GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
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ISSN-L : 0387-1207
ENDOSCOPIC THERAPY FOR PANCREATIC PSEUDOCYST AND WALLED-OFF NECROSIS
Shuntaro MUKAI Takayoshi TSUCHIYATakao ITOI
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2024 Volume 66 Issue 2 Pages 129-143

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要旨

膵仮性囊胞や膵炎後の被包化壊死に対して,まず低侵襲な超音波内視鏡下ドレナージを行い,必要に応じて内視鏡的ネクロセクトミーを行う内視鏡的ステップアップ・アプローチによる経消化管的治療が行われている.専用の大口径メタルステントの普及や追加内視鏡ドレナージテクニックにより,多くは内視鏡治療単独で治癒可能となってきた.しかし骨盤腔まで及ぶ巨大な病変に対しては,内視鏡治療に固執することなく,経皮的アプローチや外科手術も考慮した広い視野での治療戦略が必要となる.本稿では,膵仮性囊胞・被包化壊死に対する内視鏡治療の進歩と現状について概説する.

Abstract

Recently, the endoscopic step-up approach has become the standard treatment for pancreatic pseudocysts or walled-off necrosis following acute pancreatitis. This approach involves minimally invasive, endoscopic ultrasound-guided transluminal drainage and, if necessary, direct endoscopic necrosectomy. Endoscopic treatment is now sufficient for a majority of cases, owing to the development of specialized large-bore, bi-flanged metal stents, and endoscopic additional drainage techniques. However, if the disease extends into the pelvic cavity, it is necessary to consider percutaneous or surgical approaches alongside endoscopic treatment. In this article, we review the progress and current status of endoscopic treatment for pancreatic pseudocysts and walled-off necrosis.

Ⅰ 緒  言

慢性膵炎などに伴う膵管破綻から形成される膵仮性囊胞(pancreatic pseudocyst:PPC),急性膵炎後の局所合併症である急性壊死性貯留(acute necrotic collection:ANC)や被包化壊死(walled-off necrosis:WON)(Figure 1),膵切除後の膵液漏などの腫瘍性病変ではない膵周囲に発生した液体貯留病変を総称して膵周囲液体貯留[(peri)pancreatic fluid collection:PFC]と呼称されている.このPFCに感染を併発し,抗菌薬などの保存的治療のみでは感染のコントロール不能な場合は侵襲的なドレナージを中心としたインターベンション治療が必要となる.経皮的ドレナージは,低侵襲で有効な方法であるが再発や難治性皮膚瘻などの問題や患者の日常生活動作(activities of daily living:ADL)を低下させるといった理由から,近年は内視鏡的ドレナージが第一選択として考慮される.内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)手技を用いた経乳頭ドレナージでは,膵臓への負荷による膵炎の再燃や増悪も危惧される.また,WONの場合はドレナージルートとして確保できる程の膵管との交通を有していない症例の方が多い.仮にドレナージチューブが留置できたとしても,ほとんど液体成分である膵仮性囊胞とは異なり壊死組織を含むWONに対してはドレナージ不十分となる可能性が高い.1992年にGrimmらが初めて経消化管的に超音波内視鏡下にPFCを穿刺し,ドレナージステントを留置する超音波内視鏡下ドレナージ(EUS-guided transluminal drainage:EUS-TD)を報告し 1,現在PFCに対するドレナージの第一選択として広く普及している.壊死組織を多く含むWONに対してはドレナージのみでは感染制御が困難であり,壊死組織除去(ネクロセクトミー)を要する.以前行われていた開腹下ネクロセクトミーは,侵襲度が高く,偶発症発生率や致命率が高いことが問題であった 2.そこで近年は,EUS-TDと必要に応じて形成された瘻孔から内視鏡をWON内に挿入してネクロセクトミーを行う内視鏡的ネクロセクトミー(Endoscopic necrosectomy:EN)による経消化管治療を主軸とした内視鏡的ステップアップ・アプローチによる低侵襲内視鏡治療が主に行われるようになり,治療成績が向上してきている.2021年に改訂された本邦の急性膵炎診療ガイドラインにおいても局所合併症に対する治療にとして内視鏡的ステップアップ・アプローチが推奨されている 3),4.本稿ではPFC(主にPPC/WON)に対する内視鏡治療の進歩と現状について概説する.

Figure 1 

膵炎後膵周囲液体貯留の分類.

Ⅱ 治療適応と治療導入のタイミング

無症状のPPCは経過観察可能と考えられる.浮腫性膵炎後にPPCを形成する頻度は約5-10%と報告され 5,さらに径が6cmに満たないPPCは,6週間程で自然消失する可能性が高いと報告されている 6.したがって治療適応となる膵炎後のPPCは稀である.治療適応となるPPCの多くは慢性膵炎を背景として膵管破綻により形成されたchronic PPCである.いわゆる“6・6ルール”の径6cm以上で6週間経過したchronic PPCは自然消失しづらく,無症状であっても経過中に感染,出血,腹腔内破裂等の危険性があり,ドレナージが必要とされる場合が多いと報告されている 7.また感染など有症状例,圧排性胆管狭窄,消化管狭窄を伴うものは治療適応と考えられる.WONの治療適応に関しても明確な基準はない.巨大なWONで大量の壊死組織を含有していてもドレナージすら必要ない症例もあり,感染など症候性のものを治療適応と考え,無症候性はPPCと同様で経過観察可能と考える.しかし,無症候性でも消退する兆しがない,むしろ増大傾向なものは,経過観察中に重篤な合併症を併発する前に治療導入も検討される.

膵炎後局所合併症に対する侵襲的治療導入のタイミングとして,被包化が不十分なANCの段階(発症4週未満)で開腹下ネクロセクトミーを行うことは致命率や合併症率が有意に高いという報告から,4週以降の被包化されたWONの時期に行うことが推奨されてきた 8.しかし,近年は低侵襲ドレナージを先行させるステップアップ・アプローチが主流であり,技術や処置具も進歩しているため状況が異なる.4週まで待つ間に,感染に伴う急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS),播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)や囊胞内出血を合併し,全身状態が悪化するとその後の治療に難渋する.周囲の腸管への穿破も見られ 9),10,特に大腸に穿破すると感染制御に難渋する 11.治療導入(低侵襲ドレナージのみ)のタイミングについて4週未満と以降の治療成績を比較した研究では,処置に伴う偶発症率に有意差を認めておらず,4週未満でのドレナージ導入は許容される結果が報告されている 12)~15.しかし,最近報告されたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の結果からも,感染したANCすべてに対して早急にドレナージを行うことの有用性は確認されておらず,抗菌薬だけで感染制御できる症例もある 16.11本の後方視的研究をメタ解析した結果でも,積極的に早期インターベンション介入を行うことの有用性は証明されていない 17.本邦のガイドラインでも保存的治療で全身状態が保たれていれば,被包化が起こる時期(4週以降)にドレナージを行うことを推奨している 3),4.しかし,画像上で液状化が進み被包化されていれば,厳密に4週までドレナージを待つ必要はなく,治療導入のタイミングを逸さないことも重要であることが付記されている.

Ⅲ PPC/WONに対する治療アプローチ

PPCやWONに対する治療アプローチの方法は,経皮的治療,経乳頭的治療,経消化管的治療,外科的治療に大別される.PPCは膵管の破綻に伴う膵液貯留であることが多く,基本的に膵管との交通を有する.そのため慢性膵炎の膵管狭窄や膵石に伴う症例も含めたPPCに対する経乳頭的ドレナージ術の手技上の成功率は,69〜100%と良好な治療成績が報告されている 18)~20.しかし,手技難易度の高さやその後の経乳頭的治療マネージメントの煩雑さなどから,PPCのドレナージに関しては後述するEUS-TDによる経消化管的治療が主流となっている.壊死組織を多く含むWONに対して以前は開腹下ネクロセクトミーが行われていた.しかし,感染に伴う悪い全身状態での侵襲性の高い開腹手術はリスクが高く,報告でも偶発症率55%,死亡率14%とされ,より低侵襲で有効な治療法が求められていた 2.経皮的ドレナージは,簡便に行うことができる低侵襲な治療アプローチである.しかし,WONに対する治療成績の報告では,外科的治療への移行率が26.4%,死亡率15.2%と十分なものではなく,また主膵管レベルでの膵管破綻を伴う症例では,難治性皮膚瘻を合併するリスクを伴う 21),22.そこで開発されたのがまずはEUS-TDによる低侵襲ドレナージを行い,その効果を見ながら必要に応じてENなどの侵襲度の高い治療を追加していく内視鏡的ステップアップ・アプローチによる内視鏡治療である.感染を伴ったWONに対するEUS-TD単独の臨床奏効率は50%程度と報告されており,約半数の症例でENの追加を要する 21.逆に言うと,壊死組織を含むWONであってもドレナージのみで治療可能である症例が約半数あることを意味する.

2010年にオランダから経皮的もしくは内視鏡的ドレナージを先行させ,必要に応じて後腹膜アプローチによる低侵襲ネクロセクトミーを追加するというステップアップ・アプローチ群と最初から開腹下ネクロセクトミーを行う群それぞれ約45例ずつを比較したRCT(PANTER trial)が報告され,死亡率は有意差を認めないものの新たな多臓器不全の発生率はステップアップ・アプローチ群の方が有意に低率(12% vs. 40%)であり,35%の症例はドレナージのみで治癒可能であったという結果であった 22.治療後の経過としても新規糖尿病発生率(16% vs. 38%),消化剤の内服率(7% vs. 33%)がステップアップ・アプローチ群の方が有意に少なく,医療費も12%削減されたと述べられている.さらに経皮的ドレナージと引き続く腹腔鏡補助下壊死巣除去(video-assisted retroperitoneal debridement:VARD)を主軸とした外科的ステップアップ・アプローチと内視鏡的ステップアップ・アプローチを比較したRCTが行われ,致命率に有意な差は認めないが,内視鏡群の方が重篤な偶発症が少ない,特に難治性皮膚瘻が少なく,入院期間も短いと報告されている 23)~25.本邦のガイドラインで3編のRCTによるメタ解析も行われており,在院日数は内視鏡群で有意に短く,重大合併症及び致命率は有意差までは認めないものの内視鏡群で少ない傾向であった 3),4.こうした研究結果より,WONの治療戦略は内視鏡的ステップアップ・アプローチが主流となってきており,世界中のガイドラインでも第一選択として推奨されている 26)~28.しかし,骨盤方向へ広がる囊胞腔や右結腸溝など経消化管的にアプローチが難しい場所には外科的ステップアップ・アプローチが有用な場合もあり,内視鏡治療のみに固執せずに症例に応じて最適な方法を選択することが肝要である.

Ⅳ 超音波内視鏡下ドレナージ(EUS-TD)

経消化管的治療として1975年に直視内視鏡下の囊胞穿刺術が初めて報告され 29,その後1992年にGrimmらがEUS-TDを報告した 1.超音波内視鏡(EUS)下穿刺は最も短い穿刺経路を選択でき,介在血管を避けることができるため,直視内視鏡下穿刺より安全に行うことが可能である.実際に,RCTの結果からもEUS-TDの方が,手技成功率や偶発症発生率の点で優れているとの結果が報告されており 30),31,本邦のガイドラインでも内視鏡的ドレナージの第一選択として推奨されている.手技,処置具の発達に伴い,EUS-TDは世界的に普及し,PPCに対する手技成功率は約95%,臨床奏効率は約90%,偶発症率0~9%程度と非常に有用で安全な治療法であると報告されている 32),33.しかし,WONは内部に壊死組織を含むためドレナージ不十分となることも多く,EUS-TD単独の臨床奏効率は40~50%程度と報告されている 21.ドレナージ方法としては,1本から複数本の7Fr両端ピッグテイル型プラスチックステントと経鼻ドレナージチューブを留置する内外瘻ドレナージが基本となる(Figure 2 34.留置するプラスチックステントのサイズや本数に関しては,2013年にBangらが行ったPPC117例のEUSガイド下ドレナージに対する多変量解析の結果では,7Frと10Frを留置した群,1本と複数本留置した群,いずれも治療成績は変わらなかった,と報告されている 35.病変が小さい場合には外瘻ドレナージのみ行うが,ループを形成して経鼻ドレナージチューブを留置することが難しい症例もある.そのような症例に対してガイドワイヤーの軟性部と硬性部をうまく使ってループを形成させるテクニックも報告されている 36

Figure 2 

膵仮性囊胞に対する超音波内視鏡下ドレナージ(プラスチックステントを用いた内外瘻ドレナージ).

a:EUSで膵仮性囊胞を描出し,19G針で穿刺した.

b:7Frの両端ピッグテイル型プラスチックステントと5Frの経鼻ドレナージチューブを留置して内外瘻ドレナージを施行した.

近年,両端がアンカーになった専用のフルカバー型メタルステント(biflanged metal stent)が開発され,臨床応用されている.ドレナージ効果が従来のプラスチックステントよりも高く,一旦留置すれば内視鏡の出し入れが容易であり,後述するENを効率よくを行うことができる.少ない処置回数で治療が可能であるため,偶発症の減少に寄与する可能性もある.最初に開発されたのは,2011年にBinmoellerらによって開発されたAXIOS stent(Xlumena社,現在はBoston Scientific社)であり 37,2012年にItoiらによって世界で初めて臨床応用が報告された 38.現在はアンカー部分の形状やデリバリーシステムの異なるいくつかの種類が存在する.大きくはflared metal stent(Nagi stent,Taewoong社) 39)~41とLAMS[lumen-apposing metal stent(AXIOS stent,Boston Scientific社やSPAXUS stent,Taewoong社)] 42に分けられる.近年,この両タイプの利点を兼ね備えたステント(Plumber stent,MI Tech社)も開発され,その有用性が期待されている 43.さらに,穿刺・通電による拡張・ステント留置を同時に行うことができる一体型ステントデバイス(HOT-AXIOSTMシステム,Boston Scientific社,Z-EUS ITTMデリバリーシステム,M.I.Tech社)も開発され,このデバイスを用いれば透視を使用せずにベッドサイドでもステント留置が可能である(Figure 34 44)~47.本邦では,2017年10月にPPC/WONを中心とした膵周囲液体貯留病変に対するHOT-AXIOSTMシステムを用いたEUS-TDが保険承認されている.安全面を考慮し,ドライモデルと膵周囲液体貯留ウェットモデルを用いた講習会を受講した専門医のみが実臨床で施行可能である.AXIOSはステント展開するスペースを要するため,6cm以上の径を有し70%以上の液体成分を認める症候性PPC/WONがよい適応病変とされている.しかし,ENが必要な液体成分が少なく壊死組織含有量が多いWONにこそ大口径メタルステントの利点が生かされる 48)~50.そのような症例に対して安全にステント留置するためのテクニックも報告されている 51

Figure 3 

一体型ステントデリバリーシステム(HOT-LAMSシステム).

上段:HOT-AXIOSTMシステム(内径10,15,20mm,有効長10mm).

画像提供:Boston Scientific社

下段:Z-EUS ITTM デリバリーシステム(内径10,12,14,16mm,有効長13,23,33mm).

画像提供:M.I.Tech社

Figure 4 

HOT-LAMSシステムを用いた超音波内視鏡下ドレナージ.

a:HOT-LAMSシステムで通電穿刺して,囊胞側のステント端を展開した.

b:消化管側のステント端を展開後,感染した囊胞液が大量にドレナージされた.

多症例の検討では,ステント留置成功率98~100%,臨床奏効率78〜90%と良好な成績が報告されている 52.われわれの後ろ向きの検討では,専用メタルステント群に難治例が多く含まれていたが,従来のプラスチックステント群と比較して,臨床奏効率は同等であった(専用メタルステント群97.7% vs. プラスチックステント群92.6%) 53.しかし,偶発症率(7.0% vs. 18.5%)やENを含む追加処置回数(2.7回 vs. 4.1回)は,有意差はないものの少ない傾向にあった.本邦のガイドラインで後ろ向きコホート研究10編によるメタ解析も行われており,臨床奏効率はLAMS群の方が良好との結果から,追加処置が必要な困難例にはLAMSを使用することが提案されている 3),4.専用メタルステントの問題点の1つとして,高額デバイスであることによるコストの問題がある.しかし,コスト分析の検討では,全症例の検討でも治療コストに有意差は認められず,ネクロセクトミーなどの追加処置が必要な難治例に対しては効率よく治療を進めることができるため,コスト面でもむしろ優れている可能性が示唆される結果が報告されている 53.効率よく治療が遂行できるため,治療経過における全体の偶発症もLAMS群の方が少ない傾向にあるが,LAMS使用に伴うステント関連偶発症も懸念されている.まず,囊胞壁からの出血や仮性動脈瘤破裂などの出血偶発症がやや多い傾向があり,注意を要する 54)~56.唯一のRCTでは,30例ずつと症例数は少ないものの,臨床奏効率は同等だがLAMS群の方が出血の偶発症が多かったという結果が報告されている 57.大口径で良好なドレナージが得られるため急激な囊胞腔の縮小をきたし,囊胞側ステント端が対側の囊胞壁に当たることによる機械的刺激が原因ではないかと推測されている.さらに長期間留置することでステントが消化管粘膜に埋もれることにより,ステントの抜去に難渋するステント埋没症候群(buried stent syndrome)のリスクも報告されている 58),59.近年報告されたメタ解析の結果では,追加のENを必要としないPPCに対してはプラスチックステントとLAMSの臨床奏効率は同等であり[RR 1.08(0.96-1.21)] 60,確実に内瘻化による再発予防が可能なプラスチックステントの方がよいかもしれない.LAMSとプラスチックステントの利点と欠点を理解し,症例に応じて使い分ける必要がある.

Ⅴ 内視鏡的ネクロセクトミー(EN)

EUS-TD単独では感染制御に難渋するWONの症例に対して開発されたのがドレナージによって造設された瘻孔から内視鏡を挿入して感染した壊死組織を除去するENであり,2000年にSeifertらにより初めて報告された 21.Gardnerらは,WONに対するEUS-TD単独の治療成功率は45%であったが,ENを追加することで治療成績が88%まで改善したことを報告している 61.その後,この手技は多くの施設から報告されるようになり,ドイツ,米国,日本から多施設多症例の検討が報告されている 62)~64.その結果では臨床奏効率は75〜91%,偶発症発生率は26〜33%,致命率は5.8〜11%であり,EUS-TD単独よりも良好な治療成績であり,開腹下ネクロセクトミーより安全性の高い治療法であることが示唆される.本邦のガイドラインでもドレナージのみで改善しない場合はENを追加することが提案されている 3),4.本邦でのJENIPaN study 62では,16施設57例の感染性WONに対する治療成績が報告されており,臨床奏効率75%(治療期間中央値21日),偶発症発生率33%,致命率11%であった.

一期的にドレナージとネクロセクトミーを行うと入院期間が短く効率がよいとの報告もある 65が,侵襲度や偶発症リスクを考慮すると,まずはドレナージのみを行い,その後の臨床経過から慎重にENの適応を判断するステップアップ・アプローチの方がよいと考えられる.ENの適応判断は難しいが,WONが広範囲に進展しているもの,ドレナージ後にWONの縮小が乏しいもの,ドレナージ後にWON内腔に空気の泡を多数認めるもの(スポンジサイン陽性)はENの追加を要する可能性が高いと報告されている 66.EUS-TDで留置した経鼻ドレナージチューブから生理食塩水(1L/日)の持続灌流を行うことで,ENまで行わずに治療できる症例は多いという報告もある 67),68.ENの手技に関しては,直視内視鏡を挿入し,瘻孔部よりガイドワイヤーをWON内に留置する.ラージバルーンで瘻孔を拡張して,内視鏡をWON内に挿入していく.内部を生理食塩水でよく洗浄し,スネアや鉗子を用いて壊死組織を少しずつ取り除いていく.ドレナージに専用の大口径メタルステントを使用した場合,バルーン拡張することなくそのままステント内腔から内視鏡を挿入することが可能である.内視鏡の出し入れが非常に容易であり,ENを効率よく遂行することができる(Figure 5).1回の手技時間は概ね1時間以内を目安に週2回の頻度で行うのが一般的である.壊死組織量が多い症例や骨盤腔まで広がる症例では複数回の治療を要する.壊死組織が周囲組織から剝がれやすくして効率を上げるため0.1~0.3%の低濃度過酸化水素水を散布する方法 69,トンネル法を用いた効率を上げるテクニック 70,骨盤腔への内視鏡挿入性を高めるためバルーン小腸内視鏡を用いた方法 71などの工夫が報告されているがさらなる専用デバイスやテクニックの開発が求められる.血管損傷や穿孔に注意しながら除去を進め,肉芽組織(WONの壁)が確認できればその場所は十分である.ENのエンドポイントに関しては,完全な壊死組織の除去と良好な肉芽組織の露出が望ましいが,発熱や炎症反応が落ち着いてきた段階で終了してよい.

Figure 5 

LAMS内腔からの内視鏡的ネクロセクトミー.

留置したLAMS内腔から直視内視鏡を挿入して,壊死物質を除去した.

ENの治療経過中で最も頻度の高い偶発症は出血である.特に動脈瘤破裂は致死的な偶発症となりうるため,ドレナージを行う前,さらにENの治療経過中も適宜,造影CTの評価をすべきである.動脈瘤を認めた場合は,全身状態が安定していてドレナージが待てるようであれば,IVR(interventional radiology)によるコイル塞栓術を用いた動脈瘤治療を優先した方がよい 72.処置中に発生した出血に対しては慎重に出血点を確認して内視鏡的止血を試みる.瘻孔バルーン拡張時の出血に対してはバルーン圧迫止血やメタルステント留置による圧迫止血,EN中の血管損傷に対してはクッリピング止血,APC焼灼止血や凝固焼灼止血が有用である.しかし,処置中以外で発生した囊胞内出血は,凝血塊が貯留して内視鏡的に出血点を見つけることは困難であり,多くの症例でIVRによる止血を要する.したがって,本邦のガイドラインでも,IVRと外科のバックアップ体制が十分に整っている専門施設で胆膵内視鏡治療に習熟した医師が治療にあたることが推奨されている 3),4.実際に本邦のナショナルデータベースを用いた解析の結果で,症例数の豊富な専門施設の方が症例数の少ない施設よりも出血偶発症率が低くて入院期間が短い,さらに致命率も有意に低いと報告されている 73.また,空気塞栓も致死的な偶発症となりうるため送気にはかならずCO2を用いる.CO2を用いても過度の送気は囊胞穿破の原因ともなり,稀ではあるがCO2塞栓も起こりうるため禁物である 74.囊胞穿破を起こさないように,無理して1回で奥までENを進めずに,少しずつ壊死組織を除去していくことが重要である.EN中に穿破を疑う透視像の有無や気腹の有無を適宜確認し,穿破による気腹を認めた場合は,すぐに治療を中止し,19Gで腹腔穿刺による脱気を行った後に胃管を留置して持続吸引を行う.

Ⅵ 複雑な形態のWONに対する内視鏡治療

WONは単房性の形態を呈する症例もあるが,多房性で複雑な形態を呈することも多い 75.基本的に各々の腔は交通を有しているが,その交通が細い場合,膵周囲の主病巣に対してドレナージとネクロセクトミーを行っても,分離した副病巣がドレナージ不良となり感染の制御に難渋する.そのような多房性WONに対する治療法として,Varadarajuluらは複数の別々の場所からEUS-TDを行い,必要に応じてその複数の瘻孔からENを行うmultiple transluminal gateway techniqueを報告している(Figure 6 76.本方法を使うことで,経鼻ドレナージチューブを用いた洗浄効果を高めることができ,ネクロセクトミーを含む追加処置回数の軽減にもつながり,良好な治療成績が示されている.一方で,副病巣が脾門部や骨盤側など消化管から離れた場所に存在し,経消化管的に直接ドレナージが困難な場合は,主病巣内から副病巣との交通を探り,その交通を通して両端ピッグテイル型プラスチックステントもしくは経鼻ドレナージチューブを留置してドレナージを行う方法であるsingle transluminal gateway transcystic multiple drainagesが有用である 77.これらの方法を用いることで,内視鏡治療単独の治療成績向上が期待でき,筆者らの成績では93%の感染性WONが経消化管治療単独で治癒可能であった 75.しかし,多房性のWONのすべての副病巣に対してドレナージを要するわけではなく,副病巣が小さい場合は,主病巣のドレナージが良好であれば副病巣は消退してくる.筆者らの検討では,65mm3以上の副病巣(概ね5cm大)はドレナージが必要となる可能性が高く,積極的に追加ドレナージを考慮すべきである.

Figure 6 

LAMSを用いたmultiple transluminal gateway technique.

a:膵頭部(黄色矢印)と膵体部(赤矢印)に分断されて形成された多房性WON.

b:膵頭部のWONに対してLAMSを留置(黄色矢印)後にそのまま膵体部のWONに対してLAMSを留置した(赤色矢印).

Ⅶ 経皮ルートからの内視鏡的治療

経皮的ドレナージは,低侵襲で有効な方法であるが再発及び難治性皮膚瘻などの問題や患者のADL低下といったデメリットがあり,経消化管的治療が第一選択となってきている 78.しかし,後腹膜腔から左右の骨盤まで広がる巨大なWONの症例に対して経消化管的に膵周囲からの細い交通を通って内視鏡を骨盤腔まで挿入してENを行うことは効率がよくなく,偶発症リスクも高くなる.そのような症例では,経消化管的治療に固執することなく,早期に経皮的な治療(超音波もしくはCTガイド下ドレナージ)を追加する併用療法により,ENを含む処置回数を減少させ,偶発症の発生リスクを下げることが期待される 79)~81.さらに腹壁に近い病巣に対して,経皮的ルートに大口径メタルステントを留置し,その内腔から内視鏡を挿入してENを行う,経皮的な内視鏡的ネクロセクトミー(percutaneous endoscopic necrosectomy:PEN)の方法も開発されている(Figure 7 82)~85.治療後にステントを抜去後の皮膚瘻が懸念されるが,栄養状態に問題がなければすぐに肉芽が増生して皮膚の瘻孔は閉鎖される.少数の症例集積のみの報告であり,安全性,有効性ともにさらなる検討が必要ではあるが,静脈麻酔のみで処置が可能で,通常の経皮的処置と同様に行うことができ,低侵襲な治療法である.治療に難渋する53例のWONに対して,PENを用いることで79.2%の症例を治療することが可能であったと報告されている 86

Figure 7 

経皮ルートからの内視鏡的ネクロセクトミー(percutaneous endoscopic necrosectomy).

a:右骨盤腔のWONに対して経皮的に大口径メタルステントを留置した.

b:留置したメタルステント内から内視鏡的ネクロセクトミーを施行した.

Ⅷ 主膵管破綻症候群(DPDS)

膵実質壊死に伴う膵管破綻による膵液漏出が起きても多くの症例では末梢の膵管であり,WONの治療過程で自然に修復されるものと考えられる.しかし,広範囲壊死に伴い主膵管レベルで膵管破綻を起こし,頭側と尾側の膵管が連続性を失い,腹腔・胸腔内あるいは後腹膜腔への膵液漏出が遷延する症例もある.この病態は主膵管破綻症候群(disconnected pancreatic duct syndrome:DPDS)と呼称され,WONの16-23%程度に併発すると言われている 87),88.治療後の腹痛や嘔気の症状,高アミラーゼ血症の遷延,ドレナージチューブの自然逸脱や閉塞に伴う再発の原因となり,長期的には消化機能や糖代謝の悪化などの膵機能に影響を及ぼす.Bangらは,EUS-TDの際に主膵管の評価を行い,WON内腔に主膵管が入り込んで追えなくなれば高率にDPDSを合併していると判断でき,ドレナージ方法の選択や治療後のステント抜去の検討に有用であると報告している 89.CTや磁気共鳴胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)の画像所見でDPDSを疑うことは可能であるが,尾側の主膵管の拡張を認められない症例が多く,WONとの位置関係でMRCPでの主膵管の評価も難しくなる.DPDSの評価としては,ERCPによる膵管造影評価が最も正確であり,さらに破綻部の頭側膵管と尾側膵管を橋渡しするように膵管ステントを留置する経乳頭的治療の有用性が報告されており,まずは試みるべき検査・治療としてガイドラインでも提案されている 3),4.しかし,完全に主膵管が断裂している場合は困難な症例も多く,部分断裂ではステント留置成功率は92%と高いが,完全断裂では20%と報告されている 90.経乳頭的治療が困難な症例に対する代替法として,超音波内視鏡下経消化管的ドレナージ(EUS-guided pancreatic duct drainage:EUS-PD)や外科的治療が試みられている 91),92

Ⅸ 治療後の再発予防

ほぼ完全に囊胞腔が消失していても再発のリスクがあり,フォローを要する.内瘻ステントを抜去した群と抜去しなかった群を平均14カ月間フォローして再発率を比較したRCTの結果では,抜去した群の再発率は36%で抜去しなかった群は0%であった 93.特に前述したDPDSを合併している症例で早期にステントを抜去すると50%程度の症例で再発を起こすと報告されており,長期間の留置が推奨されている 87),89.しかし,内瘻ステントの腸管穿破や胸腔に穿破することによる膿胸といった長期留置に伴うトラブルも稀ではあるが起こりえる 94),95.内瘻ステントの抜去のタイミングはさらなる検討を要する.LAMSを長期留置しておくことによる影響は明らかではないが,周囲への組織障害による出血やステント埋没のリスクを考慮して,治療後早期に抜去することが推奨されている.7cm以下の小さなサイズの液体貯留性病変と4週以降のLAMS抜去が出血や埋没の偶発症のリスクが高いと報告されており,治療完遂後3~4週程度で抜去を検討するのがよいと考えられる 56.しかし,DPDSを伴うPFCの症例でLAMSを抜去後にプラスチックステントに入れ替えて内瘻化を行った症例に比べて内瘻化しなかった症例では有意にPFCの再発率が高いと報告されている(5% vs. 37%,p=0.03) 96.LAMS抜去後は,再発予防目的に可能な限り瘻孔部にプラスチックステントを留置するのがよい.しかし,LAMSのドレナージ効果が高いため抜去時には病変が縮小してプラスチックステントを留置するスペースが十分確保できないことも多く,内瘻化成功率が44%と高くないことは課題の1つである 96

Ⅹ 治療プロトコールの構築

前述のように,同じWONでもその形態や大きさ,含有する壊死組織量,DPDSの有無によってドレナージに用いるステント,治療アプローチ,再発予防に関する選択が異なる 75),91),97.治療アプローチやデバイス選択の多様化に伴い,個々の症例に応じたテーラーメイドな治療戦略が求められる.しかし,その選択肢が増えるにつれて指標となる治療プロトコール(治療アルゴリズム)の構築が求められている 98.近年,米国のフロリダの先進施設からLAMSを用いた内視鏡的ステップアップ・アプローチを中心とした治療プロコールの提案がなされており,その治療プロトコールに準ずることで95.6%という良好な治療奏効率が得られたと報告されている 99.しかし,まだ未解決の課題も残されており,さらなるエビデンスの蓄積とともにこの治療プロトコールを土台としてさらに普遍的な治療プロトコールが構築されることが期待される.

Ⅺ おわりに

本稿ではPPC/WONに対する内視鏡治療の進歩と現状について概説した.その進歩は著しく,多くの症例は内視鏡的ステップアップ・アプローチによる治療可能となってきた.しかし,骨盤腔まで及ぶ巨大なWONの症例に対しては,経消化的治療単独では難渋することも多い.内視鏡治療に固執することなく,経皮的アプローチや外科的アプローチも含めた広い視野で治療戦略を立てることが,さらなる治療成績の改善につながるものと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土屋貴愛(ボストン・サイエンティフィック ジャパン社,オリンパス社,ガデリウスメディカル社),糸井隆夫(ボストン・サイエンティフィック ジャパン社,オリンパス社,ガデリウスメディカル社)

文 献
 
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