GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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GASTRIC ESD USING AN ENDOSCOPE WITH A MULTI-BENDING FUNCTION (WITH VIDEOS)
Koichi HAMADA Yoshinori HORIKAWAKae TECHIGAWARA
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2025 Volume 67 Issue 3 Pages 240-248

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要旨

ESDは早期胃癌に対する標準治療であり,技術的に成熟してきている.しかし,頻度は低いものの穿孔は主要な有害事象であり,致命的になり得る.マルチベンディングスコープは第2灣曲部のアップダウンアングルの調節により,剝離部位に近接できるだけでなく,ナイフと筋層を平行な角度に保つことで,粘膜下層剝離の安全性および剝離速度の向上に寄与する.2チャンネルスコープでもあり,切開と剝離の際の左右の鉗子チャンネルの使い分けや,吸引力を落とさずに処置を行える利点がある.本稿では,マルチベンディングスコープを用いた胃ESDの手技について解説する.

Abstract

ESD has become the standard treatment for early gastric cancer, and this technique has matured significantly over the years. However, perforation remains a major adverse event that can result in fatal outcomes. The multi-bending endoscope used for ESD allows close proximity to the dissection area by adjusting the up-and-down angles of the second bending section and contributes to improved safety and speed of submucosal dissection by maintaining parallelity of the high-frequency knife to the muscular layer. In addition, this endoscope has dual channels, thus allowing for the selective use of the left and right forceps channels during mucosal incision and submucosal dissection, as well as maintaining suction power during procedures. This article provides a detailed explanation of gastric ESD techniques using a multi-bending endoscope.

Ⅰ はじめに

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,早期胃癌に対する標準的な治療として広く普及している 1)~3.ESDは従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)に比べ,より大きな病変の完全切除が可能であり,患者の生活の質を維持しながら根治的治療を提供できる手技である.しかし,ESDは高度な技術を要するため,特に胃U領域およびM領域などの解剖学的に難易度の高い部位では,合併症のリスクが増加することが知られている 4.代表的な偶発症として,穿孔や出血があり,術中穿孔は2.3%,遅発性穿孔は0.4%,後出血は4.4%,合併症による緊急手術が必要な症例は0.2%と報告されている 5.これらの合併症は,患者の予後に重大な影響を与える可能性がある.このような状況において,マルチベンディングスコープは胃ESDにおける合併症の軽減と処置時間の短縮に寄与すると報告されている 6),7.特に胃U領域やM領域では,マルチベンディングスコープの優位性が示されている 6.マルチベンディングスコープは,その優れた可動性と良好な視野確保能力により,従来のスコープでは難しかった部位でも安全かつ効率的な剝離が可能となり 8,手技全体の安全性と効率性の向上が期待される.本稿では,胃ESDにおけるマルチベンディングスコープの特徴と,その使用における具体的な手技のコツについて詳述する.特に,スコープの操作方法,最適なアプローチ,そして合併症予防のための具体的なテクニックに焦点を当て,胃ESDの技術向上に寄与することを目的とする.

Ⅱ マルチベンディングスコープの特徴

マルチベンディングスコープ(GIF-2TQ260M,Olympus社)の最も顕著な特徴は,先端に2つの独立した可動部を備えている点である(Figure 1-a).先端側の第1灣曲部と,操作部側の第2灣曲部で構成されており,第1灣曲部の灣曲角はUp 210°,Down 180°,Right 100°,Left 100°の可動範囲を持つ.第2灣曲部はUpとDownのみで,それぞれ70°の可動域がある.この2つの灣曲部により,スコープの先端が異なる軸で独立して曲がることが可能となり,通常のスコープでは到達が困難な部位にも容易にアクセスできる.鉗子口は画面5時方向と7時方向に2つあり,それぞれ口径は3.2 mmで,7時方向の鉗子口には吸引機能が備わっている.スコープの有効長は1,030mmであり,先端部および軟性部の外径は11.7mmである.処置用スコープであるGIF-T290T(Olympus社)と比較すると,マルチベンディングスコープはスコープ直径が大きく,アングルをかけた際の灣曲半径が大きい.

Figure 1 

マルチベンディングスコープと通常スコープのアップアングルの比較.

マルチベンディングスコープは第1灣曲部(黄矢印)と第2灣曲部(青矢印)の2つの灣曲部を有する.図は両灣曲部をアップアングルにしたマルチベンディングスコープと通常スコープ(GIF-H290T)のアップアングルの比較したものである.

Ⅲ 手  技

①第1灣曲部と第2灣曲部の使用

マルチベンドスコープがESDにおいて有利である理由は,主に2つある.まず,マルチベンディングスコープの2つの独立した灣曲部により,通常のスコープでは近接が難しい穹窿部,噴門,胃角部小彎,体部小彎,体上部大彎に容易に近接できる点である.近接することで,ナイフ操作はより正確かつ安全に行える.特に近接が困難な穹窿部に対しては,マルチベンディングスコープとトラクションデバイスの併用 9や,マルチベンディングスコープ,トラクションデバイスとunderwater法の併用が処置に有用であったと報告されている 10.次に,マルチベンディングスコープでは,第1灣曲部と第2灣曲部の角度を調整することで,病変に近接するだけでなく,ナイフが筋層と平行な角度で近接できるため,安全な処置が可能となる点である.体下部や胃角部小彎は,通常のスコープでも近接できるが,その場合,ナイフが筋層に対峙する角度となってしまう(Figure 2-a).特に,先端系ナイフを用いるESDでは,筋層に対峙する角度で処置を行うと,筋層損傷や穿孔のリスクが高まる.しかし,マルチベンディングスコープの2つの灣曲部の角度を調節することで,このリスクを軽減できる(Figure 2-b).

Figure 2 

通常スコープとマルチベンディングスコープの胃体部小彎病変へのアプローチの違い.

a:通常スコープではナイフが筋層へ対峙する角度となり筋層損傷のリスクが高い.

b:マルチベンディングスコープではナイフと筋層が平行となる角度を維持したまま病変へ近接できる.

また,ESDにおける従来のトラクション法としては,重力の利用や先端アタッチメントによるトラクションがあるが,マルチベンディングスコープでは剝離部に近接することで,先端アタッチメントをより効果的に活用できる.さらに,プレ凝固や止血のために太い血管に対して止血鉗子を使用する際,離れた位置からの盲目的な操作では,術者が誤って筋層を把持してしまうリスクがある.これまでの報告では,筋層の過凝固と遅発性穿孔の関連が指摘されている 11.しかし,マルチベンディングスコープを使用することで,術者は出血部位に近接し,直接確認しながら血管のみを把持して凝固を行えるため,筋層に不要な電流が流れることを防ぐことができる.

②2チャンネル

右から左に切り進める際には,5時方向の鉗子口からナイフを出すことで,進行方向の視野を広く確保できる.逆に,左から右に切り進める際には,7時方向の鉗子口を利用することで,同様に進行方向の視野を広く確保できる.しかし,7時方向の鉗子口は吸引機能を備えているため,デバイスが7時方向の鉗子口に挿入されている場合,吸引力が低下する点に注意が必要である.

剝離する部位に近接するためには,適切な脱気が重要である.剝離中は,クリアな視野を保つため送気しながらナイフを通電することも多い.しかし送気量が多くなると,スコープが剝離部位から離れてしまうことがある.そのため,適宜脱気を行いながら剝離を進めることが,近接した視野を維持するために必要である.1チャンネルの通常内視鏡では,ナイフや止血鉗子などの処置具が挿入されると鉗子口が狭くなり,吸引力が低下してしまう.しかし,2チャンネルスコープでは,左チャンネルで吸引を行うため,右チャンネルに処置具を挿入しても吸引力が低下せず,迅速な脱気・吸引が可能となり,近接した状態を維持しながら処置を行うことができる.

③欠点

マルチベンディングスコープの操作部は,通常のスコープと比較して重量があるため,慣れるまでは長時間の治療で左手に疲労を感じる可能性がある.また,スコープが太いため小回りが利かず,食道胃接合部や幽門輪のような狭い部位での処置には,通常のスコープの方が適している.さらに,灣曲半径が大きいことから,前庭部小彎を幽門輪側からアプローチする際にも,小回りの利く通常スコープの方が粘膜下へ潜り込みやすいと考えられる.加えて,260シリーズのスコープであるため画質が劣る点や,将来的に光源との互換性に問題が生じる可能性があることも欠点の1つとして挙げられる.

Ⅳ 症例提示

①症例1(電子動画 1

電子動画 1

67歳男性,体上部小彎前壁 0-Ⅱc(Figure 3-a).

Figure 3 

症例1.

a:体上部小彎前壁 0-Ⅱc.

b:マルチベンディングスコープを用いて切除部位に接近し,ナイフの角度が筋層と平行になるように調整した.

c:近接して操作することで血管の位置を目視で確認し,止血鉗子を用いて予防的凝固を行った.

デバイスはDualKinifeJ 2.0(KD-655L,Olympus社),高周波装置はVIO300D(ERBE),局注液はムコアップ(Boston)を使用した.マルチベンディングスコープを用いてESDを施行した.本症例では,順方向でのスコープ操作では呼吸性変動が非常に大きく,処置が難しくなると判断されたため,反転操作を行った.この反転操作により,呼吸性変動を抑えた状態で安定した剝離が可能となった.特に,反転操作において第1灣曲部のアップアングルに加え,第2灣曲部の微調整を行い,ナイフを筋層に対して平行に保ちながら剝離部位に接近することで,剝離の安全性を高めた(Figure 3-b).病変部には多くの太い血管が存在していたが,近接して操作することで血管の位置を目視で確認でき,止血鉗子(Coagrasper;FD-411QR;Olympus社)を用いて予防的凝固を行うことができた(Figure 3-c).このように,血管に近接できず,離れた位置から血管を視認せずに止血鉗子を使用すると,筋層まで凝固してしまうリスクがある.しかし,マルチベンディングスコープを使用することで,血管や出血部位に近接し,直接視認しながら処置を行うことができ,筋層凝固のリスクを回避することが可能であった.良好な視野を確保しつつ剝離を進め,一括切除を完了した.

②症例2

77歳男性,体中部小彎 0-Ⅱc(Figure 4-a).

Figure 4 

症例2.

a:体中部小彎 0-Ⅱc.

b:第1灣曲部と第2灣曲部のアップアングルを調整し,ナイフ先端が筋層に対して危険な角度にならないように慎重に剝離を進めた.

c:左から右への剝離では,左鉗子口からナイフを出し,進行方向である右側の視野を広く保ちながら安全かつ効率的に処置を行った.

d:ESD後の潰瘍底には筋層損傷は認めなかった.

使用したデバイスは症例1と同様で,マルチベンディングスコープを用いてESDを開始した.本症例では,粘膜下層局注後にスコープを反転させ,肛門側から口側に向けてスコープを引きながら切開を進めた.途中,スコープの動きが悪くなった部位では,第2灣曲部のアップアングルを活用して切開を継続した.肛門側半分の切開後,粘膜下層剝離を行った.剝離中はスコープの挿入操作と後退操作に加え,第1灣曲部のアップアングルを細かく調整し,さらに第2灣曲部のアップアングルも活用することで,ナイフの先端が筋層に対して危険な角度とならないよう慎重に剝離を進めた(Figure 4-b).左から右に剝離を行う際には,左鉗子口からナイフを出すことで,進行方向である右側の視野を広く保ちながら,安全かつ効率的に処置を行った(Figure 4-c).その後,全周切開を完了し,病変の口側半分は順方向操作で剝離を進めた.右鉗子口からナイフを挿入することで,左鉗子口の吸引力を維持しつつ,迅速な脱気が可能であった.これは,順方向操作時に胃内に空気が入り,胃が拡張することで剝離部位からスコープが離れるのを防ぎ,近接した剝離操作を容易にするものである.良好な視野を保ちながら剝離を進め,一括切除を完了することができた(Figure 4-d).

③症例3(電子動画 2

電子動画 2

79歳男性,胃角小彎後壁 0-Ⅱc(Figure 5-a).

Figure 5 

症例3.

a:胃角小彎後壁 0-Ⅱc.

b:パラドキシカルな動きにより,スコープを押し込むと,病変から離れる方向へ動く.

c:第2灣曲部のアップアングルを常に調節しながら,安定した切開を行った.

d:剝離中に筋層への通電が生じ,軽度の筋層損傷を認めた.

症例1および2と同様のデバイスを用い,マルチベンディングスコープを使用してESDを実施した.本症例では,拡大内視鏡でのマーキング後に反転操作を試みたが,スコープを押し込むとパラドキシカルな動きが生じ,病変に近づけなかった(Figure 5-b).スコープを過度に押し込むと,患者の苦痛による体動が増加し,鎮静薬や鎮痛薬の使用量が増加する恐れがある.マルチベンディングスコープの第2灣曲部のアップアングルを使用することで,スコープを過度に押し込むことなく病変に近接することが可能であった.肛門側の切開と剝離は,第2灣曲部のアップアングルを常に調節しながら進めたため,安定した操作が可能となった(Figure 5-c).肛門側の剝離がある程度進んだ時点で全周切開を行い,その後は順方向での剝離を進めた.順方向での剝離中に筋層への通電が1カ所見られたが(Figure 5-d),マルチベンディングスコープを使用したESDでは,従来のスコープと比較して筋層損傷の発生率が低いことが報告されている 6.最後まで順方向で剝離を進め,一括切除を完了した.

④症例4

72歳男性,穹窿部 胃底腺型腺癌(Figure 6-a,b).

Figure 6 

症例4.

a:穹窿部.胃底腺型腺癌の遠景像.

b:穹窿部.胃底腺型腺癌の近接像.

c:第1灣曲部と第2灣曲部のダウンアングルを活用し,さらにナイフを右鉗子口から出すことで吸引力の低下を防ぎながら迅速に脱気を行い,切開部位に安定して近接しつつ順方向で周囲切開を行った.

d:剝離はナイフと筋層が平行となる角度を維持しながら順方向で進めた.

使用したデバイスは症例1および症例2と同様で,マルチベンディングスコープを用いてESDを開始した.マルチベンディングスコープは第1灣曲部のダウンアングルが180°,第2灣曲部のダウンアングルが70°であり,通常のスコープよりも大きくダウンアングルをかけることが可能である.本症例では,このダウンアングルを有効に活用し,さらにナイフを右鉗子口から出すことで吸引力の低下を防ぎながら迅速に脱気を行い,切開部位に安定して近接しつつ順方向で周囲切開を行うことができた(Figure 6-c).剝離の際も,ナイフと筋層が平行となる角度を維持しながら順方向で進め(Figure 6-d),一括切除を達成した.

Ⅴ おわりに

マルチベンディングスコープを使用した胃ESDのコツについて概説した.マルチベンディングスコープは,特に胃体部や穹窿部といった解剖学的に難易度の高い部位におけるESDにおいて,安全性の向上と処置時間の短縮に寄与する有用なデバイスである.本稿で述べたように,2つの灣曲部を活用することで病変部位に安定して近接し,ナイフ操作を正確かつ安全に行うことが可能となった.また,2チャンネル機能により,吸引力を維持しつつ迅速な脱気ができ,視野の確保と操作効率の向上が図られた.

近年,さまざまな牽引法が導入され,さらに安全性の向上と処置時間の短縮が進んでいるが,スコープの選択も手技の成功に大きく影響を与える.特に,胃体部や穹窿部の病変においては,マルチベンディングスコープの優位性が明らかであり,今後もその使用が広がることが期待される.一方で,スコープが太く操作部が重いため,狭い部位での処置や長時間の治療においては術者の負担が増加する可能性があるという欠点もある.これらの点を考慮し,状況に応じたスコープの選択と手技の工夫が今後も重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画 1 症例1(体上部小彎前壁0-Ⅱc).

電子動画 2 症例3(胃角小彎後壁0-Ⅱc).

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