2024 Volume 66 Issue 6 Pages 1427-1429
北海道対がん協会は,昭和4年にわが国で最初の「対がん協会」として設立し,以来90余年にわたり,北海道のがん対策の推進を担い,がんや生活習慣病に関する正しい知識の普及啓発,検(健)診事業,がんに関する調査・研究を3本の柱として,道民の皆様の健康の保持増進に努めている.
現在,当協会は,札幌・旭川・釧路の3つのがん検診センターを拠点として,道内全域で施設及び巡回検(健)診を行っており,各地域で培ったノウハウと全道域で検(健)診ができる体制を整え,適切な精度管理に努め,受診される皆様方が,安心して受診できるよう質の高い検(健)診に努めている.
札幌がん検診センターは,昭和44年に札幌市中央区に開設し,昭和48年に事務局機構の再編強化のため増改築を行い,その際に内視鏡室も整備された.その後,検(健)診体制の充実・整備のため,平成10年に現在の東区へ移転改築し,現在に至る.
組織外来部門の一部である.内視鏡センターとして独立しているわけではないが,コメディカルスタッフは内視鏡室専任であり,業務に精通している.
札幌がん検診センターに内視鏡室が整備されたのは昭和48年であり,現在のセンターは,平成10年に移転改築され,センター3階フロアに内視鏡室がある.3階床面積550m2,そのうち内視鏡室の面積346m2で,内視鏡ブースは4部屋である.3部屋は富士フイルムの内視鏡システムを,1部屋はOLYMPUSの内視鏡システムを設置している.午前は4部屋すべて稼働し,48件の上部消化管内視鏡スクリーニング検査をしている.午後は,2部屋を稼働し,10件の大腸内視鏡検査が可能である.内視鏡システムは,「ELUXEO 7000システム」,「LASEREO7000システム」を導入しており,内視鏡診断支援機能「CAD EYE」を,上部消化管内視鏡検査,大腸内視鏡検査ともに導入しており,がん発見の多大な支援につながっている.
上部消化管内視鏡スクリーニング検査では,検(健)診受診者の負担を最小限にすべく,すべての検査で経鼻用スコープを使用している.基本は経鼻ルートでの内視鏡検査であるが,検(健)診受診者の希望に応じて,経鼻用スコープを経口から挿入し,検査を行っている.スティック法で麻酔を行っており,経鼻ルートを予定していたが,挿入が難しかった場合は経口に即時に切り替えることも可能である.大腸内視鏡検査では,2022年8月からコールドポリペクトミーも導入し,好評である.検(健)診に特化しており,鎮静化での内視鏡検査は施行していない.
上部消化管内視鏡スクリーニング検査では,胃癌の診断も重要になるが,胃癌発生のリスクであるピロリ菌感染の有無,またピロリ菌による胃炎診断が重要である.胃炎診断は全例で「胃炎の京都分類」に従って胃炎の評価を行っている.リスク分類により検(健)診受診者の次回検診時期をお伝えしている.また,ピロリ感染診断は,株式会社ミズホメディーから発売されている全自動遺伝子解析装置Smart Gene®を用いた胃液ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で施行しており,ピロリ存在診断とクラリスロマイシン耐性診断が約1時間で判明する.
内視鏡室レイアウト
(2023年8月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医2名,消化器内視鏡学会 専門医2名
内視鏡技師:Ⅰ種3名
看護師:正職4名,パート6名,嘱託3名
事務職:1名
洗浄員:5名
(2023年8月現在)
1年間(2022年8月~2023年7月まで)
当センターは2023年度,道内179市町村の90%,162市町村の検(健)診を受託している施設である.2023年8月現在,消化器内科常勤医師は,内視鏡指導医2名(加藤元嗣,津田桃子),内視鏡専門医2名(江原亮子,河原崎暢)の4名体制である.上部消化管内視鏡スクリーニング検査は午前に行っており,合計48件を4ブースで行っている.午後は,大腸内視鏡検査を2ブースで10件行っている.内視鏡治療は大腸内視鏡検査におけるコールドポリペクトミーを施行している.
学会,研究会への発表・参加も積極的に行っている.主な発表学会は日本消化器病学会,日本内視鏡学会,日本ヘリコバクター学会,日本消化管学会などである.特に日本内視鏡学会と日本消化器関連学会機構(JDDW)は積極的に参加し,情報をアップデート,研鑽している.常勤医師はわずか4人であるが,札幌市内の医師の診療支援も受けながら,各自内視鏡以外の業務(講演,学会発表,論文作成など)を並行して行い,高いモチベーションの下に活動している.内視鏡検査を通じて,北海道民の健康を守っていると自負している.当施設は検(健)診に特化した施設で指導できる内視鏡検査は限られているので,内視鏡専門医をめざす内視鏡医の短期間での受け入れ,または診療援助での受け入れで指導施設としての役割を考えている.今年度に指導施設になったばかりで,まだ内視鏡専門医をめざす内視鏡医の受け入れ経験はないが,高レベルの内視鏡診療を経験でき,指導内容も充実していると確信している.
2020年頃より続いていたCOVID-19による検(健)診受診者の受診控えが長く続いたが,2023年5月に5類感染症になり,少しずつ検(健)診受診者が戻りつつある.当センターの上部消化管内視鏡スクリーニング検査は毎日4人の医師で合計48件行っているが,それでも予約は2カ月程度お待たせしてしまうこともある.少しでも検(健)診受診者のお役に立てるよう,日々丁寧で正確な診断・診療を心がけることが今後の課題である.
2022年4月,北海道対がん協会に加藤元嗣会長が着任し,最新の内視鏡システムやスコープの導入,内視鏡検査室の増室など積極的に行ってきた.内視鏡検査を安全にかつ円滑に進めていくための試みとしてすべての内視鏡検査時にタイムアウト制を導入した.またコメディカルスタッフについてはリーダー制を導入し,リーダーが検査の流れや人員配置をコントロールしている.タイムアウト時の確認内容の再考,リカバリー室の設置などが今後の課題として残されている.
また,本年12月に電子カルテシステムの導入も予定している.電子カルテシステムを用いてデータを集積し分析することにより医療の質が高まり,医学の発展に貢献できると考えて,内視鏡室も含めた病院全体で動いている.