GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SMALL INTESTINAL GANGLIONEUROMATOSIS IN A PATIENT WITH NEUROFIBROMATOSIS TYPE 1: A CASE REPORT
Yuichi KIDATsunaki SAWADA Eri ISHIKAWAAyako SAKAKIBARATakeshi YAMAMURAKeiko MAEDAMasaya ESAKIMotonobu HAMAZAKIKentaro MURATEMasanao NAKAMURA
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2023 Volume 65 Issue 7 Pages 1232-1238

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要旨

症例は50歳女性.基礎疾患に神経線維腫症1型があり,42歳時に前医で小腸の壁肥厚と拡張を指摘されたが原因不明とされた.今回,下痢に伴う電解質異常のため前医に入院となったが,腸管拡張も高度となり,精査のため当院へ転院となった.ダブルバルーン内視鏡検査を施行したところ空腸は高度に拡張し,回腸末端に炎症性ポリープと縦走潰瘍を認めた.非潰瘍部の生検組織よりganglioneuromatosisの診断を得た.腸管のびまん性ganglioneuromatosisは神経線維腫症1型の稀な合併症であり,小腸病変を内視鏡で観察,診断し得た貴重な症例と考えられた.

Abstract

A 50-year-old woman with neurofibromatosis type 1 who hospitalized for chronic diarrhea was transferred to our hospital for evaluation of small intestinal dilatation and thickening. Transoral double-balloon enteroscopy revealed jejunal dilatation and suppressed peristalsis; however, mucosal inflammation, such as ulcers or erosions were not detected. Transanal double-balloon enteroscopy detected the intestinal stenosis with inflammatory polyps and a longitudinal ulcer. Histopathological evaluation of duodenal, jejunal, and ileal specimens by biopsy revealed ganglion cells and Schwannian cells; therefore, the patient was diagnosed with ganglioneuromatosis with neurofibromatosis type 1. Small intestinal dilatation was associated with suppressed peristalsis caused by ganglioneuromatosis and was diagnosed as secondary chronic intestinal pseudo-obstruction. Abdominal distention persisted despite conservative therapy. However, she remained asymptomatic, and oral intake remained unaffected. Ganglioneuromatosis is rare; however, clinicians should be mindful that ganglioneuromatosis is an abdominal complication associated with systemic disease such as neurofibromatosis type 1 and multiple endocrine neoplasia type 2B.

Ⅰ 緒  言

神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type1:NF1)は全身の神経や皮膚に腫瘍が発生し,様々な症状を来す常染色体優性の遺伝性疾患である.NF1遺伝子異常により発症し,カフェ・オ・レ斑や神経線維腫などの皮膚病変や,骨や眼,神経系に様々な病変を生じる.

Ganglioneuromaは神経節細胞や神経線維,シュワン様紡錘形細胞の異常な増殖を来す疾患で,多発性内分泌腫瘍症2B型(Multiple endocrine neoplasia type2B:MEN2B)やNF1に合併することが報告されている.消化管での発生は稀とされているが,今回われわれはNF1に合併したganglioneuromatosisにより,続発性慢性偽性腸閉塞症を来した症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:50歳,女性.

主訴:下痢,電解質異常.

既往歴:甲状腺機能低下症,NF1(10代で指摘),帝王切開.

家族歴:母がNF1.

常用薬:レボチロキシンナトリウム水和物,ジメチコン,ビフィズス菌整腸剤,フルスルチアミン塩酸塩.

現病歴:2012年11月に腹部膨満と食思不振を主訴に前医に入院し,腹部単純CTで広範な小腸の壁肥厚や拡張,腹腔内多発リンパ節腫大を認めた.保存的加療で症状は改善し退院となったが,慢性的な下痢や腹部膨満は持続していた.腹腔内リンパ節腫大について血液内科で精査を行い,2014年4月に開腹リンパ節生検を行ったが特異的な所見は認めなかった.小腸の壁肥厚や腸管拡張の原因は不明であったが,自覚症状は改善しており,その後は前医への通院もなく経過した.2020年3月から頻回の下痢が出現し,近医にて低K血症を指摘され,精査加療目的に前医へ入院となった.腹部造影CTで2012年と同様に十二指腸から回腸まで連続性に小腸の拡張や壁肥厚,液貯留を認め,肝表面には少量の腹水を認めた(Figure 1).補液による電解質の補正を行っていたが,入院第6病日に腸管拡張が高度となり,イレウスチューブによる減圧処置と抗生剤投与を必要とした.腹部造影CTで腸管拡張の所見の改善を確認し第16病日にイレウスチューブを抜去したが,第20病日に再度腸管拡張が高度となり,再びイレウスチューブを留置した.第25病日にダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)による小腸精査目的に当院へ転院となった.

