GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ADULT IDIOPATHIC INTUSSUSCEPTION AFTER ENDOSCOPIC REDUCTION TREATED WITH SINGLE PORT LAPAROSCOPIC RETROPERITONEAL FIXATION
Yoshifumi WATANABE Hiroki EGUCHINaoto SATORan UTSUNOMIYAKazuhiro MORIMOTOKohei SUGIYAMAHideaki KOGAAkira ISHIKAWATakumi FUKUCHI
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2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1325-1331

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要旨

症例は19歳,男性.右下腹部痛のため当院を受診した.CT検査で上行結腸にtarget signを認め,腸重積症と診断した.腹膜刺激徴候や腸管壁の造影不良はなく,緊急透視下大腸内視鏡検査で重積を整復した.整復3週間後に大腸内視鏡検査を再度行い,器質的疾患がないことを確認し,盲腸結腸型の成人特発性腸重積症と術前診断した.再発予防に単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行し,術後11カ月で再発なく経過している.成人腸重積症の原因で特発性は稀であるが,腸管壊死の所見がない場合は特発性を念頭に置いて,腸切除の回避目的に内視鏡的整復を積極的に試行し,重積による粘膜傷害の改善後に十分な腸管精査を行うことが重要である.

Abstract

A 19-year-old man presented to our department with right lower abdominal pain. CT revealed a target sign in the ascending colon, indicative of intussusception. Given the absence of peritonitis and CT findings showing contrast enhancement of the intussuscepted colonic wall, emergency radioscopic colonoscopy was performed to reduce the intussusception. Following three weeks of treatment, a second colonoscopy was conducted to confirm the absence of any other underlying pathology. A preoperative diagnosis of adult idiopathic intussusception was established, with the cecum identified as the lead point invaginating into the ascending colon. Subsequently, a single port laparoscopic retroperitoneal fixation was performed to prevent recurrence. The patient has remained free of recurrence for 11 months post-surgery. While idiopathic intussusception is uncommon in adults, endoscopic reduction should be considered to avoid intestinal resection, which results in excessive surgical intervention, particularly in cases without signs of intestinal necrosis. It is important to conduct a thorough examination of the intestinal tract via a second colonoscopy prior to surgical intervention to identify any underlying causes of intussusception.

Ⅰ 緒  言

腸重積は腸管の一部が先進部となり,腸蠕動とともに肛門側の腸管内腔へ嵌入し,血流障害や通過障害をきたす.原因となる腸重積の先進部病変により治療法は異なるが,血流障害のため腸管を十分に精査できないまま緊急手術が選択されることも多い 1)~7.緊急手術では腫瘍性病変が否定しきれず,特発性腸重積症にも腸管切除術が施行されることがある 1)~8

今回,われわれは盲腸結腸型の成人特発性腸重積症に対して大腸内視鏡で整復後,器質的疾患を除外し,待機的に単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行した症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:19歳,男性.

主訴:右下腹部痛.

既往歴・家族歴:特記事項なし.

現病歴:受診12時間前より右下腹部に間欠痛が出現した.症状が増悪するため,当院救急外来を受診した.

初診時現症:身長172cm,体重64.1kg,BMI 21.7kg/m2,体温36.4℃,血圧123/63mmHg,脈拍67/分,整.腹部は平坦,軟,右下腹部に限局した圧痛を認めたが,反跳痛や筋性防御はなかった.腫瘤を触知せず.直腸診で血便は認めなかった.

血液生化学検査:WBC 12,200/μL,Hb 13.3g/dL,Plt 22.8×104/μL,LDH 155U/L,CK 47U/L,CRP 0.06mg/dLであった.

腹部CT検査:上行結腸に同心円状の多層構造を呈するtarget signを認めた(Figure 1-a 矢頭).重積部の腸管壁の造影不良はなく,原因となり得る器質的病変も認めなかった(Figure 1-b 矢頭).近傍の口側小腸にsmall bowel feces signを認め,胃も食物残渣が充満し拡張していた.

Figure 1 

腹部CT検査.

a:上行結腸に同心円状の多層構造を呈するtarget signを認める(矢頭).

b:重積部に腸管壁の造影不良はなく,原因となり得る器質的病変も認められない(矢頭).

以上より,盲腸から上行結腸の腸重積症と診断した.腸管壊死を疑う所見がないため,重積の整復ならびに先進部病変の精査目的に前処置をせず緊急透視下大腸内視鏡検査を入院当日に行った.

上行結腸に重積先進部の発赤浮腫状粘膜を認めた(Figure 2-a).ガストログラフィン造影では蟹爪様の陰影欠損があり,重積先進部は肝彎曲部に達していた(Figure 2-b).二酸化炭素での送気を行いながら深部挿入を慎重に行い,重積を整復した(Figure 2-c,d).回腸粘膜は内視鏡所見に異常なく,盲腸から上行結腸にかけて浮腫やびらんを伴う発赤粘膜を認めたため,重積先進部は盲腸と判断した.盲腸に粗大な腫瘍性病変は認めなかったが,腸管浮腫や粘膜傷害のため正確な内視鏡診断は困難であった(Figure 2-c).盲腸の粘膜生検では上皮の脱落や腺管立ち枯れ像,炎症細胞の浸潤を認めた.

Figure 2 

透視下大腸内視鏡検査.

a:上行結腸に重積先進部の発赤浮腫状粘膜を認める.

b:ガストログラフィン造影で蟹爪様の陰影欠損があり,重積先進部は肝彎曲部に達する.

c:重積整復後.盲腸から上行結腸にかけて浮腫やびらんを伴う発赤粘膜を認める.粗大な腫瘍性病変は認めないが,腸管浮腫や粘膜傷害のため正確な内視鏡診断は困難である(矢頭:回盲弁).

d:重積整復後.内視鏡が盲腸まで深部挿入され,重積による陰影欠損が消失したことが確認できる.

腸重積整復後に腹部症状は速やかに消失し,再燃なく処置後3日目に退院となった.重積による腸管の粘膜傷害が改善されたと思われる3週間後に改めて大腸内視鏡検査を行い,器質的疾患がないことを確認した(Figure 3).これらの検査結果より,腸重積の原因は盲腸の後腹膜固定不良と考えられた.再発予防に後腹膜固定術が選択されることがあるが現時点では再発を確実に減少させる十分な根拠はないと説明した上で本人・家族が手術を希望されたため,腸重積整復2カ月後に単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行した.腹腔内所見では術前診断通り,盲腸から上行結腸まで後腹膜への固定が不良であったが,他の異常所見は認めなかった.盲腸ならびに上行結腸を後腹膜に計3針で縫合固定した(Figure 4 矢頭).虫垂は合併切除し,粘液腫などの腫瘍性病変がないことを確認した.手術は臍部に3cmの切開創のみで行うことができた.術後は合併症なく経過し,術後3日目に退院となった.現在術後11カ月目で再発なく経過している.

Figure 3 

整復3週間後の大腸内視鏡検査.

盲腸から上行結腸に腸重積先進部の原因となる器質的疾患がないことが確認できる.

Figure 4 

手術所見.

盲腸から上行結腸まで後腹膜への固定が不良であり,盲腸ならびに上行結腸を後腹膜に計3針で縫合固定した(矢頭:縫合固定部,A:ascending colon,C:cecum,I:ileum).

Ⅲ 考  察

腸重積は2歳までの小児に発症することがほとんどであり,成人での発症は腸重積全体の5-14.3%と稀である 9),10.成人腸重積症の症状は腹痛,嘔気嘔吐,腹部膨満などの腸閉塞症状が多く,血便の頻度は少ない 9.CT検査,超音波検査,注腸造影検査で腸重積と診断されるが,なかでもCTの感度は78%であり,診断に大きく寄与している 9.重積部では遠位腸管の内腔に嵌入腸管の腸間膜脂肪織がみられ層構造状となるため,短軸像では同心円状のtarget sign,長軸像ではpseudokidney signを呈する 11.重積の発生部により小腸型,回盲部型,大腸型に分類され,頻度はそれぞれ20.0%,52.5%,27.5%である 12.回盲部型は小腸由来の回腸結腸型,バウヒン弁や盲腸,虫垂といった大腸由来の盲腸結腸型に亜分類される 10),13.小腸が重積の先進部として多く,盲腸結腸型は6-28%である 14),15.自験例はCT検査で典型的なtarget signが得られ,腸重積症の診断は容易であった.内視鏡的整復時に盲腸は粘膜傷害を認めたが,回腸粘膜には異常所見がなかったため,重積先進部は盲腸と診断した.

腸重積の原因として,小児ではウイルスの先行感染によるPayer板の肥厚やリンパ濾胞の増殖が誘因となる可能性が指摘されているが,90%は特発性である 16.一方で,成人腸重積では約90%の症例で腫瘍を主とした器質的疾患が原因となる 9.そのうち,大腸癌やリンパ腫などの悪性腫瘍が40- 46%と最も多く,脂肪腫などの良性腫瘍が30%,Meckel憩室などの非腫瘍性病変も原因となり得る 9),12),14),17),18.特発性は12%と比較的稀である 14.成人特発性腸重積症は,腸管の後腹膜固定と関連しており,盲腸が後腹膜に固定され小腸が先進部となる回腸結腸型に対し,盲腸結腸型は移動盲腸が存在することが示唆されている 13.加えて,限局性に腸管輪状筋が痙攣性収縮することが発生機序として考えられている 19.自験例は透視下大腸内視鏡検査や合併切除した虫垂の病理組織学的検査で器質的疾患を認めなかったことから,移動盲腸を背景とした盲腸結腸型の特発性腸重積症と考えられた.

成人腸重積症の治療では先進部の部位と原因の2点を診断することが重要である.先進部が小腸の場合,ダブルバルーン内視鏡を用いた整復も報告されるが,技術的難易度が高く設備の揃った施設も限られているため,一般的には手術が選択される 20.盲腸を含めた大腸が先進部の場合は自験例のように大腸内視鏡で整復できる可能性があり,患者の全身状態が良好で腸管壊死を疑う所見がない場合は積極的に検討するべきと考える.腸重積の原因として,特発性と腫瘍性病変が存在する場合では治療の侵襲度が大きく異なるため,重積の整復のみでなく,先進部病変の内視鏡精査ならびに診断が非常に重要である.腸重積の原因が癌の場合はリンパ節郭清を伴う腸切除が必須であるが,脂肪腫などの良性腫瘍であればリンパ節郭清は不要で最小限の腸管切除で十分である.さらに,特発性の場合は腸管切除も不要となり,腸重積の再発予防に後腹膜固定術のみ行われることがある 21.従って,内視鏡で重積先進部の精査が十分に行われない場合,over surgeryにつながる可能性がある 1)~8.自験例では盲腸結腸型の腸重積とCT検査より推測し,内視鏡的整復で緊急手術を回避した.また,術前に腸管を十分に精査できたことにより,特発性腸重積症に対して最小限の侵襲で単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行することができた.

成人特発性腸重積症の整復後の再発予防について現時点で治療指針は定まっていない.小児腸重積症のガイドラインでは腸重積整復後の再発率は約10%で,固定手術に再発を予防する十分な根拠はないとされる 16.しかし,結腸固定不良を対象としていない点や腸管の固定箇所などの手術内容が自験例とは異なっており,小児のガイドラインをそのまま成人例に当てはめることはできない.結腸固定不良を背景とした成人特発性腸重積症に対して後腹膜固定術は治療の選択肢として挙げられるが,稀な疾患であるため今後の症例集積と検討が必要である.

医学中央雑誌で2023年3月までの期間で「成人」,「特発性腸重積」をキーワードに検索し(会議録を除く),盲腸結腸型で治療経過の記載があった文献のみを集積したところ,盲腸結腸型の成人特発性腸重積症は17例のみであった(Table 1 1)~8),21)~29.自験例を含めた18例の検討では,平均年齢40歳,男女比は11対7と男性に多かった.治療は緊急手術が72%(13/18例)を占め,腸管切除術が最も多く,77%(14/18例)に施行されていた.腸重積が整復できないため腸切除が選択されることもあるが,術中の腸管検索では血流障害による腸管浮腫や壁肥厚のため,漿膜面から視触診しても腫瘍性病変の可能性を十分に否定するのが困難であったことに起因した症例も多く報告されていた 1)~8),25),26),28.腸管を切除せず,後腹膜固定術を施行した症例は自験例を含め3例のみであった 21),24.術前に腸重積の整復目的に注腸造影検査が3例,大腸内視鏡検査が6例に施行されていた 5),6),8),22),26),28),29.そのうち,内視鏡的整復できた症例は4例あったが,2例は当日もしくは翌日に再発し手術となっていた 28),29

Table 1 

盲腸結腸型の成人特発性腸重積症の本邦報告例.

再発は透視を併用しなかった症例と手術時に漿膜面の癒着が確認された症例に生じていた 28),29.重積腸管は浮腫により虫垂口の視認が難しく内視鏡のみでは不足なく整復できたことを確認しづらいため,透視下で腸管形態が完全に戻っていることを確認することが必要と考えられた.また,整復後も癒着が原因となり再発をきたす可能性が示唆された.内視鏡で整復され待機的手術となった症例においても,重積によるうっ血,浮腫をきたしたバウヒン弁を粘膜下腫瘍と術前診断され,回盲部切除術が施行されていた 26.整復時は血流障害による腸管粘膜傷害のため正確な内視鏡診断が困難となる可能性が示唆された.自験例が腸重積を内視鏡的整復し,腸管精査を行った後で待機的に腹腔鏡下後腹膜固定術を施行できた初めての報告であった.盲腸結腸型の成人特発性腸重積症は,重積した腸管に壊死の所見がなければ,内視鏡的整復を最初に検討すべきと考えられた.また,整復できた場合は重積による粘膜傷害が改善した後に器質的疾患を除外し,待機的に後腹膜固定術を施行することも選択肢の一つである.

Ⅳ 結  語

今回われわれは,内視鏡下に整復し術前に器質的疾患を除外後,待機的に単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行した成人特発性腸重積症の症例を経験した.結腸を先進部とする腸重積では特発性も念頭に置き,過大な手術侵襲となる腸切除を回避するため,腸管壊死を疑う所見がない場合は内視鏡で積極的に整復を行うべきであると考えられた.また,腸重積による粘膜傷害の改善が得られた後,術前に十分な腸管精査をすることが肝要である.

本論文の要旨は,第239回日本内科学会近畿地方会(2023年3月大阪)にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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