2025 Volume 67 Issue 3 Pages 268
【背景】T1大腸癌に対する追加手術(additional surgery;AS)前の内視鏡的切除(endoscopic resection;ER)が腫瘍学的な見地からその後の転帰に悪影響を及ぼすかどうかは未だ不明である.本研究は,傾向スコアマッチング分析を用いて,T1大腸癌に対してER後にASで治療された患者群とはじめから手術(primary surgery;PS)を受けた患者群の全生存率を含む長期転帰を比較することを目的とした.
【方法】2009年から2016年の間に日本の27施設でERまたは外科的切除のいずれかで治療されたT1大腸癌患者6,105人を対象に,ER後にASを受けた患者をAS群に,はじめから手術を受けた患者をPS群としそれぞれ抽出した.その後,傾向スコアマッチング解析を用いて死亡率と再発について検討した.
【結果】傾向スコアマッチング後,2,438人の患者のうち1,219人が各群に割り当てられた.AS群とPS群の5年全生存率はそれぞれ97.1%と96.0%(ハザード比0.72,95%信頼区間0.49~1.08)であり,AS群の非劣性を示した.また,AS群では32人(2.6%),PS群では24人(2.0%)が再発したが,2群間に有意差はなかった(オッズ比1.34,95%信頼区間0.76~2.40,P=0.344).
【結語】T1大腸癌に対するAS前のERは,5年全生存率を含む患者の長期的な転帰に悪影響を及ぼさないことが示唆された.
本研究の目的は,T1大腸癌患者の5年全生存率に関して,AS群がPS群に対して非劣性であるかどうか検討することである.多施設共同研究である大腸癌研究会のpT1大腸癌リンパ節転移の国際共同研究 2)のデータを基に解析され,過去最大規模の検討である.
過去の検討では内視鏡下での侵襲的な操作は転移や播種を引き起こし,ASの前のERは,腫瘍学的に悪影響を及ぼす可能性があるのではとされてきた.一方,本研究ではT1大腸癌患者の5年全生存率に関してAS群はPS群に劣らず,またT1大腸癌に関連する死亡率は2つのグループ間で差を認めないとのことで,過去の検討と異なる結果であった.その要因として,過去の検討においては内視鏡的に不完全な切除となった症例を多く対象群として解析したのに対し,本研究では近年の内視鏡治療手技の発達により,内視鏡的に断端陰性で完全切除しえた症例を多く対象群としたためと考察している.T1大腸癌において術前ERにて完全切除することが,その後の転帰に悪影響を生じさせてない大きな要因と考える.
この研究にはいくつかの制限がある.まず,この研究は臨床記録の後ろ向き研究であり,またPS群とAS群との標本の組織学的評価に差があることである.内視鏡的に切除された標本は2~3mmの間隔で病理標本を作成し検討するのに対し,外科的に切除された標本は5~6mmの間隔であり,外科的に切除された標本の方が,病理学的評価が不十分となる可能性がある.しかし,本研究は過去最大規模の多施設共同観察コホート研究であり,その結果は十分に説得力があると考える.
本研究の結果から,内視鏡的完全切除が可能なT1大腸癌の場合,内視鏡治療を第一選択とし,正確な病理学的情報に基づいて追加治療の有無を決定するような治療方針も選択肢となりうる可能性もあり,非常に興味深い報告と考える.