2025 Volume 67 Issue 3 Pages 214-219
症例は71歳,男性.16年前に早期胃癌をESDで治癒切除し,Helicobacter pylori(以下H. pylori)除菌も行われた.定期検査のEGDで胃体下部のESD後瘢痕のやや口側に発赤陥凹病変を認め,分化型粘膜内癌と術前診断しESDを施行したところ,病理組織学的に高分化型粘膜内癌に加え,直下の粘膜下層に異所性胃腺が存在した.異所性胃腺は異型の乏しい部位が多く,全体が腫瘍とはみなし難いが,一部にfocal cancer(tub1)を生じていた.免疫組織学的には粘膜内癌が腸型の粘液形質を,異所性胃腺は癌部を含め胃型粘液形質を有し,2つの癌は別個に発生した可能性が考えられた.粘膜内癌と粘膜下異所性胃腺由来癌がESD切除標本に併存した報告はなく,供覧すべき症例と考えられたので報告する.
Upper gastrointestinal endoscopy identified an erythematous, depressed lesion in the lower gastric body of a 71-year-old Japanese male who had previously undergone curative resection for early gastric cancer 16 years ago, along with Helicobacter pylori eradication. Following biopsy confirmation of adenocarcinoma, ESD was performed, revealing a well-differentiated tubular adenocarcinoma (tub1) located in the mucosa, with submucosal ectopic gastric glands immediately beneath it.
The majority of these ectopic gastric glands exhibited no cytological atypia; however, a small focus of tub1 was detected within the ectopic glands. Immunohistochemistry demonstrated that intramucosal tub1 exhibited an intestinal phenotype, whereas ectopic glands, including focal tub1, displayed a gastric phenotype.
To the best of our knowledge, this case is the first reported instance of ESD-resected early gastric cancer indicating the coexistence of phenotypically distinct intramucosal tub1 and focal tub1 within the submucosal ectopic gastric glands.
粘膜下異所性胃腺は,本来は胃粘膜固有層内に存在する胃腺組織が異所性に胃粘膜下に増殖したものである.胃粘膜はびらん・再生を繰り返す事で,粘膜下層に異所腺を生じ,一方では胃癌の発生母地になり得ると推定されている事から,異所性胃腺はparacancerous lesionとして胃癌の高リスク因子と考えられている 1).早期胃癌に粘膜下異所性胃腺を伴うこれまでの報告には,粘膜固有層から発生した胃癌に非腫瘍の粘膜下異所性胃腺が併存する症例が多い一方,粘膜下異所性胃腺からの直接発癌を示唆する症例もある.しかし,今回われわれは,粘膜内と粘膜下層異所性胃腺内の別形質の癌が,内視鏡的粘膜下層剝離術(以下ESD)で同一標本内に切除された1例を経験した.胃癌の発生を考える上で重要な報告になり得ると考え報告する.
症例:71歳,男性.
主訴:特記事項なし.
既往歴:早期胃癌 内視鏡的切除(16年前,M,Gre,0-Ⅱa,10mm,tub1,pT1a(M),UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0).萎縮性胃炎(16年前,HP除菌成功),高血圧症,高脂血症,高尿酸血症,慢性糸球体腎炎,慢性腎臓病.
家族歴:母50代胃癌で死亡,長兄60代胃癌で死亡.
現病歴:定期検査の上部消化管内視鏡(EGD)で胃体下部大彎のESD後瘢痕よりやや口側に不整形の発赤陥凹病変を認め,生検では管状腺癌が検出され,ESD目的に入院した.
現症:身長 167.5cm,体重 62.3kg,BMI 22.2kg/m2.意識清明,体温 36.3℃,血圧 127/68mmHg,脈拍 73回/分,整,眼球結膜は黄染なし,眼瞼結膜は貧血なし.表在リンパ節は触知せず.胸部に心雑音・肺雑音なし.腹部は平坦軟,自発痛なし,圧痛なし.肝脾や腫瘤を触知せず.四肢は浮腫なし.
入院時血液検査所見:全血球計算でHgb 12.0の 軽度貧血と,生化学検査でUN 55.3,Cre 3.68と腎機能低下を認める以外に特記異常は認めなかった.ヘリコバクター・ピロリ検査:血清H. pylori- IgG抗体は3U/ml未満であった.また,生検組織の鏡検法でも菌体は認めなかった.胸腹部CT検査所見:明らかなリンパ節転移,遠隔転移は認めなかった.
上部消化管内視鏡検査所見:胃体下部大彎のESD後瘢痕よりやや口側に15mm大の不整形の発赤陥凹病変を認めた(Figure 1).また,背景胃粘膜はO-2型の萎縮粘膜であった.Blue LASER Imaging(BLI)拡大観察では表面微細構造(microsurface pattern;MS)および微小血管構築像(microvascular pattern;MV)はともに不整であり,vessel plus surface(VS)classification systemより分化型粘膜内癌と考えた.cT1aN0M0,cStageⅠAと術前診断した.

上部消化管内視鏡写真.
胃体下部大彎のESD後瘢痕よりやや口側に15mm大の不整形の発赤陥凹病変を認める.
入院後経過:第1病日にESDを施行した.STフードを用いて固有筋層直上の適切な剝離深度を保ち一括切除し,術後は偶発症なく経過し退院となった.
病理組織学的所見:肉眼的には16×11mmの0-Ⅱc病変であり(Figure 2),病変範囲に一致して粘膜内高分化管状腺癌を認めた(Figure 2,Figure 3-a,b).しかし同時に,病変直下やや肛門寄りの粘膜下に幽門腺型の異所性胃腺が存在した(Figure 2-b,Figure 3-a).異所性胃腺は全体に種々の程度の軽度の細胞異型度を示し(Figure 3-c)かつその深層の一部に細胞異型性が高度になる部位がありfocal cancer(tub1)と診断した(Figure 3-d).なお,異所性胃腺深層のfocal cancerと粘膜内癌には連続性は見られなかった(Figure 3-a).

切除標本写真.
肉眼的には16×11mmの0-Ⅱc病変であった.発赤陥凹病変に一致してtub1粘膜内癌を認め(赤色線),病変直下やや肛門寄りの粘膜下に幽門腺型の異所性胃腺が存在した(白色線).異所性胃腺内にfocal cancerを認めた(黄丸印).

病理組織像(Figure 2 割面3a).
a:粘膜内癌の直下の粘膜下層に異所性胃腺を認める.
b:(黄色枠の高倍率像)粘膜内高分化管状腺癌.
c:(緑色枠の高倍率像)異所性胃腺は異型の乏しい部位が多く形態的には全体が腫瘍とはみなし難い.
d:(青色枠の高倍率像)異所腺の一部に細胞異型性を認めfocal cancerと診断した.
e:免疫組織学的所見.MUC5AC染色は粘膜内癌部陰性,粘膜下異所性胃腺は癌部を含め陽性.
f:MUC2染色は粘膜内癌部陽性,粘膜下異所性胃腺は癌部を含め部分的弱陽性.
免疫組織化学染色では,粘膜内癌はMUC2,CDX2,CD10陽性(Figure 3-f)かつMUC5AC陰性(Figure 3-e)の腸型の粘液形質を有する.一方,異所性胃腺は癌部を含めMUC5AC陽性(Figure 3-e),MUC6とMUC2は部分的弱陽性(Figure 3-f)で胃型粘液形質を有していた.また,p53免疫染色では粘膜内癌部とともに異所性胃腺部全体に過剰発現が見られた.深達度判定については,粘膜下異所性胃腺部の一部に癌化が見られるものの間質反応を認めない事から粘膜内癌とみなすのが妥当と考え,病理学的最終診断はAdenocarcinoma,M,Gre,0-Ⅱc,16×11mm,tub1,pT1a(M),UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0,& focal adenocarcinoma,M,Gre,tub1 in heterotopic/misplaced glands in the submucosa,pT1a(M),UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0,stomach.となった.深部切除断端までの距離は100μmと近いものの慎重に経過観察し,術後2年6カ月無再発である.
粘膜下異所性胃腺は,本来は胃粘膜固有層内に存在する胃腺組織が,異所性に胃粘膜下に増殖したもので,切除胃の1.1 2)~4.0 3)%に認められ,中高年の男性に多い傾向がある.胃粘膜はびらん・再生を繰り返す事で,粘膜下層には異所腺を生じ,一方では胃癌の発生母地になり得ると推定されており,粘膜下異所性胃腺は直接癌化する前癌病変ではなくparacancerous lesionとして胃癌の高リスク因子と考えられてきた 1).一方,異所腺胃腺がそれ自体癌化するprecancerous lesionと捉える考え方は,その発生を裏付ける報告 4)~16)や,paracancerous lesionとprecancerous lesionの両方の臨床的意義を支持する報告 17),18)もあるが,どちらかというと例外的とされてきた.
粘膜下異所性胃腺は,外科手術やESDの切除標本には偶然に証明される事があり,そこには一定の発癌リスクもある事が示されてきた.外科切除標本を検討した報告として,Rubioら 19)は本邦の切除胃213例のうち,44例(20.1%)に粘膜下異所性胃腺が存在し,そのうち3例(6.8%)に異所性胃腺癌を認め,何れも囊胞状に拡張した腺管に細胞性異型を伴いp53蛋白を過剰発現していたとしている.本症例の粘膜下異所性腺管も囊胞状拡張を伴い,その癌部と非癌部の両方にp53過剰発現を伴っていた.一方で粘膜の非癌部には過剰発現は見られなかった.この事から,当症例の粘膜下異所腺にはTP53 mutationを伴う細胞レベルでの腫瘍化の可能性が示唆される.一方,ESD切除例の検討では,Hagiwara 20)が平坦隆起型の早期胃癌のESD切除標本に,北村 21)は0-Ⅱc早期胃癌のESD切除標本に,それぞれ癌進展を伴う粘膜下異所性胃腺を認め報告している.SMT様の肉眼形態を示さずEUSの機会もなく偶然に切除される粘膜下異所性胃腺は,自検例を含め低頻度ながら一定数存在すると考えられる.
自検例は粘膜内と粘膜下異所腺にそれぞれ癌を認めたが,免疫組織化学染色の結果,粘膜内癌成分は腸型,粘膜下異所性腺の癌成分は胃型で形質が異なっていた.組織型に類似性はあるものの癌部は互いに連続性がない事から,相互に独立して発癌した可能性が高いと考えた.
医学中央雑誌とPubMedで1980年から2022年の期間に“粘膜下異所性胃腺”と“早期胃癌”をキーワードに検索すると(gastritis cystica profunda:GCPは除外),発癌様式の記載のあるものは自検例を除き25報告30病巣であった(Table 1).30病巣中13病巣は粘膜内に発生した癌に異所性胃腺が随伴(粘膜内癌の異所性腺への置換浸潤発育を含む) 17),18),20)~28),17病巣は粘膜下異所性胃腺からの発癌 4)~18),29)と考察されていた.自検例の様に粘膜下異所性胃腺由来早期胃癌と粘膜内癌が同一切除胃内に見られたとする報告は,1986年の外科切除例1報告 9)のみであり,ESD症例では第1例目と考えられる.異所性胃腺がその発生や担癌過程において,precancerous lesion,paracancerous lesionの両側面を併せ持つと考える上で,貴重な症例と考えられた.

粘膜下異所性胃腺から発生したと考えられる早期胃癌の報告例(自検例含む).
粘膜下異所性胃腺を合併した早期胃癌の癌深達度判定において,胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)では,「癌が粘膜下異所性胃腺を置換しながら粘膜下組織まで発育しても,明らかな間質浸潤を伴わないものはすべてpT1a(M)と表記する.」と定められている.しかし,当症例のように粘膜下層異所腺から発癌したと考えられる早期胃癌の深達度判定には定まった見解はない.当症例は深達度診断を粘膜内癌としたが,これまでの諸家の報告 5),14),16),18),29)でも繊維化などの間質反応に乏しい粘膜下異所性胃腺由来癌を何れも粘膜内癌として扱っている事から,妥当な診断と思われる.
本症例のようにSMTの形態を取らず,ESD絶対適応病変としてEUSを行わなかった場合は異所性胃腺を事前に把握する事はできない 20),21).幸い,ESD時に筋層直上の適切な層を保った剝離操作を普段通り確実に行った事で,結果的にfocal cancerを伴う粘膜下異所腺を切除でき,切除標本の病理検索で明らかな脈管侵襲や間質反応を認めず粘膜内癌として慎重に経過観察を行う事ができていると考えられた.
粘膜内と粘膜下層異所性胃腺に別々の癌がお互いに接して発生した事を示唆する1例を経験した.異所性胃腺の癌併存リスクやその発癌過程を考える上で貴重な症例と考えられた.また,異所性胃腺の存在は術前に分からない事もあるためESDでは普段から適切な深度での剝離を心掛ける必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし