2024 Volume 66 Issue 9 Pages 1739-1806
日本消化器内視鏡学会は,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」に従い,EBMに基づいた「EUS-FNAガイドライン」を作成した.EUS-FNAは,優れた病変描出能を有するEUSの技術を応用し,経消化管的に超音波で病変を確認しながら穿刺により病理検体を採取する手技であり,本邦では2010年の保険収載以降,広く施行されている.執筆はCQ(clinical question)形式とし,必要に応じてBQ(background question)・FRQ(future research question)を設けた.なお,一部のCQにおいては,レベルの高いエビデンスが少ないため,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインは,EUS-FNAの概略,適応・偶発症,診断能,手技の4項目を柱に構築し,現時点での指針とした.
超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound guided fine needle aspiration:EUS-FNA)は,優れた病変描出能を有するEUSの技術を応用し,経消化管的に超音波で病変を確認しながら穿刺により病理検体を採取する手技である.本邦では2000年頃から徐々に普及しはじめ,2010年の保険収載以降は全国で広く施行されるに至った.しかし,これまでEUS-FNAに特化したガイドラインはなく,その適応や手技は,エキスパートオピニオンをベースとした「消化器内視鏡ハンドブック」等が参照されてきた.そこで,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会は,EUS-FNAガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することを決定した.作成方法は,近年行われている国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 1)に従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).執筆はCQ(clinical question)形式とし,CQのうち,すでに結論が明らかなものはBQ(background question),エビデンスが存在せず今後の研究課題であるものはFRQ(future research question)として記載した.なお,一部のCQにおいては,レベルの高いエビデンスが少ないため,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかったが,最新のエビデンスを概ね網羅した本ガイドラインは,本邦そして世界におけるEUS-FNA診療での有用な指針となり,大きな役割を果たすものと考えている.
推奨の強さとエビデンスレベル.
なお,近年では検体採取方法が吸引(aspiration)だけではないことから,本学会のInterventional EUS関連用語小委員会では,EUS下に穿刺した針を介して検体(組織,細胞診⽤検体,液体)などを取得する⼿技を総称して「EUS-guided sampling」と定義した.しかしながら,現況において「EUS-FNA」という文言は広く普及しており,また,同委員会がまとめた「Interventional EUS関連用語一覧」では「EUS-FNA」をEUS-guided fine-needle aspirationまたはEUS-guided fine-needle acquisitionとしてEUS-guided samplingと同義として用いることも可能としていることから,このガイドラインにおいては,どのような検体採取法であってもEUS下に検体を採取する手技を総称し「EUS-FNA」としている.また,「EUS-FNA」と「EUS-FNB」の区別については,先端形状がランセット形状やメンギーニ形状の針を用いた手技を狭義の「EUS-FNA」,また,組織診を目的として開発された先端形状を持つ穿刺針を用いた手技を「EUS-FNB」として記載した.
本ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.
ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医12名,病理医1名が作成を委嘱された.ガイドライン作成委員とともに作成協力者14名がシステマティックレビューを行った.内部評価委員として消化器内視鏡医5名,外部評価委員として病理医1名が評価を担当した(Table 2).また,作成協力者として15名が本ガイドライン作成に携わった.
EUS-FNAガイドライン作成委員会構成メンバー.
各委員より提出された約230のクエスチョン案を,委員長により重複等を除いた61案に絞り込み,その後全委員にてCQの採択について討議を行った.「概略」「適応,偶発症」「EUS-FNAの診断能」「EUS-FNAの手技」の4項目に分類し,全体でCQ18,BQ9,FRQ7の34のクエスチョンを採択した.必要な論文を網羅するため検索期間を設けず文献検索を行った.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各クエスチョンに対するステートメントと解説文を作成した.作成委員は各担当CQの各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 1)に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計21名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.記載した文献には研究デザインを付記した(Table 3).完成したガイドライン案は評価委員の評価を受けるとともに,学会会員に公開されてパブリックコメントを求めたうえで,それぞれの結果に関する議論を経て修正を加え,本ガイドラインが完成した.
研究デザイン.
本ガイドラインの取り扱う対象患者は,EUS-FNAを受ける患者とする.また,利用者はEUS-FNAを施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.
本ガイドライン作成に関与した各委員の利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.
①本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).
②申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).
③申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金:(200万円以上),株その他.
報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.
入澤篤志(奨学寄付:武田薬品工業,ガデリウス・メディカル,EAファーマ,ボストン・サイエンティフィック ジャパン),蘆田玲子(所属組織等/研究費:GEヘルスケアファーマ,所属組織等/寄付金:メディコスヒラタ),伊佐山浩通(講演料:センチュリーメディカル,富士フイルム,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,研究費・助成金:味の素,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,日立製作所,ギリアド・サイエンシズ,富士フイルム,富士フイルムヘルスケア,エーザイ,奨学寄付:大鵬薬品工業,ガデリウス・メディカル,ボストン・サイエンティフィック ジャパン),岩崎栄典(奨学寄付:ガデリウス・メディカル),潟沼朗生(講演料:オリンパス),中井陽介(講演料:オリンパス,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,ガデリウス・メディカル,研究費・助成金:富士フイルム,HOYA,奨学寄付:ボストン・サイエンティフィック ジャパン,ガデリウス・メディカル,大鵬薬品工業),安田一朗(講演料:オリンパス,メディコスヒラタ,ガデリウス・メディカル),植木敏晴(奨学寄付:アッヴィ,寄付講座:杏林製薬,ゼリア新薬工業),赤星和也(特許使用料:富士フイルム),糸井隆夫(講演料:ガデリウス・メディカル,カネカメディックス,J-MIT,オリンパス,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,川澄化学工業,SBカワスミ,研究費・助成金:ガデリウス・メディカル),良沢昭銘(講演料:ガデリウス・メディカル,エー・エム・エス,オリンパス),糸永昌弘(所属組織等/研究費:ボストン・サイエンティフィック ジャパン,日本ゼオン,アストラゼネカ,富士フイルム,IQVIAサービシーズ ジャパン,GEヘルスケアファーマ,アッヴィ,所属組織等/寄付金:アッヴィ,メディコスヒラタ),田村 崇(所属組織等/研究費:ボストン・サイエンティフィック ジャパン,日本ゼオン,アストラゼネカ,富士フイルム,IQVIAサービシーズ ジャパン,GEヘルスケアファーマ,アッヴィ,所属組織等/寄付金:アッヴィ,メディコスヒラタ),藤澤聡郎(所属組織等/研究費:ギリアド・サイエンシズ),藤城光弘(講演料:武田薬品工業,アストラゼネカ,日本製薬,研究費・助成金:富士フイルム,オリンパス,奨学寄付:EAファーマ,アッヴィ,田辺三菱製薬)
なお,ステートメント決定時の投票に際しては,本ガイドラインに関連する内容で,「個人的・組織的に経済的COIが基準額*を上回る場合」「経済的COI以外のCOI等(研究活動・キャリア・人間関係・利害競合等)が考えられる場合」の申告を求めたが,いずれも該当はなかった.
*:本学会COI指針第8条第7項により定められた診療ガイドライン策定参加者の議決権に関する基準額は以下のとおりである.講演料200万円,パンフレットなど執筆料200万円,受け入れ研究費2,000万円,奨学寄附金1,000万円
本ガイドライン作成に関係した費用については,日本消化器内視鏡学会による資金提供を受けた.
BQ1:EUS-FNAとは何か?
ステートメント:EUS-FNAとは,優れた病変描出能を有するEUSの技術を応用し,経消化管的に超音波で病変を確認しながら穿刺により病理検体を採取する手技のことである.
解説:
超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound guided fine needle aspiration:EUS-FNA)は,優れた病変描出能を有するEUSの技術を応用し,経消化管的に超音波で病変を確認しながら穿刺により検体を採取する手技であり,ヒトへの臨床応用は,1992年にVilmannらが膵腫瘍に対し穿刺を行ったのが初めてである 1).本邦では,2010年にEUS-FNAが保険収載され,現在では広く施行される手技となっている.適応病変は膵病変だけでなく,胆囊病変,消化管上皮(粘膜)下病変,腫大リンパ節,肝病変,副腎病変,脾病変,腹水などにも拡大し,従来は低侵襲に病理診断を行うことが困難であった病変に対しても,比較的簡便かつ安全に検体採取を行うことができるようになった.偶発症としては膵炎,出血,感染などがあり,その発生頻度は1%以下である 2),3).特に,膵充実性病変に対するEUS-FNAの有用性は多く報告されており,2016年以降の報告では,その感度・特異度はともに90%以上とされている 4)~8).
従来から使われてきたEUS-FNA針は先端がランセット形状やメンギーニ形状のものであり,基本は吸引による検体採取が主であり,組織検体の採取も可能ではあるものの,検体量が少なく病理学的診断が困難なことが少なからずあった.より大きな検体を採取するために,19 gauge(G)針 9)を用いたEUS-FNAの報告はされていたものの,操作性の問題も相まって広く行われるには至っていなかった.また,近年では悪性腫瘍に対する薬物療法の発展により遺伝子変異に応じた個別化治療が日常臨床で行われる時代になり,単に悪性の診断のみならず,遺伝子検査に耐えうる検体の量と質が求められるようになってきた.この問題を解決すべく,組織採取を目的とした先端形状を持つFNB(fine-needle biopsy)針が開発され,操作性を維持しながら高い確率で組織検体の採取が可能となった 10)~14).
なお,上記のように,近年では検体採取方法が吸引(aspiration)だけではないことから,本学会のInterventional EUS関連用語小委員会では,EUS下に穿刺した針を介して検体(組織,細胞診⽤検体,液体)などを取得する⼿技を総称して「EUS-guided sampling」と定義した.しかしながら,現況において「EUS-FNA」という文言は広く普及しており,また,同委員会がまとめた「Interventional EUS関連用語一覧」では「EUS-FNA」をEUS-guided fine-needle aspirationまたはEUS-guided fine-needle acquisitionとしてEUS-guided samplingと同義として用いることも可能としていることから,このガイドラインにおいては,どのような検体採取法であってもEUS下に検体を採取する手技を総称し「EUS-FNA」としている.また,「EUS-FNA」と「EUS-FNB」の区別については,先端形状がランセット形状やメンギーニ形状の針を用いた手技を狭義の「EUS-FNA」,また,組織診を目的として開発された先端形状を持つ穿刺針を用いた手技を「EUS-FNB」として記載した.
2.EUS-FNAの適応,偶発症BQ2:EUS-FNAの適応は何か?
ステートメント:鑑別診断・確定診断・癌の進展度診断を目的とし,消化管からの描出および穿刺アプローチが可能な縦隔・腹腔・後腹膜・骨盤内の臓器・病変が適応となりうる.
解説:
EUS-FNAの目的は,病理診断に基づく病変の鑑別診断・確定診断・(癌の)進展度診断であり,結果がその後の治療方針決定に有用な情報を与えると考えられる場合のみ適応となる 1).
対象となる部位・臓器は,消化管からEUSで描出および穿刺アプローチが可能な縦隔・腹腔・後腹膜・骨盤内の臓器・病変(腹水・胸水を含む)である.現在,最も一般的な対象臓器は膵で,膵癌の確定診断が主であるが,膵腫瘤の鑑別診断,自己免疫性膵炎の診断などにも利用されている 1)~6).また,消化管粘膜下腫瘍の鑑別診断や病期診断を目的としたリンパ節転移診断もよく行われている 1),7)~10).その他の対象臓器としては,肝 11),副腎(両側) 12),13),脾臓 14),胆囊 15),胆管(狭窄部腫瘤) 16)~18),十二指腸乳頭部(非露出型腫瘤) 19)などの報告がある.縦隔については,気管の前面(前縦隔)にはアプローチできないが,経食道的に後縦隔・下縦隔へのアプローチが容易であることから,1996年に肺癌のリンパ節転移診断(病期診断)に関する報告がなされて以来 20),肺癌のリンパ節転移診断(N-staging)に関して数多くの報告がみられ 10),21),また,縦隔に隣接する(中枢型)肺腫瘍に対する報告もみられる 22),23).しかし,2007年に経気管・気管支超音波内視鏡(endobronchial ultrasound:EBUS)が登場したことから,肺癌のN-stagingにおいては現在EBUSが主流となっている.腹腔あるいは骨盤内の腫瘤・原因不明リンパ節腫脹については,経胃・十二指腸・直腸・S状結腸アプローチが主体となるが,これらの消化管は伸展が良好なため,想像以上に広範囲の病変が対象となりうる 24),25).縦隔・腹腔・骨盤内の腫瘤・リンパ節腫脹で想定される疾患としては,リンパ腫,サルコイドーシス,リンパ節転移(術後のリンパ節再発を含む),結核などがあり 26)~28),特にリンパ腫の可能性が疑われる場合にはフローサイトメトリーや染色体分析(G-band法),fluorescence in situ hybridization(FISH)にも検体を提出できるよう準備する 29).また,消化管については粘膜下腫瘍以外に消化管のびまん性壁肥厚が対象となることもあり,癌が早期に粘膜下に潜って消化管壁内での増殖が主体となるlinitis plasticaやリンパ腫などが鑑別疾患となる 30),31).
一方,膵囊胞性病変に対するEUS-FNAについては,欧州消化器内視鏡学会(ESGE)のガイドライン 2)で,10mm以下のhigh risk stigmataを伴わない囊胞以外では囊胞内容液の細胞診および生化学検査(特にCEA測定)を行うことが推奨されるなど,海外では一般的に広く行われているが,日本では感染や腫瘍播種に対する懸念から,特に粘液性囊胞性腫瘍が疑われる場合には禁忌とする意見が根強い 1).そのため,今後さらなる有用性に関するエビデンスの確立と安全性に関する検討が必要である.
CQ1:切除可能な膵癌を疑う病変にEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:術前化学療法(NAC)を予定する病変に対しては,EUS-FNAを行うことを提案する.NACを予定しない病変についてはneedle tract seedingのリスクを十分に鑑みたうえでEUS-FNAを行う必要がある.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
膵癌に対するEUS-FNAの診断能に関する3編のメタアナリシスの統合感度は89~92%,統合特異度は96~96.5%,診断オッズ比は125.2~168.3であり,EUS-FNAの感度および特異度はともに高く,膵癌とそれ以外の膵腫瘤の鑑別診断に有用な検査法であると考えられる 1)~3).また切除可能膵癌に対するEUS-FNAについては1編のメタアナリシスが報告されており,全生存期間はEUS-FNA施行群でEUS-FNA非施行群と比較して有意に長く,無再発生存期間,再発率,腹膜播種発症率においては両群間に有意差を認めなかった 4).近年では切除可能膵癌に対する術前化学療法(neo adjuvant chemotherapy:NAC)の有用性が報告されており,広く行われるようになっている 5).それに伴い非膵癌症例にNACを施行することを避けるためにNACを予定する切除可能膵癌を疑う病変に対しては,EUS-FNAを行うことを提案する.一方で膵充実性病変において低頻度ではあるが穿刺経路にneedle tract seedingを生じうる.15例のEUS-FNAによるneedle tract seeding症例についてまとめた最近の報告では,15例中12例においては膵癌診断に対するEUS-FNA後に発生しており,膵体尾部腫瘤に対して経胃的なアプローチでEUS-FNAを行う際にはneedle tract seedingが起こる可能性について注意が必要である 6).NACを予定しない切除可能膵癌を疑う病変に対するEUS-FNAは,特に経胃的穿刺を行う症例についてはneedle tract seedingのリスクを十分に鑑みたうえで行う必要がある.
FRQ1:膵癌術前のEUS-FNAは長期予後に影響を与えるか?
ステートメント:EUS-FNAによるneedle tract seedingが懸念されるが,長期予後に影響を与えるというエビデンスは存在しない.
解説:
EUS-FNAは偶発症率も低く安全な手技として普及している.EUS-FNA施行有無により,長期予後に影響を与えるかについてはこれまでいくつかの観察研究が報告されている(Table 4).それぞれ対象は膵充実性腫瘍と囊胞性腫瘍をまとめて報告しているものが1編 1),intraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)・intraductal papillary mucinous carcinoma(IPMC)が2編 2),3),膵腫瘍が2編 4),5),膵体尾部切除(distal pancreatectomy)を施行した膵体尾部癌が2編である 6),7).それぞれ腹膜播種,無増悪生存期間,全生存期間など評価項目が異なるが,いずれの研究もEUS-FNAが長期予後に影響を与えるというエビデンスは存在しない.最も大規模な研究はNgamruengphongらの2,034例を解析した研究であり(FNA施行498例,FNA未施行1,536例),cancer-specific survivalはFNA施行群において影響を与えなかった(HR:0.87,95%CI:0.74~1.03,p=0.12).しかし,本研究は膵体尾部症例でFNAを施行したのは75例にとどまっており注意が必要である 4).
EUS-FNAは消化管を介して腫瘍に対して針穿刺を行うことから,稀ではあるものの消化管壁にneedle tract seedingが発生する可能性がある.症例報告として膵体尾部癌に対するEUS-FNA後にneedle tract seedingの発生を認めたとするものを複数認める(Table 5) 1),8)~30).これまでの報告では,needle tract seedingの診断契機となった検査として上部消化管内視鏡検査で粘膜下(上皮下)病変(subepithelial lesion:SEL)として指摘されることが多く報告されているが 1),11),12),14)~19),24),現時点でneedle tract seeding診断のための上部消化管内視鏡検査の有用性を含め理想的な経過観察方法は不明である.また,手術直前の画像検査や術中にneedle tract seedingを疑うような所見があるようであれば,同時に胃切除を行うことによりneedle tract seedingの診断に至った報告を認めており 22),25),30),手術直前や術中にもneedle tract seedingの可能性を考えながら治療を行うことも重要と考える.
本邦におけるnational surveyでは,膵癌に対してEUS-FNA後に9,300例に根治切除が施行され,経十二指腸穿刺が行われた4,746例ではneedle tract seedingを認めなかったのに対して,経胃的穿刺が行われた4,435例においては38例(0.857%)で認めている 31).needle tract seedingに対する治療については確立されたものはない.本邦からのnational surveyではneedle tract seedingを認めた38症例のうち,needle tract seeding部位を切除した症例は切除しなかった症例と比較して有意に予後が良好であった(生存期間中央値:51.9月 vs. 26.2月,p=0.037).
EUS-FNAは膵癌の長期予後には影響を与えるという報告は現在までに認めないが,needle tract seedingは一定の頻度で発生すると考えられ,そのことを意識した治療や経過観察方法など今後の検討が必要である.
FRQ2:膵囊胞性病変の診断にEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:膵囊胞性病変に対するEUS-FNAの臨床的意義の報告はあるが,EUS-FNAを付加することで診療方針が変わる場合にのみ行うことが望ましい.
解説:
膵囊胞性病変に対するEUS-FNAでは,吸引した囊胞液の粘性を見るstring test,細胞診,生化学分析(CEA,amylase)などの検査が行われてきた 1)が,その診断能は悪性化のリスクがある粘液性腫瘍と,悪性化リスクがない非粘液性腫瘍の鑑別診断として評価されてきた.囊胞液中の細胞成分は少ないことから細胞診の感度は低いことが知られている.診断に有用とされてきた囊胞液中CEAも,その後の前向き研究では感度61%,特異度77%と十分な診断能ではないことが示されている 2).また,囊胞液中CEAは悪性度の診断には有用でないとされている.最近では囊胞液中glucoseがCEAよりも診断能が高い 3)ことが報告されている.さらに,囊胞液の遺伝子解析診断 4)の検討が進んでおり,最近では囊胞液専用の22種類の遺伝子パネル検査 5)により,膵囊胞性病変の鑑別診断に加えて,高異型度以上の悪性病変の診断能も感度88%,特異度98%と高いことが示されており,今後はコスト面なども含めた検討が待たれる.
膵囊胞性病変には,膵内分泌腫瘍やsolid pseudopapillary neoplasmなどの充実性病変の囊胞変性も含まれており,EUS-FNAによる病理診断が切除適応を確定する疾患もある.このような病変では,囊胞液の採取よりも,充実成分を穿刺し採取した検体が病理診断に有用なことも多い.また,結節を伴う囊胞性病変では結節部分の悪性度を評価する目的で,同様に囊胞内結節自体を穿刺することも行われているが,その診断能および安全性についての報告はないのが現状である.細胞診の診断能の向上のために囊胞壁をFNA針先端で穿刺する 6),囊胞壁をブラシ擦過する 7)などの試みもされてきたが,最近では19G FNA針の中を通してcystoscopy,confocal laser endomicroscopyなどのデバイスを挿入する診断法の研究 8),9)も報告されている.その中でもmicroforcepsを用いた囊胞壁の生検(EUS-guided through-the-needle biopsy:EUS-TTNB)による組織診断は特に注目されている(FRQ6参照).
膵囊胞性病変に対するEUS-FNAの安全性の点では,膵充実性病変と比較して偶発症が多いことが報告 10)され,また本邦では腹膜播種の報告 11)もあったことから日常臨床として行われる機会は少ないのが現状である.一方で,海外からは膵囊胞病変に対する術前EUS-FNAの有無で腹膜播種率に違いがなかったと報告 12)されており,本邦の状況との乖離がある.本邦ではEUSを含む画像診断が重視され,上述のように膵囊胞性腫瘍に対するEUS-FNAは行われてこなかったが,膵囊胞性腫瘍に対する術前画像検査による正診率は依然として低く,切除例の10%は良性疾患であったという報告 13)もされている.膵囊胞性病変に対するEUS-FNAの偶発症の1つとして囊胞感染が知られている.以前は予防的抗菌薬投与が広く行われてきたが,最近のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT) 14)では予防的抗菌薬投与の優位性は認められなかったが,FNA時の抗菌薬投与の必要性について米国,欧米のガイドラインで弱い推奨がされている.
以上より,EUS-FNAにより得られる情報により切除,経過観察などの診療方針が変わる場合にはEUS-FNAを行うことは妥当と考えられる.一方で,膵囊胞性病変に対するガイドラインにおけるEUS-FNAの適応も一定でないことも課題として残っている.FRQ6にあるEUS-TTNBによる病理組織診断の有用性の報告も増えていることから,今後EUS-FNA関連手技による膵囊胞性腫瘍の診療方針への寄与があるのか,膵囊胞性病変の画像診断,経過観察が詳細に行われている本邦からのエビデンスの発信,EUS-FNAの適応の確立を検討していく必要がある.
CQ2:EUS-FNAは切除不能膵癌に対する化学療法施行前の病理診断法として推奨されるか?
ステートメント:EUS-FNAは切除不能膵癌に対する化学療法施行前の病理診断法として強く推奨する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値8,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
膵癌が疑われ切除した症例には一定の頻度で良性疾患が含まれることが報告されており,画像診断のみでの確定診断は限界がある.化学療法の治療薬選択を含めて治療方針の決定に際し,病理学的診断を得ることは極めて重要であり,近年,化学療法前の病理診断の確定は強く推奨されている 1).EUS-FNAの診断能は穿刺針の進歩とともに正診率は上昇しており,治療に影響を与える偶発症も少ない.充実性膵臓病変に対する複数のメタアナリシスでは,統合感度と統合特異度はそれぞれ80~92%と96~98%であった 2)~5).
EUS-FNAによる病理診断は腹腔鏡あるいは開腹生検に比較すると全身麻酔が不要であり,患者負担は少ない.内視鏡的逆行性膵胆管造影法(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)による膵管擦過細胞診や膵液細胞診の感度は33.3〜61.4%であると報告されておりEUS-FNAに比較すると有意に低い 6)~9).胆管狭窄のない症例ではERCP下膵液細胞診と比較すると,正診率,安全性の観点からもEUS-FNAが推奨される 9).また,経皮的腫瘍生検とのRCTでEUS-FNAの有用性が示され 10),さらに後ろ向き比較試験でEUS-FNAにおいて腹膜播種発生率が有意に低いことが報告されている 11).その一方で,EUS描出時に腫瘤としての認識が難しい膵管上皮内病変を中心とした早期膵癌はEUS-FNAでの組織採取が困難である 12).また,膵管内に進展する病変については穿刺による膵液瘻や腹膜播種を来した少数例の報告もあり 13),ERCP下膵液細胞診が望ましい.また,EUS-FNAによる穿刺針の到達が困難な部位や術後腸管で目的部位に到達が困難な場合には,開腹生検や肝転移巣からの経皮的生検を検討する.
FRQ3:膵腫瘍に対する遺伝子パネル検査においてEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:膵癌に対するがん遺伝子パネル検査においてEUS-FNA検体が用いられており,今後のゲノム医療に貢献することが期待される.
解説:
近年,次世代シークエンサー(next generation sequencing:NGS)の開発により一度に多くの遺伝子解析が可能となったことから様々な疾患のゲノム異常が解明されつつある.特に肺癌領域はゲノム医療が進んでおり,採取された生検材料を用いた遺伝子解析をもとにした治療方針がガイドラインで推奨されるなどがん遺伝子パネル検査の普及により,ゲノム診療が実臨床でも可能となってきた.
本邦における腫瘍検体を用いたがん遺伝子パネル検査はOncoGuideTMNCCオンコパネル(NCC)とFoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル(F1Cdx)が2019年に保険収載された.膵癌に対するゲノム医療としては,生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子変異膵癌に対して,プラチナ含有療法後の維持療法としてのPARP阻害薬が保険収載されている.また,臓器横断的な治療としては,tumor mutation burden high(>10mut/Mb),高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する膵癌へのペムブロリズマブ,NTRK融合遺伝子を対象としたTRK阻害薬が投与可能である.これらの遺伝子を対象とした個別化医療を行うことで有意に予後が延長した報告(Know Your Tumor program) 1)があることから,NCCNガイドラインでは特に切除不能膵癌に対するゲノム解析は診断と同時に積極的に行うことを推奨している.しかし,膵癌の多くは発見時には切除不能進行膵癌であり,検体採取のためには生検材料を用いることが多い.中でもEUS-FNAは現在の膵腫瘍のゲノム診断において中心的な役割を果たしているといえる 2).
そのため今回は膵腫瘍に対するEUS-FNA検体を用いた包括的ゲノムプロファイルを取得する目的のがん遺伝子パネル検査に関するシステマティックレビューを行った.益のアウトカムとして「EUS-FNA検体を用いたがん遺伝子パネル検査の成功率」「推奨治療の検出率」を設定した.害になりうるアウトカムとして「偶発症率」を設定した.費用対効果については国内外からの報告はなく評価ができないことから評価対象外とした.
今回のシステマティックレビューではがん遺伝子パネル検査の成功率に関連し,穿刺針別のF1CDx解析要件達成率を検討したRCT1編 3),19G FNB針を用いた前向き観察研究1編 4),様々なタイプのパネルを用いた後ろ向き観察研究17編を採用した 5)~21).実際のNGSの成功率だけでなく,採取されたEUS-FNA検体のNCCとF1CDxにおける解析要件達成率のみを検討した研究 19)も今回のレビューに採用した.用いられた遺伝子パネル検査はカスタム化(n=50)されたもの 7)からMSK-IMPACT(n=410) 9)やF1CDx(n=324) 10)のような多くの遺伝子を搭載しているパネルもみられた.そのため解析成功率はパネルの遺伝子数にも依存しているが,42.9~100%と幅広かった.また,穿刺針ごとに検討した研究ではFNA針と比較してFNB針が,サイズでは25Gや22Gと比較して19Gが有意に解析成功に関する因子であった.本邦で用いられているNCCやF1CDxに限っては解析要件達成率での検討が多いが,FNA針では11.4~14%と非常に低く,FNB針では32.6~78%と有意に高かった.また,穿刺針の大きさでは25Gでは14%であり,22Gでは11.4~32.6%,19Gでは56~78%と高率に解析可能であった.ただし,用いたパネルの遺伝子数,穿刺回数,吸引の有無などの穿刺条件,採取された検体の処理方法など多くのバイアスが含まれていることに注意が必要である.
「推奨治療の検出率」については5.5~35%と結果に大きくばらつきがみられるが,報告された国の社会的背景や保険医療システムの違いにより大きく異なる.また,報告された時期によっても承認されている薬剤が異なることも原因の1つである.Loweryらは84例のFNAサンプルを含む338例の膵癌解析結果を報告し,ERBB2増幅,CDK4増幅,BRCA1/2突然変異,BRAF V600E突然変異などの他癌腫に対し米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の承認が得られているバイオマーカーであるレベル2B以上の症例が5.5%に検出されたと報告している 9).一方Hayashiらは,薬剤対象候補となる遺伝子変異は35%にみられたが,実際にゲノム医療が行われた症例は10%に過ぎなかったと報告している 11).TakanoらはOncoKBにて,臨床的エビデンスはあるも標準とはいえないレベル3B以上の症例が22.4%にみられたと報告している 17).
肝転移を伴う進行した膵内分泌腫瘍に対してはgrade分類のheterogeneityから腫瘍生検よりもliquid検体を用いた遺伝子解析の有用性が報告されている 22).また,消化管SELに対してはFNA検体を用いてKITやPDGFRAの遺伝子変異を検討することは分子標的薬の効果予測に有用であると報告されている 23)~25).
肺癌に対してはNCCやF1Cdxに加え,オンコマインDx Target TestマルチCDxシステムが保険収載されており,EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などを解析し治療方針を組み立てることがガイドラインでも推奨されている.肺癌の生検材料としては主に気管支鏡生検(TBB),CTガイド下経皮生検,ガイドシース併用気管支内超音波断層法(EBUS-GS)生検,超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNAB)が主として用いられているが,時に肺門リンパ節や縦隔病変は経消化管的アプローチが有用であり,縦隔リンパ節診断においては超音波気管支鏡(EBUS)を用いた経食道的気管支鏡下穿刺吸引生検法(EUS-B-FNA)を併用して採取することがEBUS-TBNAB単独より有用であると報告されている 26).
EUS-FNAの偶発症率に関しての詳細は他項に譲るが,今回のシステマティックレビューで検討した限りでは,出血や膵炎などのEUS-FNAに伴う偶発症は0~9%に報告されており,特に19G FNB針で複数回穿刺した際には6.6~9%に何らかの偶発症がみられている.これらの結果は本邦における多施設研究でみられるような既報 27)(全体で1.7%,出血は0.8%,膵炎0.4%)と比較しても多い傾向があるため,がん遺伝子パネル検査目的にEUS-FNAを行う場合は,偶発症に留意して施行することが求められる.
CQ3:ERCPで診断が困難な胆道病変に対してEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:ERCPで診断が困難な胆道病変に対してEUS-FNAを検討することを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
胆管狭窄に対するEUS-FNA
悪性胆管狭窄におけるEUS-FNAの診断能を検討した957症例を含む20編のメタアナリシス 1)において感度80%(95%CI:74~86%),特異度97%(95%CI:94~99%),診断オッズ比が70.53(95%CI:38.62~128.82)と報告されており,胆管狭窄に対するEUS-FNAの良好な診断能が示されている.肝門部領域胆管と遠位胆管の狭窄部位別の診断能において,それぞれ感度76% vs. 83%,特異度100% vs. 100%,診断オッズ比47.78 vs. 33.88であり,部位別による診断能は同等であった.EUS-FNAとERCPの診断能を比較した294症例を含む8編の検討によるメタアナリシス 2)では,EUS-FNAとERCPの感度75% vs. 49%,特異度100% vs. 96%,正診率79% vs. 60%と報告されており,胆管狭窄における良悪性の鑑別診断能においてEUS-FNAはERCPと比べて有意に優れていることが示されている.さらには悪性胆管狭窄に対して同一セッションでERCP下生検とEUS-FNAを行った報告 3)によると,単独での感度,正診率はそれぞれ56% vs. 73%,60.5% vs. 76.1%であったが,両方法を組み合わせることにより感度,正診率ともに85.8%,87.1%へと向上していることを踏まえると,ERCPで診断困難な悪性胆管狭窄においてEUS-FNAは有用な診断法といえる.偶発症に関しては,胆汁漏出による腹膜炎や腫瘍播種が危惧されるが,過去の報告 1),3)~8)において偶発症率は1%以下であり,播種の報告は認めていない.また,胆管癌根治切除例119症例の検討 9)では,術前EUS-FNAの有無で全生存率および無増悪生存率に差を認めなかった(ハザード比:1.09,p=0.700)と報告されており,比較的安全であると考える.したがってERCP下細胞診・生検で診断がつかない胆管狭窄に対してEUS-FNAは提案されるが,理論的には胆汁の漏出による播種の可能性はあるため切除可能症例においては慎重に検討すべきである 10).
胆囊病変に対するEUS-FNA
胆囊病変の内視鏡的病理あるいは組織学診断法にはERCPとEUS-FNAがある.ERCPによる病理診断は胆囊管経由でのアプローチとなるため,技術的に困難なことが多く,診断感度も47.4~59.1%と低い 11),12).一方,胆囊癌に対するEUS-FNAにおいては283症例を含む6編のメタアナリシス 13)によると,感度85%(95%CI:79~95%),特異度94%(95%CI:87~98%),サマリーROC曲線のAUCが0.98(95%CI:0.97~0.99)であり,高い診断能が示されている.また,偶発症は1例も認めておらず,安全性に関しても高いと考えられる.Hijiokaら 11)はERCP下細胞診・生検で診断不能であった症例を含めた胆囊癌に対するEUS-FNAの診断能を検討し,診断感度が96%と良好であることを示した.また,腫大したリンパ節→肝転移→胆囊腫瘤の順で穿刺対象とすることにより偶発症を認めなかったとしており,この穿刺順はよい方法であると考えられる.また,EUS-FNAは胆囊癌と黄色肉芽腫性胆囊炎の鑑別にも有用であるとされており,正診率は80%と報告されている 14).したがって,診断がつかない胆囊病変に対してEUS-FNAは提案されるが,胆囊は胆管同様,内腔を穿刺すると胆汁漏出による播種の可能性は考慮しなくてはならず,肝床への浸潤部分や肥厚した胆囊壁のみを穿刺して,胆囊内腔まで穿刺針を進めないように注意するべきである.
十二指腸乳頭部腫瘍に対するEUS-FNA
十二指腸乳頭部腫瘍は露出腫瘤型と非露出腫瘤型に分類される.露出腫瘤型は直接生検による組織採取が可能である.一方,非露出腫瘤型に関して,開口部からの生検で診断が困難な症例に対しては内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)を付加した後,生検を行う手法が選択される.しかし,ESTは腫瘍出血や膵炎のリスクがあることより,最近ではEUS-FNAによる組織診断の有用性も報告されている.Defrainら 15)は乳頭部腫瘍が疑われた35例に対するEUS-FNAの有用性について検討しており,感度82%,特異度100%,正診率89%と良好な診断能を示している.またOguraら 16)は,非露出型の乳頭部腫瘍が疑われた症例に対するERCP下生検とEUS-FNAの診断能についての検討で,正診率が70% vs. 100%であり,EUS-FNAに関する偶発症は認めなかったと報告している.乳頭部腫瘍に対するEUS-FNAは,非露出腫瘤型の診断困難例に対してESTを付加する前に考慮できる選択肢の1つと考えるが,安全性を含めたさらなる検討が必要である.
CQ4:肝病変に対するEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:肝腫瘤や慢性肝疾患に対するEUS-FNAによる病理組織学的診断は,適応を検討したうえで行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
肝腫瘤に対するEUS-FNAの論文は,総説が2編 1),2),ケースシリーズが15編 3)~17),ケースコントロールが3編 18)~20)報告されている.肝腫瘤に対するEUS-FNAの病理組織学的な診断感度は75~100%と極めて良好であった.CroweらはCTガイド下生検と比較し,EUS-FNAによる肝生検の病理組織学的な診断感度はほぼ同等であると報告している 19).Gheorghiuらは,FNA針とFNB針を用いた肝腫瘤の診断感度を比較したところ,EUS-FNB針は100%であったのに対し,EUS-FNA針が83.3%と有意差をもってEUS-FNB針の診断感度が優れていた(p=0.0194)ことを報告した 20).また,論文全体の偶発症の発生率は0~6.1%と極めて低く,安全に施行可能であるとの報告が多い.しかし,各々の研究は観察研究が多く症例数も少ないことから,播種や他の偶発症について言及することには限界がある.さらに,多くの論文は経胃的に肝左葉を穿刺している報告が多く,肝右葉を含む肝領域全体に対してEUS-FNAが施行可能ではない.Ohらは,肝左葉と肝右葉のEUS-FNAによる病理組織採取率を比較したところ,有意に肝左葉からの組織採取率が高いことを報告している(左葉:28/30,93.3% vs. 14/17,82.4%,p=0.04) 11).よって,すべての肝腫瘤に対してEUS-FNAによる病理組織学的診断を行うのではなく,腹部超音波やCTを用いた経皮経肝ルートでの穿刺が困難な症例に対して適応を考慮することが妥当 5)と考えられる.さらに,EUS-FNAを用いた肝細胞癌に対する病理組織学的診断の検討も少ない 6).したがって,肝腫瘤に対するEUS-FNAは,他の方法と比較してEUS-FNAのほうが安全に穿刺可能な場合など症例を限定して行われるべきである.
慢性肝疾患に対するEUS-FNAの論文は多数報告されており,メタアナリシスも2編報告されている 21),22).Mohanらは,9編435例の検討からメタアナリシスを行い,EUS-FNAによる慢性肝疾患の組織学的な診断率は93.9%,偶発症の発生率が2.3%と良好であることを報告した 21).しかし,この検討ではフランシーン針を用いたEUS-FNB針の検討が1編しか含まれていなかった.Baranらは,23編1,326例からメタアナリシスを行ったところ,EUS-FNAを用いて採取された肝組織の検体長の平均が45.3mm±4.6mm,門脈を含んでいる数が15.8±1.5と良好であり,EUS-FNAは慢性肝疾患の診断に充分量の組織採取が可能であることを報告した 22).そのサブグループ解析で,EUS-FNA針とFNB針による検体採取を比較したところ,肝組織の検体長では有意差が認められなかったが,門脈を含んでいる数はFNB針のほうがFNA針と比較し多く(18.40 vs. 10.99,p=0.003),通常の陰圧による採取よりslow-pull法を用いたほうが門脈を含んでいる数が有意に多かった(14.6 vs. 30.0,p<0.001) 22).穿刺針に関する検討は,19G針と22G針の比較,FNA針とFNB針の比較などが認められる 23)~26).FNB針を用いた肝組織採取のほうがFNA針より優れているとの報告が認められるが 23)~26),太さに関しては一定の見解はなく 23),26),さらなる検討が必要である.EUS-FNAによる肝生検と,経頸静脈ルート,もしくは経皮経肝ルートによる肝生検の比較では,組織採取量や安全性は,同等であると報告されている 3),19),27),28).しかし,組織採取量とコストの観点からEUS-FNAと比較し経皮経肝ルートが優れているとのRCTも認められること 29),慢性肝疾患の病理組織学的検討にEUS-FNAが用いられることは一般的ではないことから,EUS-FNAを用いた肝組織採取は,他の方法と比較してEUS-FNAのほうが安全に施行可能な場合など,症例を選択する必要がある.
CQ5:担癌患者の腹水に対してEUS-FNAによる腹水サンプリングは推奨されるか?
ステートメント:他の病理検体採取法で採取困難な場合,担癌患者の腹水に対してEUS-FNAによる腹水サンプリングを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
EUSは高い空間分解能で消化管周囲の病変を描出し,リアルタイムのEUS画像ガイド下に正確にFNAを行い,病理検体を採取することを可能にした.担癌患者において,EUSはCTなどその他の画像診断では認識できない腹水を描出し,引き続いてEUS-FNAを行いサンプリングが可能である 1).
Nguyenら 2)は,EUSを施行した571症例を後方視的に検討し,85症例で腹水を認め,そのうちEUS前にCTが施行された79症例では,14症例(18%)でのみ腹水を診断可能であったとした.さらに,腹水に対してEUS-FNAが31症例で施行され,5例で悪性所見を認め手術を回避することができ,EUS-FNAに関連する偶発症を認めなかった.腹水に対するEUS-FNAの有用性を検討したDeWittら 3)の後方視的検討では,単施設で60症例(最終診断が悪性疾患は45例)が登録され,そのうち58例(97%)でEUS施行前3カ月以内にその他の画像診断が施行されたが,28例(48%)では腹水は確認できず,腹水の存在診断感度の内訳は,CTが54例中28例(52%),MRIが8例中4例(50%),腹部超音波検査が11例中3例(27%)であった.腹水のEUS-FNA結果は,陽性16例,疑陽性2例,陰性42例であり,陰性例のうち8例で引き続き手術が施行され,3例で腹膜播種を認めたために,偽陰性の可能性に留意すべきとした.また,処置に関連する可能性がある偶発症として,発熱を2例(3%)で認めたとした.Wardehら 4)は腹水に対するEUS-FNAの良悪性診断能を後方視的に検討し,最終診断が確定している71症例において感度80%,特異度100%,陽性適中率100%,陰性適中率95%,正診率96%であり,偽陰性を3症例で認めたとしている.
これらの報告からは,担癌患者において,その他の画像診断では指摘できない微量の腹水をEUSで診断できる可能性がある.さらに,EUS-FNAで腹水サンプリングを行い悪性所見が得られれば,治療方針に影響を与える可能性があることから,その施行は提案される.他の検体採取法で採取できない腹水症例にはEUS-FNAによる腹水サンプリングが提案されるが,現状の報告では,他の検体採取法との比較検討を含めて腹水に対するEUS-FNAの手技成功率や診断能に関して十分に検討されていない.
CQ6:結腸・直腸周囲の病変に対してEUS-FNAを行うことは推奨されるか?
ステートメント:診断困難な結腸・直腸周囲の病変に対してEUS-FNAを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
結腸・直腸周囲の病変に対するEUS-FNAの有用性を検討した論文は,メタアナリシスが1編,コホート研究が16編であった.10編の論文246例で検討されたメタアナリシスでは,感度89%(95%CI:83~94%),特異度93%(95%CI:86~97%),偶発症1.69%(4/236例,出血1例・血尿1例・膿瘍2例)であった 1).コホート研究16編501例では,感度91.7%,特異度96.9%,偶発症1.8%(9/501例,出血1例・血尿1例・穿孔1例・膿瘍6例)であった 2)~17).これらの論文の多くは,大腸癌・泌尿器癌・婦人科癌など様々な疾患に対するEUS-FNAの有用性を検討しているが,単一の疾患に対するEUS-FNAの有用性として,大腸癌の結腸・直腸周囲再発に対するEUS-FNAの有用性 12),婦人科癌の結腸・直腸周囲再発に対するEUS-FNAの有用性 15)が報告されている.ただし,上部消化管用のスコープを下部病変に応用することに関しては推奨されておらず,使用に際しては注意が必要である.
米国消化器内視鏡学会(American Society for Gastrointestinal Endoscopy:ASGE)ガイドラインでは,上部消化管周囲の病変に対するEUS-FNAにおける予防的抗菌薬投与は,囊胞性病変に対するEUS-FNAを除き推奨されていない.しかし,結腸・直腸周囲の病変に対するEUS-FNAにおける予防的抗菌薬投与の是非についての記載はない.結腸・直腸周囲の充実性病変に対するEUS-FNAが施行された患者における菌血症および感染性偶発症のリスクを評価した報告では,6%(6/100例)の患者の血液培養が陽性であったが,いずれの患者も感染症を認めなかったとしている 18).また,Levyらの502例の検討では,そのうち411例の患者で予防的抗菌薬投与を受けていなかったが,偶発症としての感染症は認めていない 19).しかし,類似の手技である経直腸的前立腺生検においては,予防的抗菌薬投与の有用性が報告されている 20),21).これらのことから,結腸・直腸周囲病変に対するEUS-FNA時の予防的抗菌薬投与の是非に関してはいまだ明確にされておらず,今後のさらなるデータ集積が必要である(EUS-FNA施行時の予防的抗菌薬投与に関してはCQ11を参照).
CQ7:自己免疫性膵炎の診断にEUS-FNAを行うことは推奨されるか?
ステートメント:自己免疫性膵炎の病理組織学的診断のためにEUS-FNBを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は,1995年にYoshidaらによって初めて報告され 1),多くの症例は硬化性胆管炎や唾液腺炎などの他臓器病変を合併していることからIgG4関連疾患(IgG4-related disease)の膵病変と考えられている 2).超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)は,画像診断のみならず,EUS-FNAによる病理組織学的診断にも用いられ,AIP診断における必要な検査手技の1つである.自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(診断基準2018)は国際コンセンサス診断基準(international consensus diagnostic criteria:ICDC) 3)を基に作成されており 4),画像診断や病理診断の組み合わせで診断されることから,EUSによって得られる所見はAIPの診断において極めて重要である.
ICDCや診断基準2018では,病理組織学的診断における4項目中3項目の陽性が認められればAIPの確定診断が得られる 3),4).しかし,ICDCによると,EUS-FNAでは十分な組織量を得ることが困難であるため,AIPの病理組織学的診断にはコア生検や切除で得られた病理組織のみが適しているとされている 3),5).しかし,近年,AIPの病理組織学的診断におけるEUS-FNAの有用性が多数報告されている 6)~10).Ishikawaら 7)は,1型および2型AIP,特にIgG4陰性AIPにおけるEUS-FNAによる病理組織学的診断の有用性を報告した.Kannoら 8)は,EUS-FNAによって得られた組織を用いてAIPの病理診断を行ったところ,20/25例(80%)でICDCの病理組織学的診断基準に合致したことを報告した.Morishimaら 9)とKannoら 10)は,多施設前向き研究によって,EUS-FNAによるAIPの病理組織診断の有用性を報告した.近年,EUS-FNAの普及とFNB針の開発によって 11),12)得られる病理標本の質が向上した.Facciorussoらのメタアナリシスでは,FNB針を用いたAIPの組織学的診断の感度[54.7%(95%CI:40.9~68.4%)]が,FNA針によるAIPの組織学的診断の感度[45.7%(95%CI:26.5~65%)]より高いことが報告された 13).Yoonらも,メタアナリシスによってFNB針によるAIPの組織学的診断の感度[87.2%(95%CI:68.8~98.1%)]が,FNA針による感度[55.8%(95%CI:37.0~73.9%)]と比較して有意に高いことを報告した 14).Chhodaらは,20編617例のデータから,FNB針を用いたAIPの病理組織学的診断において,診断に十分な量の組織採取率(96.8% vs. 79.8%,p=0.016)と病理組織学的正診率(60.20% vs. 42.02%,p<0.0001)が有意に高いことを示した 15).よって,近年ではFNB針を用いてAIPの病理組織学的診断が行われることが多い.
また,穿刺針径に関して,Yoonらはメタアナリシスの結果から19G穿刺針のほうが22Gと比較し有意に診断能が高くなることを示した 14).しかし,Yoonらのメタアナリシスは,FNA針,FNB針,Tru-Cut針など様々な穿刺針を含んだ検討であり判断が難しい.Kuritaらは,AIPの病理組織学的診断における22Gのフランシーン針と20Gフォワードベベル針を用いたRCTを行ったところ,細径である22Gフランシーン針を用いて採取した検体のほうが,AIPの病理組織学的診断に適していることを報告した 16).よって,現時点で穿刺針径に関する一定の方向性を示すことは難しい.
AIPの診断には,hematoxylin and eosin(H&E)染色の他に,免疫染色などを用いて多角的に診断することが非常に重要である.IgG4免疫染色によるIgG4陽性形質細胞の有無は,診断基準における病理組織学的項目の診断上も必須である 3),4),17).H&E染色では閉塞性静脈炎を確認できない場合が多いため,弾性線維を染色するElastica-Masson染色やElastin van Gieson染色が血管を認識しやすくすることによって閉塞性静脈炎の有無を診断する.
現在,FNB針の開発や病理診断のガイダンスの作成 17)などにより,1型AIPの病理組織学的診断は発展してきたが,2型AIPの病理組織学的診断は難しい.Morishimaらは,EUS-FNAによって2型AIP患者4例中3例を病理組織学的に診断可能であったと報告したが 9),Kannoらは,EUS-FNAによって病理組織学的に診断できた20例中,granulocyte epithelial lesion(GEL)が確認できた症例は1例のみであったと報告した 10).2型AIPは稀であり,なおかつIgG4関連疾患ではないこと,さらに組織標本でGELを証明することが非常に困難であることから,2型AIP症例を集積しEUS-FNAを用いた2型AIPの病理診断について検討することが望まれる.
限局型AIPの診断には,診断基準上の腫瘍細胞を認めないことを証明するためにも,EUS-FNAが行われることは勧められる.一方,びまん型AIPの診断は,画像診断によるびまん性膵腫大の他に,血清IgG4高値や膵外病変の存在のみで診断可能であり,病理学的診断は必ずしも求められていない.しかし,しばしば診断に迷う症例にも遭遇すること 18),近年AIPと膵癌の関連も報告されつつあることから 19),20),可能な限り病理学的診断を行うことが求められる.
CQ8:径20mm以下の消化管粘膜下病変の病理診断にEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:径20mm以下の消化管粘膜下病変に対するEUS-FNAの診断能は十分ではないが,治療方針の決定に有用であり,行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
本邦において,消化管粘膜上皮の表面に腫瘍が露出していない病変は「粘膜下腫瘍(あるいは腫瘤):submucosal tumor(SMT)」と称されてきた.しかし,粘膜層由来の腫瘍でも,粘膜固有層や粘膜筋板由来の場合にはSMTと同様の内視鏡所見を呈することや,SMTに含まれる病変には腫瘍以外のものも含まれることから,近年「粘膜下(上皮下)病変(SEL)」の名称が一般的となった 1).SELには,gastrointestinal stromal tumor(GIST),平滑筋腫,神経鞘腫,異所性膵,脂肪腫,囊胞,リンパ管腫,粘膜下で発育する癌,悪性リンパ腫,神経内分泌腫瘍など,様々な病変が含まれる.これらSELに対する画像診断としてEUSが有用であり,病変の主座やエコーパターンから診断が推定できることも多い 1).特に,無エコーを呈する囊胞や高エコーを呈する脂肪腫の診断は比較的容易である.しかし,粘膜下層あるいは筋層由来の低エコーSELの鑑別診断はEUSの画像診断のみでは困難であり,病理診断が検討される.
SELから病理診断を得る際に大きさが重要であり,20mmが基準とされている.一般的に径20mm以下のSELは悪性度が低いとされており,特に食道SELでは良性である平滑筋腫の頻度が高い.しかし,胃SELで最も頻度が高いGISTは径20mm以下でも転移例の報告があり,GIST診療ガイドライン第4版では,径「2cm未満の胃GISTに対して,外科切除を行うことを弱く推奨する」とされている 2).したがって,GISTを疑う筋層由来の低エコーSELの診断には内視鏡下の組織採取が重要であり,悪性疾患と診断されれば外科的切除や化学療法が選択され,良性疾患と診断されれば不要な治療をせずに経過観察を行うことができる.SELの内視鏡下の組織採取法は,腫瘍が粘膜表面に露出していない場合には,ボーリング生検,EUS-FNA,粘膜切開生検が行われている.
EUS-FNAは,手技に伴う有害事象発生率が低く,十分な検体を採取できれば免疫組織化学染色が可能である点で有用である 2).しかし,SELに対するEUS-FNAは,穿刺時に消化管壁と一緒に病変が逃げてしまうことがあったり,穿刺をできても病変内で針を動かすことが難しいことがあったりする理由から,膵腫瘤と比べると検体採取率が低いとされてきた.また,GISTの診断には免疫組織化学染色が必須であり,膵腫瘤以上に充分量の検体採取が要求される.このような課題を克服するために,EUSスコープ,穿刺針,採取方法の改良がされてきた.EUSスコープは,従来型のコンベックススコープの他に,直視型コンベックススコープの有用性が報告されている 1),3),4).Yamabeらは,直視型コンベックススコープの先端に装着したフードでSELを吸引することで確実な穿刺が可能であり,径15mm以下のSELにおける検体採取率が87.5%と報告した 4).また,穿刺針に関しては,従来のFNA針の先端形状を工夫することで質と量に優れた検体を採取できるFNB針が開発された.FNB針には側孔付き針,フランシーン針,フォークチップ針があるが,フランシーン針とフォークチップ針が新規FNB針と称され,2cm以下のSELに対する有用性が報告されている 5)~12).採取方法も,従来の吸引法の他に,穿刺針内を生理食塩液で満たすwet-suction法,スタイレットを引き抜きながら穿刺針を前後させるslow-pull法などの工夫が行われている 12),13).
SELのEUS-FNAに関するメタアナリシスは,これまで3編の報告 14)~16)があるが,径20mm以下のSELに対するEUS-FNAの有用性のエビデンスはない.また,「GIST診療ガイドライン」第4版 2)には「GISTが疑われる患者の確定診断にEUS-FNAを行うことを弱く推奨する」とあるが,EUS-FNAを使用する病変の大きさの規定はない.これまでの径20mm以下のSELに対するEUS-FNAの正診率は50~90.9%と報告されているが,記述的研究や分析疫学的研究のみである 6)~11),17)~19).なお,この中で最も症例数が多いAkahoshiらの90例の検体採取率は62.2%と十分ではなかったが,使用された穿刺針はFNA針のみであった 17).また,Inoueらは,FNA針とFNB針を合わせた後方視的研究の中で傾向スコアマッチングを行い,正診率は20mm以下のSELで有意に低かった(66.7% vs. 96.7%,p=0.004) 7).一方,Sekineらの報告では,20mm以上ではFNA針とFNB針で正診率に差がなかった(75% vs. 77.8%,p=0.606)が,径20mm未満ではFNB針の正診率が有意に高かった(72.7% vs. 100%,p=0.025) 10).Nagaiらは,径20mm以下のSELにおいて,FNA針をヒストリカルコントロールとした場合,FNB針の検体採取率が有意に高かったと報告した(45.4% vs. 81.1%,p=0.003) 20).これら少数例の後方視的研究のみであるが,FNB針を使用することで径20mm以下のSELでも検体採取率や正診率が向上することが示唆された.
これまで述べてきたように,径20mm以下のSELに対するEUS-FNAの検体採取率および正診率は十分とはいえない.しかし,病理診断が確定すれば,治療方針の決定が可能である.したがって,径20mm以下のSELの病理診断にEUS-FNAを行うことを提案する.今後新規FNB針や直視型コンベックススコープの使用などの手技の工夫で,径20mm以下のSELのEUS-FNAにおける検体採取率や正診率の向上が期待される.ただし,胃以外の臓器である食道や十二指腸,大腸に存在する径20mm以下のSELに対するEUS-FNAの有用性の検証は,さらなる症例の集積が必要である.
[注釈]
検体採取率:評価可能な検体が採取された割合
正診率:評価不可能な検体も含め,最終診断がEUS-FNAでの病理診断と合致した割合
CQ9:原因不明のリンパ節腫大の診断においてEUS-FNAは推奨されるか?
ステートメント:原因不明のリンパ節腫大の診断のためにEUS-FNAを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
縦隔・腹腔内の腫大リンパ節は,膵腫瘍・消化管粘膜下腫瘍と並ぶ主な対象病変である.腫大リンパ節に対するEUS-FNAの適応は,①原因不明のリンパ節腫大の鑑別診断,②悪性腫瘍の病期診断,③悪性腫瘍の治療後の再発診断などであり,穿刺ラインが確保できれば非常に有用とされている.原因不明の腫大リンパ節においては,良性疾患ではサルコイドーシスや結核が,悪性疾患では癌の転移や悪性リンパ腫などが鑑別すべき疾患として挙げられる.リンパ節腫大があるがその原因が不明な場合,または,リンパ節腫大の原因を疑う疾患はあるものの,鑑別や治療方針の決定に病理学的確定診断が必要となる場合等,原因不明の腫大リンパ節に対するEUS-FNAの有用性についてはいくつかの報告がある.
Catalanoらは原因が不明な縦隔リンパ節腫大62例に対してEUS-FNAを行い,56例(90%)が診断可能で,その結果54例(87%)の治療方針に影響を与えることができたと報告している 1).Yasudaらは104例の原因不明の腹腔内腫大リンパ節に対してEUS-FNAを行い,48例をリンパ腫,16例を悪性転移性病変,40例を良性あるいは反応性腫大と診断し,全体として正診率は98%であり,リンパ腫の亜型分類も88%において可能であったと報告している 2).またNakaharaらは腹腔内リンパ節腫大57例に対して22G針でEUS-FNAを施行し,術後再発,悪性リンパ腫,良性リンパ節などの診断ができ,感度94%,特異度100%,正診率は96%であったと報告している 3).
穿刺針については,良悪性の鑑別であれば22Gまたは25G針で十分に診断が可能であるが,悪性リンパ腫やサルコイドーシスなどの組織学的診断を行うためにより多くの検体採取が必要とされる場合には,19G針や複数回の穿刺が有効である.
傍大動脈リンパ節の腫大においては,EUS-FNAが可能であることもあるが部位や大きさによって困難な場合もみられる 4).
FNA施行時に吸引法を用いる有用性については,吸引法は正診率には寄与せず,むしろ陰圧をかけると血液混入が多くなるとの報告がある 5).また,リンパ節の穿刺部位については,中心部あるいは辺縁部いずれでも正診率は変わらないと報告されている 5).
偶発症については,通常のEUS-FNAと同様に出血・穿孔・感染などが挙げられる.腫大リンパ節に対するEUS-FNAで臨床的に問題となるような出血・感染・穿孔を生じた頻度は0~1.1%と報告されており比較的安全な手技といえる 6).しかし,胃癌のリンパ節転移に対してEUS-FNAを行い,needle tract seedingによる播種が生じたという報告もあり注意が必要である 7).
BQ3:EUS-FNAの禁忌は何か?
ステートメント:EUS-FNAの禁忌は安全に穿刺できない症例(出血傾向を有する症例,安全な穿刺経路を確保できない症例,穿刺によって偶発症が懸念される病変)である.
解説:
安全に穿刺できない症例(出血傾向を有する症例,安全な穿刺経路を確保できない症例,穿刺によって偶発症が懸念される病変)はEUS-FNAの禁忌とされている.
出血傾向を有する患者は状態が改善すれば禁忌ではなくなると考えられる.抗血栓薬内服中の症例に関してはEUS-FNAは「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1)において出血高危険度の手技に含まれており,ガイドラインに準拠する必要がある(CQ10を参照).
また,安全な穿刺経路を確保できない症例とは穿刺経路に血管が介在する症例,穿刺経路に腹水を有する症例などである.腹水は少量であれば実施されることもあるが,安全性は確立していない.安全な穿刺経路を確保できない場合には他の方法での組織採取を検討したり,高度医療施設に紹介したりするなどの対応が望ましい.
穿刺によって偶発症が懸念される病変とはパラガングリオーマや褐色細胞腫が疑われる病変である.これらの腫瘍は生検に伴い高血圧クリーゼが誘発されることがあるため基本的には禁忌と考える.褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインにおいても診療アルゴリズムの中には生検は記載されていない 2).しかし,他の腫瘍との鑑別のため組織採取が必要な場合には十分安全に配慮して行う必要がある.
BQ4:EUS-FNAの偶発症にはどのようなものがあるか?
ステートメント:EUS-FNAの偶発症として,穿刺に伴う出血・腹痛・膵炎・膵液漏・感染・穿刺経路の腫瘍細胞播種,スコープによる消化管穿孔などがある.
解説:
これまでEUS-FNAに関しては非常に多くの報告がある.しかし,偶発症が少数例のため多くのRCTのうち安全性を評価するために検討され,十分な検出力を有する報告はほとんどない.2016年のメタアナリシスではEUS-FNAの偶発症において出血,腹痛,膵炎,誤嚥性肺炎等が報告された 1).その他,稀ではあるが感染・菌血症(4~5.8%),穿孔(0.02%)の報告も認める 2)~7).2011年のシステマティックレビューによると22GでEUS-FNAを施行した10,941例のうち膵炎/術後疼痛がそれぞれ0.44%(36/8,246)/0.34%(37/10,941)で認められ,それぞれの偶発症の中で占める割合は33.64%(36/107)/34.58%(37/107)であった.死亡率は0.02%(2/10,941)と報告している 4).発熱に関しては0.4~1%で認められる 8),9).以前の報告では4%程度で軽症な出血が認められたが 8),その後の多数例のシステマティックレビューの報告では0.13%(14/10,941)と稀な偶発症として報告されている 4).出血において低分子ヘパリンの使用は未使用に比べて有意に出血を高めるため注意が必要である(33.3% vs. 3.7%,p=0.023) 10).感染に関しては,縦隔囊胞穿刺の場合は感染により縦隔炎になるためより注意が必要である 11)~13).
その他膵病変以外の穿刺に関しては,直腸周囲病変の穿刺症例で193例中1例(0.52%)に肛門周囲膿瘍を認めた 4).また,少数での検討ではあるが骨盤内の囊胞性腫瘤の穿刺において,2例(7%)で骨盤内膿瘍を来した 14).最近のリンパ節病変に限ってのメタアナリシスでは,FNA針・FNB針に関わらず手技関連偶発症は認めなかった 15).胃粘膜下腫瘍に対しては,22GのFNB針とFNA針では偶発症に変わりはなかった 16).EUS下肝生検では2.3%に偶発症を認めた 17)~19).最近のメタアナリシスでは,痛み・出血・発熱・胆汁漏・死亡の偶発症があり,FNA針よりFNB針のほうが有意に高値であった(1% vs. 6%,p=0.028) 20).EUS下肝生検時の出血の対応として“blood patch”により止血する方法がある 21).EUS下腹腔神経叢ブロックの場合は,経皮的なブロックと同様に下痢(4~15%),起立性低血圧(1%),一時的な痛みの増悪(9%),膿瘍形成を偶発症として認める 22),23).
主に膵病変に対してではあるが,穿刺針径や種類と偶発症に関しても様々な報告がある.多くの症例ではFNA針とFNB針では偶発症は変わらなかった 11),24)~26).穿刺径に関しては,25Gのほうが22Gより偶発症が少ないとの報告がある(3.2% vs. 10.6%) 27),一方で,多くの報告では25Gと22Gでは偶発症は変わらなかったとしている 28)~34).19Gと22Gにおいても,偶発症は変わらなかった[5.84%(95%CI:0.88~13.64%)and 2.38%(95%CI:1.38~3.63%)] 35).穿刺回数と偶発症に関しては,複数穿刺と単回穿刺では変わらなかったと報告している[2.17%(95%CI:1.21~3.40%)and 3.45%(95%CI:1.41~6.33%)] 35).
鎮静に関しては本邦より「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」が提唱されている 36).鎮静を併用することによる偶発症としては,呼吸抑制,循環抑制,徐脈,不整脈,前向性健忘,脱抑制,吃逆などが挙げられる.鎮静に関連したものは偶発症472件のうち鎮静に関連した偶発症は219件(46.5%),鎮静に関連した死亡数は前処置関連死亡9件中4件(44.4%)である.総検査件数から換算すると偶発症率0.0013%,死亡率0.000023%とされ,以前の報告と比較しても減少傾向ではあるが死亡例も依然として報告されている 37).また,極めて稀ではあるが低酸素血症や低血圧による致死的となる可能性があるため,事前の患者評価,内視鏡医の麻酔薬/鎮静薬や救命救急処置に関する知識,術中および術後のモニタリング,酸素吸入器や救急カートなど十分な事前の準備が必要である.全身状態の評価には,ASA術前評価分類[ASA physical status(PS)classification]の有用性が報告されており,ASA-PS分類Ⅲ以上の患者では,麻酔科へのコンサルテーションなど慎重な対応が求められる.特に注意すべき疾患を以下に示す.重度の慢性呼吸不全(COPDおよび睡眠時無呼吸症候群)の患者では過鎮静により呼吸数低下でCO2ナルコーシスに注意する 38).虚血性心疾患を伴う患者に対して長時間の検査は狭心症発作や心不全の原因となる 39).慢性腎不全(GFR 60mL/分/1.73m2以下)の腎機能低下患者では,肝代謝のプロポフォールなどの使用が推奨される 40).肝硬変患者では過鎮静が肝性脳症の発症リスクとなるため中等度鎮静が望ましい 41).重症筋無力症は神経筋接合部のシナプス伝導が障害されている自己免疫疾患であるため,ベンゾジアゼピン系薬剤は筋弛緩作用を有するため禁忌となる.プロポフォールについては,神経筋接合部に影響を与えず短時間作用のため有用性が報告されている 42).妊娠患者では鎮静薬による胎児の影響(低酸素血症,血圧低下,催奇形など)を考慮し,可能であれば延期すべきである.鎮静薬の妊婦への安全性の評価については,FDAのカテゴリーB(比較的安全)に麻酔科医によるプロポフォール,カテゴリーDにミダゾラムが分類されている.ジアゼパムについては,口蓋裂との関連も報告されていて推奨されない 43).
CQ10:抗血栓薬内服中の患者に対するEUS-FNA時の推奨される対応は何か?
ステートメント:抗血栓薬内服中の患者に対するEUS-FNAは,「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」の,出血高危険度の内視鏡処置に準拠し施行することを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
2012年に本邦で発表された「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1),さらに2016年に改訂された英国消化器病学会(BSG)とESGEによる抗血栓薬内服患者に対する内視鏡のガイドライン 2)において,EUS-FNAは出血高危険度の消化器内視鏡検査として分類されている.しかし,抗血栓薬療法とEUS-FNA後の出血リスクに関する研究は少なく,関連性のエビデンスは十分には確立されていない.
抗血栓薬の内服有無によらず,EUS-FNA後の出血リスクは,0.1~0.9%と報告されており 2)~7),本邦では一般的ではないが,膵囊胞に対するEUS-FNAは比較的出血リスクが高いと報告されている 2),8).
抗血栓療法とEUS-FNA後の出血リスクを検討した多施設前向き研究が本邦より1つ報告されており,85例の血栓症高リスク患者のうち,ガイドラインに準拠してチエノピリジン系薬剤とワルファリン系薬剤をそれぞれ事前に中止したにも関わらず,2名の患者(2.4%)が出血事象を経験し,1例は血胸で外科手術を要した,と報告されている 9).
抗血栓療法とEUS-FNA後の出血に関する後ろ向きのコホート研究はいくつかあるが,結果は様々である.Nagataら 10)は,術前にワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)を服用している患者に対するEUS-FNAは中等度の消化管出血のリスクと結論付けている.その一方で,Inoueら 3)は,抗血栓薬を投与された患者へのEUS-FNA後の出血イベントに関して,抗血栓薬別のサブグループ解析では,非投与群1.0%(6/611),中止群0%(0/62),アスピリンまたはシロスタゾール継続群1.6%(1/61),ヘパリン置換群0%(0/8)であり,抗血栓療法を受けている患者におけるEUS-FNA関連出血の発生率は低かったと報告している.
以上を踏まえ,抗血栓薬内服中の患者に対するEUS-FNAに関しては,出血高危険度の内視鏡処置として,「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1),およびDOACについての記載を追加した追補 11)に準拠した対応が望ましいと考える.具体的には,個々の患者において,血栓塞栓症リスクを検討し,低リスクであれば,各専門科にコンサルトのうえ休薬し,高リスクであればガイドラインに準拠した抗血栓薬の短期休薬,もしくは継続をしながら実施するべきである.なお,DOACについては,ガイドライン追補において,ヘパリン置換は推奨されず,短期間の休薬が推奨されるようになった点に留意が必要である.
CQ11:EUS-FNA施行時に抗菌薬投与は推奨されるか?
ステートメント:EUS-FNA施行時の予防的抗菌薬投与は,下部消化管経由の病変以外は行わないことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値5,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:D
解説:
EUS-FNA臨床応用初期に囊胞性病変穿刺後の出血や感染が14%と報告され 1),予防的抗菌薬が慣習的に使用されてきた.しかし,近年では,EUS-FNAによる穿刺部位における感染の合併は稀であることが報告され 2),予防的抗菌薬投与は耐性菌リスクや医療経済的観点から望ましくない可能性がある.
上部消化管を経由したEUS-FNAの対象臓器は膵臓,消化管粘膜下病変,リンパ節,肝臓,胆管,胆囊などである.膵充実性病変は囊胞性病変よりも感染症リスクが低いと報告されている 2).膵充実性病変を対象とした前向き研究 3)では,穿刺部感染は355例中2例(0.56%),また,膵臓以外の病変も含んだ後ろ向き研究 4)では,327例中1例(0.3%)であった.膵充実性腫瘤に対する本邦多施設前向き研究 5)では,246例で感染合併は認めなかった.これらのエビデンスを基に,ASGE 6)~9),ESGE 10)でも,充実性腫瘤,リンパ節のEUS-FNAに対する予防的抗菌薬投与を推奨していない.
下部消化管経由のFNAの場合は腸管内の豊富な腸内細菌による穿刺部感染リスクが懸念されるが,充実性腫瘤に対するEUS-FNA直後(15分後)の血液培養を行った研究 11)では,細菌の検出率は上部消化管経由 12)と差がないことが示されている.直腸周囲病変へのEUS-FNAに関するシステマティックレビューでは,感染合併は193例中1例(0.5%)であった 13).同様に前向き研究では予防的抗菌薬非投与群411例で感染合併はなく 14),別の前向き研究でも菌血症は471例中2例(0.4%)であった 11).米国消化器病学会(American College of Gastroenterology:ACG)では下部消化管経由の充実性病変については,抗菌薬投与は推奨していない.その一方で,経直腸的前立腺針生検後の発熱性感染症の発生頻度は0.54~1.40%であり,予防的抗菌薬により発熱を含む感染症,尿培養陽性率,菌血症が減少すると報告 15)~17),日本泌尿器科学会ガイドラインでは予防的抗菌薬を推奨している 18).下部消化管経由のFNAにおける予防的抗菌薬投与の可否について統一的な推奨は難しい.
囊胞性膵腫瘍に対するEUS-FNAの感染合併は0~5.8%であり,感染合併予防効果は乏しいと報告 19)~26)されているが,予防的抗菌薬を投与すべきでないというエビデンスも乏しい.欧州 10),米国 6)~9)ともに,膵囊胞性および膵周囲囊胞性病変に対するEUS-FNAでは,予防的抗菌薬投与を弱く推奨しているが,RCT 20)では抗菌薬の優位性は認められなかった.
肝臓,胆管,胆囊に対するEUS-FNAの予防的抗菌薬に関する質の高い研究はない.システマティックレビューで肝臓に対するEUS-FNAの感染合併は344例中1例(0.2%),胆管は,38例中感染合併なしであり,感染リスクは低いと考えられる 13).胆囊については十分なデータがなく,予防的抗菌薬の有用性は不明であった.
予防的抗菌薬の投与期間や種類に関する質の高い研究はないが,投与期間については,処置前後3~5日間 26)や直前単回投与 27),28)の有用性が報告されている.欧州ガイドライン 10)では,囊胞性病変のFNAの予防的抗菌薬として腸内細菌を想定してフルオロキノロン系またはβ-ラクタム系抗菌薬を提案している.
作成委員および評価委員のうち14名によるエキスパートオピニオンでは,予防的抗菌薬を全例投与する施設は35.7%,症例により検討42.9%,全例非投与21.4%と大きく意見が分かれた.投与を勧める対象疾患・経路として経直腸穿刺71.4%,膵囊胞性腫瘍64.2%,縦隔病変57.1%,膵充実性腫瘤35.7%が挙げられた.抗菌薬の種類は第2世代セフェム系が多く72.7%,投与方法は経静脈的に検査直前45.5%,複数回投与27.2%,経口投与18.1%であった.回答者における局所感染合併症の経験については経直腸病変6名,縦隔囊胞3名,膵臓病変3名,副脾・気管支原性囊胞各1名,経験なし2名であった.
以上より,現時点でEUS-FNA施行時の予防的抗菌薬投与を強く推奨するエビデンスは乏しい.エキスパートオピニオンを基に,下部消化管経由のEUS-FNAについては,予防的抗菌薬投与を提案するが,それ以外の病変については,予防的抗菌薬投与の有用性は確立されておらず,行わないことを提案するとした.
FRQ4:EUS-FNAとERCPによる胆道ドレナージを同日に施行することは許容されるか?
ステートメント:EUS-FNAとERCPによる胆道ドレナージを同日に施行することは入院期間短縮やコスト削減などの有用性が報告されているため施行してもよい.ただし,処置時間や安全性を考慮した慎重な判断が術者には求められる.
解説:
EUS-FNAとERCPによる胆道ドレナージを同日に行うことは,腫瘍の組織診断・病期診断と減黄処置のいずれもが一度の内視鏡セッションで行われるため合理的であり,入院期間の短縮とコスト削減も可能となり,臨床面と経済面のいずれにも有用性がある.
安全性に関してはEUS-FNAとERCPを同時に実施した際の偶発症の発生率は0~11%と報告されており,偶発症の内訳としては膵炎,胆管炎,胆道出血,胆汁性腹膜炎が報告されている 1)~6).ただし,いずれの報告も主な偶発症はERCPによるものであり,EUS-FNAを同日に施行する影響が存在するかは明らかではない.EUS-FNAとERCPを同日に行った群と日を改めて行った群を比較した論文では,両群における偶発症の発生率,手技時間,鎮静剤の使用量と鎮静の有害事象の発生率において差を認めなかった 7)ため,両手技を同日に行うことによる明らかな偶発症リスクの増悪は少ないと判断される.
また,入院期間と入院費用の検討では,EUS-FNAとERCPを同日に行った群の平均入院期間は4.2日,平均入院費用は3,394ユーロであったと報告されており,日を改めて行った群の平均入院期間8.6日,平均入院費用3,904ユーロと比較して優れていた 8)ことからも,EUS-FNAとERCPによる胆道ドレナージを同日に施行することは安全性と,入院期間の短縮,コスト削減など,臨床面および経済面の有用性から許容されると判断される.
ただし,病変の部位によっては,EUS-FNAは難易度が高くなるため長時間を要することもあり,確実な組織摂取を目指し複数穿刺を行っているうちに患者の体動が激しくなることも経験される.そのような症例に無理をして同日にERCPを行うことは,予期せぬ偶発症を引き起こして患者に不利益が生じる可能性がある.術者にはEUS-FNAとERCPによる胆道ドレナージを同日に行うメリットは理解したうえで,処置時間や安全性を考慮して慎重に判断する姿勢が求められる.
BQ5:EUS-FNAのインフォームド・コンセントにおいて伝えるべき情報は何か?
ステートメント:EUS-FNAのインフォームド・コンセントの際には,疑われる疾患名,検査の目的・方法・必要性・成績,起こりうる偶発症の内容・頻度・対処法,検査を受けることによるメリットとデメリット,代替検査とその長所・短所,検査の提案を受け入れない場合に予想される事態について分かりやすく伝える.
解説:
検査のインフォームド・コンセントに際しては,「自己決定権」の必要性から患者本人への告知・説明が原則として必須となる(患者本人に判断能力がない場合は家族などの代理人が代諾者となりうる).インフォームド・コンセントに含むべき内容として,①疑われる疾患名(複数ある場合は列挙する),②検査の目的(鑑別診断・確定診断など),③検査の具体的な方法(患者が理解しやすいように図やシェーマを適宜用いて分かりやすく説明する),④どうしてこの検査が必要か,⑤診断成績(文献的データおよび可能な限り自験データを示す),⑥検査の結果を踏まえてその後の治療を含めた方針がどうなるか,⑦起こりうる偶発症の内容とその頻度,偶発症が発生した場合の対応,⑧検査の結果からどういった利益が期待されるか,逆にどういったデメリットが生じうるか,⑨代替となりうる検査法とそれぞれの検査法をEUS-FNAと比較した場合の利点と欠点,⑩検査の提案を受け入れない場合に予想される事態,について伝える.なお,インフォームド・コンセントは口頭ではなく,書面を用いて説明し,患者の十分な理解が得られたことを確信したのち説明医師と患者が承諾書に署名する.また,家人や看護師が同席した際には同様に署名を求める 1).
3.EUS-FNAの診断能BQ6:EUS-FNAの診断能はどのくらいか?
ステートメント:EUS-FNAの感度,特異度,正診率は概ね90%以上と診断能は高い.
解説:
膵腫瘤に対するEUS-FNAの診断能に関する4編のメタアナリシスの統合感度は85~92%,統合特異度は96~98%,診断オッズ比は125.2~168.3であった(Table 6) 1)~4).原因不明の腹腔内リンパ節腫脹に対するEUS-FNAの診断能のメタアナリシスでは,統合感度は94%(95%CI:91~96%),統合特異度は98%(95%CI:96~99%),診断オッズ比は277.8(95%CI:97.7~790.5)と報告されている 5).
膵腫瘍に対するEUS-FNAの診断能.
一方で,自己免疫性膵炎に対するEUS-FNAの診断能のメタアナリシスでは,統合感度は54.7%(95%CI:40.9~68.4%),組織採取率は85.4%(95%CI:79.3~91.5%)と報告され,診断率はやや低い 6).これは自己免疫性膵炎の診断には免疫染色が必要となりそのためには十分な量の検体採取が必要であるためである.FNB針とFNA針を比較したメタアナリシスで検体採取率86~97% vs. 77~91%,統合感度63~87% vs. 42~56%と報告されており,FNB針で高い診断能が報告されている(Table 7) 6)~8).
自己免疫性膵炎に対するEUS-FNAの診断能.
また,SELに対するEUS-FNAのメタアナリシス(FNA針の使用も含む)では統合診断率は59.9%とやや低い 9).SELの鑑別にも免疫染色が必要であるためである.FNB針とFNA針を比較したメタアナリシスにて,検体採取率94.9% vs. 80.6%,組織学的コア採取率89.7% vs. 65%,正診率87.9% vs. 64%とFNB針で高い診断能が報告され,診断能も向上してきている(Table 8) 10).
粘膜下腫瘍に対するEUS-FNAの診断能.
胆管や胆囊などの胆道疾患に対するEUS-FNAに関しては,膵腫瘤と比べて少ないが有用性の報告がされている.悪性胆道狭窄に対するEUS-FNAのメタアナリシスでは,統合感度は80%(95%CI:74~86),統合特異度は97%(95%CI:94~99),診断オッズ比は70.5(95%CI:38.6~128.8)と報告されている 11).また,de Mouraらは悪性胆管狭窄に対してEUS-FNAとERCPを同日に施行しEUS-FNAとERCPの感度,正診率はそれぞれ76% vs. 58%,94.5% vs. 78.1%であり,2つの検査を組み合わせることで感度が86%,正診率が96.5%に向上したと報告している 12).胆囊に対するEUS-FNAも試みられてはいるがエビデンスの高い報告はいまだない.
さらに,EUS-FNAに超音波造影剤を併用することによる診断能向上が報告されている.超音波造影剤を用いて腫瘤内の血流動態を評価することで,EUSのみでは鑑別できなかった腫瘍部分・炎症部分・壊死部分の鑑別など適切な穿刺部分を同定し,診断精度を高めることに寄与する可能性がある.SugimotoらによるRCTでは,超音波造影剤併用EUS-FNA(CE-EUS-FNA)では非併用と比較して診断を得るための穿刺回数が少なくなることが示された 13).しかし,別のRCTではCE-EUS-FNAの感度85.3%,EUS-FNAの感度88.3%で有意差はなく,CE-EUS-FNA群ではほとんどの患者が,従来のEUS-FNA群ではすべての患者が穿刺回数3回で診断を得ており,差を認めなかった 14).今後は適応病変を選択した検討が望まれる.
CQ12:膵充実性病変の診断のために,EUS-FNAはERCPや腹部US,腹部CTによる病理診断法と比較して推奨されるか?
ステートメント:膵充実性病変に対する病理組織学的診断の際には,他の方法と比較してEUS-FNAを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
膵充実性病変に対するEUS-FNAを用いた病理組織学的検討のメタアナリシスによると,感度84~92%,特異度96~98%,正診率86~91%と極めて高く,膵腫瘍の診断には有用な検査法として確立されている 1)~3).EUS-FNAが普及する以前は,体表からの超音波ガイド下穿刺生検(ultrasound-guided FNA:US-FNA)も行われており,感度62~99%,特異度94.7~100%,正診率71~98.7%と高い診断能が示されている 4)~9).CTガイド下穿刺生検(CT-guided FNA:CT-FNA)も,感度62~99%,特異度94.7~100%,正診率71~98.7%と他の2つの検査方法と同様に良好な診断能であった 9)~20).
膵充実性病変に対する病理組織学的診断において,EUS-FNA,US-FNA,CT-FNA,開腹下生検の比較に関して,RCT 1編 9),後ろ向き検討1編 20)が報告されている.RCTでは,US-FNAもしくはCT-FNAの感度が62%であったのに対し,EUS-FNAの感度が84%であり,EUS-FNAの感度が高かったものの,有意差は認められなかった 9).後ろ向きの検討においても,EUS-FNAにおける病理学的な正診率が76.4%,CTまたはUS-FNAでの病理学的正診率は81.4%,外科的生検の正診率が81.8%と有意差が認められなかった 20).ただし,RCTは2006年,後ろ向きの検討が2002年に発表された論文でEUS-FNAが普及しつつある背景で行われた検討であり,EUS-FNAの非劣性を述べるにとどまる.また,膵癌の病理組織学的診断におけるUS-FNAとEUS-FNAを比較した報告においても,細胞診と組織診をあわせた病理学的正診率は同等であった(93.5% vs. 97.3%,p=0.3672) 8).しかし,近年のEUS-FNAの穿刺針の進歩はめざましく,病理組織学的診断ではFNB針が広く用いられているが,FNB針などを用いたEUS-FNAとUS-FNAやCT-FNAによる病理学的診断能を比較した報告はない.FNA針とFNB針を用いた固形腫瘍の病理組織学的検討を用いたメタアナリシスからは,FNB針が正診率(87% vs. 80%,p=0.02)や組織採取率(80% vs. 62%,p=0.002)で優れていることから 21),現在普及しているFNB針などを用いたEUS-FNAによる膵充実性腫瘍の病理組織学的診断能が高いことが推測される.一方,膵神経内分泌腫瘍に対するEUS-FNAとCT-FNAの病理組織学的診断の比較では 22),感度に差はなかったものの(73.7% vs. 88.9%,p=0.33),EUS-FNAがCT-FNAと比較してより小さい腫瘍を穿刺しており(2.7±0.9cm vs. 6.5±2.1cm,p=0.009),穿刺しにくい膵頭部病変がEUS-FNA群に多く含まれていた(47.4% vs. 11.1%,p=0.035)ことから,EUS-FNAのほうが様々な症例に対応しうると述べられている.時代背景から,現在行われているEUS-FNAとUS-FNAやCT-FNAを比較することは困難であるが,EUSの膵腫瘍描出能や穿刺針の性能向上などを考慮し,膵充実性腫瘍の病理組織学的診断においてEUS-FNAが有用であると考えられる.
EUS-FNAの偶発症に関して,15編の報告を用いたメタアナリシスでは,偶発症の発生率が0.98%(107/10,941) 23),22施設の後ろ向きの検討では,1.72%(234/13,566)と報告されており 24),約1~2%の発生率である.US-FNAの偶発症に関して,0.2~18%と報告によって差があるものの 4)~9),痛みなどの頻度がEUS-FNAと比較して高い.CT-FNAの偶発症に関する報告は,痛みなども含めると7.4~29.2%と高かった 18),19).以上から,偶発症の観点からもEUS-FNAはUS-FNAやCT-FNAと比較して安全に施行できる.しかし,病理診断が必須の症例に限り,EUSにて病変の描出が難しい症例や施設の特性上EUS-FNAの施行が難しい場合には,US-FNAやCT-FNAで代替しうる.
