2024 Volume 66 Issue 3 Pages 361
【背景と目的】大腸内視鏡による前がん病変摘除後の大腸癌(CRC,colorectal cancer)リスク低減において,長期的な発症率についてのエビデンスは確立されていない.本研究は,Japan Polyp Study(JPS)の長期追跡情報をもとに解析を行った.
【方法】JPSは,本邦11施設における前向きコホート研究であり,参加者は2回の大腸内視鏡検査後に定期内視鏡検査にて追跡された.主要評価項目は,無作為によるCRC発症率である.CRCの観察/期待値(O/E比)は,大阪府のがん登録データを用いて算出した.副次的評価項目として,Advanced neoplasia(AN)の発症率および病変の特徴を解析した.
【結果】合計1,895人の参加者が解析された.大腸内視鏡検査間隔の平均値および中央値はそれぞれ,2.8年(範囲:1~15年)と,6.1年(範囲:0.8~11.9年;11,559.5人年)であった.追跡中に4症例(すべて男性)においてCRCの発症を認めた.CRCのO/E比は0.14で86%のリスク低減を示唆し,男性と女性においてはそれぞれ0.18,0であった.さらに,71症例(6.1/1,000人年),77病変のANが認められ,うち31病変(40.3%)が非顆粒型の側方発育型腫瘍(LST-NG)であった.表面隆起(<10mm)と陥凹,LSTを含む表面隆起型腫瘍(NP-CRNs)は,全ANのうち59.7%を占めた.さらに,CRC4病変中2病変がT1でNP-CRNに関連していた.
【結論】NP-CPNを含む前がん病変を内視鏡的に摘除することは,CRC発症率の減少に寄与する.ANの摘除後の追跡中に発見された多発病変の半数以上がNP-CPNであった.The Japan Polyp Study:University Hospital Medical Information Network Clinical Trial Registry:University Hospital Medical Information Network Clinical Trial Registry, C000000058;cohort study:UMIN000040731
わが国を含むアジア圏でのCRC罹患率の上昇において,大腸内視鏡による前がん病変切除後のCRCリスク低減において,地域的なエビデンスを示すための多施設コホート研究である.National Polyp Study(米国における前向き臨床試験)による,大腸内視鏡の腺腫性ポリープ摘除がCRC発症の減少に寄与するという報告は,大腸癌の発癌過程として提唱されているadenoma-carcinoma sequenceの概念を裏付ける 2).また,近年serrated pathwayが新たな大腸癌の発癌過程として注目されている事と,NP-CRNsを含むANがpost-colonoscopy colorectal cancer (PCCRC) 3)に関与するリスク因子の可能性についての議論が必要とされている.本研究は,2003年から始動されたJPS(多施設共同前向きコホート研究)として収集されている長期追跡情報をもとに解析された 4).JPSコホート研究において,定期検査が行われた参加者は,10mm以上の右側の鋸歯状病変を含むすべての大腸腫瘍が摘除された状態から開始され,9年間の追跡期間中,3年間隔で3回の大腸内視鏡検査を受けることになった.少なくとも1個の腫瘍性病変を摘除されていた2,166例中追跡可能な1,895例のうち男性は1,250例(66%),女性は645例(34%)での解析となった.本研究では,前がん病変の摘除によるCRC発症率の減少を示唆すると共に,サーベイランス中に発見された大腸腫瘍性病変の特徴が詳細に示されている.異時性AN 77病変のうち,10mm以上が57病変(74.0%),20mm以上が5病変(6.5%)であり,右側結腸に44病変(57.1%)を占めた.形態については,LST-NGが31病変(40.3%)で20病変(64.5%)が右側結腸であった.NP-CRNsはAN全体のうち46病変(59.7%)を占めていた.病理組織学診断では,高異型度腺腫37病変(48.1%),CRCが4病変(5.2%)でCRCは男性での発症であった.AN発見までの期間は,平均5.1年であった.CRC 4病変の詳細は,Type2が2例(pT2,pT3),NP-CRNsのpT1が2例で,内訳は盲腸の6mmの陥凹型とS状結腸の15mmのLST-NGであった.本研究は,観察期間中に使用された高性能内視鏡機種による結果と考えられたが,詳細なQuality Indicatorについての分析が今後の課題とされ,臨床的に重要なNP-CRNsをターゲットにしたArtificial Intelligenceの改良について指示されている.