2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1343-1353
EPSIS(Endoscopic pressure study integrated system)は下部食道括約筋(Lower esophageal sphincter:LES)機能を内視鏡的に評価し,24時間pHモニタリングの補助的診断法として用いることができる.胃内に送気を持続的に行うため,いわゆる負荷テストのようなものでありLESの潜在能力を試している,とも言える.EPSISは新たな分野“機能内視鏡”としてのモダリティーになりうると考えている.
The endoscopic pressure study integrated system (EPSIS) can be used to endoscopically evaluate lower esophageal sphincter (LES) function. As such, it is also an adjunct diagnostic method to 24-hour pH monitoring. Since air is continuously pumped into the stomach; it functions as a stress test of the potential of the LES. We believe that EPSIS may be a useful modality in the new field of “functional endoscopy”.
胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)の有病率は高く,日常診療で遭遇することの多い疾患である.GERDの診断には,問診,上部消化管内視鏡による食道粘膜傷害の有無の確認が必要であり,厳密な診断には24時間pHモニタリングを用いた追加精査が必要である.しかし,24時間pHモニタリングは,鼻腔からカテーテルを留置した上で24時間持続測定を行う検査法であり,簡便とは言い難い.そこでわれわれは,GERDの主病因である下部食道括約筋(Lower esophageal sphincter:LES)機能低下を内視鏡を用いて評価できると考え,低侵襲的に定量評価できる独自の内視鏡検査法:内視鏡的内圧測定統合システム(Endoscopic pressure study integrated system:EPSIS)の開発を行った.EPSISの有用性はすでに報告してきたが,通常の内視鏡検査時に胃内で送気を行うだけで,LESの機能をある程度,評価できる点に最大の特徴がある.
GERDの診断には,ガイドラインに示されるように,患者からの詳細な問診,上部消化管内視鏡検査による食道粘膜傷害の有無の確認が必要である.それでも診断が困難であれば,制酸剤内服による診断的治療を行うことも有用とされている.確定診断には,食道への酸逆流をとらえる最も感度の高い検査法:24時間pHモニタリングを行うことが標準的である.しかし,原則入院を要し,鼻腔からカテーテルを挿入した上で,24時間持続測定を行う負担を伴う.24時間pHモニタリングは,診断が難しい症例に対する有用な検査法である.
2.病態把握食道胃接合部ではLESと横隔膜脚が,食道や胃の内圧に比べて高圧帯を形成し,胃の内容物が食道内に逆流することを防いでいる.GERDのメカニズムには,一過性LES弛緩,腹圧上昇,低LES圧などの機序が主に挙げられる.このようにLESの機能障害がGERDの主病態ではあるが,この機序を簡便に評価できるモダリティーとして,EPSISを考えている.
3.LES機能の評価食道胃接合部の形態異常(食道裂孔ヘルニアの程度)は上部消化管内視鏡で評価することが可能である.これまではLES機能そのものも内視鏡的に評価しようという考えはなかった.順行性の観察においてLESは弛緩しており直接の観察が困難であるからである(Figure 1-a).一方で,胃内を送気し,内視鏡スコープを反転して観察すると,LESが収縮することに着目した.スコープをつかむような所見であることからわれわれはScope Holding signと命名し,食道胃接合部の一方弁機能を見ているものと考えた(Figure 1-b).そこで,食道内圧検査のLESとscope holding signが一致していることを実証することにより,Scope holding signはLES機能の評価に値すると報告した 1).理論的にはScope holding signのある症例とない症例に分けることができる(Figure 2)が,実際には中間的な症例も多く存在することから,胃内圧の上昇勾配や胃内圧最高値によって,Scope holding signを表現することを考えた.これらはLES機能を反映しており,GERD診断に活用できる.
The image of LES.
a:Retroflex view can observed LES.
b:Finding of LES holding the scope during insufflation.
The image of endoscopy retroflex view which scope holding sign positive or negative.
EPSISは内視鏡鉗子孔の手元のゴム装着部に専用接続器を用いて圧測定器を接続して行う.胃内で内視鏡先端を反転し,(噴門近傍に内視鏡先端を位置)噴門を観察しながらCO2の持続的送気を行い,胃内圧の圧変化を測定する.一般的にLESが正常に機能している場合は,胃内で送気を行うとLESがげっぷをさせまいと収縮し,一定程度胃内にCO2を押しとどめることが可能であり,胃内圧が漸増しその後げっぷとともに急速に圧が低下するUphill patternを示す(Rapid belching).一方で,LES機能が低下している場合には,送気を行ってもLESの収縮は見られず,CO2が噴門より持続的に流出してしまい,胃内圧上昇を認めない,もしくは非常に軽度な上昇にとどまり,圧波形が平坦となるFlat patternを示す(Slow belching).CO2過送気にて噴門が開大しげっぷが出現した瞬間の胃内圧最大値を測定し,持続送気時に示す圧波形をFlat patternやUphill patternに分類できる(Figure 3).
a:Flat pattern.
b:Uphill pattern.
