2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1339-1343
症例は66歳男性.健康診断にて便潜血反応陽性を認め,大腸内視鏡検査を施行した.全大腸に多発するポリープを認め,後日内視鏡治療の方針となった.治療施行時,上行結腸の2つの有茎性ポリープが絡み合う状態で認められた.両ポリープとも疎血状態で色調は暗紫色を呈し,また茎部は強く牽引されていた.穿孔のリスクを考慮し,観察のみで終了として,外科的切除の方針とした.術前マーキング目的に内視鏡を挿入したところ,両病変は茎部の潰瘍を残し脱落していた.全経過を通して腹部症状は認めず,下血や腫瘍排出は確認されなかった.本例は2病変同時に脱落した大腸ポリープを内視鏡で経時的に観察しえた極めて貴重な症例であると考えられる.
A man in his 60s presented with a positive fecal occult blood test during a health checkup. He underwent lower gastrointestinal endoscopy, revealing multiple polyps distributed throughout his entire large intestine. This led to the decision for endoscopic treatment. During the procedure, two pedunculated polyps were found entangled in the ascending colon. Both polyps displayed signs of ischemia, appearing dark purple, and the pedicles were under tension. Considering the potential risk of perforation, the procedure was ceased after observation-only, and surgical resection was deemed necessary. Subsequently, while conducting preoperative marking with an endoscope, both lesions had spontaneously detached, resulting in ulcers on the pedicles. No abdominal symptoms were observed throughout the disease course, and no melena or tumor excretion was confirmed. This case represents a rare and valuable instance of the simultaneous dislodgement of two colonic polyps observed over time with an endoscope.
単発の大腸ポリープの偶発的な脱落と推定された症例は過去に報告例がある 1)~8)が,2病変の大腸ポリープが偶発的に脱落し,かつ,その経過を内視鏡で経時的に観察した報告はない.今回われわれは2病変の大腸ポリープが偶発的に絡まり脱落した症例を経験したので報告する.
症例:66歳 男性.
主訴:なし.
既往歴:糖尿病性腎症,高血圧,脳梗塞,糖尿病.
現病歴:健康診断にて便潜血反応陽性を認めたため,大腸内視鏡を施行した.全大腸に多発するポリープを認め,1週間後に内視鏡治療の方針となった.
入院時現症:身長170cm,体重51.6kg,BMI 17.85kg/cm2,腹部:平坦・軟,腸蠕動音正常,圧痛なし.
入院時血液検査所見:WBC 4.13×103/uL,RBC 2.87×106/uL,Hb 11.2g/dL,Hct 33.2%,Plt 124×103/uL,TP 6.1g/dL,Alb 3.3g/dL,T-Bil 0.8mg/dL,AST 29IU/L,ALT 14IU/L,LDH 237IU/L,γGTP 127IU/L,ALP 361IU/L,BUN 23.5mg/dL,Cre 4.87mg/dL,eGFR 10.36mL/min,Na 135 mEq/L,K 3.3mEq/L,CRP 1.155mg/dL,HbA1c 5.6%,低栄養,糖尿病性腎症による腎機能障害,腫瘍マーカーは陰性であった.
初回大腸内視鏡検査(Figure 1):上行結腸に1ヒダほど離れて2カ所に大きさ15mm程度の有茎性ポリープを認めた.前処置不良のため詳細観察は困難であったが,ポリープの頭部に緊満感や陥凹は認めず,茎部への浸潤を疑う硬さも認めなかったため,腺腫ないし腺腫内癌(粘膜内癌)と判断した.しかし,茎の太さから出血リスクを考慮し,後日改めて内視鏡治療を行う方針とした.また,その他にも全大腸に多発ポリープと多発大腸憩室を認めた.

初回の大腸内視鏡検査.
上行結腸に1ヒダほど離れて大きさ15mm程度の有茎性ポリープが2カ所あるのが確認された(矢印).
後日の内視鏡治療予定時の内視鏡検査(Figure 2)では,上行結腸の2つのポリープが互いに絡まり,茎部は強く牽引され,頭部は壊死していた.基部は潰瘍を形成し,一部粘膜下組織の露出を伴っていた.筋層の露出も否定できないため内視鏡治療はリスクが高いと判断し,中止とした.

内視鏡治療予定時の大腸内視鏡検査.
2つの有茎性ポリープが互いに茎部で絡まっていた(矢印),頭部は壊死していた.
以上の所見より,外科と協議の上,外科的切除の方針となり,5日後に術前マーキング目的に内視鏡を再度施行したところ,2つのポリープは脱落し,潰瘍とポリープ茎部の壊死残存を認めるのみとなっていた(Figure 3).そのため,外科手術は中止とした.経過中にポリープの排出や血便は確認できなかった.

5日後の大腸内視鏡検査.
2つのポリープは脱落し,潰瘍と一方のポリープの茎部の壊死残存を認めるのみとなっていた(矢印).
2カ月後の大腸内視鏡検査(Figure 4)では,ポリープ脱落部は瘢痕化しており,遺残は認めなかった.

2カ月後の大腸内視鏡検査.
ポリープ脱落部は瘢痕化していた(矢印).
消化管腫瘍の偶発的な脱落は比較的稀な病態であり,1968年に井上ら 9)が脱落した胃病変を報告後,消化管腫瘍の脱落例がいくつか報告されている.医学中央雑誌にて1974年から2021年で検索しえた大腸ポリープの脱落に関する原著論文は9例報告されており,表にまとめた(Table 1).病変の大きさは15-60mmと大きなものが多く,有茎性病変が多数を占めていた.症状としては血便や便潜血を契機に指摘されていることが多く,結腸内の局在に大きな偏りは認められなかった.明らかな性差や年齢差も認めなかった.組織学的内訳は,腺癌4例,腺腫1例,不明2例,Group1が1例,良性1例であった.合併疾患としては,1例に糖尿病を認めるも,その他症例には合併疾患は認めなかった.

自然脱落した大腸ポリープ(単発)9例の報告.
大腸ポリープの脱落原因として,丹羽ら 8)は,①発育に伴う相対的虚血,②下剤などによる腸蠕動亢進に伴う物理的刺激,③腫瘍頸部の捻転,牽引に伴う虚血を挙げている.過去の報告はいずれも単発病変であるが,本症例は偶然近傍にあった2病変が腸蠕動や下剤による刺激によって偶発的に絡み合い,捻転,強く牽引されることによって虚血となり,脱落に至ったと推定された.また2病変が絡み合った要因には,上記の脱落原因の他に患者側の要因として,人工透析を必要とする糖尿病性腎症や脳梗塞などの合併症やBMI 17kg/cm2,Alb 3.3g/dLと低栄養であるなど,粘膜や血管の脆弱性があった可能性も推測され,これらが複合的に合わさることで脱落に至る条件が揃ったのではと推測された.本症例のように2病変が同時に脱落した報告は過去にはなく,ポリープ脱落の過程を内視鏡で経時的に観察しえた貴重な症例であると考えられた.
自然脱落により最終病理診断が行えない場合は経過観察もしくは追加外科的切除を行うか診療方針の選択が必要となる.自然脱落例では有茎性病変であっても腫瘍径が大きい病変が多いことから,深部浸潤癌の可能性は否定できない.このため術前診断が可能な場合はその所見が大切である.東風らの症例のように,進行癌の診断でも脱落し追加手術をせずに36カ月間無再発であった報告もあるが,このような例は稀であると思われ,脱落前の観察で深部浸潤癌が疑われる場合や,脱落後に残存病変を認める場合には,生検なども含めた病変部の再評価を行い,患者の耐術能や併存症も考慮し,追加外科的切除の可否を検討する必要があると考える.本症例では,脱落前に腺腫もしくは腺腫内癌と診断していること,肉眼的な病変遺残を認めなかったことから経過観察の方針とした.松川ら 10)の報告のように,自然脱落の2年後に同一部位に良性ポリープの再発をきたした例もあり,悪性所見に乏しい病変や癌を疑うも深部浸潤所見なく脱落後に内視鏡的遺残を認めない場合であっても,経過観察は行う必要があると考える.
大腸ポリープ2病変が偶発的に絡まり脱落した症例を経験した.ポリープ脱落の過程を内視鏡で経時的に観察しえた貴重な症例と考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし