GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CLINICAL FACTORS ASSOCIATED WITH NONCURATIVE ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION FOR THE EXPANDED INDICATION OF INTESTINAL-TYPE EARLY GASTRIC CANCER: POST HOC ANALYSIS OF A MULTI-INSTITUTIONAL, SINGLE-ARM, CONFIRMATORY TRIAL(JCOG0607)
Tomohiro KADOTA Noriaki HASUIKEHiroyuki ONONarikazu BOKUJunki MIZUSAWAIchiro ODATsuneo OYAMAYusuke HORIUCHIKingo HIRASAWAToshiyuki YOSHIOKeiko MINASHIKohei TAKIZAWAKenichi NAKAMURAManabu MUTO
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2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1366-1376

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要旨

【目的】早期胃癌の中で,リンパ節転移の可能性が極めて低い,潰瘍および潰瘍瘢痕のない2cmを超える分化型T1a(M)癌(cUL陰性群),および潰瘍もしくは潰瘍瘢痕のある3cm以下の分化型T1a(M)癌(cUL陽性群)の両者を対象とした,早期胃癌におけるESDの適応拡大病変に対する非ランダム化検証的試験(JCOG0607)において,良好な有効性が示された.しかしながら,ESD後に追加手術を要するような非治癒切除の割合が32.4%と高い結果であった.本副次的解析の目的は,ESD後非治癒切除に関連する因子を探索的に検討することである.

【方法】ESD適応拡大病変には,2cmを超えるcUL陰性群と,3cm以下のcUL陽性群の異なる2群が含まれていたため,それぞれについて対数線形モデルを用いてESD後非治癒切除の関連因子を検討した.

【結果】cUL陰性群の260例とcUL陽性群の206例の早期胃癌を解析した.ESD後に非治癒切除となった割合は,cUL陰性群で33.8%,cUL陽性群で29.6%であった.多変量解析において,cUL陰性群では治療前の生検の組織診断での中分化型(リスク比:1.93,95%信頼区間:1.34-2.77,P値≦0.001),およびU領域(リスク比:1.75,95%信頼区間:1.03-2.96,P値=0.038)が独立したESD後非治癒切除の関連因子として抽出され,cUL陽性群では2cmを超える(リスク比:1.78,95%信頼区間:1.22-2.58,P値=0.003),および女性(リスク比:1.62,95%信頼区間:1.07-2.44,P値=0.021)が独立したESD後非治癒切除の関連因子として抽出された.

【結論】ESD後非治癒切除の関連因子は,cUL陰性群とcUL陽性群で異なっていた.ESD後の非治癒切除を避けるため,ESD適応拡大病変への治療を決定する際にこれらの要因を考慮する必要がある.

Abstract

Objectives: The multi-institutional, single-arm, confirmatory trial JCOG0607 showed excellent efficacy of endoscopic submucosal dissection (ESD) for the expanded indication of intramucosal intestinal-type early gastric cancer (EGC), which consists of two groups: lesions >2 cm if clinical finding of ulcer(cUL)-negative, or those ≤3 cm if cUL-positive because of the expected low risk of lymph node metastasis. However, the proportion of noncurative resections (NCR) requiring additional surgery was high (32.4%). This post hoc analysis aimed to explore the clinical factors associated with NCR.

Methods: As the expanded indication includes two different groups, we explored the clinical factors associated with NCR separately in cUL-negative (>2 cm) and cUL-positive (≤3 cm) groups using the log-linear model.

Results: Two hundred and sixty cUL-negative and 206 cUL-positive EGCs were analyzed. The proportions of NCR were 33.8% in the cUL-negative group and 29.6% in the cUL-positive group. A multivariable analysis demonstrated that moderately differentiated predominant histology diagnosed in pretreatment biopsy (risk ratio [RR] 1.93, 95% confidence interval [CI] 1.34-2.77, P < 0.001) and lesion in the upper stomach (RR 1.75, 95% CI 1.03-2.96, P = 0.038) in the cUL-negative EGCs, and tumor size >2 cm (RR 1.78, 95% CI 1.22-2.58, P = 0.003) and female sex (RR 1.62, 95% CI 1.07-2.44, P = 0.021) in the cUL-positive EGCs were independent factors associated with NCR.

Conclusions: Clinical risk factors associated with NCR were different between cUL-negative and cUL-positive EGCs. To avoid NCR, we need to take these factors into account when deciding expanded indications for ESD.

Ⅰ 背  景

胃癌は世界で4番目に多いがんである.近年,日本と韓国を代表とする全国的な検診制度のおかげで,胃癌は早期に発見されることが多くなった 1),2.内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,リンパ節転移のリスクが低い早期胃癌に適応されている.

当初,早期胃癌に対するESDの適応は,臨床的に粘膜内(cT1a)癌で,分化型,大きさが2cm未満,かつ潰瘍の内視鏡所見を伴わないもの(cUL陰性)に限定していた.その後,リンパ節転移のリスクが外科的に切除された標本を使用した後ろ向き研究から潰瘍および潰瘍瘢痕のない2cmを超える分化型T1a(M)癌(cUL陰性群),および潰瘍もしくは潰瘍瘢痕のある3cm以下の分化型T1a(M)癌(cUL陽性群)の2群がリンパ節転移のリスクが1%未満であることが判明したため,ESD適応拡大の対象となり得ることが報告された 3

その後,多施設の単群検証的試験(JCOG0607)が実施され,これらの2群の分化型早期胃癌に対するESDの良好な有効性・安全性が示された 4.JCOG0607の結果を踏まえて,日本胃癌学会からの胃癌治療ガイドライン(2018年版)で早期胃癌に対するESDの適応が拡大された 5.しかし,JCOG0607において,ESD後に追加手術を必要とした非治癒的切除(non-curative resection:NCR)の割合は32.4%であった.

NCRの定義は,腫瘍の大きさ,組織学的分化度,ULの有無,腫瘍の深達度などの様々な要素で構成されている.さらに,過去の複数の報告において,腫瘍の大きさ 6),7,組織学的分化度 8),9,腫瘍深達度 10)~12などでESD前の臨床診断とESD後の病理学的診断の間に不一致があることが示されている.Kim JMらは,早期胃癌の臨床所見のうち20.1%(148/737)がESD後の最終的な病理学的診断と一致しなかったと報告している 13.ESDの適応が拡大すると,ESD前の臨床診断とESD後の病理学的診断の不一致割合が増加してNCRの割合が増加することが懸念されている.

追加の手術が必要なNCRとなる病変を減らすために,ESDの適応を決定する際には臨床的な危険因子に注意を払うことが重要である.しかし,分化型早期胃癌の適応拡大病変におけるESD後のNCRに関連する臨床因子についての報告はない.本副次的解析の目的は,JCOG0607のデータを利用して,分化型早期胃癌の適応拡大病変におけるESD後のNCRに関連する臨床因子を調査することである.

Ⅱ 方  法

JCOG0607の要約

JCOG0607は,適応拡大規準を満たす分化型早期胃癌に対するESDの有効性と安全性を評価する多施設の単群検証的試験である 4.JCOG0607の主な適格規準は報告されている 4.主要評価項目は,ITT(intention to treat)解析におけるESD後の5年全生存割合(overall survival:OS)であった.JCOG0607の研究計画書はすべての参加施設の倫理審査委員会によって承認された.データの二次使用については,全登録患者から登録前に説明同意が得られた.この研究はUMIN-CTRに登録されている(UMIN000000737).

本研究の対象,および治癒切除の定義

この研究の解析のために,われわれはJCOG0607からデータを抽出した.JCOG0607に登録された470人の患者のうち,一括切除が行われなかった4人の患者が除外された.最終的に466人の患者(cUL陰性群の260人,cUL陽性群の206人)がこの副次的解析に含まれた.

JCOG0607では,内視鏡的に一括切除された標本の病理組織学的評価に基づいて,NCRまたは完全治癒切除(complete curative resection:CCR)が判定された.NCRは,ESD標本の病理組織学的診断で以下の規準のいずれかを満たした場合と定義された.側方断端(lateral margin:LM)または垂直断端(vertical margin:VM)が陽性,未分化型腺癌が優位,病理学的深達度がpT1b-SM1で大きさが3cmを超える以上または大きさに関わらずpT1b-SM2,病理学的にUL(+)で大きさが3cmを超える,またはリンパ管侵襲や静脈侵襲が陽性である.NCRの規準をいずれも認めなかった場合にCCRとして分類された.

研究デザイン

JCOG0607では2群を対象としており,ULの有無により対象病変の腫瘍の大きさが大きく異なるため,cUL陰性群(≥2cm)とcUL陽性群(<3 cm)を別々にESDのNCR因子の探索を行い,単変量・多変量解析を行った.

次に,多変量解析でNCRと判定された,各病理所見に関連するESD前因子を探索するために追加解析を行った.この研究では,NCRに関連する要因を次の3つのカテゴリに分類した.ESD前に利用可能な内視鏡診断因子(腫瘍深達度,ULの有無,および大きさ),ESD後に得られる病理組織学的因子(組織学的な分化度,リンパ管侵襲,および静脈侵襲),およびESD中の技術的因子(LMおよびVM).これらのうち,の内視鏡診断因子のみESD前に分かるものであるため,この追加解析に利用した.特にcUL陰性群では,ULの状態(病理組織学的なUL(+))と深達度(pSM2)が,他の要因によらず,直接NCRと判定されるため,追加解析の対象として取り上げた.さらに,同じ理由でcUL陽性群の追加分析のために深達度(pSM2)と腫瘍の大きさ(>3cm)が選択された.

内視鏡的診断

JCOG0607の研究計画書に内視鏡診断について規定されていた.腫瘍の大きさは「内視鏡的に判断された長径」と定義された.腫瘍の大きさを判断するのが難しい場合は,メジャーを用いた.通常内視鏡および色素内視鏡検査において,潰瘍や潰瘍瘢痕に矛盾のない所見を認めた場合にはcUL(+)とし,いずれも認めなかった場合をcUL(-)と評価した.通常内視鏡および色素内視鏡検査,また必要があれば超音波内視鏡検査(EUS)を行い,以下に述べる粘膜下層への深部浸潤を示唆する所見を認めない場合を臨床な粘膜内癌と定義した.隆起型病変では結節の大小不揃い,中心の深い陥凹,表層粘膜のびらん,顕著な発赤,脱気により明瞭化する壁の厚み,陥凹型病変では陥凹内結節の大小不揃い,辺縁隆起の粘膜下腫瘍様の立ち上がり,集中するひだの癒合,脱気により明瞭化する壁の厚み・硬化像.

統計解析

解析には以下の治療前の臨床因子が含まれた.年齢,性別,腫瘍の主占居部位,腫瘍の壁在性,肉眼型,腫瘍の大きさ(cUL陰性群では≦3cm/>3cm,cUL陽性群では≦2cm/>2cm),胃癌取扱い規約第13版に従った治療前生検における有意な組織型(乳頭状腺癌(pap)または高分化型腺癌(tub1)/中分化型腺癌(tub2)).腫瘍の壁在性について,病変が2カ所の壁在へ広がっている場合には,前壁または後壁を腫瘍の壁在として選択し,3カ所の壁在へ広がっている場合には中央の壁在を選択した.NCRとの関連性が低い年齢と性別を説明変数から除外した多変量解析も行った.NCRに関連する臨床因子の単変量および多変量解析では,対数線形モデルを使用した.

さらに,NCR後に追加手術が行われた患者の5年OSと無再発生存期間(relapse-free survival:RFS)も評価した.生存曲線の推定にはカプラン マイヤー法が使用され,信頼区間(confidence interval:CI)はグリーンウッドの公式によって推定された.

統計解析は,SASソフトウェア バージョン9.4を使用して行われた.結果はすべての両側P値<0.05が統計的に有意であるとみなされた.

Ⅲ 結  果

患者と臨床病理学的特徴

466人の患者(cUL陰性群260人,cUL陽性群206人)の背景と病変の特徴をTable 1に示す.主な腫瘍の部位は,M領域・小彎で,主な肉眼型はcUL陰性群では隆起型(53.8%),cUL陽性群では陥凹型(83.0%)であった.腫瘍の大きさの中央値は,cUL陰性群で3.0cm,cUL陽性群で2.0cmであった.

Table 1 

cUL陰性群とcUL陽性群の患者・病変の背景.

ESD後の病理学的所見をTable 2に示す.腫瘍深達度に関しては,cUL陰性群の33病変(12.7%),cUL陽性群の26病変(12.6%)にpSM2を認めた.次に病理学的なULの状態については,cUL陰性群の32人(12.3%)にpUL陽性を認めた.対照的に,cUL陽性群の43人(20.9%)にpUL陰性を認めた.ESD前には3cm未満と判定されていたが,cUL陽性群の30人(14.6%)で病理学的な腫瘍の大きさが3cmを超えていた.

Table 2 

cUL陰性群とcUL陽性群のESD後病理所見.

非治癒切除の結果と経過

NCRの発生割合は,cUL陰性群で33.8%(88/ 260),cUL陽性群で29.6%(61/206)であった.Table 3で示すように,両群ともESD後に得られた病理組織学的因子やESD中の技術的因子よりも,ESD前の内視鏡診断因子がNCRの規準を満たす理由となることが多かった(cUL陰性群ではそれぞれ78.4%,40.9%,28.4%,cUL陽性群では73.8%,39.3%,29.5%).特に内視鏡診断因子として,pSM2はcUL陰性群の37.5%,cUL陽性群の42.6%と多くに認められた.また,cUL陰性群ではpMかつ>3cmの11病変(12.5%)で臨床評価とESD後の病理学的所見との間にUL状態の不一致があり,cUL陽性群ではpMかつpUL陽性の16病変(26.2%)で臨床評価とESD後の病理学的所見との間に腫瘍の大きさに不一致があった.

Table 3 

非治癒切除の理由(複数の理由がある病変あり).

合計で149人のNCR患者のうち,130人が最終的に追加手術を受けた.これら130人の患者の5年OSは93.8%(95% CI,88.0-96.9%),5年RFSは93.8%(95% CI,87.9-96.8%)であった.

cUL陰性群におけるNCRに関連する臨床因子

Table 4に示すように,単変量解析でU領域の病変(対L領域,リスク比(RR):1.69,95% CI:1.05-2.73,P=0.032)および臨床的に主な組織型がtub2の病変(対papまたはtub1,RR:1.97,95% CI:1.42-2.72,P<0.0001)がNCRと有意に関連していることが明らかになった.さらにこれらの2つの因子は,多変量解析でもNCRと関連していた(U領域の病変ではRR:1.75,95% CI: 1.03-2.96,P=0.038,主な組織型がtub2の病変ではRR:1.93,95% CI:1.34-2.77,P<0.001).年齢と性別を除いた多変量解析でも同様の因子が抽出された.

Table 4 

cUL陰性群のNCRに関連する臨床因子.

pUL陽性およびpSM2に関連する臨床因子についての追加解析をTable S1電子付録)に示す.主な組織型がtub2の病変(23.1%)は,papまたはtub1の病変(9.6%)と比較して,pUL陽性と有意に関連していた(P=0.016).有意差はなかったが,pSM2の病変の割合は,肉眼型が隆起型(9.3%)や陥凹型(14.0%)に比べて混合型の病変で(23.5%)で高く(P=0.076),M領域(11.7%)またはL領域の病変(11.3%)と比較してU領域の病変(18.6%)で高い結果であった(P=0.44).

cUL陽性群におけるNCRに関連する臨床因子

Table 5に示すように,単変量解析で治療前の腫瘍の大きさ>2cmの病変(対≦2cm,RR:2.39,95% CI:1.59-3.61,P<0.001)および性別が女性(対男性,RR:2.01,95% CI:1.31-3.07,P=0.001)がNCRと有意に関連していることが明らかになった.さらにこれらの2つの因子は,多変量解析でもNCRと関連していた(性別が女性ではRR:1.62,95% CI:1.07-2.44,P=0.021,腫瘍の大きさ>2cmの病変ではRR:1.78,95% CI:1.22-2.58,P=0.003).また,年齢と性別を除いた多変量解析では,治療前の腫瘍の大きさ>2cmの病変(RR:2.17,95% CI:1.43-3.30,P<0.001)がNCRと関連していることが明らかになった.

Table 5 

cUL陽性群のNCRに関連する臨床因子.

pSM2および腫瘍の大きさ>3cmに関連する臨床因子についての追加の解析をTable S2電子付録)に示す.有意ではなかったが,pSM2の病変の割合は,肉眼型が隆起型(0%)や陥凹型(12.9 %)に比べて混合型の病変で(17.4%)で高く(P= 0.39),M領域(9.6%)またはL領域の病変(14.1%)と比較してU領域の病変(22.2%)で高い結果であった(P=0.18).男性(10.9%)と比較して女性(35.5%)が(P=0.001),治療前の腫瘍の大きさ≤2cm(4.3%)と比較して>2cmの病変(35.5%)が(P<0.001),肉眼型が隆起型(16.7%)や陥凹型(11.7%)に比較して混合型の病変(34.8%)で(P=0.014),病理学的な腫瘍の大きさ>3cmと有意に関連していた.

Ⅳ 考  察

JCOG0607から抽出したデータを利用して,分化型早期胃癌のESD適応拡大病変におけるNCRに関連する臨床因子を探索した.その結果,ESD前に得られるリスク因子は,cUL陰性群では治療前の生検で主な組織型がtub2の病変またはU領域の病変であり,cUL陽性群では腫瘍の大きさ>2cmまたは女性であった.NCRを回避するために,これらの要因を考慮する必要がある.

厳しい適格規準にもかかわらず,JCOG0607におけるNCRの割合は,32.4%にも達していた.しかし日常診療では,腫瘍深達度や潰瘍の診断がCCRの規準を満たすことが確認されていない病変に対して,治療のみならず組織学的診断の目的でESDが適用されることも多い.今回の研究でNCR後に追加手術を行った場合の予後は良好であるが,ESD後にNCRであることが判明した場合には複数回の治療が必要となり,手術のタイミングが遅れるなどのデメリットがある.言うまでもなく,NCRとなりそうな病変に対してESDは可能な限り避けるべきである.この副次的解析では,ESD後のNCRを減らす内視鏡診断のポイントを報告した.

cUL陰性群におけるNCRの原因は,肉眼型の混合型とU領域がpSM2と関連し,生検で主な組織型がtub2の病変が内視鏡的にcUL陰性と診断されたにもかかわらずpUL陽性と関連していた.病変がU領域にあり,組織学的に中分化型である場合,cUL陰性群ではESDを慎重に適用する必要がある.

さらに予想外に女性がcUL陽性群におけるNCRの独立した因子として抽出されたが,なぜ性別がNCRと関連するのかは不明であった.追加の解析で,cUL陽性群の性別別の臨床的な腫瘍の特徴が評価された(Table S3電子付録)).腫瘍の大きさは多変量解析によって調整されたが,2cmを超える病変のある女性患者(15/31;48.4%)が男性患者(53/175;30.3%)よりも多く,これが上記の結果につながった可能性がある.これについては今後の研究で調査する必要がある.

この研究は,cULの状態に関係なくpSM2を有する病変の割合がU領域および肉眼型が混合型で高いことを示した.U領域に関しては,同様の結果が他の論文でも報告されている 10),13),14.U領域に位置する病変は内視鏡で観察する時により接線方向となる.したがって,病変の全体像を認識して観察することが技術的に困難である可能性がある.さらにある研究では,本研究と一致して,混合型がpSMおよびリンパ管侵襲の危険因子であると報告されている 15.cULの有無に関係なく,U領域の病変や混合型の病変の診断には注意が必要である.

治療前の生検における組織型の診断に関しては,主な組織型がtub2であることがNCRの重要な因子である.中分化型の病変には未分化型の成分が含まれることが多いことがよく知られている 16.さらに,未分化型の成分を含む病変は,SM2への浸潤の原因となる潰瘍形成に関与している可能性が高い 17.したがって,特にESD前の生検で主な組織型がtub2の病変のcULの状態と深達度については,慎重に評価する必要がある.

この研究は診断の因子だけでなく,ESDの技術的側面にも焦点を当てた.この研究では一括切除割合が高く(99.1%;466/470),病理学的なVM陽性または不明の病変はほとんど認めなかった(6.4%;30/466).これらの30病変のうち,深達度がpM/pSM1/pSM2であったのは14/3/12例であった.したがって,SM2より深い浸潤がVM陽性または不明の原因となった可能性がある.ESDの技術はほとんどの病変で問題なかったが,粘膜層と粘膜下層の誤認や予想よりも浅い層の剝離などの未熟な技術により,一部のpM/SM1病変ではVM陽性または不明を引き起こしてしまった可能性がある.

この研究にはいくつかの制限があった.第一に,病理学的な未分化型の組織像,リンパ管侵襲,静脈侵襲などのNCRの他の原因は解析されなかった.一般にこれらの病理学的要因はESD前の内視鏡検査では予測できないため,内視鏡診断の限界かもしれない.第二に,EUSや拡大内視鏡検査などの診断モダリティは事前に規定していなかった.したがって,これらの診断方法がより正確なESDの適応に貢献できるかどうかは明らかではなかった.特に,NCRの原因の多くは深達度(pSM1およびpSM2)とpUL陽性であるため,EUSなどのモダリティで病変の深部を評価することが診断精度の向上につながる可能性がある.

結論として,適応拡大病変におけるNCRの臨床危険因子は,cUL陰性の早期胃癌では治療前の生検で組織型がtub2の病変,およびU領域の病変で,cUL陽性の早期胃癌では腫瘍の大きさが2cmを超える,および女性であり,cUL陰性の早期胃癌とcUL陽性の早期胃癌では異なっていた.早期胃癌のESDの適応拡大を決定する際には,NCRを回避するためにこれらの因子を考慮する必要がある.

資金支援:本研究は国立がん研究センター研究開発費(23-A-16,23-A-19,26-A-4,29-A-3,2020-J-3),厚生労働省がん臨床研究事業-一般(H17-12,H20-015),厚生労働省がん研究助成金(17S-3,17S-5,20S-3,20S-6)の支援を受けた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:著者小田一郎はDigestive Endoscopy 誌のAssociate Editorである.他の著者は,この記事について利益相反はない.

補足資料

Table S1 cUL陰性群のpUL陽性やpSM2に関連する臨床因子.

Table S2 cUL陽性群のpSM2や病理学的な大きさ>3cmに関連する臨床因子.

Table S3 cUL陰性群の性別毎の臨床的な病変背景.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2023)35, 494-502に掲載された「Clinical factors associated with noncurative endoscopic submucosal dissection for the expanded indication of intestinal-type early gastric cancer: Post hoc analysis of a multi-institutional, single-arm, confirmatory trial(JCOG0607)」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

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