2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1354-1363
食道静脈瘤や胃静脈瘤は,肝硬変症や特発性門脈圧亢進症などの門脈圧亢進症を来す様々な背景疾患に付随して発症する.食道静脈瘤や胃静脈瘤の治療は,背景疾患の病態に影響を与えることがある.したがって,食道静脈瘤や胃静脈瘤の治療は,患者の背景疾患の病態と血行動態を十分に理解した上で,理論的に行うべきである.本稿では,食道静脈瘤や胃静脈瘤の血行動態を把握するための診断方法,ならびに,それら血行動態を考慮した適切な内視鏡治療法について述べる.
Esophageal and gastric varices occur in association with various background diseases that cause portal hypertension, such as liver cirrhosis and idiopathic portal hypertension. Treatment of esophageal and gastric varices may affect the pathophysiology of the background disease. Therefore, the treatment should be based on a thorough understanding of the pathophysiology and hemodynamics of the patientʼs background disease. In this article, we describe diagnostic methods for understanding the hemodynamics of esophageal and gastric varices, as well as appropriate endoscopic treatment methods that take these hemodynamics into account.
近年,ウイルス性肝疾患に対する治療の進歩に伴い,治療を要する食道胃静脈瘤症例は減少傾向にあるが,一旦破裂出血を来すと,致死的となり得ることは,未だに変わりない.食道・胃静脈瘤出血に対する内視鏡治療はほぼ確立したものとなっており,緊急止血率はおおむねどの施設でも90%を超えているものと思われる.しかし,緊急止血が得られても,出血後の肝不全などで死亡する例も少なくない 1).
食道静脈瘤破裂に対する治療として,内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)が,また穹窿部胃静脈瘤破裂に対する治療としては,シアノアクリレート系組織接着剤(cyanoacrylate:CA)を用いた内視鏡治療が第一選択であることは,ほぼコンセンサスが得られている 2).
一方,食道静脈瘤に対する予防治療としては,簡便さから,最近はEVLのみ行っている施設が多いと思われる.しかしEVLのみでは再発を来すことも多いため,肝機能が良好な例では,より再発率の低い内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)による治療が望ましい.食道静脈瘤に対するEISとEVLを比較した報告例は少ないが,Gotohら 3)は短期間の検討ではあるが,EISはEVLに比べ,再発率,出血率ともに低かったと述べている.後にも述べるが,当施設では,患者の年齢や肝予備能,静脈瘤の血行動態などから,EVLとEISを使い分けている.
また,穹窿部胃静脈瘤に対する治療として,バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon occluded retrograde transvenous obstruction:B-RTO)も2018年に保険収載された.非常に有効な治療法であるが,手技が煩雑であり,どの施設でも可能とは言いがたい.そこで当施設では,CAを用いた内視鏡治療を第一選択として行っている.
本稿では,血行動態や肝予備能等を考慮した食道胃静脈瘤に対する予防的な内視鏡治療について,治療のコツなどを含め詳述する.
食道・胃静脈瘤局所の血行動態として,食道静脈瘤は左胃静脈および後胃静脈,短胃静脈が供血路となり,奇静脈や半奇静脈が排血路となる 4).一方,胃静脈瘤では,供血路は食道静脈瘤同様,左胃静脈および後胃静脈,短胃静脈であるが,噴門部小彎と噴門部大彎および穹窿部では血行動態が異なっている.すなわち,噴門部小彎の静脈瘤は基本的に食道静脈瘤と連続しており,排血路は奇静脈系である.一方,噴門部大彎,穹窿部の静脈瘤では,脾腎短絡路や横隔静脈・心囊静脈を排血路とし,食道静脈瘤とは連続性のない血行動態を呈する 5).この血行動態の違いは静脈瘤に対する治療方法を考慮する際に重要である.
2.食道・胃静脈瘤の診断法食道・胃静脈瘤の治療を行う際,静脈瘤局所および門脈の血行動態を把握することは,治療を安全かつ効果的なものにするために重要である.個々の血行動態を把握することで,最適な治療方法の選択が可能となり,また治療後の再発リスクを推定することで,治療後の適切なフォローアップ期間の設定なども可能となる.門脈血行動態の評価に用いられる診断法としては,経皮経肝的 門脈造影(percutaneous transhepatic portography:PTP)などの血管造影,透視下のEISの際に得られる内視鏡的静脈瘤造影(endoscopic varicealography during injection sclerotherapy:EVIS),腹部CTおよび腹部MRI,超音波内視鏡(EUS)がある.
腹部造影CT,中でもmulti-detector row CT(MDCT)は門脈血行動態の評価として,PTPなどの血管造影に比較して,非侵襲的で安全にできる検査であり,静脈瘤局所の血行よりは,門脈全体の血行動態の把握に有用な検査である.具体的には,胃静脈瘤の治療前の血行動態評価として有用で,左胃・後胃・短胃静脈などの供血路および,脾腎短絡路,脾門部側副血行路などの評価が可能であり,B-RTOの可否の判断,特殊な血行を呈する膵疾患による左側門脈圧亢進症の有無などを評価できる.左側門脈圧亢進症症例のMDCT画像をFigure 1に示す.また,内視鏡治療やB-RTO後の効果判定にも有用である.
62歳,男性 慢性膵炎による左側門脈圧亢進症症例.
a:上部消化管内視鏡所見.穹隆部(Lg-cf)~体上部(Lg-b)にかけてF1~F2の静脈瘤を認める.
b:MD-CT(3D-CT)画像.VR(volume rendering)像;膵炎後の膵仮性囊胞による脾静脈瘤閉塞により,脾門部の血流は胃を介して,左胃静脈から門脈へ流入する.その途中で胃静脈瘤を形成している.
静脈瘤診断に用いられるEUSにはEUS専用機と細径超音波プローブがある.EUS専用機はラジアル走査式とコンベックス走査式があり,カラードプラによる観察が可能で,貫通静脈の血流方向や血流量の評価が可能である.一方,細径プローブは,食道静脈瘤局所の血行動態把握に適しており,静脈瘤径測定,貫通静脈,壁在傍食道静脈(Peri-v),並走傍食道静脈(Para-v)など食道壁内外の詳細な観察が可能である.代表的なEUS像をFigure 2に示す.Peri-vが豊富で,太い貫通血管を有するもので,食道静脈瘤治療後の再発率が高い 6),EISによる治療後のcolor doppler EUSで,噴門部壁内血流や流入型貫通血管の残存は早期再発例が多い 7)など,EUSによる再発予測因子に関する様々な報告がなされている.EUS所見を参考にして,Peri-vが豊富で貫通血管を有するものはEISを行い,Peri-vの発達していないものはEVLを行うなど,個々の症例で適切な治療の選択を行うことが可能である.また,治療前後にEUSで食道静脈瘤壁内外の評価を行い,易再発性と考えられる症例では地固め療法の追加や,フォローアップ期間の短縮などの工夫を行うことで,出血再発を回避することが重要である.
食道静脈瘤症例のEUS像.
a:上部消化管内視鏡所見.LmF2CbRC1の静脈瘤を認める.
b:噴門部EUS像.12MHz細径プローブによる観察で,噴門部には3mm大の壁内血管と2mm大のPeri-vを認める.
c:食道EUS像.食道下部では,最大4mmの壁内血管,2~3mmのPeri-vおよびPara-vを認め,1.5mmの貫通静脈(Pv)を認める.
また,食道静脈瘤に比べて,胃静脈瘤では予防的治療の適応基準として確立されたevidenceはない.しかし,EUSによる胃静脈瘤表皮の厚さの測定が胃静脈瘤破裂予知に有用である 8)との報告もあり,胃静脈瘤症例でもEUSは有用と思われる.このように,食道胃静脈瘤の診療において,EUSは適切な治療方法の選択,安全かつ有効な治療の提供,治療後の効果判定,治療後の適切なフォローアップ指針の決定に有用な検査法である.
治療適応は出血所見(活動性出血,赤色栓,白色栓)を認める静脈瘤,出血既往のある静脈瘤,静脈瘤形態がF2以上またはred color sign(RC)陽性である.
当施設では,食道静脈瘤に対する予防的治療として,高齢者・肝機能不良例・肝癌高度進行例,EUS上Peri-v未発達例ではEVLを,それ以外ではEISを第一選択としている.当施設における食道静脈瘤に対する治療方針をFigure 3に示す.
当施設での食道静脈瘤に対する治療方針.
・鎮静:当施設では,塩酸ペチジンおよびミダゾラムによる鎮静を用いている.静脈瘤患者の中には多量飲酒歴を有しているものも多く,脱抑制を起こさないよう,塩酸ペチジンを併用し,なるべく少量のミダゾラムを用いている.
・スコープ:特別なものは必要なく,上部消化管汎用スコープか処置用の上部消化管スコープを用いればよい.
・先端アタッチメント:EISおよびAPCの際には,先端アタッチメントの装着が有用である.使用するものとしては,オリンパスのディスポーザブル先端アタッチメントD201で十分と思われる.EISは手技に慣れているものであれば,先端アタッチメントがなくとも可能であるが,初心者では非常に有用であり,またAPCではプローブと粘膜面との距離を取るためには,アタッチメントが必須と考える.
・静脈瘤治療を行う際には,処置室内に必ずSengstaken-Blakemore tube(S-Bチューブ)を準備しておく.稀ではあるが,治療時にコントロール不能な出血を来すことがあり,その際にはまずはS-Bチューブによる圧迫で一時止血を行い,止血が得られた後に再度内視鏡を挿入し,追加治療を行う.当施設では,食道・胃両方の止血が可能なトップ止血用バルーン(バリオキャスバルーン)のS-BチューブタイプL型を用いている.
a)EIS
1)EO法(血管内注入法)
透視下に硬化剤を静脈瘤内へ注入し,供血路まで血栓化させる治療法である.供血路まで血栓化させることで,より再発率の低い有効な治療となる.
・体位:静脈瘤造影で適切な像が得られるよう,仰臥位で行う.
・人員:施行医,局注針を持つ介助者に加え,透視画像を見る者,また,可能であれば,スコープを保持する者の4人以上で処置を行う.介助者およびスコープを保持する者は医師でなくともよいが,透視下でのEISでは,透視画像を見る役割が重要であり,経験のある医師が担当するのが望ましい.
・内視鏡装着バルーン:EISでは,排血路の血行を遮断するために,あらかじめ内視鏡先端に内視鏡装着バルーン(トップ)を装着しておく.
装着部位は先端ぎりぎりでよいが,先端アタッチメントを使用する際には,アタッチメントの分を空けて装着する.
・穿刺針:各メーカーより静脈瘤用の穿刺針が出ているが,当施設では,トップのバリクサーを使用している.針突出長調整可能なロック付きのCタイプを使用しており,F2以上であれば23G針を,F1では25G針を使用している.
・薬液:硬化剤はmonoethanolamine oleate(商品名:オルダミンⓇ1g)とイオパミドール等の造影剤を1:1で混和した5%EOI(ethanolamine oleate with iopamidol)を用いる.EOによるEISを行うことが決定している場合には,治療開始時に薬液を溶解・混和し,5mLの注射シリンジに入れ,造影剤とともに準備しておく.
・手技の実際:仰臥位で内視鏡装着バルーンを装着したスコープを挿入し,食道内をしっかり洗浄し,静脈瘤を観察する.穿刺部位を決定したら,胃内へ挿入した状態で,一旦穿刺針を鉗子口から出し,胃内を十分に脱気した後に食道内の穿刺部位へ戻る.穿刺部位は穿刺し易い場所でいいが,なるべく食道胃接合部(EGJ)に近い方がよい.また,治療前のEUSにて貫通静脈を認めていた際には,その部位より肛門側で穿刺する.
穿刺前に,内視鏡装着バルーンを15~20mLの空気で拡張し,排血路側の血行を遮断した後に,静脈瘤を穿刺する.静脈瘤を穿刺する際には,オリンパス社製スコープでは鉗子口が7時方向にあるため,静脈瘤を7時方向に持ってきて穿刺すると,血管内注入がうまくいく.また,穿刺する前に静脈瘤の太さを見て,針の突出長を2~4mmで調整しておく.穿刺をしたら,血液の逆流を確認し,逆血が得られれば,硬化剤(5%EOI)を注入していくが,その際には,透視画像をしっかり見ながら,静脈瘤造影(EVIS)で硬化剤が静脈瘤から供血路まで注入されるのを確認する.血管内注入できずに,血管外となった場合には,すぐに注入を中止し,バルーンを脱気した後に,別の部位を穿刺する.穿刺部位からの出血が持続することがあるが,その際には,装着バルーンを用いて,圧迫止血をすれば,数分で止血されることがほとんどである.また,血管内注入となったものの,静脈瘤が造影されない場合や,静脈瘤の一部しか造影されずに食道壁外のシャント血管が造影される場合には,血管外注入の場合と同様にバルーンを脱気後に一旦抜針し,圧迫止血後,さらに肛門側より穿刺し直すか,あるいは,抜針せずに,硬化剤の代りに純エタノールを0.5mLずつ間欠的に注入していくと,シャント血管が閉塞し,静脈瘤から供血路まで注入可能となることもある.純エタノールの1回の注入は0.5mLずつで,計3mLまでとすべきである.供血路まで硬化剤が注入できてもすぐに抜針するのではなく,なるべく長時間停滞させるのが,良好な治療効果を得るコツである.1回の治療で,穿刺可能な静脈瘤はすべて穿刺し,硬化剤を注入した方がよいが,1回の治療での硬化剤の使用量は0.4mL/Kgを越えないようにする.
また,1回目の治療で,供血路まで硬化剤を注入できても,完全閉塞に至らないことも多く,1週間後に2回目のEISを行い,再度硬化剤を注入すると,効果的な治療となる.実際,2週目の治療では,1週目の際には見られなかった供血路が造影されることがしばしばあり,供血路をしっかり血栓化させることで,再発率を低下させることが可能となる.当施設では,EISの際には2~3週間を1セッションの治療としている.なお,治療のエンドポイントの判定には,EUSでの観察が有用である.
EISの禁忌および合併症をTable 1に示す.EOの溶血作用によるヘモグロビン尿症や腎不全の予防としてハプトグロビンの投与を行う.当施設ではEOを10mL以上血管内注入した場合や処置後の尿潜血が陽性となった際には,ハプトグロビンを1V投与している.
硬化療法の禁忌と合併症.
実際の食道静脈瘤に対するEIS治療をFigure 4に示す.
食道静脈瘤に対するEISの実際.73歳,男性 アルコール性肝硬変.
a:上部消化管内視鏡所見.LmF2CbRC2の静脈瘤を認める.
b:EUS所見(12MHz細径プローブ).3mmのPeri-vおよび1mmのPvを認める.
c:EVIS像.23Gバリクサーを使用し,静脈瘤を穿刺.逆血を確認し,5%EOIを注入すると,静脈瘤とともにPvから側方へ流出するシャント血管を認めた.
d:純エタノールを0.5mLずつ間欠的に注入し,合計2mL注入したところで,シャント血管が造影されなくなり,静脈瘤の下方への造影が得られるようになり,左胃静脈および噴門静脈叢まで硬化剤を注入し,終了した.
e:EIS後APC地固め療法を追加し,4カ月後の上部消化管内視鏡所見.静脈瘤は完全に消失している.
2)AS法(血管外注入法)
静脈瘤近傍および下部食道粘膜内に硬化剤(1% polidocanol,商品名:エトキシスクレロールⓇ1%注射液:1%AS)を注入する手技であり,食道粘膜に潰瘍を形成させ,線維化により静脈瘤の消失,粘膜の硬化を図る.AS法はEO法やEVL後の残存細血管の消失を目的とする.
具体的には,EOによるEISを1~2週行った後,3週目の治療時に残存した細血管に対して,AS注入を行うか,初回治療の1セッション終了後,約1カ月後に治療効果判定目的の上部消化管内視鏡検査を行うが,その際にF1以下の細血管の残存があれば,再入院して,ASによるEISを1~2週間行っている.
実際の治療については,残存する細血管近傍に1~2mLずつ粘膜内に膨隆を形成するように注入し,1回での総使用量は20mL以内とする.
b)EVL
当施設では,Stiegmann 9)の原法に準じて,食道胃接合部付近の静脈瘤より結紮を開始し,その後はらせん状に口側に向かい結紮を行っている.1回のみの治療では,静脈瘤が一部残存してしまうため,治療を1週間隔で原則2回行っている.
オーバーチューブはTop社や住友ベークライト社のものを用い,EVLデバイスは,住友ベークライトのニューモ・アクティベイトEVLデバイスⓇを用いている.
当施設では1週間隔で行っているが,EVLのセッション間隔は2週間単位,1カ月単位など,施設により様々である.2週間ごとにEVLを3セッション施行した群と2カ月ごとに3セッション施行した群の前向き比較試験で,累積生存率に差はなかったが,累積再発率は後者で有意に少なかった 10)との報告もあり,治療間隔に関しては,検討が必要と思われる.
また,EVL単独では,再発率が高いため,ASによるEISやAPCによる地固め療法の追加が望ましく,地固め療法を施行しない場合には,密な間隔で内視鏡フォローを行い,適宜追加EVLを行う.
c)APC地固め療法
APCで食道下部(EGJ~EGJより口側5cm程度)を全周性に焼灼し,線維化を来すことで,静脈瘤再発を予防する手技である.EVL後にAPC地固め療法を追加することで,治療後の静脈瘤再発を減少させることが報告されている 11).EVLあるいはEISにて静脈瘤がF0となった時点でAPC地固め療法を施行することが肝要であり,不十分な治療で静脈瘤形態が残存した状態でAPCを行うと,再発予防効果がないだけでなく,静脈瘤からの出血を来す可能性もある.
・治療の実際:上述の如く,先端アタッチメントを装着した上部消化管用スコープを用いて,食道下部(EGJ~EGJより口側5cm程度)を全周性に焼灼する.穿孔のリスクを考慮し,当施設では,焼灼面が黒色化しない程度までの焼灼としている.
高周波発生装置はAPCが使用可能なものであれば特に制限はないが,当施設ではERBE社のVIO 300Dを用い,設定はForced凝固0.8~1.0L/min,30Wで行っている.APCプローブは直射型,側方型,円状噴射型の3種類あるが,通常は直射型を使用する.
重篤な偶発症はないが,高率に一過性の発熱を認め,軽度の狭窄を来すこともある.
食道静脈瘤に比べ,胃静脈瘤では破裂を来すことは少ないが,胃静脈瘤は血流が豊富なため,一旦破裂を来すと,大量の出血により肝不全を起こし致死的となり得る.そこで,出血危険因子(F2以上の緊満した静脈瘤,RC,びらん・潰瘍,短期間の増大,食道静脈瘤治療後の胃静脈瘤残存・新生)を有する胃静脈瘤に対しては,予防的治療が必要になる 12).当施設では,CAを用いた内視鏡治療を第一選択として行っている.
組織接着剤(シアノアクリレート系薬剤:CA)による内視鏡治療
CAを用いた内視鏡的な静脈瘤塞栓術であり,胃静脈瘤に対する緊急止血としては,第一選択の治療方法として確立されているが,予防治療としての有用性も報告されている 13),14).小原ら 15)が報告したCA・EO併用法は,孤立性胃静脈瘤に対する内視鏡治療であり,胃静脈瘤をCAで置換し,流入路をEOで閉塞する治療方法である.当施設でも胃穹窿部静脈瘤に対する待期・予防治療として,第一選択として施行している.
・鎮静:食道静脈瘤と同様である.
・スコープ:処置用の上部消化管スコープ(オリンパス GIF-Q260JやGIF-H290T)でよいが,当施設では穹窿部の静脈瘤へのアプローチのし易さおよび出血時の吸引能力の高さなどから,2チャンネルのマルチベンディングスコープ(オリンパス GIF-2TQ260M)を使用している.
・穿刺針:当施設では,トップのバリクサーの針突出長調整可能なロック付きのCタイプ23G針を使用している.以前,α-cyanoacrylate monomer(商品名:アロンアルファAⓇ)を使用していた際には,23Gでは穿刺針内で薬液が固まり,注入不完全となることがあり,20Gを使用していた.しかし,N-buthyl-2-cyanoacrylate(商品名:ヒストアクリルⓇ)では23Gでもほぼ問題なく施行できている.
・組織接着剤および硬化剤:注入する組織接着剤としては,ヒストアクリルⓇおよびアロンアルファAⓇがある.2013年に胃静脈瘤出血に用いられる組織接着剤として,ヒストアクリルⓇが薬事承認されたこともあり,現在は主にヒストアクリルⓇが使用されている.当施設でも以前はアロンアルファAⓇを使用していたが,薬事承認後は,ヒストアクリルⓇを使用している.通常脂溶性の造影剤であるリピオドールⓇと混和し使用する.濃度に関しては,いくつかの報告があるが,50%以下では血管内での停滞が不確実であり,80%以上になると造影が不良となり,透視下での観察が困難となるため,至適濃度としては,60~80%と考えられている.当施設ではアロンアルファAⓇを使用していた際には,静脈瘤径を見て62.5%と75%を使い分けていたが,現在は75%の濃度で使用している.
薬液は静脈瘤を観察し,治療を行うことが決定した時点で,ただちに調整する.ヒストアクリルⓇは2.5mLのシリンジで調整するが,75%であれば,0.6mLのリピオドールⓇを満たしたシリンジで1.8mLのヒストアクリルⓇ(3本使用)を吸い,合計2.4mLにする.ヒストアクリルⓇを吸う際には,空気を吸わないようにすることが重要で,薬液内に空気が混入していると,薬液を注入する際に,穿刺針内で固まってしまうことがあるためである.穿刺の時点で,ヒストアクリルⓇは必ず2本準備しておく.これは,穿刺した際に穿刺針内で固まって,薬液がうまく注入できなかったり,抜針後に出血があった際に,すぐに次の穿刺ができるようにしておくためである.また,リピオドールⓇと混和したヒストアクリルⓇはそのままにして,穿刺までの時間が長くなると,シリンジ内で固まることがある.したがって混和後は,穿刺するまで,ゆっくり攪拌しておく必要がある.穿刺するバリクサー針は造影剤(イオパミドールなど)で満たしておき,換えの造影剤も5mLシリンジで数本準備しておく.
・手技の実際:食道静脈瘤同様,良好な静脈瘤造影像を得るために,仰臥位で内視鏡を挿入し,胃内をしっかり洗浄し,静脈瘤を観察する.穿刺部位を決定したら,5mLシリンジの造影剤をセットした穿刺針を鉗子口から出し,穿刺針の長さを最大に調整しておく.穿刺部位は穿刺し易い部位でいいが,静脈瘤の頂部付近を穿刺すると,呼吸姓変動などで安定せずに針が抜けてしまったり,注入時に先端がずれて血管外注入となったりするので,頂部は避けた方がいいと思われる.
透視で針の先端がスコープと重なったりしないことを確認し,静脈瘤を穿刺する.穿刺したら,逆血を確認し,まずは造影剤を注入し,造影してみる.初回の穿刺では静脈瘤は造影されないことが多く,その場合には,2.5mLのシリンジに満たした75%ヒストアクリルⓇを一気に注入する.その際,造影剤のシリンジからヒストアクリルⓇのシリンジに変える前に造影剤で穿刺針内をしっかりフラッシュし,穿刺針先端の逆流した血液を押し流した上で,素早くシリンジを交換し,一気に注入する.そのためには,穿刺針を持つ介助者と薬液を渡す者との協調が重要である.バリクサー内のプライミング容量が1mL前後であるので,すべての薬液を注入すると,1回の穿刺で1.4mLのヒストアクリルⓇが注入されることになる.透視にて,ヒストアクリルⓇが体循環などへ流出せず,静脈瘤内に停滞しているのを確認し,抜針する.抜針すると,穿刺部位から出血を来すことがあるが,少量であれば自然に止血するため,慌てる必要はない.しかし,すぐには止血が得られないこともあるため,その際にすぐに2回目の穿刺ができるように,抜針する際には,あらかじめ造影剤を満たした新たな穿刺針とヒストアクリルⓇを準備しておく.
2回目以降の穿刺部位は1回目とは異なるところを穿刺するが,治療の目標は供血路まで塞栓させることである.通常,後壁寄りを穿刺すると左胃静脈が,大彎寄りを穿刺すると後胃静脈が,前壁寄りを穿刺すると短胃静脈が造影されることが多い.治療前の3D-CTから得られた血行動態を参考にしつつ,穿刺部位を決定するとよい.2回目以降の穿刺の際,造影剤の注入で,供血路が造影された際には,ヒストアクリルⓇではなく,5%EOIを注入する.その際は食道静脈瘤同様,門脈へ流出しないよう注意しながら,ゆっくりと間欠的に注入していく.そのようにして,数回穿刺を行い,静脈瘤および供血路までヒストアクリルⓇあるいはEOを注入できれば,治療終了とする.
すべて血管内へ注入できればいいが,呼吸性変動などで,穿刺針がずれ,血管外注入となった際には,静脈瘤造影が確認しにくくなることがある.その際にはあまり無理をせず,治療を終了とし,1週間後に2回目の治療を行うようにする.
当施設では,治療は1~2回で終了としている.
CAによる内視鏡治療の合併症としては,大循環への流出による肺塞栓・脳梗塞・門脈および脾静脈閉塞などの他臓器塞栓が報告されている 16).
CA・EO併用法の実際をFigure 5に示す.
胃穹窿部静脈瘤に対するCA・EO併用法の実際.54歳,男性 アルコール性肝硬変.
a:上部消化管内視鏡所見.Lg-cfF2CwRC0の静脈瘤を認める.
b:EUS所見(12MHz細径プローブ).最大径6mmの壁内血管を認める.
c:MD-CT画像.胃静脈瘤は胃腎短絡路を流出路とし,左胃・後胃・短胃静脈を供血路としている.
d:EVIS像.静脈瘤を直接穿刺し,血液の逆流を確認後,造影剤単独で静脈瘤造影を行ったところ,造影が不良なため,62.5%CAを注入した.
e:EVIS像.その後他の部位を穿刺し,造影すると造影剤が停滞したため,5%EOIを注入.短胃・後胃および左胃静脈の一部が造影された.
f:治療後6カ月の上部消化管内視鏡所見.一部CAが残存しているものの,静脈瘤はほぼ消失している.
食道・胃静脈瘤の血行動態,診断方法,各種の内視鏡治療法につき述べた.静脈瘤は門脈圧亢進症を来す様々な疾患に付随して発症する.静脈瘤の治療により,原疾患を悪化させることは避けなければならず,そのためには基礎疾患の病態および血行動態を十分把握し,治療を行うことが重要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし