2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1311-1315
EUSなどの発展により微小病変の局在診断や膵切除時に外科医から正確な切離ラインを求められることがある.膵の切離ライン決定や術中超音波検査で探す時のメルクマールのために,消化管のように膵臓表面に点墨する超音波内視鏡ガイド下点墨法が行われるようになってきた.同手技の報告は多くはなく,また様々な方法が行われているが,使用薬剤,穿刺針,手技の方法,偶発症,有効性などについてまとめた上で,現状の課題について概説する.
With the advancements in EUS and other techniques, surgeons are seeking accurate dissection lines when locating and resecting small pancreatic lesions. EUS-guided tattooing has been used to mark the surface of the pancreas, similar to that of the gastrointestinal tract, to determine the dissection line and provide a marker for the intraoperative ultrasound. Although reports on EUS-guided tattooing are limited and the methods used are varied, we have summarized the drugs, puncture needles, techniques, complications, the effectiveness of the technique, and the issues currently encountered.
超音波内視鏡検査(EUS)をはじめとした画像診断の発展により膵の微小病変の発見の機会が増えている.また膵切除時に正確な切離ラインを術中に認識することでR0切除の可能性が高まる.術中に病変を正確に認識する方法は触診であるが,腹腔鏡下手術が広く行われるようになり,術中に病変を触知することができず,病変部位を認識することが難しい時がある.術中超音波検査(Intraoperative Ultrasound:IOUS)による局在診断が有用な時が,膵実質の脂肪変性などにより描出が困難になることがある.執刀する外科医からのリクエストで,局在診断目的に超音波内視鏡ガイド下点墨法(EUS-guided fine needle tattooing:EUS-FNT)が行われてきた.2002年にGressら 1)によって初めて報告され,本邦ではAshidaら 2)によって初めて報告された.その後も様々な方法での報告がされている.今まで報告されているEUS-FNTについて示す(Table 1) 1)~11).
EUS-FNTの一覧.
EUS-FNTの適応としては膵神経内分泌腫瘍をはじめ,膵管癌,主膵管型・分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN),充実性偽乳頭状腫瘍(solid pseudopapillary neoplasm:SPN),粘液性嚢胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN),漿液性嚢胞性腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN),epidermoid cystなど様々な疾患が報告されている.微小な膵病変の核出術の局在確認だけではなく,膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除の切離ライン決定に用いられる.また腫瘍サイズについては,5mmから50mmと様々である.
使用される薬剤は,India ink(墨汁),SpotTM(GI Supply,Camp Hill,PA,USA),インドシアニングリーン,メチレンブルーや「India inkとヒアルロン酸の混合液」を用いている 1)~4).
SpotTMは滅菌処理された微小な炭素粒子からなる液体であり,墨汁のように長期に渡り残存するものである.一方で,インドシアニングリーンは長期残留が望めないため,術前日,もしくは当日に施行される.その際には通常の希釈の半分の量で希釈を行い,濃度の高い溶液を用いる.術中の局注部位が緑色に変色してみえることに注意が必要である.また目視が難しい微量のインドシアニングリーン(ICG)でも高感度ICG検出装置(HyperEye Medical System:HEMS,ミズホ社,日本)にて確認することが可能となる 2)が,特殊な機器であり,一般市中病院ではほとんど導入されていないため,導入前に確認しておくべき点である.墨汁の原液は粘稠度が低く,膵表層で点状ではなく,面状に広がってしまうことがある.著者らはそれを避けるために,組織定着性と粘稠度に期待して,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)に用いられるヒアルロン酸を墨汁に混入すること,専用の機器を用いて極微量ずつ注入することで,比較的小さなマーキングを行うことが可能であった 4).
使用する針は超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)針を用いているが,主に22G針を用いている.針内の空気が超音波画面での視野を妨げるため,事前に針内を液体で満たし,腫瘍直上の膵実質内,もしくは腫瘍内に薬液を注入する 2),5).注入量については0.06mLから4mLと幅が広い.膵臓のサイズが長さ15cm程度であることを考えると,切離ラインや腫瘍の局在を示す上では1mL以上の注入を行うと,消化管と同様に数cmのサイズまで広がってしまう可能性があり,注入量は少ない方がよいと考えている 4).一方で注入量が少なすぎると手術中に視認することができず,本末転倒となる.また注入部位については,腫瘍と膵表面の間に注入することが多いが,深すぎると視認することができず,浅すぎると注入液が表層に広がってしまい,点墨ではなく,面墨になってしまう可能性がある(Figure 1).そのため刺入部が同定できる程度の文字通り点墨が望ましい(Figure 2).またEUS画面では膵実質はある程度描出可能だが,膵表面の境界は正確に認識することができないため,ある程度の余裕を持たせて深さを変えながら数カ所で微量注入し,必要に応じて穿刺針の深さを変えて少量ずつ注入を行うことが望ましいと考えている(Figure 3) 4),6).最後に針を抜去する際には針内の溶液が腹腔内に広がらないように陰圧をかけてから抜去する.
腹腔鏡下手術時の点墨のマーキング.
点というより面の広がりとなってしまったが執刀医からは好評であった.
開腹手術時の点墨のマーキング.
ほぼ点状のマーキングであり,同部位の超音波で腫瘍を正確に認識できた.
点墨の注入のイメージ.
腫瘍の直上から膵実質内に複数箇所で薬剤を注入している.
今までに様々な報告があるが,適切な穿刺針,注入薬剤や手順については確立した方法はない.一方で手技関連の有害事象は報告されていないものの,EUS-FNT後の手術の際に局所の膵炎様の炎症性変化を認めており 7),8),安全性は確立されていない.特に消化管の点墨では0.22%の感染のリスクが報告されており 12),墨汁を用いたEUS-FNTには注意が必要である.滅菌した上で用いた墨汁による点墨後の組織をHE染色で観察したところ注入した墨汁をマクロファージが貪食していたが,周囲への炎症の波及は認めていなかった(Figure 4) 4).なお文献に多く認められるSpotTMは点墨専用の薬剤であり,アメリカで販売されているが,日本国内では入手はできない.国内で販売されているインドシアニングリーンは乳腺手術などでの局所注入が行われており,比較的安全性は高いが,局所への残存期間が短いことは課題となる.
点墨した検体のHE染色.
マクロファージが墨汁を貪食していたが周囲の炎症の波及は認めなかった.
次に偶発症について述べる.既報では膵炎などは認めておらず,安全であることが報告されている.一方で,EUS-FNA針,局注液など,すべての使用機器が日本国内では適応外使用になってしまうため,実際に行う際には様々な手続きや注意が必要である.
既報では偶発症がなく,視認性が高いという結果で手術の成功に寄与したという報告が多いが,既報のほとんどが1例報告で,他に6例,13例,10例,16例の報告のみである.さらに13例と10例の報告 7),8)は著者が重なり症例が重複していると考えられる.Publication biasを考えると,同一手法でのまとまった報告が少なく,安全性や有用性については議論の余地がある.今後,多数例での報告や,使用機器や方法についての一定の指針ができることが望まれる.なお当院では2016年以降は外科医からのリクエストがなく,症例数が増えていない.
EUS-FNTは標準化された手技ではないため,確実性や安全性についての課題が残る.また特に日本国内においては保険未承認であるため,臨床試験として行う必要がある.技術的には比較的容易で,偶発症のリスクは高くないが,しっかりと必要な手続きを行った上で施行することが必要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし