2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1364-1371
スクリーニング内視鏡検査は,胃癌の発見と予後の改善に有効である.しかし,熟練した内視鏡医であっても,通常の白色光観察では早期胃癌を見落とすことがある.Texture and Color Enhancement Imaging(TXI)は,明るさ,表面の凹凸(隆起や陥凹),わずかな色調の変化を強調する画像強調内視鏡技術である.これまでの内視鏡画像を用いた研究では,白色光とTXIにおける胃癌の病変部と周囲の背景胃粘膜との色差が検討されている.これらの研究では,白色光と比してTXIでは色差が有意に高いことが示されただけでなく,早期胃癌の視認性においても白色光と比してTXIモード1が優れていることが報告されている.
これまでの報告からは,TXIが早期胃癌の発見に貢献することが期待される.しかし,実際の臨床におけるTXIの有効性は明らかとはなっておらず,今後スクリーニング内視鏡検査を受ける患者を対象とした大規模な前向き研究が必要である.
Screening endoscopy improves detection and prognosis of patients with gastric cancer. However, even expert endoscopists can miss early gastric cancer under standard white light imaging. Texture and color enhancement imaging (TXI) is an image-enhanced endoscopy that enhances brightness, surface irregularities such elevation or depression, and subtle color changes. A few image-oriented studies have compared the gastric color differences between neoplastic and peripheral areas under both white light imaging and TXI. The results not only suggested that the overall color differences to be more pronounced in TXI, but also that TXI mode 1 was superior to white light imaging in the visibility of early gastric cancer. Despite the promising results in these initial studies, it is unclear whether the superiority of the image-enhanced endoscopy will translate into an improvement in early gastric cancer detection in real practice. Therefore, large-scale prospective studies are necessary to investigate the efficacy of this new technology in the evaluation of patients undergoing screening endoscopy.
胃癌は世界において頻度の高い悪性腫瘍の1つであり,年間100万人以上が罹患し,癌全体の5.7%を占めている 1).病期IA期の早期胃癌患者の5年全生存率は90%以上だが,病期Ⅳ期では20%以下と不良である 2).従って,早期胃癌は治癒可能な疾患であり,胃癌の早期発見は非常に重要な課題である.
アジア諸国では,胃がん検診の検査方法として主に上部消化管内視鏡検査が用いられている 3),4).韓国における大規模な症例対照研究では,スクリーニング内視鏡検査を行うことにより胃癌死亡率が有意に低下することが報告されている 4).胃の内視鏡観察法として白色光観察(White light imaging:WLI)が最もよく行われているが 5),見落としなく早期胃癌を発見するためには経験と高い技術が必要となる.早期胃癌は,主にわずかな色調差や凹凸を伴う病変として発見され,良性の炎症性変化と区別がつかないことが多く,既報において内視鏡検査における胃癌の見逃し割合は4.6~25.8%と報告されている 6)~12).WLIで早期胃癌を見落としなく発見するためには,わずかな粘膜の性状や色調差といった微細な内視鏡所見に注目する必要があり,白色光観察の質を向上させることにより胃癌の見落としが減少することが期待されている 13).なお,画像強調内視鏡が早期胃癌の発見に有効かどうかはまだ十分に検討されていない 5).
Texture and Color Enhancement Imaging(TXI)は,スクリーニング内視鏡検査の質を向上させることを目的に開発された新たな画像強調内視鏡技術(image enhanced endoscopy:IEE)である.TXIはWLIをベースとしたIEEで,粘膜表面のわずかな凹凸を強調し,暗部の明るさや色の変化を強調するように設計されている.本稿では,早期胃癌の診断におけるTXIの現状と今後の展望を紹介する.
TXIは,オリンパス社にて開発された新しいIEEであり 14),Retinex理論に基づく画像処理技術を利用している 15).
TXIは,主に6つの処理で構成されている(Figure 1).(1)白色光観察で撮像された画像は最初にsingle-scale Retinex algorithm 16)によりbase layerとdetail layerに分離される.ここで,base layerは,画像の明るさ成分に相当し,detail layerは画像内の局所的な明るさや色調のコントラスト成分に相当する.(2)画像内の暗部の明るさが補正される.一般的に,画像内の部分的な明るさ補正は,内視鏡の照明光制御だけでは困難である.base layerは,画像の明るさ成分に相当するため,この成分に対して画像処理にて暗部の検出と明るさ補正を行うことで,部分的な明るさ制御が実現可能となる.(3)base layerのダイナミックレンジを圧縮する.TXIでは,入力画像ではなく,base layerのみのダイナミックレンジを圧縮することで,detail layerに含まれる凹凸や色調の局所的なコントラストを維持することが可能となる.(4)texture enhancementをdetail layerに適用し,局所的な凹凸や色調のコントラストを強調する.(5)画像強調されたbase layerとdetail layerを合成し,TXI画像を得る.(6)さらに,1976年にthe International Commission on Illuminationで規格化されたLab色空間 17)において,特に赤色と白色の色調差をより強調するような処理を適用し,もう1つのTXI画像を得る.TXIには,TXIモード1(凹凸と明るさ,色調の強調)とTXIモード2(凹凸と明るさの強調)の2つの設定がある.TXIモード2は,色調強調処理を含まないため,モード1と比してよりWLI観察の色調に近い画像として描出される.
Texture and color enhancement imaging(TXI)のアルゴリズム.
WLI画像はdetail layerとbase layerに分離される.Detail layerを強調することで,粘膜の凹凸を強調する.また,画像の中の暗い領域を選択的に明るくし,base layerの明るさを調整する.強調された2つのlayerを合成し,TXI画像を出力する.また,出力画像の色差,特に白と赤の色差をcolor enhancementにより強調する.本アルゴリズムにより,凹凸,明るさ,色調を強調するモード1と,凹凸,明るさを強調するモード2の2種類のTXI画像を出力することが可能となる.
Satoはブタの消化器内視鏡画像を用いTXIの定量的解析を行った 14).この研究では,TXIモード1およびモード2は,WLIと比して暗部の明るさの補正により,照明の不均一性の標準偏差(Standard deviation:SD)を低減できることがわかった(WLI/TXIモード1/TXIモード2=25.2/23.9/24.1).さらに,TXIモード1はWLIやTXIモード2よりも色差が大きい結果(WLI/TXIモード1/TXIモード2=6.0/14.6/10.6)であった.これはTXIモード1が色調強調を含む一方,TXIモード2にその処理が含まれない,というTXIアルゴリズムと合致する結果であった.
TXIは,2020年にオリンパス社より製造販売されたEVIS X1システムに搭載された新たなIEEである.この画像強調技術を用いて胃上皮性腫瘍の色差や視認性を評価した臨床研究は2報のみである.
a)胃上皮性腫瘍と背景胃粘膜との色差Ishikawaらは,WLIとTXIにおいて,胃癌と腺腫12病変の病変部と周辺の胃粘膜の色差を解析した 18).この研究では,研究者が各画像の病変部と周辺部のポイントを設定し,病変部と周辺部の色差(ΔE)をCIE L*a*b*色空間システムを用いて算出した 17).WLI,TXIモード1,TXIモード2におけるΔE±SDはそれぞれ8.0±4.3,18.7±16.0,10.2±8.4であった.色差は,TXIモード1がWLI,TXIモード2より有意に高かった.同様に,Abeらは内視鏡的粘膜下層剝離術で切除した早期胃癌20病変の癌部と周辺部の色差を評価している 19).本研究では,GIF-H290ZとLUCERA ELITEシステム(オリンパス社)で得られた画像データを使用した.生画像データから距離,角度,送気量が一致したWLI,TXIモード1,TXIモード2の早期胃癌の内視鏡画像をコンピュータシミュレーションにより再構築し,病変部と周辺部外周点の色差ΔEを評価した.WLI,TXI mode 1,TXI mode 2における平均ΔE±SDは,それぞれ10.3±4.7,15.5±7.8,12.7±6.1であった.平均ΔEはWLIよりTXIモード1で有意に高かった(p=0.04)が,TXIモード1とTXIモード2の比較(p=0.54),WLIとTXIモード2の比較(p=0.61)で有意差はなかった.
b)WLIとTXIにおける早期胃癌の視認性の検討Ishikawaらは,6名の内視鏡医が胃上皮性腫瘍の内視鏡画像を読影し,視認性スコアを比較した.胃上皮性腫瘍の視認性スコアは,TXIモード1およびTXIモード2において,WLIに比べ有意に視認性が高く,インジゴカルミンを用いた色素内視鏡検査でも同様の結果が示された 18).Abeらの研究では,4名内視鏡医が40枚のペアとなった早期胃癌の内視鏡画像(WLIとTXIモード1で20ペア,WLIとTXIモード2で20ペア)を読影し,WLIと比したTXIモード1および2での早期胃癌の視認性を評価した.WLIと比較した場合,TXIモード1では35%,TXIモード2では20%の症例で視認性が向上した.TXIモード1では肉眼型が0-Ⅱaまたは0-Ⅱa+Ⅱcよりも0-Ⅱcまたは0-Ⅱbで視認性スコアが有意に改善した(p=0.04) 19).代表的な症例をFigure 2に示す.早期胃癌の視認性は,背景胃粘膜の萎縮の程度,Helicobacter pylori(H. pylori)感染状態,癌の組織型,局在,腫瘍径,深達度とは関連がなかった.なお,本研究ではTXIモード2において視認性向上と関連する病変の特徴はなかった.
TXIにより視認性が向上した早期胃癌の1例(提供:Abe Sら,文献19.画像はGIF-H290ZとLUCERA ELITEの生画像データからコンピュータシミュレーションにより画像再構成を行ったものである).
a:WLI.前庭部前壁にやや褪色調の陥凹性病変を認める.
b:TXIモード1.陥凹部と褪色の色調が強調された.視認性は改善されたと評価された.
c:TXIモード2.陥凹部が強調された.視認性は改善されたと評価された.
これまでに胃上皮性腫瘍におけるTXIの有用性を評価した研究は2編しか発表されていない.いずれもWLI,TXIモード1,TXIモード2の比較において,TXIモード1が色差と視認性スコアが最も高く,この画像強調技術がスクリーニング内視鏡における早期胃癌の発見率を改善する可能性を示唆するものであった.この2つの研究成果は,TXIの開発コンセプトとも一致し,Satoによる非臨床の動物実験の結果を検証する結果となった 14).さらに,これら2つの研究により,TXIモード1が実臨床においても胃上皮性腫瘍の視認性を向上させることが示唆された.
WLI観察下では,明るさが十分な観察条件であっても早期胃癌の粘膜の色調変化(発赤あるいは褪色)や粘膜表面の形態変化(隆起または陥凹)といったわずかな内視鏡所見が見落とされる可能性がある.これまでの画像ベースでの臨床研究では,TXIは粘膜のわずかな色調や形態の変化を強調して早期胃癌の視認性を向上させることを示した.従って,TXIは早期胃癌の検出能も向上させることが期待される.既報のうち,著者らの研究ではTXIモード1の早期胃癌の視認性は隆起型と比して陥凹あるいは平坦型の早期胃癌においてより改善したことを報告した.日常臨床においては0-Ⅱc型早期胃癌の頻度が最も高いことから,この結果は特に重要であり,色調強調と構造強調の組み合わせが0-Ⅱcあるいは0-Ⅱb型早期胃癌の視認性を向上させたと考える.
これまでの既報において,H. pylori除菌後胃癌は主に小さな発赤調の陥凹性病変であり,病変の認識や側方範囲診断が困難であることが報告されている 20)~23).従って,TXIモード1は陥凹性病変が主体であるH. pylori除菌後胃癌の視認性を向上させることが期待される.一方,少数例の内視鏡画像を用いた著者らの既報では,H. pylori感染状態とTXIによる早期胃癌の視認性については統計学的な関連を認めなかった.TXIが早期胃癌の発見率向上に貢献するかどうかは,今後の大規模な前向き研究で検討する必要がある.
他のIEEにおいても,早期胃癌の視認性と発見率を向上する可能性がある 24).例えば,2つの短波長の強い狭帯域レーザー光の組み合わせからなるBlue laser imaging(BLI)は,WLIと比して早期胃癌の発見率が高いことが報告されている 25).Linked color imaging(LCI)も胃粘膜の色調の変化を強調するIEEである.LCIは,白色光と短波長狭帯域光の同時照射を含むWLIをベースとした技術である.LCIは色差を強調し,腸上皮化生を伴う背景胃粘膜をラベンダー色に描出することが報告されている 26).LCI-FIND試験においては,LCIはWLIと比して咽頭,食道,胃の腫瘍性病変の検出において,優れていた 27).しかし,胃の腫瘍性病変検出率には有意差はなく(3.3% vs. 5.5%),これはサンプルサイズが少ないことが原因と思われる.TXIはLCIとは異なり,腸上皮化生を伴う背景胃粘膜を特異的な色調で描出する機能はないが,WLIと比較して粘膜の凹凸を強調することが特長である.WLIとTXIモード2を比較した前述の先行研究によると,TXIのtexture強調は,病変部と周辺粘膜の色差も増加させる 18),19).Yoshida らによる無作為化比較試験では,narrow-band imaging(NBI)はWLIと比較して実臨床での早期胃癌の発見率を向上させないと結論づけている 28).本邦の早期胃癌診療ガイドラインでは,IEEによるEGC検出の有効性は依然として不明であるとされている 5).TXIは新しいプロセッサEVIS X-1に搭載されているが,EVIS X-1は,従来のEXERA ⅢやLUCERA ELITEと比較して,WLIやNBIの画質が向上している.また,オリンパス社は新たに高画質なCMOSイメージセンサーを搭載したハイビジョン内視鏡が開発され,WLIとNBIの画質を向上させることができた(Figure 3,4).このように,TXI,WLI,NBIだけではなく,最新の内視鏡プロセッサやハイビジョン内視鏡においても,スクリーニング内視鏡検査における早期胃癌発見に有効かどうかを検討するための大規模な前向き研究が望まれる.
EVIS X-1と高解像度内視鏡で撮像した早期胃癌の1例.
a:WLI.前庭部大彎に浅い陥凹性病変を認めた.
b:TXIモード1.陥凹部と病変部の発赤調の色調が強調された.
c:TXIモード2.陥凹部が強調された.
d:Narrow-band imaging. 病変部がbrownish areaとして強調された.内視鏡的粘膜下層剝離術が施行され,切除標本は4mm,Type 0-Ⅱc,tub1,pT1a,UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0であった.
EVIS X-1と高解像度内視鏡で撮像したわずかな色調・形態変化を伴う早期胃癌の1例.
a:WLI.胃体下部小彎に内視鏡的粘膜下層剝離術後の瘢痕を認めた.瘢痕の口腔側にはやや黄色調の粗造粘膜を認めるが,観察時は病変の同定は困難であった.
b:TXIモード1.病変は浅い陥凹性病変として認識され,黄色調の色調が強調された.
c:TXIモード2.病変は浅い陥凹性病変として認識され,背景の胃粘膜とはやや異なる表面構造が強調された.
d:Narrow-band imaging. 病変部がbrownish areaとして認識された.内視鏡的粘膜下層剝離術を施行し,組織学的に5mmの早期胃癌(tub1,pT1a,UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0)であった.
消化器内視鏡の分野では人工知能(Artificial Intelligence:AI)が飛躍的に発展し,コンピュータ支援診断が早期胃癌の発見に活用されつつある 29)~32).AIは,高速かつ感度の高い早期胃癌の発見を可能とする 33).AIシステムは,胃がん検診において,検査の質を担保しつつ時間を要する内視鏡画像二次読影の負担を軽減し,また非熟練内視鏡医の診断のサポートにもなり得る有望なツールである 34).しかしながら,偽陰性・陽性例はAIによる早期胃癌の発見の大きな課題である.Hirasawaらは,AIによる偽陰性例の多くは,表層陥凹の形態を持つ5mm以下の微少陥凹性病変であることを報告している 33).従って,TXIは,明るい撮像条件で浅い陥凹性病変の視認性を向上し,テストセットの画像データを改善する理想的なIEEであると考えられる.これにより,偽陰性を減らし,AIによる内視鏡的な早期胃癌の発見の質を向上させることが期待される.
TXIの有用性を示すデータはまだ十分とはいえないものの,TXIは早期胃癌のわずかな陥凹や隆起,色調を強調することで,実地臨床における感度の高い早期胃癌の発見に役立つ可能性がある.しかし,深達度や側方進展範囲など,早期胃癌の治療方針を決定する上で重要な他の内視鏡所見については,まだ研究がなされていない.また,実際のスクリーニング内視鏡検査において,ピロリ菌感染や萎縮性胃炎に伴う背景胃粘膜の所見が,TXIを用いた早期胃癌の視認性にどのように影響するかも今後の検討が必要である.さらに,色素内視鏡検査とTXIの併用による早期胃癌の視認性もまだ十分に明らかとはなっておらず,これまでの既報においても非腫瘍性病変の視認性については解析されていない.1つの懸念として,TXIは萎縮性胃炎の色調を強調することにより,胃がん検診における偽陽性率を高める可能性もある.今後,実臨床におけるTXIの有効性と最適な使用法がさらに評価されるべきである.
TXI,特にTXIモード1はWLIと比較して早期胃癌の形態および色調の変化を強調し,早期胃癌の視認性スコアを向上させる有望なモダリティである.早期胃癌の診断におけるTXIの臨床的意義を明らかにするために今後さらなる検討が必要である.
謝 辞
本稿の投稿にあたり,専門的立場から助言を頂いた佐藤朋也氏(オリンパスメディカルシステムズ株式会社,先進画像処理技術),原稿の校正に協力頂いたEduardo da Silveira,MD,MSc(Epidemiology)(inSite Digestive Health Care,米国)に感謝の意を表する.また,本論文は国立がん研究センター中央病院がん研究開発費(2020-A-4 and 2020-A-12)により助成を受けたものである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:阿部清一郎,斎藤豊は,オリンパスメディカルシステムズ株式会社より研究費助成を受けている.その他の著者には本稿に関する利益相反はない.
本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 714-20に掲載された「Emerging texture and color enhancement imaging in early gastric cancer」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.