2024 Volume 66 Issue 3 Pages 279-285
症例は46歳,女性.他院でのCSで直腸腫瘤を認めたため精査目的に紹介となった.当院で施行したCSでは直腸に10mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認め,EUSで第3層を主座とする輪郭明瞭な10mm大の低エコー腫瘍として描出された.ボーリング生検を施行するも確定診断には至らなかったこと,EUSで粘膜下層までに局在する腫瘍と考えられたことから,診断的治療目的にESDを施行した.病理組織学的検査で深在性囊胞性大腸炎の診断を得た.
A 46-year-old female patient presented to our hospital for close examination and treatment after a rectal mass was observed during a CS performed at another hospital. On repeat CS, we observed a 10-mm, submucosal, tumor-like mass in the lower rectum. EUS showed a 10-mm hypoechoic tumor located in the submucosa. We performed ESD because the boring biopsy specimens showed nonspecific pathologic findings. Pathological examination of the resected lesion confirmed the diagnosis of colitis cystica profunda.
深在性囊胞性大腸炎(colitis cystica profunda:CCP)は,大腸の粘膜または粘膜下層の粘液を含む囊胞を特徴とする稀な非腫瘍性疾患であり,粘膜脱症候群(Mucosal prolapse syndrome:MPS)の亜型とされる 1).特に,直腸の囊胞を伴う粘膜下腫瘍ではCCPを鑑別する必要があるが,画像診断や生検で確定診断を得ることは困難とされる.
一般に,CCPに対しては保存的加療が選択されるが,時に悪性腫瘍の合併を伴うことがある 2),3)ため切除も念頭に入れたマネージメントが重要となる.
症例:46歳,女性.
主訴:なし.
既往歴:なし.
家族歴:特記事項なし.
生活歴:特記事項なし.
現病歴:検診の便潜血反応陽性で前医にて大腸内視鏡検査を施行した際に,直腸腫瘤を認めたため精査,加療目的に当院へ紹介となった.30歳代頃から排便時にいきむ習慣があり,時折排便回数が多いことがあった.
初診時身体所見:身長166cm,体重49kg,血圧107/64mmHg,脈拍62回/分・整,体温36.9℃,腹部平坦,軟で,打聴診上特記事項なし.直腸診で下部直腸後壁に軟らかい腫瘤を触知した.
初診時検査所見:血算(WBC 6,200/μl,Hb 12.3g/dl,Plt 29.3万/μl),生化学検査(CRP 0.01 mg/dl)と血液検査に明らかな異常は認めなかった.
腹部造影CT検査:下部直腸の粘膜下に,境界明瞭な10mm大の造影効果に乏しい低吸収腫瘤を認めた.周囲への浸潤や所属リンパ節腫大は指摘できなかった(Figure 1).
腹部造影CT(水平断).
直腸Rbの粘膜下に境界明瞭な10mm大の結節を認めた(矢印).
大腸内視鏡検査:直腸第一Houston弁上の後壁に立ち上がりなだらかな10mm大の隆起性病変を認め,周囲の粘膜との境界は認めず粘膜下腫瘍と判断した(Figure 2-a).腫瘍を生検鉗子で圧迫すると,弾性軟で可動性を有していた(Figure 2-b).上記の所見以外の病変は認めなかった.
a:直腸Rb後壁に10mm大の隆起性病変を認めた.
b:生検鉗子で圧迫すると弾性軟,可動性があった.
超音波内視鏡(EUS):12MHzの細径プローブを用いた管腔内超音波検査では,第3層を主座とする輪郭明瞭な10mm大の低エコー腫瘍として描出され,内部に数mm大の無エコー域を複数認めた.また,第3層は途切れることなく介在していて,形態変化は認めなかった(Figure 3).
EUS(12MHz).
第3層内に存在する輪郭明瞭・整な10mm大の低エコー腫瘍として描出された.
内部に数mm大の無エコー域を複数認め,第3層は途切れることなく介在していて,形態変化は認めなかった.
診断目的にボーリング生検を施行するも,確定診断には至らなかった.EUSで粘膜下層までに局在する腫瘍と考えられたため,内視鏡的に切除可能と判断し,患者にも説明したところ診断的治療を希望されたため内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.
