2024 Volume 66 Issue 1 Pages 106
【目的】感染性膵壊死の内視鏡的経消化管的ドレナージにおいて,ルーメンアポージングメタルステント(Lumen-apposing Metal Stents;LAMS)はダブルピッグテールプラスチックステントと比べ臨床的改善が得られると考えられている.しかし,前向き研究による比較データは非常に限られている.
【デザイン】感染性壊死性膵炎の患者で,LAMSを用いた内視鏡的step-up approachを行った多施設前向きコホート研究の患者と,TENSION試験でダブルピッグテールプラスチックステントを用いた内視鏡的step-up approachに割り付けられた51例の患者を比較した.臨床試験のプロトコルは両群で同一であった.主要評価項目は内視鏡的ネクロセクトミーの必要性であった.副次的評価項目は死亡率,重大な合併症,入院期間,医療費などであった.
【結果】27カ月間に16の病院で合計53例の患者がLAMSを用いて治療された.内視鏡的ネクロセクトミーの必要性は64%(n=34)であり,プラスチックステントを使用した以前の試験(53%,n=27)と変わらなかった.これは患者背景の補正後も同様であった(オッズ比 1.21(95%信頼区間 0.45〜3.23)).副次的評価項目も群間で差はなく,その中にはインターベンションを必要とする出血も含まれ,LAMS留置後5例(9%)に対し,プラスチックステント留置後11例(22%)であった(相対リスク 0.44;95%信頼区間 0.16〜1.17).総医療費も同程度であった(平均差 −€6348,バイアス補正および加速された95%信頼区間 −€26386〜€10121).
【結論】同様のデザインによる2つの多施設前向き研究の2つの患者群の比較から,感染性壊死性膵炎患者において,LAMSはダブルピッグテールプラスチックステントと比較して内視鏡的ネクロセクトミーの必要性を減少させないことが示唆された.また,出血性合併症の発生率も同等であった.
被包化壊死(walled-off necrosis;WON)に対するLAMSの使用に関する国際的なガイドラインは一貫性を欠いている.欧州消化器内視鏡学会のガイドラインでは,LAMSとプラスチックステントの両方が選択肢となるとしている 2).しかし,アジアのコンセンサスガイドラインでは,臨床試験の範囲外ではLAMSの使用を推奨していない 3).一方で,米国消化器病学会のガイドラインでは,LAMSの使用が望ましいと結論づけている 4).WONのドレナージにおけるLAMSとプラスチックステントの比較検討は,単一施設のランダム化試験に限られ,処置総数,治療成功率,有害事象,入院期間,総治療費に差は認められていない 5).
本研究は,急性膵炎診療における多くのエビデンスを輩出しているDutch Pancreatitis Groupによって行われた2つの前向き試験のデータに基づく非ランダム化比較試験である 1).AXIOMA試験でLAMSを用いてドレナージされた患者群と,内視鏡的step-up approachと外科的step-up approachを⽐較したTENSION試験 6)においてプラスチックステントでドレナージされた患者群とを比較している.感染性壊死性膵炎患者における内視鏡的ネクロセクトミーの必要性は,LAMSを使用した場合でもプラスチックステントと比較して減少しなかった.総治療回数,入院期間,総医療費を含む臨床転帰,および出血を含む合併症についても,両群間で有意差はなかった.本研究の結果は,臨床現場におけるLAMS至上主義に一石を投じる結果であり,WONの内視鏡的ドレナージにおいて,LAMSとプラスチックステントのいずれも有効な選択肢であることを示唆している.