GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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BALLOON ENDOSCOPY TO EXAMINE SMALL INTESTINAL LESIONS IN PATIENTS WITH CROHN’S DISEASE
Tsunaki SAWADA Masanao NAKAMURAHiroki KAWASHIMA
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2024 Volume 66 Issue 1 Pages 16-28

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要旨

クローン病の小腸病変は容易に通過障害などを来し,手術率が高いことが知られており,そのマネジメントは重要な課題である.バルーン内視鏡のクローン病診療における役割として,従来の大腸内視鏡検査では観察不可能な部位にしか病変を持たないクローン病の診断や,小腸病変の治療効果判定やモニタリングとして内視鏡的寛解の有無の評価に有用であるとする報告がみられる.また,症候性の小腸狭窄におけるバルーン拡張術は,潰瘍が無いなどの適応基準を満たした病変においては高い手技成功率と,良好な長期成績が示されている.他の小腸評価法と比較して,検査精度が高く,組織生検・内視鏡治療が可能な唯一の検査である一方,侵襲性が高く,消化管穿孔や出血,膵炎などの偶発症が報告されている.小腸病変の評価において,バルーン内視鏡を含めた各種モダリティの中から,状況に応じてどの検査を用いていくか,議論をすすめる必要がある.

Abstract

Small intestinal lesions in Crohnʼs disease can cause obstructions and are known to have a high surgery rate. Management of small intestinal lesions is essential in treating Crohnʼs disease. In clinical practice, balloon-assisted endoscopy can assist with diagnosing Crohnʼs disease, which presents with lesions in areas that are difficult to visualize with a conventional ileocolonoscopy, and facilitate evaluation and monitoring of therapeutic effects on small bowel lesions. In addition, balloon dilation for symptomatic small bowel stricture has been reported to have a high procedural success rate and favorable long-term efficacy in lesions that meet the indication criteria, such as the absence of ulcers. Compared to other methods of evaluating small lesions, it has high accuracy for detecting small intestinal lesions and is the only method that enables tissue biopsy and endoscopic treatment. On the other hand, it is invasive, and adverse events such as gastrointestinal perforation, bleeding, and pancreatitis have been reported. In clinical practice, future discussions are expected on case-dependent selection of an optimal modality among various available modalities for evaluation and management of Crohnʼs disease, including balloon-assisted endoscopy.

Ⅰ はじめに

クローン病(Crohn’s disease:CD)は,腸管の原因不明の慢性炎症を主体とする疾患である.全消化管に病変を有する可能性があるものの,病変の主座は小腸・大腸である.CDは3分の2程度の症例において小腸病変を有すると考えられているが,狭窄などを来しやすいこと 1などから,小腸病変は手術率が高く予後が不良であることが指摘されている 2.そのため,病状の評価が難しいとされてきた小腸病変をどのように評価・マネジメントし,予後を改善させるかは,昨今のCD診療における課題の一つであると考えている.

小腸は元来,容易には従来の下部消化管内視鏡検査(Ileocolonosocopy:ICS)で到達できず,詳細な検査が困難な時代が続いていたが,2001年にYamamotoらがダブルバルーン小腸内視鏡(Dabble-balloon enteroscopy:DBE)を開発 3したことで,全小腸の観察が可能になった.その後2008年にシングルバルーン小腸内視鏡(Single-balloon enteroscopy:SBE) 4,2009年にスパイラル小腸内視鏡 5が報告され,小腸内視鏡の選択肢が広がった.これら三つの内視鏡はまとめて,Device assisted-endoscopy(DAE)とされ,DBEとSBEは,Balloon-assisted endoscopy(BAE)とされている.本稿ではCDの小腸病変評価におけるBAEの役割をエビデンスに沿って述べる.

Ⅱ クローン病の診断におけるBAE

CDはその診断において,内視鏡がGold standardと考えられる.本邦の診断基準 6でも,主要所見として縦走潰瘍や敷石像が挙げられ,内視鏡画像を根拠にクローン病の確定診断ができる.小病変においても,縦走潰瘍,敷石像などがBAEにより観察される(Figure 1).また,BAEの大きなメリットの一つとして,生検および組織診断が可能になることが挙げられるが,CD診断の際にも,組織診断における非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の検出は主要所見とされている.しかし肉芽腫の検出率は高くなく,それに基づいて診断される割合は高くない 7.検出のための工夫として,病変部位や病変が指摘されない正常部位を含めた多数の生検を行う,検出率が比較的高いとされるアフタ性病変から生検を行うなどの工夫が必要である.

Figure 1 

a:上部回腸にみられた縦走潰瘍.

b:下部回腸の潰瘍と敷石像.

c:空腸の縦走潰瘍.

d:空腸の縦列するびらん.

CDでは,全消化管に病変を有する可能性がある.モントリオール分類によると病型は小腸型(L1),大腸型(L2),小腸大腸型(L3),上部病変(L4,L4はL1-3に併存する場合には併記)に分類される 8.西欧諸国の報告では,元来,L1-L3の割合はほぼ同程度であり,小腸病変の割合は60- 80%の症例で有するとされてきたが,最近のヨーロッパの研究では,大腸型が最も一般的な病型のCD(39-52%)であることが報告されている 9.一方,東アジアの表現型は小腸大腸型が51-71%を占め,大腸型の割合が少ない.すなわち,小腸病変を有する割合は東アジアでは多いことが指摘されている 2

CDは全消化管が罹患しうる疾患であるものの,回腸終末が好発部位であることから,診断において,ICSが主軸であることは間違いないと思われる.しかし,実臨床においても,ICSでは観察できない範囲にしか病変を有しないCDが存在することを経験する.Schulz Cらは,慢性下痢症や痔瘻などを有し,食道胃十二指腸鏡検査および下部消化管内視鏡検査で異常を認めない16例において,11例(69%)でBAEによりCDと診断できたと報告した 10.また,Kondoらは多施設後方視的研究において,新規に診断されたCD25例のうち14例(56%)はDBEでしか指摘できない小腸病変を有しており,そのうち5例(20%)は小腸病変のみ有していたこと,診断済みのCDにおいては50例中11例(22%)でICで観察できない小腸に病変を有していたことを報告した 11.Samuelらは,回腸末端の観察をICSで施行された153人のCDのうち67人(43.8%)は,回腸末端が内視鏡的に正常であったが,これらのうち36人(53.7%)は活動性の小腸クローン病を患っていたことを,CT enterography(CTE)の検討で報告した 12

ヨーロッパのCD16,902名を対象としたコホート研究では,診断から進行(合併症または外科的介入)までの時間は,小腸大腸型(L3)または大腸型(L2)疾患と比較して,小腸型(L1)の方が有意に短かった 13.本邦の報告では,小腸型および小腸大腸型の患者は,大腸型の患者よりも初回手術率が有意に高いことや 14,小腸大腸型,小腸型では患者は複数の手術を受ける率が高かったことが示された 2.手術に至る理由として,大腸型に比して,小腸型,小腸大腸型,小腸における腸管合併症が発生しやすいことが示唆され,腸管合併症の累積率は診断後5年と10年でそれぞれ50%と70%に達することが証明されている 1

また,近年では空腸病変は描出が困難であったため,過小評価されがちであったが,近年のCE,BAEの進展に伴い,指摘が比較的しやすくなったこともあり,空腸病変の臨床経過への関与も注目されてきている(Figure 1).NIDDK-IBDGCデータベースからの最近の横断研究によると,CD2,105名のうち,空腸病変を持つ症例が115名であった.空腸病変を有する症例では狭窄が多く,複数の腹部手術を経験することが示され,多変量解析においても,空腸病変が狭窄のリスク因子(オッズ比:2.90,95%信頼区間:1.89-4.45)であることや,診断から最初の手術までの期間が短くなる因子(オッズ比:2.39,95%信頼区間:1.36-4.20)であることが実証された 15.Flamantらは,小腸型(n=32),大腸型(n=25),または小腸大腸型(n=51)の寛解期CD患者108人を対象に,小腸カプセル内視鏡(Small bowel capsule endoscopy:SBCE)の所見を調査した.空腸病変は患者の56%で検出され,そのうち18人(17%)は空腸のみに病変があった.108人の患者のうち,50人が中央値2年の追跡期間中に再発を発症した.多変量解析により,空腸病変の存在は,再発リスクの増加に関連する唯一の独立した因子であることが示された(ハザード:1.99,95%信頼区間:1.10-3.61,P=0.02) 16

CDの診断時において,その特徴的な画像所見や組織検査所見を得て,鑑別診断を行うことは重要であるが,それとともに,病変の分布を把握しておくことは重要である.特に予後の悪い小腸病変の有無を早期に認識し,治療介入を検討するために小腸病変の検索は重要である.従来,それらの小腸病変の検索には小腸造影検査などが用いられることが多かったが,BAEは症状造影では描出困難であった,アフタ性病変や小潰瘍の検出にも優れている.われわれの施設においても,CDの診断時には,可能な限りBAEもしくはCEで全小腸の病状の把握に努めている.

Ⅲ BAEによるCDの腸管病変の重症度の評価・スコアリング

CDの病状評価には小腸大腸の腸管病変以外にも口腔内病変,痔瘻,腸管外合併症などの全身の状態の評価も必要である.また,腸管病変に関しても,全層性の炎症であることから,断層画像や超音波検査などでの評価も検討される.しかし,内視鏡で観察される腸管の潰瘍などがCDの病状の中心であることは間違いなく,予後を規定する重要な所見でもある.フランスで行われた後ろ向きコホート研究(n=102)では,CDの潰瘍を呈する患者の1年目,3年目,8年目の腸管切除術のリスクは,それぞれ20%,26%,42%であり,広範な深い潰瘍を有する患者は,潰瘍の無い患者よりも有意に多くの腸管切除術を必要としていたことが示された(RR5.43,95%信頼区間:2.64-11.18) 17.治療選択の際にはこれらの内視鏡的に評価された重症度や病変の広がりを加味した治療選択を行うが,予後不良な所見が認めらる場合は,生物学的製剤などのadvanced therapyを早めに行う,Accelrated step-up戦略,Top down戦略などが検討される.

診断されたCDの内視鏡的な重症度を示すためには客観的な指標が必要になる.Crohnʼs disease endoscopic index of severity(CDEIS,Table 1 18や,simple endoscopic score for CD(SES-CD,Table 2 19が提案されている.しかし,これらは大腸内視鏡検査のために開発されたものであるため,小腸に関しては終末回腸しかスコアリングの対象とされていない.これらに対して,小腸を回盲弁から10cmまでの終末回腸,10-300cmまでの深部回腸,300cm以遠の空腸の三つのsectionに分割し,各部位をSES-CDに準じてスコアリングして合算するという,modified SES-CD(mSES-CD,Table 2)が提案されている 20

Table 1 

CDEIS文献 22より作成.

Table 2 

simple endoscopic score for CD(SES-CD),modified SES-CD(mSES-CD)文献 23),24より作成.

Ⅳ 小腸病変の治療効果判定とTreat to Target戦略

昨今の治療選択肢の増加により,炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)患者において治療目標を定め,その達成に向けて病状の評価,治療強化もしくは変更を繰り返す戦略(Treat to target戦略:T2T)が可能になった.IBD専門家らによるIOIBDからの提言(STRIDE-Ⅱ)にはIBDの治療目標として,短期的には症状の改善および症状の寛解,中期的にはバイオマーカーの改善,そして長期的には内視鏡による治癒,正常化された生活の質,および腸管障害を起こさないことなどが設定されており,それぞれのタイミングで病状を評価し,目標を達成していない場合は治療の見直しを繰り返すというT2Tの概念が記されている(Figure 2 21

Figure 2 

IBDにおけるT2T戦略(文献 21より転載).

POCER試験ではCD術後に6カ月毎にCSフォローして治療強化した症例の方が,18カ月後の再燃率が低く,粘膜治癒率も高いことが示された 22.CALM試験では臨床症状とバイオマーカー(C-reactive protein:CRP,便中カルプロテクチン)をモニタリングして目標達成に向けて治療を行うTight control群と臨床症状に基づく治療を行うClinical control群を比較したところ,48週時の粘膜治癒(CDEIS<4かつ深い潰瘍が無いこと)はTight control群で良好(45.9% vs. 30.3%,調整後リスク差16.1,95%信頼区間:3.9-28.3,P=0.01)で,CD関連の入院率の低下とも関連していた(13.2 versus 28.0 イベント/100人年,P=0.021) 23.またBouguenらは後方視的研究において,内視鏡検査を受けたCD患者67名を中央値62週の追跡を行い,34名に粘膜治癒を認め,粘膜治癒に関連する要因は,内視鏡手術間の間隔が26週間未満であること(ハザード比:2.35,95%信頼区間:1.15-4.97,P=0.035),および粘膜治癒が観察されなかった場合の薬物療法への調整(ハザード比:4.28,95%信頼区間:1.9-11.5,P=0.0003)であったことを示し,粘膜治癒(Mucosal healing:MH)を目指して治療強化していくことで予後が改善していたことを示した 24

これらのT2T戦略の有用性を示した報告はいずれにおいてもICSによる腸管評価に基づいており,このT2T戦略を小腸病変に対し,BAEを用いて行っていくことに有用性を示した直接的なエビデンスは不足している.しかし,生物学的製剤の導入後1年の粘膜治癒率は小腸病変では大腸病変より低いことが,UNITI study,VERSIFY study,EXTEND study,CT-P13 studyの事後解析で示されている 25.またTakenakaらは,抗TNFα抗体製剤で治療した116名のCD症例のうち,1年後の内視鏡的治癒は小腸病変では114人中41人(36%),大腸病変では42人中33人(79%)であり,小腸病変では有意に,潰瘍性病変が残存することを示した 26.このことを踏まえると,われわれは,病変の残りやすい小腸に対してこそ,治療導入後の適切なタイミングで内視鏡による病状評価を行い,治療効果を評価し,治療を見直すことは必要であると考えている.

Ⅴ 小腸病変のモニタリングにおけるBAE

CDが進行性疾患であるという最近の認識により,治療戦略の焦点は単なる症状のコントロールや生活の質の向上から,疾患の進行を阻止して腸の損傷や障害を予防することに変わった.CDは臨床症状から病勢の把握が難しく,臨床症状やCRPなどの血清マーカーではCDの病勢が十分に反映されておらず,臨床的に症状が乏しい期間においても疾患活動性が持続している場合がある.その時期にも腸管ダメージが蓄積し,不可逆な腸管障害となり,手術を要する病態に進行してしまう.臨床的に症状が乏しい時期にも病状をモニタリングし,治療介入を行うことにより予後を改善させることができると考えられるため,モニタリングの重要性が認識されている(Figure 3 27.前述のT2T戦略の有用性を示したCALM試験において,Deep remission(CD内視鏡による重症度スコア4未満,8週間以上の深い潰瘍形成やステロイド治療なし)を達成した患者とそうでない患者で不良な転帰(新たな内瘻または膿瘍,狭窄,肛門周囲瘻または膿瘍,またはCDのための入院または手術)を比較したところ,deep remissionは重大な有害転帰のリスクの低下と有意に関連していた(調整ハザード比:0.19,95%信頼区間:0.07-0.31) 28.ShahはSystematic reviewで,基準を満たした12件の研究の673人の患者CD患者のMHを達成した患者のプールされたORは長期CR達成率に対しては2.80(95%信頼区間:1.91-4.10),CD関連の無手術率に対しては2.22(95%信頼区間:0.86-5.69),長期MHに対しては14.30(95%信頼区間:5.57-36.74)であった 29

Figure 3 

IBDにおけるモニタリングの重要性(文献27より転載).

また,小腸病変は特に臨床症状を呈しにくく,CRPもCDの内視鏡的活動性を十分には反映しないことが報告されている 30.Takabayashiらは,臨床的寛解期のCD患者においてBAEを使用して深部小腸病変を評価することの臨床的影響を明らかにするために後ろ向き研究を実施した.100人の臨床的寛解期のCD患者に対して経肛門的BAEが実施され,BAE所見とその後の1年間の臨床経過との関連の可能性が評価された.多変量解析により,SES-CDに深部小腸のスコアも加味したmSES-CD(オッズ比:3.10,95%信頼区間:1.86-5.15,P=0.001)が臨床再発を予測する独立因子であることが示された.このような臨床的影響は,回腸末端のみを反映したSES-CD単独では見出されなかったことから,深部小腸を含めた活動性評価の重要性が示された 31.Takenakaらは臨床血清学的寛解状態にある合計139人のCD患者を,BAEおよびMR enterography(MRE)処置後に前向きに追跡調査した検討において,重回帰分析の結果,BAEによる粘膜治癒を達成していないことは,臨床的再発(ハザード比:5.34,95%信頼区間:2.06-13.81)および血清学的再発(ハザード比:3.02,95%CI:1.65-5.51)独立した危険因子であることが示された 30.Beppuらは抗TNFα抗体製剤による維持療法中のCD症例において大腸病変のみの内視鏡的寛解(Endoscopic remission:ER)より小腸病変と大腸病変両方のERを達成した方が,長期の臨床寛解率,狭窄に関連した腸管手術率が有意に低下していたことを示した 32

小腸は管腔の径が狭いため,腸管のダメージの蓄積の影響を受けやすく,手術が必要なほどの狭窄などを来しやすいことからも,小腸病変においても内視鏡的寛解を達成して腸管ダメージの進行を抑制することは重要である.したがって,モニタリングにおいて,ICSで見える範囲の評価だけでなく,小腸全体の粘膜病変の評価が必要になる.近年発行の日本のガイドラインでも小腸病変のclose monitoringの重要性が提言されている 33.BAEは,CD患者の小腸病変を視覚化するための最も感度の高い画像診断法である 34.しかし,BAEは侵襲性を伴う検査であるため,臨床的寛解期の症例において,どの程度の頻度でBAEによるモニタリングを行うべきか,また,どのような症例においてBAEによるモニタリングを行うべきかなどに関しては定められた方針は無い.後述の他の侵襲性のより低いモダリティの有用性も報告されており,それらも含めた複数の選択肢の中から,メリットとデメリットのバランスを症例毎に考えながらモダリティを選択していく.

Ⅵ 他の小腸評価のモダリティ

MREは低侵襲で欧州諸国では比較的優先的に使用される.本邦においてもTakenakaらはMaRIAとBAEのaSES-CDの相関を評価し,MaRIAとaSES-CDの相関は高く(R=0.808,P<0.001),BAEで評価した粘膜治癒のMREの診断能は感度87%,特異度86%であった 20.BruiningらはCEとMREのCDの診断・モニタリングについて99例のCD患者の感度,特異度を比較検討しており,特異度はCEで優れており(74% vs 22%,P=0.001),感度は回腸末端では同等の感度であったが,近位小腸についてはCEが優れていたことを示し,CEの優位性を報告している(97% vs 71%,P=0.021) 35.システマティックレビューでは,超音波検査は,CDの疑いの診断と疾患活動性の評価のための有用な非侵襲的検査(感度0.84,特異度0.92)であるが,回腸末端に近い病変では精度が低いことや検査者の技量への依存度が高いことなどの課題が示されている.CTEは,病変の広がりと活動性の評価に関してMREと同様の精度を持っているが,放射線被曝の問題があり,特に若い患者の場合,CTEよりも超音波検査(US)またはMREが優先されるべきと考えられている 36

IBDの疾患活動性のモニタリングのためのバイオマーカーとしての便中カルプロテクチン(FC)の有効性は多くの報告がある.MosliらはFCの内視鏡的活動性に対する有用性について19報の論文によるシステマティックレビューでは,Cut off値を50μg/gとした際の感度が0.88(95%信頼区間:0.84-0.90),特異度が0.73(95%信頼区間:0.66-0.79)と高かったことを示した 37.FCは優れたマーカーであることは間違いないが,採便のわずらわしさや,病変部位が分からないこと,同一患者内のサンプルによるばらつきや日内変動,食事内容によるばらつきも報告されているため,解釈に注意を要する場合がある.ロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)はCRPよりも幅広い炎症刺激に反応して上昇することからCRP陰性のIBD症例においても,活動性を反映するマーカーとして有用性が報告されている.最近では,KawamotoらがCD小腸病変の内視鏡的活動性をモニタリングする際に,Crohn’s disease activity index(CDAI)やCRP値よりも有用であることを示した 38.しかし,まだエビデンスが十分蓄積されたとは言い難いことや,Cut offが定まっていないことなどが今後の課題である.

いずれのCrosssectional imagingやバイオマーカーも,小腸粘膜病変の検出精度において,完全にBAEに置き換えることができるわけでなく,症例個々の病状に応じて選択することが重要である.

Ⅶ 狭窄のマネジメント

内視鏡的バルーン拡張術(Endoscopic balloon dilation:EBD)は,消化管狭窄による通過障害において外科手術を回避するために,日常診療において広く行われている(Figure 4).回腸近位部または空腸の小腸狭窄は,通常,BAEによってのみ拡張可能である.EBDの適応とする条件は,偶発症のリスクもある手技であることから,原則,無症状の狭窄ではなく,イレウスや腹痛などの閉塞症状を有する症候性の小腸狭窄や,狭窄口側の腸管径の拡張などのなんらかの通過障害などを有する場合としている施設が多いと考えられる.EBDによる偶発症を避けるためには,リスクが高い症例では施行しないようにする.狭窄部のびらん,浅い潰瘍は通常は禁忌とはされていないが,深い潰瘍などの狭窄部の重篤な活動性病変はEBDによる穿孔のリスクから,禁忌とされている 39.長い狭窄(5cm以上),狭窄周囲の瘻孔の存在,高度な屈曲を伴う狭窄も除外基準である.

Figure 4 

a:上部空腸に口側の腸管拡張や腸液の貯留を伴う狭窄を認めた.

b:内視鏡的バルーン拡張術(EBD)を施行した.

c:拡張後の狭窄.Scopeの通過が可能となった.

症候性のCDの小腸狭窄に対するBAEによるEBDの短期的な有効性と安全性を調査した本邦の多施設前向き研究では,手技はほぼ全例(93.7%)で成功しており,狭窄後のScopeの通過率は76.8%,症状の改善率は約70%が症状の短期的な改善を示した.バルーンの拡張直径が大きいことが手術の成功と関連していたと報告された 40.EBDの長期的な有効性は,患者の予後にとって重要である.症候性の小腸狭窄にEBDを施行した症例の長期成績をまとめたBambaらの本邦の多施設共同研究によると,初回EBD後の累積手術率は5年で54.4%であったが,有症状の小腸狭窄を認めるCD症例で,IMや抗TNFの追加,禁煙の追加の因子が初回EBD後の長期成績の改善と関連を認めた 41.Takedaらは抗TNFα抗体製剤使用中の小腸を含む消化管狭窄のEBDの単施設における成績を報告しているが,初回EBD後の累積手術率は5年で73.5%であった 42.Hiraiらは以前,最初のEBD後2年で79%,3年で73%の累積無手術率を実証した.最初のEBD後の累積再拡張率は2年で64%,3年で47%で,すべての小腸狭窄に対する内視鏡的拡張の成功と薬物治療による炎症のコントロールが,長期的な入院や手術を回避するための因子であった 43.小腸狭窄に対するEBDを対象としたメタアナライシスでは20.5カ月の平均観察期間における外科手術率は27.4%,症状再燃率は48.3%とされ,再拡張率は38.8%であった.小腸に疾患活動性のある患者は短期臨床有効性が低いこと(オッズ比:0.32,95%信頼区間:0.14-0.73,P=0.007),小腸および/または大腸に活動性疾患を併発している患者は,手術に進むリスクが増加すること(ハザード比:1.85,95%信頼区間:1.09-3.13,P=0.02,ハザード比:1.77,95%信頼区間:1.34-2.34,P<0.001)が示された 44

EBDのリスクは,クローン病の小腸狭窄に対するEBDの成績をまとめたシステマティックレビューにおいて,穿孔,高度出血,および外科手術を要する主要な偶発症の発症率は,患者数ベースでは3.21%,手技数ベースでは1.82%である 44.最も回避すべき偶発症である穿孔は,多くの観察試験で0-10%とされている 45.輸血を要する高度出血の頻度は少なく,0-1.5%である 40),42),43

現状ではEBDの適応として,症候性の小腸狭窄としている施設が多いと考えられるが,腸管拡張を腸管のダメージの蓄積としてとらえ,腸管拡張を来す前に,閉塞症状が無い段階でEBDを施行していくべきとする考え方もみられる.無症候性の小腸狭窄に対するEBDのメリットとして,狭窄の進行の予防,狭窄より深部の腸管の観察が可能になるなどが考えられる.われわれの施設では,これらのメリットがデメリットを上回ると判断する状況では無症候の小腸狭窄であってもEBDを行っているが,エビデンスは未だ十分ではなく,今後の検討が期待される.

Ⅷ 癌のサーベイランス

7,344人の患者を対象としたUchinoらのメタ分析 46では,CD患者における小腸癌の相対リスクは一般集団と比較して22倍増加していたことを報告した.Canavanらによる英国と北米におけるメタ分析ではクローン病では小腸がんと結腸がんが発生するリスクが高いことが明らかになった.この研究によると,クローン病における大腸がんの相対リスクは2.5で,クローン病における小腸がんの相対リスクは31.2であった 47.特に,EBDに対して難治性の小腸狭窄は危険因子であり,生検組織を採取する必要がある 48.CD関連の小腸癌の内視鏡的特徴はまだ十分に確立されておらず(Figure 5),CDの増悪とも鑑別が難しいことがある.BAEは,生検組織を取得するための唯一の手技である.CDにおける消化管癌の発生リスクが高いことが明らかになってきている一方で,現状では小腸癌に対してBAEでサーベイランスを定期的に行うことの有益性を示す報告はほぼ無く,エビデンスは確立していない.

Figure 5 

a:CD症例に発症した上部回腸の小腸癌.

b:BAE下ガストロ造影では不整な狭窄像が描出された.

c:腹部造影CT(横断像).造影効果を伴う壁肥厚として描出された.

d:腹部造影CT(縦断像).造影効果を伴う壁肥厚として描出された.口側腸管に腸石を認めた.

Ⅸ BAEの問題点,リスク

BAEのデメリットとして,侵襲性,マンパワーが必要なこと,検査時間が長いことである.偶発症としては消化管穿孔,膵炎,出血などが報告されている.2,340件のBAEを受けた1,812人の患者について報告した73件の研究のシステマティックレビューではCDにおける診断用BAEの穿孔率は0.15%(95%信頼区間:0.05-0.45)で,これはすべての適応症におけるBAE(0.11%;IRR=1.41,95%信頼区間:0.28-4.50)と同様であった 49.BAE挿入による消化管穿孔は,潰瘍が深い,病変の活動性が高い場合や腸間膜の癒着の強い症例で起こるので,そのような場合は深部への挿入を無理に行わず,挿入部位からの内視鏡下造影検査や,他のモダリティでの検査への切り替えを検討する.また,膵炎は送気による内圧上昇,直線化による機械的刺激,長時間の検査などがリスクになる.よって,BAE検査自体は,決して無理せず,検査時間も長くなりすぎないように行うなどの配慮をする.BAE自体は侵襲的な検査であることは間違いないので,他のデバイスとのメリットとデメリットを勘案し,不必要なBAEを施行しないなどの配慮が必要である.

Ⅹ おわりに

クローン病診療においてBAEは,検査の正確性,生検ができること,EBDが施行できることなどは,他のモダリティには無いアドバンテージを有する.そのため,小腸病変の鑑別診断,病変範囲の診断,重症度の判断およびスコアリング,EBD,小腸癌の診断などにおいて,重要な役割を担っていることは間違いない.しかし,挿入の困難性,患者の苦痛・侵襲性の大きさ,偶発症などの観点から,リスクが全くなくなることは無く,すべての症例のモニタリングに適応とすることは難しい.そのため,今後の方向性として,より低侵襲性のMREやバイオマーカーなどが使用される頻度が増加してくるものと思われる.しかし,その一方で,BAE以外の検査の小腸病変の検出を含めた検査精度は,BAEと比較した場合,十分とは言い切れず,今後の進展が期待されている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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