Figure 1 

造影CT(前医施行).

十二指腸下行部から回腸末端は全体的に高度に拡張し,壁肥厚を認めた.

入院時現症:身長136.7cm,体重26.8㎏,血圧84/60mmHg,体温36.7℃,脈拍99回/分,呼吸数16回/分,酸素飽和度98%(室内気).腹部は膨満,軟で,圧痛を認めない.皮膚には多数の神経線維腫とカフェ・オ・レ斑を認める.前医でイレウスチューブを留置している.

血液生化学所見:WBC 9,400/µL,RBC 3.02×106/µL,Hb 8.5g/dL,Ht 24.6%,Plt 54.7×104/µL,TP 5.5g/dL,Alb 2.5g/dL,BUN 11.0mg/dL,Cre 0.16mg/dL,Na 128mEq/L,Cl 93mEq/L,K 5.0mEq/L,Ca 7.5mg/dL,P 1.3mg/dL,Mg 2.3mg/dL,CRP 0.35mg/dL,TSH 2.58µU/mL,freeT3 2.53pg/mL,freeT4 1.23ng/dL,T-spot 陰性,CMV(C7-HRP)陰性,CEA 4.3ng/ml,CA19-9 6.9U/ml.

経口的DBE:上部回腸まで挿入し観察した.十二指腸から上部回腸は潰瘍やびらんは認めなかったが,高度に拡張しており(Figure 2-A,B),内視鏡下のガストログラフィン造影で腸管蠕動はほぼ認めなかった.

Figure 2 

経口的ダブルバルーン内視鏡所見.

びらんや潰瘍は認めなかったが,腸管は高度に拡張・弛緩していた.

A:十二指腸水平部.

B:下部空腸.

経肛門的DBE:回腸末端に炎症性ポリープを伴う軽度の狭細化を認めたが(Figure 3-A),スコープの通過は可能であった.下部回腸に縦走潰瘍を認め,潰瘍周囲の介在粘膜には発赤や浮腫様の絨毛を認めた(Figure 3-B).上行結腸に一部白苔の付着を伴う発赤調のびらんを認めた.バウヒン弁に異常は認めなかった.ガストログラフィン造影で腸間膜付着側に片側性の縦走潰瘍と壁硬化像を認めた(Figure 4).

Figure 3 

経肛門的ダブルバルーン内視鏡所見.

回腸末端に炎症性ポリープを伴う軽度の狭細化(A)と縦走潰瘍(B)を認めた.

Figure 4 

経肛門的ダブルバルーン内視鏡下ガストログラフィン造影.

片側性の縦走潰瘍と壁硬化像を認めた.

病理組織学的所見:十二指腸水平部,空腸,回腸の拡張した腸管の非潰瘍部からの生検検体では,紡錘形のschwannian cellや大型類円形のganglion cellが粘膜固有層深部を主体に増生し(Figure 5-A,C),免疫組織化学染色にてS-100陽性(Figure 5-B),neuron specific enolase(NSE)陽性(Figure 5-D)であり,ganglioneuromatosisと診断した.回腸,結腸の潰瘍部からの生検検体の病理組織像は炎症細胞浸潤,肉芽組織を認め,ganglion cellは認めなかった.

Figure 5 

病理所見:回腸の非潰瘍部からの生検組織を提示.空腸,十二指腸水平部からの生検も同様の組織像を認めた.

A:粘膜固有層深部にganglion cellやschwannian cellの増生を認めた(HE染色,100倍).

B:schwannian cellはS-100陽性であった(S-100染色,100倍).

C:大型類円形のganglion cell(矢頭)を認めた(HE染色,400倍).

D:ganglion cellはNSE陽性であった(NSE染色,400倍).

臨床経過:経口的DBE時の生検の所見からganglioneuromatosisと診断した.NF1に合併したganglioneuromatosisが小腸の壁肥厚・拡張や上行結腸のびらんの原因と考えられた.回腸末端にわずかに狭細化を認めたがスコープの通過は抵抗なく可能であり,腸管拡張の原因はganglioneuromatosisに起因する蠕動の低下と考え,続発性慢性偽性腸閉塞症と診断した.NF1自体の根本的な治療法はなくganglioneuromatosisに対する治療は困難と考えられ,対症療法を行う方針とした.腹部膨満が持続したため,中心静脈栄養(intravenous hyperalimentation)の導入や減圧目的の腸瘻造設を検討したが本人の同意は得られなかった.イレウスチューブをクランプして経過をみたところ腹部膨満の増悪はなく,第12病日に成分栄養剤の経口摂取を開始した.成分栄養剤の増量による腹部症状悪化は認めず,第17病日にイレウスチューブを抜去して食事を再開した.モサプリドクエン酸塩を内服して定期的に排便も認め,食事形態を上げても腹部症状の悪化は認めなかった.第32病日に退院となり,現在も前医に通院している.退院後約2年が経つが,消化管運動機能改善薬や下剤の内服のみで入院を要することなく経過している.

Ⅲ 考  察

NF1は最も一般的な遺伝性疾患であり,3,000人に1人の頻度で起こるとされている 1),2.カフェ・オ・レ斑や神経線維腫などの皮膚疾患と骨や眼の症状が特徴的である 2),3.消化管の合併症ではGastrointestinal stromal tumorの頻度が高く,診断基準の参考所見とされているが,ganglioneuromatosisについての記載はない 2

Ganglioneuromaはganglion cell,nerve fiber,spindle-shaped cellの異常増殖を特徴とする 4.Shekitkaらの43例の報告によると,消化管に発生するganglioneuromaはpolypoid ganglioneuroma,ganglioneuromatous polyposis,diffuse ganglioneuromatosisの3つに分類され,それぞれ23例,7例,8例であった 5.消化管のdiffuse ganglioneuromatosisは稀な疾患であり,結腸に好発し,小腸に発生するものはさらに稀とされている 6

消化管のGanglioneuromatosisはMEN2BやNF1,Cowden病などの全身性疾患との合併が報告されており 7)~9,その症状は腹痛,便秘,腹部膨満など非特異的なものが多い 10.回腸末端の壁肥厚像や潰瘍形成を認めた症例が報告されており,Crohn病に類似しているとされる 11),12.潰瘍形成の原因は,神経の構成成分が増殖することで血管構造の部分的な損傷や虚血に陥ること,蠕動に伴う機械的な損傷などが考えられている 10),13.本症例では入院時の腹部CT所見は8年前と比較して,小腸の壁肥厚や拡張の所見はほぼ同様であった.また,問診では中学生の頃から腹部膨満を自覚しており,非常に緩徐な経過を辿った症例と考えられた.既報では粘膜下腫瘍様の病変が経過とともに潰瘍形成を来した症例が報告されており 10,症例ごとに経過は大きく異なる可能性も示唆される.

NF1は遺伝性疾患であり,現在根治的治療法はない.その合併症である消化管のganglioneuromatosisも有効な治療法は確立されていないが,罹患範囲の外科的切除が症状の改善に有効であった例も報告されている 14.しかし,本症例は腹部CTで十二指腸から下部回腸まで壁肥厚を認め,ダブルバルーン内視鏡検査で上部空腸も高度に拡張し蠕動が低下しており,十二指腸,空腸,回腸からの生検でganglion cellなどの増生を認めた.そのため潰瘍を認めた下部回腸だけではなく小腸全体が罹患していると考えられた.このように広範囲の消化管が罹患している場合に手術による腸管切除は困難である.孤発性の病変や狭窄などを呈している場合の局所的な腸管切除は有効と考えられるが,その適応や切除範囲は慎重に検討すべきである.

消化管のganglioneuromatosisは腸管の神経組織の障害による腸管の蠕動障害を来すことがあり,特に小児領域で腸管蠕動障害を来す症例では鑑別すべきという報告も認める 15.しかし,医学中央雑誌により「ganglioneuromatosis」「腸閉塞」をキーワードに検索し得たganglioneuromatosisによる腸閉塞の報告は,1例の症例報告のみであり 16,本邦における症例は比較的稀と考えられた.既報の症例は腸閉塞に対して手術を行い,術後の病理所見で診断されていた.本症例のように内視鏡検査で診断される症例は少なく,特に小腸の病変を観察し得た極めて稀な症例と考えられた.GanglioneuromatosisはNF1の合併症としても稀な病態であり,消化器内科医の間で十分に認知されていない.特徴的な内視鏡所見も明らかではなく,診断には組織学的な評価が必要である.背景に上述の全身性疾患のある患者に原因不明の腹部症状を認めた際には本症も想起し,鑑別を進めていく必要がある.

Ⅳ 結  語

NF1に合併したganglioneuromatosisにより続発性慢性偽性腸閉塞症に至った症例を経験した.消化管のganglioneuromatosisは稀な合併症であるが,MEN2BやNF1などの全身性の基礎疾患を有する患者では想起すべき疾患と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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