GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
EVOLUTION OF ULTRA-THIN TRANSNASAL ENDOSCOPY AND ITS APPLICATION IN GASTRIC CANCER AFTER HELICOBACTER PYLORI ERADICATION
Takashi KAWAI Yohei KOYAMAMitsushige SUGIMOTO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1299-1310

Details
要旨

近年内視鏡機器メーカーの創意工夫にて,極細径経鼻内視鏡は進化し,ハイビジョン化している.通常径経口内視鏡と同等な画像が得られ,さらに各種強調併用観察も可能になっている.検査中の苦痛も少なく患者の満足度は高く,心肺機能に及ぼす影響も少なく,高齢化社会において胃癌スクリーニング検査の良い適応となっている.胃癌は現在Helicobacter pylori除菌後胃癌がその多くを占め,内視鏡的特徴として陥凹型,発赤調を呈し,さらに粘膜表層には異型の少ない癌細胞を有するため,内視鏡的に診断することが難しくなっている.除菌後長期胃癌症例において未分化型胃癌の発生リスクが増加するとも報告されている.一方で胃癌リスク関連内視鏡所見として,内視鏡的胃粘膜萎縮から内視鏡的腸上皮化生に変化が生じている.細径経鼻内視鏡が,胃癌内視鏡検診に貢献することを期待している.

Abstract

Recently, the ingenuity of endoscope manufacturers has resulted in high-definition ultra-thin transnasal endoscopes. Images equivalent to those obtained with standard-diameter endoscopes can now be obtained. Additionally, various combined enhanced observations are possible. It could be beneficial for gastric cancer screening in an aging society because it causes less pain during examination, has high patient satisfaction, and has a lesser impact on cardiopulmonary function than the standard endoscopes do. Post-Helicobacter pylori eradication gastric cancer accounts for the majority of cases of gastric cancer and are difficult to diagnose endoscopically due to the endoscopic features. Patients with long-term post-eradication gastric cancer have an increased risk of developing undifferentiated gastric cancer. Endoscopic findings associated with gastric cancer risk include a change from mucosal atrophy to intestinal metaplasia. We hope that ultra-thin transnasal endoscopy will contribute to screening for gastric cancer.

Ⅰ 経鼻内視鏡の進化

① 胃癌診断能

細径スコープの進化に関してオリンパス社では,1994年にN30というファイバースコープが販売されていた.筆者らは2005年に発売されたGIF-N260から使用している.このGIF-N260,さらにGIF-XP260N,GIF-XP260NSが第一世代と言うべき細径経鼻内視鏡と思われる.患者の受容性は高く,心拍数・血圧などの循環動態に及ぼす影響は少ない 1),2も,通常径経口内視鏡と比較すると画像が劣ることが問題となっていた.Hayashiら,Toyoizumiらは通常径経口内視鏡と比較検討し,極細径経鼻内視鏡では診断能が劣ることを報告している 3),4.2010年に第二世代極細径経鼻内視鏡(GIF-XP290N)が開発され,近接することによりハイビジョン並みの画質を得ることができ,Narrow band imaging(NBI)を用いた粘膜構造(surface pattern)を観察可能となった 5.GIF-XP290Nにて検査を行った255人において白色光観察および非拡大NBI近接観察を用いて胃癌の診断能を検討した.胃癌診断の感度・特異度は白色光観察50.0%・63.6%,NBI近接観察では87.5%・93.2%とNBI近接観察の併用にて診断能が向上することを報告した 6.2020年に,第三世代極細径経鼻内視鏡であるGIF-1200Nが登場した.解像度が向上し,ハイビジョン画像となり微細粘膜構造(micro surface pattern)の観察が可能となった.GIF-XP290NとGIF-1200Nの早期胃癌診断に関する感度を検討し,GIF-XP290Nの内視鏡診断感度は白色光・NBI観察それぞれ31.8%・95.5%,GIF-1200Nではそれぞれ85.7%・92.9%であり,白色光観察診断能が極めて向上していることを報告した 7.またGIF-1200Nの画像が最新の通常径経口内視鏡GIF-EZ1500と同等の画像であることを報告した 8),9.GIF-1200N使用早期胃癌症例を提示する(Figure 1).

