2024 Volume 66 Issue 5 Pages 1212-1220
胆膵疾患にサルコペニアの有病率が高い傾向にあり,サルコペニアの合併は急性膵炎・慢性膵炎・胆道癌・膵癌患者において予後不良因子であると報告されている.また,サルコペニアは悪性胆道閉塞に対する胆管ステント閉塞のリスク因子,除痛治療としてEUSガイド下腹腔神経叢ブロック後の治療効果予測因子,被包化膵壊死に対する内視鏡治療の効果予測因子として挙げられている.胆膵疾患治療・胆膵内視鏡処置前にサルコペニアの有無を評価することで,治療の効果予測や栄養療法および運動療法を積極的に介入することができ,治療効果に影響を及ぼすことが考慮される.
Patients with biliopancreatic disease tend to have a high prevalence of sarcopenia. Sarcopenia has been reported to be a poor prognostic factor in patients with acute and chronic pancreatitis and biliary tract and pancreatic cancer. Moreover, sarcopenia has been reported as a risk factor for biliary stent obstruction in malignant biliary obstructions and a predictor of treatment efficacy after endoscopic ultrasound-guided celiac plexus neurolysis (EUS-CPN) as pain relief treatment and after EUS-guided drainage and endoscopic necrosectomy for walled-off necrosis (WON). Evaluating sarcopenia before biliopancreatic disease treatment and endoscopy is important, as it is then possible to predict the treatment efficacy and suggest appropriate nutritional and exercise therapy.
サルコペニアはRosenbergによって提唱された概念であり 1),「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される.その原因としては大きく2つに大別される.加齢により生じる一次性と,活動不足,低栄養,疾患(代謝疾患,消耗性疾患など)などによる二次性に分けられ,急性膵炎・慢性膵炎・悪性腫瘍によるサルコペニアは二次性のサルコペニアに分類される.サルコペニアの診断基準は,欧州を中心とするEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP),アメリカを中心とするInternational Working Group on Sarcopenia(IWGS),アジアを中心とするAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)により定義される.サルコペニアの有病率は定義や対象により異なるが,大規模研究に限ると男女ともに6-12%と報告されている 2)~4).疾患ごとの検討では,慢性膵炎におけるサルコペニアの有病率は17-62%であり 5),膵癌におけるサルコペニアの有病率は24-65%,胆道癌におけるサルコペニアの有病率は49%と報告されている 6),7).その割合を比較すると胆膵疾患にサルコペニアの有病率が高い傾向にあることがわかる.またサルコペニアは身体機能低下やフレイル(虚弱)のリスク因子であり,患者の生活の質(quality of life:QOL)を低下しうる.さらに胆膵疾患の治療や胆膵内視鏡処置との関連も最近注目されており,サルコペニアとの関係を示した報告が本邦からも最近増えてきている.本稿では胆膵疾患の治療成績と胆膵内視鏡処置関連における成績とサルコペニアの関係に関して最新の治験をもとに解説する.
2014年に初めてAWGSが行われ,EWGSOPと同様に握力,歩行速度,骨格筋量の3指標によりサルコペニアを判定した 4).その後,2019年に診断基準の改良版となるAWGS2019が報告された 8).最新のサルコペニアの診断には骨格筋量と骨格筋機能の両方の測定が必要であると考えられている.そして,骨格筋量,筋力,身体機能いずれも低下している場合は,重度サルコペニアと定義される(Figure 1) 9).病院や研究施設で骨格筋量が測定できる場合には各種検査を行い,アルゴリズムに沿ってサルコペニアは分類される(Figure 2) 8).一方,サルコペニアの診断においては検査が複雑なため,地域やプライマリー・ケア現場と病院や研究施設で診断基準を分けられた.地域やプライマリー・ケア現場で骨格筋量を測定することの難しさを認識し,より多くの診療現場での診断および必要な介入を促進するために,身体機能の低下または筋力低下によってサルコペニア(可能性あり)の診断を可能とする考えを導入した.サルコペニアに対して適切な介入は必要であるが,骨格筋量減少や筋力低下の原因は,サルコペニア以外にも廃用によるものや薬剤によるもの,さらには疼痛や痺れ(麻痺)の影響など様々である.そのため,サルコペニアの判定は慎重に行うべきであることに注意が必要である.
EWGSOP2のサルコペニアの分類・診断基準(文献5より改変).
AWGS 2019のサルコペニアの評価・診断基準(文献6より改変).
体組成を測定する方法として,生体インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis:BIA)や二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry:DXA)がある.体組成測定による骨格筋量計測には,浮腫などが認められる場合には骨格筋量を過大評価しやすい点,機種間の互換性に乏しい点などに注意が必要である.胆膵疾患において骨格筋量を測定する方法として,CT画像を用いて第3腰椎の高さの横断面で骨格筋を測定する報告が多く,骨格筋量の指標としてskeletal muscle index(SMI):骨格筋面積(cm2)/身長の2乗(m2)を算出し,サルコペニアを判定する.CT画像を用いる理由としては,胆膵疾患患者はほぼ全例で診断時にCT検査を行っており,体組成を測定するために追加の検査が不要であることと後ろ向きに検討可能であることが挙げられる(Figure 3).胆膵疾患の診断時のCT画像で予後予測を行えるという簡便性がメリットであるため既存の論文ではCT画像が多く用いられている.既存の論文ではCT画像での筋肉量の測定で判断されることが多いが,将来的にはサルコペニアのガイドラインに沿った診断基準を用いて,筋力・身体機能の測定も評価されることでより詳細に検討されるようになることが望まれる.
A:第3腰椎領域のCT画像の横断面図.緑色が骨格筋部分で,CT値が-29から150Hounsfield units(HU)を示す部分を明示している.
B:へそ領域のCT画像の横断面図.青色が皮下脂肪領域で,赤色が内臓脂肪領域を示す.脂肪組織のCT値は-200から-50 Hounsfield units(HU)とした.
急性膵炎の急性期における治療として栄養療法は重要である.急性膵炎患者を対象に早期に経腸栄養を行った群と経静脈栄養を持続した群を比較した複数の研究の結果,経腸栄養群で有意に感染症発生率が低く入院期間も短縮されたことから,早期の経腸栄養を開始することが推奨される 10).適切な栄養状態の確保が重要であることは,加齢以外の活動性の低下・低栄養・臓器不全などに伴う筋肉量低下からくる二次性サルコペニアが急性膵炎の治療抵抗性の因子であることが指摘されているため,本邦の急性膵炎診療ガイドライン2021でも重症例で消化管出血や消化管閉塞などの腸管合併症がなければ早期の経腸栄養の開始が推奨されている.サルコペニアの有無は急性膵炎の重症化リスク因子(ハザード比1.45,95%信頼区間1.02-2.06,p=0.035)であったと報告されており,特に肥満を伴うサルコペニア患者は重症化しやすいと報告されている 11).既存の報告では急性膵炎発症時におけるサルコペニアの有無が重症化のリスク因子となるが,膵炎治療が長期化し入院期間延長に伴う筋肉量低下やサルコペニアの出現,もしくは発症時のサルコペニアの増悪により,膵炎の予後に影響することが示唆されているため,今後急性膵炎治療におけるサルコペニアの影響に関する研究が多く報告されることに期待される.
重症急性膵炎後の被包化膵壊死(walled - off necrosis:WON)は重篤な偶発症であり,感染例や有症状例は侵襲的治療が必要となる.以前は経皮的なドレナージや開腹によるネクロゼクトミーが行われていたが,近年はこうしたWONに対する超音波内視鏡検査(EUS)ガイド下ドレナージと内視鏡的ネクロセクトミーによる経消化管的治療が開発され,良好な治療成績が得られている 12).しかし,WON患者は栄養状態不良に伴う二次性サルコペニアを発症し,これらの内視鏡治療中のサルコペニアの合併の有無は膵炎治療中の臓器不全,感染性壊死,死亡と関連することが報告されている 13).このような内視鏡治療患者に関しては,栄養療法とリハビリテーションの運動療法が,サルコペニア発症の予防と急性膵炎・WON治療の改善につながることが示唆されている.
2)慢性膵炎とサルコペニアサルコペニアの有病率は定義や対象により異なるが,大規模研究に限ると男女ともに約10%と報告されており 2),その割合と比較すると慢性膵炎における有病率が高い傾向にある.その原因として主に膵外分泌機能低下やアルコール多量摂取による栄養摂取量不足が慢性膵炎におけるサルコペニアに関連すると考えられる.
Shintakuyaらによる慢性膵炎患者14例を含む膵疾患患者132例の検討では,膵外分泌機能低下・不全と骨格筋量の低下と関連していた 14).また,Olesenらは慢性膵炎患者182例で検討を行い,17.0%がサルコペニアを有しており,膵外分泌機能低下・不全がサルコペニアのリスク因子であったと報告されている 15).そのため,膵外分泌機能低下・不全を伴う慢性膵炎患者のサルコペニアの予防・治療法の一つとして,膵消化酵素薬補充療法が期待されているが,その有効性に関しては未だエビデンスが確立されていないため今後の検討が待たれる.サルコペニア診療ガイドラインでは適切な栄養摂取はサルコペニアの発症・予防に有用であり,積極的な栄養管理が推奨されている.慢性膵炎患者においては,糖尿病合併症例も多くその影響による食事制限や,代償期の脂質制限を行っている場合など,健常者と比較して栄養管理に難渋することがある 16).慢性膵炎患者に関しては栄養摂取状況を繰り返し評価し,特に脂質制限が必要な場合や食事で十分な栄養量を摂取できない場合には,アミノ酸製剤の投与なども考慮する必要があると思われる 17).
サルコペニアの有無は慢性膵炎における死亡リスク(ハザード比6.7,95%信頼区間1.8-25.0,p=0.005)や入院リスク(ハザード比2.2,95%信頼区間0.9-5.0,p=0.07)として報告されている 15).また,慢性膵炎に対する疼痛治療としてのオピオイド投与の必要性とサルコペニアの関係性も報告されており 15),サルコペニアを合併する慢性膵炎患者の疼痛コントロールに難渋することが示唆される.
3)胆道癌とサルコペニア切除可能胆道癌においてサルコペニアの影響を検討した17報のメタ解析において,サルコペニアを有する胆道癌患者の全生存期間が有意に短く,サルコペニアは胆道癌患者における予後不良因子であることが判明した(ハザード比2.10,95%信頼区間1.72-2.56,p<0.001) 18).同研究ではサルコペニアと無再発生存期間の関連も検討されており,サルコペニアを有する胆道癌患者の無再発生存期間が有意に短く,サルコペニアは胆道癌患者における予後不良因子であったと報告している(ハザード比2.18,95%信頼区間1.75-2.71,p<0.001).また,術後合併症の発症率に関するサブ解析では,サルコペニアを有する胆道癌患者が有意に胆汁漏や感染症などの術後主要合併症の発生率が増加すると報告されている(ハザード比2.86,95%信頼区間1.07-1.96,p<0.001).
化学療法を行った切除不能胆道癌症例において,サルコペニアは胆道癌患者の全生存期間の予後不良因子と報告されている(ハザード比2.19,95%信頼区間1.14-4.23,p=0.018) 19).また,サルコペニアは胆道癌患者の治療成功期間の予後不良因子と報告されている(ハザード比2.50,95%信頼区間1.15-5.43,p=0.019).サルコペニアは切除可不能胆道癌の全生存期間・治療成功期間の両方の予後不良因子として重要である.
4)膵臓癌とサルコペニア切除可能膵癌症例において,サルコペニアは術後の全生存期間(ハザード比1.71,95%信頼区間1.25-2.35,p=0.001)および無再発生存率(ハザード比1.48,95%信頼区間1.12-1.96,p=0.007)の予後不良因子と報告されている 20).また術後予後予測の検討としてCox比例ハザードモデルによる多変量解析でもサルコペニアの有無は有意差を認めている.担癌患者の術前の身体機能の低下は,術後の合併症と関連している.担癌患者の多くで栄養摂取量が不足することが多く,栄養療法が必要である.また筋肉量の維持・増量には栄養療法に加えて運動療法の組み合わせが重要と報告されている 21).Mikamiらは膵癌患者に対する術前リハビリテーションの有用性に関して検討したところ,運動耐容能(最高酸素摂取量・6分間歩行距離)を有意に向上させたと報告されており 22),術後呼吸器合併症予防につながる可能性がある.また,Okadaらは膵癌患者に対する術後リハビリテーションの有用性に関して検討したところ,S-1補助化学療法の完遂率が高くなることも報告されている(93% vs 53%,p<0.001) 23).これは,リハビリテーションを積極的に行うことでサルコペニアが改善し,抗がん剤による副作用が低減した可能性が示唆される.
さらに化学療法を行った切除不能膵癌での検討においても,サルコペニア合併は有意な予後不良因子であったと報告されている 24),25).一次化学療法にGemcitabine and nab-paclitaxel(GEM+nab-PTX)併用療法を用いた膵癌患者の予後不良因子に関して,患者背景で有意差を生じないように傾向スコアマッチングを使用して,サルコペニアの有無で化学療法後の予後を比較した 25).その結果としても,無増悪生存期間の中央値はサルコペニア群:5.0カ月,非サルコペニア群:8.0カ月とサルコペニア群が有意に短く(p=0.004),全生存期間の中央値はサルコペニア群:10.3カ月,非サルコペニア群:18.1カ月とサルコペニア群が有意に短かった(p=0.001).サルコペニア群の方が化学療法によるグレード3以上の有害事象(AE)の発生率は有意に高く(p=0.008),化学療法継続が困難となることが多かった.また,一次化学療法のレジメンの内容がGEM+nab-PTX併用療法だけでなく,FOLFIRINOX療法でも同様の結果が認められている 24),25).化学療法継続の可否に関して,サルコペニアをはじめとする体組成指数は年齢よりも患者の状態をより正確に反映する指標として注目されはじめている.
5)胆道癌・膵癌にサルコペニアが合併する機序胆道癌・膵癌にサルコペニアが合併する理由としては以下の機序が考えられる.悪性腫瘍はヒトと動物の両方のモデルで,腫瘍壊死因子-α(TNF-α),インターロイキン(IL)-1,およびIL-6を増加することが報告されている 26),27).また,TNFα,IL-1,IL-6などの炎症性サイトカインは,がんの増殖・進展を促進することが知られている 28).TNFαは,活性化マクロファージ,NK細胞やT細胞などから産生され,初期の炎症反応,細胞分化・生存,アポトーシスなどを引き起こす.TNFαは,腫瘍細胞膜に存在する受容体に結合し細胞傷害を引き起こす一方で炎症誘発による腫瘍増大・進展の増悪因子としても作用する.IL-1は,がん細胞には直接・間接的に殺傷作用を示す一方で,炎症環境を誘導することによりがん促進的にも作用する.IL-6は,活性化されたT細胞,マクロファージ,線維芽細胞などから産生され,オートクライン・パラクライン的に作用して炎症増幅回路を形成する.悪性腫瘍によるTNFα,IL-1,IL-6などの炎症性サイトカインが増加することにより,全身性炎症を背景としてレプチン作用により食欲不振,筋蛋白質分解の増加と筋蛋白合成の低下により骨格筋減少,肝臓での糖新生亢進やインスリン抵抗性の上昇,脂肪組織の代謝変化など生じる 29),30).さらに,胆道癌・膵癌患者は胆管炎などの感染症を伴いやすく,膵臓の外分泌機能不全による体重減少や下痢を引き起こす.これは,サルコペニアと胆道癌・膵癌患者の生存率の低下に関連していると考えられるが,詳細はまだまだ不明瞭であるため,今後の研究成果が待たれる.
高齢者の胃病変の内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)において,ESD手技に伴う合併症の発症率(誤嚥性肺炎)に関して,サルコペニア群では肺炎の発生率が21.2%に対し,非サルコペニア群では7.7%とサルコペニア群が有意に高かった(p=0.018) 31).処置時間は2群間で有意な差はなかった(72±54分 vs. 62±44分,p=0.201).多変量解析でも,サルコペニアは誤嚥性肺炎発症の独立した危険因子であった(オッズ比=3.16,95%信頼区間1.18-8.50,p=0.023).
内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)などの胆膵内視鏡処置では既存の論文に高齢と鎮静による合併症の発生率の関係性や,鎮静剤の種類の違いにおける影響も報告されている.ERCPの鎮静による有害事象は,80歳以上の高齢患者では若年患者に比べて有意に高いが(3.4% vs 0.5%;p<0.01),その他の合併症やERCPの手技成功率に関しては2群間で差はなかった 32).ERCPのプロポフォールでの鎮静は,高齢者は若年者に使用する投与量よりも低用量のプロポフォールを使用することで,若年者と同等の効果と安全性を得られた 33).また,高齢患者のERCPの際にデクスメデトミジンとプロポフォールで比較検討したところ,プロポフォール単剤と比べてプロポフォールにデクスメデトミジンのボーラス投与を組み合わせることで,高齢患者のERCP下の鎮静において優れた呼吸状態・血圧管理を行うことができることも報告されている 34).ERCPなどの胆膵内視鏡処置におけるサルコペニアとの関連の報告はないが,ESDに関しては報告されており,高齢者とERCPの鎮静の関係を考慮するとERCPなどの胆膵内視鏡処置でも同様の結果が予想されるため,将来検討されることが期待される.
2)抗血栓薬とサルコペニアサルコペニアでは薬剤の代謝活性が低下することが指摘されており,直接経口抗凝固薬(Direct oral anticoagulant:DOAC)は除脂肪体重に反比例する血漿レベルの親水性薬物であるため,抗血栓薬服用者では通常量を摂取していてもトラフ値を超えるDOACや出血性合併症のリスクが上昇する可能性が報告されている 35).年齢,総体重,腎機能からなるDOACの投与モデルにサルコペニアの有無を追加すると,トラフ値を超える投与レベルの識別に向上する可能性が考慮される.
DOAC内服患者の消化管出血リスクとしてガイドラインでは,70歳以上の高齢者,腎機能低下症例(CCr:50ml/min以下),消化管出血既往症例,マクロライド系抗生剤などのP糖蛋白阻害薬併用症例では十分に注意する必要があるとされている.原則としては抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインに従うが,今後サルコペニアの有無でのERCPなどの胆膵内視鏡処置の出血などの合併症発症のリスク因子が検討されることが期待される.
3)悪性胆道閉塞に対する内視鏡治療とサルコペニア悪性胆道閉塞に対して行った内視鏡治療とサルコペニアの関連を検討した報告はまだ限られている.自己拡張型金属ステント(Self-expandable metal stent:SEMS)挿入後の胆管閉塞状態の再発(Recurrent biliary obstruction:RBO)は,切除可能・切除不能な悪性胆道閉塞患者にとって重要な問題である.
Şentürkらは膵癌による遠位胆道閉塞に対して術前化学療法を行う膵癌患者のステント閉塞リスクに関して検討したところ,ステント閉塞までの時間(Time to recurrent biliary obstruction:TRBO)中央値は非サルコペニア群では到達しないのに対して,サルコペニア群では112日と有意に短い結果であった(p=0.004).多変量解析でも,サルコペニアがTRBOの不良因子であり,ハザード比は5.707(95%信頼区間1.148-28.381,p=0.033)であった 36).
Koyaらは切除不能な悪性胆道閉塞患者に対してステント閉塞リスクに関して検討したところ,Kaplan-Meier分析では60日,180日,および360日のRBOの累積発生率は,サルコペニア群が4.0%,31.1%,55.0%であり,非サルコペニア群では0.0%,12.2%,22.0%と比較して有意にサルコペニア群で高かった(p=0.003).RBOリスク因子の多変量Cox回帰分析でも,サルコペニアがハザード比=4.59(95%信頼区間1.67-12.61,p=0.003)と独立した不良因子であった 37).
サルコペニアは,前述で述べた様に膵癌患者の予後不良と関連しており,最近はRBOとサルコペニアの関係も報告されている.サルコペニアがRBOのリスク因子となる原因としては,サルコペニア患者は胆囊収縮能が低下しているため胆泥・胆石が形成されやすいことが考慮されている.今後大規模な症例での比較検討されることが待たれる.
4)EUS下処置とサルコペニアEUSガイド下腹腔神経叢ブロック(Endoscopic ultrasound guided celiac plexus neurolysis:EUS-CPN)後の治療効果に対するサルコペニアの影響の影響として,サルコペニア群の有効率は83.4%で完全奏効率は3.5%,非サルコペニア群の有効率は93.4%で完全奏効率は28.9%と有意に非サルコペニア群の方が良好であった(p=0.03,p<0.001).鎮痛期間の中央値は,サルコペニア群と非サルコペニア群でそれぞれ8週間(2-10)と15週間(8-16)であった(p=0.01).サルコペニア群と非サルコペニア群で治療における重篤な有害事象は報告されず,2群間に合併症の有意差はないと報告されている 38).これらの結果からは,サルコペニア患者に対するEUS-CPNの処置は安全に施行することができる一方で,EUS-CPNに対する治療効果の反応不良の予測因子であるため疼痛コントロールを管理する上で筋肉量の維持は重要であると思われる.
WONに対するEUSガイド下ドレナージと内視鏡的ネクロセクトミーによる経消化管的治療後の治療効果に対するサルコペニアの影響として,WON患者のサルコペニアの有無で手技成功率などには有意差を認めなかった.一方で,WON治療患者の25%が30日後にサルコペニアを発症し,サルコペニアの有無は臓器不全,感染性壊死,死亡と関連することが報告されている(p=0.05) 13).これらの結果,栄養管理とリハビリテーションなど運動療法が,サルコペニア発症の予防とWONの内視鏡治療後の周術期管理に重要と思われる.
本稿では胆膵疾患と胆膵疾患を中心とする内視鏡処置とサルコペニアの関連性を説明した.サルコペニアの合併は,慢性膵炎・急性膵炎・胆道癌・膵癌患者において予後不良因子であると報告されている.また,サルコペニアは悪性胆道閉塞に対する胆管ステント閉塞のリスク因子,除痛治療としてEUS-CPN後の治療効果予測因子,WONに対する内視鏡治療の効果予測因子として挙げられており,治療前にサルコペニアの有無を評価することで,栄養療法および運動療法に積極的に介入することができ,治療効果に影響を及ぼすことが考慮される.今後さらなる大規模な検討により,サルコペニアが胆膵内視鏡処置の結果に影響を及ぼすか解明されることが望まれる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:北野雅之(オリンパス)