,費用効果にも優れており,GERDの第一選択薬とされていたが,さらにより強力な酸分泌抑制力をもつ本邦で開発されたカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)であるボノプラザンが2015年2月より保険診療で使用可能となっており 1),61)~67,実臨床で幅広く使用されている.

治療効果の判定において,症状の客観的な評価にはFスケールやGERDQなどの自己記入式アンケート(問診票)が有用である 68)~82.また,内視鏡的治療効果の判定においては,粘膜傷害の変化を前述したロサンゼルス分類で評価することが多い.

Ⅱ)逆流性食道炎に対する内科的治療

GERD診療ガイドラインでは,軽症逆流性食道炎(ロサンゼルス分類Grade AまたはB)と重症逆流性食道炎(ロサンゼルス分類Grade CまたはD)に分けて治療戦略を提示しており,それに従い逆流性食道炎の初期治療と維持療法について概説する.

1)逆流性食道炎の初期治療

軽症逆流性食道炎の初期治療として8週間以内と定義し,軽症逆流性食道炎の治療において従来型PPIとP-CABいずれが推奨されるかについて定型的システマティックレビューが行われた 1.内視鏡的な粘膜治癒をアウトカムとしたメタアナリシスでは,従来型PPIとP-CABとを比較したRCTの中で,軽症逆流性食道炎かつ治療開始8週間以内の条件で抽出可能な本邦からの論文は,ボノプラザン20mg/日とランソプラゾール30mg/日を比較した2論文のみであり 62),63,4週間後,8週間後と非治癒リスク比に有意差は認めなかった 1.従ってGERD診療ガイドラインにおいては,軽症逆流性食道炎の初期治療においてPPIとP-CABはいずれも内視鏡的食道粘膜傷害の治癒をもたらし,軽症逆流性食道炎の第一選択薬として使用することを推奨するとされている 1

重症逆流性食道炎に対する初期治療に関する本邦からの報告では,ボノプラザン20mg/日の4週間投与は,PPI標準量投与による初期治療に比べて逆流性食道炎の治癒率が高く 1),83,費用対効果が優れている 84とされている.よって,GERD診療ガイドラインでは,重症逆流性食道炎の初期治療として,ボノプラザン20mg/日を4週間投与することが提案されている 1

2)逆流性食道炎の維持療法

本邦にて,ボノプラザン投与により治癒が確認された逆流性食道炎患者に対して維持療法が行われ,ボノプラザン10mg,20mgまたはランソプラゾール15mgのいずれかを1日1回24週間経口投与したRCTが行われ,ボノプラザン10mg群の内視鏡所見での逆流性食道炎の再発率は5.1%,20mg群では2.0%であり,ランソプラゾール15mg群の16.8%に比べ再発率が低いことが報告されている 64

軽症逆流性食道炎の再発率を比較すると,ランソプラゾール15mg群では11.0%の患者に再発がみられたのに対し,ボノプラザン10mg群では3.1%,20mg群では1.3%と再発率が低い 1),64.さらに逆流性食道炎の維持療法に関するネットワークメタアナリシスによる間接比較の結果,PPI半量投与による維持療法と比較して,ボノプラザン10mgは有意に高い治癒状態の維持効果を示していることから,ボノプラザン10mgの維持療法の効果はPPIと同様またはそれ以上であると考えられる 65.しかし,長期投与における安全性の問題も確認しておく必要がある.PPIの長期投与に関しては,懸念される有害事象はあるもののその影響はわずかでありPPI長期投与の安全性は高いとされている 85.一方,ボノプラザンの長期投与における安全性に関する情報は現在のところ不十分であり長期投与中は注意深い観察が必要となる 1.従って,GERD診療ガイドラインでは,軽症逆流性食道炎の長期維持療法としては,PPIを推奨,P-CABを提案としている 1

重症逆流性食道炎の維持治療における内視鏡的再燃率は,ラベプラゾール10mgの104週間投与で27% 86,エソメプラゾール20mgの24週投与で24% 87,PPI標準量抵抗性食道炎に対するラベプラゾール20mg分割52週間投与で26%であると報告されている 88.また,重症逆流性食道炎のPPI維持治療中において,約20%で出血(Figure 8)や狭窄(Figure 9)などの合併症がみられる 89.従って,重症逆流性食道炎の長期管理においては,合併症予防の観点からも内視鏡的再発率が低いことが望まれる.重症逆流性食道炎を対象に標準量PPIとボノプラザン10mgによる内視鏡的再発率を比較した報告はないが,ランソプラゾール15mg(半量)とボノプラザン10mg・20mgとで24週後の内視鏡的再燃率を比較したRCTにおける重症逆流性食道炎のサブ解析によると,逆流性食道炎の再発率は,ランソプラゾール15mgの39.0%に対しボノプラザン10mgは13.2%,20mgは4.7%であり 64,ボノプラザン10mgと20mgとでは内視鏡的再燃率に差がなく,重篤な有害事象も認められなかった.以上の結果から,GERD診療ガイドラインでは,重症逆流性食道炎の長期管理には,内視鏡的再燃率がPPIより低いボノプラザン10mg投与が提案されている 1.しかし,標準量PPIとボノプラザン10mgとの直接比較による検討報告がないこと,ボノプラザン10mgの長期投与による影響に関するデータが不十分であることから胃粘膜の変化を含めてその安全性に関する慎重な経過観察が望まれる.

Figure 8 

出血性食道炎.

Figure 9 

逆流性食道炎により食道狭窄.

ロサンゼルス分類 Grade Dの逆流性食道炎を伴う食道狭窄を認める.

3)逆流性食道炎の治療におけるボノプラザンの効果に関する欧米からの報告

本邦で開発されたボノプラザンに関して,最近,米国と欧州における多施設で実施されたボノプラザンとランソプラゾールの初期治療と維持療法におけるRandomized Trialの結果が報告されたので紹介する 90.逆流性食道炎患者を1日1回ボノプラザン20mgまたはランソプラゾール30mg投与群に無作為に割り付け,最長8週間まで投与,さらに治癒した患者を,ボノプラザン10mg,20mg,またはランソプラゾール15mgを1日1回,24週間投与する群に再割り付けした.その結果,ボノプラザンは,逆流性食道炎の治癒および治癒の維持において,従来のPPIであるランソプラゾールに非劣性かつ優越性が示され(8週後の治癒率:ボノプラザン20mg 92.9%,ランソプラゾール30mg 84.6%,24週後の非再発率:ボノプラザン20mg 80.7%,10mg 79.2%,ランソプラゾール15mg 72.0%),この結果はより重症の逆流性食道炎(ロサンゼルス分類Grade CおよびD)で顕著に認められた(8週後の治癒率:ボノプラザン20mg 91.7%,ランソプラゾール30mg 72.0%,24週後の非再発率:ボノプラザン20mg 77.2%,10mg 74.7%,ランソプラゾール15mg 61.5%).

本邦より重症の逆流性食道炎が多い欧米において本邦からの報告と同様の成績が示されたことから,今後,欧米においてボノプラザンがより広く使用されていく可能性がある.

Ⅲ)NERDの治療

改訂ロサンゼルス分類のGrade NまたはMに分類されるNERDは必ずしも逆流性食道炎の軽症型とはいえず,逆に症状コントロールに難渋することが多い 1

NERDは逆流性食道炎と比較して臨床像が異なり,女性に多く,食道裂孔ヘルニアの合併が少なく,体重が軽い,PPI治療に反応しにくいという特徴がある 91.また,PPI抵抗性NERDでは,非酸の胃食道逆流が症状に強く関連していること,さらに,逆流の多くは弱酸の胃食道逆流であり,その近位食道への逆流の拡がりが逆流症状と関連していることが示されている 92)~94

NERDの病態には食道知覚過敏が影響することが明らかになっている 95)~99.NERDでは食道に酸を注入すると逆流性食道炎と比較してより強い症状を訴えること 95),96,NERDでは近位食道への酸注入に対してより敏感であることが報告されている 97),98.また,このことは生理食塩水の注入でも認められ,NERDでは物理刺激・化学刺激などで活性化される侵害受容体TRPV(transient receptor potential vanilloid)1の発現が増加していることが指摘されている 100),101.さらに,患者の近位食道粘膜における弱酸に対するバリア機能低下と微細炎症が病態に深く関与することも報告されている 102

近年,食道インピーダンス・pHモニタリング(multichannel intraluminal impedance pH monitoring:MII-pH)の開発,普及により,NERDには逆流性食道炎で認める酸の胃食道逆流とは明らかに異なる病態が複数含まれることが明らかとなってきた.2016年に改訂されたRome Ⅳ基準において,胸やけ症状を呈する疾患について,食道酸曝露と食道知覚の2つの観点から,逆流性食道炎,NERD,逆流過敏性食道,機能性胸やけの4つに分類された 103.すなわち,実臨床上主に使用されている広義のNERDには,①異常な食道酸曝露によるNERD(狭義のNERD),②異常な食道酸曝露を認めないが,少量の酸ないしは非酸(弱酸)の胃食道逆流によっても症状が出現している,逆流過敏性食道,③胃食道逆流とは無関係に症状が出現している機能性胸やけの3つの病態が含まれている(Figure 10 1),103

Figure 10 

GERDの病態(Rome Ⅳ基準)(文献1および103を改変して引用).

NERD患者でも酸分泌をより強力に抑制することはより高い症状消失をもたらすことが報告されている 104)~109が,症状消失率は,逆流性食道炎患者に比べてNERD患者のほうが治療4週目で約20%低いことも報告されている 110.一方,標準量のPPI投与で症状消失しないNERD患者に高用量のPPIを投与してもさらなる改善は認められていないこと 105),109,さらにP-CABでもNERDに対して有効性が示されていないのが現状である 111),112.このことは前述した通り,NERDには様々な病態が含まれているためと考えられる.すなわち,GERD症状のコントロールに難渋するのは,少量の酸もしくは非酸(pH4以上の弱酸)の胃食道逆流によっても症状が出現している「逆流過敏性食道」および胃食道逆流とは無関係に症状が出現している「機能性胸やけ」ということが推察できる.特に機能性胸やけに関しては抗不安薬の投与を含め様々な治療が行われているが確立した有効な治療方法がないのが現状である.

Ⅳ)PPIに上乗せ効果が期待できる治療

PPI治療で症状コントロールが困難な患者に対して,PPI投与に加えて行うことが検討され得る治療法につき以下に概説する.

1)生活習慣の改善

GERDの病態には,生活習慣よる影響が少なくなく,治療に際しては,薬物治療とともに生活指導を適宜行うべきである 1.本邦からもGERD患者に対する生活指導の有用性が報告されている 113.ランダム化比較試験で,生活習慣の改善に関して有効性が示されているものは,肥満者に対する減量,喫煙者に対する禁煙,夜間症状発現者に対する遅い夕食の回避,就寝時の頭位挙上である 114.そのほか,患者によっては,脂肪食,甘食,柑橘系果物摂取によって,胸やけ症状が誘発されることが知られており,該当する食品があれば,それを控える指導も有効である 1

2)制酸薬の併用

アルギン酸塩は,酸の胃食道逆流を有意に抑制し 115)~117,症状改善効果も認められる 118)~122.症状発現が頻回で,QOLに支障をきたしている重症のGERD患者ではアルギン酸塩のような制酸薬のみによる治療は現実的ではないが,本邦からNERD患者におけるPPI治療に対するアルギン酸塩の上乗せ効果が報告されている 123

3)消化管運動機能改善薬および漢方薬の併用

NERDに対する臨床試験において,モサプリド単独では有意な効果はないがPPIとの併用による上乗せ効果が認められている 124.PPI抵抗性GERDを対象とした試験において,六君子湯 125,半夏瀉心湯 126,アコチアミド 127とPPIの併用はPPI倍量投与と同等の効果があることが報告されている.PPIに六君子湯を併用したプラセボ対照比較試験では,六君子湯群とプラセボ群間で症状改善に有意差を認めなかったが,サブ解析では女性,低体重指数(BMI)患者,高齢者で症状やQOLが改善した 128.同様にPPI抵抗性GERDを対象としてプラセボ対照比較試験ではアコチアミド併用群とプラセボ群で症状改善に有意差は認めなかったが,NERD患者ではアコチアミド併用群で有意に症状の改善を認め,食道MII-pHの評価でも逆流パラメーターの改善を認めた 129.以上より,一部の難治性GERD患者では,PPIと消化管運動機能改善薬や漢方薬の併用により症状の改善効果が得られると考えられる.

Ⅴ)GERDに対する外科的治療

GERDに対する薬物療法は有効であるが,GERDの根本的な病態である逆流自体を防ぐことはできない 130),131.一方,外科的治療は逆流防止機構を再建しGERDの病因を生理学的かつ機械的に改善する根本治療であり,PPI抵抗性GERD,長期的PPI投与を必要とするGERD,胃食道逆流を起因とした喘息,嗄声,咳嗽,胸痛,誤嚥などの食道外症状を有するGERDに対しては,食道噴門形成術(Nissen法やToupet法)施行を検討する 130)~134.特に,腹腔鏡下逆流防止手術(laparoscopic anti-reflux surgery:LARS)の導入により外科治療は欧米を中心に急速に普及した 135),136.しかし,胃食道逆流防止手術の長期成績として,胸やけや逆流などGERDの主症状の制御率は高いものの,PPI治療と比較して同等以上の治療成績があるとまではいえないのが現状であり 137,その適応に関しては十分に検討する必要がある 1

Ⅵ)GERDに対する経口内視鏡的治療

GERDに対する内視鏡的治療は,2003年ごろより欧米を中心に行われるようになり,①噴門部に皺襞を形成する方法 138)~142,②Lower Esophageal Sphincter(LES)領域の筋層を変性させる方法 143,③LES領域に異物を挿入する方法 144),145が報告されてきた(Table 1).本邦においても①噴門部に皺襞を形成する方法が導入されたが,広く普及するには至らなかった.

Table 1 

経口内視鏡的胃食道逆流防止術.

また,本邦から粘膜切除による瘢痕により逆流防止を行う方法(ARMS(anti-reflux mucosectomy) 146やESD-G(endoscopic submucosal dissection for GERD) 147)が報告され一部の施設で施行されてきた.限定的なデータではあるが,両手技ともに安全に施行することができ,高い有効性が示されたことから,2022年4月に内視鏡的逆流防止粘膜切除術として保険適用(12,000点)となった.さらに,近年,粘膜切除術に代わる焼灼法であるARMA(anti-reflux mucosal ablation) 148なども開発されている.また,新規治療法として経口内視鏡で腹腔治療を行うnatural orifice transluminal endoscopic surgery(NOTES)の技術をもとに開発された経口内視鏡的噴門形成術(per oral endoscopic fundoplication:POEF)が井上らにより最近報告されている 149

これらの内視鏡治療は,現状では一部の施設でのみの実施に留まっていること,長期的な治療効果の報告は少ないことから,今後更なる検討が必要である.大阪医科薬科大学の太田・竹内・樋口らは,これら内視鏡的胃食道逆流防止術をendoscopic treatment for anti-gastroesophageal reflux(ESTA)と総称することを提案している.さらに,日本消化器内視鏡学会の附置研究会としてGERDに対する内視鏡治療研究会が立ち上がるなど今後この領域の発展が期待される.

Ⅵ おわりに

GERDに対する内視鏡診断と治療の現状と課題ついて概説した.内視鏡診断については,minimal changeの診断のばらつきの問題はあるもののロサンゼルス分類による診断が確立,広く普及している.内科的治療としてはPPI/P-CABが第一選択薬となるが,より強い酸分泌抑制効果があるP-CABであるボノプラザンが内視鏡的に診断される重症逆流性食道炎に対して極めて有効である.また,GERDに対する新たな内視鏡治療である「内視鏡的逆流防止粘膜切除術」が保険適応となったことから,今後,その適応および長期予後を明らかにしていく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:小池智幸(武田薬品工業株式会社,アストラゼネカ株式会社,大塚製薬株式会社,富士フイルム株式会社,第一三共株式会社),正宗 淳(武田薬品工業株式会社,大塚製薬株式会社)

文 献
 
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