GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
CASES OF ENDOSCOPIC APPROACH WITH INTRA-AORTIC BALLOON OCCLUSION FOR SEVERE GASTROINTESTINAL BLEEDING WITH SHOCK
Kengo WATANABEKai KOREKAWA Yuichi OKANOMasayuki ORIKASAYutaro MASUKiichi TAKAHASHIAsuka AKASAKATakashi ARAIMasahiro SATOMotoji OKI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 66 Issue 5 Pages 1228-1235

Details
要旨

大動脈閉塞バルーン(Intra-Aortic Balloon Occlusion:IABO)は下行大動脈を遮断することで動脈性出血を制御し心・脳血流の維持ができる機器である.主に外傷による出血性ショックに用いられてきたが,近年産科救急への応用など用途が拡がっている.今回われわれは,重症消化管出血に対しIABO併用下で内視鏡アプローチを行った2例を経験した.IABOにより1例目(十二指腸潰瘍)は出血源が特定でき適切な術式の選択が可能に,2例目(直腸潰瘍)は内視鏡的止血術の成功に至った.いずれも内視鏡単独では得られない結果であり,IABOの併用は消化管出血の診断,治療共に有用な可能性が示唆された.

Abstract

Intra-aortic balloon occlusion (IABO) is a device that controls arterial bleeding and maintains cardiac and cerebral blood flow by blocking the descending aorta. It is mainly used for hemorrhagic shock caused by trauma; however, its application has been expanding recently, including in obstetrics.

In this study, we report two cases of severe gastrointestinal bleeding in which an endoscopic approach was performed with IABO. IABO enabled us to identify the source of bleeding in the first case (duodenal ulcer) and select an appropriate surgical technique and led to successful endoscopic hemostasis in the second case (rectal ulcer).

Endoscopic hemostasis with IABO has been successful for gastric ulcers and duodenal hemorrhage. We are the first to report a case of IABO for lower gastrointestinal bleeding. IABO may be useful in the diagnosis and treatment of gastrointestinal bleeding.

Ⅰ 緒  言

大動脈閉塞バルーン(Intra-Aortic Balloon Occlusion:IABO)は1953年にEdwardsらにより腹部大動脈瘤手術への応用を目的として開発された手技であり 1,resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta(REBOA)とも呼ばれている(Figure 1 2.腹部外傷や骨盤内出血,産科的危機的出血 3),4などの救急領域で心・脳血流維持や出血コントロールのため頻用されているが,消化管出血に使用した報告は極めて少ない.今回われわれは,重症消化管出血に対しIABO併用が内視鏡診断,治療共に有用であった2例を経験した.殊に下部消化管出血に併用し内視鏡的止血術に成功した症例は自験例が初であり,文献的考察を含め報告する.

Figure 1 

IABO概要.

a:今回2症例に使用した大動脈遮断カテーテル(7Fr,Rescue Balloon-ER,株式会社東海メディカルプロダクツ).

先端(矢印)のバルーンをインフレート・デフレートすることで下行大動脈より尾側の血流を調整する.

b:バルーン留置の際のAortic Zone分類およびシェーマ(文献の図を元に作成).

大腿動脈より穿刺し,シースを留置後大動脈内にバルーンを挿入する.シェーマではバルーンインフレーションを示している.

Ⅱ 症  例

<症例1>

73歳,男性.

主訴:吐血,黒色便.

既往歴:脳梗塞(60代),Helicobacter pylori慢性胃炎(60代,除菌成功).

内服:ワーファリンカリウム,スピロノラクトン,プレガバリン.

現病歴:自宅内で意識消失している患者を家族が発見し救急要請,当院へ搬送された.低ナトリウム血症の診断でナトリウム補正目的に緊急入院となった.第4病日に吐血,黒色便を認め当科へ診察依頼あり.

現症:収縮期血圧40mmHg(拡張期血圧測定不能),脈拍140回/分・整,腹部は平坦・軟.

血液検査所見:ヘモグロビン 4g/dL,ヘマトクリット 16.5%,血小板 53,000/μL,プロトロンビン時間 79%,プロトロンビン時間-国際標準化比 1.14,活性化部分トロンボプラスチン時間 31.2秒.

経過:吐血後ショックバイタルとなり,気管挿管および赤血球濃厚液の輸血を開始した後に緊急上部消化管内視鏡(EGD)を行った.EGDでは十二指腸球部を中心に凝血塊,鮮血が充満していたが,出血の勢いが強く視野不良で出血源の特定は困難であり内視鏡を抜去した(Figure 2-a).Interventional Radiology(IVR)や手術が検討されたが全身状態不良のため患者の移送が不可能であり,救急科と相談の上ベッドサイドでIABO留置の方針とした.右大腿動脈よりIABO(7Fr,Rescue Balloon-ER,株式会社東海メディカルプロダクツ)を挿入し,Aortic Zone1でバルーンをインフレートした.動脈ライン(右橈骨動脈留置)での至適な圧波形の出現,血圧の上昇(収縮期血圧80から90mmHgおよび平均血圧65mmHg以上)を目安にインフレート圧を調整し,達成された時点で有効な遮断ができたと判断して出血源検索目的に再度EGDを行った.IABOにより出血は滲出性に減弱しており,視野確保が容易となり出血性十二指腸潰瘍の診断に至った(Figure 2-b).球部前壁に約5cmに渡る潰瘍が存在し,潰瘍底に拍動する露出血管を1カ所認めた.単独の止血術では止血困難であると考え,出血をさらに弱め最終的にクリップでの血管縫縮によって完全止血を得る戦略とし,インフレーション下で高張食塩水エピネフリン(hypertonic saline epinephrine solution:HSE)6mL,純エタノール0.6mLを局所注入した.

Figure 2 

症例1(十二指腸潰瘍)の内視鏡画像.

a:IABO留置前のEGD.

十二指腸球部に大量の鮮血が貯留していた.

洗浄し血液を吸引するも出血の勢いが強く視野確保が困難だったため,一度内視鏡を抜去しIABO留置の方針とした.

b:バルーンインフレート中.

インフレートにより出血が軽減し(噴出性→滲出性),十二指腸球部前壁に潰瘍および拍動性の露出血管を1カ所確認できた(矢頭).

c:内視鏡的止血術.

バルーンインフレート下でHSEおよび純エタノールを局所注入するも出血が持続したため,クリップ止血法を追加した.その後バルーンをデフレートすると再び噴出性出血に増悪し,止血術前と出血の勢いは変わらなかった.

その後クリップ止血術を追加しバルーンをデフレートすると,再び噴出性出血が生じたため内視鏡的止血術は困難と判断し緊急手術の方針とした(Figure 2-c).EGD中のインフレート時間は約20分であった.胃十二指腸動脈が責任血管であり結紮術を行った.術後胃酸分泌抑制剤を継続し,再発なく第34病日に退院となった.

<症例2>

48歳,女性.

主訴:鮮血便.

既往歴:統合失調症(30代),2型糖尿病(30代),高血圧症(30代),脂質異常症(30代).

内服:セルトラリン塩酸塩,アリピプラゾール液,メキサゾラム,グリメピリド,セマグルチド,メトホルミン塩酸塩,トホグリフロジン水和物,オルメサルタンメドキソミル,ロスバスタチンカルシウム.

現病歴:意識障害のため救急搬送され,糖尿病性ケトアシドーシス,非閉塞性腸管虚血の診断で入院となる.同日緊急手術(小腸部分切除術)を行った.第8病日に約2,000gの鮮血便が排泄され当科へ診察依頼あり.

現症:収縮期血圧60mmHg(拡張期血圧測定不能),脈拍125回/分・整,腹部は平坦・軟.

血液検査所見:ヘモグロビン 8.3g/dL,ヘマトクリット 24.3%,血小板 304,000/μL,プロトロンビン時間 77%,プロトロンビン時間-国際標準化比 1.15,活性化部分トロンボプラスチン時間 67.8秒(ヘパリンによる抗凝固療法中).

造影CT検査(Figure 3-a):動脈相で下直腸動脈から直腸内への血管外漏出を認めた.

Figure 3 

症例2(直腸潰瘍)の画像検査結果.

a:内視鏡前の造影CT(動脈相,矢状断).

直腸内に血液の貯留があり,近傍の血管から腸管内への血管外漏出を認めた(矢頭).

責任血管は下直腸動脈と推定された.

b:IABO留置前のCS.

下行結腸(肛門縁より約50cm)まで挿入した.直腸を中心に鮮血の貯留が見られたが,出血源は特定できなかった.下行結腸より深部の腸液は非血性であった.

c:バルーンインフレート中.

IABO留置の上再度CSを行った.出血が減弱し,直腸(Rb)後壁に露出血管を1カ所確認できた(矢頭).血管は拍動していた.

d:内視鏡止血術.

バルーンインフレート下でCoagrasperを用いた高周波凝固止血術を行った.止血後バルーンをデフレートすると再出血したため,再度インフレートし凝固止血術を追加した.止血後,再デフレートし出血がないことを確認し終了した(矢頭).

経過:内視鏡前のCTで直腸からの出血が疑われ,緊急大腸内視鏡検査(CS)を行った.CSでは直腸内に多量の鮮血が存在し,先端フード装着や体位変換も試みたが出血源の同定は不可能であった(Figure 3-b).CS中にショックバイタルになったため内視鏡を抜去し右大腿動脈よりIABO(症例1と同製品)を留置した.Aortic Zone2でバルーンをインフレートし,症例1と同様の基準で循環動態の改善を判断後,再度CSを行った.IABOで内視鏡での観察は容易になり,出血点が下部直腸(Rb)にあると同定でき急性出血性直腸潰瘍(後壁)の診断となった(Figure 3-c).高周波止血鉗子(Coagrasper)による凝固止血術の後バルーンをデフレートすると再び出血が見られたため,再インフレート後に凝固止血を追加した.再デフレートにより出血がないことを確認し治療を終了した(Figure 3-d).CS中のインフレート時間の合計は約15分であった.その後再出血なく経過している.

Ⅲ 考  察

内視鏡的止血術が困難となる要素には①動脈性または噴出性出血②太く突出し発赤の目立つ露出血管③視野不良による出血部位特定困難④不安定な全身状態⑤解剖学的に内視鏡操作が困難な位置⑥深掘れ潰瘍,がある 5.自験2例は共に①-④を満たしており,IABOがなければ止血はおろか,診断(出血点の同定)も困難であった.内視鏡的止血術が困難な消化管出血にはIVRや手術が選択される.IVRは血管の解剖学的理由(走行や老化に伴う血管の石灰化)から責任血管にアプローチできる保証はなく,事前にCTなどで血管の走行を評価していない場合さらにその不確実性は増し,時間を要することで状態が悪化している状況では致死的な結果を招く危険も孕んでいる.また,内視鏡に比して実施できる施設,医師が限られていることも難点である.手術は内視鏡治療,IVRを含めた中で最も侵襲の高い治療であり,不安定な全身状態に加え高齢化に伴う基礎疾患や内服薬の点からも緊急手術のリスクは非常に高い.

消化管の血行動態は主に腹腔動脈,上腸間膜動脈,下腸間膜動脈から分岐する血管によって成り立っており,理論上は腹腔動脈より上流で血流を遮断することで消化管出血のコントロールが可能となる.IABO同様に大血管を遮断し出血コントロールを目的とした手技として左開胸による大動脈クランプ術があるが,それに比しIABOは侵襲が少なく,バルーンのインフレートとデフレートを適宜交互に,また,圧を調整することで完全・不完全遮断や間欠遮断などの繊細なコントロールが可能となることが利点である 6.自験2例はいずれもショックインデックスは2を越え,症例1のGlasgow Blatchfordスコアは15点,症例2のNOBLADS scoreは5点と重症の消化管出血であった.補液や輸血ではショックの離脱は困難であり,循環作動薬を使用したとしても出血量が多く薬効が発揮されるまでに致命的になる危険が高かった.そのため,IABOが循環動態の改善に不可欠と考え臨床的適応ありと判断した.

IABOの合併症に関してはまとまった報告はほとんどないが,主に2つに大別される.1つは手技に伴うもので,穿刺による出血,動脈瘻および高位穿刺による腹腔内臓器損傷などが,また,ガイドワイヤー操作による血管損傷が挙げられる.2つ目としてバルーン閉塞部以下の循環障害(再灌流障害や臓器虚血)が生じる危険があり,回避するためのインフレート時間は最大で40分程度と言われている 7.これらの合併症を予防するためには,エックス線透視下での留置や事前のCTによる血管評価が望ましい.しかし,IABOを必要とする場面は急変時であることがほとんどであるため実際にはこれらの対策を常に施すことは現実的には難しく,切迫した状況の中で患者への利害を考慮しIABOの適応を判断することが求められる.自験例はいずれも出血により移送ができないほどのショック状態を呈しており,IABO留置の際はベッドサイドでエコーを駆使し合併症を最大限予防することに努めた.実際には,エコーガイド下穿刺や穿刺後にリアルタイムでガイドワイヤーやバルーン先端が大動脈内および適切な位置にあることをエコーで確認することで問題なく治療を終えている.また,症例2では糖尿病性ケトアシドーシスが誘因と考えられる非閉塞性腸管虚血に対し手術を行っていたが,術後経過が良好であること,発症の誘因が脱水であり器質的な閉塞機転がそもそも存在しなかったことからIABO留置の方針とした.バルーンはAortic Zone2でインフレートしたが,バルーンによる物理的閉塞を避けるためバルーン展開位置が上・下腸間膜動脈に及ばないAortic Zone1に近い領域になるようエコーで確認した.

われわれは,自験2例および既報を振り返ることでIABOは重症消化管出血において診断,治療いずれに対しても有用であると考えている.まず症例1においては,IABOが診断に大きく貢献した.内視鏡的止血術は不可能であったが,IABOにより出血性十二指腸潰瘍の診断に至った.責任血管まで判明していたため外科医は術前に治療戦略を考えることができ,手術中出血源の検索時間を省略することを可能にした.また,IABOにより出血量を減少させることで補液や輸血だけでは困難であったショックバイタルの離脱を達成し,集中治療室(内視鏡施行場)から手術室への移動が可能となった.IABOによる治療時間の短縮は輸血量を制限できる可能性があるとの報告もあり 8,自験例も同様に輸血量を抑えることができたのではないかと推定する.症例2では診断に加え内視鏡的止血術を完遂でき,さらにはバルーンの再インフレートにより止血が不十分であることがその場で確認できたため再度止血術を追加することで再出血なく1回の治療で終了した.いずれの症例もIABOがなければ得られていない結果である.

消化管出血にIABOを併用した報告は少なく,自験例と同様にIABOを使用し内視鏡的止血術に成功した症例に関してPubMedならびに医学中央雑誌にて「intra-aortic balloon occlusion」または「resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta」,「内視鏡的止血術」,「消化管出血」をキーワードに検索したところ(検索期間1984〜2023年,会議録除く),5例の報告があった(Table 1 9)~11.既報はすべて上部消化管出血への使用であり,下部消化管出血(自験例では直腸潰瘍)に対し併用し内視鏡的止血術に成功した報告はわれわれが初めてである.内視鏡治療にIABOを併用したことで合併症が生じた報告はなく,また,内視鏡とIABOは互いに干渉せず同時並行で手技を行うことができるため,両手技の親和性は高いと思われる.

Table 1 

IABOを併用した内視鏡的止血術の報告.

われわれの経験や既報から,IABOは上述のいくつかの内視鏡による止血困難要因(主に③④)を克服できる可能性が,ひいては診断も含めた内視鏡診療の可能性を拡げられることが示唆された.

しかしながら,消化管出血への使用は現在使用適応外であるため実施前に患者家族への十分な説明を行い同意を得ること,また,可能な限り倫理委員会に諮った上での使用が望ましい.

Ⅳ 結  語

重症消化管出血に対するIABOの併用は,内視鏡診断および治療の質の向上に大きく貢献できる可能性があると考えられた.しかし,IABO併用内視鏡の大規模な検討を行った報告はこれまでなく,症例報告も僅かであるため今後の知見の集積が待たれる.

尚,本論文の一部は第169回日本消化器内視鏡学会東北支部例会(2023年2月,仙台)プレナリーセッションにおいて発表し,優秀演題賞を受賞した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2024 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top