2024 Volume 66 Issue 4 Pages 462
【背景と目的】大腸癌研究会の大腸癌治療ガイドライン 2)では,大腸T1癌のリンパ節転移のリスク因子として,脈管侵襲,低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌等の組織型に加え,簇出,粘膜下層の浸潤距離(SM浸潤度)が推奨されている.本研究では,内視鏡切除された大腸T1癌におけるリンパ節転移のリスクを評価するためにリアルワールドデータを用いてノモグラムを開発した.
【方法】大腸T1癌4,673人のリンパ節転移リスクについて解析した.全コホートを開発コホートと検証コホートに分割した.ノモグラムは開発コホートの多変量モデルから導き出し,検証コホートデータセットを用いて内部妥当性の検証を行った.
【結果】SM浸潤度,簇出,脈管侵襲,組織型,部位,性別の6つのリスク因子が開発コホートで同定され,ノモグラムに組み込まれた.ノモグラムの検量線は,開発コホート,検証コホートの両方において良好な一致を示した.予測の正確さを示すC統計量は0.784(95%信頼区間,0.757-0.811)であり,大腸癌研究会ガイドライン(0.751)やNCCNガイドライン(0.691)よりも有意に高かった(p<0.0001).検証コホートでは,C統計量もノモグラム予測(0.790;95%信頼区間,0.751-0.829)の方がNCCN(0.726;p<0.0001)よりも有意に高かった.
【結論】このノモグラムによって大腸T1癌内視鏡切除後の適切な治療の意思決定が期待される.
大腸T1癌は,SM浸潤度1,000μm以上であっても9割程度はリンパ節転移を認めない.過剰な追加外科切除は避けるべきであるが,実際の臨床では悩ましい症例も存在する.その様な場合にリンパ節転移を予測するノモグラムは患者との意思決定において有用である.しかし,外部の検証コホートでの評価が不十分であることや,病理中央診断が行われていない等のlimitationが存在するため,現行のガイドラインの補助的なツールと捉えるべきであろう.このノモグラムの詳細に関しては,本編を参照されたい.