上部消化管内視鏡を使用して左側臥位ルーチン検査施行.静脈麻酔を使用し,胃の膨張による患者の不快感を最小限に抑える.抗コリン薬の投与はしない.体外の内圧測定装置(TR-W550,TR-TH08,AP-C35;キーエンス,大阪,日本)と送水チューブをつなぐ.内視鏡の鉗子口よりシリンジで空気フラッシュし,圧測定器に接続されたチューブをスコープの鉗子口に装着する.胃内送気すると,胃内圧波形がリアルタイムで表示され,測定できるシステムになっている.コンピューターを連動させ,胃内圧の波形を可視化させることで,内視鏡医が送水チューブを装着するのみで,胃内圧波形をリアルタイムで表示することができる(Figure 4).
a:Computer screen.
b:If the tubing has a non-return valve attached, remove it.
c:Endoscope screen.
胃食道接合部(Gastroesophageal junction:GEJ)から約2cmの胃の体部小彎でスコープを反転させて連続的な送気を開始する.その後,げっぷによって噴門が開くまで,連続的に送気する.嘔吐反射が出現した場合は,患者が落ち着いた後にプロセスを繰り返す.最大胃内圧,最小胃内圧,圧較差,波形の傾きの4つのパラメータを抽出する.最小胃内圧はスコープ鉗子口にチューブ装着時,送気を開始した時の胃内圧と定義される.最大胃内圧は,送気により胃の内圧が少しずつ高くなり,げっぷにて胃内の空気がリリースされる圧と定義される.胃内圧が持続的に上昇するUphill pattern,一方で胃内圧の上昇が乏しいFlat patternに大まかに分けられる.圧較差(mmHg)は,最大胃内圧と最小胃内圧の間の圧力差と定義.波形の傾き(mmHg/sec)は,圧力差を最大胃内圧に到達するのに必要な時間で割ることによって算出される(Figure 5).
Waveform of EPSIS.
※Mallory-Weis症候群を避けるため,最大胃内圧が25mmHgに達した場合,または20mmHgを超えた際に内視鏡医の状況判断で送気を停止することが推奨される.
3.評価酸逆流が確認された症例においては,最大胃内圧が低く,Flat patternが多いということが示されている(Endoscopy 2019).Flat patternをとる場合にはLES機能が低下していると予想することができる.また,Uphill patternをとる場合にはLES機能がおおよそ正常であると考えられる.最大胃内圧,波形パターンだけでなく,圧較差や圧波形の傾きを測定することにより,胃酸逆流の診断精度を高めることができることも示されており 2),前述の通り4つのパラメータ抽出が推奨される(Digestive Endoscopy 2020).
単施設での検討となるが,24時間pHモニタリングにおいて食道内酸曝露時間(Acid exposure time:AET)>6%を酸逆流群,AET≦6%を便宜上,正常群と定義した場合の酸逆流群・正常群で圧波形傾き・圧較差を比較検討した場合,EGJに内視鏡的びらん所見がない場合においても,酸逆流群では圧波形傾きが有意に低く(0.12 vs 0.22mmHg/sec,p=0.0004),胃内圧較差も有意に低い(5.58 vs 11.22mmHg,p<0.0001)結果となっている.24時間pHモニタリングで酸逆流が証明された症例においては,胃内圧波形の傾き,および圧較差がより低いことが示されており 3),波形がよりフラットになるということである(Figure 6).
The waveform is flatter in the group with reflux.
また,圧較差,圧波形の傾きについては特に診断能が高く,Area under the curve(AUC)は0.8以上,また酸逆流の感度はいずれも90%以上という結果であった.現時点でのcut-off値として圧較差は4.7mmHg,圧波形の傾きは0.07mmHg/secとしている 3),4).
4.症例提示Figure 7のように,分類分けした4症例の検査データを提示する.
Case presentation.
a.症例①(Figure 8).
a:Endoscopic antegrade view.
b:Endoscopic retroflex view.
c:Waveform of EPSIS.
51歳男性.逆流性食道炎と診断した.後日,当院にて内視鏡的噴門形成術施行した.
EPSIS 圧較差:4.1mmHg 圧波形の傾き:0.11mmHg/sec.
※24時間pHモニタリング測定結果
・Acid Exposure(pH)
Percent Time Clearance pH:17.4%(Normal<4.2%)←AET,Number of Acid Episode:51回,Total Time:234.6min,Longest Episode:47.9min,DeMeester Composite Score:39.8(Normal<14.7).
・Reflux Activity(Impedance)
All Reflux Percent Time:2.8%(Normal<1.4%),All Reflux Distal Episode:57(Normal<73),All Reflux Proximal Episode:30回.
・Symptom Index
Chest pain 0/0 0%,Heartburn 0/0 0%,Belch 6/10 60%.
b.症例②(Figure 9).
a:Endoscopic antegrade view.
b:Endoscopic retroflex view.
c:Waveform of EPSIS.
40歳男性.逆流性食道炎と診断した.後日,当院にて腹腔鏡下Toupet術を施行した.
EPSIS 圧較差:8.1mmHg 圧波形の傾き:0.21mmHg/sec.
※24時間pHモニタリング測定結果
・Acid Exposure(pH)
Percent Time Clearance pH:7.4%(Normal<4.2%)←AET,Number of Acid Episode:126回,Longest Episode:5.4min,DeMeester Composite Score:20.0(Normal<14.7).
・Reflux Activity(Impedance)
All Reflux Percent Time:3.3%(Normal<1.4%),All Reflux Distal Episode:108(Normal<73),All Reflux Proximal Episode:47回.
・Symptom Index
Chest pain 7/8 87.5%,Heartburn 8/9 88.8%,Belch 27/34 79.4%.
c.症例③(Figure 10).
a:Endoscopic antegrade view.
b:Endoscopic retroflex view.
c:Waveform of EPSIS.
78歳男性.機能性胸やけと診断した.
EPSIS 圧較差:14.9mmHg 圧波形の傾き:0.34mmHg/sec.
※24時間pHモニタリング測定結果
・Acid Exposure(pH)
Percent Time Clearance pH:0.6%(Normal<4.2%)←AET,Number of Acid Episode:11回,Longest Episode:3.5min,DeMeester Composite Score:2.6(Normal<14.7).
・Reflux Activity(Impedance)
All Reflux Percent Time:0.9%(Normal<1.4%),All Reflux Distal Episode:26(Normal<73),All Reflux Proximal Episode:11回.
・Symptom Index
Chest pain 0/0 0%,Heartburn 0/0 0%,Belch 0/0 0%.
d.症例④(Figure 11).
a:Endoscopic antegrade view.
b:Endoscopic retroflex view.
c:Waveform of EPSIS.
50歳男性.過敏性食道と診断した.
EPSIS 圧較差:7.6mmHg 圧波形の傾き:0.11mmHg/sec.
※24時間pHモニタリング測定結果
・Acid Exposure(pH)
Percent Time Clearance pH:1.0%(Normal<4.2%)←AET,Number of Acid Episode:39回,Longest Episode:1.2min,DeMeester Composite Score:5.7(Normal<14.7).
・Reflux Activity(Impedance)
All Reflux Percent Time:1.4%(Normal<1.4%),All Reflux Distal Episode:58(Normal<73),All Reflux Proximal Episode:27回.
・Symptom Index
Chest pain 0/0 0%,Heartburn 0/1 0%,Belch 3/7 42.8%.
実臨床において,SHSの陽性,陰性の判断は,中間的なものがあり,必ずしも容易ではない.EPSISでは,SHSの現象を数値化,グラフ化して客観的にとらえることが可能ではある.それでも波形パターンがFlat patternかUphill patternに分類困難なことや,検査データにしても明確に分類できないことは時にある.厳密なGERD診断には,24時間pHモニタリングが必須ではあるが,EPSISは通常内視鏡検査時の補助診断として,GERD症状を訴える患者へ簡易にルーチン検査時に施行することで,LESによる逆流防止能の一端を把握することができる.
EPSISはGERD症状を有する患者さんの初回の内視鏡検査において,LES機能の評価に活用できるのではないかと考えている.今後,EPSISは,GERD診断のモダリティーの一つとして「機能内視鏡」という新たな消化器内視鏡分野への展開が期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:井上晴洋(オリンパス株式会社,トップ株式会社,ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社,武田薬品工業株式会社,富士フイルムメディカル株式会社,日本電気株式会社,アストラゼネカ株式会社)