GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1344-1345

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【症例】

患者:90歳,女性.

主訴:上腹部痛,悪寒戦慄.

既往歴:急性胆囊炎(60歳,胆囊摘出術後).

現病歴:3日間続く上腹部痛と悪寒戦慄を主訴に受診.血液検査でアミラーゼ(3,234U/L)とCRP(4.92mg/dL)の上昇,単純CTで膵尾部に軽度腫大,周囲の脂肪織濃度上昇を認め,急性膵炎と診断し,保存的治療を開始した.造影CT,magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP)では軽度の胆管拡張を認めたが,膵炎の原因は特定できなかった(Figure 1電子動画 1).初期治療に良好な反応を示したが,以後,1カ月間に膵炎を2度繰り返した.その都度,保存的加療を行ったが,症状改善後もアミラーゼは正常上限の1.5-2倍程度を推移していた.原因精査として超音波内視鏡検査(EUS)を実施し,Vater乳頭近傍の十二指腸壁内に8mm程度の囊胞性病変を認めた.十二指腸固有筋層を介して総胆管との連続性を認めたためcholedochoceleと診断した(Figure 2電子動画 1).内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)にて膵管造影を行うと,膵管から囊腫を介して胆管まで連続的に造影され,乳頭口側の囊腫に膨隆所見も認めた.共通管形成型choledochoceleが膵炎の原因と判断し,sphincterotomeを用いて内視鏡的乳頭切開術に次いで,囊腫の開窓術を施行し,胆管膵管の分流を行った(電子動画 2).分流後に採取した胆汁中のアミラーゼ値は14,825U/Lと上昇を認めた.術後,腹部症状は消失し,アミラーゼは正常値に改善した.また術後1年,膵炎の再発や十二指腸乳頭部に悪性化を示唆する所見は認めていない.

Figure 1 

造影CT(冠状断):総胆管(黄矢印)に軽度の拡張を認めるが,膵頭部主膵管(赤矢印)には明らかな異常所見を認めない.

電子動画 1

Figure 2 

EUSでは十二指腸壁内に囊腫(赤矢印)を認め,十二指腸固有筋層(黄矢印)を介して,総胆管(青矢印)の連続性が確認された.

電子動画 2

【考察】

Choledochoceleは,戸谷分類のⅢ型 1に相当する胆道拡張症の一亜型であり,神澤らがさらに3群に分類している 2.この内,本症例にも該当する共通管形成型choledochoceleは膵液・胆汁の相互逆流を来すため急性膵炎や,胆道疾患等のリスク因子とされており,急性膵炎の合併頻度は17-29%と報告されている 3.Choledochoceleの成因は先天性だけでなく,膵胆道接合部異常やOddi括約筋の機能不全に伴う胆道系への潜在性膵液逆流がもたらす胆管壁の脆弱化,胆囊摘出術後の胆管内圧上昇などの素因による後天的形成も報告されている 4),5.本症例では胆囊摘出術後の胆管内圧上昇がcholedochocele形成に影響したと推測する.

Choledochoceleは以前は特発性急性膵炎の一因とされていたが 6,画像検査の進歩に伴い現在では診断される症例が多くなっている.診断にはCT,MRI,ERCPが有用とされている 5.CT,MRIの感度・特異度はそれぞれ70-90%以上 5と良好ではあるが,本症例のように囊腫径が比較的小さい,ないしは撮影時の囊腫虚脱などの影響で3mmスライス厚のCT画像でも診断できないものや,検査時の呼吸性変動の問題でCTやMRIでは指摘困難な症例も存在すると推測する.Choledochoceleに伴う急性膵炎は,繰り返すことも特徴の1つとされており 6,本症例のように原因不明の膵炎や反復性の膵炎では,choledochoceleなどの乳頭部疾患も念頭に,原因精査として小病変の描出に優れるEUSを実施すべきである.

*本論文は第65回日本消化器内視鏡学会東海支部例会で発表した「EUSで診断したcholedochoceleに伴う急性膵炎の1例」を論文化した内容となります.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画 1 CT,MRCP,EUS:造影CTでは胆囊摘出術後の影響と推測される総胆管拡張は認めたが,膵炎の原因となりうる異常所見は指摘できなかった.また膵実質の造影不良域や石灰化,腫瘤形成などの異常所見も指摘できなかった.MRCPもCTと同様に総胆管の軽度拡張は認めたが,胆管・膵管の走行異常は認めなかった.EUSにて十二指腸球部から下行部にかけて総胆管を乳頭側へ観察すると8mm程度の囊胞性病変を認めた.同病変は十二指腸壁内に存在し,十二指腸固有筋層を介して総胆管との連続性が確認された.

電子動画 2 ERCP:内視鏡観察にてVater乳頭口側にcholedochoceleと推測される粘膜下隆起を認めた.膵管造影にて膵管,囊腫,総胆管の連続性を確認し,また造影前後で囊腫部の膨隆所見も確認された.囊腫より中枢側への胆管挿管は困難であったため,sphincterotomeを直接囊腫内へ挿入し,内視鏡的乳頭切開術に次いで囊腫の開窓術を施行し,胆管・膵管の分流を行った.その後の胆管造影では膵管への造影剤流入は認めなかった.なお,開窓術後の囊腫壁内は熱変性のため詳細な観察は困難であったが,先立って施行したEUSにて囊腫壁,総胆管壁,膵管壁に悪性化を示唆する所見は指摘できなかったため生検は実施しなかった.

文 献
 
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