Figure 1 

60歳代,男性.GIF-1200N.早期胃癌(胃体中部大彎)(tub1,0-Ⅱa+c,pT1a(M),UL(-),ly(-),v(-)).

a:白色光観察では,口側にやや退色調の扁平な不整な隆起成分を認め,肛門側には退色の陥凹性変化を認める.微細な凹凸を伴う不整な発赤を観察することができる.

b:NBI近接観察.病変部,特に肛門側で,Demarcation line(DL)は明らかであり,陥凹部は不整なmicrosurface patternを認める.

一方,富士フイルムメディカルでは,第一世代極細径経鼻内視鏡であるEG270NおよびEG-470Nでは,オリンパス社と同様に患者の受容性は高く,心拍数・血圧などの循環動態に及ぼす影響は少ないも,通常径経口内視鏡と比較すると画像が劣ることが問題となっていた.EG-470Nにて発見できた早期胃癌の画像も明らかに経口内視鏡に比べ劣っていた.第二世代とのEG530N,EG-530N2およびEG-530NWでは,super CCD Honeycombを搭載し画質が向上し,視野角を120度から140度へ拡大した.但し,吉田らはEG-530NおよびEG470Nと通常径経口内視鏡の間で胃癌の検出率に有意な差はないも,内視鏡医間で極細径経鼻内視鏡による検出率の有意差が検出されるとし,極細径経鼻内視鏡は,経験豊富な内視鏡医によって慎重に行われるべきであると報告している 10.第三世代の極細径経鼻内視鏡であるEG-580NW,EG-580NW2,さらにEG-L580NWおよびEG-L580NW7が発売され,鉗子孔が2.4mmに拡大され,EG-L580NWシリーズでは,LASEREO systemが使用可能になり,極細径経鼻内視鏡においても,Blue laser imaging(BLI)やLinkled color imaging(LCI)が併用観察可能になっている.鈴木らは,細径経鼻内視鏡EG-L580NWによる胃癌の発見率7.8%(10人)であり,通常径経口内視鏡7.8%(9人)で有意差がないと報告している 11.EG-L580NW 使用早期胃癌症例を提示する(Figure 2).

Figure 2 

70歳代,女性.EG-L580NW.早期胃癌(体中部前壁)(tub1,0-Ⅱa,pT1a(M),UL(-),ly(-),v(-)).

a:白色光観察では,発赤調の扁平隆起性病変.病変部では,微細な凹凸を伴う不整な発赤を観察することができる.

b:BLI-br近接観察.病変部では,Demarcation line(DL)は明らかであり,微細な凹凸をより詳細に発赤を観察することができる.

HOYA PENTAX社では,極細径経鼻内視鏡としてEG-1540を2001年に発売し,2005年にEG1580K,2008年にEG1690K,さらに2010年にEG16-K10(EG16),2019年にEG17-J10(EG17)を発売した.画像強調観察として,2008年にSE(Surface Enhancement:表面強調),CE(Contrast Enhancement:コントラスト強調)およびTE(Tone Enhancement:トーン強調)のi-scanがある.I-scan併用EG1690K使用胃癌症例を提示する(Figure 3).OnoらはEG16-K10をなどの細径経鼻内視鏡における挿入経路が患者の受容性を検討し,経口挿入は高齢患者におけるEGD関連の不快感を軽減する可能性があり,さらに細径内視鏡の柔軟性が,特に経鼻腔挿入において,EGD関連の不快感の予測変数になり得ると報告 12),13している.さらにOnoらは先細りの体の剛性によって特徴付けられる新しい極細径経鼻内視鏡であるEG17とEG16の間でEGD検査時間を比較した.先細りのボディの剛性を持つ極細径経鼻内視鏡EG17は,EG16に比べ,主に挿入時間の短縮により,EGD検査時間を短縮することができると報告している 14

Figure 3 

50歳代,男性.EG1690K.胃癌(胃体上部大彎)(0-Ⅱc,por2,pT3,sci,INF γly0,v0).

a:白色光観察.病変部では,Demarcation line(DL)は明らかであり,陥凹部には不整な凹凸と発赤を観察することができる.

b:i-scan観察.病変部では,Demarcation line(DL)や陥凹部は不整なのコントラストが増加している.

② 背景粘膜診断

第二世代までの極細径経鼻内視鏡では,粘膜診断に近接観察が必要なため,中遠景観察による粘膜診断特に,画像強調観察による背景粘膜診断は困難であった.実際にUematsuら 15は第二世代GIF-XP290Nと第三世代GIF-1200Nを用いて,国際照明委員会(CIE)で規格化された色差(L*,a*,b*)を萎縮性胃炎および腸上皮化生において比較検討した.GIF-1200NではNBIによる萎縮の色差がGIF-290Nに比べ有意に大きかった(19.2±8.5 vs 14.4±6.2,p=0.001),一方,GIF-1200NとGIF-290Nでは,WLIとNBIによる腸上皮化生の色差は同程度であったと報告している.さらにSugimotoら 16はGIF-1200N においてTexture and Color Enhancement Imaging(TXI)を含めた画像強調観察による背景粘膜である萎縮,腸上皮化生,地図状発赤の検出の内視鏡的有効性を報告している.2群(WLI-NBI群,WLI-TXI群)に無作為に振り分け,同様に色空間を用いて求めた色差を,WLIとTXIまたはNBIの間で比較検討した.NBIとTXIでは,萎縮,腸上皮化生,地図状発赤の色差に有意差は認められなかった(それぞれp=0.553,0.057,0.703).胃炎の京都分類に基づく萎縮,腸上皮化生,地図状発赤の内視鏡スコアは,WLIとTXIで同程度であった.一方,NBIでは腸上皮化生がWLIよりも有意に高かった(p=0.018).さらに,TXIとNBIにおける萎縮と腸上皮化生の差は,WLIにおけるそれよりも有意に大きかった(萎縮.萎縮:TXI vs WLI p=.003,NBI vs WLI p<.001;腸管上皮化:TXI vs WLI p=.016,NBI vs WLI p<.001).Kawai Yらは,第三世代の極細径経鼻内視鏡EG-L580NWを用いてLCIによる木村・竹本の胃内視鏡的胃粘膜萎縮分類 17の視認性を検討した.白色光観察およびLCI観察するとともに同様に色差算出した.Helicobacter pyloriH. pylori)現感染および除菌後の患者において,萎縮境界における色差がLCI(21.58±6.97 and 27.34±10.32)は白色光観察[14.42±5.95(p=0.004)and 17.9±8.48(p<0.001)]と,LCIにて色差値が大きいことを報告 18した(Figure 4).

Figure 4 

70歳代,女性.EG-L580NW.慢性胃炎(H. pylori除菌後経過観察の胃体小彎)の内視鏡所見.

a:白色光観察.萎縮性胃炎とともに血管透見像を認める.

b:Linked color imaging(LCI)観察.萎縮性変化と周辺粘膜のコントラストが増加し,萎縮性変化の観察が強調されている.

以上第三世代の極細径経鼻内視鏡では,通常径経口内視鏡と同様に画像強調観察を含めて胃癌および背景粘膜の内視鏡診断が可能となった.

Ⅱ 除菌後胃癌および背景粘膜の変化

 H. pylori除菌治療保険適用後10年から20年(胃潰瘍2000年,EMR2010年,胃炎2013年)と長期間が経過している.特に2013年2月から内視鏡にて胃炎と診断できれば,保険診療にてH. pylori感染診断と除菌することが可能となり,年間のH. pylori除菌薬の処方件数は,2010年から2012年までは60万件から2013年には年間150万件に増加している 19.除菌治療後10年以上経過しているため,胃癌および背景粘膜に大きな変化が生じている.

① H. pylori除菌後胃癌

H. pylori除菌後胃癌の特徴として,陥凹型,発赤調を呈し,さらに組織学的に胃癌部粘膜表層には異型の少ない癌細胞を有するため,内視鏡的に診断することが難しく,H. pylori感染胃癌に比べ,粘膜下層に浸潤して発見される症例が多いと報告 20されている.さらに武らは,2007年にH. pylori除菌後9.5年まで追跡(平均3.9年)し,胃癌は,953人の患者のうち9人で発症する.H. pylori除菌後胃癌を発症するリスクは,胃粘膜萎縮が高度なほど程度増加した.胃粘膜萎縮症の程度および年齢が胃癌を発症する重要な危険因子であると報告 21していた.一方2020年にはH. pylori除菌後21.4年(平均7.1年)長期のフォローアップした結果を報告している.H. pylori除菌後68人の患者(年間0.35%)で胃癌が発見され,未分化型胃癌の標準化出現率(SIRs)は,軽度の胃粘膜萎縮症の患者では無限大,中等度の萎縮を有する患者では10.9であったと報告している.内視鏡的経過観察は,胃萎縮の重症度に関係なく,ピロリ菌の治癒後10年を超えて継続されるべきである 22とまとめている.除菌10年を境にして,除菌後胃癌が大きく変化している.

② H. pylori除菌後背景粘膜

除菌後14年間経過観察可能であった症例を提示する.除菌前には白色光観察において胃体部小彎を中心に明らかな血管透見像を認め,萎縮性変化は小彎側の噴門部広がり,さらに前・後壁に拡がる高度な萎縮を認める.木村・竹本分類ではOpen typeⅡであった(Figure 5-a).体部小彎において,除菌5年後(Figure 5-b)では血管透見像を視認することが可能であるが,除菌7年後(Figure 5-c)では血管透見像を視認することが困難となり,除菌12年後(Figure 5-d)では血管透見像はほぼ消失している.一方で同胃体部小彎後壁よりに除菌14年後(Figure 5-e)では地図状発赤の出現を認める.除菌後の背景粘膜の組織学的検討としてKodamaらは 23除菌後胃粘膜を最長17年間観察した.H. pylori除菌後患者172人(男性94人,女性78人)を対象として,単核球,好中球,萎縮,腸上皮化生に関してSydneyシステムを用いて評価している.除菌前と比較して,単核球・好中球浸潤は1年以内に有意に改善した.一方,萎縮は除菌前と比較して,除菌1年後の萎縮スコアは,前庭部(1.50±0.75 vs. 1.21±1.25,p<0.01)と体部(0.59±0.75 vs. 0.18±0.52,p<0.05)と有意に低下した.萎縮スコアは,その後も減少し除菌後10年間で改善するとしている.一方,腸上皮化生は,前庭部および体部において,除菌後17年間においてスコアは有意な変化を示さず,改善しなかったと報告している.以上より除菌10年前後で,胃粘膜萎縮は組織学的および内視鏡的に改善すると思われる.

Figure 5 

60歳代,男性.慢性胃炎(H. pylori除菌前後経過観察)の胃体部小彎内視鏡所見.

a:除菌前(GIF-H260)には,萎縮性変化は小彎側の噴門部広がり,さらに前・後壁に拡がる高度な萎縮を認める.木村・竹本分類ではOpen typeⅡであった.

b:除菌5年後(GIF-XP290N),前後壁に拡がる萎縮性胃炎と血管透見像を視認することが可能である.

c:除菌7年後(GIF-XP290N),萎縮性胃炎変化を認めるも血管透見像を視認することが困難となっている.

d:除菌12年後(GIF-H190N),粗造粘膜は認めるが血管透見像はほぼ消失している.

e:除菌14年後(GIF-1200N),萎縮性胃炎変化はほぼ改善し,地図状発赤の出現を認める.

地図状発赤は,除菌後に認められる内視鏡所見であり,病理組織学的に72.7%に腸上皮化生を認めると報告 24されている.内視鏡的胃粘膜萎縮は,組織学的にも萎縮性胃炎のみを反映していると考えがちだが,内視鏡的胃粘膜萎縮は組織学的萎縮性胃炎ばかりでなく,腸上皮化生とも有意な相関があることが報告 25されている.従って除菌後長期では胃の固有胃腺である壁細胞や主細胞が再生された部位が白色調に観察され,残存している腸上皮化生の部分がYagiら 26の提唱する“色調逆転現象”として,地図状発赤が発赤調に観察されると思われる.本症例の除菌14年後に出現した地図状発赤は,色調逆転現象により発赤調に見える腸上皮化生であると思われる.

③ 胃癌リスクと関連のある内視鏡所見

胃癌リスクと関連のある内視鏡所見である萎縮,腸上皮化生,皺襞腫大,鳥肌胃炎,びまん性発赤,黄色腫あるいはびまん性発赤が報告 27),28されているが,H. pylori除菌後では皺襞腫大,鳥肌胃炎およびびまん性胃炎の所見は消失する.従って除菌後の胃癌リスクと関連のある内視鏡所見は未だ定まっていない.Moribataらは 29,早期胃癌と内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)後のH. pylori除菌に成功した122人の連続患者を調査した.ESD前のH. pyloriと関連する内視鏡的知見とH. pylori除菌後の変化を,異時性胃癌の発症に応じて評価した.Kaplan-Meier曲線は,ESD前の内視鏡的腸上皮化生を伴わない患者では,異時性胃癌の発生を認めず,H. pylori除菌後地図状発赤の出現を有する患者は,異時性胃癌を発症する可能性が有意に高かった.多変量分析は,H. pylori除菌後の地図状発赤の出現が,異時性胃癌の発症の唯一の予測因子であることを示した(HR ratio:3.61;p=0.007).Majimaらは 30H. pylori除菌後新たに診断した胃癌患者における胃炎の京都分類に記載された背景粘膜関連内視鏡的知見を評価した.高度の内視鏡的胃粘膜萎縮および地図状発赤は,非癌群より胃癌群で有意に高かった(白色光:79.8%対63.5%,LCI:79.8%対63.5%).多変量解析の結果,RACは独立した負のリスク要因であったのに対し,地図状発赤は,独立した正の危険因子であるとした(白色光:OR:2.05;p=0.03,LCI:OR,3.62 p<0.001).著者らは,除菌11年後に地図状発赤の出現とともに早期胃癌を発見した1例(症例2)を報告 31している.症例は60歳代,男性.除菌前には白色光観察において胃体部小彎を中心に明らかな血管透見像を認め,萎縮性変化は小彎側の噴門部まで広がり,高度な萎縮を認める.木村・竹本分類ではOpen typeⅠであった(Figure 6-a).体部小彎において,除菌1年後(Figure 6-b)では血管透見像を視認することが困難となり,同部位には発赤を伴う粗造な粘膜が認められた.除菌5年後(Figure 6-c)では血管透見像は消失し,粗造な粘膜のみ確認できる.除菌11年後(Figure 6-d)では粘膜面の粗造な変化も改善していた.一方で体中部小彎から体下部小彎にかけて地図状発赤の出現を認めた.さらにその肛門側に白苔を伴う不整な淡い発赤調の陥凹性病変を認めた.NBI観察に切り替えると不整な粘膜表面構造(Figure 6-e)を認め,生検にて管状腺癌(Group 5)であり,ESDを施行した.組織学的に腫瘍は粘膜層に限局した高分化型腺癌(Figure 7-a)と診断され,治癒切除が達成された.腫瘍の背景粘膜には,H. pylori除菌により再生されたと思われる壁細胞および主細胞を伴うほぼ正常な胃底腺が観察された(Figure 7-b).一方萎縮が改善した胃底腺粘膜内に腸上皮化生の残存が介在する像を認めた.背景粘膜として萎縮性胃炎でなく,胃底腺粘膜と腸上皮化生が共存する組織像が確認できた.さらに癌(赤矢印)の辺縁に腸上皮化生の残存する像が認められた.(Figure 7-c).長期除菌後において,胃粘膜萎縮は改善し胃底腺粘膜が再生される.一方腸上皮化生は萎縮に比べ改善が遅く,長期間残存する.この残存する腸上皮化生が長期除菌後胃癌発生に大きく関与している可能性があると思われる.

Figure 6 

60歳代,男性.早期胃癌(H. pylori除菌前後経過観察)の胃体部小彎内視鏡所見.

a:除菌前(GIF-XP290N)には,萎縮性変化は小彎側の噴門部まで広がり高度な萎縮を認める.木村・竹本分類ではOpen typeⅠであった.

b:除菌1年後(GIF-XP290N),血管透見像を視認することが困難となり,同部位には発赤を伴う粗造な粘膜が認められた.

c:除菌5年後(GIF-XP290N),血管透見像は消失し,粗造な粘膜のみ確認できる.

d:除菌11年後(GIF-1200N),粘膜面の粗造な変化も改善していた.一方で体中部小彎から体下部小彎にかけて地図状発赤の出現を認めた.

e:除菌11年後(GIF-1200N),地図状発赤の肛門側に白苔を伴う不整な淡い発赤調の陥凹性病変を認めた.NBI観察に切り替えると不整な粘膜表面構造(Figure 6-e)を認め,生検にて管状腺癌(Group 5)であった.

Figure 7 

60歳代,男性,早期胃癌 病理組織学的所見(Hematoxylin & eosin染色).

a:腫瘍は粘膜層に限局した高分化型腺癌であった.赤線で示す部位に癌を認める.

b:H. pylori除菌により再生された壁細胞および主細胞を伴うほぼ正常な胃底腺が観察された(青矢印).その胃底腺粘膜内に腸上皮化生の残存が介在する像を認めた(緑矢印).

c:癌(赤矢印)の辺縁に腸上皮化生(緑矢印)の残存する像が認められた.青矢印は再生された胃底腺粘膜.

欧米では,萎縮および腸上皮化生に関しては,OLGA(operative link on gastritis assessment)分類 32,OLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia assessment)分類 33を用いた組織学的検討が中心であった 34.しかし近年,早期胃癌のリスク層別化における腸上皮化生の内視鏡的グレード評価(Endoscopic grading of gastric intestinal metaplasia:EGGIM)の検討が行われている.Marcos Pら 35は早期胃癌(Endoscopic gastric neoplasia:EGN)のリスク層別化において,EGGIM,萎縮性胃炎の評価であるOLGA分類,OLGIM分類の検討をしている.EGGIMではハイビジョン内視鏡拡大および非拡大NBI観察による内視鏡的腸上皮化生所見としてlight blue crest(LBC),white opaque substance(WOS),管状模様などの腸上皮化生と関連した所見にて0点(腸上皮化生なし)1点(focal≧30)2点(extensive>30)と評価し,合計点をスコア化している.多変量解析にて,早期胃癌のリスクとの関連ではEGGIM1-4(Adjusted OR(AOR)12.9,95%CI 1.4~118.6)およびEGGIM5-10(AOR21.2,95%CI5.0~90.2),OLGA Ⅰ/Ⅱ(AOR5.0,95%CI0.56~44.5)およびOLGA Ⅲ/Ⅳ(AOR11.1,95%CI3.7~33.1);OLGIM Ⅰ/Ⅱ(AOR11.5,95%CI4.1~32.3)およびOLGIM Ⅲ/Ⅳ(AOR16.0,95%CI 7.6~33.4)であった.EGGIMが胃がんリスク層別化に適している可能性があり,また,生検の必要性を減らすことができるとまとめている.欧州ではEGGIMに関する報告が他にも多数ある 36)~39.本邦においてkawamuraらは 40胃癌のリスク評価の有用性について,胃炎の京都分類のリスクスコアリングシステム,内視鏡的萎縮分類,EGGIM,OLGA分類,OLGIM分類関連性の強さを比較した.多変量解析では,OLGIMステージ Ⅲ/Ⅳ(OR 2.8[95%CI 1.5-5.3]),高EGGIMスコア(OR 1.8[1.0-3.1]),Open type萎縮(OR 2.5[1.4-4.5])がGCリスクと有意に関連した.胃炎の京都分類では,Open type内視鏡萎縮,RAC,体部における広範なEGGIM,体部の地図状発赤が独立した高リスクの内視鏡所見とされた.これら4つの所見を用いた修正京都分類リスクスコアリングシステムは,オリジナルの京都分類(0.706)よりも優れていたとまとめている.

第三世代細径経鼻内視鏡において,このEGGIMに用いられている内視鏡的腸上皮化生の所見(LBC,WOS,管状模様)は観察可能である.LBCはUedoらにより報告 41された胃の腸上皮化生の内視鏡所見である.NBI併用拡大観察で報告されたが,ハイビジョン内視鏡においても観察可能である.上皮の辺縁部(表面)に青白色調の光の線を認め(Figure 8-a),電子拡大ではより観察しやすくなる(Figure 8-b)LBCで腸上皮化生の冊子縁を観察している.病理組織学的な腸上皮化生の診断に有用である(感度:89%,特異度:93%).WOSは,Yaoら 42により報告された腸上皮化生や胃上皮性腫瘍の上皮内に貯留した脂肪滴を観察した所見である.WOSは内視鏡からの光を通過させないため微小血管が観察できず白く見える(Figure 9-a).電子拡大ではより観察しやすくなる(Figure 9-b)腸上皮化生を内視鏡的に診断するマーカーとなり得ると報告されている 43.管状模様も腸上皮化生の内視鏡所見であると報告 36されている(Figure 10-a).管状模様の一部にはLBCを伴っていた(Figure 10-b).いずれの病変も組織学的に腸上皮化生を認めた(Figure 8-cFigure 9-cFigure 10-c).

Figure 8 

60歳代,男性.GIF-1200N light blue crest(LBC).

a:NBI観察にて胃体中部前壁に陥凹性病変を認め,light blue crest(LBC)を認めた.

b:NBI併用電子拡大観察にてよりLBCを明瞭に観察できる.

c:高度の萎縮を伴うgoblet cellを有する腸上皮化生の組織所見を認める(Hematoxylin & eosin染色).

Figure 9 

60歳代,男性.GIF-1200N White opaque substance(WOS).

a:NBI観察にて穹窿部前壁に陥凹性病変を認め,WOSを認めた.

b:NBI併用電子拡大観察にてよりWOSを明瞭に観察できる.

c:goblet cellを有する腸上皮化生の組織所見を認める(Hematoxylin & eosin染色).

Figure 10 

60歳代,男性.GIF-1200N 管状模様内視鏡所見.

a:NBI観察にて胃体中部小彎に陥凹性病変を認め,辺縁に管状模様を認めた.

b:NBI併用電子拡大観察にてより管状模様を明瞭に観察でき,さらに一部にLBCを伴っていた.

c:goblet cellを有する腸上皮化生の組織所見を認める(Hematoxylin & eosin染色).

Ⅲ まとめ

第三世代の極細径経鼻内視鏡は,ハイビジョン化し,NBIを含めた各種画像強調観察も可能となり通常径経口内視鏡と同等の胃癌発見率を有するところまで進化した.一方H. pylori除菌療法が広く普及し,さらに除菌後の期間が長期となり,胃癌および背景粘膜にも大きな変化が生じている.特に胃癌リスクと関連のある内視鏡所見として,内視鏡的萎縮性胃炎だけでなく,腸上皮化生を評価するEGGIM,さらに地図状発赤を加えた新しいリスク評価法の確立が急務である.

謝 辞

本稿を終えるにあたり,「LBC」の内視鏡診断にご指導・ご助言いただきました大阪がんセンター上堂文也先生に心より深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:河合 隆(第一三共,三木商事)

文 献
 
© 2023 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top