2024 Volume 66 Issue 2 Pages 171
直腸潰瘍は,重篤な基礎疾患を有する高齢者に発症することが多く,出血性ショックに至る危険性の高い疾患である 1),2).緊急で内視鏡的止血術を要する一方で,血液や便によって出血源の特定が困難となることを経験する.近年,消化管出血時の視野を確保する目的で,透明かつ粘性のあるゲルを注入して観察を行うGel immersion endoscopyが提唱されている 3).われわれは便塊によって観察不良であった直腸潰瘍に対して,内視鏡用視野確保ゲル(ビスコクリアⓇ:株式会社大塚製薬工場)を用い,露出血管の止血に成功した症例を報告する.
症例は,化膿性脊椎炎で入院中の79歳女性である.基礎疾患には,高血圧症,糖尿病,アテローム血栓性脳梗塞があり,アスピリン,クロピドグレルを内服中であった.入院15日目に多量の血便を認め,緊急で大腸内視鏡検査を行った.下部直腸に露出血管を伴う潰瘍を認め,clippingによる内視鏡的止血術を行った.以後,止血が得られていたが,6日目に再度多量の血便を認めた.直後に行った大腸内視鏡検査では,活動性の出血は明らかでなかったが,便塊が充満していた.水洗しても直ちに混濁した便汁に埋もれてしまい,観察不能であった.そこでclipの近傍から内視鏡下にゲルを充填すると,透明感のある良好な視野が確保され,露出血管を有する潰瘍を発見できた.鮮明な視野を保ちながら,正確なclippingが可能だった.Clipping後に同様の方法で直腸全体を観察し,他に出血源が無いことを確認した.Gel immersion endoscopyは,便汁の混じった直腸潰瘍の出血時に有効であることが報告されているが 3),今回われわれは巨大な便塊に埋もれた非出血時の潰瘍と露出血管の特定,止血処置にも有効であったことを報告する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
ビデオクリップ 1 直腸潰瘍に対するGel immersion endoscopy.
ビデオクリップ 1
水洗しても直ちに混濁した便汁に埋もれてしまい,観察不能だった.内視鏡下にゲルを充填すると,透明感のある良好な視野が確保され,露出血管を有する潰瘍を発見できた.鮮明な視野を保ちながら,正確なクリッピングが可能であった.