GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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KEY POINTS FOR GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY IN PEDIATRIC INFLAMMATORY BOWEL DISEASE
Itaru IWAMA
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2023 Volume 65 Issue 9 Pages 1452-1463

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要旨

小児の炎症性腸疾患診療において内視鏡検査は必要不可欠である.一方で検査の施行にあたっては安全かつ有用な検査とするために,検査の適応,鎮静,スコープの選択など小児特有の事項を症例ごとに検討する必要がある.体格による使用できるスコープの制限,内視鏡の術者のみでなく,鎮静や全身管理を担当する小児科医や麻酔科医の必要性など,小児の内視鏡検査には越えなければならないいくつかのハードルが存在することは間違いない.しかし,そういった障壁を乗り越え,炎症性腸疾患で苦しむこども達に少しでも苦痛や不安の少ない内視鏡診療を提供することが,この先の本邦の炎症性腸疾患診療の発展につながると思われる.

Abstract

Gastrointestinal endoscopy is an essential tool for diagnosing and treating inflammatory bowel disease in children. However, to ensure a safe and effective examination, it is crucial to consider pediatric-specific issues such as the indication for the examination, sedation, and choice of scope for each case. Pediatric gastrointestinal endoscopy involves overcoming several hurdles, including limitations on the scopes used due to the body weight of the child and the need for pediatricians and anesthesiologists to manage sedation and general care alongside the endoscopist. However, overcoming these hurdles and providing endoscopy with minimal pain and anxiety to children with inflammatory bowel disease will pave the way for the future development of inflammatory bowel disease care in Japan.

Ⅰ はじめに

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease,IBD)診療において消化器内視鏡は診断のみならずフォローアップや治療にも必要不可欠である.小児においてもそれは同様であり,消化器内視鏡は小児IBD診療の中心に位置づけられている.しかしながら,現在小児用の消化器内視鏡は市販されておらず,成人に用いられる内視鏡を患者の年齢・体格および適応に応じて使用せざるを得ないのが現状である.本稿では小児IBDにおける内視鏡検査のポイントについて実際の診療に即した内容を中心に概説する.

Ⅱ 小児IBDを疑う症候

IBDの診断には消化器内視鏡が不可欠であるが,どのような症候からIBDを疑うかということが診療の初期にはポイントとなる.Table 1 1は小児IBDの全身症状および消化器症状の頻度を示した.これらのなかで小児特有の症状としては成長障害が挙げられる.消化器症状が軽度である一方で,発熱や炎症反応の上昇に,身長や体重の増加率の低下という成長障害を認めた場合はIBDを鑑別に挙げる必要がある.また腸管外徴候もIBDを疑うポイントとなる.Table 2は腸管外徴候の頻度について成人との比較を示した 2)~17.本邦の小児は本邦成人および欧米小児と比較して腸管外徴候の合併の頻度は低いが,全身・消化器症状発現前に発症する症例もあるため 14注意が必要である.

Table 1 

小児IBDの初発症状.

Table 2 

成人と小児における腸管外徴候の頻度の違い.

Ⅲ 内視鏡検査の実際

上部消化管内視鏡(EGD)

適応:欧州小児消化器肝臓栄養学会が2014年に発表した小児IBD診断基準(改訂Porto criteria)においてIBDを疑った小児ではEGDを行うことを推奨している 18.またクローン病(Crohnʼs disease,CD)患者の9%でEGD所見が診断の決め手となったという報告 19も存在する.実際は上腹部痛や吐血・下血,嚥下痛・嚥下困難を訴える症例,CDが疑われる症例,疾患を問わず低年齢(6歳未満)の症例ではEGDを行う.逆にEGDを行わない症例は年長児(10歳以上)で下部消化管症状のみの典型的な潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis,UC)ということになる.診断後の症例については,病変を認めた症例のみ治療効果判定目的でEGDの再検を行うことがあるが,所見を認めなかった症例,無症状の症例では行わない.

禁忌:EGDの禁忌はショック,重篤な心肺疾患,腹膜炎,穿孔で,凝固異常,好中球減少を合併している症例も慎重に適応を判断する 20

前処置:年長児の予定のEGDでは検査前日夕食後からの絶食と検査2時間前からの清涼水の中止下で行うことが多い 20.一方で2歳未満の乳幼児は長期間の絶飲食による低血糖予防のため輸液を行うようにしている.胃内粘液溶解除去剤や消泡剤が視野の改善に有効との報告 21),22があるが,小児における有用性に関するエビデンスは存在しない.著者の施設では検査時の洗浄水にジメチコンを混入している.消化管運動抑制薬については成人ではブチルスコポラミンが頻用され 23,ブチルスコポラミンが禁忌となる症例ではグルカゴンやl-メントールが使用される.小児の通常の観察と生検のみのEGDでは消化管運動抑制薬は使用しないことが多く,必要な場合はl-メントールを使用している.咽頭麻酔は咽頭反射の抑制目的のためリドカイン塩酸塩を使用することが多い.全身麻酔下で行う場合は不要だが,年長児で静脈麻酔下に行う場合はキシロカインビスカスを用いて,うがいをする要領で咽頭麻酔を行っている.リドカインスプレーを用いる場合は体重10㎏までは1 ~2噴霧,20㎏までは1~3噴霧,30㎏までは1~4噴霧,40㎏以上は1~5噴霧を使用する 20

鎮静:IBDに限らず小児の消化器内視鏡診療において鎮静は配慮が必要である.原則的に安全かつ確実な検査の施行のため小児では鎮静下に消化器内視鏡を行う.しかし成人と比較し小児は気道が狭く,少量の粘液や浮腫により容易に気道抵抗性が上昇することや,相対的に舌が大きく,舌根沈下による上気道閉塞を起こしやすいことが知られている 20.また,EGDではスコープによる気道閉塞のリスクも考慮しなければならない.著者は6歳未満の症例,染色体異常や心疾患,重症心身障害などの基礎疾患を有する症例,治療内視鏡が必要な症例は原則麻酔科医にコンサルトのうえ,全身麻酔下にEGDを行っている.一方で基礎疾患のない年長児は,小児科医による管理の下,静脈麻酔下に行っている.静脈麻酔薬の選択については薬剤やその組み合わせについて多くの報告 20があるが,著者はミダゾラム0.1~0.2mg/kgとペンタゾシン0.5mg/kgの組み合わせを使用している.

モニタリング:既存の診療ガイドライン 24)~27に推奨されているように,鎮静薬の投与前から検査中,検査後覚醒するまで適切なモニタリングを行う.モニタリングの項目は心拍数,呼吸数,血圧,体温,経皮的酸素飽和度で,経時的な記録も行う.消化器内視鏡検査においては呼気二酸化炭素濃度のモニタリングが鎮静に伴う合併症の早期発見に有用であることが示されている 28),29が,著者は使用していない.

内視鏡の選択:小児の消化器内視鏡検査においてスコープの違いによる診断率や偶発症への影響を検討した報告はない 24.海外および本邦のガイドラインでは乳幼児(10㎏未満)のEGDでは細経内視鏡の使用を推奨している 20),24.しかしこれは通常の観察と生検を目的としたEGDであり,治療が必要な症例においては使用する処置具が挿入可能なスコープを選択する必要がある.

観察・所見:小児においてもEGDにおいて観察すべき部位,画像を残すべき部位については成人の場合と同様である.CDでは成人同様上部消化管病変を認める症例を多く経験するが,近年UCにおいても上部消化管病変を合併することが報告されている 30Figure 1に著者が経験したUC,CDの上部消化管病変の病変を提示する.

Figure 1 

小児IBDの上部消化管病変.

a:UCに認められた食道潰瘍.

b:UCに合併した胃の隆起性病変.

c:CDに認められた胃びらん.

d:CDに認められた十二指腸潰瘍.

e:CDに認められた十二指腸の陥凹.

IBD:Inflammatory bowel disease,UC:Ulcerative colitis,CD:Crohnʼs disease

生検:生検については発赤やびらん,潰瘍など炎症の所見を認める部位からの生検はもちろん,著者は正常粘膜であっても生検を行っている.所見を認めない症例での生検の部位と個数についての一般的なコンセンサスはいまだ得られていないが,Gillettらは食道胃粘膜接合部から2~5cm近位側,幽門部から前庭部,胃体部大彎,胃体部小彎,十二指腸下行脚と水平脚の各部位から2カ所の生検を推奨している 31.著者はGillettらの推奨部位より各1カ所生検を行っている.

合併症:IBD特有のEGDの合併症は存在しないが,小児のEGD施行時の短期合併症は約2%と成人(0.13%) 32に比して高く,低酸素血症が1.5%,出血が0.3%で,穿孔の報告はなかった 33.日本小児内視鏡研究会世話人施設へのアンケート調査に基づいた大規模研究では小児EGDにおける合併症の発生率は0.15%と報告されている 34

大腸内視鏡(CS)

適応:IBDを疑う症状,つまり腹痛,下痢,血便などの消化管症状,また発熱,肛門病変,成長障害などクローン病が疑われる場合もCSの適応となる.前述の改訂Porto criteriaでは小児のCSでは終末回腸の観察を含めた全大腸観察を推奨している 18.IBDと診断がついた症例では再燃時はもちろん,臨床的寛解を維持しているときでも定期的(1~2年ごと)なCSが必要である.近年便中カルプロテクチンなどのバイオマーカーが小児でも使用されその有用性も報告されている 35.実際の診療ではCS施行時期に近いタイミングでバイオマーカーを測定し,バイオマーカーの値から粘膜の状態を推測するといった診療を小児でも行っている.

禁忌:CSの禁忌は前述のガイドラインで呼吸循環動態が不安定であること,腸管穿孔,出血傾向が挙げられている 20

前処置:小児においてもCSのためには前処置が必要であるが,十分なエビデンスはなく,各国のガイドラインをみても標準化されたレジメは存在しない 24),36),37.著者はピコスルファートナトリウム水和物製剤(ラキソベロン)に等張クエン酸マグネシウム(マグコロールP)40~50ml/kgを検査前日夜と当日朝に分けて服用する二日法を採用している.また2016年に発売されたピコプレップはピコスルファートナトリウム,酸化マグネシウム,無水クエン酸の合剤だが,服用する水分の種類を比較的自由に選べる点と,少ない薬液量(成人で約300ml)のため,年長児を中心に受容性が高く頻用している.

鎮静:EGDと比較すると咽頭刺激による嘔吐反射がないためか,鎮静薬は比較的少量で検査が可能である.一方で体格に比してスコープが太いためか疼痛を感じる症例が多く,鎮痛薬も併用している.EGD同様ミダゾラム0.05~0.1mg/kg,ペンタゾシン0.5mg/kgの組み合わせを使用している.EGD同様,3歳未満の乳幼児,染色体異常や心疾患,重症心身障害などの基礎疾患を有する症例,治療内視鏡が必要な症例は全身麻酔下にCSを行っている.一方,観察目的のCSでは3歳以上は静脈麻酔下で行っている.

モニタリング:CS中のモニタリングはEGDと同様に行う.

内視鏡の選択:体重に応じて内視鏡を選択する.体重5㎏以下は細径上部消化管内視鏡,5~10㎏は通常径上部消化管内視鏡,10~40㎏は細径大腸内視鏡,40㎏以上は通常径の大腸内視鏡を使用している.EGD同様,処置が必要な症例では使用する処置具が挿入可能なスコープを選択する.

観察・所見:CSの観察は一般的な成人と同様に行う.IBDが疑われる症例では終末回腸の観察が必須である.Figure 2に代表的なIBDのCS所見を提示する.

Figure 2 

小児IBDの大腸病変.

a,b:UC(白苔付着,粗造粘膜).

c,d:CD(縦走潰瘍).

IBD:Inflammatory bowel disease,UC:Ulcerative colitis,CD:Crohnʼs disease

生検:revised Porto criteriaではIBD初回診断時のCSでは少なくとも大腸5カ所と終末回腸を合わせた6部位から2カ所以上の生検を推奨している 18.肉眼的に正常な粘膜の生検については議論のあるところであるが,肉芽腫や慢性炎症細胞浸潤などその後のフォローアップに有用な所見を認めることがあるため,IBDが疑われる症例では生検を行うようにしている.

合併症:2008年発表の北米の小児診断的CS約8,000件の検討では88件,約1%の偶発症が報告された 38.このうち消化管関連が約60%を占め,最も多い偶発症は消化管出血34件,0.44%であった.治療的CSでは348件の大腸ポリープ切除術のうち8件,2.3%に偶発症が生じ,5件は消化管出血であった.前述の本邦からの最新の報告ではCSにおける合併症発生率は0.1%と報告されている 35

小腸内視鏡(Small bowel endoscopy,SBE)

カプセル内視鏡(Capsule endoscopy,CE)

適応:過去の報告ではCE検査の最少年齢,最小体重はそれぞれ8カ月 39,7.9㎏ 40である.一般的には1歳・10㎏以上であれば施行可能と思われる.小児におけるCEの適応は年齢によって異なることが報告されている.つまり全年齢ではIBD,特にCDが全体の約60%を占めるが(Figure 3),8歳以下に限定すると不明消化管出血が最も多く(36%),IBDは24%と第2位の適応となる(Figure 4 41.前述のIBD特にCDを疑う症候を認めた場合,小腸病変の検索が必要であり,頻出しているrevised Porto criteriaではCEまたはMR Enterography(MRE)による小腸病変の検索を推奨している 18.CDの未診断例におけるCEの診断率は40~97%と報告されている 39),42)~48.また,既知のCDにおける再燃の診断率は76%と報告されている 48

Figure 3 

小児におけるカプセル内視鏡検査の適応(全年齢).

Figure 4 

8歳以下のカプセル内視鏡検査の適応.

禁忌:CEの禁忌は既知の消化管閉塞,狭窄,狭小化,瘻孔を有する症例,また心臓ペースメーカーまたは他の電気医療機器が埋め込まれている症例も添付文書上は禁忌である.しかし,有害事象の報告がないことを理由に使用を容認するガイドラインもある 49

前処置:添付文書上,CE検査前8時間は水以外の飲食を控えることを推奨している.これまでの報告では検査12時間前または検査前日夜からの絶食としているものが多い 50)~52.薬剤を用いた前処置については7~18歳198例のCEにおいてランダム化比較試験が報告されている 50.水分のみ,PEG50ml/kg,PEG25ml/kg,ジメチコン376mg,PEG25ml/kg+ジメチコン376mgの5群ではPEG25ml/kg+ジメチコン376mgが腸粘膜,特に回腸末端の観察率が有意に高い結果となった.著者は検査前日夕食以降の絶食とジメチコンの検査前の内服を採用している.

鎮静:CEの検査中は鎮静を必要としない.CEを嚥下できない症例ではCE挿入補助具(AdvanCE)をEGDスコープに装着し挿入する.本邦の大規模研究(AdvanCE-J study)では16歳以下の挿入補助具を用いたCEの56%は静脈麻酔下で行われ,44%は全身麻酔下に行われていた 53.著者はCE挿入補助具の横径が10mmを越えるため,挿入時の上気道閉塞の懸念から基本的には全身麻酔下で挿入している.

モニタリング:CE検査中のモニタリングは原則不要である.モニタリングが必要な症例ではCE検査画像の録画に支障をきたすため,無線ではなく有線の機器を用いてモニタリングを行うことが重要である.

内視鏡の選択:現在世界では複数のCEが発売されているが,本邦で使用可能なものは限られている.カメラの数,バッテリーの持続時間など製品ごとに違いはあるが小児の適応を考える際で最も重要なCEの大きさは違いがない.小児専用に開発されたCEはないため成人に使用するものを使用しているのが現状である.

観察・所見:CEによる全小腸観察率は嚥下した場合で70~80% 54)~57,内視鏡的留置では約90%と報告されている 53),58.CDにおいては粘膜治癒の確認が治療効果の判定や予後の推測に重要であるが,CDにおける内視鏡所見の評価についてはこれまで様々な指標が発表されてきたが,小児に特化した指標については報告されてこなかった.2021年にOlivaらはCapsule Endoscopy-Crohnʼs Disease index(CE-CD)という簡素で小腸の炎症を反映する指標を報告した 59.CE-CDは予後予測にも有用とされ今後の動向が注目される.Figure 5に代表的なCDのCE所見を提示する.

Figure 5 

小児IBDの小腸病変.

a,b:CDに認められた敷石状病変(CE).

c,d,e:CDに認められた縦走潰瘍(BAE).

f:CDに合併した小腸狭窄(BAE).

IBD:Inflammatory bowel disease,CD:Crohnʼs disease,CE:Capsule endoscopy,BAE:Balloon-assisted enteroscopy

合併症:CEの合併症で最も問題となるものは滞留である.パテンシーカプセル(Patency capsule,PC)が使用可能となる以前の2013年の報告ではCDが適応となる症例の滞留率は2.2%と報告されている 60.一方,PCによる開通性の評価がCDを適応とする症例において一般的となった2010年以降,CDに特化したCE滞留率については大規模な報告はいまだ発表されていない.本邦の2021年の全国調査では897件中5件(0.56%)の滞留が報告されている 34.現時点では新規診断,既診断いずれにおいてもCDが適応となる症例では,CE検査前にはPCまたは他の画像評価による小腸開通性の評価は必須と思われる.そのほかの合併症としては成人ではCEの誤嚥が報告されている 61が,小児では報告がない.CE挿入補助具については成人では穿孔の報告 62があるが,小児では重篤な合併症の報告はない.一方で咽頭や腸管の軽微な粘膜損傷や出血は35%の症例で認められたと報告されている 58

バルーン内視鏡(Balloon-assisted Enteroscopy,BAE)

適応:過去の報告ではBAEの最少年齢,最小体重は経口的挿入が1歳,8㎏ 63,経肛門的挿入は1.6歳,10.8㎏である 64.一般的には3歳以上,14㎏以上であれば安全にBAEが施行可能とされている 65.小児のBAEで最も頻度の高い適応は消化管出血で23.7%を占める.つづいて腹痛が19.7%を占め,IBD(CD)は19.1%と3番目に多い適応である 63),64),66)~80.また,年齢ごとに適応を分類するとCEと同様若年例は消化管出血が多くを占め,年齢を重ねるごとに腹痛やIBD,ポリポーシスといった適応の占める割合が増えていく(Figure 6 64),69),71),72),75),81)~84.CDの新規診断例におけるBAEの診断能は57~88%と報告されている 8),63),67),78.また既診断例においては80%近い確率で新規病変の診断や治療方針の変更に寄与する所見を得たと報告されている 78),79.BAEの大きな特徴であるCDに対するバルーン拡張については成人同様,小児でも安全かつ有用に施行できることが報告されている 63),78),85

Figure 6 

年齢別バルーン内視鏡検査の適応.

禁忌:BAEの禁忌はEGD,CSに準じるが,前述の本邦のガイドラインではエーラス・ダンロス症候群,消化管吻合術直後,消化管腫瘍に対する化学療法後など,腸管壁の脆弱性が存在する場合も禁忌としている 20

前処置:経口的挿入の場合,EGDに準じて検査前日の夕食以降絶食とし,検査2時間前からの清涼水の中止下で行う.経肛門的挿入ではCSに準じた方法で前処置を行う.

鎮静:経口的挿入の場合,一般的に全身麻酔下で行われることが多い.理由としては検査時間が長くなること,スコープやオーバーチューブによる上気道閉塞の危険性が生じること,嘔吐反射を惹起しやすく安静を保てないことが挙げられる.一方で,経肛門的挿入はCS同様,静脈鎮静下による施行も可能である.著者は経口的・経肛門的挿入いずれの場合においても全身麻酔下で施行している.

モニタリング:BAE検査中・後のモニタリングはEGD,CSと同様に行う.

内視鏡の選択:BAEのうちダブルバルーン内視鏡は径の異なるスコープが発売されている.小児においてスコープの選択は体格や年齢に応じて選択するのではなく,検査の適応・目的に応じて選択している.つまり,観察・生検が目的の場合は径の細いスコープ(EN-580XP,Fujinon,径7.5mm),止血やバルーン拡張といった処置・治療が必要な場合は径の太いスコープ(EI-580BTやEN-580T,Fujinon,径9.4mm)を選択する.

観察・所見:BAEにおける観察もEGD,CS同様成人と大きな違いはない.気を付けるポイントとしては挿入時にできるだけ写真を記録することである.抜去時には挿入時に生じた粘膜損傷や出血と疾患による病変の見極めが難しくあるからである.Figure 5に代表的なIBDのBAE所見を提示する.

生検:BAEでは決められた生検部位は規定されていない.びらん,潰瘍などの近傍や,症例によっては正常粘膜からの生検も行う.

合併症:小児におけるBAEの合併症は全体で5.4%,10歳以下では10.4%と報告されている 75.重篤な合併症はポリープ切除後の出血や腸管穿孔,腹腔内膿瘍,膵炎である.最新の本邦の全国調査の結果では合併症発生率は3.1%であった 34

Ⅳ 最後に

小児IBDにおける内視鏡検査のポイントについて概説した.スコープの選択や鎮静を含めた術中管理など小児の内視鏡検査には越えなければならないいくつかの障壁が存在するが,体重が10㎏以上であれば内視鏡による全消化管観察が可能である.現在IBDにおける治療オプションは新規薬剤の登場もあり格段に選択肢が増えた.しかし治療を選択するには正確な診断が必要である.IBD診療に最も重要な正確な内視鏡診断が小児でも施行可能となることが,わが国のIBD診療の発展に必要不可欠であると思われる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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