GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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USEFULNESS OF RED DICHROMATIC IMAGING IN ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION
Ai FUJIMOTO Yutaka SAITONaohisa YAHAGI
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2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1307-1317

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要旨

Red dichromatic imaging(RDI)は610nmのアンバー(琥珀)色と640nmの赤色の2つの長波長に狭帯域化した画像強調内視鏡技術である.RDIの2つの長波長はNarrow band imaging(NBI)で観察される血管よりも深い,粘膜深部から粘膜下層に存在する直径500µm以上の比較的太い血管を描出できる.RDIを使用すると,出血のリスクとなる粘膜下層に存在する血管を明瞭に視認できるため,粘膜下層を剝離中の血管損傷を回避することができる.また,出血した場合も,RDIを使用することで出血点を認識しやすく,出血の色も黄色に観察されることから,ストレスなく落ち着いて確実な止血処置が可能である.ESD中のRDIの使用による合併症の報告はなく,安全に使用できる.

Abstract

Red dichromatic imaging (RDI) is an image-enhanced endoscopic technique that uses a narrow bandwidth of two long wavelengths: amber at 610 nm and red at 640 nm. These wavelengths effectively highlight relatively thick blood vessels with diameters of 500 µm or more in the deep mucosa to the submucosa. RDI clearly visualizes blood vessels in the submucosa that are at risk of bleeding, allowing the endoscopist to avoid vascular damage during ESD. In cases where bleeding occurs, RDI makes the bleeding point distinctly recognizable, depicting the bleed in yellow. This feature facilitates reliable and stress-free hemostatic treatment. Notably, there have been no complications associated with the use of RDI during ESD.

Ⅰ はじめに

最新の内視鏡システムであるEVIS X1(オリンパス株式会社,東京)に搭載されているRDI(Red dichromatic imaging)は,粘膜表層から1,000~1,500μmの深さに存在する直径500μm以上の比較的太い血管をアンバー(琥珀)色に視認できる画像強調内視鏡技術(IEE:Image enhanced endoscopy)である.動物実験での検証では,粘膜表層から1,000~1,500μmの深さは,粘膜層の深部から粘膜下層の浅部に相当した(Figure 1 1.現在,RDIは実際の内視鏡診療で広く普及しており,本邦ではEVIS X1に290シリーズ,1200シリーズ,1500シリーズの新しい内視鏡スコープを接続し使用することが可能である.NBI(Narrow band imaging)に次ぐ新規のIEEとしてオリンパス株式会社と慶應義塾大学をはじめとする本邦の医療機関で共同開発されたRDIだが,開発当初はどのような内視鏡診療の場面でRDIの有用性を発揮できるかが十分に把握できず,2013年から2020年頃にかけて260シリーズのプロトタイプの内視鏡スコープを用いて様々な臨床的検証が行われた.

Figure 1 

ブタ胃におけるRDIで視認される血管の病理学的評価.

RDIでは粘膜表層から1,000~1,500µmの深さにある,直径500µm以上の血管が観察できる.

Ⅱ プロトタイプの内視鏡スコープを用いた開発の経緯と臨床的検証

東京医科大学のグループでは,食道静脈瘤の内視鏡的硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)においてRDIを使用することで穿刺成功率が高く,再発率が少ないこと,出血点を視認しやすいため治療時間が短いことを報告した 2),3.食道静脈瘤は粘膜下層に存在する拡張した静脈であり,RDIでは明瞭なアンバー色として認識され,また周囲の食道粘膜が薄い(透けるような)黄色で観察されるため,静脈瘤そのものも明瞭に観察される上に,周囲粘膜とのコントラストも強調される.これはまさにRDIが食道の粘膜下層に存在する比較的太い血管を描出する画像強調イメージングであるという特性を生かしたものである.また,慶應義塾大学や広島大学のグループでは内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の術中出血において,WLIと比較しRDIで観察した場合,出血点を速やかに視認できると考え 4,出血時の施行医師の心理的ストレス軽減効果や止血処置の簡便化に有用である可能性を考え,複数の症例報告や探索的臨床研究の結果を報告した 5)~7.ESD中の止血処置におけるRDIの有用性に関しては,2017年から約2年間,慶應義塾大学を主体とした7施設による多施設共同研究の検証結果が報告されており,詳細を後述する.また,Hirai YらはESD術中出血のみならず,内視鏡的止血術を要した良性潰瘍などの様々な消化管出血病変においてもRDIは出血点を明瞭に視認できる点で止血処置に有用であったことを報告した 8.このようにRDIは様々な内視鏡診療の場面で有用であることが検証され,2020年7月に日本国内で発売されたEVIS X1に搭載された.

Ⅲ ESD中の止血処置におけるRDIの2つの主な有用性

ESD中の止血処置において,RDIによる2つの有用性が考えられる.まず1つ目は通常の白色光(WLI:white light imaging)では赤色に観察される出血が「黄色」に観察される点である.RDIは緑色・アンバー色・赤色の3つの波長に狭帯域化された波長である.緑色の540nmの波長は粘膜表面構造を観察するために残されたもので,610nmのアンバー色と640nmの赤色の長波長が主である.赤色は緊張を与える色であり,例えば救急車両のサイレンや信号機の停止を知らせる色である.ESD術中出血時の止血処置は施行医師にとっては緊張を感じる場面だが,出血の色が赤色から黄色に観察されるだけで,施行医師の緊張感や心理的ストレスが軽減する効果があると考えられる.2つ目は,出血点が明瞭に視認できる点である.安全で確実,かつ速やかな止血処置は,出血点を確認できないと困難である.RDIの2つの長波長は,アンバー色の波長はヘモグロビンに大部分が吸収され,一方赤色の波長はヘモグロビンにほとんど吸収されない.この特性によりヘモグロビン濃度の高い出血点の中心では赤色に近い濃い橙色,ヘモグロビン濃度の低い出血点辺縁ではアンバー色と赤色が混在した黄色に観察されるため,出血点と出血周囲にコントラストが生じ,出血点を明瞭に視認することができる(Figure 2).ESD中の止血処置におけるRDIによる2つの有用性により,ESD中の止血処置時間の短縮,さらにESD施行時間の短縮の可能性が期待され,単施設でのいくつかの探索的臨床研究と,慶應義塾大学を主体とした国内7施設による多施設共同研究が立案された 9

Figure 2 

RDIとWLIによる出血点の観察.

RDIでは出血点が濃い橙色,出血の周囲は黄色に観察され,コントラストにより出血点が明瞭に視認できる(Fujimoto A, et al. DEN 2022より引用).

Ⅳ EVIS X1の発売前に行われた探索的臨床研究と国内多施設前向き研究の結果

RDIが搭載されたオリンパス社の最新内視鏡システムEVIS X1が国内で発売された2020年以前に,RDI機能付きプロトタイプの内視鏡スコープを使用して,広島大学のグループによる研究をはじめとしたいくつかの探索的臨床研究が行われた(当時,RDIを,DRI:dual red imagingと呼んでいたため,論文は「DRI」で検索する必要あり).Ninomiya Yらは,RDIで観察することで,大腸ESD中に粘膜下層内に観察される血管の視認性が良好となり,さらに動脈と静脈を明瞭に区別できることを報告した(Figure 3 10.また,Tanaka Hらは,大腸ESD症例において,豊富な脂肪組織による視野不明瞭な粘膜下層の剝離において,RDIで観察すると視野が改善されることを報告した(Figure 4 6.さらに,Yorita Nらは,胃ESD中の出血時にRDIで観察すると出血点が明瞭に視認できることを報告した 7.その他,少数の症例報告も発表された.

Figure 3 

RDIによる動脈と静脈の観察.

WLI(a)と比較しRDI(b)では粘膜下層を剝離中に遭遇する血管が明瞭に観察される.さらに動脈は黄色に近い明るい橙色,静脈は赤色に近い濃い橙色に観察され,動脈と静脈を区別することができる(Ninomiya Y, et al. Therap Adv Gastroenterol. 2016より引用).オレンジ色の矢印は動脈.

Figure 4 

RDIによる粘膜下層の脂肪組織の観察.

粘膜下層の脂肪組織の沈着は粘膜下層の視野の妨げになる.WLI(a)からRDI(b)に切り替えると,脂肪組織の一部が消失し,粘膜下層が視認しやすくなる.

国内7施設で行われた多施設共同研究の結果について述べる.食道,胃,大腸(直腸を含む)のESD患者303名,1,909回のESD中の止血処置を対象とした.ESD中の出血時にWLIのまま止血処置を行うWLI群(1,049回の止血処置)と,RDIに切り替えて止血処置を行うRDI群(860回の止血処置)の2群に無作為に割り付けた.施設と治療対象臓器を層別化因子とし,主要評価項目はRDI群における止血処置に要する時間(止血時間)の短縮効果,副次的評価項目は,止血処置時の施行医師のストレス軽減効果と治療時間の短縮効果,さらに出血処置に伴う穿孔などの安全性についてWLI群とRDI群の2群間で比較検討した.施行医師のストレスは,「1.なし 2.軽度 3.中等度 4.高度 5.かなり高度」の5段階の主観的評価とした 9.1症例中のナイフ先端による平均止血回数はRDI群で3.09±2.92回,WLI群で4.05±5.17回であり,有意にRDI群で少なかった(p=0.04)(Table 1).研究結果は以下の通りであった 11

Table 1 

登録患者背景.

結果①.1回の止血処置における平均止血時間(主要評価項目):統計学的有意差なし

RDI群は62.3±108.1秒,WLI群は56.2±74.6秒で統計学的有意差はないもののむしろRDI群の方が長かった.デバイス別の検討で,食道ESDと大腸ESDでは止血鉗子を用いた止血処置で,RDI群の止血時間が短かったが,その他のデバイス別や臓器別の検討結果でも2群間で統計学的有意差を認めなかった.また,ESDの経験数別による検討でも2群間で統計学的有意差を認めなかった(Table 23).ESD中の止血処置において,RDIによる止血時間の短縮効果は認めない結果であった.前述のごとく,本研究においてRDI群の止血回数はWLI群と比較し,1症例中約1回程度少なかったことから,自然止血するような少量の出血はRDIで観察すると止血処置が必要な出血として認識されなかった可能性がある.よって,本検討では,RDIで止血処置を行った出血はWLIで止血処置を行った出血と比較し,自然止血が期待できない出血が多く含まれていた可能性を考え,RDIによる止血時間短縮効果が認められなかったと考えた.

Table 2 

臓器別による1回の平均止血時間の検討.

Table 3 

デバイス別・ESD経験数別による1回の平均止血時間の検討.

結果②-1.1回の止血処置時の施行医師の平均ストレススコア(副次的評価項目):RDI群でストレス軽減効果あり

RDI群は1.71±0.93,WLI群は2.03±1.03で,有意にRDI群の方がストレススコアは低かった(p<0.001)(Table 4).デバイス別や臓器別の検討でも,大部分でRDI群のストレスが有意に低かった.出血の色が黄色く観察され,また出血点が視認しやすいことが,ESD中施行医師が緊張を強いられる場面の1つである止血処置において,RDIが施行医師の緊張を和らげる有用な効果があることが分かった.

Table 4 

1回の止血処置におけるストレススコアの平均.

結果②-2.治療時間(副次的評価項目):統計学的有意差なし

治療時間については,2群間に統計学的有意差を認めなかった.止血時間で統計学的有意差を認めず,ESDの治療時間に影響を及ぼす要因は止血処置以外に様々な要因があることから,ESD治療に要する時間全体にもRDIの有用性は認めなかったと考えられた.

結果③.RDIの安全性の評価

術中穿孔はRDI群で2例,WLI群で2例認めたが,いずれも止血処置以外の状況で術中穿孔を来しており,RDIはWLIと同等に安全に使用できると考えられた.

Ⅴ ESDにおけるRDIの新たな知見と有用性

群馬大学のKita Aらは,食道・胃・大腸ESDにおいて,切開や剝離,止血処置などすべてをRDIで施行した群は従来のWLIで施行した群と比較して,剝離のスピードが有意に速かったことを報告した 12),13.RDIで施行したESDの方が,剝離スピードが速かった理由としては,以下の4点があげられている.まず1つ目は,太い血管が明瞭に観察されるため,出血のリスクが高い血管の切断を回避できること,2つ目は,RDIの方が出血点を明瞭に視認できるため,速やかな止血処置が行えること,3つ目は,注入したインジゴカルミンが鮮やかな青色に観察され(Figure 5),正確な粘膜下層の剝離が可能であること,4つ目は,粘膜切開や粘膜下層の剝離を行う前に,血管を避けて局注できることで,局注針の穿刺による出血を回避できること,である.また,筆者らは,粘膜下層に強い線維化を伴う大腸ESDの症例において,プロトタイプの内視鏡スコープを用いてRDIで粘膜下層を剝離した際に,線維化のある粘膜下層と筋層の境界が視認しにくく術中穿孔を来した経験がある.しかし,最新の内視鏡スコープでは画質が良好であるため,線維化症例においてもRDIで安全に粘膜下層の剝離が可能である.慶應義塾大学のMiyazaki Kらからは,RDIにより食道ESD中に血管への穿刺を回避できることから,ESD中の出血回数や血種が有意に少なかったという結果が報告された(Figure 6 14.最近では,Oka Kらは最新の内視鏡装置を使用した胃ESDにおいて,治療中の血管視認性が良好であることを報告している 15.今後も本邦をはじめ海外からもESDにおけるRDIの様々な有用性,有効な使用法が報告されるだろう.

Figure 5 

食道ESD中のRDIによる粘膜下層の観察.

RDIで観察すると,粘膜下層に局注されたインジゴカルミンの青色が非常に鮮やかに視認できるため,筋層とのコントラストが明瞭となり,安全にかつ速やかに剝離することが可能である.

Figure 6 

粘膜切開前のRDIによる血管の観察.

WLI(a)と比較しRDI(b)による食道粘膜の観察では血管(c)が視認しやすく,粘膜切開前の局注針による血種を回避することが可能となる(Miyazaki K, et al. Surgical Endoscopy. 2022より引用).緑色の点線は粘膜切開想定ライン,青色の矢印の部分に血管が存在する.

Ⅵ まとめ

ESDにおけるRDIの有用性は,まず血管が明瞭に視認できることで,不用意な出血を避けることができること,また出血してしまった場合でも,出血点を明瞭に視認でき,さらにストレスなく止血処置ができること,である.

謝 辞

RDIの開発に多大なる貢献をしていただきました,オリンパス株式会社五十嵐誠様,佐々木基内視鏡技師,阿部清一郎先生,布袋屋修先生,野村浩介先生,安田宏先生,松尾康正先生,浦岡俊夫先生,栗林志行先生,辻陽介先生,大木大輔先生,前畑忠輝先生,加藤元彦先生,後藤修先生,落合康利先生,堀井城一朗先生,西澤俊宏先生,平井悠一郎先生,藤城光弘先生,RDIに関する臨床研究に参加していただきました多くの患者様に心より感謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:斎藤 豊(オリンパス(株),オリンパスマーケティング(株))

文 献
 
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