2023 Volume 65 Issue 8 Pages 1372-1375
当院は,1964年12月に開設された研究所を併設する総合がん専門病院であり,愛知県における都道府県がん診療連携拠点病院として県内のがん診療を牽引しています.2005年4月から組織改編に伴い愛知県がんセンター中央病院と改称されましたが,2017年4月からは再び愛知県がんセンターとなっています.2018年にはがんゲノム医療拠点病院に指定され,より高度ながん診療の推進に努めています.
組織内視鏡室は診療部門としては独立しておらず,消化器内科部,内視鏡部,呼吸器内科部の医師が診療に携わっています.消化器内科が胆膵系,内視鏡部が消化管,呼吸器内科が気管支を担当しています.また,看護師10名(うち常勤専従7名),臨床工学士3名(うち常勤専従1名)が内視鏡業務に従事しており,看護師は看護部外来部門に,臨床工学士は医療安全管理部門に属する体制になっています.
検査室レイアウト
1992年現在使用している病棟が完成した当時と比較して,内視鏡室は検査内容や検査体制の変化により改修を重ねています.当初,上部消化管内視鏡検査室,大腸内視鏡検査室が各4室ありましたが,内視鏡検査室4室,超音波内視鏡室1室へと拡充しました.従来の超音波内視鏡室,レーザー室と呼吸器検査室を前処置用トイレの増室,回復室の増設と内視鏡洗浄室の拡充へと変更しています.その他,フィルム保管庫を内視鏡診察室に変更するなど,改修に改修を重ねていますが,未だに不十分な現状です.
(2022年10月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医6名,消化器内視鏡学会 専門医11名,その他スタッフ2名,研修医など5名
内視鏡技師:Ⅰ種6名,その他技師3名
看護師:常勤7名,非常勤3名
事務職:3名
愛知県がんセンター 内視鏡室スタッフ
(2022年10月現在)
(2021年4月~2022年3月)
愛知県がんセンター消化器内科では,消化器内科(胆膵)と内視鏡部(消化管)が共同でレジデント医師の教育を行っています.消化器内科コースとして2年間をかけて消化器内視鏡学と臨床腫瘍学を同時に習得するプログラムを実行しています.希望者には最長5年間まで研修可能なシニアレジデント制度も用意されています.優れた内視鏡医になるためには,内視鏡の技術だけでは不十分であり,病態に関する知識が必須であると考えています.そのため,胆膵癌の日常診療として,手術以外のすべての検査および治療を消化器内科で担当しています.術前内視鏡診断,術前化学療法,術後補助化学療法,術後の再発チェック,再発後の薬物療法など,すべて消化器内科で行っています.病理学的知識はレジデント医師の成長には不可欠であるため,遺伝子病理診断科における研修をプログラムに組み入れているのも特徴です.胆膵領域では解剖学知識,手術術式の理解,手術適応の判断や各種画像診断など,必要とされる多くの知識を理解し習得する必要があります.そのため,外科・放射線科との合同カンファレンスを開催し,手術症例に関する検討を詳細に行っています.切除後には病理カンファレンスを開催し,担当症例に関するフィードバックを行っています.
当センターには悪性疾患の患者さんが多数来院されます.そのため,超音波内視鏡検査(EUS)関連手技が非常に多いことが特徴です.レジデント1年次には,胆膵スクリーニングEUSを習得し,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を開始します.レジデント2年次にはEUS-FNA 20件の施行を目安に超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD)などの治療的EUSを開始します.内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)は,レジデント1年次から経乳頭ドレナージを含めたすべての精査および治療的内視鏡を行います.レジデント2年次にはNeedle Knife Fistulotomyなどの高難度の手技も学習してもらいます.すべての知識および技術を習得するには少なくとも2年間,可能ならば3年間の研修が望ましいと考えていますが,見学を中心とした短期研修も受け入れています.外国人留学生が常時研修に来ていますので,国際色豊かな環境にあります.英語アレルギーが改善されることは間違いありません.
消化管内視鏡の研修は,指導医と2名体制で行います.1カ月単位で知識・手技の到達目標を設定し指導に当たっています.内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)に関しては2カ月目から胃の前庭部領域から開始し,到達度に応じて対象範囲を拡大しています.4カ月目からは直腸,大腸や食道のESDを学習してもらいます.毎週症例検討を行い,内視鏡治療を行った症例の内視鏡所見と病理所見との対比を行い,担当症例に関するフィードバックを行っています.また,食道,胃,大腸それぞれ臓器別の合同カンファレンスを開催しており,診断のポイントや治療方針決定のプロセスを学習することが可能となっています.
内視鏡室は1992年に作られた構造を基本としており,現在の内視鏡診療を行うに当たり,いくつかの問題があると考えています.
一つは検査室のスペースが十分ではないことです.内視鏡診医療の進歩により,多くの機器や処置具が必要となり,それを扱うスペースが十分ではないのが現状です.安全に内視鏡診療を行うための生態観測装置の使用は必須であり,処置用ベッドの周りには器機やコードで溢れている状況です.医師,看護師,臨床工学士等が余裕を持って診療に参加できるスペースの確保を計画できたらと思っています.回復室のスペースも同様に問題となっています.スクリーニング内視鏡検査でも鎮静剤を使用する割合が急増しています.上部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡検査では検査後1時間の休憩,超音波内視鏡検査では2時間の休憩を基本としていますが,回復ベッドの数が不足しており問題となっています.
しかし,何よりもわれわれを悩ませているのが,スタッフの人員不足からくる業務の遅延や残業の増加です.スタッフは限られた人数で対応しているため,特定の個人にかかる負担が非常に大きく,大きな問題と考えています.実際には,院内すべての部署で看護師不足が深刻であり,内視鏡室だけが特別ではないのが現状です.内視鏡室では,特に胆膵系のEUS関連処置が増加の一途をたどっており,限られた時間内で処置を終えることが難しい状況にあります.働き方改革を踏まえた早急な対応を迫られています.現在は,個人の頑張りに頼っているのが現状で,理想的な状況とは程遠い状況です.数多くの高難度手技に対応しながらも,残業がなくみんなが働きやすい職場作りが必要と考えています.