膵充実性腫瘍に対するERCPを用いた病理組織学的診断能は,EUS-FNAと比較して低く,膵炎などの偶発症の危険性も高いことから積極的に行われることは少ない 25)~27).しかし,ERCPの役割は,EUSで腫瘤が指摘できない膵上皮内癌の診断など 28),29)へ移行しつつある.
CQ13:初回のEUS-FNAで診断ができなかった場合にEUS-FNAの再検は推奨されるか?
ステートメント:膵腫瘤に対する初回のEUS-FNAで診断ができなかった場合にEUS-FNAの再検を提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値4,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
EUS-FNAは消化管・消化管周囲の病変から正確に病理検体を採取することを可能にし,高い診断能が報告されている.さらに,様々なテクニックの検討 1)~4),迅速細胞診(rapid on-site cytological evaluation:ROSE)の併用 5),FNB針の登場 6),7)などにより,その良悪性診断能も向上している.しかし,ある一定の頻度で偽陰性や診断に至らない症例が生じ,そのような症例ではEUS-FNAの再検は選択肢となる.
Eloubeidiら 8)は,膵癌が疑われるが初回のEUS-FNAで診断に至らず,EUS-FNAの再検を行った症例を後方視的に調査しその有用性を検討している.中央値27日の期間を空けてEUS-FNAの再検が24例(全体の4.7%)で施行され,20例で最終診断に至り正診率は84%であった.膵充実性腫瘤に対して初回のEUS-FNAで診断に至らなかった症例におけるEUS-FNA再検の診断能を検討したメタアナリシス 9)が報告されている.この報告では,505症例を含む12編の研究を解析し,その診断能は感度77%(95%CI:66~86%),特異度98%(95%CI:78~100%),陽性尤度比38.9(95%CI:2.8~539.9),陰性尤度比0.23(95%CI:0.14~0.39)であったとしている.検査前確率が73%であった場合には,診断率は99%まで改善し,陰性率を39%まで減らすことが可能であるとした.ROSEの併用の有無により層別化した検討も行われており,ROSEありでは感度83%(95%CI:64~93%)・特異度98%(95%CI:80~100%)であり,ROSEなしでは感度65%(95%CI:57~73%)・特異度94%(95%CI:31~100%)であった.これらの報告からは,初回EUS-FNAで診断に至らなかった膵腫瘤に対してEUS-FNAの再検は有用であり,ROSEの併用は診断能を改善する可能性がある.EUS-FNA再検のタイミングについて検討した報告はなく,エキスパートオピニオンとして17名の本ガイドライン作成委員・評価委員のアンケート調査では,悪性が疑われる腫瘤に対してEUS-FNAを行い陰性であった場合には,結果判明後に中央値1週(range 0.5~4週)で再検を行うとの結果であった.また,再検の際には,EUS-FNBの実施や大口径針への変更を検討する,また,positron emission tomography検査や造影EUSなどの画像検査を追加するなどの意見がみられた.
膵腫瘤に対するEUS-FNAで診断に至らなかった症例に補助的な検査としてK-ras遺伝子変異などの評価を追加することも有用な可能性がある.膵充実性腫瘤に対するEUS-FNA検体を用いK-ras遺伝子変異の評価の有用性を検討したメタアナリシス 10)では,診断に至らなかった症例にK-ras遺伝子変異の解析を行うことにより,偽陽性は10.7%上昇するものの偽陰性が55.6%減少することにより,EUS-FNAの再検の必要性は12.5%から6.8%まで減少させることが可能としており有用な可能性がある.また,近年,早期の膵癌の診断における膵液連続細胞診の有用性が報告されており 11),EUS-FNAの手技的難易度が高い小さな膵病変などでは,膵管を介した検体採取方法が有用な可能性がある.
これらの報告からは,膵腫瘤に対する初回のEUS-FNAにおいて診断に至らなかった場合には,EUS-FNAの再検は提案できる.ROSEの併用やK-ras遺伝子変異の解析の追加などは,診断能を改善する可能性がある.
FRQ5:EUS-FNA検体を用いた遺伝子解析は診断能を向上させるか?
ステートメント:EUS-FNAの病理結果にEUS-FNA検体を用いた遺伝子解析を加えることで診断能は向上する可能性がある.
解説:
膵癌発生には複数の遺伝子変異が多段階的に関与していることが分かっており,頻度の高い遺伝子変異としてK-ras,p53,CDKN2A,SMAD4が挙げられる 1).特にK-ras遺伝子の点変異は膵癌で最も頻繁に生じる後天性の遺伝子変化であり,膵癌全体の75%から90%に存在し,その多くがコドン12の点在変異であると報告されている 2).
これまで膵充実性腫瘍の良悪性診断におけるEUS-FNAの病理診断に対するK-ras遺伝子解析の上乗せ効果を検討した論文は,前向き観察研究が9編,後ろ向き観察研究が3編あり,これらを含めたメタアナリシスが6編存在する 3)~20).Fuccioらは,EUS-FNA検体のみを対象に膵充実性腫瘍の診断におけるK-ras遺伝子解析の有用性について,前向き観察研究8編,膵腫瘍患者合計931例を対象としたメタアナリシスを行い,EUS-FNAの病理診断単独の感度が80.6%(95%CI:72.1~86.9%),特異度97.0%(95%CI:93~99%)であったのに対し,病理診断とK-ras遺伝子解析を併用した際の感度は88.7%(95%CI:83.6~92.4%),特異度が92%(95%CI:3.0~96.5%)と感度が向上していることを報告している 16).また,K-ras遺伝子解析を加えることでEUS-FNA単独と比較し,偽陰性が55.6%減少し,正診率においても併用群が有意差をもって向上したが(p=0.008),偽陽性が10.7%増加したと報告している 16).また,K-ras以外のp53やCDKN2A,SMAD4の遺伝子変異をEUS-FNA検体を用いて測定し,膵癌診断の有用性について検討した報告も3編存在する.しかしながら,p53,CDKN2A,SMAD4の遺伝子変異単独ではK-ras遺伝子変異を超えるようなEUS-FNAの診断能の向上は認められなかった 21)~23).SalekらはEUS-FNA検体にK-ras遺伝子変異に9pと18qヘテロ接合性喪失の遺伝子変異解析を加えることで膵癌診断の感度上昇が認められたと報告している 24).K-ras遺伝子解析は,以前はcell blockを含む組織検体を用いて行われていたが,近年ではliquid based cytologyを始めとする細胞診検体を用いた解析の有用性も報告されている 13).
近年,膵充実性腫瘍の良悪性診断において一度に複数の遺伝子解析が可能なNGSの有用性が報告されている.EUS-FNA検体を用いてNGSを行うことでK-rasだけでなくp53やCDKN2A,SMAD4などの膵癌関連遺伝子を網羅的に解析することでEUS-FNAの膵管癌における正診率が94%まで上昇したとの報告がみられる 25).しかしながら,NGSは1回あたりの検査費用も高額であるため,すべての膵充実性腫瘍の患者に対して診断目的に行うべきかどうかに関しては議論の余地があると思われる.
一方,欧米では膵囊胞性病変に対しても診断目的のEUS-FNAが行われており,遺伝子検査を加えることでその診断能が向上することが報告されている 26)~29).膵囊胞性病変のEUS-FNA検体を用いた遺伝子解析として,K-rasやGNAS遺伝子変異が挙げられる.K-ras遺伝子変異に関してはIPMNやmucinous cystic neoplasm(MCN)といった粘液性の膵囊胞性病変に約40%認められるが,それ以外の膵囊胞性病変ではほとんど認められない 29),30).EUS-FNA検体を用いた粘液性膵囊胞性疾患(IPMNとMCN)の鑑別目的のK-ras遺伝子解析の有用性について検討したメタアナリシスの報告では,細胞診単独では,感度41%(95%CI:24~60%),K-ras遺伝子変異単独では感度39%(95%CI:28~51%)と感度はともに低値であったが,細胞診とK-ras遺伝子変異を併用することで,感度は71%(95%CI:41~93%)と細胞診単独と比較して30%の上乗せ効果が認められ,K-ras遺伝子解析による診断能の向上が期待されている 29).また,IPMNの特異的な遺伝子変異としてGNAS遺伝子変異が挙げられる.GNAS遺伝子変異はIPMNの約40~60%に認められるが,その他の膵囊胞性疾患には認められないことから 29)~31),膵囊胞性病変の鑑別目的のEUS-FNAにおいてGNAS遺伝子変異を解析することで感度が66.4%から80.7%に上昇したことが報告されている 26),31),32).また,膵囊胞性病変においてもEUS-FNA検体を用いてNGSを行うことによって,網羅的な遺伝子解析が可能となり,膵囊胞性病変の診断だけでなく,IPMNやMCNの良悪性診断にも有用であることが報告されている 33).
以上より,膵病変の鑑別診断や良悪性診断に対するEUS-FNA検体を用いた遺伝子解析は診断能向上に有用であると考えられるが,肺癌やGISTを始めとする粘膜下腫瘍に対する鑑別診断目的の遺伝子解析に関連した報告は少なく,これら疾患に対する遺伝子解析は主に治療薬の選択目的に行われているのが現状である 34),35).そのため,遺伝子解析を行うことによって,すべての癌種に対するEUS-FNAの診断能が向上するわけではなく,膵充実性腫瘍や膵囊胞性疾患などの限られた疾患に有用であるといえる.ただし,K-ras遺伝子変異は慢性膵炎にも認められることがあるため,病理診断が陰性の際にはその解釈には注意が必要である.また,NGSなどの複数の遺伝子解析は高額な費用が発生するため,その適応に関しては今後さらなる検討が必要である.
4.EUS-FNAの手技BQ7:EUS-FNAに用いる穿刺針の種類にはどのようなものがあるか?
ステートメント:EUS-FNAに用いる穿刺針には,サイズ,先端形状,材質により多くの種類がある.
解説:
穿刺針には主には19,22,25Gの3つのサイズがあり,その他に20,21Gの穿刺針も販売されている.さらに,先端形状や材質により多くの種類に分かれており,Table 9に2024年3月現在本邦で販売されている穿刺針を一覧表にした.
本邦で販売されている穿刺針.
穿刺針は先端形状により大きくFNA針とFNB針の2つに分けられる.両者の区別に厳密な定義はないが,組織量を多く採れるように工夫された針がFNB針である.一般的に穿刺針の先端がランセット形状やメンギーニ形状などの従来型のものをFNA針と呼んでいる.FNA針には穿刺時の圧力を逃がすための側孔(刃が装備されていないもの)が付いたものも市販されている.一方FNB針は,先端に3つの爪を持つフランシーン形状のもの,長さの異なる2本の爪を持つフォークチップ形状のものなどがあり,先端から離れた部分に設けた側孔に刃を装備したものもある.一般的にフランシーン形状は他の形状に比べて刺入性が劣るため,Acquire S(ボストン・サイエンティフィックジャパン)ではスタイレットの先端を鋭利にして刺入性を向上させる工夫が施されている.また,一時期ではあるが,EUS-FNA用のtrue-cut針が発売されたが針の剛性が強く,穿刺が難しかったため本邦では発売中止となっている.Figure 1に2024年3月現在本邦で市販されている穿刺針の先端形状の写真を示しているので参考とされたい.針の材質はステンレスの他,ニッケルチタン合金やコバルトクロム合金が用いられている.ステンレス製の針は切れ味がよいが曲がりやすいのが欠点であり,コバルトクロム合金やニッケルチタン合金の切れ味はステンレスに劣るが,曲がりに強く耐久性に優れるといった特徴を持つ.また,シースに関しては多くの穿刺針が樹脂製であるのに対し,金属製のコイルシースを装着したものも市販されている.
各穿刺針の先端形状.
CQ14:組織検体採取を行うために,太径の穿刺針(19/20G)は細径の穿刺針(22/25G)に比較して有用か?
ステートメント:EUS-FNAにおいて太径穿刺針の有用性は明らかではない.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
EUS-FNA穿刺針の種類と太さにより検体採取量に差があることが予想され,特に太径の穿刺針のほうが細径の穿刺針より組織採取量が増え,診断率の向上に寄与する可能性が報告されてきた 1).しかし,膵充実性病変に対するメタアナリシスにおいて,25G穿刺針が22G穿刺針より有意に正診率が高いことが報告され(リスク差0.12,95%CI:0.01~0.23) 2),また,太径と細径を比較した3つの観察研究では有用性について一定した結果は得られなかった(Table 10) 2)~11).さらに,各穿刺針の診断精度を比較したメタアナリシス 6)において,RCTを用いたメタアナリシスで有意差はなく,太径の有用性は示されなかった(リスク比1.07,95%CI:0.78~1.46).その一方で,経十二指腸穿刺を対象としたRCT(n=122)では,太径穿刺針に比較して細径穿刺針は有意に技術的成功率,正診率が高いことが報告されていた 12).上部消化管粘膜下病変に関するメタアナリシスでは穿刺針径の違いによる正診率に有意差はなかった(p=0.49) 7).また,自己免疫性膵炎に関しては穿刺針形状が均一でないものの,メタアナリシスは太径で有意に診断率が高い(p=0.023) 8)という報告がある.さらに,20G フォワードベベル針と22G フランシーン針を比較したRCTではフランシーン針のほうが正診率が高い結果となり 9),針の径よりも穿刺針形状の重要性が示された.最近欧米を中心に超音波内視鏡を用いた肝生検が盛んに報告され,太径である19Gの穿刺針で十分な門脈域を採取でき,有用性が高いことが報告されている 13)が,国内での臨床経験は少ない.
2010年以降の穿刺針の径による比較試験.
作成委員および評価委員のうち14名によるエキスパートオピニオンでは,通常臨床での第一選択は太径7.1%,22G 92.9%,25G 0.0%でありほとんどの施設は22Gを用いていた.太径穿刺針使用が推奨される場面の同意率は,ゲノム検査92.9%,細径で検体採取不能時71.4%,自己免疫性膵炎64.3%,リンパ節生検28.5%,EUS肝生検28.5%であった.細径穿刺針の推奨は経十二指腸など内視鏡操作が困難,小さい標的病変,周囲の脈管を避ける必要がある際に限定された.
以上のように,膵充実性病変,上部消化管SEL,自己免疫性膵炎において質の高いRCTやメタアナリシスの結果,太径穿刺針の有用性は示されなかった.
CQ15:膵充実性病変に対してFNB針はFNA針よりも診断能を向上させるか?
ステートメント:膵充実性病変に対してFNB針を使用することを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
膵充実性病変に対するEUS-FNAの感度・特異度はそれぞれ85~91%,94~98%程度と報告されており高い病理診断能が示されている 1).しかし,悪性リンパ腫などの特殊な膵腫瘍や転移性腫瘍などでは,免疫染色を含めた組織学的な評価を要する場合があり,また遺伝子パネルを用いた医療が求められる時代となり,多くの組織の採取が必要とされるようになってきた.従来のEUS-FNAを施行し,得られる検体量が少なく病理学的診断が困難な場合には,ROSEもしくは穿刺回数を増やすことで対処されていたが,本邦ではROSE導入が困難な施設も多く,穿刺針の改良による組織採取の向上が期待されてきた.従来のEUS-FNAでは一般的にランセット形状やメンギーニ形状の穿刺針が使用されてきたが,検体採取精度を上げるべく穿刺針の改良が進められ,近年ではランセット形状,フランシーン形状,フォークチップ形状といった,先端形状を工夫してより多くの組織採取を目的とした穿刺針(FNB針)を用いるEUS-FNBの有用性が続々と報告されるようになった.EUS-FNBにより採取する組織量が増加することで,免疫染色を用いた組織学的評価も可能となってきた 2),3).
EUS-FNBで使用するフランシーン針はランセット針よりも検体量が多く,側孔付きの穿刺針よりも至適検体採取率が高いことが報告されている 4),またフランシーン形状とフォークチップ針の穿刺針は組織量,正診率がともに同等とされている 5).また,25Gのフォークチップ針による検証でCore組織の含有量が67%と低かったことが報告されている 6).以上から,本邦での膵充実性病変に対するEUS-FNBにおいては,施設で使用可能であれば,22Gの,フランシーン針やフォークチップ針での検討が必要である.
EUS-FNAにおける穿刺法では,door-knocking法が通常法と比べて細胞充実性が高く,fanning法により穿刺回数を減少させることができるなどの報告がなされているが,EUS-FNBにおいてはこれらの有用性の検証はなされていない.吸引法においては,22Gの側孔付形状針を用いた検討でslow-pull法が通常の吸引法やスタイレットなしでの非吸引法よりも細胞充実性が良好とされている 7).膵腫瘍に対するEUS-FNAにおいて,針の種類(側孔付ランセット針,メンギーニ針,フランシーン針,フォークチップ針)と検体採取法(吸引法,非吸引法,slow-pull法)を盲検化して比較した試験では,多変量回帰分析でフランシーン針またはフォークチップ針の使用,slow-pull法,非吸引法,および3cmより大きい膵腫瘤は,高細胞充実性と関連していたと報告している 8).
EUS-FNA全体としては,偶発症が0.82%,致命率が0.02%と報告されており,比較的安全な手技であるが 9),EUS-FNBにおいてこれらの偶発症が増加するか否かについては,多くのRCTにてEUS-FNAと差がないと報告されており,少なくともEUS-FNBを行うことで偶発症が増加することはないと考えられる.
一方で,EUS-FNB穿刺針は穿刺性能がやや劣ることもあり,症例に応じてどちらを使うかを考える必要がある.なお,FNB針は穿刺性能が向上した製品も次々と登場してきており,積極的な製品情報収集が求められる.
CQ16:消化管粘膜下病変に対してFNB針はFNA針よりも診断能を向上させるか?
ステートメント:消化管粘膜下病変に対して,FNB針はFNA針よりも診断能を向上させるため,FNB針の使用を提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
消化管SELの病理組織学的診断のための組織採取の手段として,低侵襲で簡便であるEUS-FNAが普及してきた.しかし,SELの中で多くを占めるGISTや平滑筋腫の鑑別診断には免疫組織化学的染色が必須であり,FNA針での組織採取では不十分な場合がある.一方,近年普及してきたFNB針は,針先端の形状を工夫することで,FNA針よりも質や量に優れた検体を採取できる点がメリットとされている.
FacciorussoらのSELに関するFNA針とFNB針の比較のメタアナリシス 1)は,2014年から2019年までの6つのRCTを含む10編 2)~11)の解析結果から,FNA針に比べてFNB針のほうが検体採取率(80.6% vs. 94.9%,オッズ比2.54),ならびに正診率(65% vs. 87.9%,オッズ比4.10)が高いと結論付けている.また,TanらのFNB針に関するメタアナリシス 12)でも,2015年から2020年までの16編において,検体採取率98.8%,正診率85.7%と良好な結果であった.
なお,FNB針には針先端の形状が異なる3種類のものがある.Facciorussoらのメタアナリシス 1)で解析された論文で使用されたFNB針は,側孔付き針7編,フランシーン針3編,フォークチップ針2編(複数のFNB針を使用した論文あり)であり,側孔付き針のものが多かった.しかし,近年は新規FNB針と称されるフランシーン針やフォークチップ針が主流であり,検体採取率74~100%,正診率88~92.3%と報告されている 13)~16).
SELのEUS-FNAでのROSEの有無に関しては,FNB針ではROSEを併用しなくとも,ROSE併用下で使用されたFNA針より診断能が高いとする報告 14)がある.一方,Facciorussoらのメタアナリシス 1)では,ROSEを併用しない場合の検体採取率はFNA針よりFNB針が優れていた(オッズ比9.85)が,ROSE併用下では差がなかった(オッズ比1.60).これらの結果から,FNA針はROSEを行うことで診断能を向上させるが,FNB針ではROSEを併用しなくてもSELに対して良好な診断能を得ることができることが示唆された.Hanら 2)はROSE併用下で,FNB針は1回の穿刺で良好な検体を採取できたと報告している.したがって,SELのEUS-FNAでは,ROSE併用下にFNB針を使用することが,少ない穿刺回数で高い診断能を得ることに貢献できる可能性がある.
以上の報告をもとに,ESGEのガイドライン 17)では,径20mm以上のSELのEUS-FNAでFNB針の使用を強く推奨し,径20mm未満ではFNB針の使用を弱く推奨している.また,ACGのガイドライン 18)では,SELに対するEUS-FNAに関して,ROSEなしのFNA針使用ではなく,ROSEなしのFNB針使用あるいはROSEありのFNA針使用を弱く推奨している.なお,ガイドライン委員17名のエキスパートオピニンでは,20mm以上のSELでは新規FNB針を使用している施設がほとんどであるが,穿刺性能はFNA針が優れていると考えている.そのため,径20mm未満のSELでは意見が分かれ,FNB針を第一選択としている施設でも,穿刺が困難な場合にはFNA針に変更をしているのが現状であった.したがって,穿刺をできればFNB針のほうが適正な検体を採取できる可能性が高いが,病変の大きさや形状によってFNA針と使い分ける必要があると考えられた.また,報告されている論文において,SELの多くがGISTを中心とした胃の病変であり,食道,十二指腸,大腸でのエビデンスには乏しい点も考慮する必要がある.
以上から,現段階では,SELのEUS-FNAではFNB針を使用することを提案する.ただし,径20mm未満の小さな病変やFNB針で穿刺が困難な病変では,FNA針の使用も考慮する.
BQ8:EUS-FNAの穿刺法にはどのようなものがあるか?
ステートメント:EUS-FNAには,door-knocking method,fanning techniqueなどの穿刺テクニック,通常の吸引法に加えてslow-pull,wet-suctionなどの吸引法の報告がある.
解説:
EUS-FNAにおいては,穿刺法,吸引法,スタイレットの使用など診断能向上のための試みが多く報告されてきた.
穿刺法では,ゆっくりと穿刺をして病変の中でストロークを行う方法の他に,ストッパーに勢いよくハンドルをぶつけるように穿刺するdoor-knocking method(DKM)も本邦では用いられることが多い.また,小病変では病変内で細かく穿刺針を動かすwoodpecker methodも行われている.DKMと通常の穿刺法の比較のRCT 1)では,22G FNA針を用いた場合には診断能は同等であったが,DKMは経胃的穿刺ではより細胞成分に富んだ検体が採取された.一方,経十二指腸的穿刺では適正検体採取率・正診率が低いという結果であり,経十二指腸的穿刺での有用性は認めなかった.ただし実臨床においては硬い腫瘤など穿刺抵抗が強い際にはDKMを行う必要があり,病変の性状や穿刺針の穿通性などにより穿刺法を選択することも多い.
穿刺部位については,病変の中心部は壊死成分が多い可能性があることから,中心部ではなく辺縁部の穿刺の診断能が優れている可能性が検討されてきたが,リンパ節腫大におけるRCT 2)では辺縁部の穿刺による診断能の向上は認めなかった.これに対してEUS画面上で腫瘤内の複数領域を穿刺するfanning technique 3)は,1回の穿刺での診断能が有意に優れていることが報告されている.またスコープを捻ることで同様に病変内の複数領域を穿刺するtorque technique 4)もfanning techniqueと同等の成績が得られることが示されており,手技的に可能な場合にはこれらの穿刺法を用いることが推奨される.なお,最近では超音波造影剤を用いることで適切な穿刺部位を同定できるCE-EUS-FNAの有用性の報告もされており,症例によっては補助的に用いることも検討できる 5).
EUS-FNAにおける吸引は,一般的にシリンジでの10~20mLの吸引を行うsuction法が用いられることが多いが,吸引圧をかけないno-suction法,スタイレットをゆっくりと引くslow-pull法なども用いられる.特殊な方法としては,50mLの陰圧をかけるhigh negative pressure法 6),穿刺針内を生理食塩液で満たして陰圧をかけるwet-suction法 7)なども報告されている.吸引圧をかけることで検体量は増える一方で血液の混入が多いとされているが,血液の混入は病理診断能自体への影響はないとする報告も多い.最近報告された膵腫瘤に対する4種類の22G針を用いたsuction法,slow-pull法,no-suction法のRCT 8)では,リバースベベル針・メンギーニ針ではsuction法が,フランシーン針・フォークチップ針ではstylet slow-pull法が最適な吸引法であったと報告されており,穿刺針により最適な吸引法も異なる可能性が示唆されている.実臨床ではsuction法をまず用いて,多血性腫瘤・リンパ節などで血液の混入が極端に多い際にはslow-pull法やno-suction法を次の穿刺では選択する.逆にstylet slow-pull法・no-suction法で開始して検体量が不十分な場合にsuction法に変更するなど,病変に応じて選択されることが多い.
病変穿刺後にスタイレットを押し込むことで消化管粘膜の混入を減らし,診断能が向上するとされてきたが,スタイレット使用の有無を比較した5編のRCTのメタアナリシス 9)では,検体の質,量ともに差がないという結果が示されており,スタイレットの使用は通常のFNA針では必須ではないといえる.FNB針ではスタイレットの有無の比較の報告はないため,その優劣は明らかでないが,FNB針の種類によってはスタイレットの使用が推奨されているものもある点には注意が必要である.
診断に必要な穿刺回数の検討も以前から行われてきた.膵腫瘤に対するEUS-FNAの2004年の報告 10)では穿刺回数7回で感度が83%まで上昇するとされていたが,2017年の報告 11)では径2cm超の膵腫瘤では4回,径2cm以下の腫瘤では6回の穿刺で十分,と必要な穿刺回数の減少が報告されている.また,22Gフランシーン針 12),13)では2回の穿刺で検体採取,診断能が十分に高いとされており,病理診断能に必要な穿刺回数は減少してきている.ただし,最近はFNA/FNB検体を用いた遺伝子パネル検査の報告も増えており,病理診断に必要十分な穿刺回数に加えて,追加での検体採取が必要であり,その穿刺回数については明らかでない.
膵病変に対する高い感度が示されているEUS-FNAであるが,径2cm未満の小病変においては感度が低下することが報告されている 14).病変内で十分にストロークを取ることが難しい小病変ではいったん病変を貫通した後に穿刺針を病変内まで引き戻し,ストロークを行うなどの工夫が必要なこともある.また,介在血管の存在はEUS-FNAの禁忌とされてきたが,大動脈や門脈を介してEUS-FNAを行った後ろ向き研究 15)も報告されている.49症例の検討で,穿刺針は22G針,25G針がそれぞれ52%,48%で使用されているが,全体の診断能は感度88%,特異度100%と高く,術中の消化管壁内血腫2例,胃十二指腸動脈からの一時的出血1例を認めたものの,偶発症は認めなかったと報告されており,介在血管の存在が必ずしもEUS-FNAの禁忌とならない可能性も示唆されている.
FNA針を用いた研究はこれまでも多く報告されてきたが,現在の日常臨床ではFNB針が主流となっており,穿刺回数の違いにも示されているようにFNB針の最適な穿刺テクニックはFNA針と異なる可能性があり,FNB針における最適な穿刺法についてはさらなる検討が必要である.
CQ17:EUS-FNAにおいて検体採取する際に陰圧をかけることは推奨されるか?
ステートメント:EUS-FNAにおける検体採取法として,多血性病変以外では陰圧をかけることを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
FNA針を用いる場合
①suction法とno-suction法の比較
Suction法(吸引法)とno-suction法(非吸引法)の比較については4件のRCTを引用した 1)~4).Leeらは,膵腫瘤に対するEUS-FNAにおいてsuction法がno-suction法よりも検体採取量(72.8% vs. 58.6%,p=0.001)や診断精度(85.2% vs. 75.9%,p=0.004)の点で優れていると報告している 1).また,Puriらもsuction法がno-suction法と比較して診断感度(85.7% vs. 66.7%,p=0.05)の向上に関連しており,血液混入には差がなかったとしている(76.9% vs. 88.5%,p=0.14) 2).Tarantinoらの報告でも,suction法(20mL吸引,10mL吸引)とno-suction法を比較し,診断精度は,20mL吸引が10mL吸引やno-suction法よりも有意に優れていた(86.2% vs. 69.0% vs. 49.4%,p<0.001) 3).一方でstandard suction法,no-suction法,slow-pull法の3群を比較したRCTでは,検体の適正性はそれぞれ91%,94%,91%と統計学的には差を認めなかったが(p=0.67),standard suction法では他の採取法よりも血液混入が多かったと報告されている(p<0.001) 4).
以上より,検体採取時の吸引は血液混入を増やす可能性はあるが,診断精度の向上に寄与すると考えられる.
②standard suction法,slow-pull法,wet-suction法,high pressure法の比較
Standard suction法とslow-pull法の比較は3件のメタアナリシスが報告されている 5)~7).1件のメタアナリシスでは,診断精度はstandard suction法と比較してslow-pull法で有意に優れていた(OR=1.60,95%CI:1.14~2.26) 5).他2件のメタアナリシスでも有意ではないが,slow-pull法がstandard suction法よりも診断精度が高い傾向にあり 6),7),特に25G針を使用した際にはslow-pull法がstandard suction法よりも診断精度(OR=4.81,95%CI:1.99~11.62,p<0.01)および感度(OR=4.69,95%CI:1.93~11.40,p<0.01)が有意に優れていたとの報告がある 6).standard suction法とwet-suction法の比較に関するメタアナリシスでは,wet-suction法はstandard suction法と比較して,検体の適正性は高い(OR=3.18,95%CI:1.82~5.54,p=0.001)が,診断精度(OR=3.68,95%CI:0.82~16.42,p=0.1)は同等であったと報告している 8).standard suction法,slow-pull法,wet-suction法の3手法を比較したRCTは1件報告されており,wet-suction法の診断精度は74.7%で,standard suction法(64.4%,p=0.007)やslow-pull法(65.0%,p=0.012)よりも優れていた 9).50mL吸引を使用したhigh pressure法については1件のRCTがあり,high pressure法はstandard suction法と比較して,検体採取量は優れていた(90% vs. 72.2%,p=0.0003)が,診断精度は同等であった(82.2% vs. 73.3%,p=0.06) 10).
③血液混入について
Standard suction法とslow-pull法を比較した3件のメタアナリシスにおいて,いずれの報告も血液混入はslow-pull法がstandard suction法よりも有意に少ない結果であった 5)~7).standard suction法とwet-suction法を比較したメタアナリシスでは,血液混入は同等であった(OR=1.18,CI:0.75~1.86,p=0.1) 8).standard suction法,slow-pull法,wet-suction法の3手法を比較した1件のRCTではslow-pull法がwet-suction法やstandard suction法よりも血液混入が少ない結果であった 9).吸引圧については50mL吸引を使用したhigh pressure法はstandard suction法と比較して血液混入が多かった(p=0.0042) 10).
以上より,slow-pull法が他の検体採取法と比較して最も血液混入の影響が少ない採取法であると考えられる.
④エキスパートオピニオン
FNA針を使用した際の検体採取法について,エキスパートオピニオンとして本ガイドライン作成委員・評価委員(17名)にアンケート調査を行ったところ,多くの施設で,第一選択としてstandard suction法(standard suction法 82.6%,slow-pull法 17.6%),第二選択としてslow-pull法を採用していた(slow-pull法 56.3%,standard suction法 25.0%,no-suction法 12.5%,wet-suction法 6.2%).多血性腫瘍やリンパ節の穿刺を行う際,血液混入を減らすために第二選択としてのslow-pull法を採用している施設が多いが,吸引圧の調整やwet-suction法の使用など各施設で工夫がみられた.
FNB針を用いる場合
①standard suction法,slow-pull法,wet-suction法の比較
FNB針における検体採取法は全体で9件のRCTを解析したメタアナリシスの報告がある 11).このネットワークメタアナリシスでは,no-suction法は,検体の適正性の観点から他の採取法(vs. slow-pull法 RR:0.85,95%CI:0.78~0.92,vs. standard suction法 RR:0.85,95%CI:0.78~0.92,vs. wet-suction法 RR:0.83,95%CI:0.76~0.90)より有意に劣ることが示されている.血液混入については,standard suction法はslow-pull法と比較して血液混入が有意に多く(RR:1.44,95%CI:1.15~1.80),no-suction法は他の採取法と比較して血液混入が少ない結果であった(vs. slow pull法 RR:0.71,95%CI:0.52~0.97,vs. standard suction法 RR:0.49,95%CI:0.36~0.66,vs. wet-suction法 RR:0.57,95%CI:0.40~0.81).またwet-suction法は,検体の品質の点でstandard suctionよりも有意に上回っていた.
以上より,wet-suction法が,血液混入は多いものの検体の適正性は最も高く,no-suction法は他の採取法よりも有益性が低いことが示唆された.
②エキスパートオピニオン
FNB針を使用した際の検体採取法について,エキスパートオピニオンとして本ガイドライン作成委員・評価委員(17名)にアンケート調査を行ったところ,FNA針と同様に,多くの施設で,第一選択としてstandard suction法(standard suction法 76.5%,slow-pull法 23.5%),第二選択としてslow-pull法を採用していた(slow-pull法 50%,standard suction法 37.5%,no-suction法 5.8%,wet-suction法 5.8%).多血性腫瘍やリンパ節の穿刺を行う際,血液混入を減らすために第二選択としてのslow-pull法を採用している施設が多い結果であった.
FRQ6:膵囊胞性病変に対するEUS-TTNBは診断能を向上させるか?
ステートメント:TTNBは膵囊胞性病変の診断向上に寄与する可能性があるが,その適応については今後検討すべきである.
解説:
膵囊胞性病変に対するEUS-FNAは,悪性のリスクがある粘液性・非粘液性腫瘍の鑑別を中心に検討されており,病理学的診断のための検体は囊胞液細胞診検体しか得られない点が限界であった.囊胞液中の細胞成分は少ないため病理学的診断の感度は高くなく,特に悪性度の診断は困難であった.この課題を解決するために,近年は19G FNA針に挿入可能なデバイスを用いた診断法であるcystoscopyやconfocal laser endomicroscopyなどが報告されている 1).最近では19G FNA針に挿入可能な生検鉗子を用いて囊胞壁の鉗子生検を行うEUS-TTNB 2)が注目されている.
EUS-TTNBとEUS-FNAを比較した8研究426例のメタアナリシス 3)では,EUS-TTNBの手技成功率は98.2%で,十二指腸からの穿刺で生検鉗子の挿入不能が最も多い不成功の理由であった.EUS-TTNBとEUS-FNAの診断能の比較では,囊胞性病変の鑑別診断正診率(72.5% vs. 38.1%),粘液性腫瘍の診断率(56.2% vs. 29.5%),漿液性囊胞腺腫の診断率(12.4% vs. 1.2%)がEUS-TTNBで有意に高いことが示された.また,外科切除92例での検討でも同様に囊胞性病変の鑑別診断正診率(82.3% vs. 26.8%),粘液性腫瘍の診断率(89% vs. 41%)いずれも有意に高率であるのと同時に,粘液性腫瘍における悪性度正診率も75.6% vs. 26%と高いことが示されている.
安全性の点では,膵囊胞性病変に対するEUS-FNAは充実性病変と比較して偶発症率が高いことが知られているが,EUS-TTNBの偶発症は7.0%とさらに高く,特に囊胞内出血は5.0%に認めており,偶発症はEUS-FNA単独よりも高いと考えられる.EUS-TTNBの偶発症の評価を目的とした多施設研究 4)では偶発症は11.5%(急性膵炎5.7%,囊胞内出血2.0%),特にIPMNに対して複数回生検した高危険群では28%とさらに高率であることが報告されている.EUS-TTNBの治療方針への寄与についての検討では,101例の前向き研究 5)において,10例で漿液性囊胞腺腫の診断でサーベイランスを終了,2例で粘液性囊胞性腫瘍の診断で切除の方針となり,11.9%の症例でEUS-TTNBが治療方針の変更に寄与した一方で,偶発症は9.9%と同様に高いことが問題点とされている.
EUS-TTNBは,これまでのEUS-FNAの課題である病理診断の感度の低さを解決し,悪性度を含めて高い診断能が得られる.一方で,膵炎・囊胞内出血などの偶発症が多いことが課題であり,その適応について今後明らかにすべきである.
BQ9:EUS-FNAの検体処理にはどのようなものがあるか?
ステートメント:EUS-FNAにおける細胞診用の検体処理には塗抹法と液状化検体細胞診法がある.組織診用の検体は速やかに10%中性緩衝ホルマリン液で固定する.
解説:
EUS-FNAでは組織片(固体)と血液や洗浄液を含む液体が採取され,それぞれの特徴と利用方法を踏まえた検体処理が必要である.ここでは細胞診と組織診のそれぞれの検体処理について,文献 1)~6)を参考に記載した.
1.細胞診
①塗抹法
組織片の一部を用い細胞をスライドガラスに塗布する塗抹法は,捺印法と圧挫法が一般的である.捺印法は,組織片をピンセットで持ちスライドガラスに軽く押し付けて細胞を付着させる.細胞成分が豊富で柔らかい組織の細胞塗抹は容易であるが,間葉系腫瘍では細胞の採取が困難であることが多い.圧挫法は少量の組織片を取り分け,2枚のスライドガラスに挟み,軽く押しつぶしながら互いに薄く引き伸ばして細胞を塗抹する.個々の細胞形態とともに組織構築を観察することができるが,一定量の組織片を利用するため組織診の検体が減ることとなる.
血液や洗浄液を含む液体の塗抹法は,すり合わせ法・合わせ法,引きガラス法が一般的である.すり合わせ法・合わせ法は,スライドガラス上に遠心分離した沈査を載せ,別のスライドガラスを重ねて引き伸ばし,均等に細胞を塗布する.個人差が少ない手技とされる.引きガラス法は,スライドガラスの一端に適量の沈査を落とし,引きガラスでスライド上を一定方向に動かしながら均一に塗抹する.なお,液体が多くそのまま塗抹できない場合は,オートスメア法,フィルター法などの集細胞法を用いる.
塗抹の出来不出来や固定は,標本の質を左右し診断に影響する.塗抹は適正な厚さで均等に塗抹すること,固定は塗抹後ただちに行うことが重要である.湿固定はPapanicolaou染色などに用いられ,細胞を塗抹後,乾燥しないよう速やかに95%エタノールに浸漬する.乾燥固定はGiemsa染色などで利用される.塗抹後に迅速な冷風で急速に乾燥させることでムラのない良好な染色標本が得られる.
②液状化検体細胞診法
液状化検体細胞診(liquid-based cytology:LBC)法は,採取された細胞を特殊な細胞保存液に入れ,液状化した検体から標本を作製する.現在本邦で普及しているLBC法には,ThinPrepⓇ法,SurePathTM法,TACASTM法がある.ThinPrepⓇ法は専用フィルターを用いて細胞を回収し,スライドガラスに転写・塗抹する.沈降塗抹法であるSurePathTM法は分離剤を添加して密度勾配法によって細胞を集め,専用のスライドガラスに塗抹する.TACASTM法は遠心法によって細胞を集めた後,専用のスライドガラスに細胞吸着ポリマーを用いて細胞を塗抹する.LBC法の利点は,作製標本の標準化,細胞回収率の上昇,検体保存性の向上,同一検体から様々な解析(塗抹標本の再作製,特殊染色,免疫組織化学,遺伝子検索)が可能な点などである.課題は,従来法とは異なる細胞像の見方が必要な点,病理部門側の標本作製の時間と手間,ランニングコストなどである.
2.組織診
①組織片の検体処理法
組織診断,がんゲノム診断へ対応が可能な品質を保持する検体処理は,固定前および固定プロセスが重要である.EUS-FNAで採取された組織診断用の検体は,速やかに10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬し固定を行う.EUS-FNA検体は小さいため,乾燥に注意しなくてはならない.10%中性緩衝ホルマリン液は免疫組織化学やDNA品質の点からも推奨される.固定時間は6~48時間が推奨されるが,EUS-FNA検体は小さく浸透が早いため,可能な範囲で固定時間の短縮に努める(6~24時間).固定の際は密閉容器に入れ,固定液の浸透を妨げないよう常温で保管する.固定後プロセスにおけるホルマリン固定パラフィン包埋(formalin fixed paraffin embedded:FFPE)ブロックの保管は室温でよいが,冷暗所が望まれ多湿を避ける.未染色FFPE標本をゲノム診断へ使用する際は,可能な限り薄切してすぐ使用することが望ましい.
②セルブロック法
液体中に存在する細胞成分を遠心法で収集した後固定し,FFPEブロックを作製するセルブロック法が盛んに行われている.セルブロックの作製方法は多岐にわたり,施設によって異なるのが現状であるが,一般的には遠心分離細胞収集法(ホルマリン重層法,遠心管法,クロロホルム重層法,など)と細胞固化・凝固法(アルギン酸ナトリウム法など)がある.いずれにせよ必要な前処理を行った後に可及的速やかに固定液へ浸漬し固定しなくてはならない.LBC法を用いた細胞診の保存検体を利用することも行われている.
セルブロック法は,検体を固形化することにより免疫組織化学など組織学的手法を用いることができ,遺伝子検索も検討されている.一方,固定やパラフィンブロック作製の過程で細胞が変性するため,細胞診ほどの詳細な細胞形態の観察は困難である.
CQ18:EUS-FNA施行時のon-site evaluationは推奨されるか?
ステートメント:EUS-FNAにおいてon-site evaluationを行うことを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
採取された検体を,その場で評価することを「on-site evaluation」と呼ぶ.on-site evaluationの目的は,評価可能な検体が採取されているかを判断し,検査終了あるいは追加穿刺決定の目安とすることである 1),2).EUS-FNAにおけるon-site evaluationには,ROSE 1),2),macroscopic on-site evaluation(MOSE) 3),stereomicroscopic on-site evaluation(SOSE) 4)~6),visual on-site evaluation(VOSE) 7)と称されるものが報告されている(Table 11).ROSEはスライドガラスに押し出された検体で迅速に細胞診を行う方法であり,通常は細胞診専門医あるいは細胞検査士が担当する.MOSEはスライドガラスなどに押し出した検体から,肉眼的に血液ではない白色の細長いコアの部分(macroscopic visible core:MVC)を確認する方法である.一方,VOSEは採取された検体を直接ホルマリン液に入れてMVCを確認する方法で,SOSEは実体顕微鏡下でMOSEを行う方法である.この中で,ROSEは,その場で細胞診を行うことで,どのような細胞成分が採取されているかを顕微鏡的に確認できるメリットがある.
On-site evaluationの種類.
これまで複数のメタアナリシスにおいて,ROSE併用下にEUS-FNAを施行することが,検体採取率や正診率の向上に貢献することが示されている 8)~10).しかし,現実にはEUS-FNAに細胞診専門医や細胞検査士の立ち会いが困難な施設が多く,内視鏡医自身でROSEを施行する方法も報告されている 2),11).ROSEなし群と内視鏡医によるROSE群のRCTでは,検体採取率と正診率に差がなかったものの,内視鏡医によるROSE群で穿刺回数が少なく,手技時間が短かった 12).一方,近年普及してきたFNB針によるEUS-FNAでは,FNA針に比べて適正な検体採取を得られやすいことから,ROSEの意義が異なる可能性がある.膵腫瘤に対するFNB針を用いたEUS-FNAのRCTでは,ROSEの有無で正診率に差がなく,ROSE群で手技時間が長かった.したがって,FNB針を用いた膵腫瘤のEUS-FNA時にROSEは推奨されないと結論付けている 13).また,消化管SELのメタアナリシスにおいて,FNA針とFNB針で,ROSE群では検体採取率に差がなかった(オッズ比1.60)が,ROSEなし群ではFNA針よりFNB針で検体採取率が高かった(オッズ比9.85) 14).これらの研究結果は,FNB針では,ROSEの有無に関わらず,いずれの臓器でも良好な検体を採取できることを示している.2023年のACGのガイドラインでは,消化管SELのEUS-FNAにおいて,ROSEなしのFNA針ではなく,ROSEなしのFNB針あるいはROSEありのFNA針を弱く推奨している 15).
MOSEは,ROSEのような手間をかけずに,内視鏡医が簡便に検体を評価する方法としてIwashitaらにより提唱された 3).4mm以上のMVCを得ることが重要とされる.このIwashitaらの報告の検証として行われた,径20mm以上の腫瘤(膵腫瘤,リンパ節,消化管SELを含む)における多施設のRCTにおいて,MOSE群とon-site evaluationなしで3~5回の穿刺を行う群で,検体採取率に差がなかった(92.6% vs. 89.3%,p=0.37)が,MOSE群で穿刺回数が有意に少なかった(2回 vs. 3回,p<0.001) 16).なお,ROSE同様,MOSEでもFNB針の優位性が報告されており,2022年のMohanらのメタアナリシス(膵腫瘤,リンパ節,消化管SELを含む)では,新規FNB針とされるフランシーン針とフォークチップ針におけるMOSE併用のEUS-FNAで検体採取率94.7%,正診率90.6%と良好な結果であった 17).
以上のことから,FNA針によるEUS-FNAではROSEが診断能向上に寄与するが,FNB針ではもともとの検体採取が良好であることから,ROSEによる診断能の上乗せ効果は乏しい.しかし,FNB針のEUS-FNAでも,ROSEを併用することで穿刺回数の減少や検体の質の評価に貢献できるメリットがある.また,1回のEUS-FNAで診断を得られなかった膵腫瘤の再検EUS-FNAでは,ROSEを行うことが診断能向上に寄与することがメタアナリシスで報告されている 18).
本ガイドライン委員の18施設中,17施設(94.4%)では何らかのon-site evaluationが施行されており,9施設(50%)で恒常的にROSEが施行され,他の施設ではMOSEあるいはVOSEが施行されていた.しかし,ROSEを導入していない施設でも,細胞検査士の同席などの環境が整えば導入を考えたいという意見があった.また,FNB針の普及に伴いROSE併用の意義は低下しているが,EUS-FNAの導入初期の施設や90%以上の検体採取率を得られない施設ではROSEを行うことが望ましいという意見もみられた 19).
ROSEを施行できない場合の穿刺回数として,以前は膵腫瘤で7回,リンパ節で5回が推奨されていた 20)が,現在は穿刺針や手技の改良でより少ない穿刺回数で検体採取が可能となっている.2017年のESGEのガイドラインでは,ROSEを施行しない場合の穿刺回数としてFNA針では3~4回,FNB針では2~3回を推奨している 1).
FRQ7:EUS-FNAにおいてLBCは診断能を向上させるか?
ステートメント:EUS-FNAにおいてLBCは,塗抹法より診断能を向上させる場合は限られるが,LBC法の利便性,発展性から使用することを検討してもよい.
解説:
EUS-FNA検体の細胞診標本作製方法には,従来法である塗抹法とLBC法がある(詳細はBQ9を参照).塗抹法と診断能の比較がなされている主なLBC法は,フィルター転写法のThinPrepⓇ法とCellPrepⓇ法,沈降塗抹法ではSurePathTM法であった.
EUS-FNA検体における塗抹法とLBC法の診断能の比較検討は膵腫瘤が多い.塗抹法の標本作製方法(塗抹の方法,染色など)やLBC法の種類,ROSE施行の有無などが報告によって異なっており,診断能の結果も様々である.膵EUS-FNA細胞診の診断能は,塗抹法がLBC法より高いとする報告が5編認められ 1)~5),いずれもLBC法はフィルター転写法で,4編はThinPrepⓇ法 1)~4), 1編がCellPrepⓇ法 5)であった.5編のうちROSEを施行している報告は3編 1)~3),施行していない報告は2編 4),5)である.次に,塗抹法とLBC法の診断能は同等であるとの報告は2編認められた 6),7).いずれもROSEを行っておらず,LBC法はThinPrepⓇ法 6)とSurePathTM法 7)であった.LBC法が塗抹法よりも診断能が高いとする報告は2編で,いずれもROSEを施行していなかった 8),9).Hashimotoらの膵腫瘤性病変63例の報告では,塗抹法およびLBC法(SurePathTM法)の診断能をいずれもPapanicolaou染色標本を用いて比較し,感度,正診率が塗抹法では64.0%,71.4%,LBC法では89.7%,90.4%であった 8).Zhouらは514例の膵腫瘤性病変について,感度,正診率は塗抹法が55.1%,61.6%であったのに対し,LBC法(SurePathTM法)は71.4%,76.1%と報告した 9).LBC法の種類による診断能の相違は2つのメタアナリシスで指摘されており 10),11),Chandonらの解析ではSurePathTM法,塗抹法,ThinPrepⓇ法の順に診断能が高かった 10).上記の結果から,膵EUS-FNA細胞診において,①ROSEを行わない場合,②SurePathTM法を用いる場合に,LBC法が塗抹法よりも診断能を向上させる可能性がある.
近年では塗抹法との比較だけではなく,塗抹法とLBC法の併用が,塗抹法と比較して,膵EUS-FNA細胞診の診断能を向上させる可能性が示されている 9),12).Panらのメタアナリシスでは,塗抹法とLBC法をそれぞれ単独で行うよりも,両者を併用することが診断能を向上させていた 13).
LBC法は細胞回収率を上げ,均等に細胞を塗抹することができ,標本の複製が可能である.また,ROSEが行われない場合に,塗抹法では細胞採取,ガラスへの塗抹,固定まで内視鏡医が関わるのに対し,LBC法は細胞採取,細胞浮遊液に保存するまでで済む.結果として標本作製の均一化,標準化が図られる可能性がある.LBC検体はセルブロックを作製し免疫染色を行うことも可能であり,診断能の向上に寄与することが報告されている 6),14).LBC検体を用いた遺伝子解析も行われている 15)~18).一方で,病理側の視点からは,鏡検に塗抹法とは異なる見方が必要な点,標本作製の時間と手間,ランニングコストなどが課題である.
膵病変に対するEUS-FNA検体の細胞診において,LBC法が塗抹法より診断能を向上させるエビデンスは限られるものの,ROSEを行わない場合は,SurePathTM法を用いることによって診断能が向上する可能性がある.塗抹法とLBC法をそれぞれ単独で行うよりも,両者を併用することも考慮すべきかもしれない.施設の実情に合わせるべきであるが,LBC法の導入は,内視鏡医の負担軽減,免疫染色など診断方法の拡充,遺伝子検査への応用が見込まれる.