GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2024 Volume 66 Issue 10 Pages 2499-2508

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要旨

消化器内視鏡検査領域において人工知能(artificial intelligence:AI)の研究開発が盛んになっている.薬事承認を受けている内視鏡AI医療機器は国内だけでも10以上にのぼり,多数のランダム化比較試験が本邦および海外から発表されている.しかしながら,AI導入における臨床効果と不利益のバランスに関する検証不足・不明瞭な費用対効果・信頼できるガイドラインの欠如・確立されていない診療報酬加算などの理由から,その導入は円滑に進んでいるとは言い難い.

この状況を鑑み,日本消化器内視鏡学会は,内視鏡診療におけるAIの状況についての見解を,以下のポジションステートメント(声明)として提供する.本声明は,日本消化器内視鏡学会AI推進検討委員会が主体となり,多様性に富んだパネルメンバーとともに作成した9個のステートメントからなる.これらのステートメントは,内視鏡検査の質・費用対効果・診療上の不利益・準備知識・医療安全/法的責任に関するものを包括的に含んでおり,実際の内視鏡検査の現場で役立つよう配慮し作成された.

1.はじめに

人工知能(artificial intelligence:AI)技術の医療応用が着目を集めている.特に,消化器内視鏡領域においては世界中で30以上のAI診療機器が薬事承認を得て使われ始めており,科学的エビデンスの面から言っても20以上のランダム化比較試験がすでに出版されている 1.このような背景から,内視鏡検査の精度向上においてAIが果たす役割に大きな期待が寄せられている現況がある.

しかしながら,このような活況を呈する研究開発の現場とは対照的に,現場での導入は限定的である.その理由として,AI導入における臨床効果と不利益のバランスに関する検証不足・不明瞭な費用対効果・信頼できるガイドラインの欠如・確立されていない診療報酬加算などが課題に挙げられる 2.これらの課題を克服し,現場の内視鏡診療医に現状でのエビデンスに基づいたガイダンスを提供するため,日本消化器内視鏡学会は,内視鏡診療におけるAIの使用に関するポジションステートメントを作成した.なお,本ステートメントの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.

2.ステートメントの作成手順

1)作成委員
Table 1 

内視鏡AIに関するポジションステートメント作成委員会構成メンバー.

2)推奨の強さとエビデンスレベル,ステートメント

本ポジションステートメントは,作成委員会とパネルメンバーの合議によってclinical questionの作成・文献検索に基づくエビデンスレベルの評価・ステートメントの作成が包括的に実施された.GRADE 3に基づくエビデンスレベルの評価および推奨の強さの決定は行わなかった.

3)方法

本ポジションステートメントは,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会の下,AI推進検討委員会が主体となって実施したプロジェクトの成果物である.ポジションステートメントは,Delphi法に基づいた方法により作成・審議された 4

最初に審議の対象となったステートメントの草稿は内視鏡AIに関するポジションステートメント作成委員会・作成委員11名(Table 1)によって作成された.作成委員は消化器内視鏡診療におけるAIの役割に精通した消化器内科医11名で構成された.作成委員会は2023年1月~4月にかけて合計3回開催され,合議の上,10個のclinical questionが提案された.clinical questionは内視鏡検査の質・費用対効果・診療上の不利益・準備知識・医療安全/法的責任に関するものを包括的に含むものとなった.作成委員会はそれぞれのclinical questionについて文献検索を実施することで現状のエビデンスを確認した上で,構造化されたステートメントをそれぞれのclinical questionに対して作成した.

並行して作成委員会は,合計18名のパネルメンバーを招聘した(Table 1).この際,論文発表等の実績から,消化器病学とAIに精通していると判断できる人物をパネルメンバーに選考した.また,性別(女性7名,男性11名)および地域の多様性(東日本10名,西日本7名,海外1名)を考慮し,パネルメンバーが選出された.なお,今回は本邦における内視鏡AIの立ち位置に関する声明を出すことを目的としたため,本邦における内視鏡診療経験のある医師のみをパネルメンバーとして選出した.Delphi投票に移行するに先立ち,2023年5月27日に作成委員とパネルメンバーの合同会議を実施し,clinical questionおよびステートメントの内容に関する審議,およびその結果としてclinical questionおよびステートメントの内容を修正した.

その後,各ステートメントについて,パネルメンバーは5段階のリッカート尺度(強く同意する,同意する,中立,同意しない,強く同意しない)を用いて,投票を行った.その際,各項目について,自由記述欄へのコメントも適宜求められた.80%以上が「強く同意する」または「同意する」を選択した場合,コンセンサスが得られたと判断した.投票時にコンセンサスの基準に達しなかった項目は,各投票後の議論に従って修正・削除することとした.

投票は2023年7月と9月の合計2回,匿名で行われた.1回目の投票においては10個のステートメントがすべて80%以上の同意を得たがパネルメンバーからの要望に従い,文言の修正が必要であったため,2回目の投票において修正されたステートメントが再度審議された.その結果,最終的に10個のうち9個が合意レベルに達し,以下のように最終版に盛り込まれた.

なお,本ポジションステートメントの最終版は,2024年4月16日にパブリックコメントを求めるために日本消化器内視鏡学会会員に開示され,併せて日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会によってレビューされ,承認された.

3.本論文内容に関連する著者の利益相反

本ポジションステートメント作成に関与した委員,メンバーには,利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.

① 本ポジションステートメントに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).

② 申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).

③ 申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金:(200万円以上),株その他.

報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.

森 悠一(講演料:オリンパス・ヨーロッパ),緒方晴彦(講演料:ヤンセンファーマ,オリンパスメディカル,武田薬品工業,奨学寄付:杏林製薬,持田製薬,アッヴィ合同会社,田辺三菱製薬),斎藤 豊(講演料:オリンパス,EAファーマ,オリンパスマーケティング,富士製薬工業,Erbe Elektromedizin GmbH,研究費:オリンパス,富士フイルム),炭山和毅(奨学寄付:ガデリウスメディカル 所属組織等/寄付金:ガデリウスメディカル),田尻久雄(奨学寄付:富士フイルム),藤城光弘(講演料:オリンパスメディカルシステムズ,研究費:オリンパスメディカルシステムズ),矢野友規(研究費:寿技研,東京技研,島津製作所,オリンパス,Rakuten Medical Inc,HOYA,富士フイルム,GURDANT HEALTH AMEA Inc,Astellas Pharm Global Development,第一三共,Craif,MIRXES LAB PTE.LTD,アステラス,Surg storage),加藤元彦(研究費:センチュリーメディカル,奨学寄付:杏林製薬,持田製薬),塩谷昭子(講演料:アステラス,アストラゼネカ,ヤンセンファーマ,武田薬品工業,奨学寄付:持田製薬,第一三共),平澤俊明(講演料:AIメディカルサービス,研究費:AIメディカルサービス,所属組織等/研究費:AIメディカルサービス),三澤将史(講演料:オリンパス,サイバネットシステム),山田真善(研究費:日本電気),田中信治(講演料:オリンパス,EAファーマ,武田薬品,ミヤリサン製薬,原稿料:日本臨床社,研究費:ギリアド・サイエンシス,ブリストル・マイヤーズ スクイブ,IQVIAサービシーズ ジャパン,アッヴィ,牛島俊和班,石川秀樹班,奨学寄付:大塚製薬,エクシオン,田辺三菱製薬,第一三共,EAファーマ,ミヤリサン製薬,大塚化薬)

なお,ステートメント決定時の投票に際しては,診療ガイドライン作成時の基準に準じ,本ステートメントに関連する内容で,「個人的・組織的に経済的COIが基準額を上回る場合」「経済的COI以外のCOI等(研究活動・キャリア・人間関係・利害競合等)が考えられる場合」の申告を求めたが,いずれも該当はなかった.

:本学会COI指針第8条第7項により定められた診療ガイドライン策定参加者の議決権に関する基準額は以下のとおりである.講演料200万円,パンフレットなど執筆料200万円,受け入れ研究費2,000万円,奨学寄附金1,000万円

4.資金

本ポジションステートメント作成に関係した費用については,日本消化器内視鏡学会による資金提供を受けた.

5.内視鏡AIポジションステートメント

CQ1:大腸内視鏡用CADe(病変検出支援),CADx(質的診断支援)は大腸内視鏡のクオリティを向上させるのか?

ステートメント:大腸内視鏡用CADeは腺腫の検出率を向上させる可能性が高い.一方,大腸CADxに関しては,不要なポリープ切除の減少に貢献する可能性があるが,さらなるエビデンスの蓄積が必要である.

根拠:

大腸ポリープのCADeは,腺腫の見逃し率を減らすことで大腸内視鏡の効果を改善し,腺腫の検出率を高めると考えられる.ただし,本邦で実施された試験 5を含む21のランダム化比較試験のメタアナリシス 1では,大腸内視鏡でCADeシステムを使用すると,腺腫(前癌病変)の検出率が8%向上したが,進行した腺腫(通称advanced adenoma:高異型度,10mm以上のもの,絨毛成分が優位な腺腫)や癌の検出率は向上しなかったことから,死亡率抑制効果に関しては現時点では未知である.

一方,CADxについては,内視鏡検査中の病理診断予測をサポートすることによって切除が不要な病変(ポリープ)を鑑別し,不要な病変切除を減少できる可能性が示唆されている.一方でいくつかの課題が挙げられている.第1にCADxを用いることによる付加価値が現状では不明確である.2つの大規模な前向き研究により,CADxの使用は内視鏡医単独による病理診断予測と比較して腫瘍診断の感度を有意に向上させないことが示された 6),7.しかしながら,CADxの導入により,内視鏡診断における高確信度診断の割合は明らかに増加しており(74%→93%) 7,これは不要な病変切除を減少できることに直結しうる.第2の課題は,CADxの利点は経験の浅い内視鏡医に限られるかもしれない点である.第3の課題として,医療経済研究の数と種類が不足していることが挙げられる.第4の課題として,CADxの臨床導入は,CADeと比較して,医療・法的リスクが生じる可能性がある.

CQ2:術者の技量は大腸内視鏡用CADe,CADxの使用にどの程度影響するか?

ステートメント:術者の内視鏡経験数によって,大腸内視鏡用CADe,CADxから受ける恩恵が変わる可能性はあるが,裏付けとなるエビデンスは不十分である.

根拠:

CADeおよびCADxが内視鏡診断に与える影響における,熟練医および非熟練医の差異について主要評価項目として比較した試験はない 1.しかしながら,複数の前向き試験の副次解析によると,大腸内視鏡CADeから受ける恩恵は内視鏡経験の少ない医師の方が大きい可能性が示唆されており 8,CADxから受ける恩恵も同様に内視鏡経験数の少ない医師の方が大きい可能性が示されている 6.しかしながら,根拠となるエビデンスの質・量ともに乏しく,ステートメントとして採択するに足る根拠はない.

CQ3:大腸内視鏡用CADe,CADxの使用によって大腸癌罹患・死亡の減少は見込めるか?

ステートメント:大腸内視鏡用CADeを用いることで腺腫検出率が高まることが期待されるため,大腸癌罹患・死亡の減少が期待されるが,裏付けとなるエビデンスは不十分である.大腸内視鏡用CADxが大腸癌予防に貢献するエビデンスは現状では存在しない.

根拠:

複数のランダム化比較試験が大腸内視鏡用CADeを用いることで腺腫検出率を上昇させることを示している 1.この腫瘍検出の上昇は,長期的に大腸癌罹患・死亡の減少に貢献しうることが期待され,複数のマイクロシミュレーション研究がこれを支持しているが,裏付けとなるエビデンスは不十分である 9),10.また,もともと非常に高い腺腫検出率の医師の腺腫検出率をさらに上昇させることによる癌罹患予防効果は非常に限られている可能性がある 11.また,腺腫検出率が高まることでサーベイランス内視鏡間隔がより狭まり,内視鏡検査の質をあげたにも関わらず,逆に頻回の内視鏡検査が必要になるという側面についても今後は議論が必要であり,将来の大腸内視鏡とサーベイランスガイドラインの修正が必要になってくるかもしれない 12.なお,CADeを用いることでSessile serrated lesion(SSL)や癌の検出が増えるという見解は確立されておらず,さらなる研究結果が待たれる.一方で,CADx使用については,大腸癌罹患・死亡との関係は指摘されていない.

CQ4:上部消化管内視鏡用CADe,CADxは上部消化管内視鏡のクオリティを向上させるのか?

ステートメント:上部消化管内視鏡用CADeあるいはCADxが,腫瘍検出率あるいは質的診断の精度を高めるかについてのエビデンスは不十分である.

根拠:

2024年5月時点で,上市されている上部消化管内視鏡AIは,本邦における食道扁平上皮癌・胃腫瘍用CADe/CADx 13,胃癌用CADx 14,中国・韓国における胃癌用CADe/CADx 15),16,欧州におけるバレット食道腫瘍用CADe 17などが存在するが,AI使用の有無による内視鏡のクオリティの違いを検証した前向き試験・ランダム化比較試験は非常に限られている.

Ishioka Mらは,後ろ向き研究によって胃癌用CADxの専門家に対する感度(84.7% vs. 65.8%)における優位性と正診率(70.8% vs. 67.4%)における非劣性,さらに,胃癌用CADxの非専門家に対する感度(84.7% vs. 51.0%)と正診率(70.8% vs. 58.4%)における優位性を報告した 14.Wu Lらは,ランダム化比較試験において,胃腫瘍の見逃し率は,内視鏡医ファーストグループよりも胃癌用CADe/CADxファーストグループで有意に低いことを検証した(6.1% vs 27.3%) 15.Abdelrahim Mは,前向き試験において,バレット食道腫瘍用CADeは,内視鏡医のパフォーマンスと比較して,感度,特異性,陰性的中率,正診率が有意に高いことを検証した(93.8%,90.7%,95.1%,92.0%,vs. 63.5%,77.9%,74.2%,71.8%,P<0.05) 17.いずれも,後ろ向き研究もしくは症例数が限られた前向き試験が現状におけるエビデンスの主体であり,CADe/CADxの使用により,腫瘍検出率や質的診断精度の向上が得られるかどうかについての根拠には乏しい.

CQ5:大腸内視鏡用CADe,CADxには費用対効果が認められるか?

ステートメント:大腸内視鏡用CADeは費用対効果で優れている可能性がある.一方で,大腸内視鏡用CADxは医療費削減効果の可能性のみが示されており,今後,費用対効果についての検証が望まれる.

根拠:

大腸内視鏡用CADeが費用対効果で優れている(費用の増分に見合う効果が得られる)可能性が,本邦の研究を含む複数の費用効果分析研究により報告されている 9),10.これは,CADeを用いることで一時的にはポリープ検出増加により医療費が増えるものの,長期的には大腸癌の罹患・死亡が減少する可能性があることによる.大腸内視鏡用CADxについては,現時点で内視鏡切除医療費削減効果の可能性のみが報告されており,さらなる検証が望まれる 18

CQ6:内視鏡用AIに診療報酬加算等を考慮すべきか?

ステートメント:質の高い研究によって臨床的アウトカムの向上や費用対効果等が認められた場合,診療報酬加算等を考慮すべきである.

根拠:

医療用AIの承認が先行している欧米からの報告では,保険償還によってAIの普及が進んだ一方で,従来のように使用ごとの加算にするとAIがむやみに使われるようになることが懸念されている 2),19.診療報酬加算などのインセンティブの付与については,質の高い研究による臨床的アウトカム向上や費用対効果等が示されていることが重要である.また,使用方法について学会の管理指針 20を遵守するなどの基準を設けることが望ましい.内視鏡用AIの具体的な診療報酬加算などの方法については,使用例すべてに加算するのかなどを含めて,費用対効果の観点でも慎重に検討を行う必要がある.なお,令和6年2月の中央社会保険医療協議会にて診療報酬改定において対応する優先度が高い技術として「大腸内視鏡検査における大腸上皮性病変の検出支援技術」が挙げられ,令和6年度診療報酬改定で,病変検出支援プログラム加算が新設された.

CQ7:内視鏡検査にCADe,CADxを用いることによる不利益はないか?

ステートメント:内視鏡検査にCADeおよびCADxを用いることによる有害事象の発生は,現時点では報告されていない.

根拠:

内視鏡CADeおよびCADxに関係する30報以上の前向き試験において,これまで直接的な有害事象(出血・穿孔等の合併症など)が増加したとの報告はない 1),21.一方でCADeを用いることでポリープ検出数が増え検査時間を延長させたり,サーベイランス内視鏡が増えたりするといった医療負担の上昇に寄与する可能性が指摘されている 12.また,CADxによる偽陰性により腫瘍の取り残しが起こる懸念はわずかにある 21.また,AIと医師とで診断が異なった場合の相互作用については不明な点が多く,あくまでAIは補助的なツールであり,これがどのように医師の意思決定に結びつき,検査としての利益・不利益に貢献するかについてはさらなる研究が必要である 22

CQ8:内視鏡用AIの有用性を最大限活かすために,必要な知識と行うべきことは何か?

ステートメント:AIの基本的な診断精度指標を理解する.内視鏡用AIは適切な環境(十分な粘膜露出・適切な前処置等)のもとで使用することが大切である.

根拠:

多くのCADeやCADxが上市されているが,これらの中にはまだ発展途上のものがあり,診断精度にばらつきが存在する.上市されている製品の性能に関するデータは添付文書に記載されているので,CADeやCADxを使用する前に,その基本的な診断精度指標を理解する必要がある.

CADeを使用する際には,CADeが病変を検出できるよう粘膜を隅々まで観察することが重要である.実際に,ランダム化比較試験では,十分な時間(例えば6分以上)をかけた大腸の観察により,CADeの病変検出精度が向上することが示されている 23.また,前処置の質を管理することにより,CADeの精度を向上する可能性が示唆されているため 24,適切な前処置もAIの有用性を活かすために重要である.

CADxを使用する際には,撮影条件が悪い画像ではCADxの診断精度を低下させる可能性があるので,粘液や泡,血液が付着していないきれいな画像を撮影する必要がある.

CQ9:AI出力を参照した内視鏡診断の責任は,医師にあるのか?

ステートメント:AIによる示唆は,プログラム使用者の意思決定に対する補助的なものであり,最終的な内視鏡診断の責任は医師にある.

根拠:

現状では,AI出力を参照した内視鏡診断の責任は医師にある.これは,2018年12月に,厚生労働省が「人工知能(AI)を用いた診断,治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」(医政医発1219第1号)にある「人工知能(AI)を用いた診断・治療支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合についても,診断,治療等を行う主体は医師であり,医師はその最終的な判断の責任を負う」 25との記載に基づき判断される.内視鏡診断は,医師法(昭和23年法 律第201号)第17条にあるところの,医業として行われるものであり,医師でなければ医業をなしてはならないとされているため,その責任は医師にあると考えられる.また,AIを用いた治療行為についても,AIは同様に支援ツールに過ぎず,判断の主体は当面は医師であると判断されるため,その責任は医師にある.

しかし,本領域の進歩は目覚ましく,将来的に,AI出力に基づく医療行為について,プログラム提供側に規範上あるいは法的責任が及ぶ可能性については議論の余地はある.しかし,使用者の責任が,どの様な範囲で回避されるのか,本邦における法的根拠や具体的な判例はない.いずれにせよ,今後も使用者には,責任ある慎重な意思決定が求められる.

文 献
 
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