ESD検体の病理組織学的検査所見:切除標本は粘膜を下にして貼り付けを行い,病変の大きさは,12×10mmであった(Figure 4-a).粘膜下層を主体とする病変で,内部に粘液が貯留した囊胞を認めた(Figure 4-b).囊胞上部では,粘膜筋板が途絶し粘膜の一部が憩室様に陥入した部分があり,粘膜上皮と囊胞壁を裏打ちする上皮とに連続性がみられた.囊胞壁の70%程度は上皮成分を認めず,壁は薄い線維性被膜からなっていた(Figure 4-c).陥入部分上皮は豊富な粘液を有する杯細胞が主体であった.粘膜には腫瘍性病変を認めず,MPSに特徴的な平滑筋増生を伴う線維筋症(fibromuscular obliteration)を認めた(Figure 4-d).
a:ESDの切除標本.粘膜を下にして貼り付けを行った.
b:粘膜下の囊胞を主体とする病変で,内部に粘液の貯留があり,粘膜に明らかな腫瘍性病変は認めなかった.
c:囊胞は線維性の被膜に覆われていた(矢印).
d:粘膜脱症候群(MPS)に特徴的な固有層に平滑筋増生を伴う線維筋症(fibromuscular obliteration)を認めた(矢印).
ESD施行後,合併症なく術後7日目に退院となり,その後再発所見は認めずフォローアップを継続している.
CCPはMPSの一亜型とされ,大腸の粘膜または粘膜下層の粘液を含む囊胞を特徴とする稀な非腫瘍性疾患である.1766年にStarkによって初めて報告され,1863年にVirchowが“colitis cystica profunda”という用語を作り出したとされている.
CCPの発症機序は未だ不明であるが,炎症性,感染性,外傷性,虚血性などの要因によって粘膜筋板の破壊,脆弱化が生じることにより,粘膜上皮が粘膜下層に陥入することが推察されている 4),5).CCPは直腸脱,感染性腸炎,憩室炎,炎症性腸疾患,放射線性腸炎,大腸ポリープ,さらには大腸癌などの疾患としばしば併存していることからも,この仮説は支持されている 6)~8).
CCPは病変の分布により,びまん型,分節型,限局型の3つの型に分類される.びまん型では,しばしば炎症性腸疾患と関連して,囊胞性病変が大腸全体に認められ,肉眼的には有茎性または絨毛状のポリープとして認められる.分節型は,結腸の1つ以上の部位,典型的にはS状結腸から直腸にポリープを認めることが特徴である.局所型では,病変は,肛門縁から5~12cm離れた直腸に好発するとされ,潰瘍を伴うこともある 9),10).
通常,患者は30~40歳代の中年に多いが,若年者や高齢者にも生じうる.これは,CCPに関連する広範な基礎疾患があるためと考えられている.また,性別は男性に多く,直腸に多くみられるとされる 11).本邦での報告におけるCCP患者の49症例の検討でも,年齢は8歳から78歳と各年代にまんべんなく発生し,男性が36例,発生部位は直腸が37例であった 12).
臨床症状は非典型的であり,腹痛,血便,便通異常,下痢,粘液,テネスムスなどの症状を呈することがあるが,本症例の様に無症状であることもある 13).
腹部CT検査では,直腸周囲の脂肪組織の喪失と肛門挙筋組織の肥厚を伴う非浸潤性の粘膜下囊胞性病変を認め,局所または領域のリンパ節腫大を認めないとされる.本症例では,CTでは既報で指摘されるようなCCPの粘膜下層を主座とする囊胞性病変を認め,深部への浸潤する所見は明らかではなかった点は同様であるが,肛門挙筋の肥厚は認められなかった.MRIでは,病変はT1強調画像では低信号,T2強調画像で高信号として描出され,筋層に浸潤は認めない.造影MRI画像では,CCPは造影効果を認めないとされるが,粘液癌(mucinous carcinoma)では,辺縁部や内部の不均一な濃染像がみられることがあるため,鑑別に有用なことがあるとの報告がある 14)~16).
大腸内視鏡所見は,CCPは正常粘膜,浮腫状粘膜あるいは潰瘍粘膜に覆われたSMT様隆起病変の形態を呈する.粘膜下の囊胞性病変のため,EUSが有用であるとされる.本疾患のEUS所見として,粘膜下層に病変の主体があり,腫瘤は低エコー域主体で囊胞性変化に加えて固有筋層への深部浸潤がないことが挙げられている 17),18).腫瘤の内部には数mm大の無エコー域を複数認めることがあり,これらの無エコー域は,CCPの囊胞状変化に対応するとの報告がある 19).
本症例では,内視鏡所見で粘膜下腫瘍様であり鑑別として,神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET),粘膜筋板由来の平滑筋腫,良性リンパ濾胞性ポリープ,消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)を挙げた.EUS所見は第3層を主座とする内部性状が不均一な低エコー腫瘍であり,第4層を主座とするGISTや内部エコーが均一なNET,粘膜筋板由来の平滑筋腫,良性リンパ濾胞性ポリープに典型的な所見ではなかった.ボーリング生検でも診断がつかなかったが,EUSで粘膜下層までに主座を置く腫瘤と考えられたため診断的治療目的にESDでの一括切除が可能であると考えられた.良性の腫瘤も考えられたため慎重な経過観察も検討されたが,患者に十分に説明し治療方針を相談したところ,切除を希望されたためにESDを施行することにした.
組織学的には,粘膜下層に迷入した細胞異型を認めない上皮に覆われた囊胞が特徴的である.CCPはMPSの一亜型であるため,粘膜固有層に平滑筋増生を伴う線維筋症(fibromuscular obliteration)を認めることで確定診断となる.そのため,内視鏡下での生検または超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)よりも,粘膜切除術やボーリング生検などの方が粘膜固有層付近の検体を多く採取できるため診断の向上に至る可能性が高いと考察する報告がある 12).また,免疫組織化学的にはp53が陰性であること,陰窩炎や陰窩膿瘍がないことはCCPの診断の一助となるとされている 16).
CCPの治療の第一選択は,MPSと同様の保存的治療とされ,繊維質の多い食事の推奨や緩下剤の内服により排便中の便秘やいきみを避けるように患者に指導することである.バイオフィードバック療法は,一部の患者で効果があるとされている 20)~22).
これらの保存的治療を行っても臨床症状が持続する場合や,慢性消化管出血,腸閉塞,直腸脱などが重篤な場合には,手術が考慮される 22).完全に切除を行った患者の予後は良好とされ,無再発率は80%と報告されている 23).
CCPは粘膜下層を主座とする病変で,固有筋層への浸潤がないため,内視鏡的切除が可能であると考えられる.CCPの本邦での内視鏡治療の報告は本例を加えて6例のみであった(Table 1).以前は外科的切除の報告が多かったが,内視鏡的粘膜切除術(EMR)やポリペクトミーでの切除報告 2),24),25)や,30mmや90mmの大きさのCCPをESDによって治療した内視鏡的切除の報告も近年散見されるようになってきた 19),26).
CCPの本邦での内視鏡治療報告例.
CCPと悪性腫瘍を合併する症例が複数報告されている.EMRで切除されたCCPが組織学的評価で粘膜表層に腺癌を伴っていたという症例報告がなされている 2).放射線性腸炎を伴う早期大腸癌と考えられる病変に対して,内視鏡治療は操作性が不良のために外科手術が選択され手術を施行したところ,固有筋層に及ぶCCPを合併した進行大腸癌であったとの報告がある 3).CCPの合併により,表層粘膜に腫瘍性変化が乏しく,平坦な病変であっても,進行癌となっている可能性を念頭に置く必要があると考察されている.一方で,術前のボーリング生検で粘液性腺癌(mucinous adenocarcinoma)が示唆されたが,ESD検体による組織学的評価で悪性腫瘍の合併のないCCPと診断された報告もあることに留意する必要がある 26).
一般に良性疾患として考えられている本疾患は,長期経過例においては発癌の可能性もあるため,発癌の可能性を念頭に置いた経過観察が必要であり,悪性腫瘍の合併を否定できない病変に対してはESDや外科的切除を検討する必要があると考えられる.
本症例は,直腸に粘膜下腫瘍様の形態を示し,ESDでの診断的治療をしえたCCPの1例を経験した.CCPは稀な疾患であるが,大腸(特に直腸)の粘膜下腫瘍において鑑別疾患として留意する必要がある.一般的に,CCPは保存的治療を選択されることが多いが,悪性疾患の合併の可能性もあるため,その後の治療方針には十分に注意が必要であると考えられた.
本論文の要旨は日本消化器病学会東海支部第136回例会(2022年6月)で報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし