GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SYPHILITIC ENTERITIS REQUIRING DIFFERENTIATION FROM CROHN’S DISEASE
Sayaka UTSUMIEiki NOMURATomoki NAKAYAMATakafumi SHINDOHiroki HAYAKAWATomoki CHIBASatsuki YAGONoriaki SUZUKIMasashi KAWAMURATatsuya KIKUCHI
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2025 Volume 67 Issue 1 Pages 40-46

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要旨

症例は20歳代男性.肛門部痛と血便の訴えあり施行した内視鏡検査で直腸下部前壁に易出血性潰瘍,回腸末端部にリンパ濾胞過形成と縦走のびらんを認めた.生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,クローン病が鑑別に挙がった.血液検査で梅毒血清反応陽性,病理標本で梅毒トレポネーマ抗体免疫染色が陽性であった.男性との肛門性交歴が判明し,皮膚・陰部所見と合わせ梅毒第2期と診断した.AMPC 1,500mg/日の内服を開始し皮疹と腹部症状は消失し,3カ月後に直腸潰瘍の瘢痕化を確認した.梅毒は本邦で増加しており,梅毒性腸炎に遭遇する機会も増えると考えられる.病態や内視鏡像の理解と疑った際には詳細な生活歴の聴取と全身診察が重要である.

Abstract

A man in his 20s was referred to our hospital with anorectal pain and bloody stools. A colonoscopy revealed a hemorrhagic ulcer in the lower anterior wall of the rectum, lymphofollicular hyperplasia, and longitudinal erosion in the terminal ileum. Biopsy revealed a non-caseating epithelioid cell granuloma, and Crohnʼs disease was suggested as a differential diagnosis. Blood tests were positive for syphilis serodiagnosis, and pathological specimens were positive for antibodies against treponema of syphilis. Stage Ⅱ syphilis was diagnosed based on a history of anal intercourse with a man and skin and pubic findings. The patient was started on AMPC (1,500mg/day), and his skin rash and abdominal symptoms resolved. Three months later, scarring of a rectal ulcer was observed. The incidence of syphilis is increasing in Japan, and the chances of encountering syphilitic enterocolitis are assumed to increase. Therefore, understanding the pathophysiology and endoscopic findings is crucial, and a detailed history-taking and systemic examination should be performed if syphilitic enterocolitis is suspected.

Ⅰ 緒  言

梅毒は近年本邦において報告数が増加 1している.ときに消化器病変を生じるが,それらの多くは胃であり直腸や他の消化管病変の報告は本邦では稀である 2.今回,クローン病と鑑別を要した梅毒性腸炎の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:20歳代,男性.

主訴:肛門部痛,血便.

既往歴:202X-1年前立腺炎.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:202X年Y月初旬から排便時の肛門部痛,血便がみられ近医肛門科を受診した.肛門鏡で裂孔を認め痔疾薬で経過観察となった.しかし症状が持続するためY+1月初旬に再受診し,直腸鏡で下部直腸前壁に潰瘍性病変を認め,炎症性腸疾患が疑われ当科紹介となった.

現症:身長176cm,体重60kg.血圧109/64 mmHg,脈拍82/分整.腹部は平坦・軟,圧痛を認めず.

血液生化学所見(Table 1):炎症反応の上昇(CRP3.13mg/dL),低アルブミン血症(Alb3.4g/dL),軽度貧血(Hb13.6g/dL)を認めた.また梅毒血清反応陽性であった(RPR定量256R.U.,梅毒TP抗体定性陽性).ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体は陰性であった.

Table 1 

血液生化学所見.

大腸内視鏡検査所見(Figure 1):下部直腸前壁に易出血性の潰瘍を認め,辺縁に隆起を伴っていた.その口側の直腸にはリンパ濾胞過形成を認めた.また回腸末端にはパイエル板の腫大とリンパ濾胞過形成,縦走びらん様所見を認めた.直腸の潰瘍と回腸末端のびらんから生検を施行した.

Figure 1 

大腸内視鏡検査所見.

a:下部直腸前壁に易出血性の潰瘍を認め,辺縁に隆起を伴っていた.

b:その口側の直腸にはリンパ濾胞過形成を認めた.

c:回腸末端にリンパ濾胞過形成と縦走のびらん様所見を認めた.

生検病理組織学的所見(Figure 2):直腸潰瘍部では形質細胞を主体とする高度な炎症細胞と毛細血管増生を認める肉芽組織がみられた.回腸末端には好中球を主体とする炎症細胞浸潤を認め,粘膜固有層にやや大きめな非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.いずれもアメーバ虫体や悪性所見は認めなかった.

Figure 2 

生検病理組織学的所見.

回腸末端では好中球を主体とする炎症細胞浸潤を認め,粘膜固有層にやや大きめな非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(白矢印)を認めた(HE染色 強拡大).

臨床経過:大腸内視鏡検査で直腸に潰瘍,回腸に縦走びらん様所見を,生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めたことから,縦走潰瘍や敷石様病変は明らかではなかったものの,当初はクローン病を疑った.消化管検査のスクリーニング目的に行った血液検査で梅毒血清反応が陽性となり,改めて生活歴を問診したところ,男性同性愛者(MSM;Men who have sex with men)であることが判明した.男性との性交時は肛門性交であり,相手は時期によって異なるが不特定多数ではなかった.身体診察では胸腹四肢全体に小紅斑の散在,陰茎・陰囊部に発赤を伴った複数の小丘疹を認めた(Figure 3).感染症内科に紹介し,体幹部の皮疹はバラ疹,陰茎・陰囊部の丘疹は初期硬結であり,特徴的な皮膚症状と陰部病変から梅毒第2期と診断された.肛門痛が出現した時期に体幹四肢の皮疹,その後陰茎部の丘疹が出現していた.生検標本に梅毒トレポネーマ抗体の免疫染色を追加すると直腸,回腸粘膜ともに陽性所見が得られ(Figure 4),梅毒性腸炎と診断した.他の性感染症合併の可能性も考慮したが,尖圭コンジローマは肛門管から直腸の内視鏡所見より否定し,赤痢アメーバは便検体ポリメラーゼ連鎖反応(PCR陰性),便虫卵陰性であった.サイトメガロウイルスと単純ヘルペスウイルスは血清学的に既感染であり,クラミジアと淋菌は尿検体デオキシリボ核酸(DNA)で陰性であった.上部内視鏡検査では,びらんや潰瘍を含め特記すべき所見を認めなかった.活動性梅毒としてAMPC1,500mg/日の内服を開始した.1週間程で皮疹が消退し,1カ月後には血便や排便時痛も消失した.AMPCの8週間投与後,RPRの低下(16R.U.)を認め,3カ月後の内視鏡検査で直腸潰瘍の瘢痕化を確認した(Figure 5).再感染の予防として,感染症内科から性交渉時の感染予防指導がなされ,以降症状の再燃を認めていない.

Figure 3 

身体所見.

a:胸腹部に小紅斑の散在(バラ疹)を認めた.

b:陰囊部に発赤を伴った小丘疹(初期硬結)を認めた.

Figure 4 

梅毒トレポネーマ抗体免疫染色.

茶褐色に染色された多数のTreponema pallidum菌体を認めた(直腸 強拡大).

Figure 5 

治療後の大腸内視鏡検査所見.

治療3カ月後に直腸潰瘍は瘢痕化していた.

Ⅲ 考  察

梅毒はTreponema pallidumTp)による代表的な性感染症の一つである.Tpは性行為中に擦傷した皮膚や粘膜の微細な傷から侵入し,血行性に全身へ散布される.第1期は感染から3-6週間後に侵入箇所に初期硬結や硬性下疳を形成する.第2期は感染後数週間から数カ月後にTpが全身に播種し,多彩な皮疹(バラ疹や丘疹性梅毒疹など)を生じる 2.無治療で経過すると第3期梅毒へと移行する.第3期梅毒ではすでに感染性は消失し,全身にTpが浸潤した最終形態であり,ゴム腫は感染後5年以上経過して出現する非特異的肉芽腫である 3

消化管における第1期病変は,性交時に直腸粘膜が損傷しTpが直接侵入し辺縁隆起を持つ潰瘍性病変が生じる.硬性下疳が無痛性の固い丘疹を生じ中央部が潰瘍化するのと同様の機序と考えられている 4.胃梅毒は第2期病変であり,融合傾向のある浅い不整多発潰瘍,びらん,黄色調の白苔,易出血性,凹凸不整隆起が報告されている.また梅毒の皮膚所見に類似する特徴的なびらん性扁平隆起性病変(梅毒性胃粘膜疹)を生じることもある 5.皮疹と同様に菌体と代謝産物に対する血管アレルギーによるものと考えられている 6.欧米では同性愛者の肛門性交による直腸梅毒が増加しているが,本邦における直腸病変の報告は欧米と比べて稀である 7.本症例では,直腸の潰瘍性病変は外的刺激を受けた下部直腸前壁にTpが直接侵入し硬性下疳と同様に辺縁隆起を伴ったもの,パイエル板の腫大やリンパ濾胞の過形成は免疫反応による変化と考えた.このことから回腸は第2期病変,直腸はリンパ濾胞過形成も認めており第1・2期混在病変と考えた.体幹部バラ疹から梅毒第2期の診断となったが,第1期病変が混在していることから感染を繰り返していた可能性が示唆された.

本症例は肛門病変を有し,回腸と直腸にskip lesionとして病変がみられたこと,病理で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めたことからクローン病の可能性を第一に考えた.本症例のようにクローン病と鑑別を要した症例の報告がある.Mesut Yら 8は,直腸に潰瘍性病変,肉芽腫を認めクローン病と診断した38歳男性がメサラジン坐剤,ブデソニド注腸,メトロニダゾールで治療後も改善を示さず,再度問診し肛門性交歴が判明し梅毒血清反応陽性から梅毒性直腸炎と診断し,ペニシリン治療で治癒に至った症例を報告している.Arnold AAら 9の報告によれば,梅毒を含めた性感染症による大腸炎と炎症性腸疾患の内視鏡所見はときに似通っており,HIV抗体陽性でMSMであることを重要な鑑別点としている.

医学中央雑誌にて「梅毒性直腸炎」「梅毒性腸炎」また「梅毒」と「直腸」,「小腸」,「大腸」をキーワードに1984年1月から2022年3月の期間で検索したところ,本邦で22例の梅毒性腸炎の報告(会議録は除く)を認めた(Table 2 4),7),10)~27.本症例を加えた23例で検討した.ほとんどが男性(22例96%)で,20代が最も多く(8例35%),性的趣向が判明している14例中9例がMSMであった(64%).病変部位は直腸が最多(20例87%)で,本症例同様直腸前壁にみられる例が多かった.回腸病変がみられたのは本症例を含め3例であった.胃病変は6例にみられ,本症例と合わせ7例が複数の消化管に病変を認めていた.これらはTpが全身に播種し複数部位に第2期病変を形成したと考えられる.内視鏡所見では,直腸前壁の潰瘍性病変は第1期,胃梅毒と同様の所見である浅い潰瘍やびらん,多発隆起性病変は第2期と考えられた.複数の消化管に病変を形成し,同臓器に異なる病期の病変を認める症例もあり,内視鏡像は多彩であった.また病理所見においては肉芽腫が2例(9%)で認められていた.梅毒は第2期までがほとんどで,肉芽腫の出現する第3期に遭遇することは現在では稀である 28.肉芽腫とは,生体が急性炎症反応で処理できなかった異物を局所で単核食細胞系の細胞で処理する反応である 29.本症例は第2期ではあるが炎症が慢性的に繰り返され肉芽腫が形成されたと考えられる.梅毒性腸炎の抗菌薬への治療効果は良好で全例で治癒が得られており,再発の報告は認めなかった.

Table 2 

本邦における梅毒性腸炎の報告例.

本邦の2020年梅毒診療ガイドラインではAMPC 1,500mg/日が第一選択となっていたが,2022年よりベンジルペニシリンベンザチン(DBECPCG)筋肉注射が追記された.RPRが治療前の4分の1となれば治癒と判定し,治療後1年間の経過観察が推奨される.

近年本邦の梅毒感染者は急増しており,2021年に統計開始した1999年以降全国で初めて1万人を超えた 30.原因としては性風俗による若年女性への感染や,SNSの普及で不特定多数と性交渉を持つ人が増えたことが指摘されている 31

MSMの割合は,米国18歳から59歳までの男性の調査では5.2%との報告 32があるが,本邦でも塩野らの調査 33では4.6%で,欧米の報告と同様であった.性文化の多様化が進む今日において本邦でも消化管梅毒に遭遇する機会は増えると考えられる.

消化管梅毒は多彩な病態を呈する.本症例ではクローン病と鑑別を要し,診断には性交渉歴の聴取,全身の観察が手がかりとなった.

Ⅳ 結  語

クローン病と鑑別を要した梅毒性腸炎の1例を経験した.今後本邦でも消化管梅毒に遭遇する機会は増えると考えられる.梅毒の自然経過,内視鏡所見の特徴,鑑別疾患について理解しておく必要があり,診断には詳細な性交渉歴の聴取と全身診察が重要である.

謝 辞

稿を終えるにあたり,御教示頂きました仙台市立病院病理診断科渋谷里絵先生,同感染症内科八田益充先生に深謝いたします.

論文の主旨は,第169回日本消化器内視鏡学会東北支部例会(2023年2月)プレナリーセッションで発表し優秀演題賞を受賞した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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