2023 Volume 65 Issue 9 Pages 1488-1492
1950年,当時の調布町,狛江村,神代村に跨る兵器工場(東京重機)の跡地に,東京慈恵会医科大学(以下慈恵医大)の三番目の附属病院として東京慈恵会医科大学附属第三病院(以下慈恵医大第三病院)は設立された.1970年には9階建ての本館病棟が建設され,以来増改築を重ね,2022年12月現在,病床数581床,21の診療科および9の中央診療部門を有する大学附属病院として,各種疾患に対する専門的医療を提供している.本館建築から50年を超え,施設の老朽化も顕著となったため,2026年1月には新病院が開院する予定である.内視鏡部は,1963年に創設された中央診療部内視鏡科として始まり,1986年に大学病院としては日本で二番目に創設された内視鏡科として中央診療部から独立した.2018年には内視鏡科が改称,改組され内視鏡医学講座となっている.慈恵医大第三病院には1978年に中央診療部門としての内視鏡部が設置されており,「安全で確実,苦しくない内視鏡」をモットーに関係各科(消化器・肝臓内科,消化管外科,肝胆膵外科,放射線部,病理部など)と緊密に連携しながら内視鏡診療を行っている.すべての内視鏡検査・治療は,鎮静剤・鎮痛剤を用いた意識下鎮静法を基本に施行しており,すべての消化器疾患に対してチームで対応しているのが当内視鏡部の大きな特徴である.2016年にはがん診療連携拠点病院の指定を受け,『一人の患者を病院全体で診る』精神のもと,上部消化管,下部消化管,胆膵疾患それぞれ週1回のキャンサーボードを消化管外科,肝胆膵外科,消化器・肝臓内科,内視鏡科と合同で開催しており,内視鏡部もチーム医療の一員として消化器疾患の診療に深く携わっている.
組織内視鏡部は消化管外科,肝胆膵外科,消化器・肝臓内科,呼吸器内科,内視鏡科(内視鏡医学講座)を統括する部門であり,内視鏡医学講座に所属する医師を中心に内視鏡診断,治療,教育を担い,消化器・肝臓内科,消化管外科,肝胆膵外科の各講座より数名の医師の協力を得るかたちで運営が成り立っている.現在では,慈恵医大の附属4病院すべてに中央診療部門として独立した内視鏡部が設置されており,本院を中心に,統一した考え方のもと,高度で専門的な内視鏡診療が行われている.
検査室レイアウト内視鏡部は病院2階に位置し,総面積は230m2,内視鏡室4室で運営している.これらに加え,他科と共用ではあるが,1階に位置する放射線部のTV室を使用して胆膵の内視鏡治療や消化管ステント,小腸鏡などの透視を使用する内視鏡治療を行っている.また透視を使用しない腎生検や肝生検などを行うための処置室にも据え置きの内視鏡システムと内視鏡器材を常備できるよう整備して,長時間を要する内視鏡治療を行える環境も整えた.人員配置に余裕のある曜日は6室同時稼働も可能になり,内視鏡件数の増加に大きく貢献している.また,従来の前処置スペースでは大腸内視鏡検査の件数増に対応できなくなったため,内視鏡室近くのスペースを改築して新前処置室として運用を開始した.折しもコロナ禍となり前処置室で密にならない運用に大きく貢献する結果となった.ICUで緊急内視鏡を行う機会も増えているが,ICUには据え置きの内視鏡システムがないため,処置室の内視鏡を移動させることにより対応している.
2014年,院内システムの電子化に伴い,内視鏡部も部門システムに富士フイルム社製NEXUSを導入,バーコードスキャンによる患者認証からタイムアウト,検体処理までの流れをミスなく完遂できるような環境を整備,構築した.同時に内視鏡動画録画配信システムとしてNEXUS VT Browserを導入し,すべての内視鏡動画を録画すると同時にカンファレンスルームにライブ配信するシステムも構築した.LECS(Laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:腹腔鏡内視鏡合同手術)やELPS(Endoscopic laryngo-pharyngeal surgery:内視鏡下咽喉頭手術),ハイリスクのESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などを手術室で行う機会も増えてきたため,すべての手術室に内視鏡静止画・動画用LANを配線した.これにより,手術室でも内視鏡室と同じ環境で患者認証が行え,動画を録画できる環境が整った.今後は手術室やTV室の動画もカンファレンスルームにライブ配信されるよう整備する予定である.録画された内視鏡動画は一定期間保存された後に自動的に削除される運用とし,必要時には動画を保存し,見直して検証できることから医療安全,教育指導,研究の側面からも有効に活用できると各方面から期待されている.
(令和5年4月現在)
医師:指導医10名(内視鏡科3名,消化器・肝臓内科4名,外科3名),専門医6名,非常勤6名,研修医・レジデント2名(随時)
看護師:7名(うち内視鏡技師I種:2名)
看護補助員:1名
(平日は内視鏡洗浄業務に委託業者2名~3名が派遣されている.)
(令和4年12月現在)
(令和3年)
総内視鏡件数 7,258件
内視鏡医学講座所属の4名の常勤医師を筆頭に,消化器・肝臓内科,消化管外科,肝胆膵外科,呼吸器内科に所属する内視鏡指導医および専門医を中心とした内視鏡指導体制を構築している.研修医とレジデントの教育カリキュラムは本院内視鏡部と共通であり,基礎技術を習得した後に実技試験に合格した医師には上部内視鏡,下部内視鏡それぞれに認定書を発行している.この認定書は慈恵関連の他機関へ異動した際も有効であり,これらの認定を経てアドバンストコースへ進むことが可能となる.アドバンストコースはESDコースとERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)コースに分かれ,早期消化管癌の診断・治療(ESDコース)は消化器・肝臓内科の消化管班スタッフとともに指導にあたっている.食道癌,胃癌の術前診断はNBI(Narrow band imaging)拡大精査とEUS(超音波内視鏡検査)を用いて全例で範囲診断と深達度診断を行っている.大腸がんについては,2020年に大腸ESDの専門外来を開設して以来,件数は増加傾向であり,大腸ESD専門医を中心に,適応判断,術前診断,技術指導を行っている.胆膵内視鏡(ERCPコース)も同様に,内視鏡医学講座所属の指導医と消化器・肝臓内科の肝臓班スタッフを中心に,時に外科医も交えてチームで診断から治療までを行っている.ERCPの習熟度に応じて,胆膵EUSの指導も始めていく.ラジアルを用いての走査がある程度可能となった段階で,コンベックスも使用しながらEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)や膵仮性嚢胞に対する超音波内視鏡下ドレナージなどのFNA関連手技も習得していけるよう指導している.SpyglassTM DS Ⅱ(新型胆管・膵管鏡システム)を用いた診断・治療や,Hot AXIOSTM(瘻孔形成補綴材)を用いた治療も積極的に行っている.2022年12月時点では3名の医師がHot AXIOSTM講習プログラムを受講済みである.慈恵医大第三病院は,大学病院の分院という性格上,専門領域にとらわれることなく,幅広く手技ができる人材が求められているため,これらのコースを同時並行して学ぶことも可能であり,上部から胆膵まですべての内視鏡手技を習熟することも本人の意欲によっては可能なのが当内視鏡部の大きな特徴である.最終的に,すべての病棟担当主治医が内視鏡医学講座所属の指導医のもと,自分の担当患者に対する内視鏡診断・治療をすべて責任を持って行えるよう育成することが指導の主眼と考えている.内視鏡学会認定指導施設,胆道学会認定指導施設として常に高いレベルの診療が行えるような指導体制を今後も維持していくことが当内視鏡部の責務と考えている.
現状での問題点は大きく分けて人的資源,夜間救急体制,施設整備の3点があげられる.まず人的資源であるが,当内視鏡部には開設当初よりメディカルクラークや臨床工学士などのスタッフが配置されておらず,すべての受付業務や内視鏡の介助業務,物品管理を看護師が受け持っている.そのため,看護師の業務過多が以前より問題視されており,早急に解決することが喫緊の課題と考えている.システム周囲やベッドのアルコール消毒など,コロナ禍になりスタッフの業務がかなり増えたこともあり,平日の内視鏡洗浄業務,環境消毒業務のため,委託業者が配置されるようになり,看護師の業務軽減の一助となっている.また,内視鏡医学講座所属医師が診療部長を含め4名しか配属されておらず,教育・指導面でも一部のスタッフに仕事が偏っていることが問題であり,さらなるスタッフ配属により教育・指導体制を充実させることも今後の課題である.夜間緊急体制に関しては,消化器・肝臓内科,消化管外科,肝胆膵外科の協力のもと24時間365日のオンコール体制を敷くことが可能となってはいる.しかしながら,夜間緊急ERCPなどの複数スタッフを必要とする治療などの際は,マンパワー不足のため不慣れなスタッフと緊急治療を行わざるを得ない場面もある.また夜間に内視鏡洗浄を行うスタッフもいないことなども含め,他部署との協力体制を構築していくことが,今後の夜間緊急体制の課題と考えている.次に施設整備についてだが,内視鏡室が現在の場所に設置されてから40年以上が経過しているにも関わらず,施設の拡充が一度もなされておらず,当時と比べ倍増している検査件数に見合うだけの前処置スペースやリカバリースペースがなくなってきているのが現状である.清潔区域と不潔区域の動線も混在しており,運用面でカバーせざるを得ない状況である.検査室も完全個室とはなっていないため,コロナ禍で入院患者と外来患者が混在しないよう感染制御部から要請があり,運用に苦慮しているところである.姑息的ではあるが,1階TV室横の処置室を他科と共用ではあるが,ESDやEUS-FNAなどに使用できるよう整備したほか,空きスペースを改修して新前処置室として整備した.新前処置室と従来の前処置スペースを併用して,コロナ禍での密にならない前処置スペースの提供に役立てている.当院は2026年に開院予定の新病院建設が進んでおり,実施設計の段階に入っている.新病院では内視鏡検査室3室,治療対応検査室2室,専用のX線透視室1室,カンファコントロールセンター1室を備えた内視鏡センターを約460m2のスペースで整備する予定である.コロナ禍での経験を活かし,治療対応検査室はすべて陰圧室とした.汚染スコープと清潔スコープが交差しない動線,入院患者と外来患者が交差しない動線も工夫した.また消化器・肝臓内科や消化管外科,肝胆膵外科の外来とも隣接し,消化器・内視鏡センターとして運用するほか,救急室や手術室,各病棟とも専用のエレベーターで直結されるため,患者動線も著しく改善する予定である.全体の部屋数は現在と変わらないが,効率的な運用により現状比120%増の10,000件超えの消化器・内視鏡センターを目標としている.今後も地域に求められる内視鏡部としてあり続けるために,地域との連携をより一層深めるとともに,人材育成を通して,安全で安心な内視鏡医療を提供し続けていきたいと考えている.