2025 Volume 67 Issue 1 Pages 19-27
胃底腺型胃癌は,第15版胃癌取扱い規約,WHO分類第5版で新たに追加された胃腫瘍であり,著者らが2010年に“gastric adenocarcinoma of fundic gland type”という名称で提唱した稀な低悪性度の胃上皮性腫瘍である.胃底腺型胃癌は,Helicobacter pylori未感染胃癌の一つと考えられており,病理組織学的に胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,臨床病理学的特徴,内視鏡的特徴も明らかになってきた.遺伝子異常に関する報告は複数あるが,発癌リスク因子,発癌機序や発育進展様式に関しては解明されていない.また,胃底腺型腺癌は低異型度・低悪性度であることが多く,内視鏡治療後の追加外科切除適応を含め,臨床的取扱いに関しては議論の余地がある.今後は,病理組織学的分類をもとに治療成績と長期予後解析を行い,胃底腺型胃癌に対する内視鏡診療指針の確立が望まれる.
Gastric adenocarcinoma of the fundic gland type is a gastric epithelial neoplasia newly added to the 15th edition of the Japanese Gastric Cancer Guideline and the 5th edition of the WHO Classification of Tumors. We proposed gastric adenocarcinoma of the fundic gland type as a rare gastric epithelial neoplasia with low-grade atypia in 2010. Gastric epithelial neoplasm of fundic-gland mucosa lineage is considered a Helicobacter pylori-uninfected gastric cancer and can be histopathologically classified as gastric adenocarcinoma of the fundic gland type and gastric adenocarcinoma of the fundic gland mucosa type. Clinicopathological and endoscopic features have also been elucidated. Although there have been several reports on genetic abnormalities, the risk factors and mechanisms of carcinogenesis have not been clarified. In addition, gastric adenocarcinoma of the fundic gland type demonstrates low-grade epithelial neoplasm, and its clinical treatment strategy, including the indication for additional surgery after endoscopic treatment, is controversial. In the future, treatment outcomes and long-term prognostic analysis based on histopathological classification should be performed to establish guidelines for the endoscopic treatment of gastric epithelial neoplasms of fundic-gland mucosa lineage.
胃底腺型胃癌の歴史的背景として,2007年にTsukamotoら 1)が胃底腺への分化を示す胃癌の1例を報告し,その後,筆者らが2010年に胃底腺型胃癌(主細胞優位型),gastric adenocarcinoma of fundic gland type(chief cell predominant type)という名称で新しい概念として提唱した 2).第15版胃癌取扱い規約 3)では胃底腺型腺癌(病理組織学的な名称では‘腺癌’)という名称で特殊型の一つとして新たに追加され,2019年にはWHO分類第5版 4)にもoxyntic gland adenomaもしくはgastric adenocarcinoma of fundic-gland typeという名称で新たに掲載された胃上皮性腫瘍である.海外では粘膜内病変は癌と診断されないためoxyntic gland adenomaと命名され,浸潤性のある粘膜下層(Submucosa;SM)癌のみgastric adenocarcinoma of fundic-gland typeとして扱われる.WHO分類のoxyntic gland adenomaとgastric adenocarcinoma of fundic-gland typeの腫瘍としての病理組織像,臨床病理学的特徴は同じであり,本邦では粘膜内病変もSM癌も胃底腺型腺癌と診断されるため,国内外において用語の使用には注意する必要がある.
胃底腺型胃癌は病理組織学的に胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,各組織型の臨床病理学的特徴に関する報告もあり,病理組織学的な定義,悪性度の評価,今後予想される臨床的取扱いについても後述する 5)~8).また,胃底腺型胃癌の白色光観察とNarrow Band Imaging(NBI)拡大観察の内視鏡的特徴に関しても明らかになってきており,最新の知見も含めて解説する 9)~14).
“胃底腺型胃癌”という総称としての定義は,腫瘍全体の10%以上に胃底腺への分化を示す腺癌は胃底腺型胃癌と診断される.ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色では,胃底腺細胞(主細胞,壁細胞,頸部粘液細胞)に類似した低異型度の腫瘍細胞の増殖を認め,免疫染色(主細胞のマーカー:pepsinogen-Ⅰ and/or 壁細胞のマーカー:H+/K+ -ATPase)による細胞分化の確認が必要である.通常型の胃癌では,pepsinogen-Ⅰ,H+/K+-ATPaseが陽性となる可能性は低く,これらの抗体は疾患特異的な分化を示す指標であると考えられている 2).ただし,病理診断において胃底腺への分化を示す腫瘍かどうかの判断は重要であるが,免疫染色で少しでも胃底腺への分化があればすべてを胃底腺型胃癌と診断するわけではない.前述の通り,HE染色において主細胞や壁細胞に類似した腫瘍細胞であることが前提となり,更に免疫染色にて細胞分化の確認を経て確定診断する必要がある.
胃底腺型胃癌は病理組織学的に胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,以下にそれぞれの定義を示す.
・胃底腺型腺癌は胃底腺のみへの分化を示す低異型度の分化型腺癌で,免疫組織学的染色ではpepsinogen-Ⅰ and/or H+/K+-ATPaseが陽性となる胃腫瘍で,ほとんどの症例でMUC6(頸部粘液細胞~主細胞のマーカー)も陽性となる(Figure 1) 2).

胃底腺型腺癌.
a,b:白色光観察.
c:NBI拡大観察.
d,e:HE染色.
f:pepsinogen-Ⅰ(+).
g:H+/K+-ATPase(focally+).
h:MUC5AC(-).
i:MUC6(+).
j:p53過剰発現(-).
k:Ki-67(MIB1LI:10%).
(上山浩也 胃底腺型腺癌 胃と腸58巻4号pp. 428-431(2023年04月)Fig.2 a,c,f,Fig.3 b-iより転載).
・胃底腺粘膜型腺癌は腺窩上皮と胃底腺への分化を示す胃底腺型腺癌の一組織亜型で,免疫組織学的染色ではpepsinogen-Ⅰ and/or H+/K+-ATPase and/or MUC6陽性に加え,MUC5AC(腺窩上皮細胞のマーカー)が陽性となる(Figure 2) 5),7).また,胃底腺粘膜型腺癌は,組織構築により,①Type1(組織構築保持/非腫瘍性上皮の被覆なし),②Type2(組織構築崩壊/非腫瘍性上皮の被覆なし),③Type3(組織構築崩壊/非腫瘍性上皮の被覆あり)の3つのタイプに亜分類される(Figure 3) 5).

胃底腺粘膜型腺癌.
a,b:白色光観察.
c:NBI拡大観察.
d:HE染色:表層.
e:HE染色:深部.
f:pepsinogen-Ⅰ(-).
g:H+/K+-ATPase(+).
h:MUC5AC(+).
i:MUC6(+).
j:p53過剰発現(-).
k:Ki-67(MIB1LI:40%).
(上山浩也 胃底腺型腺癌 胃と腸58巻10号pp. 1254-1257(2023年10月)Fig.2 a,c,f,Fig.3 b-iより転載).

胃底腺粘膜型腺癌の病理組織学的分類.
男女比はやや男性に多く,平均年齢は約66歳,約7割の症例がH. pylori未感染胃に発生する 5).H. pylori感染に関しては施設間で差があり,多くの症例がH. pylori感染に関する検査は陰性であるが,H. pylori陽性の症例や除菌後の症例も散見される 15).また,既報ではH. pylori感染の有無で臨床病理学的所見に有意な差は認めなかったため,H. pylori感染は胃底腺型胃癌の発育進展や悪性度とは関連性が乏しい可能性がある 5).しかし,近年,H. pylori既感染胃に発生した高悪性度の胃底腺粘膜型腺癌の報告もあり,今後,更に症例を集積して再検討する必要がある 5).発生部位は,胃上部~中部の胃底腺領域に発生することが多く,肉眼形態は白色調の上皮下腫瘍・粘膜下腫瘍様の隆起性病変が典型的であるが,他のタイプもあり詳細は後述する.
胃底腺型腺癌(Figure 1)は表層が非腫瘍粘膜に覆われているが,胃底腺粘膜型腺癌(Figure 2)は表層に腺窩上皮型の腫瘍成分が存在し,その深部に胃底腺型腺癌成分が連続して浸潤していることが多い.確定診断には生検による病理診断が必要であり,低異型度の特殊な胃腫瘍であるため必ず病理医へ胃底腺型胃癌を疑っていることを伝える必要がある.消化管専門病理医でない場合は,胃底腺型胃癌の診断が困難な症例もあるため,その場合には消化管専門病理医へのコンサルトが推奨される.
胃底腺型腺癌は腫瘍径が小さいながらもSMに浸潤しやすい傾向があり,発育進展速度は遅く,脈管侵襲やリンパ節転移は基本的には認めず,低悪性度の腫瘍であると考えられる 2),7),16).SM浸潤に関しては,腫瘍腺管の周囲に間質反応が乏しいこと,腫瘍細胞の異型度が低いことから偽浸潤と判断されることもある.しかし,実際には低異型度の腫瘍細胞においてもSM浸潤し脈管侵襲を伴うこともあるため,国内において現状では浸潤として取扱うのが妥当と考えられる(Figure 4).一方,胃底腺粘膜型腺癌は脈管侵襲,リンパ節転移,胃壁内転移,通常型胃癌成分を伴う症例も散見され,胃底腺型腺癌に比較して悪性度が高いと考えられている 5),17)~19).

リンパ管侵襲陽性の胃底腺型腺癌.
胃底腺型胃癌の治療は,SM深部浸潤を内視鏡的に予想することが比較的困難であることから,診断的治療目的に内視鏡治療(内視鏡的粘膜切除術(EMR)/内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD))が選択されることが多い.穹窿部や胃体部大彎に発生することも多く,病変部位によりMultibending scopeやS-O clipⓇ,糸付きクリップなどの牽引デバイスを使用し,安全に切除する工夫が報告されている 20).また,明らかにSM深部浸潤を疑うような所見を認めた際には外科的切除が選択され,CLEAN-NETで切除された1例報告もある 21).
既報では内視鏡治療後に治癒切除と判定された症例だけでなく,非治癒切除と判定された症例でも,追加外科手術の有無に関わらず,現在のところ再発・転移は認めていない 5).再発・転移,原病死は認めないことから通常型胃癌と比較して予後が良い可能性がある.ただし,胃底腺粘膜型腺癌は症例により通常型の胃癌成分を伴い,リンパ節転移のリスクもあるため,現時点では通常型の胃癌と同等にガイドラインに準じて取扱う必要がある.今後は,胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類した上で予後の解析を行い,胃底腺型胃癌独自の内視鏡的治癒切除基準を含めた治療指針の確立と予後の解明が必要である.その結果によっては,胃底腺型腺癌はSM浸潤距離に関わらず,脈管侵襲がない場合には治癒切除と判断される可能性があるため,現在,胃底腺型胃癌の予後に関する多施設共同研究を実施中である.
白色光観察での内視鏡的特徴として,1.上皮下・粘膜下腫瘍様の隆起性病変,2.白色調・褪色調,3.拡張した樹枝状の血管,4.背景粘膜に萎縮性変化を認めないの4つの所見がある(Figure 1) 9),14).これらは表層を非腫瘍粘膜で覆われたまま増殖するという発育進展形式から形成される所見であり,典型的な症例ではこれらの4つの所見をすべて伴うことが多い.色調と肉眼型から1.白色調・隆起型(44%),2.発赤調・隆起型(17%),3.白色調・平坦/陥凹型(35%),4.発赤調・平坦/陥凹型(4%)の4つのタイプに分類される(Figure 5) 14).

胃底腺型腺癌の内視鏡的分類.
a:白色調・隆起型.
b:白色調・平坦/陥凹型.
c:発赤調・隆起型.
d:発赤調・平坦/陥凹型.
(Matsumoto K, Ueyama H, Yao T et al. Endoscopic Features of Gastric Epithelial Neoplasm of Fundic Gland Mucosa Lineage. Diagnostics(Basel). 2022 Nov 2;12(11):2666. Figure.1 a,i,Figure.2 a,iより転載).
拡大内視鏡観察での内視鏡的特徴として,1.明瞭な境界線(demarcation line;DL)なし,2.腺開口部(crypt opening;CO)の開大,3.窩間部(intervening part;IP)の開大,4.irregularityに乏しい微小血管の4つの所見がある(Figure 1) 11),12),14).これらの所見も胃底腺型腺癌の発生母地や発育進展形式によって修飾された所見である.胃底腺型腺癌の表層は基本的には非腫瘍粘膜で覆われるためMagnifying endoscopy simple diagnostic algorithm for early gastric cancer(MESDA-G) 22)やYaoら 23)のVS classification systemでは,regular MV(microvascular)pattern plus regular MS(microsurface)pattern without a DL(demarcation line)と判定され,癌と診断することが困難な症例が多い.
2.胃底腺粘膜型腺癌の内視鏡的特徴白色光観察における胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌の違いは,胃底腺型腺癌は白色調・隆起型が多く,胃底腺粘膜型腺癌は発赤調の病変が多く,胃底腺粘膜型腺癌の方が腫瘍径は大きく,境界が比較的明瞭であり,表面構造の凹凸や不整さが強い印象がある(Figure 2) 14),24),25).また,胃底腺型腺癌や通常型胃癌と類似する症例やinverted typeの症例も散見され,多様性があることが判明している.胃底腺粘膜型腺癌,Type1,Type2は表層に腺窩上皮型腺癌が存在しているため表面構造の不整さから癌の診断が可能と考えられるが,表層の腫瘍成分の異型度が低い場合や非腫瘍性粘膜が存在している場合もあり,すべての症例が白色光観察で癌と診断できるとは限らないため注意が必要である 14).色調と肉眼型から1.白色調・隆起型(10%),2.発赤調・隆起型(50%),3.白色調・平坦/陥凹型(10%),4.発赤調・平坦/陥凹型(30%)の4つのタイプに分類される(Figure 6) 14).胃底腺型腺癌とは異なる内視鏡所見を示すことが多いが,胃底腺型腺癌と同様に上皮下腫瘍様隆起を伴うことも多く,通常型胃癌との鑑別に有用である.

胃底腺粘膜型腺癌の内視鏡的分類.
a:白色調・隆起型.
b:白色調・平坦/陥凹型.
c:発赤調・隆起型.
d:発赤調・平坦/陥凹型.
(Matsumoto K, Ueyama H, Yao T et al. Endoscopic Features of Gastric Epithelial Neoplasm of Fundic Gland Mucosa Lineage. Diagnostics(Basel). 2022 Nov 2;12(11):2666. Figure.3 a,i,Figure.4 a,iより転載).
拡大内視鏡観察では,胃底腺粘膜型腺癌,Type1,Type2は表層が低異型度の腺窩上皮型の高分化腺癌であるため,DLを視認できることが比較的多く,irregular MV/MS patternを確認することが可能であり,表面微細構造は円形ではなく溝状の腺開口部の形態を示し窩幹部の開大を認める症例が多い 14),24),25).ただし,症例によっては表層の癌成分の組織学的異型度が低かったり,表層に癌成分と非腫瘍成分が混在していたり,Type3のように完全に非腫瘍性上皮に覆われたりするため,regular MV/MS patternと判断せざるを得ない症例もあり注意が必要である 14).
3.胃底腺型胃癌の診断のポイント胃底腺型胃癌の内視鏡診断は一般的には難しいといわれているが,まずはH. pylori未感染胃の体部腺粘膜に発生する典型的な白色調・隆起型の胃底腺型腺癌を見逃がさないことが重要である.H. pylori未感染胃によく観察される多発白色扁平隆起,胃底腺ポリープとは異なる白色調の隆起性病変を認めた際には胃底腺型腺癌の可能性があるため注意して観察する.また,胃底腺型腺癌を疑う病変を認めた際に,表層に上皮性腫瘍を確認できる場合には胃底腺粘膜型腺癌を疑う必要がある.
胃底腺型胃癌の内視鏡診断には,表層の腺窩上皮型の癌成分の有無,上皮下の腫瘍の存在により修飾された表層上皮の所見を推測することが,胃底腺粘膜型腺癌との鑑別も含めた胃底腺型胃癌の内視鏡診断につながると考えられる 14).
胃底腺型胃癌の発癌・進展機構は解明されていないが,胃底腺型胃癌の発癌・進展機構に関与する遺伝子異常は複数の報告がある.胃底腺型胃癌は,Wnt/β-cateninシグナル伝達系関連遺伝子の変異やメチル化による同伝達系の活性化,GNAS,Kras遺伝子変異によるGTP結合蛋白関連シグナル伝達系の活性化などが関与している可能性が報告されている 26)~31).
また,胃底腺型腺癌が発育進展することで胃底腺粘膜型腺癌へ変化するのか,胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌では全く違う起源で発生するのかについては,いまだ解明されていないため,今後の更なる分子生物学的解析が期待される.
胃底腺型胃癌は胃癌取扱い規約第15版とWHO分類第5版に掲載されたことから国内外での認知度は更に上昇することが予想され,近年は国外においても胃底腺型胃癌の報告が散見され,胃底腺型胃癌に関する多施設共同研究も計画されている.また,H. pylori未感染時代の上部消化管内視鏡診療のトピックスの一つとも考えられ,今後も注目すべき胃腫瘍である.胃底腺型胃癌を正確に診断するためには胃底腺型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴を理解する必要性があり,本稿が胃底腺型胃癌関連疾患の普及の一助となれば幸いである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし