2024 Volume 66 Issue 3 Pages 312-326
【背景・目的】超音波内視鏡下組織採取法(EUS-guided tissue acquisition:EUS-TA)は,膵腫瘍の診断において重要な役割を担っている.本研究では,膵腫瘍のEUS-TA後の穿刺経路腫瘍細胞播種(Needle tract seeding:NTS)の現状を本邦の全国調査から明らかにすることを目的とした.
【方法】2010年4月から2018年3月までに実施した原発性膵腫瘍に対するEUS-TA後に外科的切除を受けた患者を調査対象とした.NTSの発生率を求め,浸潤性膵管癌(Pancreatic ductal adenocarcinoma:PDAC)およびその他の腫瘍の患者,PDACの経胃・経十二指腸EUS-TAを受けた患者の間で比較した.さらに,NTS患者の詳細な特徴や予後も評価した.
【結果】合計12,109人の患者が,EUS-TA後に原発性膵腫瘍の外科的切除を受けた.NTSの全発生率は0.330%であり,その発生率は他の腫瘍を有する患者よりもPDACを有する患者で有意に高かった(0.409% vs. 0.071%,P=0.004).NTSは,経胃EUS-TAを受けた患者の0.857%で観察されたが,経十二指腸EUS-TAを受けた患者の中では観察されなかった.PDACのNTSを認めた患者のうち,EUS-TAからNTSの発生までの期間の中央値および患者の生存期間の中央値は,それぞれ19.3カ月および44.7カ月であり,NTSの97.4%が胃壁に発生し,65.8%が切除された.患者生存期間は,NTS切除を行った患者では,NTS切除を行わなかった患者よりも有意に長かった(P=0.037).
【結論】NTSは,経十二指腸EUS-TA後では発生せず,経胃EUS-TA後にのみ出現した.慎重な経過観察により,局所的なNTS病変を胃切除術で治療する機会が得られる.
Objectives: Endoscopic ultrasound-guided tissue acquisition (EUS-TA) plays a crucial role in the diagnosis of pancreatic tumors. The present study aimed to investigate the current status of needle tract seeding (NTS) after EUS-TA of pancreatic tumors based on a nationwide survey in Japan.
Methods: Patients who underwent surgical resection of primary pancreatic tumors after EUS-TA performed between April 2010 and March 2018 were surveyed. The incidence rates of NTS were determined, and compared in patients with pancreatic ductal adenocarcinomas (PDACs) and other tumors, and in patients who underwent transgastric and transduodenal EUS-TA of PDACs. The detailed features and prognosis of patients with NTS were also assessed.
Results: A total of 12,109 patients underwent surgical resection of primary pancreatic tumors after EUS-TA. The overall incidence rate of NTS was 0.330%, and the NTS rate was significantly higher in patients with PDAC than in those with other tumors (0.409% vs. 0.071%, P = 0.004). NTS was observed in 0.857% of patients who underwent transgastric EUS-TA, but in none of those who underwent transduodenal EUS-TA. Of the patients with NTS of PDACs, the median time from EUS-TA to occurrence of NTS and median patient survival were 19.3 and 44.7 months, respectively, with 97.4% of NTS located in the gastric wall and 65.8% of NTS resected. The patient survival was significantly longer in patients who underwent NTS resection than in those without NTS resection (P = 0.037).
Conclusions: Needle tract seeding appeared only after transgastric not after transduodenal EUS-TA. Careful follow-up provides an opportunity to remove localized NTS lesions by gastrectomy.
超音波内視鏡(EUS)下組織採取(EUS-guided tissue acquisition:EUS-TA)は,膵腫瘍患者の評価において重要な役割を担っている.特に,膵腫瘍の病理学的確認により,良性病変に対する不必要な手術を回避することができる 1),2).術前補助化学療法は,腫瘍の崩壊または縮小を誘発し,患者によっては腫瘍の組織診断を複雑にする可能性があるため,術前補助化学療法に先立ってEUS-TAによる組織学的確認が必要となる 3).EUS-TAは,膵臓癌の診断において感度85~92%,特異度96~98%であることが示されており 4),5),早期合併症の発生率は1~2%と低い 6),7).EUS下穿刺吸引(EUS-FNA)針は,EUS-TAに最初に使用されていたが,その後,より大きな検体を取得し,より正確な診断を得るのに効果的なEUS下穿刺生検(EUS-guided fine needle biopsy:EUS-FNB)針が登場した 8)~11).一方で,膵臓浸潤性乳管癌(Pancreatic ductal adenocarcinoma:PDAC)のEUS-TA後の合併症として,穿刺経路腫瘍細胞播種(Needle tract seeding:NTS)が報告された症例報告やケースシリーズがある 12)~14).現時点では,EUS-TA後のNTSの発生率を調査した大規模な調査はない.EUS-TA後のNTSは,膵体部あるいは尾部の腫瘍を有する患者で報告されており,膵頭部の腫瘍を有する患者では報告されていない 12)~14).本邦における全国調査では,原発性膵腫瘍のEUS-TA後のNTSについて,その発生率を求め,NTS患者の特徴と予後を評価することにより,現状を調べた.
今回の全国調査は,日本における原発性膵腫瘍のEUS-TA後のNTSの現状を調査したものである.第一の目的は,原発性膵腫瘍,特にPDACのEUS-TA後に外科的切除を受けた患者におけるNTSの発生率を測定することであった.副次的な目的は,NTS患者の詳細な特徴と予後を評価することであった.本研究は,ヘルシンキ宣言のガイドラインに従って実施され,和歌山医科大学の倫理委員会(No. 2637,2638)の承認を受け,その後,EUS-TA後のNTS患者が1名以上いる参加施設のInstitutional Review Board(IRB)の承認を受けた.
NTS発生率の調査日本膵臓学会(Japan Pancreas Society:JPS)は,消化器内視鏡医,内科医,外科医,腫瘍医,病理医など約4,000名の会員で構成されている.2018年12月,JPSの全会員に手紙と電子メールで本調査を通知し,所属施設の代表者の連絡先と,原発性膵臓腫瘍のEUS-TAを実施したことがあるかどうかを尋ねた.これらの施設の代表者から回答を得た後,2010年4月から2018年3月までに原発性膵臓腫瘍のEUS-TAを実施した患者数,およびEUS-TA後にNTSを経験した患者数について,各回答者に質問票を送信した.患者数の把握には各参加施設の病院データベースを参照し,質問票に回答した全施設から,EUS-TA後にNTSを経験した患者の有無にかかわらず,データを収集した.
本調査では,JPSが定義している原発性膵臓腫瘍の患者のみを対象とした 15).他臓器の腫瘍からの膵臓転移や炎症性腫瘤を有する患者は除外された.質問票では,原発性膵腫瘍のEUS-TAを施行した患者数(A群),EUS-TA後に外科的切除を施行した患者数(B群),切除された腫瘍が病理学的にPDACと診断された患者数(C群),および病理学的にPDAC以外(膵神経内分泌腫瘍,腺房細胞腫瘍,充実性偽乳頭状腫瘍,膵管内乳頭粘液性腫瘍を含む)と診断された切除腫瘍を有する患者数(D群)について尋ねた(Figure 1).C群の患者は,さらに経胃EUS-TA(E群),経十二指腸EUS-TA(F群),および他の方法によるEUS-TA(再建空腸経由あるいは経胃および経十二指腸の両方実施など)(G群)の3グループに分けられた(Figure 1).
EUS-TA後のNTSの評価目的の患者グループ分けを示すフローチャート.
NTS,穿刺経路腫瘍細胞播種.EUS-TA,超音波内視鏡下組織採取.
質問票では,2019年3月までにグループB~Fの中でEUS-TA後にNTSを経験した患者数についても質問した.NTSは,患者が原発性膵腫瘍のEUS-TAを受けた時には存在しなかった,穿刺経路に沿って現れる異時性病変と定義された.穿刺経路から異なる部位に広がる多発性腹膜播種や,切除した膵臓の組織標本において穿刺経路周辺に見られる微小病変は,NTSではないと判断した.今回の調査では,以前の研究で参加施設によって報告されたEUS-TA後のNTSの患者数が含まれていた 7),13).
全施設のデータを合計し,B~F群におけるNTSの発生率を算出した.NTSの発生率は,PDAC(C群)と他の腫瘍(D群)の患者の間,およびPDACの経胃(E群)と経十二指腸(F群)EUS-TAを受けた患者の間で比較された.
NTS患者に関する調査PDACのEUS-TA後に少なくとも1人の患者がNTSを経験したと報告した施設には,各患者における次の質問票が送信され,年齢,性別,原発巣の位置と最大径,国際がん対策連合TNM分類による最終組織診断と原発腫瘍の病期分類 16),針のサイズとタイプ,穿刺経路,セッション数,EUS-TAの早期合併症などの患者に関する詳細情報を質問した.また,アンケートでは,NTS病変の位置,最大径,外科的切除EUS-TAからNTSの発見までの期間,患者の全生存率に関する詳細な情報も求めた.EUS-TA後にNTSを経験した患者の特徴と予後を評価し,NTS切除を行った患者と行わなかった患者の2つのサブグループ間で比較した.また,EUS-TA後にNTSが発生した患者の予後は,腫瘍の病期(ステージⅠ,ステージⅡ,ステージⅢ,Ⅳ)に応じて評価した.
統計解析連続変数は,中央値[四分位範囲,IQR]として表した.連続変数の比較にはウィルコクソン順位和検定を,割合の比較にはフィッシャーの正確検定を使用した.EUS-TA後のNTS患者の生存期間をカプランマイヤー法で表し,ログランク検定で比較した.すべての統計解析は,統計解析ソフトウェアSPSS バージョン 20.0(SPSS Inc.,米国イリノイ州シカゴ)を用いて行い,P値<0.05を統計的に有意とみなした.
調査期間中に原発性膵腫瘍のEUS-TAを実施したと報告したのは,日本全国で313施設であり,そのうち235施設(75.1%)からデータが得られた.この235施設で原発性膵臓腫瘍のEUS-TAを受けた患者(A群)は合計43,843人であった(Figure 1).原発性膵臓腫瘍の外科的切除を受けた患者(B群)12,109人のうち,40人(0.330%)がNTSを経験し(Table 1),PDAC患者(C群)9,300人のうち38人,他の腫瘍の患者(D群)2,809人のうち2人が経験した.NTSの発生率は,D群よりもC群で有意に高かった(0.409% vs. 0.071%,P=0.004).NTSは,経胃EUS-TA(E群)を受けた患者の0.857%で観察されたが,経十二指腸EUS-TA(F群)を受けた患者のいずれでも観察されなかった(P<0.001,Table 1).
各群におけるEUS-TA後のNTS発生率.
Table 2にPDACのEUS-TA後にNTSが出現した38名の患者の特徴を示す.36例(94.7%)の患者において,原発腫瘍は膵体部または膵尾部に位置し(Figure 2),膵頭部に腫瘍があったのは2例(5.3%)のみであった(Figure 3).病理学的ステージは,ステージⅠ,Ⅱ,Ⅲ,およびⅣが,それぞれ8例(21.1%),23例(60.5%),6例(15.8%),および1例(2.6%)であった.EUS-FNA針およびEUS-FNB針は,それぞれ29例(76.3%)および9例(23.7%)の患者で使用され,22ゲージの針は25例(65.8%)の患者に使用された.EUS-TAのセッション数の中央値[IQR]は3[2,4]であった.1名の患者(2.63%)が,EUS-TA後早期に急性膵炎を発症したが,他の患者は早期合併症を経験しなかった.
PDACに対するEUS-TA後のNTS例の特徴.
膵体部PDACのEUS-TAから25.7カ月後に出現したNTS症例.
a:造影CT像.膵体部に低吸収腫瘤(矢印)を認める.
b:EUS像.EUS-TA時に穿刺針(矢印)で穿刺された低エコー腫瘤を示す.
c:EUS-TAから25.7カ月後の造影CT像.胃壁内に腫瘤(矢印)を認める.
d:切除胃の肉眼像.胃壁粘膜下に限局したNTS病変(矢印)を示す.
NTS,穿刺経路腫瘍細胞播種.EUS-TA,超音波内視鏡下組織採取.EUS,超音波内視鏡.PDAC,浸潤性膵管癌.
膵頭部のPDACのEUS-TAから19.6カ月後に出現したNTS症例.
a:PDACの造影CT像.膵頭部に低吸収腫瘤(矢印)を認める.
b:EUS-TAから19.6カ月後の内視鏡像.胃壁に潰瘍を伴う粘膜下腫瘍を認める.
c:切除胃の肉眼像.胃壁の管腔側にNTS病変(矢印)が露出している.
NTS,穿刺経路腫瘍細胞播種.EUS-TA,超音波内視鏡下組織採取.PDAC,浸潤性膵管癌.
播種病変は,37例(97.4%)の患者で胃壁に位置していた(Figure 2,3).播種病変の最大径の中央値[IQR]は30[20,35]mmであった.25名(65.8%)の患者が,播種病変の外科的切除を受けた.EUS-TAからNTS発生までの期間の中央値[IQR]は19.3[12.0,24.9]カ月で,NTSを経験した全患者の全生存期間の中央値[95% CI]は44.7[35.6,59.1]カ月であった(Figure 4).NTS切除を行った患者と行わなかった患者の2つのサブグループ間で,EUS-TAのセッション数以外の患者の特徴に有意差は認められなかったが(Table 2),全生存期間はNTS切除を行った患者で有意に長かった(中央値:51.9カ月 vs 26.2カ月,P=0.037)(Figure 5).NTSを経験した8名のステージⅠ患者の生存期間中央値は56.9カ月で,3年生存率は88%であった(Table 3).
PDACのEUS-TA後にNTSを経験した患者の全生存率のカプランマイヤー解析.NTS,穿刺経路腫瘍細胞播種.EUS-TA,超音波内視鏡下組織採取.PDAC,浸潤性膵管癌.95% CI,95%信頼区間.
PDACのEUS-TA後に発生したNTSの切除例と非切除例の全生存期間のカプランマイヤー解析.実線:NTS切除例,点線:NTS非切除例.ログランク検定を使用して,2つのサブグループを比較した.
NTS,穿刺経路腫瘍細胞播種.EUS-TA,超音波内視鏡下組織採取.PDAC,浸潤性膵管癌.95% CI,95%信頼区間.NA,欠測値.HR,ハザード比.
EUS-TA後のNTS患者におけるステージごとの全生存期間と3年生存率.
国内235の施設から得られたこの全国調査では,すべての原発性膵臓腫瘍のEUS-TA後のNTS発生率は0.330%,PDACのEUS-TA後は0.409%であることが示された.われわれの知る限り,この研究はEUS-TA後のNTSの発生率を評価した最初の全国調査である.過去の報告では,PDACのEUS-TA後のNTSの発生率は1.0~3.4%であったが,対象者数が176~193であり,本調査よりも少なかった 13),14).本調査では,原発性膵臓腫瘍の外科的切除を受けている患者のみを対象としている.外科的切除を受けなかった患者を含めていたら,腫瘍自体の自然な浸潤または膵臓周囲臓器・組織への転移の可能性を排除することは困難であったと考えられる.さらに,NTSは,原発性膵臓腫瘍に対してEUS-FNAを実施した時には存在しなかった,穿刺経路に沿って現れる異時性病変として厳密に定義された.
PDAC患者におけるNTSの発生率に主眼を置き,PDAC患者と他の腫瘍患者のNTS発生率を別々に評価した.その結果,PDAC患者のNTS発生率(0.409%)は,他の腫瘍(0.071%)よりも有意に高く,NTSは悪性度の高い患者においてより発生しやすいことが示唆された.あるいは,この所見は,他の腫瘍ではNTSが現れるまでにより長い期間が必要であることを示唆しているかもしれない.実際,経皮生検後のNTSは様々な種類の腫瘍で報告されており,発生率は著しく異なり,肝細胞癌,肺腫瘍,および甲状腺腫瘍の患者でそれぞれ2.7%,0.06%,および0.19%であった 18)~20).PDACに対するEUS-TA後のNTSの発生率(0.409%)は,肝細胞癌の経皮的肝生検後のNTSの発生率(2.7%)よりもはるかに低かった 18).癌性腹膜炎の発生率は,EUS-TA後よりも経皮生検後の方が有意に高いことを報告した後方視的研究がある 21).これらの結果から,腫瘍の悪性度だけでなく,生検の方法や経路も,膵腫瘍患者におけるNTSの発生率に寄与していると考えられる.
PDACの経胃EUS-TA後のNTSの発生率は0.857%であったが,経十二指腸EUS-TA後は0%であった.また,NTS病変の97.4%は胃壁に位置していたが,これは膵体尾部切除後に穿刺経路が残るのに対して,膵頭十二指腸切除術では十二指腸壁の穿刺経路が同時切除されるためと考えられる.以前の研究では,経十二指腸EUS-TAを受けた患者でも,原発巣とは異なる十二指腸筋層の穿刺経路に顕微鏡的なNTS病変が存在したとの報告があり,不顕性現象である可能性がある 22).本研究では,膵体部または膵尾部のPDAC患者36名だけでなく,膵頭部のPDAC患者で経胃EUS-TAを受けた2名にも出現したことから,膵頭部患者でも穿刺経路を含む消化管が切除されていなければNTSが出現する可能性があると考えられる.したがって,NTSを予防するためには,両方のルートが可能な場合には,経胃EUS-TAよりも経十二指腸EUS-TAが推奨される.
NTSの病態生理学的メカニズムはまだ十分には解明されていない.過去の報告では,EUS-TA後のNTSの病態生理学的メカニズムについて次の仮説が示唆されている.EUS-TAで膵腫瘍を針で穿刺することにより,膵腫瘍から悪性細胞が分離され 23),胃壁の穿刺経路に移動し 24),顕微鏡的出血とその後の反応性変化を伴い,胃壁での腫瘍細胞の生存が促進されると考えられる 22).しかしながら,この仮説は,症例報告や単一施設の研究結果に基づいており,NTSの病態生理学を明らかにするためには,多数の患者の播種病変や原発性膵臓腫瘍の組織学的・遺伝子検査が必要である.
最も懸念される点は,EUS-TAがNTSによる膵癌患者の予後に影響を与えるかどうかである.しかしながら,EUS-TAを受けた患者の予後を調査した過去の研究はすべて,EUS-TAを受けた患者の最大3.4%がNTSを発症したが,EUS-TAを受けた膵癌患者と受けなかった膵癌患者との間での腹膜播種と生存期間に有意差はないと報告している 13),14),17),25)~31).これらの結果は,NTSの発生率が低すぎて患者の予後に影響を与えない可能性があることを示唆している.今回の調査では,NTS患者38例の全生存期間の中央値は44.7[95% CI:35.6,59.1]カ月であった.全生存期間中央値の95% CI下限値は,日本膵臓学会膵癌登録の膵臓切除術を受けたPDACの患者の生存期間中央値(21.0カ月)よりも高く 32),NTSが膵臓癌の予後を直接悪化させないことを示唆している.特に,NTS病変の外科的切除を受けた患者は25名(65.8%)であった.NTS切除を受けた患者は,NTS切除を受けなかった患者よりも生存期間が有意に長かった.EUS-TAからNTSの検出までの期間の中央値が19.3カ月であったことを考慮すると,経胃的EUS-TA後数年間,定期的に穿刺経路針を観察することにより,限局したNTSの早期の発見と切除が可能となり,患者の予後を改善することができると考えられる.しかしながら,ステージⅠ PDACのEUS-TA後にNTSを認めた患者の生存期間の中央値は,本調査では56.9カ月であり,日本膵臓学会の膵癌登録癌のステージⅠA(120.3カ月)およびⅠB(100.8カ月)よりも短い 32).したがって,これらの患者には,経胃EUS-TA後にNTSの出現の有無について慎重に経過観察する必要がある.
本調査には4つの限界があった.第一に,NTSの発生率は質問票ベースで算出された.A~G群の原発性膵腫瘍患者の数を尋ねる簡単な質問票を各施設へ送付することにより,回答率を高めた.この質問票ベースの方法では,データの欠落や,NTSの過大・過小評価という潜在的なリスクをもたらす可能性がある.ただし,われわれはNTSを有する各患者については,単一の患者情報収集表を使用した.この患者情報収集表により,厳密に定義された40名のNTS患者を適切に登録することができた.第二に,NTSの定義が厳密であったため,NTSの発生率は過小評価された可能性がある.一部の患者は,NTS病変が出現する前に他の再発のために死亡した可能性があり,あるいは追跡から外れた可能性がある.また,EUS-TAによる腹膜播種が発生し,それがNTSとして認識されなかった可能性がある.第三に,信頼性の高い結果を得るために,JPSの会員が所属する235施設のみからデータを収集した.このため,患者の選択バイアスが発生した可能性がある.第四に,NTSの発生がない患者の詳細な情報がないため,NTSの独立した危険因子を評価する多変量解析ができなかった.穿刺針の種類と穿刺回数は,結果に影響を及ぼす可能性がある.EUS-FNB針を使用して穿刺回数を減らすと,NTSのリスクを回避することができるが,側孔/切断面を持つ形状デザインではNTSのリスクを増加させるかもしれない.残念ながら本調査では,穿刺針の種類や穿刺回数の違いがNTS発生率に影響するかどうかについては,評価することができなかった.また,NTSの出現しなかったすべての患者の観察期間を得ることは困難であったため,年間発生率は算出されていない.EUS-TAを受けた全患者の詳細な特徴や長期的な転帰を評価するさらなる大規模な多施設共同前向き研究を実施することにより,より正確な発生率を決定し,NTSを予防する効率的な方法を明らかにすることができる.
経胃EUS-TA後にPDAC患者の約0.9%でNTSが検出されたが,経十二指腸EUS-TA後にはNTSは出現しなかった.この違いは,穿刺経路が膵腫瘍と一緒に切除されたかどうかに依存していると思われる.胃壁に存在するNTS病変は,早期に発見されれば胃切除術によって完全に除去でき,患者の予後が改善される.切除可能なPDACの経胃的EUS-TAを受ける患者は,NTSの出現について注意深く経過観察する必要がある.
謝 辞
本研究は,日本膵臓学会の助成金により実施された.日本膵臓学会協力者:姓のアルファベット順:
宮城県立がんセンター 消化器内科,虻江 誠;川崎市立川崎病院 内視鏡センター,相浦浩一;福岡県済生会福岡総合病院 内科,明石哲郎;佐賀大学医学部付属病院 肝臓糖尿病内分泌内科,秋山 巧;大阪市立大学医学部付属病院 肝胆膵外科,天野良亮;福井県立病院 消化器内科,青柳裕之;茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 消化器内科,荒木眞裕;帝京大学医学部 内科学講座,有住俊彦;新潟県立中央病院 消化器内科,有賀諭生;日本赤十字社大阪赤十字病院 消化器内科,淺田全範;多根総合病院 消化器内科,淺井 哲;済生会横浜市東部病院 消化器内科,馬場 毅;獨協医科大学埼玉医療センター 病理診断科,伴 慎一;沖縄県立中部病院 消化器内科,知念健司;帝京大学医学部附属溝口病院 消化器内科,土井晋平;杏林大学医学部 消化器内科学,土岐真朗;大阪府済生会中津病院 消化器内科,江口考明;新松戸中央総合病院 消化器・肝臓内科,遠藤慎治;筑波大学 消化器内科,遠藤壮登;国立病院機構神戸医療センター 消化器内科,江崎 健;伊勢赤十字病院 外科,藤井幸治;岡山済生会総合病院 内科,藤井雅邦;君津中央病院 消化器内科,藤森基次;JA広島総合病院 消化器内科,藤本佳史;岐阜県立多治見病院 消化器内科,藤田恭明;NTT東日本関東病院 肝胆膵内科,藤田祐司;山梨大学 第一内科,深澤光晴;出雲市立総合医療センター 内科,福庭暢彦;大分市医師会立アルメイダ病院 消化器内科,福地聡士;聖路加国際病院 消化器内科,福田勝之;独立行政法人国立病院機構九州がんセンター 消化器・肝胆膵内科,古川正幸;明石医療センター 消化器内科,古松恵介;弘前大学大学院医学研究科 消化器外科,袴田健一;JA尾道総合病院 消化器内科,花田敬士;独立行政法人国立病院機構米子医療センター 消化器内科,原田賢一;国立病院機構関門医療センター 消化器内科,原野 恵;熊本大学大学院生命科学研究部 消化器内科学,階子俊平;如水会今村病院 消化器内科,橋口一利;金沢医科大学 肝胆膵内科学,林 伸彦;名古屋第二赤十字病院 消化器内科,林 克巳;国立病院機構埼玉病院 外科,早津成夫;国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科,肱岡 範;名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 消化器内科,平野敦之;大阪労災病院 消化器内科,平尾元宏;藤田医科大学 消化器内科Ⅱ,廣岡芳樹;東北医科薬科大学病院 内科学第二,廣田衛久;独立行政法人地域医療機能推進機構熊本総合病院 外科,堀野 敬;松下記念病院 消化器内科,堀田裕馬;浜松医科大学医学部附属病院 肝臓内科,伊藤 潤;太田記念病院 消化器内科,伊島正志;浜田医療センター 消化器内科,生田幸広;いまきいれ総合病院 消化器内科,今給黎和幸;虎の門病院 消化器内科,今村綱男;滋賀医科大学 消化器内科,稲富 理;愛知医科大学 肝胆膵内科,井上匡央;獨協医科大学 消化器内科,入澤篤志;倉敷中央病院 消化器内科,石田悦嗣;社会医療法人敬愛会中頭病院 消化器内科,石原健二;大阪急性期・総合医療センター 消化器内科,石井修二;済生会横浜市南部病院 消化器内科,石井寛裕;福岡山王病院 膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター,伊藤鉄英;東海大学八王子病院 消化器内科,伊藤裕幸;大阪警察病院 内科,岩橋 潔;士別市立病院 消化器内科,岩野博俊;慶應義塾大学医学部 消化器内科,岩崎栄典;岐阜大学医学部附属病院 第1内科,岩下拓司;岐阜県総合医療センター 消化器内科,岩田圭介;和歌山労災病院 消化器内科,垣本哲宏;国立病院機構九州医療センター 消化器科,加来豊馬;池上総合病院 消化器内科,加持順一郎;大垣市民病院 消化器内科,金森 明;市立室蘭総合病院 消化器内科,金戸宏行;札幌東徳洲会病院 外科,唐崎秀則;関西電力病院 消化器・肝胆膵内科,加藤優花里;朝倉医師会病院 消化器内科,河口康典;宮崎大学 消化器内科,河上 洋;北斗病院 消化器内科,河瀬智哉;名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学 光学医療診療部,川嶋啓揮;がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科,菊山正隆;兵庫県立尼崎総合医療センター 消化器内科,木村利幸;国立病院機構仙台医療センター 消化器内科,木村憲治;金沢大学附属病院 消化器内科,北村和哉;浦添総合病院 消化器内科,小橋川嘉泉;東京医科歯科大学 消化器内科,小林正典;東京都立墨東病院 消化器内科,小林克誠;船橋市立医療センター 消化器内科,小林照宗;JA長野厚生連南長野医療センター篠ノ井総合病院 消化器内科,児玉 亮;神戸大学医学部附属病院,神戸大学大学院医学研究科内科学講座 消化器内科学分野,児玉裕三;横浜市立市民病院 消化器内科,小池祐司;大阪府済生会富田林病院 消化器内科,小牧孝充;国立病院機構金沢医療センター 消化器内科,小村卓也;名古屋市立東部医療センター 消化器内科,近藤 啓;名古屋医療センター 消化器内科,近藤 尚;仙台市医療センター仙台オープン病院 消化管・肝胆膵内科,越田真介;東海中央病院 内科,小屋敏也;甲南医療センター 消化器外科,具 英成;滋賀県立総合病院 消化器内科,栗山勝利;愛媛大学医学部附属病院 消化器・内分泌・代謝内科学,黒田太良;独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター,黒木 保;山形市立病院済生館 消化器内科,黒木実智雄;松江赤十字病院 消化器内科,串山義則;順天堂大学医学部附属静岡病院 外科,前川 博;山形大学医学部 内科学第二講座,牧野直彦;京都第二赤十字病院 消化器内科,萬代晃一朗;長野赤十字病院 消化器内科,丸山雅史;大阪市立大学医学部付属病院 消化器内科,丸山紘嗣;埼玉医科大学総合医療センター 消化器・肝臓内科,松原三郎;帯広厚生病院 消化器内科,松本隆祐;石川県立中央病院 消化器内科,松永和大;鈴鹿中央総合病院 消化器内科,松﨑晋平;日本医科大学付属病院 消化器内科,松下 晃;福井赤十字病院 消化器内科,三原美香;済生会今治病院 内科,宮池次郎;愛媛県立中央病院 消化器内科,宮田英樹;藤田医科大学ばんたね病院 消化器内科,三好広尚;近畿大学奈良病院 内視鏡部,水野成人;北海道消化器科病院 外科,森田高行;中国労災病院 消化器内科,毛利輝生;岐阜市民病院 消化器内科,向井 強;大分大学医学部 消化器内科,村上和成;山口大学大学院 消化器・腫瘍外科学,永野浩昭;熊本労災病院 外科,中原 修;聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科,中原一有;京都桂病院 消化器内科,中井喜貴;亀田総合病院 消化器内科,中路 聡;市立大津市民病院 消化器内科,中島 潤;独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター 消化器科,中西文彦;紀南病院 内科,中野好夫;市立東大阪医療センター 消化器外科,中島慎介;松阪中央総合病院 消化器内科,直田浩明;市立豊中病院 消化器内科,西田 勉;四国がんセンター 消化器内科,西出憲史;大分三愛メディカルセンター 消化器内科,錦織英史;福井県済生会病院 内科,野村佳克;長野市民病院 消化器内科,越知泰英;京都府立医科大学附属北部医療センター 外科,落合登志哉;産業医科大学 第3内科学,大江晋司;大阪医科大学 第二内科,小倉 健;藤枝市立総合病院 消化器内科,大畠昭彦;さいたま赤十字病院 肝胆膵内科,大島 忠;金沢大学附属病院 がんセンター,大坪公士郎;長岡中央綜合病院 消化器内科,岡 宏充;広島赤十字原爆病院 第一消化器内科,岡崎彰仁;公立陶生病院 外科,大河内治;地域医療機能推進機構大阪病院 消化器内科,大西良輝;独立行政法人国立病院機構大分医療センター 消化器内科,大塚雄一郎;新東京病院 消化器内科,佐上亮太;香川県立中央病院 消化器内科,榊原一郎;稲沢市民病院 消化器内科,坂田豊博;がん研有明病院 肝胆膵内科,笹平直樹;北播磨総合医療センター 消化器内科,佐々木綾香;千葉西総合病院 消化器内科,佐藤晋一郎;京都第一赤十字病院 消化器内科,佐藤秀樹;新発田病院 内科,佐藤聡史;みやぎ県南中核病院 消化器内科,佐藤晃彦;自治医科大学附属さいたま医療センター 消化器内科,関根匡成;宇部興産中央病院 消化器内科,仙譽 学;広島大学病院 消化器・代謝内科,芹川正浩;日本大学病院 消化器内科,渋谷 仁;埼玉県立がんセンター 消化器内科,清水 怜;沖縄県立宮古病院 消化器内科,新里雅人;JR札幌病院 消化器内科,志谷真啓;関西労災病院 消化器内科,須田貴広;横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター,杉森一哉;名古屋第一赤十字病院 消化器内科,鷲見 肇;福島県立医科大学 消化器内科学講座,鈴木 玲;香川大学医学部附属病院 消化器外科,鈴木康之;仙台市立病院 消化器内科,鈴木範明;聖隷三方原病院 消化器内科,多々内暁光;秋田大学 消化器内科,高橋健一;独立行政法人国立病院機構佐賀病院 内科,高橋孝輔;市立岸和田市民病院 消化器内科,髙谷晴夫;鳥取大学医学部 消化器・腎臓内科学,武田洋平;府中病院 消化器内科,武田修身;岸和田徳洲会病院 消化器内科,滝原浩守;済生会前橋病院 消化器内科,田中良樹;イムス札幌消化器中央総合病院 消化器内科,丹野誠志;千葉市立海浜病院 消化器内科,太和田勝之;独立行政法人国立病院機構北海道医療センター 消化器内科,多谷容子;新潟大学医歯学総合病院 消化器内科,寺井崇二;済生会宇都宮病院 外科,寺内寿彰;地方独立行政法人総合病院旭中央病院 外科,冨樫順一;社会医療法人明陽会成田記念病院 消化器内科,外山貴洋;秋田厚生医療センター 消化器内科,津田栄彦;津山中央病院 消化器・内視鏡センター,柘野浩史;市立伊丹病院 消化器内科,筒井秀作;高知大学医学部附属病院 消化器内科,内田一茂;福岡大学筑紫病院 消化器内科,植木敏晴;東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 外科,薄葉輝之;京都大学医学部附属病院 消化器内科,宇座徳光;町田市民病院 外科,脇山茂樹;北里大学医学部 消化器内科学,渡辺真郁;公立甲賀病院 消化器内科,八木勇紀;三重大学附属病院 消化器肝臓内科,山田玲子;東京西徳洲会病院 消化器内科,山本龍一;帝京大学ちば総合医療センター 外科,山崎将人;富山大学 第三内科,安田一朗;函館五稜郭病院 消化器内科,矢和田敦;松山赤十字病院 肝臓・胆のう・膵臓内科,横田智行;自治医科大学 消化器肝臓内科,横山健介;川崎医科大学 胆膵インターベンション学,吉田浩司;長岡赤十字病院 消化器内科,吉川成一;大阪府済生会吹田病院 消化器外科,吉川卓郎.
全機関からの報告書収集にご協力いただいた中井美砂子氏に深謝します.
本論文内容に関連する利益相反:潟沼朗生,中井陽介,竹中 完はDigestive Endoscopyの Associate Editorsである.北野雅之は,オリンパス社から講演の謝礼,ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社から講演の謝礼と研究資金を受けている.糸井隆夫は,オリンパス社から講演の謝礼,ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社から講演の謝礼と研究資金を受けている.桒谷将城はメディコスヒラタ社から顧問料,ジャパンライフライン社から研究資金を受けている.伊佐山浩通は,オリンパス社,ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社,および富士フイルムヘルスケア社から講演の謝礼,ボストン・サイエンティフィック・ジャパン社からの講演の謝礼と研究資金を受けている.他の著者は,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 1442-55に掲載された「Needle tract seeding after endoscopic ultrasound-guided tissue acquisition of pancreatic tumors: Nationwide survey in Japan」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.