GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TIPS FOR ENDOSCOPIC SUTURING USING THE DOUBLE-ARM SUTURING SYSTEM
Yohei MINATO Hirohito MORIFumio ITO
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2023 Volume 65 Issue 6 Pages 1144-1154

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要旨

外科領域では切除創の縫合は基本的で必須の手技であるが,軟性内視鏡では縫合技術開発の困難さや技術的難易度から実現が難しかった.内視鏡的縫合デバイスであるゼオスーチャーM(ゼオンメディカル社)は胃・十二指腸粘膜損傷部位の縫縮だけでなく,胃・十二指腸壁全層欠損部位の縫合閉鎖においても使用可能となっており,内視鏡治療後の潰瘍底の縫縮のみならず,消化管穿孔や内視鏡的全層切除術後の全層縫合への応用などが期待される.すでに国内で薬事承認され,日常臨床で使用可能となっており本編では,ゼオスーチャーMを用いたESD後縫縮を中心にそのコツを解説する.

Abstract

ESD has been developed as a minimally invasive treatment. However, major adverse events, including delayed perforation and bleeding are yet to be overcome. Therefore, a stronger and more secure closure method is desirable. Here, we describe the closure of a mucosal defect after ESD using a novel endoscopic suturing device.

Ⅰ はじめに

国内で開発された内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD) 1),2や経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy;POEM) 3といった軟性内視鏡を用いた治療が普及し標準化しつつあり,従来は外科手術で行われていたものが,現在は内視鏡治療で行われるようになってきた.今後は内視鏡的全層切除術(endoscopic full-thickness resection;EFTR)の発展も期待されており 4,それに伴う縫合法(閉鎖法)の確立が急務である.欧米ではOverStitch(Apollo Endosurgery, Inc., Austin, TX, USA)などがすでに商品化されており臨床応用をされている.森らがゼオンメディカル社と共同開発を行った内視鏡的縫合デバイスであるゼオスーチャーMは,軟性内視鏡下で用いる単回使用の自動縫合器であり,胃・十二指腸粘膜損傷部位の縫縮及び胃・十二指腸壁全層欠損部位を縫合閉鎖することを目的としている 5),6.すなわち対象は,ESDを含む内視鏡治療後の潰瘍底の縫縮 7や,消化管穿孔やEFTR後の全層縫合 8が想定される.

内視鏡的縫合を行うには,機器に対する知識と操作への修練が必要であり,ここでは機器の解説及びゼオスーチャーMの操作のコツを実際のESD後の潰瘍縫縮の症例を交えて解説する.

Ⅱ 必要物品及び基本動作

・内視鏡的縫合デバイス

ゼオンメディカル社製のゼオスーチャーM(Figure 1)は,軟性内視鏡下で用いる単回使用の自動縫合器でハンドル部,シース部及び先端機構部により構成される.本品が接続された内視鏡とハンドル部を操作し先端機構部を適切な位置へ移動させた後にハンドル部を操作し,先端機構部に組み込まれた滅菌糸で自動縫合を行う.なお,ゼオスーチャーMの操作は第一介助者が行う.

Figure 1 

ゼオスーチャーM.

a:全体像.ハンドル部,シース部,先端機構部から構成される.

b:ハンドル部.

c:先端機構部.

同デバイスの基本構造及び操作を完全に把握しておくことが前提となる.

装置構造として青いグリップと緑のFアームがワイヤーでつながっており,白いハンドルとRアームがワイヤーチューブでつながっている.基本的な持ち方であるが右手でグリップを左手でハンドルと装着チューブを持つようにするとよい(Figure 2).

Figure 2 

ゼオスーチャーMの基本的な持ち方.

●全体の前後運動

左手で装着チューブを持ってハンドルを引くとゼオスーチャーMの先端部が内視鏡に近づき,ハンドルを押すと遠ざかる動きをする(Figure 3).

Figure 3 

ゼオスーチャーM全体の前後運動.

●Fアームの前後動作

ハンドルを持ってグリップを押しこむとハリが開く(Fアームが下がる).

ハンドルを持ってグリップを引っ張るとハリがタマと勘合する(Fアームが上がる).

ハリが前後するのではなく,ハリの位置は固定でFアームが前後する動作であり,ハンドルは固定しグリップの前後動作を行うイメージを持つとよい(Figure 4).

Figure 4 

Fアームの前後運動.

●各アームの回転

白いハンドルを回転させるとハリが,青いグリップを回転させるとFアームが回転する.動作しにくい場合には,ハンドル・グリップを同時に捩じるように操作するとよい.

またハンドルとグリップの操作範囲は約半周であり,それ以上は基本回さない(Figure 5).

Figure 5 

各アームの回転.

●ハリ,タマ勘合

ほとんどの場合パチンorカチッ等の音と勘合した手ごたえがある.スコープのアングル操作が強くかかっている時には勘合不十分になる場合があり,その際は,少しアングルを弱めて再度グリップを引いて勘合をするとよい(Figure 6).

Figure 6 

ハリ,タマ勘合.

・内視鏡用把持鉗子

ゼオンメディカル社製のゼオタイアッパーS(Figure 7)は,スライダを前後に動かすことで先端ハネを先端コイルから突没させ組織または異物等を把持することができる.内視鏡の鉗子口に挿入してゼオスーチャーMの糸留めループを把持するのに使用する.スライダを前方に動かし,先端コイルから先端ハネを突出させる.スライダは回転式であり,糸留めループを先端ハネに引っかけたら,スライダを後方に動かして把持する.操作は第二介助者が行う.

Figure 7 

ゼオタイアッパーS.

a:全体像.

b:先端拡大図.

・内視鏡用ナイフ

ゼオンメディカル社製のフックカッターMI(Figure 8)は,スライダを前後に動かすことで先端ナイフを先端コイルから突没させ,先端ナイフに引っかけた組織または縫合糸を切断することができる.内視鏡の鉗子口に挿入してゼオスーチャーMの縫合糸を切断するのに使用する.

Figure 8 

フックカッターMI.

a:全体像.

b:ナイフ部分拡大図.

スライダを前方に動かし,先端コイルから先端ナイフを突出させる.スライダは回転式であり切断したい縫合糸を引っかけたら,スライダを後方に動かし,縫合糸を切断する.操作は第二介助者が行う.

Ⅲ 手技の実際

① 準備

ESD後の潰瘍底を観察し血管断端があれば事前に凝固止血を行う.また,ゼオスーチャーMの縫合はアームを組織の奥(ESD後潰瘍底の閉鎖時であれば,辺縁の粘膜と筋層の間にあたる)に挿入する必要があることから,潰瘍辺縁のトリミングを追加して針をかける組織を確保する.アームの構造上バイトは約5mmあれば縫合が可能である.この作業は全層欠損部の縫合閉鎖においては不要である.トリミングが不十分であるとFアームを強く押しつけることになりハリとタマが接触し勘合不良の原因となってしまう.一方で,過度にトリミングをすると縫合した組織断端部が脆くなったり壊死してしまい,術後早期に離開することにつながる可能性があるのでどの程度のトリミングを行うのがよいのかについては現在検討を重ねている.

内視鏡先端にゼオスーチャーMのシース部の内視鏡装着部を差し込み,内視鏡へ固定する(Figure 9).その際,先端機構部が内視鏡画面上で中央下方に位置するよう装着する.医療用ゼリーを内視鏡先端に塗布すると抵抗感が減り取り外しが容易である.内視鏡先端径9.9~10.2mmである直視鏡に装着が可能である.ハリ自体は収納されているが,挿入の際に食道や胃を損傷する可能性があるため必ず先端機構部を内視鏡画面で見えるようにし,抵抗がないことを確認しながら愛護的に挿入する必要がある.また,ハリが動作すると,ハリで損傷をする恐れがあるためFアームが処置部に到達するまでは,コテイホルダを取り外さないようにする.咽頭部分や消化管壁の損傷を防ぐためにあらかじめオーバーチューブ(20ダブルタイプ スリム型,TOP社)を留置しておく.

Figure 9 

内視鏡先端への装着.

② 縫合(Figure 10
Figure 10 

内視鏡先端への装着.

a:先端部の位置を合わせる.

b:ハンドル部のコテイホルダを外す.

c:ハンドルボディをハンドルグリップに接するまで手元側に引く.

d:Fアームとハリの間が開く.

e:Fアームを粘膜欠損部奥側へ挿入する.

f:ハンドルボディを前方へ押し込み組織にハリを貫通させ,Fアームに収納されているタマとハリを完全に嵌合させる.

g:ハンドルボディを手元側へ引き戻し,ハリを手前側へ移動させ,タマと係合している縫合糸を組織へ通過させる.

h:ハリを移動させたい方向へハンドルボディを回転させ,ハリを反対側へ移動させる.

i:反対側も縫合糸を組織に貫通させる.

j:内視鏡の鉗子口からゼオタイアッパーSを挿入する.

k:糸留めループを把持した状態でゼオタイアッパーSを押し出し,糸留めを把持する.

l:糸留めを潰瘍底に接する位置まで移動させる.

m:ゼオタイアッパーSのハンドルを握り込み,縫合糸を糸留めチューブで締め込み固定する.

n:フックカッターMIを内視鏡の鉗子口から挿入する.

o:糸留めとハリの間で縫合糸を切断し,ゼオスーチャーM本体を切り離す.

(1)内視鏡と共に胃内に挿入し,内視鏡操作とハンドル部の操作により先端機構部を適切な位置へ移動させる(Figure 10-a).

(2)ハンドル部のコテイホルダを外し(Figure 10-b),ハンドルグリップを保持した状態でハンドルボディをハンドルグリップに接するまで手元側に引き(Figure 10-c),Fアームとハリの間を開く(Figure 10-d).

(3)ハリが存在する側のFアームを粘膜欠損部奥側へ挿入する(Figure 10-e).処置する場所によっては内視鏡操作の都合上,ハリがあらかじめ位置しない側から処置した方がよい場合もあり,その場合は(6)の操作に従いハリを移動させる.

(4)ハンドルグリップを保持した状態でハンドルボディを前方へ押しこむ.ハンドルボディを完全に押しこむことで,組織にハリを貫通させると共に,Fアームに収納されているタマとハリを完全に嵌合させる(Figure 10-f).

(5)ハンドルボディを手元側へ引き戻し,ハリを粘膜損傷部ないし全層欠損部手前側へ移動させ,タマと係合している縫合糸を組織へ通過させる(Figure 10-g).ハリが組織から抜けにくい場合は組織を損傷する恐れがあるため無理に引っ張らず,内視鏡の鉗子口から把持鉗子等を挿入し,組織を押し出すとよい.

(6)ハンドルボディとハンドルグリップが接している状態で,ハリを移動させたい方向へハンドルボディを回転させ,ハリを反対側へ移動させる.

(7)再度(3)~(6)の操作を行い,縫合糸を組織に貫通させる(Figure 10-h).

(8)粘膜損傷部ないし全層欠損部からFアームを抜去する(Figure 10-i).

(9)内視鏡の鉗子口からゼオタイアッパーSを挿入し(Figure 10-j),ハリに装着されている糸留めループを把持し,ゼオタイアッパーSのシース先端と糸留めチューブが接するまでゼオタイアッパーSのハンドルを操作して引き込む.

(10)糸留めループを把持した状態でゼオタイアッパーSを押し出し,糸留めを把持する.この際に糸留め先端を確実に掴むように心がける(Figure 10-k).ここで先端を掴んでいないとスタックする可能性があるので気を付ける.コツとしてはタイアップを糸留め先端に押しつけて甘噛み状態で引き上げる.その後ハネが糸留め先端位置にあることを確認しゆっくりとタイアッパーSのハンドル操作で締めこみ,糸留めチューブに接触するまで引き込む.ここで引き込み過ぎるとハリから糸留めが落ちにくくなるので注意する.

(11)糸留めループを把持した状態でゼオタイアッパーSを押し出し,糸留めを潰瘍底に接する位置まで移動させる(Figure 10-l).ゼオタイアッパーSのハンドルを握り込み,縫合糸を糸留めチューブで締めこみ固定する(Figure 10-m).この固定が緩くなると不十分な閉鎖となる.

(12)縫合糸が糸留めチューブで固定された後,フックカッターMIを内視鏡の鉗子口から挿入し(Figure 10-n),糸留めとハリの間で縫合糸を切断し,ゼオスーチャーM本体を切り離す(Figure 10-o).

(13)ハンドルグリップとハンドルボディにコテイホルダを取り付け,内視鏡と共にゼオスーチャーMを体内から抜去する.

上記がゼオスーチャーMによる一連の縫合操作であり1針縫合が終了する.単回使用であるためスコープを抜去し,新たに内視鏡先端にゼオスーチャーMのシース部の内視鏡装着部を差し込み使用する.

③ 術後確認

縫合完了後に潰瘍底が完全に塞がれていることを確認する.

必要であれば止血クリップ等で補強を行う.

Ⅳ 胃ESD後潰瘍縫縮の臨床成績

早期胃癌ESD後潰瘍底の17症例に対して,ゼオスーチャーMで予防縫縮を施行した.施行医は4名で,事前に動物胃モデルを用いてトレーニングを受けた.腫瘍径中央値(範囲);18(8-36)mm,切除長径中央値(範囲)27(10-55)mm,局在部位はU領域3例,M領域7例,L領域7例,周在部位は前壁5例,後壁3例,小彎2例,大彎7例であった.全症例で内視鏡的に一括切除され,ゼオスーチャーMでの縫合は中央値(範囲)で3(2-8)針であった.完全縫縮率は94%(16/17)で,術翌日の縫縮維持率は100%(後半の7例中7例)で,5-10日後の縫縮維持率は,43%(後半の7例中6例)であった.偶発症は遅発性穿孔及び後出血率は0%であった.

胃ESD後潰瘍に対してゼオスーチャーMによる縫縮を施行した症例を提示する.胃角部大彎曲20mm大の0-Ⅱc病変のESD後で約30mmの潰瘍底に対してゼオスーチャーMを用いた縫縮を行った(Figure 11-a~f).縫縮時間は40分で術後の偶発症は生じなかった.

Figure 11 

胃角部大彎の30mmESD後潰瘍に対する縫縮.

a:胃角部大彎前壁のESD後粘膜欠損部.

b:ゼオスーチャーMの先端のFアームを潰瘍辺縁の粘膜下に挿入する.

c:粘膜欠損部の両側に縫合糸を貫通させる.

d:一針目の縫合.

e:二針目をゼオタイアッパーSで押し出し,糸留めを潰瘍底に接する位置で固定している.

f:縫合後.

Ⅴ 全層縫合

現在,切除可能なGISTの治療の第一選択は外科手術であり,偽被膜を損傷することなく安全なマージンを確保し,肉眼的に切除断端陰性で切除することが求められている.一方で海外では内視鏡治療単独での治療の報告も多く 9,2017年に発表されたAmerican Society for Gastrointestinal Endoscopy(ASGE)のガイドライン 10では消化管壁第4層由来,2-4cmで増大傾向にある消化管粘膜下腫瘍にはEFTRを含めた局所切除が勧められている.本邦での報告は限られていたが 11),12,ついに胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡的胃局所切除術が2020年9月より先進医療とし一部の施設で開始されてきた.全層欠損部位の閉鎖にはより耐久性のある縫縮強度が求められる.ゼオスーチャーMは全層縫合器であり,胃・十二指腸における全層欠損部位の縫合閉鎖が可能であるため,今後,同分野での使用も期待される(Figure 12).

Figure 12 

胃SMT(GIST)の全層切除後の縫縮.

a:穹窿部大彎の20mm大のSMT.

b:偽被膜を損傷しないように丁寧に剝離を進めていく.

c:腫瘍切除後の全層欠損部.

d:Fアームを全層欠損部奥側(胃壁外)へ挿入する.

e:ゼオタイアッパーSを押し出し,糸で両側がしっかりと寄っているのを確認する.

f:一つ目の縫合糸が糸留めチューブでしっかり固定されている.

g:計3針で欠損部がしっかり縫縮されている.

h:切除検体.病理学的にも断端はしっかり陰性であった.

i:術後10日目の内視鏡.離開なく閉鎖されている.

Ⅵ 今後の展望

ゼオスーチャーMは上述のように,粘膜縫合と全層縫合の両者に使用できる縫合器であるが,問題点の一つとして,手技の煩雑さと技術的難度の高さがあり,それに伴い手技時間が長くなることもあげられる.机上で理解しただけでいきなり使用するのはやはりお勧めできず,導入する際には,事前にレクチャー及びトレーニングモデルを用いたハンズオンセミナーを行ってから実際に施行することが望ましい.また,デバイスの先端部分が長く,距離が取れない位置や接戦方向の縫縮は難易度が高くなるため,臨床での導入をしつつデバイスの改良も同時に必要かと考える.

Ⅶ おわりに

全層縫合器であるゼオスーチャーMによるESD後潰瘍から全層縫合までの手技を解説した.内視鏡治療手技がさらに飛躍するためには,安全性の担保は不可欠であり,確実な創部の閉鎖が重要である.本法が内視鏡治療をさらなるステージへと進んでいく一助となることを願っている.

謝 辞

本研究を進めるにあたり,多大な御協力を頂いたNTT東日本関東病院 消化管内科 大圃研先生,大森赤十字病院 消化器内科 千葉秀幸先生,聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科 佐藤義典先生に深く感謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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