GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SUCCESSFUL ENDOSCOPIC CLIP CLOSURE IN TREATING IATROGENIC ESOPHAGEAL PERFORATION BY SIDE-VIEWING ENDOSCOPY: A CASE REPORT
Tsuyoshi ISHII Shunsuke KOBAYASHITomomi HIRAOKAAi FUJIMOTOTakashi IKEHARATakahisa MATSUDA
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2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1318-1324

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要旨

症例は97歳女性.胆石性胆囊炎を繰り返していた.総胆管結石性胆管炎の診断で入院し,ERCP施行時に内視鏡スコープの挿入操作に伴い,胸部食道右壁側に穿孔を来した.97歳と高齢であり,多数の併存疾患があるため全身麻酔の耐術能が低いと判断し内視鏡的閉鎖術を選択した.穿孔部に対してクリップで間隙なく縫縮し,良好な経過を辿った.20病日に食道造影検査で漏出がないことを確認した後に,内視鏡的結石除去術を施行し38病日に退院した.内視鏡スコープ挿入時に生じた食道穿孔に対して外科手術を行わず,内視鏡的閉鎖術で穿孔部を閉鎖し保存的に経過した1例を経験したので報告する.

Abstract

A 97-year-old woman experienced recurrent episodes of cholelithic cholecystitis and cholangitis resulting from a stone in the common bile duct. She was hospitalized as a result of choledocholithiasis in the common bile duct. The right wall of the esophagus in the middle thoracic region was perforated during insertion of the endoscope for ERCP. We decided to close the perforation endoscopically, considering the infeasibility of a surgery owing to the patientʼs multiple comorbidities and advanced age. The perforation was closed with a clip without any gaps, and the patient showed a favorable outcome.

After confirming the absence of leakage on esophagography, the stone was removed endoscopically, and the patient was discharged from the hospital. We report a case in which esophageal perforation was successfully treated without surgery.

Ⅰ 緒  言

消化管内視鏡検査の安全性はほぼ確立されているが,稀に穿孔を来すことがある.本邦における全国調査報告からは,生検検査を含めた観察のみの内視鏡検査の偶発症発生率は上部消化管内視鏡(EGD)が0.05%に対して,側視型十二指腸内視鏡が0.322%と高く,特に注意が必要であるがそのほとんどは誤ったガイドワイヤー操作や内視鏡的乳頭括約筋切開術に起因するものであり,内視鏡での食道損傷の報告は多くない 1.食道穿孔を来した場合は,縦隔炎などの致死的となりうる病態へ移行する可能性があり 2),3,早期の外科手術が必要となることがある 4),5.しかし,全身麻酔に対する耐術能が低い者に対しては,内視鏡治療を検討する必要がある.今回,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)施行時に内視鏡スコープの挿入操作に伴い発生した,胸部食道右壁側の3cm大の穿孔に対してEZクリップ(オリンパス株式会社,東京)による内視鏡的閉鎖術で保存的治療が可能であった1例を経験した.

Ⅱ 症  例

患者:97歳,女性.

主訴:発熱,嘔吐.

既往歴:認知症,心房細動,慢性心不全,胆囊炎,高血圧.

内服薬:エドキサバン,ランソプラゾール,ニフェジピン,フロセミド,ビソプロロールフマル酸.

現病歴:認知症があり,高齢者施設へ入所中.施設職員の定期巡回時に,衣服に吐瀉物が付着しており,呼びかけに返答がなかったため,救急搬送された.

飲酒歴:なし,喫煙歴:なし.

入院時現症:身長 149cm,体重 56kg.GCS E4 V2 M6,体温 38.7℃,呼吸回数 16回/分,血圧 121/68mmHg,脈拍 81回/分(不整).

眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染なし.腹部は,平坦かつ軟で自発痛,圧痛ともになし.

血液生化学検査所見:WBC 18,600/μL,AST 45IU/L,ALT 32IU/L,ALP 757IU/L,γGTP 91 IU/Lと炎症所見,肝胆道系酵素の軽度上昇を認めた.T-Bilは1.3mg/dLと黄疸はなかった.

腹部コンピュータ断層撮影(CT)所見:下部胆管に総胆管結石を疑う高吸収域を認めた.

臨床経過:入院後第2病日に内視鏡的結石除去術を施行するため側視型十二指腸内視鏡を挿入した際に,強い抵抗を感じた直後に食道粘膜に裂創を認め,縦隔内の結合組織が確認されたため,速やかに内視鏡スコープを抜去した(Figure 1-a).穿孔後に胸部CTを撮影したところ,頸部間隙~縦隔に気腫を認めたため,消化器外科へコンサルトとした(Figure 2).97歳と高齢であり併存疾患も多く,全身麻酔の耐術能が低く外科手術は侵襲度が高いと判断し,内視鏡的閉鎖術を試みることとなった.

Figure 1 

穿孔時の内視鏡像.

a:切歯25-28cmの右壁に30mm大の穿孔所見を認めた.

b:11個のクリップにて縫縮した.

Figure 2 

穿孔後のCT検査.

頸部間隙~縦隔に気腫を認める(黄色矢印).

出血や腸管内容液の漏出を疑う所見はない.

EGD:内視鏡スコープはGIF-H290Z(オリンパス株式会社,東京)を用い,CO2送気下にて検査を開始した.切歯25cmから28cmの右壁に約30mm大の穿孔所見を確認した.処置を行うにあたり,アングル可動域が広く,右から処置具を出せ,吸引力が維持できるため,先端アタッチメントを装着したGIF-2TQ260Mにスコープを変更した.穿孔部のやや肛門側の正常組織にEZクリップ(オリンパス株式会社,東京)をアンカーとしてまず穿孔部位の口径を縮小し,順次肛門側から口側へ向かってEZクリップを追加した.合計11個のEZクリップを用いて穿孔部を間隙なく縫縮した(Figure 1-b).

治療後経過:絶食,点滴管理とし,抗菌薬はMeropenem hydrate 2g/日とVancomycin hydrochloride 500mg/日を投与した.食道管腔ドレナージも検討したが,クリップとの干渉も考慮し行わず,連日の胸部レントゲンや全身状態を慎重に観察し,必要と判断した場合行う方針とした.第3病日に38.3℃の発熱が出現し,第4病日には37.9℃の発熱持続とCRP 15.6mg/dLまで上昇したが,WBC 5,400/μLと白血球の増多は認めなかった.腹痛の訴えや肝胆道系酵素の増悪はなく,胆管炎ではなく穿孔による経過と判断した.縦隔への漏出を確認するために第3病日に胸部CT検査を施行したところ,クリップはすべて残存し,縦隔気腫の拡大はなく,下部食道下端に少量の血腫が出現した(Figure 3-a).胸水は少量であり,穿刺ドレナージはリスクが高いと判断し施行しなかった.第7病日に炎症が改善傾向であり急性期を脱したと判断し,高カロリー輸液を開始するために,末梢挿入中心静脈カテーテルを挿入した.第8病日に胸部CT検査を再検したところ,血腫の増大はなく,気腫は改善傾向であった(Figure 3-b).第20病日には37.2℃まで解熱し,CRP 1mg/dLまで低下した(Figure 4).同日に穿孔部の評価を行うため各種検査を行った.胸部CTでは縦隔気腫・皮下気腫は改善し(Figure 4-c),EGDではEZクリップが残存しており,食道の拡張も問題なかった(Figure 5-a).食道造影では経内視鏡的にアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液を散布し,左側臥位,仰臥位と体位変換したが,縦隔への造影剤の漏出は認めなかった(Figure 5-b).第21病日から経口摂取を再開したが,第28病日から突如37.9℃と発熱し,CRP 4.6 mg/dLと上昇したが,WBC 4,800/μLと上昇はなかった.AST 60IU/L,ALT 41IU/L,ALP 650IU/L,γGTP 105IU/L, T-Bil 1.0mg/dLと黄疸はないが,肝胆道系酵素の再上昇を認めた.総胆管結石性胆管炎が原因と判断し,第30病日に内視鏡的乳頭切開術および総胆管結石除去術を施行し,合併症なく終了した.処置後は36.4℃と解熱し,CRP 0.4mg/dLまで炎症反応も改善し,第38病日に施設へ退院とした.

Figure 3 

術後CT経過.

a(第3病日):縦隔気腫・皮下気腫は残存(黄色矢印),下部食道下端に少量の血腫が出現(赤矢印).

b(第20病日):縦隔気腫・皮下気腫は消失.

Figure 4 

治療経過.

PICC:peripherally inserted central venous catheter

VCM:vancomycin

MEPM:Meropenem

Figure 5 

第20病日の検査結果.

a:内視鏡像,クリップが残存しており,食道の拡張も問題なし.

b:左側臥位,縦隔への漏出仰臥位,縦隔への漏出なし.

Ⅲ 考  察

食道穿孔は医原性,特発性食道破裂,悪性腫瘍があり,多施設コホート研究および系統的レビューでの報告では内視鏡検査・治療による医原性穿孔は60%を占めると報告されている 6.食道穿孔の全死亡率は19%(7-33%)であり,穿孔後24時間を超える治療の遅延は死亡率に影響していたことが報告された 7.食道穿孔は縦隔炎を発症し重症感染症を併発する可能性があり,外科手術が必要になることもある.Gougeらによれば,食道穿孔に対して行った外科手術の治療成績は,単閉鎖の場合の縫合不全と死亡率は39%,25%であり,自家組織被覆の場合は13%,6%と報告されている.術式による死亡率はT-tubeの場合は36%,切除の場合は26%と報告され,侵襲が大きい 8.胸腔鏡による低侵襲手術の報告もあるが 9,施行可能な施設は限られている.食道穿孔の重症度スコア(Pittsburgh Severity Score;PSS)は最高点数が18点であり,75歳以上,頻脈(>100bpm),白血球増加(>10,000/mL),胸水貯留は1点,発熱(>38.5℃),傷からの漏出,呼吸障害,診断までの時間が24時間以上経過は2点,癌の罹患,低血圧(SBP<90mmHg)は3点で評価される.このスコアが2点以下の低リスクであれば保存的治療も許容されるという報告もある 10),11

近年,内視鏡技術やデバイスの発展により,EZクリップや消化管壁全層縫合器Over-The-Scope-Clip(OTSC)システム(センチュリーメディカル株式会社,東京)による内視鏡的閉鎖術や,ステント留置などの保存的治療を選択した報告がある 12.Zimmermannらによる後ろ向き研究では,早期の治療介入が良好な予後因子と報告され,有意差はないものの非手術群の死亡率は低い結果であり,内視鏡的閉鎖術も選択肢となった 13

PubMedおよび医学中央雑誌で“perforation”,“esophagus/esophageal”,“clips”「食道,穿孔,クリップ」をキーワードとして2000~2022年の期間で文献検索したところ,進行食道癌による穿孔を除き,急性の食道穿孔に対して1次治療をクリップによる内視鏡的閉鎖術を行った症例報告は23編25症例であった.中でも内視鏡または経食道心臓超音波による鈍的な医原性穿孔の報告は自験例を含めた6症例であった(Table 1).海外からの報告も多く,報告年も2007年から2021年まで幅広かった.全症例の患者背景は,年齢の中央値は72歳(58-96歳),性別は男性1例,女性5例で,原因はEGDが1例,側視型十二指腸内視鏡が3例,経食道心臓超音波が2例であった.穿孔部位は頸部食道1例(16.7%),胸部食道5例(83.3%)であった.穿孔径の中央値は16.5mmであり,7mmの小穿孔から40mmの大きな穿孔まで含まれた.内視鏡的閉鎖術の方法はOTSC単独が3例,EZクリップなどの従来型クリップ単独が2例,閉鎖術なしの保存加療が1例であった.穿孔径が20mm以上の症例では,クリップ単独が2例で,OTSC単独が1例であった.食道は正面視がしづらく,OTSCは最大径が11mmであるため,穿孔径の大きい場合はクリップの併用が必要となると推察する.全6症例の中で追加治療が必要になった症例はなかった.全症例で外科的治療をせずに治療できており,食道穿孔に対しての内視鏡的閉鎖術は選択肢の一つになりうる.

Table 1 

食道穿孔に内視鏡治療を行った既報告の5例と自験例.

自験例は既報の中で最も高齢で,20mmを超える大きな穿孔であったが,アングル可動域が広く,内視鏡スコープ先端を穿孔部に垂直に接触できることで,確実に穿孔部を縫縮できるGIF-2TMQ 260を使用し,さらに穿孔部の肛門側の正常粘膜にアンカークリップを置くことで穿孔創を縮小することで,クリップ単独で間隙なく縫縮でき,外科手術を回避できた.最後に本症例で中部食道に穿孔が生じた原因としては,高齢による高度の側彎があり,それに伴い食道が強い屈曲を来していたことと推察した.進行方向を直視できない側視型十二指腸内視鏡や経食道心臓超音波は,より慎重な挿入はもちろんだが,直視鏡でのルート確認などが対策として考えられる.

Ⅳ 結  語

内視鏡スコープによる医原性食道穿孔に対してクリップを用いた内視鏡的閉鎖術を施行し,良好な経過を得られた1例を経験した.食道穿孔の標準治療は外科手術だが,全身麻酔の耐術能が低い高齢の患者に対して,内視鏡的閉鎖術にて間隙なく縫縮ができれば保存的治療で救命できる可能性が示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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