2025 Volume 67 Issue 1 Pages 28-33
経皮内視鏡的胃瘻造設術は安全性が高いが合併症として門脈ガス血症が生じることがあり死亡例の報告もある.当院で経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した266例中7例に門脈ガス血症を認めたが,全例で全身状態は安定しており消化管の虚血や腹膜炎所見は見られず保存的に改善した.症状は発熱,嘔気嘔吐が多く認められた.経皮内視鏡的胃瘻造設術後に発熱,嘔気嘔吐を認めた場合は門脈ガス血症を鑑別に挙げる必要がある.また,消化管の虚血や腹膜炎症状などを認めず全身状態が安定している場合は保存的治療で改善を期待できる可能性があると考えられた.
Although percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) is safe, hepatic portal venous gas may develop, resulting in death. Among 266 patients who underwent PEG at our hospital, seven developed hepatic portal venous gas. However, all the patients were stable, did not develop gastrointestinal ischemia or peritonitis, and improved with conservative treatment. Fever, nausea, and vomiting are often seen as associated symptoms. Therefore, hepatic portal venous gas should be considered in the differential diagnosis of patients with fever, nausea, or vomiting. Stable patients without gastrointestinal ischemia or peritonitis may improve with conservative treatment.
嚥下機能の低下を呈する症例の栄養経路として経皮内視鏡的胃瘻造設術(Perctaneous Endoscopic Gastrostomy:PEG)が施行されている.PEGは手技や安全性が確立しており,外科的胃瘻造設と比較し侵襲が少ないと考えられているが,合併症も種々報告されている.PEG後に門脈ガス血症が生じた報告もあるが報告により予後は異なる.これまでPEG後に生じた門脈ガス血症の複数例をまとめた報告は少ない.病態の解明の一助となるべく,今回われわれは当院で経験したPEG後に生じた門脈ガス血症の7例をまとめ,臨床的特徴などについて報告する.
2013年1月1日から2022年12月1日までの期間に当院でPEGを施行した症例を検索し,情報収集が可能であった266例中7例が門脈ガス血症と診断された(Table 1).代表的な画像として症例2,症例4の画像をそれぞれFigure 1,Figure 2に示す.

当院での7症例のまとめ.

症例2 腹部単純CT検査.
肝両葉の高度な門脈ガス像,胃壁内の広範なガス像(矢頭)を認める.

症例4 腹部単純CT検査.
門脈のガス像(矢印),胃壁内のガス像(矢頭)を認める.
男性5例,女性2例,年齢中央値は81歳(69~92歳),基礎疾患はパーキンソン病が1例,脳血管障害が4例,外傷性脳挫傷が1例,原因不明の嚥下困難が1例であった.腹部手術歴を認めたのは5例と多く,糖尿病は1例であった.全例で造設時にプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)を投与されており,ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬の使用をしている例はなかった.造設時の血液検査データでは1例を除き血清アルブミン(albumin:ALB)値は2g/dl台であり4例は2.5g/dl以下と低値の症例が多かった.ヘモグロビン(hemoglobin:Hb)値は1例で9g/dl台であったが6例は10g/dl以上であった.全例で造設時の送気は二酸化炭素が使用されており,introducer変法(使用キットはOlympus社イディアルボタンⓇ24Frが6例,AVANOS社MIC-KEYイントロデューサーキットⓇ・MIC-KEYバルーンボタンⓇ20Frが1例)で造設されていた.胃壁固定はOlympus社製を使用した例では2辺が4例,3辺と4辺は1例ずつ,AVANOS社製では3点で固定を行っていた.経管栄養の開始日は造設2日後が3例,3日後が3例,7日後が1例であった.胃瘻造設前の栄養経路は5例が腸管を使用しており,2例が末梢補液であった.
門脈ガス血症が発見された経緯となった症状は発熱のみが3例,発熱と嘔吐が2例,嘔吐のみが1例,咳嗽が1例であった(咳嗽の症例はのちに発熱した).症状の出現日は術後4日目が1例,5日目が1例,6日目が3例,7日目が1例,8日目が1例であった.門脈ガス血症とともに胃気腫症も併発していたのは6例であった.全例でC反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)値が基準値(上限0.3mg/dl)以上となり,16mg/dlが1例,12mg/dlが1例と著明な上昇となったが,その他は軽微な上昇に留まった.治療は6例は腸管安静(5例で経管栄養を中止,1例で嚥下食を中止),抗生剤投与を行ったが,1例は特に治療を行わず経管栄養は継続となっていた.転帰としては7例全例で改善した.
PEGは1980年にGauderer MWとPonsky JLにより最初の症例が報告され 1),現在造設方法として主にPull/Push法,Introducer変法が用いられている.PEGは低侵襲の手術であるが,患者の全身状態が不良である場合には相対的に高侵襲の手術となり,極度の低栄養(血清ALB値≦2.5g/dl)や貧血(Hb値≦8g/dl),重篤な感染症を併発している場合には,それらの治療を優先させるべき 2)とされている.PEGの合併症として出血,腹膜炎,裂創,腹腔内臓器誤穿刺(横行結腸,肝臓など),誤嚥性肺炎,ショック・心停止,皮下気腫,下痢などが報告されている 2)~4).また,PEG後に門脈ガス血症を生じた症例の報告もあり,医学中央雑誌で「胃瘻」「門脈」「気腫」もしくは「胃瘻」「門脈」「ガス」,PubMedで「percutaneous endoscopic gastronomy」「hepatic portal venous gas」,で検索したところ(会議録を除く),1980年から2022年までに14例であった(Table 2) 5)~18).

PEG後に生じた門脈ガス血症の既報のまとめ.
PEG後に門脈ガス血症を生じる機序としては,胃壁内にガス像がある場合は①胃気腫症,②気腫性胃炎,胃壁内にガス像がない場合は③敗血症,④消化管内圧上昇が考えられる.①胃気腫症は傷害性,閉塞性,肺性(ブラの破裂など)に分類され,PEG後の主な機序は傷害性の胃気腫症であり,造設時に生じた胃粘膜損傷部からのガスの流入と考えられる 8),19).閉塞性としてはPEG6カ月後の嘔吐で胃気腫症,門脈ガス血症を生じたと考えられた報告 17)がある.傷害性の胃気腫症で胃のうっ血,蠕動低下が生じ,経管栄養注入後に胃拡張,内圧上昇,嘔吐が引き起こされ胃気腫症の悪化,門脈ガスを生じたと考えられた報告もあり 7),傷害性と閉塞性の両者が関与することもある.②気腫性胃炎は蜂窩織炎の一種で重篤な感染症であり胃気腫症と比較し予後は不良であるとされ 20),PEG後の気腫性胃炎から門脈ガス血症を生じた報告 5)がある.③敗血症に関しては,長期間の絶食で腸管粘膜が萎縮し腸管内ガス産生菌がbacterial translocationを起こし敗血症に至ったと考えられる報告 13)や,胃瘻留置部から経管栄養が漏出し腹膜炎,敗血症を生じ,ガスの血管内への浸透性が亢進することが門脈ガス血症の一因となった報告 18)がある.④に関しては潰瘍性大腸炎症例で下部消化管内視鏡検査により門脈ガス血症を来した報告 21),イレウスによる消化管内圧上昇が門脈ガス血症の一因となった報告 18)などがあり,PEG時の送気ガスや消化管蠕動障害による消化管内圧上昇も門脈ガス血症の原因となりうる.
本報告と既報の計21例について考察する.門脈ガス血症の発症は既報の6カ月後の1例を除き2-19日と比較的術後早期に見られ,症状として21例中11例に嘔気嘔吐,10例に発熱を認め,特にPEG後比較的早期にこれらの症状を認めた場合には門脈ガス血症を鑑別に挙げることが肝要であると考えられた.本報告では腹膜炎や死亡例はなかったが,既報では腹膜炎患者4例中3例を含めた6例で死亡した.推測される原因として,胃瘻留置部から経管栄養剤が腹腔内に漏出したことによる腹膜炎が3例,腸内細菌のbacterial translocationによる敗血症が1例,空気塞栓が1例,残る1例は消化管の広範囲にガス像があり敗血症や消化管壊死なども考えられ,全身状態が不良の場合には門脈ガス血症に随伴する病態の把握が重要であり,外科的処置も含めた集中治療を考慮する必要がある.血清CRP値は10mg/dlを超える症例も見られたが死亡例はなく,血清CRP値高値のみでは死亡のリスク要因にはならない可能性がある.細経である20Frのチューブでも2例生じており,また本報告では全例で二酸化炭素送気を使用しており,細径チューブや二酸化炭素送気を使用した際にも注意は必要である.
以前は門脈ガス血症は腸管壊死など重篤な状態で生じる病態であり死亡率も高いとされていたが,画像検査の進歩などで重篤でない病態に生じたものが検出できるようになり近年では死亡率は低下してきている 22)~25).Nelsonら 26)は画像検査で門脈ガス血症を認めた患者の対応アルゴリズムを報告している.おおよそ以下のように分類し(A群:門脈ガス血症が単純レントゲンで認められる,もしくは虚血性の消化管病変を認める,B群:膿瘍・潰瘍・腸管拡張を認める,C群:無症候で上記のような消化管病変がない),A群は死亡率が高率(約75%)で緊急手術すべき,B群は死亡率30%未満で慎重に精査すべき,C群は死亡率はほぼ0%で保存的対応が可能,としている.既報の死亡例は,両葉の高度の門脈ガス血症の症例 8),9),23),中等量の腹水を認め重篤な状態が示唆された症例 12),14),著明な腸管拡張を伴った症例 13)であり死亡率の高い状態であった.既報の生存例では高度な門脈ガス血症 7)や少量の腹水 16)を認める症例,本検討では高度な門脈ガス血症の1例があったがその他はC群に相当した.
これらを総合すると,PEG時に二酸化炭素送気を使用し過度の送気を行わない,チューブ径を小さくし胃壁への負担を軽減するなどで予防を試みることが必要であるが,PEG後早期の発熱や嘔気嘔吐などを認めた場合は腹部CT検査で門脈ガス所見の有無の確認が必要である.高度の門脈ガス血症や虚血性変化を含めた消化管所見を認める症例や腹膜炎などの腹部症状を呈する症例,全身状態不良の症例では随伴する病態の把握に努め,外科処置も含めた集中治療を検討する必要があるが,上記のような所見がなく全身状態が安定している場合は保存的治療で改善を期待できる可能性があると考えられた.
PEG後に生じた門脈ガス血症では,高度な門脈ガス血症や虚血性変化などの消化管所見,腹膜炎所見などを認めず,全身状態が安定している場合は保存的に改善を期待できる可能性があると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし